発明・ざ・わーるど!

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 さて、状況を整理してみよう。

 俺は誰だ? 雨谷 零。5ヶ月ほど前に高校生になったばかりの16才だ。

 今まで何をしていた? いつも通りに学校に行こうとしていた。

 何があった? 突然、目の前にあった自転車のカゴが光った。

 で、これが一番重要な疑問になるわけだが・・・


 ここはどこだ?


 いや、今までは普通に自転車に乗ってアスファルトでしっかり舗装された文明の最先端を走ってたはずなんだが・・・どう見ても今の俺の足下には黒い土と緑の草しか無い。
 頭上には先ほどまでは澄み切った青空が広がっていたはずなのに、今では青空ではあるが何故か茂った木々が邪魔している。
 状況をまとめてみると森の中?
 今までは普通に町の中だったのに?
 ふろむ町とぅー森ってやつですか?

英語にもなってねぇし。

いや、いい加減俺も認めようじゃないか。この状況が示す所に。
つまりこれは、あれだ。
 認めたくないし、信じたくもないが・・・よく本とかにある・・・

「・・・異世界ってやつか。」

 そう一人でつぶやいてみたが何も変わりはしない。まあ、周りに人がいないから当然ではあるが。
 とりあえず、俺がやらなきゃいけないことはただ一つ。立ち上がって近くの町を目指して歩き出すことだ。ちょうど俺がいる場所のすぐ隣には人が踏み固めて出来たらしい道もあることだし、これをなぞっていけば町に到着できるはず!ってか到着させて!
 俺はようやく重い足を動かして道に出て、直感で右の方に歩き出した。


 さあ、とりあえず必死に頑張って生きてみよう。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/02/27(月) 21:25:15

発明なんばー1!
 歩き出して一時間でようやく人のいる町に到着した。

 そこはまさに異世界のように狼男や有翼人がそこら中に・・・とはいかず、むしろ俺と何ら変わらない姿の人間ばかりだ。

 何かちょっと残念。

 ただ、一つだけ驚いたことがある。それは・・・

「おい。やっぱこの前の試合はさぁ・・・・」
「お母さん。今日の夕ご飯は何?」
「なあ、少しぐらい付き合ってくれてもいいだろ?」
「ゲッポー!」
「いやいや、そんなの出来るわけがないって!」
「でさ、結局待ちあわせ場所には来てくれなくて・・・・」

 何故に日本語?
 いや、言葉が通じるって事が分かって嬉しいですよ?嬉しいですけど何故にっ!?地球ではたかだか1億とちょっとの人間しか使ってない言語が何故にここでは標準語なのですか!?実はあれか?俺の知らない間に異世界では日本語が大ブームだったり!?
 
 しかし、こんなとこでくじけてはいけない。何はともあれこんな状況に置かれた以上はどうにかしてこの世界の情報を集めることが優先だ!
  
・・・たくましくなってるなぁ、俺。絶対にあの両親のせいだ。
 
  やっぱ、何かを訪ねるなら優しそうな女性だな。下手にいかついオッサンに尋ねて、絡まれた日にはもう目も当てられない。とりあえず、すぐ前にいる温厚そうなこの女性にでも・・・決して美人だからとかじゃありませんよ?ただ優しそうだからってだけですよ?いや本当に。

「すいません。ちょっといいですか?」
「はい。何でしょう?」
「俺はこの地方に来たのは初めてで、ちょっと道に迷った挙げ句にここに着いたんですけど、この町の名前を教えていただけませんか?」
「あら、旅人さんですか?」
「ええ、そうです。」
「そうですか。最近はいいお天気が続くから旅に出たくなる気持ちも分かりますわ。」
「え、ええ、まあ。それでこの町は・・・」
「見たところお若いのに旅をしているなんて大変ですね。でも、若い子には旅をさせよという言葉もありますし、きっと素晴らしい考えをお持ちのご両親がいるのでしょうね。」
「あの・・・」
「そうそう。こんな所で立ち話も何ですね。すぐ近くに私の家があるのでそこでゆっくりとお話をしましょう。」
「いや、その・・・」
「こちらですよ。」

 お、柔らかい手・・・じゃねえ!何!?何なのこの状況!?あれか!新手の呼び込みというか勧誘なのか!?それに俺の質問は!?問答無用で引っ張っていくこの手!うわ、めっちゃ白い!まるで幽霊みたいな手だな、おい。はっ!まさかこの人は天使さんですか?俺を極楽に連れて行ってくれる美しい天使さん。なるほど、こんな美しい天使さんなら新だ人が生き返らないのも納得だね。

「はい、着きましたよ。」
「へ?」

 着いた?いや、俺の目の前にあるのは雲で出来た門ではなくて普通の木造住宅二階建てのお家ですが?
 おや?文字は読めないが看板もかけられて・・・

「さあさあこちらにどうぞ。」
「いや、ちょっ・・・」
「キララ、ただいま〜。」
「お帰り。って、誰その人?」
「この人?この人はね、旅人さんで私のお客さんよ。」

 お?入った先にいたのはこれまた美人な女の子・・・って、待て、待ってくれ。今、この天使さんは何と言った?お客さん?そういやこの家の前には看板もあったな。つまりここは・・・・何かの店?

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-PztEz] 2006/02/28(火) 10:43:33

発明なんばー2!
 店!客!?しまった!これは客引き!美人のお姉さんが『サービスするから』とか言って男を誘惑しつつ店に誘き寄せ、結局サービスするのは強面のお兄さんとかいうオチのあれですか!?それなら美女が2人いるのも納得だね。なるほど、俺の世界で言うキャバクラってやつか。よし、疑問氷解。めでたしめでたし・・・じゃない!

「え!?お客さんなの!それならそうと早く言って・・・」
「ま、待って待って!待ってくれ!」
「はいはい。お料理はちょっと待って下さいね。キララ、いいかしら?」
「うん。何を作ります?ご注文は?」
「えっと、とりあえずオムライス・・・じゃなくって!」

 やばい!この店はかなりのやり手だ!巧みな誘導を使ってかなり俺が追い込まれている!例えるならロスタイムに相手に与えられたPKみたいな!このままではドーハの悲劇のくり返し!

「俺は一切金を持ってないぞ!」
「はいはい、オムライス・・・って、え?」
「いや、誤解するなよ?この人にほとんど強制的に引っ張ってこられただけなんだって!俺はマジで貧乏人!アイハブノーマネー!」
「・・・本当にお金持ってないの?」
「というか、どこに金があるように見える?」

 情けない話だが、俺の持ち物は洋服のみだ。どうやらこの世界に飛ばされた瞬間に手荷物は自転車もろとも元の世界に置いてきたらしい。
 まあ、あった所でこの世界の貨幣と俺の世界の貨幣が同じだということはまずないだろうが。

「それもそうよね。珍しい服着てるからひょっとしてと思ったけど・・・確かに財布どころか1ゼネーたりとも持ってそうにないわね。」
「何か腹立つ言い方だがそういうことだ。」
「まったく・・・お母さん、こんな人を連れてきても仕方ないでしょ。」
「あらあら。誰がお金を取るなんて言ったの?この人は、お店のお客さんじゃなくって私のお客さんなのよ。」
「そんなんだからいつまでたっても赤字なのよ!」

 おお。何となく背景が見えてきた。
 つまり、この女性はこの店をあっちのキララとかいう女の子と経営してて、そんでこの女性の天然に振り回されて赤字街道まっしぐらということか。そこに俺という人間が来たからラッキーと思ったが、残念ながら俺は文無し・・・ちょっと罪悪感が!

・・・って、待て。先ほどの会話に何やら不思議な単語が混じっていなかったか?そう。確かあのキララとかいう子の言葉で・・・

「・・・お母さん?」
「はい?何か?」
「お母さんって・・・一児の母ぁっ!?」
「そうですよ。あ、申し遅れました。私あそこのキララの母のミリアといいます。」
「あ、どうもご丁寧に・・・って、マジですか!?」
「そうよ。」

 そう言いながら、いつの間にか俺たちの近くにやって来ていた女の子、キララがぶっきらぼうに言い放った。
 いや、何も俺がお金を持ってなかったからってそこまで怒らないでくださいよ。むしろ俺は被害者ですよ?

「ついでに言うけど、ちゃんと実の親子よ。養子とかじゃなくって。」
「いや、だってこの人どう見たって20代だろ!?」
「私が聞きたいわよ・・・」
「あらあら20代だなんて。嬉しいですね。お礼に何かごちそうしますわ。」
「だから赤字なんだってば!」
「キララ。お父さんも言ってたでしょ?大切なのはお金ではなく笑顔なのよ。」
「笑顔じゃ生きていけないでしょう!!」

 うわぁ・・・親子げんかって言うより、姉妹げんかと言った方がしっくりくるのは何故だろう・・・絶対に間違ってるよ、この親子。
 というか、いつの間にか俺がここにお世話になることに決まりかけているのは何故!?
 いや、確かに宿と飯は欲しいが、俺にはそれと引き替えることの出来る物を一切持っていないぞ!?

「あの、俺は別にここにお世話になるつもりは・・・」
「待っていて下さい、旅人さん。説得までもうすぐですから。」
「ちょっと待ってなさい!今私が話し中なの!」

 ぅおい・・・やっぱ親子だよ、この2人。人の話を完全無視なところとかそっくり。しかも、娘さん。俺はどちらかというと今あなたの味方をしようとしてましたよ?なのに邪魔者になるんですか?俺の意見は完全無視?

 白熱する言い合い(娘の猛攻をおだやかに受け流し、カウンターを叩き込む母の図)を見ながら、俺は外が次第に暗くなっていくのを眺めていた。
 異世界1日目。どうやら今夜の宿は確保できそうである。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-RJFcb] 2006/03/01(水) 20:44:30

発明なんばー3!



 結局、勝者は母親だった。

 俺はめでたく宿と温かい食事を手に入れたわけだが・・・キララさんの視線がとっても痛い。ごめんなさいごめんなさい。俺も必死に逃げようとしたんですよ?けど逃がしてくれないのはあなたもだったですよね?

「うぅ・・・今日も赤字決定だわ・・・」
「大丈夫よ。明日はきっとお客さんが来てくれるわ。」
「・・・お母さん、その根拠もない言葉はどこから来るのよ。」
「何を言ってるの。今までだって何とかなってきたじゃない。」
「答えになってないわよ・・・ところで。」

 お?ようやく俺に出番が?もはや視線がとげとげしいものからすっかり諦めたものに変化したようで・・・重ね重ねゴメンナサイ。

「聞いてなかったけど、アンタ名前は?」
「名前?」

 さてどうしよう。どうやらこの世界では明らかに日本とは違う名前が付けられているようだし・・・本名を言ったら怪しまれそうだな。下手すれば不審者で突き出されて牢屋行きかも。い、いやすぎる!
 ん?でも俺の名前ってよく考えたら零・・・ぜろ・・・ゼロ・・・レイ・・・よし、これだな。うん。

「あ〜・・・っと、レイ。レイ・キルトハーツだ。」
「・・・今考えついたみたいね。」
「ま、まあ気にしたら負けだって。」
「それもそうね・・・そんで、レイさん。聞きたいことがあるんだけど。」
「ん?」
「どこから来たの?明らかに見慣れない服だし、かなりうさんくさいし、極めつけにはアンタが言ったオムライスなんて料理はこの世界に存在してるわけ?」

 まあ、賢い子・・・じゃねえ!いきなりピンチ!?やばい!このピンチを乗り越えねば確実に俺の未来に鉄格子と残飯が!どうせ死ぬなら異世界よりかは元の世界でお願いします!輝け俺の脳!いや、輝かなくていいから、今この時だけ俺にこの場を切り抜けるだけの素晴らしい嘘を!!

「うん。一つずつ答えよう。ここからずっと東にあるカントって村から来てな。小さくてほとんど外との接触がない村だから知られてないのも無理はない。俺はその閉鎖された村がどうしても我慢できなくて親からほとんど勘当されるような形で旅に出たんだ。この服は俺の村の民族衣装みたいなもんだ。そんでオムライスってのも、俺の村で作られて卵料理の名前だ。」
「ふ〜ん・・・まあ、納得のいく説明ではあるわね。」

 よっしゃ!よくやってくれた俺の脳!そのバトンをしっかり受け継いだ俺の口も最高だね!お祝いにキララさんが作ったこの料理を食べて良し!

「・・・お、うまい。」
「当然でしょ。どんだけあんたが赤字の原因だとしても料理に手を抜くはず無いじゃないのよ。」
「もう、返す言葉もありません。」
「朝ご飯くらいなら出してあげるけど、その後はちゃんと料金取るからね。」
「マジ!?朝ご飯までいいの!?ありがとう!本当に助かる!」
「べ、別にいいわよ・・・そのくらい。」
「あらあら、キララったら良い子ね。」
「もう、頭をなでないでよ!」


 さすがにおかわりはしなかったが、正直うまかった。
 しかし、このまま去るってのも何だか悪いな・・・ちょっとは恩返しをせねば。人間としてそれは当然のことだと信じたい。中にはそんなことなどする必要は無いという人もいるが、それはこの際無視しよう。
 とりあえず喜んで貰うために・・・客寄せだよな。うん。ここは一つ俺の3大スキルの1つを思い切り発動させるとしよう。そうと決まれば今日は急いで寝てしまわねば!

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-wcSdW] 2006/03/02(木) 19:48:47

発明なんばー4!



 さて、俺は今一晩お世話になった店の前にいる。
 通りがかる人々がやたらと俺を見ているがそれは無視。というか、見てくれる方が逆に宣伝になってラッキーである。まあ、朝から大通りにデカイ机と何やら色々な料理道具を持ち出している人間がいれば誰だって目を止めたくもなるだろう。それが俺のねらいというわけだ。
 ちなみに料理道具と材料は隣で眺めているミリアさんに頼んでのレンタルである。足りない物は適当に別の物で代用。

「さてと、始めるとしますかね。」

 俺は近くに置いてある粉を木の鍋に入れ、更にそこにいくつかの液体やら調味料やらを加えて混ぜ始める。それを手でこね回して段々と俺の世界ではずいぶんと見慣れてしまった生地へと変化させ、さらにのばす。
 今さらだが、この世界の材料と俺の世界の材料はかなり近いものが多い。おかげでこうやって料理を作るのに何の苦もなく取りかかることが出来た。

「ちょっと!これはどういうことよ!?」
「あら、おはようキララ。」
「ん。おはようさん。」
「暢気に朝の挨拶してる場合じゃないでしょう!一体アンタは何してるのよ!?」
「ん〜・・・恩返し?」
「はあ?」
「一宿一飯の恩義って言うしな。まあ、心配するな。とりあえず今日一日を黒字にして見せようという俺の感謝の気持ちだ。」
「黒字って・・・そもそも一体何を作ってるのよ!?」
「‘手打ちそば’だ。」
「・・・・何それ?」

 まあ、これも予想通りだ。昨日のオムライスの時から感じていたことではあるが、この世界の料理はどうやら俺の世界の料理と異なる物がかなり多い。よって、こんな何の変哲もない手打ちそばですら、通行人の視線を集めるのには十分というわけだ。
 特にこの・・・

「よっし・・・いくぞ!」

 俺は豪快に生地を放り投げ、また取り、それを二つに折って、また伸ばし、再び折って、伸ばしてを繰り返す。テレビでやっていた麺生地の作り方を生で見たいと言う某人間達の我が儘によって無理矢理に習得させられたこのパフォーマンス。この世界では決して見たこと無いはずのこの動きに足を止めない人間はまずいない。

「おい、あれ見ろよ・・・・」
「え?何作ってるの?」
「お母さん。あれなぁに?」
「ちょっとすごくないかこの店。」

 うっし、ギャラリーも集まってきた所だし。素早く麺を先ほどから沸騰させていたお湯の中に入れ、両手が空いた隙に様々な調味料を再び手にとって今度はダシを作り始める。

「ミリアさん。お椀を一つ取って下さい。」
「はいはい。これでいいのかしら?」
「ありがとうございます。」

 俺は素早く麺をお椀の中に入れ、出来上がったダシを上からかける。
 うん。我ながら完璧な出来映えだ。
 後は、この味をこの人達に知らせるだけだ。

「さてと・・・うん、そこの美人のお姉さん!ちょっとばかしこれを食べてみてはくれませんかっ!」
「え、あ、あたし!?」
「お代は一切いりません!正直なご感想を口にしていただいて結構!でも、美味しくないと言える物なら是非言ってもらおう!」
「こらあああ!勝手にそんなこと・・・」
「まあまあ。面白そうだし見てあげましょうよ、ね?」
「うう・・・お母さんったら、知らないからね!」

 俺の見てる目の前で女性が麺を一口取り、そののどに流し込んでいく。その目がまん丸に開かれたのを見た瞬間、俺は自分のたくらみが成功したのを悟った。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/03/03(金) 11:42:16

発明なんばー5!
「あ・・・本当だ、おいしい。」
「ちなみに、ここだけの話ですがね。この料理って、満腹感の割には実は低カロリーってやつでして。食べに食べてもそんなに太らないし、お肌もツヤツヤになるっていうのが強みなんですよ。」

ギラリと周りの女性達の目の色が変わったのが手に取るように分かった。
もはや最初の女性が食べているものへの不安は一切存在しない。あるのは食欲と美貌への意欲だけである。
どこの世界でも女性はスタイルを維持したい物らしい。

「さあさあさあ!本日限りの大放出!売り切れゴメンの手打ちそば!お一人様3杯まで!お値段はなんと驚きの1杯だけで100ゼネー!3杯頼めば負けて250ゼネーだ!もちろんこの手打ちそば以外の料理も是非ご賞味あれ!あなたのお腹を満足させられる場所を提供しますよっ!」
「買ったあああ!」
「あ、あたしに2杯!」
「俺は3杯だっ!」
「お持ち帰りは出来ないのか!?」
「慌てるな慌てるな!出来上がるまでの時間は是非中で飲み物でも注文してお待ちくださいよっ!」

途端に今まで集まりに集まっていた大量の見物人が一気に店になだれ込んだ。その数は正直数えるのが無理なほどである。
目を大きく開いたままのキララさんの前でテーブルがあっという間に埋まっていくのを俺はガッツポーズをしながら眺めていた。

「おい、キララさん!」
「な・・・あ、あえ!?」
「早い所注文を取って俺の所持ってきてくれ!この手打ちそば、何せ今日だけしか売り出せないんだからな!今のうちに他の料理の味も覚えさせとけよ!そうすりゃ、明日からは赤字の回数だって激減するぜ!」
「あ、う、うん!お母さん、注文取るの手伝って!」
「あらあらあら。今日はとっても忙しくなりそうねぇ。」

そう言いながら慌てて、しかし晴れやかな笑顔で注文を取りに店の中に戻っていく2人を見ながら、俺は引き続き新しい麺を作り上げていく。
もちろん、注文を取りに来た新規の客にこの店の他の料理を宣伝することも忘れない。
その甲斐あってか、しばらくすれば店内にあった厨房からも何やらやかましい音が響き始めた。
おそらくはキララが注文を受けて料理を作り始めたのだろう。
昨日までと違ってかなり忙殺されるだろうが黒字になることを思えばそれは嬉しい悲鳴と取っておきたい。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Aqizw] 2006/03/04(土) 14:12:57

発明なんばー6!


結局の所、この店に必要だったのは一度だけでも大量に客を呼び寄せるための宣伝だったのだ。
昨日、俺が食べた料理は間違いなくおいしいもので、これで客が定着しないのはもはや不思議でしかない。
となれば、俺は人を招き入れるキッカケを作りさえすれば後は自然とこの手打ちそばさえ無くとも客足が途絶えることはないのである。

「お〜い!こっちにそばはまだかっ!?」
「おう!後もうちょっと待っててくれよ!その分、美味いそば出すから!」
「私の方にはクロファイトよ!」
「は、はい!もうしばらくお待ちください!」
「お姉さ〜ん、お勘定〜!」
「はいはい。今行きますよ。」
「こっちにもそば3つヨロシク!」
「こっちには2つ!」
「こっちも2つよ!」
「ええい!自分で取りに来い!」
「ちょっと、レイ!客にその口の利き方は何よ!?」
「あらあらあら。2人とも手がお留守ですよ?」
「ミリアさん、何で席に座ってくつろいでるんですか!?」
「次のお客さんが座れないっ!」
「年だからかしらねぇ・・・」
「「その顔で言う!?」」



 訂正。少しくらい途絶えても良かったんじゃないかと本気で思う。


ようやく店の扉を閉めることが出来たのは、そばの材料が完全に切れてしまった昼をまわり、太陽(もちろん1つ!)が山の方に傾き始めた頃だった。

「疲れた・・・予想以上に疲れた・・・」
「本当よ・・・こんなに忙しかったの、お父さんが死んで以来だわ・・・」
「あらあらあら。2人ともお疲れ様。はい、お水よ。」
「ありがとうございます」。

冷たい水が渇いたのどに流れ込むと、今まで溜まりに溜まった疲れがすっと引いていくのが分かる。
仕事の後のこの一杯が良いね!・・・って、親父か俺は。
まさに戦場だった店内はもはやがらんどう。強者共が夢の後とはこのことなのか?いっそ夢なら覚めてくれ・・・いや、もうすでに一回眠ってるから夢じゃないな、きっと。

「それで、今日の売り上げなんだけどね。」
「そう!それよそれ!」

いや、どう考えたって黒字以外の何ものでもないだろう。
これで赤字だとか言われた日にはこの店は根本的に光熱費(と言ってもろうそくとかランプとかだが)と水道費(もちろん井戸水)の使い方を間違っているとしか言いようがない。
しかし、見たところそんな無駄は無いようだし、俺が使った材料はそんなに高価な物でもないはずだ。
よって、黒字以外にあるわけが無い!

「差し引きで0ね。」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/03/05(日) 16:43:43

発明なんばー7!
「そうよね、0に決まって・・・」
「当然だろ。0以外にあるわけが・・・」

・・・・・・は?

「0!?」
「なななななな何でよっ!?」
「あらあらあら、2人とも息がピッタリね。」
「そんなことは今はどうでもいいわよっ!何であれだけの売れ行きを見せておいて黒字にならないわけ!?」
「キララ、落ち着かないとダメよ?怒りはお肌の大敵なんだから。」

いや、この場合は落ち着くなと言うのが無理だろう。元々は赤の他人である俺ですら驚きの余り口がほとんど開きっぱなしだ。
ってか、何故に0?この店には某宇宙怪獣でも住んでるのか!?あの胸の所にメーターが付いてる黄色いヤツが!

「実はね、キララ。今日の売り上げ自体は本当にすごかったんだけど・・・」
「けど何!?」
「それを聞きつけた借金取りの人達がたくさん来たのよ。」
「・・・あ・・・」
「それで借金はきれいになくなったんだけど・・・」
「材料費も含めちゃったら、今日の売り上げは全部消えていたというわけですね?」
「そうなの。」
「はあ〜〜〜〜・・・・仕方ないかぁ・・・」

盛大なため息と共に机に突っ伏した娘の髪を笑顔でなでる母。
おお。2人とも美人なだけになかなか絵になる光景だ。何となくカメラがあったら一枚パシャリとお願いしたい。
あれ?俺は邪魔になるな。これではコンクールに出展できないじゃないか。となれば・・・・

「ま、とりあえず明日から頑張れば良いことだろ?」
「そうね。今日のお客さん達の中にも常連になってくれそうな人達もいたし、明日からはまともな売り上げが期待できそうだわ。」
「それじゃ、俺はこの辺りで失礼するよ。」
「え?」
「あらあらあら?」
「ちゃんと恩返しも済んだことだし。」

これで心置きなく元の世界に戻るための手がかりを探しに行けるってもんだ。
とりあえずはこの世界で一番大きな都市にでも行って、情報でも集めるとしよう。
幸いなことにこの世界で生きるために必要な情報は客とのやりとりで大体掴めた。文字に関しては・・・これから覚えよう。
ひょっとしたら来た時と同じで唐突に戻ることが出来るかもしれないしな。

「もう行くわけ?お礼と言っては何だけど、せめてもう一晩くらいなら泊めてあげるわよ?」
「かなり心揺さぶれるとこだけどな、一秒でも早く始めたいことがあるから。」
「それは何ですか?」
「あ〜・・・ちょっと人には言えないことで。そうだ、ついでに聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「何よ?」
「うん。この辺りで一番大きな町ってどこだ?出来ればこの世界のいろんな情報が集まる場所がいいんだけど。」
「ここ。」
「ここですね。」
「そうか。それじゃあとりあえずはそこを目指して・・・・って、は?」

待て待て待て待て。今、このお2方は何とおっしゃいましたか?
ここ?
それは何?ココっていう町があるよ。みたいな?
いや、そんなわけがない。ってか話の流れ的にそれはあり得ないだろうし。ってことは・・・

「この町、なのか?」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ZHDQL] 2006/03/06(月) 19:17:29

発明なんばー8!
「知らないのにここに来たわけ?」
「だっていきなり飛ばさ・・・いや、道に迷ったからな。ここがどこかなんて分からないし、他の町なんてほとんど知らないから。」

 いや、まあ実際は全く知らないけど。

「ここは首都‘ラズウェール’ですよ。少なくともこの町より大きな町はこの国にはありませんね。」
「そういうこと。いくらなんでも首都を知らないなんて、あんた本当に大丈夫なわけ?」
「ぐ・・・うぅ・・返す言葉もない。」

いや、仕方ないじゃん!?だって知らないものは知らないんだって!
そこの君!君はアルゼンチンの首都の名前を知っているか!?
オーストラリアの首都の名前がシドニーじゃないと知っているか!?
俺の今の状況はそれより20倍は大変な状況だよ!?ちなみに俺は両方とも最近になって知った!

「うぅ・・・地理なんて選択するんじゃなかった。」
「いきなり何?」
「いや、こっちの話。そうなると、どうすっかな・・・」
「どうって、話の内容だと調べ物だけすればいいんじゃないの?」
「そうなんだが・・・その調べ物っていうのが、何というかかなり膨大な量で幅広い分野をあさることになるからな・・・」

一番の悩みは滞在場所とその費用だ。
もちろん、俺はこの世界の貨幣なんて一枚たりとも持ってない。まして、この世界に知り合いなんているはずもない。天涯孤独の無一文。いかん、生きる希望が見あたらない!

「そりゃ、大変ね・・・」
「まあな・・・初めて神様にすがりたくなった。」
「あらあらあら。私は無神論者なんですよ。」
「お母さん。そんなの誰も聞いてないから。」
「神様にすがるのなんて間違ってると思いませんか?」
「え、娘は無視?」

ミリアさんは笑顔で娘をスルーし、立ったまま途方に暮れている俺に言葉をつむぎ続ける。

「神様はどれだけ祈っても直接救ってはくれません。この世界を作ったとか言われてますが、実際に神様が人間の目の前に現れて不思議な奇跡で人間を救った、なんて話はありません。それに全ての人間の願いを一度に叶えることすら出来ない存在です。そんな神様なんかより、目の前の困った人に手を差し伸べられる人間の方がよほどすがる価値がありますよ。」

えっと・・・いや、何かすごい心に響く言葉だ。
正直な話、今俺が立ち尽くしているのは途方に暮れているからじゃなくてミリアさんの言葉に何かを感じているからである。
ただ、唯一の問題は・・・・

「残念ながら、俺ってここにはすがることのできる人がいないんですよね。」

 そう。そうなると違う世界からやって来た俺にはすがる人間すらいないのが現実である。

「あらあらあら。そんなことは無いはずですよ?」
「え?」
「よく考えてみてください。」

いや、よく考えてくれって言われた所で、この世界において俺の知り合いと呼べる人間がいる可能性はゼロなんだから、寝床と食事を確保してくれるような人間はいるはずがない。
まして、赤の他人にすがるわけにもいかないし・・・・ん?

「あの、まさかとは思いますが・・・・?」
「はい、何でしょう?」

 ぐわ・・・この人の笑顔はマジだ。
俺の考えついたことを予測して、なおかつそれを肯定する気がたっぷりの笑顔だ。
いや、確かにその選択はかなり素晴らしいが、それを言い出すにはかなりの勇気と度胸がいるってこと分かってますよね?

「いや、やっぱりそれは・・・」
「いいと思いますよ?」
「でもですね・・・」
「お互いに損はないと思いますし。」
「くっ・・・」
「だああああ!私にも話が分かるように説明してってば!」

 何よりの問題はこのお嬢さんな気がする。

「大丈夫ですよ。きっと。」
「・・・心を読みましたか?」
「いえ、女の勘です。」
「・・・分かりました。改めてお願いします。」

こうなりゃヤケだ!どうせこれ以上状況が悪くなることは無い!
ダメで元々、当たって砕けろ!・・・いや、出来れば砕けない方向でお願いします。お願いしますよキララさん!



「俺をここで働かせてください。」

匿名希望 [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/03/07(火) 13:56:49

発明なんばー9!


朝、目覚めた俺の前には昨日見たのと同じ景色が広がっていた。


結論だけ言うと、俺は無事(?)にこの店『ヴェロンティエ』で働かせてもらえることになった。意外なことに、キララはほとんど反対せず、厳しく自分の部屋と私物への接触を禁じる以外は何の抵抗もなく俺の住み込みを許可してくれた。
もちろん、その代償は俺の3大スキルの1つ‘家事’であったわけだが。

「おはようございますミリアさん、キララ。」
「あらあらあら。おはようございます、レイさん。」
「ん。それじゃ早速だけど仕事始めるわよ。」

つまり、ここにいるからには働けということである。
まあ、幸いなことに俺の世界の料理はこっちの材料でも作れるし、卵などの同じような材料も多い。
何より、一昨日のキララの料理と昨日のそばでも分かったがこの世界の人達と俺の味覚がずれているということもない。
レパートリーにしても、一応1ヶ月重複しないだけのレシピが頭の中には叩き込んであるので問題ないはずだ。
一応、今朝の朝食でもキララとミリアさんにお褒めの言葉をいただいたし。

「俺は何を作ればいいんだ?」
「えっと・・・昨日のそばっていうのは作り置きできるんでしょ?」
「ああ。もう20人前くらいは出来てるぞ。」
「それじゃ、何か目新しい物作れる?材料費はそんなに高くならないようにね。」
「了解だ。」
「今日は何をお作りになられる予定ですか?」
「そうですね・・・オムライスは、どうですかね。」
「オムライスって・・・あんたが初めて来た時に注文した?」
「ああ。とりあえず、看板にでも本日から始めましたって書いて・・・あ。」

そう言えば、今さらながらに思い出したことがある。

「何よ?」
「・・・書けない。」
「は?」
「えーっと、何て説明したらいいのか・・・俺のいたところだとな、この辺で使われてる文字を使ってないんだ。」

厳密にはこの世界の文字を俺が理解できないということだが。

「はあ?別の文字を使ってたってわけ?」
「ああ・・・こりゃ、調べなきゃならないことが増えたな。」
「それなら私が書きますよ。オムライスですね?」
「ええ、お願いします。これは注文されてから作り始めていいよな・・・確か、米の代わりになるようなもんがあったな・・・」
「ちょっと、どれ使うかちゃんとあたしに言いなさいよ?」

そう言って俺とキララは厨房に入り、ミリアさんは看板に何やら書き込んだ紙を貼り付けて表に出した。
そうして俺の『ヴェロンティエ』での生活が始まった・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ygWbU] 2006/03/08(水) 17:37:36

発明なんばー10!
開始から30分で忙殺されかけた。



「こっちもオムライス!」
「うわあっ!これオイシイ!」
「ねえ、これって家でも作れそうじゃない?」
「え〜、でも、この卵の焼き加減とか絶妙すぎるってば。」
「いやいや、中に入ってるサモの味付け方が一番だって!」
「馬鹿言うなよ!お前、サモを卵でくるんで食ってみろって。」
「いや〜、太っちゃう!」
「くっそ〜、何でおかわり禁止なんだよ!?」

何故かって?俺が死ぬから。後、待ってるお客さんが多すぎるから。
ただ今店内にいる客数―――30名。
内、オムライスのお客様―――19名。
作る人間――――俺1人。
えっと、俺に死ねと?そうおっしゃるのですか皆様?

「レイ!休んでる暇なんて無いわよ!」
「休んでないって!」
「あらあらあら。今日も満席だわ。これじゃあ座れないわね。」
「「座るなっ!」」
「おい、キララ!ちょっとお前も運ぶの手伝ってくれ!」
「ええ!?」
「この3枚、あっちの女性3名様に!」
「お母さんは!?」
「お勘定ですね?はい、はい、合計2900ゼネーになります。」
「うう〜・・・嬉しいんだけど何よこれ〜っ!」
「ぼやくな!これなら黒字間違いなしだ!」
「レイのばかああああ!」
「何故にっ!?」



――――4時間後。
疲労困憊のため、外でお待ちのお客様に頭を下げながらも閉店。


「・・・死ぬ、死んでしまう・・・」
「あたしも、もうダメ・・・何か、何か望んでたのと違う・・・」
「あらあらあら。2人とも大丈夫ですか?はい、お水。」

うう・・・何故だろう。どんな高級料理よりもこの一杯の水の方が圧倒的に輝いて見えるのは。

「生き返る・・・」
「本当ね・・・それで、お母さん。今日の収益はいくらなの?」
「ふふふふふ。聞きたい?聞きたい?」
「いや、完売してる時点で何かもう予想が付くけどね・・・はっきりとした数で出された方が嬉しいから。」
「えっとね・・・お母さん計算頑張っちゃった結果は。」
「結果は?」
「材料費、光熱費その他諸々の支出を差し引いて・・・・30万ゼネ〜♪」
「さっ・・・・」
「30万っ!?」

一応、事前に聞いた話によれば1ゼネーが1円くらいである。
というか、いくら何でもそこまで売れたか!?だって、一皿1000ゼネーとかそのぐらい・・・いや、俺のオムライスが余りに売れまくったから、午後から少し値段を上げることになったんだっけ。
それにしても、1日で公務員の給料1ヶ月分とは・・・スゴ・・・

「キララ、レイさん。おつかれさまです。この後だけど――――キララ?」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、何て言うか・・・驚きだわ・・・」

キララは何処か心が飛んだような表情で、広げられた明細書を眺めている。
いや、確かに俺も驚きではあるが、どうやら今の今まで赤字を続けていたキララにはまた別の感慨もあるようだ。

「はぁ・・・ようやくお父さんに顔向けできるわ。」
「そうね・・・」
「まあ、良かったな。」
「ん。あ、ごめんね、話切って。」
「いいのよ。私だって同じ気持ちだから。それでこの後だけど、2人に頼みがあるの。」
「俺と、キララにですか?」
「ええ。ほら、とってもすごい売れ行きだったから材料が大分減っちゃったのよ。」
「今日の夜にはちゃんと注文してた分が届くじゃない。」
「ええ。キララの料理の分はね。」

なるほど。以前から作り続けているキララの料理材料はともかく、新人の俺の分は注文どころかどの材料を選ぶのかも分からないという訳か。

「それじゃあ俺一人で―――」
「でも、レイさんは字が読めないのでしょう?」
「あ、そうだった。」
「というわけで、キララ。レイさんと明日のメニューの打ち合わせしながら必要な分を買ってきてちょうだい。」
「はぁ・・・分かったわ。」
「悪いな、疲れてるのに。」
「全くよ・・・荷物はあんたが持ってよ?」
「おう。」

こうして、俺とキララはミリアさんに見送られながら外に出た。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-wcSdW] 2006/03/09(木) 14:03:21

発明なんばー11!

今さらだが、俺ってこうやってのんびりとこの町を歩くのって初めてじゃなかろうか?

「お〜、色々と目新しい物が一杯だ。」
「ちょっと、きょろきょろしないでよ。みっともないわね。」
「ん?あれは・・・そうか、薪だって売ってるんだな。」
「何を当たり前のことを・・・ああ、もう!ほら、さっさと歩く!」

キララの声もごもっともなのだが、正直周りを見るのが面白くて仕方ない。
あっちでは水を売ってるのか?そういや、店にも水が樽の中に入っていたなぁ・・・
こっちで売ってるのは氷だ。どうやら遠い所から急いで運んできたようで、大きさの割には中々高い。今度店で作ってみるのもいいかもしれない。

すれ違う人達の洋服は少しだけ俺の世界のものとは違う。
材質は謎だが、見た感じ着心地は良さそうだ。
ちなみに、今の俺の格好は学校の制服からブレザーを外し、その上から簡単にポンチョのようなものを羽織った形だ。
それほど目立ってるわけではないと思う。

しかし、歩いてみてハッキリと分かったがこの世界の文明の発達はかなり遅い。
それに文化自体もかなり和洋ごちゃ混ぜである。
道路沿いに見える家々は洋式(『ヴェロンティエ』も洋式だ)だが、少し奥の方を覗いてみれば和風の家もちらほら建っている。
馬らしき生き物(後に確認した所名前は‘アム’だそうな)が荷物を引いているかと思えば、江戸時代のかごらしき物が人間を運んでいたりする。

「・・・何だっていうんだろうな、この世界は・・・」
「何をぶつくさ言ってるのよ。ほら、行くわよ。」
「へいへい・・・ん?」
「何よ、どうしたの?」

少し不機嫌気味に俺に顔を向けるキララの後ろ、その向こう側に何やら大きな屋敷が建っているのが見えた。
あれは・・・何というか、日本の武家屋敷?西洋の城に近い気もするし・・・とりあえず、この辺りでは一番大きな建物と言っていい。

「なあ、キララ。あのでっかい家には誰が住んでるんだ?」
「え?・・・ああ、あれはこの国の王様の住むお城じゃない。本当にあんたって何も知らないのね。」
「悪かったな。それで、名前は?」
「名前?」
「王様の名前だよ。一応覚えとこうと思ってな。」
「・・・いや、まあ予想はしてたけどね。一度しか言わないわよ?」
「おう!」
「王様の名前は‘クロムウェル’様よ。ちなみに王妃様は‘フィリス’様。後・・・」
「ん?王子様でもいるのか?」
「王子じゃなくって王女様よ。名前は‘リリア’姫。全く、覚えた?」
「ん。クロムウェルにフィリスにリリアだな?ちょっとミリアさんと名前が似てるけど、実はあの人王族だってことは?」
「残念。年齢不詳だけどれっきとしたあたしの母親よ。」
「そうか。あの人の年齢はいっそ世界七不思議に指定していいと思うな。」
「同感ね。それより、もう市場はそこなんだからはぐれないでよ?」
「了解だ。」

そう言って俺は大人しくキララの後を追う。
それにしても・・・実は今まで深く考えなかったというか、深く考える時間が無かったというか、この世界に来てからずっと感じている違和感がある。
何というか、体の調子が微妙に変なのである。
普通に生活している分には何ら不自由はないのだが・・・これは、一体なんだ?

「う〜ん・・・何だろうな・・・」
「ちょっと、こっちよ!」
「おっと、悪い悪い。」
「全く、ちゃんと後を――――」
「っ、キララッ!」
「え―――!?」


ドシン・・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/03/10(金) 19:45:13

発明なんばー12!

「痛たたた・・・ちょっと、前見て歩いてるの!?」
「何だと!?そっちこそ前見てたのかよ!?」
「あたしはちゃんと立ち止まってたわよ!」
「るっせえ!女のくせに調子に乗るな!黙って道を空けときゃいいんだよ!」
「何ですって!?あんたね―――モガッ!?」
「いやいやいや、悪い悪い!俺のつれが迷惑かけて。」

全くもって、このお嬢さんはベタなことをやってくださる。
俺を呼ぶために振り向いた瞬間、前方から歩いてきた男、まあ実際は明らかにコイツの前方不注意なわけだが、この男と正面衝突。
挙げ句には、そのまま口論って・・・おいおい・・・

「まあまあ。ここはお互いに不運だったということで、な?」
「モガモガモガガ・・・ぷはっ!ちょっと、あんたねぇ!」
「馬鹿、黙ってろって!」
「あのね!間違ったことを間違ってるって言って何が悪いわけ!?」
「お前も少しは悪いだろうが。大体、こんな人前でもめ事起こして、折角上がった店の評判が落ちたらどうすんだよ。」
「う・・・それは、そうだけど。」
「だろ?な、こいつも反省してるし、許してやってくれよ。」
「・・・ダメだ。」

・・・おい?今、ダメとか言ったか、この男。

「何て言うか、あれだ。俺様にぶつかった割には誠意が足りないよなぁ?」

・・・やばい。この男はあれだ。自分を中心に世界が回ってると信じてる馬鹿だ。

「えっと・・・まあ、足りない分はそっちの広い心で埋めるとして―――」
「ふざけんなよ。足りない分は・・・うん、そっちの嬢ちゃんを貸して貰おう。」
「うっわ・・・」
「はあ!?冗談じゃないわ!何で私があんたなんかと!」
「んだと!人が誠意に出ればつけあがりやがって!」

どこが誠意だったのか、出来ればこの市場の皆様にアンケートを採りたい。
というか、誠意に出るって何?この世界のことわざかい?

「それを言うなら‘下手に出る’でしょうが!」
「あ、やっぱり?」
「んだと!?お前ら、もう勘弁ならねえ!」

絶対に最初から勘弁してくれる気は無かったと思うが・・・さて、どうしよう。
1.    とりあえずもう一度謝る。・・・・いや、意味が無いな。
2.    大人しくキララを差し出す・・・・出来るわけがない。
3.    逃げる・・・・女の子一人連れては無理!
4.    ・・・・戦う?この強そうなお兄さんと?

「・・・それしか無さそうだなぁ。」
「ああ?覚悟は出来たかよ?」
「ん。まあ一応・・・」

とりあえず、あれだ。肉を切らせて骨を断つ、の要領で相手の一発に耐えながら、男なら誰もが食らいたくない急所を蹴り上げる。そんで逃げる。
よし、これで行こう!!

「キララ、ちょっと下がってろ。」
「え、ちょ・・・」
「おっらあああああああああ!」

男の拳が一気に俺に迫る!早い!鋭い!そんで重そう!
さあ、来るべき瞬間に備えて歯を食いしばれ!

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/03/11(土) 18:07:53

発明なんばー13!

――――――ペチン。



「・・・は?」
「どうだ!今さら謝ってももう遅いぜ!?」
「いや、どうだとか言われても・・・」
「おらおら!次いくぜ!」

ペチペチペチペチペチペチペチペチ・・・・・

えっと・・・痛いどころかかゆくもないんだが?強いて言うならちょっとこそばゆい。
周りの人達はこの以上に気付いてないし・・・むしろ、俺が驚きの目で見られてる?
いや、そんな驚くことじゃないはずだが?
だって、こいつのパンチ、あまりにも軽すぎて――――あ。

なるほど、分かった。違和感の正体はこれだ。
つまり、この世界の原子の引力があまりに小さすぎるんだ。
この世界の人達はこの世界の原子しか持っていないため、俺が俺の世界にいるのと全く変化が無い。
だが、俺は違う。
おそらく、この世界の引力は俺の世界の5分の1程度。
つまり、この男のパンチが30キロ有るとしても、俺からしてみれば6キロ程度の威力。
全くもって驚異に値しないのである。
そして逆に言えば――――

「お〜い、ちょっと良いか?」
「な、何で、てめぇ、平気なんだよ!?」
「まあまあ。とりあえず、その理由はこいつを見てくれ。」

そう言って、俺は近くにあったリンゴらしき果物を手に取った。
それを片手に持って一気に力を込める。
元の世界での握力が40キロの俺、ならばこの世界では・・・・

グシャッ!・・・・・

ずばり200キロ。う〜ん、K−1選手の気分がちょっと味わえて面白い。
後でお金は払います。お店の人、ごめんなさい。

「な・・な、なぁぁっ!?」
「さて、まだやる?一応、気の済むまでやらせてあげてもいいけど・・・俺が手を出さない保証は正直どこにも無いぞ?」
「ひ、ひいいいいいいいいいいいいい!!」

お〜、逃げてった。ていうか早っ!!
しっかしあれだ。引力が小さい割には、俺自身は普通に歩けるのは何故だ?
だって、5分の1って月とほとんど変わらないぞ?テレビで見たように俺は1歩歩くたびにフワフワと浮いてもおかしくないのに・・・?
これでは俺の身体能力が5倍になったと変わらない気がする。
もちろん、秘密のトレーニングはしてないし、養成ギプスなんてのもはめちゃいない。
さてさて・・・これはどう取るべきだろうか。

「ふむ・・・これが、この世界の正体を知る一つの手がかりなのか?」
「れ、レイ・・・」
「ん?ああ、悪い悪い。またぼーっとしてた。」
「そんなのどうでもいいわよ!い、今のは何!?」
「えっと・・・あふれ出る驚異の馬鹿力?」
「納得できるかあっ!」
「まあ、きっと神様が危機に俺を助けるべく与えてくれた――」
「余計に納得できないわよっ!あんた、そんなに強かったわけ!?」
「いや〜、俺もびっくりだ。」
「それなら最初から城の衛兵にでもなれば給料稼ぎ放題じゃないのよ!」
「俺も今そう思ったところだ。」
「大体――――って、え?」
「ん?・・・わお。」

キララの視線の先を見て、俺も思わず声を漏らした。

えっと、何ですかね?随分と大量に集まってる市場の皆様は。
何か一人ちょっと偉そうなお爺さんがこちらに歩いてこられてるし。
ひょっとしてあれか?市場でもめ事起こしたから立ち入り禁止!みたいな?
やばい!それは非常にやばい!下手すりゃ本格的に店がつぶれる!
こうなりゃ、俺はヴェロンティエと何の関わりもないと押し通すしかない!

「お主・・・名は?」
「えっと、れ、レイ。レイ・キルトハーツです。」
「そちらのお嬢さんは、確かヴェロンティエのキララ嬢じゃな?」
「は、はい。そうです。」
「お主達、知り合いか?」
「いえ、俺は―――」
「そ、そうです。レイは、私の店の、新しい料理人です。」

このお馬鹿!いきなり計画が頓挫したぞ!?
どうすんの!?このままじゃ俺のせいでミリアさんとキララが路頭に迷う!

「そうか・・・・あの男はの。最近市場を荒らしておって大変困っておったのじゃ。」
「へ?」
「そ、そうなんですか?」
「うむ。じゃが、お主達のおかげでもうここに来ることもないじゃろう。市場を代表して心から礼を言わせてもらうぞ。」

えっと、つまり・・・結果オーライ?

「あはは・・・助かった・・・」
「寿命が縮んだわよ・・・」
「おうおうおう!そこの兄ちゃん!レイって言ったか!?」
「すげえじゃねえか!ちょっとうちの店を覗いていきな!サービスするぜ!?」
「え、え、ええ!?」
「ちょっと待てよ!そっちの店よりこっちの方が品物は高品質なんだぜ?」
「何だと!?てめえの店は高いだろうが!」
「安いだけの店に言われたくはねえな!」
「いや、ちょっと落ち着けって!両方見るから!」
「ちょ、レイってば!どこに行くわけ!?」
「ねえねえ、キララちゃん。うちの店からも何か仕入れてみないかい?」
「はいっ?」
「そうそう。うちは最近野菜が多いから安くていいわよ?」
「あら。果物ならうちよ。ねえ、食後に甘い物って合うとおもわない?」
「は、はあ・・・って、レイ!?」
「キララ!また後でな〜!」
「こらああ!いらないもの買うんじゃないわよっ!?」
「お店の人達に色々と教えてもらうよ!」
「よっしゃ!任せとけ!」
「どんな料理の仕方が美味いかまでびっちり教えてやるぜ!」
「それで、キララちゃん。さっきの話の続きだけど・・・」
「おう!うちの魚はなあ、刺身にすると―――」



結局、俺たちが大量の荷物を両手に抱えて市場を出たのは、すっかり日が傾き始めた頃だった。



「いや〜、大量だったな・・・」
「どうでもいいけど、あんた買いすぎじゃない?」
「大丈夫だ。これは保存が利く方法を知ってるから。」
「なら良いけど、お金は?」
「かなり値切った。最大半分近くまで値切った。」
「・・・すごいわね、あんた。」
「いや、お店の人も随分と乗り気だったし。それにまた来るっていう条件も引き受けたしな。」
「あ、そうなの。まあ市場の人達と仲良くなるのは良いことだしね。」
「活気があっていい場所だな、あそこは。」
「あんたっていう英雄が現れたおかげじゃないの?」
「まあ、強いってのは人目を集めるからな。少し自重するとしよう。」
「その荷物の量を半分に減らしてから言いなさいよ。」

まあ、確かにこの量は結構すごいかもしれない。
おそらく、元の世界では3人くらいで運ぶ量だろうが・・・今の俺なら余裕で持てる。

「さてと、帰ったら早速保存用に加工して、明日の仕込みを―――」
「あ〜・・・レイ。ちょっと先に帰ってて。あたし、友達の所に用があるから。」
「ん?そうなのか。」
「帰り道は分かるわよね?」
「ああ。そんなに複雑な道でも無かったし。」
「それじゃ、先に行って。」
「おう。ミリアさんには伝えとくから。」

そう言って、俺はすたすたと歩くスピードを速める。
さっさと帰ってやることをやってしまわねばなるまい。そんで、出来ればミリアさんにでも簡単なこの世界の文字を教わろう。
調べ物をするのに、本が読めないのは辛すぎるし――――



「・・・とう。」


――――おや?

「お〜い、何か言ったか、キララ?」
「は?気のせいじゃない?」
「そっか。なら良いんだ。また店でな。」
「寄り道しないでよ!」

さて、キララの声だったかと思ったが?
どうやら身体能力が上がっても聴力とかの感覚能力は変化なし、か。
まあそれまで5倍に上がったら生活できんだろうけどな。

俺は荷物を持ち直すと、改めて店への帰りを急ぎ始めた。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Iogng] 2006/03/12(日) 18:55:53

発明なんばー14!


朝、ベッドから起き上がって伸びをする。
暖かい布団からはい出ると、そのままこの世界の服に手を通す。
階段を下り、井戸がある場所で水を手にとって顔を洗う。
そして厨房に行って朝食を作り―――

って、何かすごく馴染んでるなぁ、俺。
    
異世界ですよ?
下手すればモンスターとか魔法とかが点在するような世界ですよ?
なのに、何だろうこの穏やかな朝は。

この世界に来てから1週間。
何だか元の世界に戻らなくていいんじゃない?とすら考えるほど平和だ。
ミリアさんのおかげで、ある程度ではあるがこの世界の文字を理解できるようにもなった。
ここで生活しろと言われれば、少々大変だが出来ないこともないはずだ。
それに、戻ったら戻ったで・・・あの両親か。

「おはよう、レイ。」
「ん? おはよう、キララ。ミリアさんは?」
「さっき向こうで顔を洗ってたわよ。」
「そうか・・・さて、それじゃあ仕込みを―――」
「何言ってるのよ。」
「え――あ、そうか。」
「今日は定休日だって言ったじゃない。」

ヴェロンティエには決まった休みという物がない。
店主、つまりミリアさんの希望で突然に休みになるらしい。
まあ、何故かそれはいつもキララの疲労を見抜いた上で、ということらしいが。
母の愛は偉大である。

「それで、レイ。あんた今日はどうするわけ?」
「ん。文字もある程度読めるようになったわけだし、とりあえずは図書館ってあるか?」
「図書館なら、お城があるでしょ。あの中よ。」
「一般人が入れるのか?」
「戸籍さえあれば。」
「・・・つまり、俺は無理なのか。」
「そう、一人だったらね。」
「そっか・・・仕方ない。諦めて別の本屋にでも―――」
「何でそうなるのよ!」
「へ?」

いや、だって戸籍を持ってない俺はどうやっても図書館には入れない。
だったら諦めるしかないのでは?

「一人だったら、って言ったでしょうが。人の話を聞きなさいよ。」
「えっと、つまり・・・付いてきてくれるのか?」
「一応、あたしもお城に用があるしね。ここの料理長として。」
「料理長って、2人しかいないぞ?」
「うっさいわね!ほら、さっさと準備する!」
「そのまえに朝食ですよ?」
「うわっ!」
「きゃっ!?」

びっくりした。
というか、いつの間に食卓についてらっしゃるのですかミリアさん?

「今日の朝食は、以前にも作っていただいた卵焼きですね。」
「え、ええ。ちょっと2人の意見も入れて少し甘くしてみました。」
「いい臭いですね。いただきます。」
「はぁ・・・あたし達もさっさと食べるわよ。」
「おう、後でヨロシク頼むな。」

こうして、俺はこの世界から脱出するための初めての取り組みをすることにした。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-MCwJG] 2006/03/13(月) 17:48:47

発明なんばー15!


「ヴェロンティエのキララ・ランクフォードです。」
「えっと、そこの居候です。」
「あんたまで言わなくていいのよ!」
「あ、そうなのか?」

城までたどり着き、俺達はそこの門番に入城許可を貰っていた。
いや、厳密には貰うのはキララなわけだが。
ちなみに無料。

「はいはい。ヴェロンティエね・・・ん?ヴェロンティエって、最近話題のあのヴェロンティエか?」
「え?」
「未知のうまい料理がたくさん出てくるって有名だけど。」
「ああ。確かにうちです。」
「いいよなぁ。俺も門番なんて仕事じゃなきゃ食いに行きたいよ。」
「いや、休みの日にでも来てくださいよ。」
「出前もしてますよ?」
「ははは。料理は座らないと食えないだろう?」
「それは、そうですね・・・」
「いや、そんなことはないぞ?」
「え?」
「明日にでも俺が作ってきてやるよ。立ったまま片手で食えて、しかも腹が満タンになるようなやつ。」
「へえ、そんな夢みたいなもんがあるなら食ってみたいな。」
「作ってきて美味かったら宣伝ヨロシクな。」
「ああ。頼んだよ。」
「まったく、あんたはまた勝手に・・・」

門番に挨拶をしながらすたすた歩き去る俺にキララが呆れ気味に言う。
しかし、そう言いながらも止めさせようとしないのは、一応俺を信じてくれているからだろう。

そして、歩くこと数分―――

「ほら、着いたわよ。」
「へぇ・・・すごい量だな。」

俺の目の前にあるのは、学校の体育館なみの大きさの室内に所狭しと並べられている本だった。
2階、いや3階建てのようでらせん階段が中央にそびえている。
「そんじゃ、あたしは自分の用事を済ませてくるから。分からないことがあったらあの制服を着てる人に聞きなさいよ?」
「ああ。それじゃまた後で。」
「この部屋から出ないでよね。」
「了解だ。」

キララはついさっきくぐった扉を通り、その向こうへと歩いていった。

さてと・・・とりあえず、調べるジャンルは俺と似たような人間が他にもいたかどうかということで、過去の犯罪者でも探ってみるか。
おそらく、たいていの人間は真実を言ってしまって何かしら騒動を起こしているはずである。
異世界から来た。なんて言う人間が誰にも相手にされないわけがない、良くも悪くも。
うまくいけば、元の世界に送り返す方法が既にあるかもしれない。

「うっし・・・いっちょ、やるとするか。」

俺は自分の頬を両手で軽く叩きながら気合いを入れた。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ygWbU] 2006/03/14(火) 16:25:24

発明なんばー16!




――――3時間後。

正直な話、信じたくなかった。
だが、これは紛れもなく真実であり、そして俺が求めていたものだろう。
けど、けれど―――――

「予想の下をさらに下回ってるぞ、おい・・・」

なんか日本語がおかしいこともどうでもいい。
だが、いくらなんでもこれはあんまりだろう。

過去の資料に載っていた情報によれば、異世界から来たと叫ぶ人間は数多くいた。
そしてその人間達は団結し、この国と‘戦った’。

自分たちの世界に帰るために、この世界を調べるには既存する国が邪魔だと判断したんだろう。
しかし、結果は敗北。
この国も大きな被害を受けたものの、彼らも全員殺されてしまった。

「・・・一般人の寄せ集めじゃ、本格的な兵隊には勝てないだろうな。」

彼らの中に科学者がいれば、あるいはこの結果は無かっただろう。
そしてそれはこの世界には幸運だったと言っていい。

問題は、この事件により俺の世界の人間と協力することが難しくなっていることだ。
もし俺が異世界から来たと言えば、たちまち俺も危険人物として処刑される。
かといって探した所で、この戦いがある以上そうそう名乗りでてもらえるとも思えない。
つまり、俺はたった1人で元の世界に変える方法を探す必要があるのだ。

「くそっ・・・どうして反乱なんて起こしたかなぁ?仲良く友好的に話し合えば良かっただろうにさ・・・」

広げられた本を閉じ、元の場所に戻しながらこれからを考える。
結局の所、今の生活を続けながら地道に俺がこの世界に来た原因を探るしかないようである。
ひょっとしたら、人でなくてもこの世界に何らかの方法で物体が渡ってきている可能性も捨てきれない。
それを調べれば、何か分かるかもしれないし。

「次はこの世界の技術を超えた物体・・・オーパーツってあるかな?」

大体、こういったのは宇宙人からの贈りものとか、世界七不思議とか、そういった一種の伝説じみたものになっているはずだ。
次はそれを――――

「で、何か見つかった?」
「うおうっ!?」
「そんなに驚くことはないでしょう。」
「はあ、はあ、はあ・・・キ、キララか・・・焦ったぞ。」
「あんた、何か危ないことでも調べてたんじゃないでしょうね?」
「とりあえず違うと言っておく。」
「それじゃあたしも言っておくけど、変なこと考えてたら速攻でたたき出すわよ。」
「それは心に留めておくよ。」

俺は苦笑いをしてキララに向き直る。

「それで、調べ物の結果は?」
「あまり良くはないけど・・・まあ前進はしてるな。」
「そう。それはおめでとう。」
「ん。そういや、キララの用事は終わったのか?」
「終わったから迎えに来たんでしょうが。」
「そりゃそうだ。」
「で、はいこれ。」
「ん?」

何じゃこりゃ・・・?
カード?えっと、レイ・キルトハーツって俺の名前が書いてあるカード。
何か色々と書いてあって・・・ん?
『ヴェロンティエ所属 料理人 レイ・キルトハーツ』だと?

「・・・これは?」
「あんたの仮の身分証明書みたいなもんよ。これがあれば次からは一人でもここに入れるようになるわ。」
「へぇ・・って、まさか今日はこれを?」
「あんたを雇ってる以上、あんたはここでの身分が必要になるからね。それがあれは雇用者としてもやりやすいのよ。」
「なるほどな。ありがとう、キララ。」
「な・・・べ、別にいいわよ。それより、今日はもう帰るわよ。」
「ああ。分かった。」

さっさと俺を置いて歩き出すキララを慌てて追いかける。
さすがにこんだけ広い城で置いてかれたら道に迷いかねん。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/03/15(水) 20:19:51

発明なんばー17!

で、図書館を出てからしばらく歩いていると――――

「キララ?キララじゃない?」
「あら、マリス、それにフォルトまで。」
「知り合いか?」
「料理人の資格取った時の同級生よ。」

向こうから歩いてきたのは黒と金色の髪を持った女性2人。
笑顔でキララに近づいていくる所を見ると、どうやら仲は良いらしい。

「聞いたわよ、キララ!ヴェロンティエがすごい人気ですって!?」
「ぜひ、今度私達も行かせてもらうわ。」
「ありがとう。っていうか、赤字の時は来てくれなかったわよね。」
「まあまあ、細かいことはいいじゃない。」
「そうそう。それより、この男の人は?」
「え?こいつは―――」
「まっ!まさか、キララにっ、キララに恋人がっ!?」
「はあっ!?」
「分かったわ!お店が急激に伸びたのは愛の力ね!そうなのね!?」
「違うっ!絶対に違うっ!」
「あのキララに男が出来るなんて!・・・マリス、一人って寂しいわね。」
「そうね。今度お城の衛兵さん達でも誘って遊びましょう。」
「こらあああ!人の話を聞けえええっ!」

おお。キララが圧倒されている。恐るべし級友達。
というか、俺が話題に参加できないのが寂しい。

「こいつはうちの新しい料理人よ!」
「やっぱり愛の炎で!?」
「料理は火力が命よね。」
「違うって言ってるでしょうがああああっ!」

ふむ。妄想半分に熱血気味なのがフォルトさんでクールに合いの手を入れるのがマリスさんだな。
で、いい加減俺にも話が飛ばされてきそうな気がする。

「それで、キララの彼氏さん!」

ほら来た。

「どうやってキララの心を射止めたんですかっ!?」
「キララって男に対して興味が無い人間だったものね。」
「何気にひどいこと言うなっ!」
「それでどうやって!?」
「そりゃあもちろん俺の熱い料理と‘心と体’で。」
「きゃーーーーーーーー♪」
「少女はいつか女になるのよ。」
「勝手なこと言ってんじゃないわよっ!」

‘ゴチン・・・’
ぐおっ!?
すねですか!?すねを見事につま先でねらい打ちですか!?

「いい!?あたしとこいつは雇い主と料理人!それ以上でも以下でもない!」
「現時点では。」
「次は顔面にいくわよ!?」
「ごめんなさい。」
「まあまあ、2人の熱々関係はよく分かったとして。」
「フォルト・・・いい加減にしないと鳥みたいに締め落とすわよ。」
「は〜い。」
「それでキララ。今日は一体ここに何しに来たの?あなたがお城に来るなんて珍しいじゃない。」
「あ!まさか、やっぱり私達とここで働く気に!?」
「残念だけど違うわよ。今日はこいつの仮の住民票を作りに来たの。」
「なんだ〜、また一緒に料理が出来ると思ったのにな〜。」
「えっと・・・2人はこの城で働いてるのか?」
「ええ。私とフォルトは城の専属料理人よ。」
「まだ下っ端だけどね。」

見たところ俺と変わらないくらいなのにすごいな―――
って、キララの方がよっぽどすごいか。

「ところで、キララ。伝説的な名医って知らない?」
「はあ?どうしてあたしがそんな人と知り合いなのよ・・・」
「分かってる。聞いてみただけよ。」
「何かあったの?」
「お姫様が病気になって色々と手を尽くしてみたんだけど良くならない。現在、国で総力を挙げて腕の立つ名医を探してるってところか?」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/03/17(金) 09:22:33

発明なんばー18!

まあ、確かにこの世界じゃまだまだ未知の病気も多いはず―――
って、何故に3人ともそんなに目を広げて俺の様子を見てる?

「顔に何か着いてるか?」
「な、何でそのことを!?」
「姫様が病気になってるのは、城の一部の人間しか知らないはずよ。」
「簡単だろ。さっき、図書館でやったら偉そうな人達が家来とか部下みたいなのたくさん連れて医学書の棚を片っ端から調べまくってた。このことから大勢の人間に命令できる立場の人間が何かを調べさせてるって分かる。」
「それが王様の命令だと何故?」
「あれだけ大勢の人間、しかもかなり別々の制服が多かったからな。そんだけ様々な研究者を集められるのは、国家権力が1番だろ。それに、ここはお城だしな。」
「でも、倒れたのが王様とかかも―――」
「だったら、国中に触れ回っても問題ないだろ。王が倒れるなんてのは普通の話だ。キララが知らなかったってことは、余り外に漏らせない人間が倒れたってこと。つまり、跡継ぎである姫様が倒れたって知ったら他の国に弱みを見せることになるから秘密にしてる。まあ、有る程度は勘も入ってるけど、今回は当たったみたいだな。」
「・・・その通り。」
「あんた、頭良いのね・・・」
「別に大したことじゃない。問題は、そこまでしても治らない姫様の病気だな。」
「そうなのよねぇ・・・ここ数日は起きることもままならないらしいのよ。」
「それで名医が必要ってことね。」
「正直な話、助かりそうか?」
    
その言葉に無言で下を向くところから、おそらくは難しいのだろう。

「あんた達みたいに料理人にまで心配してもらえるなんて、よっぽどリリア姫ってのは好かれてるんだな。」
「当然よ!」
「当然です。」
「当然でしょう!」

・・・いや、キララまで叫ぶのは正直予想外。

「すごい優しくて、誰に対しても笑顔を絶やさない方なのよ。」
「私達みたいな裏方の人間にも、常に感謝の気持ちを表してくれる方だから。」
「国民の中であの人のこと嫌ってる人なんていないわよ。もしいたら、その場で袋だたきにあってるわ。」
「ちょっと危ないくらいの人望だな、おい・・・」

それにしても、そこまで好かれてる人間がひどい病気とは。
ちょっと可哀想な話だな。

「何か名医の情報が店で入ったら教えてね。」
「分かった。2人とも頑張ってね。」
「ええ。キララもお店、頑張って。」

来た時と同じように笑顔で去っていく2人を見送り、俺達も城の外に出て行った。

「リリア姫、元気になるといいな・・・」
「そんなに心配とは・・・本当に好かれてるな、その姫様。」
「あんたには分からないでしょうけど、姫様に何かあったらそれこそ国中が大騒ぎになるわよ。間違いなくね。」
「ふ〜ん・・・難病か奇病か、どうだろうな。」
「どうでもいいわよ。良くなってくれさえすれば。」
「・・・良くなって欲しいのか?」
「当然でしょ。」
「そっか。」

まったく・・・日本国民なら総理が倒れても『次は誰かな〜?』と笑ってるというのに。
ちょっとは悲しもうよ皆さん!
いや、悲しまれるほど人望のない総理が悪いのか。

それにしても人望のあるお姫様ってのは、やっぱり生きてて欲しい命だよな・・・


ここはいっちょ‘2つ目の3大スキル’を使ってみるか。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/03/19(日) 13:25:59

発明なんばー19!

昨晩から発酵させた生地を焼き上げ、パンを作る。
それに野菜、ハンバーグ、チーズとかを次々に重ねて乗せる。
再びその上からパンをかぶせる。

「よし、これぞ携帯食の最先端!ハンバーガーだ!」
「つくづく思うんだけど、あんたの作る料理ってどうしてこう凄いもんばかり・・・」
「あらあらあら、おいしそうですね。」
「ふっふっふ、片手で食えて肉と野菜が同時に取れるという素晴らしき発明だ。」
「でも、あんたが創り出した訳じゃないわよね?」
「・・・さてと、これを紙で包んでと。」
「無視したわね・・・」
「さて、キララ。頼みがある。」
「な、何よ?」
「そばはいつも通りあの棚の中、だし汁も鍋に入ってる。今日の主食のハンバーグはあそこにあるやつを焦げ目が付くまで焼けばいい。」
「だから?」
「・・・一人でも出来るよな?」
「は?」

昨日の帰りのこと。
再び出会った門番のおっちゃんとの会話で、俺はある約束を取り付けた。
それは、城内の他の人間の分まで作ること。
すでに俺の後ろには30個のハンバーガーが山積みになっていた。

「大丈夫。ちゃんとお代は取ってくるし、出来るだけ早く戻ってくる。」
「ちょっと、あんたまさか・・・」
「ちなみに、ミリアさんに許可も得た。」
「いってらっしゃい。」
「これが成功すれば出前も増えて黒字更新間違いなしだ。」
「ひょっとして・・・」
「じゃ、いってきます。」
「えええええええええ!?」

キララの声を背後に、俺はハンバーガーを風呂敷に包んで店を飛び出した。
頑張れキララ。
今日の客さばきは君の腕にかかっている。



さて、もはや何回か来ているために迷うことなく俺は城までやって来た。
もちろん、門の前に立っているのは―――

「お〜い、おっさん。持ってきたぞ〜。」
「おう。どれどれ・・・何だこりゃ?」
「ハンバーガーって言うんだ。その紙を、こう上手く使って一気にかぶりつく。」

俺は実演をふまえながら門番のおっさんの目の前でハンバーガーを食う。
それを見ながらおっさんも一口含み―――

「ん!こりゃあ美味い!」
「だろ?肉、野菜、乳製品と色々入ってるからな、栄養も満腹感も最高だぞ。」
「おい!お前も食えよ!これすごいぞ!」
「え?先輩、これ何ですか?」
「片手で食える俺達の昼飯だ。」
「へえ・・・・うわ!美味い!も、もう一個いいか!?」
「残念。まだ城の中にも配りに行かないといけないからな。欲しかったら戻ってきた時に俺に注文してくれ。」

俺はそう言うと軽やかな足取りで城の中に入っていった。
もちろん、‘本来の目的’も覚えている。

「へい!食堂ヴェロンティエから出前です!」
「ん?お前がか?」
「本当に片手で食えて仕事の邪魔にならないんだろうな?」
「そりゃあ食ってから判断しろいっ!」

「はいはい!ヴェロンティエです!」
「ん?あのラルフが言ってたやつか。」
「どれどれ―――うおっ!?美味い!」
「何!?俺にもよこせ!」
「焦るな焦るなっ!」

そんなことを繰り返すこと数回―――

「おい、そこのお前。」
「はい?」
「ここから先は王族の部屋だ。」
「あ。ってことは、あんた達が最後の注文者だな?」
「何のことだ?」
「門番さんから頼まれた昼食だよ。任務の邪魔にならないように片手で食えるすぐれもんだぜ?」
「ああ。さっき歩いてた衛兵から話は聞いてるぞ。」
「やっと来たのか。俺、もう我慢できなくって・・・」
「そりゃ良かった。空腹で暴れられたらヴェロンティエの責任になるとこだった。」
「はははっ、違いねえや。」

にこやかに会話をしながら、俺はその衛兵達の奥―――
王族の部屋へと続く廊下へと目を走らせておく。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/03/20(月) 16:28:03

発明なんばー20!

「この先に王様達がいるのかい?」
「ああ。と言っても、最近はほとんど部屋には戻られていないがな。」
「ああ。お姫様が病気で倒れたんだって?」
「ん?どうしてお前が知ってるんだ?」
「いや。こう見えても軽く医術を学んでてな。少しだけ相談されたんだ。」
「そっか。本当、可哀想だよなぁ姫様。」
「おう。あの笑顔をもうここ最近ずっと見てないんだぜ?」
「そっか・・・どんな症状なんだ?」
「ひどいらしい。吐き気、腹痛、高熱、頭痛。これが常に同時に襲ってくるって医者の連中が言ってた。」

ふむ・・・順番としては高熱、頭痛、腹痛、だろうが――――
吐き気はそのおまけ、と言った所か。
ひどい発熱ということは、細菌性の病気だろうな。
頭痛は発熱の影響で脳に正常に酸素を含む血液の不足か。
そして腹痛ってことは―――

「なるほど、そりゃあ確かに未知の病気だな。」
「だろう?誰でも良いから姫様を助けてくれよ・・・」
「全くだ。神様に祈っても、助けてくれそうにないしなぁ。」
「ところで、もう姫様は何日くらい伏せってられる?」
「ああ。もう5日になるかな。」

よし。‘まだ間に合う’。

「そっか。機会が有れば姫様にお大事にって言っておいてくれ。」
「ああ。分かったよ。」
「後、バーガーの注文はヴェロンティエまで。」
「おう。明日も頼みたいんだが?」
「そうだな。明日は無理だけど門番のラルフさんに伝えてくれりゃ、近いうちに出前してやるよ。好きな分だけな。」
「分かったよ。美味かったぜ。」
「まいどっ!」

俺はにこやかに手を振ってその場を後にする。

さて、これでひとまず下準備は完了したな。
姫様の部屋の位置も大体ではあるけど把握できた。
かかってる病気も予想が付いているし。
問題は、この世界で揃えられる薬の種類だよ・・・
最悪の場合は3大スキル、最後の一つまで必要になるかもなぁ・・・
うう・・・使いたくない。



「ただいま〜・・・って、き、キララッ!?」
「・・・レイの馬鹿ぁ・・・最低ぃ・・・」

えっと・・・帰ってきて早々罵倒から始まるの?
大体、何故にそんなにご機嫌斜めなんですか!?
しかも、思いっきり机につっぷしてるし。

「ど、どうかしたのか・・・?」
「どうかしたのか、ですって?その口で言うか?ほ〜う・・・」

おや?何やら地雷原に足を踏み入れた気がする。
さて、俺は今日は一体何をし――――

あ。

‘何もしてない’

「あんたの作ったハンバーグだっけ・・・凄い売れ方だったわ・・・そう、子どもが無垢な笑顔で注文しまくるのよ・・・他の料理だけでも手一杯だっていうのに、おかわりまで要求し始めてさぁ・・・」
「あ、あははははははは・・・す、すまん。」
「うぅ・・・疲れた、すごい疲れた・・・もう限界ぃ〜・・・レイの馬鹿〜・・・」
「あらあらあら、キララ。女の子がそんなだらしない姿じゃいけないわよ?」
「お母さん・・・ゴメン・・・今日は、もう、このまま・・・」

ん?寝たか・・・?
いや、マジで!?ここって店内ですよ!?

「ミリアさん、その、今日はワガママ言ってすいません。居候だっていうのに。」
「良いんですよ。レイさん、何かやることを決意した目ですから。」

えっと・・・気付かれてる?ひょっとして気付かれてますか!?

「ですから、レイさん。これだけは覚えておいてください。」
「はい?」
「あなたがこれからやることが何であっても、それに正解も間違いも存在しません。その決断と行動を間違いにするのは、その後のあなたの行動と思いなんです。ですから、どうか自分の選択を信じてください。そうすれば、きっとあなたの未来において、これからの行動を後悔するということだけは無いはずですから。」

何というか、本当に不思議な人である。
『異世界の人間が、この世界の人間の命を救っていいのか?』
そんな俺の疑問、心の奥底に無理矢理しまい込んでいた疑問を一撃で粉砕してくれる言葉だった。

「・・・はい、ありがとうございます。」
「それではレイさん。今日のお店でのお仕事を休んだ罰として―――」
「罰として?」
「キララを部屋まで運んでください。」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-RJFcb] 2006/03/21(火) 21:13:45

発明なんばー21!


・・・マジですか?


「えっと、ミリアさん。」
「はい?」
「俺は男ですよ?」
「そうですね。」
「キララは女ですよ?」
「そうですよ。」
「・・・警戒とかは?」
「何のですか?」
「いや、男が娘を誰もいない部屋に連れて行くっていう状況を分かってます?」
「まあ、燃えるシチュエーションですね。」
「燃えないでください!」
「大丈夫ですよ。」
「何故にですか!?」
「レイさんの腕なら、この店を継げますから。」
「話が通じてません!ってか、さり気に問題発言しないでください!」
「キララの部屋はレイさんの部屋の前の廊下の突き当たりを左ですよ。」
「無視ですか!?」

しかもそのまま立ち去ろうとしてるし!
あんたそれでもこの子の親か!?可愛い娘を男の前に置き去りにするな!
ってか、俺の理性がかなり揺らいでますよ!?

「あ、そうそう。レイさん。」
「何ですか!」
「今から私外に出かけますので。」
「お願いですから状況証拠を揃えないでください!」
「頑張ってくださいね?」

・・・ナニヲデスカ?
あいむ いん キララずるーむ。

余りの状況に英文すら作ってしまう俺。

「・・・姉さん、ピンチです・・・」

居もしない架空の姉に助けまで求めてみるが状況に変化なし!
そりゃ、当然だけどね?

とりあえず、何とかここまで連れてきたキララを―――っ!
いかん、思わず見てしまった。
やはり女の子に一度はしてみたいことベスト10に入る‘お姫様だっこ‘は、何て言うか俺の理性がピンチ!
抱えてるのが美少女なら余計に!
無防備に俺の腕の中で眠ってるキララの顔を見るだけで、もうバックンバックンである。

「うっ、ん・・・すぅ・・・」

だああああああああ!可愛い顔で可愛い寝息を立てるんじゃありません!悪い子!
やばい!この後にやることも控えてるんだから、速攻で終わらせねば!
さっさとベッドに運んでそのままおいとましちゃおう!それしか俺が犯罪者から逃れる道は無い!
こういう時は昔の人の精神統一のための言葉を思い出せ!えっと、えっと、そうだ、『風林火山』!
疾きこと風のごとし!で、キララをベッドに運ぶ。
静かなること林のごとし!で、キララをそっと横たえる。
侵略すること火のごとし!で、キララに――――

「って、違うだろっ!」
「んん・・っ、うぅん・・・」

う、動いたら目が覚める!動くな!動くな俺!
動かざるごと山のごとし!で、キララが静まるのを待て!

よし、オーケー?おーけー?いいね?もう動いても大丈夫ですね?ありがとう風林火山!ありがとう武田信玄!ただし、火は最低!
よし!完璧な仕事をありがとう!よく頑張ったね俺の理性!後は素早くこの戦場を離脱して―――

ガシッ・・・

「・・・うそ?」

何故に!?何故にキララさんの右手が私の腕をがっちりと!?
寝てるよね!?寝てるはずだよね!?

「ぅん・・・んん・・・」
「き、キララさ〜ん、離して〜・・・」
「ん・・・い、やぁ・・・」

ぐはあぁ・・・ちょ、何ですかその甘い声は!世界が世界なら捕まってますよ!?
ってか、マジで離して!これ以上は本気で理性の限界が―――



「行、か・・ない、で・・・お、父さ・・ん・・・」



――――えっと、一瞬で理性がかむばっく。
なるほど。男の人にだっこされてる状況で、父親のことを思い出したわけか。
亡くなった、父親のことを。
静かにキララの手に俺の手を添えて、ゆっくりと外してやる。
それは柔らかくて小さな、いつも強く振る舞って、必死に父の後を引き継ごうと頑張っている女の子の手だった。

「おやすみ、キララ。」

俺は静かに部屋を後にする。

さて、それじゃあキララが泣かないように俺も頑張るとしますかね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/03/23(木) 15:19:50

発明なんばー22!


うっすらと目を開けた私の前には、見慣れた天井だけが映っていた。
体を動かそうとしても全く力が入らない。

・・・私、このまま死んでしまうのかしら・・・?こんなに苦しい思いをするなら、いっそその方が楽なのかもしれないわ・・・けど、きっとお父様やお母様は悲しみになられるわね・・・ああ、見えていた天井すらかすんできてしまった・・・誰かが開けていってくれた窓から差し込む風が、少しだけ体を―――


―――開いている?窓が?


そんなはずは無いのに、何故・・・?
普段ならともかく、どうして病に伏せっている私がいる部屋の窓を開けたままでいるの?そんなことが有るはずがない。ではどうして―――

‘ファサッ・・・・’

・・・今の音は?

必死に体を動かそうとしても、やはり指一本動かせない。
誰かを、呼ばなければ・・・ああ、声も出ない!何?一体、何がこの部屋の中に―――っ!?

ようやく、私は悟ることが出来た。
部屋の窓が開いていた理由。
何かの布が擦れるような音。
熱いほどの毛布ごと、一瞬で凍らせそうな恐怖が私を包む。

動けない私の横に黒い衣に身を包んだ仮面の何者かが立っていた。


「ん・・・ああ、微妙に意識があるのか。」
「あ、ぁ・・・・」
「喋るな。余計に体力を使うから。」

誰!?この人は一体誰なの!?ここはお城の4階で、扉の外には頼りになる兵の人達がいてくれるのに何故!?この人はここに立っているの!?

「ちょっと失礼するぞ・・・」
「っ―――!」

仮面の男の手がそっと私の顔へと伸びてくる。先ほどまでの死ぬかもしれないという恐怖を遥かに凌駕している感情が私の体を支配しているのが分かる。そして、それが私の体を硬直させているのも―――

いや・・・いや・・・お願いします・・・止めて・・・止めてっ―――!

――――ヒヤリ。

・・・え?
体は・・・何ともない。男の手のひらは、冷たいその手は私の額に添えられただけだった。でも、何故このようなことを・・・?

「よし、まだ大丈夫だ。心配するな、ちゃんと君は元気になれる。」
「え?」
「だから、すいませんが本当に少しだけ我慢してくれ。」

そうして男の手はそっと布団の中に―――って、ええ!?こ、怖くは無いけど、一体・・・な、何を!?

・・・え?
どうして、怖くないの?どうして・・・?
だって、知らない人間が突然部屋に入ってきて、そして私に触れているのに。
ひょっとしたら、この国の転覆を狙って、私を殺しに来たのかもしれないのに。
どうして、私はこの人に最初の恐怖を感じていないの・・・?

「怖がらせてごめんな・・・けど、きっと治してみせるから。」
「あ・・・ぇ・・・」

彼の手が持っている何か、どうやら濡れた綿のようなものが静かに私の腕をなでる。
そして反対の手で持ち上げた物は・・・何?小さな、細い筒の先に・・・針?

明らかに、それでのどを突けば死ぬというものを見せられても、私は不思議と落ち着いていた。

この人は、決して私を殺さない。

そんな根拠のない自信がわいてくるのは何故・・・?

「ちょっと、痛いかも。」
「ぅ・・・っ?」

彼が針で私の腕、先ほど何かの布でなぞっていた辺りを刺したのが分かった。

「うし・・・明日には、少しだけ良くなる。けど、動かずに寝ていた方が良い。出来れば何かしら柔らかい食物も取ると最高かな。」
「ぁ・・・ん・・・」
「後は・・・これ、飲めるか?」

彼が器に何かを注ぎ、私の口にそっと運ぶ。

トクトクトク・・・

のどに注がれたそれは、暖かく、不思議と戻そうとすることもなく私の中に入っていった。

「ん。とりあえず、これでいい。それじゃ、また・・・」
「ぁ・・・」

また?いいえ、そんなことよりあなたは一体誰な―――!?
何・・・この、感覚・・・?目が、開けて、ら、れ・・・な、い・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Iogng] 2006/03/27(月) 16:14:04

発明なんばー23!
いや〜、お姫様ってだけあって美人だったなぁ。
か細い声で何か言おうとするもんだから正直理性がやばかった・・・美女の寝姿に2度も耐えるとは、俺ってやれば出来る子!

「あらあらあら。レイさん、何だか嬉しそうですね。」
「・・・いや、もう驚きませんよ?」
「それは残念ですね。」

例の如くいつの間にか俺の後ろに立ってるミリアさん・・・あなた、ひょっとして忍者の末裔か何かですか?
さて、今日は昨日の分まで張り切って働いて――――

「レイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」
「うおっ!?」
「あらあらあら?」

び、びっくりした・・・階段からすんごい声が聞こえてきたし。
何?何故に朝からそんなに叫んでるの!?

「レイっ!」
「は、はいっ!?」
「あ、ああああああんた!あ、あたしの部屋に入ったわねっ!?」

えっと・・・何故にご存じ?だって昨日寝てたっしょ!?寝てたよね!?じゃあ何故にキララさんが私の行動をご存じなのでしょうかっ!?
いや、問題はそこではなく!

「い、いや、あれは・・・そう!お前が店で寝るからそれを運ぶために仕方なく―――」
「あんたが運んだわけ!?」
「は、はいっ!」
「つまりあんた、あたしを、そのっか、かかかか、抱えたわけねっ!?」
「だ、大丈夫!軽かったから!」
「乙女の秘密に容易く触れるんじゃなあああああああああいっ!」
「何じゃそりゃああああああ!?」
「あらあらあら、朝から仲良しさんですね。」
おお!そういや救いの女神がここにいた!
ミリアさんが頼んだと知れば、きっとキララも納得するよね!

「お母さんもどうして止めてくれなかったのよ!?」
「あらあらあら。だって、私じゃキララを運べないもの。レイさんに頼むのは当然でしょう?」
「・・・お母さんが、頼んだわけ?」
「そうそうそう!俺もちゃんと反対したぞ!?」
「けど―――」

けど?
えっと、何をおっしゃる気ですかミリアさん?

「その後、すぐに出かけたからレイさんがキララを部屋に運んだ後は知らないわよ?」

わあ、素敵。この状況を楽しんでるとしか思えない一言をありがとう。

「・・・つまり、例えレイがあたしに変なことしてても・・・」
「してないっ!」
「私にはばれなかったでしょうね。」
「更に誤解を招くようなことをっ!」
「じゃあどうして、あたしの服が半分ずれてたのよっ!?」
「それこそ知るかああああ!」
「これでも喰らええええええええっ!」
「お前、それは先がとがっ―――」



結論から言うと、単に寝間着じゃない服で寝たためにキララがむずがって着崩れただけと判明。
というか、俺がキララを運んで寝せるまでの過程はしっかりとミリアさんが確認していたらしい。
どこで?というツッコミはこの際しないでおこう。人間、知らない方が幸せなこともある。

「・・・ごめん。」
「いいよ・・・俺が、勝手にお前の部屋に入ったわけだし・・・」
「・・・はぁ・・・お母さんの馬鹿・・・」
「まあ気にするな。済んだことだし、もう忘れよう。」
「そうね・・・店も開けないといけないしね。」

まあ、実際は謝るのは俺の方かもしれんし・・・いかん。思い出したら顔が赤くなってきた気がする。
忘れろ!昨日のキララの姿と弱さは忘れてしまえ、俺!

「くうっ・・・俺の脳内記憶め・・・」
「いきなり何なの・・・?」
「いや、忘れたい記憶があって。」
「私の部屋の中の光景なら手伝うわよ?」
「むしろ、そこであったこと。」
「ちょっと!やっぱり何かしたわけ!?」
「お前がな。」
「・・・あたし、何かしたの?」
「だから思い出させるな。」
「ちょっと、何で顔が赤いのよ!?」
「お前が思い出させるからだろうが!」
「そんな顔されたら気になるでしょう!?」
「じゃあさせるなっ!」
「言いなさいよ!あたしはあんたに昨日の晩何をしたわけ!?」
「あらあらあら。2人とも。」
「何ですか!?」
「何よ、お母さん!?」
「お客さんの前ですよ?」
「「え―――?」」

俺はキララと全く同時に首を動かす。
そして、何というか予想通りの光景を見つけた。
ってか見つけたくなかった!

「そうか・・・君たちはそういう関係だったのか。」
「このお店がすごいのは愛の力だったのね。」
「愛のある店ヴェロンティエか・・・良い場所だな。」
「挙式はもう済んだのかい?」
「うぅっ・・・キララちゃん、悔しいけど幸せにねっ・・・」
「おのれレイ・キルトハーツ!我らがキララちゃんを奪った罪は重いぞ!」
「とりあえず、今日の注文は愛の炎で焼き上げたセトークを。」

うぐぁ・・・待て、待ってくれ。違うんだ。俺とキララは全くそんな関係じゃないんだ。
それに、途中の我らがキララちゃんって何?この世界にも美女の親衛隊なんてのが実はあったりするんですか?ひょっとして、俺は今そのブラックリストのトップに乗ったりしてますか!?

「えっと、キララ・・・」
「何よ・・・」
「この場は停戦といかないか?」
「激しく賛成だわ・・・とりあえず、もう店を開けましょう。」
「いや、誤解は解かなくて良いのか?」
「・・・今さら解けると思ってるわけ?」
「だよなぁ・・・」

結局、俺達はその日1日中、冷やかされながら仕事をする羽目になった。
キララの無言の圧力がものすごい怖かったです。いや、マジで。
ミリアさんは終始笑顔で俺達を見守ってるし。いや、半分以上はこの人のせいなんだよな。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-dVTml] 2006/03/30(木) 13:15:10

発明なんばー24!

「ありがとうございました。」
「ええ。2人とも、お幸せにね。」
「だから違うんですって!」
「またのお越しを。」

うぅ・・・同意の言葉すら入れてくれないと、ちょっと悲しいですよ、キララさん。
一緒に否定してくださいよ。もう俺一人だと限界ですって。
いや、もう今の人が最期のお客さんだけどね?

「はぁ・・・人の噂も75日・・・2ヶ月半って長いよなぁ・・・」
「何の話よ・・・」
「いや、気にしないでくれ。」

さてと・・・とりあえず、さっさと後かたづけと明日の準備を終わらせてしまおう。
まだ、彼女の‘治療’も終わったわけじゃないし。
とりあえず、昨日調合した薬をもう1回見直して―――

「ねぇ。」
「ん?」
「・・・本当に、何もしてないんでしょうね。」
「あのなぁ、お前まだそんなこと―――」
「『そんなこと』じゃないわよ!・・・大切な、ことなんだから・・・」

あ・・・そりゃあ、そうだよな・・・
下手すりゃ、襲ってたかもしれない男と1日中一緒に、しかも周りからは冷やかされながら仕事して・・・平気なわけ、ないよな・・・
俺は、そんな簡単なことにも気付かないで・・・うっわ、最低じゃねえか・・・

「あー・・・その、ごめん。」
「っ!?」
「い、いや!何かしたわけじゃないぜ!?た、ただ、その・・・お前の気持ち、分かってやれなくて、ごめんな・・・今日1日、ずっと嫌な思いさせっぱなしで。」
「・・・べ、別にそんなことは、いいわよ・・・」
「でも、本当に俺は何もしてない。あの、顔が赤くなったのは。ちょっとお前の無防備な姿思い出して、その、クラッと・・・」

ぐああああ!めっちゃ恥ずかしい!
けど耐えろ、俺!キララの今日1日の恥ずかしさと辛さはこんなもんじゃ無かったはずだ!だからこのくらい耐えて当然!

「あ、あと、お前がしたことってのは・・・」
「や、やっぱりあたし何かしたの!?」
「その・・・俺が、お前だっこして運んだせいだと、思うけど・・・俺の腕、掴んで・・・」
「つ、掴んで・・・?」
「『行かないで、お父さん』って・・・」
「・・・・え?」

くうっ・・・今、確実に俺はキララの弱い所に足を踏み入れた。
けど、それでもキララのためにも、これは言わなきゃいけない・・・
たとえ俺がどうなるとしても、キララは知るべきだ。自分の弱い所をこんな男に、俺という居候で気の利かない最低な男に見せたことを。

「それを、あたしがしたってこと・・・?」
「・・・そうだ。」
「あたしが、そう言ったわけ?」
「その・・・すまん、勝手に、聞いちまって・・・」
「・・・‘それだけ’なの?」
「そう、それだけ・・・って、はい?」

えっと・・・今、この人は『それだけ』とおっしゃいましたか?

「あの、それだけって・・・だって、お前にとって、これって弱さだろ?そう簡単に他人に見せていいもんじゃないだろ!?それを俺は見たんだぞ!?」
「あのねぇ、そりゃ確かにあんたの言うことは正しいけど・・・1つ忘れてない?」
「忘れてるって・・・何をだよ?」
「あんた、あたしにとって‘他人’なの?」
「・・・え?」
「あんたが来てくれたおかげでこの店はここまで盛り上がったわ。あんたのおかげであたしはたくさん笑えるようになったわ。あんたのおかげであたしは自分の思うことをたくさん叫べるようになったわ。」
「キ、ララ・・・?」
「この前は聞いてなかったみたいだから、改めて言ってあげる。あたしは、あんたに感謝してるのよ。本当に助かったと思ってるし、あんたさえ良ければここに居て欲しいとも思ってる。だから、2度とあんたがあたしにとって‘他人’だなんて思わないで。」

少し怒ったような顔を俺から背け、多分照れくさいのだろう、その赤く染まった頬の中からキララは言葉を続けてくれる。



「あんたはこの店の料理人で、あたしの・・・新しい‘家族’なんだからね。」



あ〜・・・本当に、俺って格好悪いというか、情けないというか・・・
この意地っ張りで強情で、本当に強いこの女の子からここまで言ってもらってようやく気付くなんて・・・マジで情けねぇ・・・

「・・・そうだな、ごめん。」
「そうじゃないでしょ?」
「あっと・・・ん、ありがとう。」
「よろしい。」
「ははっ・・・」
「・・・な、何よ?」
「いや、何となく楽しくなってな。そっか、家族か・・・」
「そう、家族よ。」
「あらあらあら、家族ですか。」
「うおおおっ!?」
「きゃああっ!?」

こ、今回は本気でビビった!というか、ひょっとして今の恥ずかしいやり取り全部聞かれてた!?マジで!?

「うふふふふ。キララも言うようになったわね。」
「い、いいいいつからいたの!?」
「それだけなの?の辺りからかしら。」
「ほぼ全部ですか!?」
「家族ということは、私が母親、キララが娘ですから・・・レイさんは婿養子ということになりますね。」
「はいっ!?」
「私のことはお義母さんと呼んでください。」
「お母さん、何言ってるの!?」
「キララ。」
「な、何?」
「あなたの子どもには私のことみーちゃんと呼ばせなさい。」
「子どもって―――っ!?」
「レイさん、娘をよろしくお願いしますね。」
「頼まれませんよ!?」
「早速町の人達に手紙を書かないと。2人が結婚するって。」
「「書くなっ!!」」

何というか、今回ばかりは本気でこの人を止めないと俺は元の世界に帰れそうにない。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-gSQhe] 2006/03/31(金) 22:06:54

発明なんばー25!


結局、ミリアさんをなだめ終わる頃には辺りは真っ暗だった―――
本当にあの人だけは実態が掴めない・・・大体、あからさまな偽名を使う謎多き男に自分の娘をどうしてやれるんだ・・・
いや、別にキララをどうこう思ってるわけではない・・・と、思う。
だって、あんな真剣な目で家族だからとか言われたら、誰だってグラリとくるよ!?それが美女ならなおのこと!とりあえず、恋にはなってない・・・ってか、なったらヤバイけどね!
まあ、今の段階では‘仲間’って言う方がしっくり来るかな。

「ふぅ〜・・・ちょっと熱いな。」

さて、遅れながらに今の俺の状況確認。
道の傍らで見つけた動物の頭蓋骨の模型を利用して作った仮面。
その辺に落ちてた布を染めて作った真っ黒マント。
で、色々と取り扱い注意な薬品。

もちろんこんな格好で舞踏会に行くわけではない。いや、お城には行くが。
正規の手順も踏まずに、夜中の闇に紛れてこっそり侵入という犯罪ものの行動である。
しかも、最悪な場合には部屋で衛兵さんに待ち伏せされてる可能性もある。昨日はどうやら姫様も起きてたし。
まあ、夢だと思ってくれてれば一番なんだけどなぁ。

とか考えてる間に姫様の部屋の真下に到着〜。
ここから姫様の部屋がある4階まで行くのは普通なら登山道具が必要なのだろうけど、今の俺にはそんなものは一切必要ない。
何せ、俺の今の垂直跳びは4〜5メートルである。所々にある段差を利用しさえすればあっという間に到着できる距離だ。

「よっ、と・・・・」
「こんばんは、仮面のお人。」
「ん、こんば―――!?」

うおう!?いきなりばれた!?
ちょっと待って!確かに姫様の部屋には入ったとこだけど早すぎ!いかん、速攻で逃げ出さないとキララ達に迷惑が―――

「お待ちください。」
「え?」

って、よく見たら部屋の中に誰もいない?いや、よく見ると1人だけいた。
ベッドの上に上半身だけを起こし、美しい紺色の髪を風に流しているお姫様が。

「やはり、夢では無かったのですね。」
「ん〜・・・まあ、な。」
「警戒しなくてもこの部屋には私以外おりませんわ。」
「いや、俺もいるけど。」
「ああ、そうですね。けど、衛兵達は外に出ています。小声でのお話ならばできますわ。」
「あ、そう?そりゃ好都合だ。」

大声を出す一瞬の間に逃がしてもらえるしね。

「さてと・・・とりあえず、勝手にここに入った無礼を謝っておくよ。」
「いえ、そんなことは必要ありません。」
「女の子の部屋に勝手にはいると大変な目に遭うって分かってはいたんだがな。」
「・・・そこ、ですか。」
「まあ、その辺りは病気を治すのと引き替えってことで勘弁してくれ。」
「・・・やはり、あなたが私を?」

ここまで来れば予想が付くだろうが、俺の3大スキルの2つ目は‘医術’だ。
何故俺がそんなものを知っているかというと・・・・思い出すのは止めよう。ちょっと身震いがする。
とりあえず、俺の医術は半端じゃない。その気になれば簡単な手術だって出来る。
最も、俺の専門は内科に近いわけだが・・・この場合は、姫様の病気の原因であるウィルスを弱めてしまう薬を調合し、注射したわけだ。よくもまあ材料が揃ったもんだと我ながらビックリ。

「だけど、まだ完全に治ったわけじゃないから・・・布団に入っとけ。」
「はい。」
「・・・素直なもんだね。」
「そうですか?」
「いや、して欲しい訳じゃないがどうして助けを呼ばない?見も知らぬ男が、君の部屋に勝手に入ってきて、さらに得体の知れないことをやってるんだぞ?」
「・・・何故、でしょうね・・・私にも、分かりません。」
「え?」
「けど・・・昨晩、あなたの声を聞いて・・・あなたは、きっと私を助けてくれると、そう感じたからでしょうか・・・変ですよね・・・」
「やれやれ・・・国民達に好かれるわけだ。」
「ありがとうございます。」
「ま、そんだけ喋れれば思ったより薬は効いたみたいだな。これなら今日の薬は飲むだけで良さそうだ。」
「あ、あの・・・どうして、私を助けてくれるのですか?」
「理由?いや、ただ単に君に死なれたら泣くやつが多くてな。そんなの見たくないから助ける。それだけだ。」
「あなたは、それで何を得るのですか・・・?」
「何も。」
「・・・何、も?」
「ただ働きだな。けど、それもいいだろ?」
「そ、それでは私が何か―――」
「はい、ちょっと待った!」
「え?」

そう。ここからが本題である。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-bRPon] 2006/04/01(土) 19:44:25

発明なんばー26!


ぶっちゃけると、この姫様のかかっていた病気の原因たるウィルスは確かに毒性が強い。
だが、人間の持つ免疫に対してはさほど強くないのだ。
正直な話、普通に過ごしてる人間がこの細菌にやられることはほとんど無い。だが、体内免疫が正常に機能していないと、この細菌は途方もない強さを発揮する。

「えっとだな。今回はすぐに治すことが出来たが・・・正直、またいつ発病するか分からない。」
「そう、なのですか?」
「ん。その原因は―――君自身だ。」
「・・・私、がですか?」
「ああ。俺さ、いろんな人に話を聞いたけど・・・君、笑顔がとっても素敵ってのばっかり聞いてるんだよな。」
「は、はぁ・・・」
「こういう言い方は良くないけど・・・君、人形みたいだぞ?」
「な―――」
「笑顔、笑顔、笑顔。じゃあ、君泣けるのか?怒れるのか?微笑みじゃなくて、爆笑できるのか?」
「そ、そのくらい―――」
「国民の前で。」
「・・・・」
「出来ないよな。いつも笑顔で国民を安心させるのが、君の仕事だからな。」

けど、それではダメだ。
自身の感情を抑制し、無理矢理に他の感情に置き換えるたびに心と体はすり減っていく。まるで、歯車の歯を1本多めに作った機械のように。
そんなものがいつまでも保つはずがない。その先に待っているのは崩壊という名の死である。

「君は姫様だからな・・・国民も、王も、后も、みんな君にそれを望んでいるし、それに答えようとする君も正直すごいよ。俺にはとてもじゃないけど真似できない。けどそうやって自分を抑えて壊していけば、君の体は釣り合いが取れなくなっていく。ちょうど今回の病気がいい例だ。」

そう。今で言うストレスが今回の病気の原因。
姫という重圧に負けないようにと必死に顔を上げ、笑顔をふりまいて、そしてつぶれてしまったのだ。
じゃあ、どうすればいいのか。
その答えは・・・正直、賭に近いかも。

「では・・・では、どうすればいいのですか?私は、自分の名に誇りを持っています。自分の立場に誇りを持っています。笑うだけで、人に希望を与えられることに誇りを持っています。それを、止めることなど―――」
「止めなくていいよ。」
「・・・つまり、私に倒れるまで笑っていろと?」
「何故そうなるんだよ?もっと簡単な方法だって。君が姫だろいう重圧を抱えるために必死だっていうなら、それを楽にしてくれる存在だっているさ。」
「・・・楽にしてくれる存在、ですか?」
「そう。・・・君、同じ立場の友人っていないか?」
「え・・・そ、それは、いませんが・・・」
「ん。それが根本的な原因だ。君を姫様としてでなく、ただの女の子として、ただのリリアとして扱ってくれる友人。そんなやつがいれば、そんなやつと出会えれば、そんなやつと一緒にいれば、きっと君は自由に泣ける、怒れる、爆笑できる。」

ぽかんとした顔のリリアに向かって、俺は更に言葉をつなぐ。
この言葉はは、今日のキララから受け継いだと言ってもいいかもしれん。

「まあ、ここにいたらそう簡単にはいかんからな・・・だから、その・・・」

キララが見せてくれた勇気を振り絞って、俺は右手をリリアに差し出す。



「姫様・・・じゃない、リリア。俺と、友達になろう。」



「・・・私と、友達に・・・?」
「あんたが怒りたい時は、俺も怒ってやる。泣きたい時は俺も悲しんでやる。笑いたい時は、俺も一緒に笑ってやる。そういう相手、欲しくないか?」
「・・・あ・・・れ?」

リリアの瞳から、ゆっくりと大粒の涙が零れだした。
それはお姫様としてでの涙でなく、純粋な、優しい女の子の涙だった。

「あ、れ・・・へ、変です、ね・・・悲しくない、のに・・・な、涙が・・・」
「悲しくないっていうなら俺も嬉しいがな。」
「嬉しい・・・はい、嬉しい、です・・・私も、欲しいです・・・友達、が・・・」
「よっし。そんじゃ、俺の名前なんだけど・・・。」
「あ、ま、待ってください。」
「ん?」
「そ、その・・・本名じゃなくて、構いません。」
「え、何でまた?」
「それは、その・・・本名だと、あなたを探したくなってしまうので・・・」
「なるほどね。それじゃあ・・・‘ファントム’ってことで。」

仮面とマスクから連想された謎の人物と言えばこれしかない!

「はい。ファントム様ですね。」
「『様』はいらんが・・・ま、そこは自由だな。俺はリリアを姫とは呼ばない。俺にとってリリアは姫じゃないからな。」
「はい。」
「と、言うわけでリリア。」
「はい、何でしょう。」
「薬を飲んで寝なさい。」
「え・・・」
「心配すんな。ちゃんと明日も来るから。」
「あ・・・は、はい!」

うう。可愛いええ子や・・・
ひとまず、これでリリアの治療は完了だな。まあ、明日から昼はレイ、夜はファントムという二重生活が始まるわけだ。
かなり大変かもしれんが・・・今日の2人の笑顔と等価なら安いもんだと思える俺は、ちょっと馬鹿かもしれん。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/04/04(火) 23:58:09

発明なんばー27!



あたしの朝は、まず大きな伸びをすることから始まる。
そのままさっさと服を着替えて、次に急いで調理場に下りる。
以前ならそこはあたし一人の仕事場だったわけだが―――

「ん?おはよう、キララ。」
「おはよう。あんた、髪型すっごいわよ?」
「げ・・・直せたはずなんだがなぁ?」
「全くもって意味がなかったわね。」

今は違う。
もう、朝起きてくれば、調理場には大抵こいつが早く来ている。
知らない場所の知らない料理を作る本名すら知らない男。
でも、あたしはこいつを、まあ信頼している。

「時にキララ、今日の予定なんだけどさ。」
「何よ?」
「ああ。午前中は店を閉めといて、午後からにしないか?」
「は?何でまた急に?」
「ああ。ほら、以前作ったハンバーガーがあったろ?あれで城の衛兵さんから大量注文が入っててな。」
「それを配達しないといけないの?だったら午前中はあたし一人で―――」
「いや、毎回毎回配達してたらお前が大変だろ?だったら、いっそ城の人間に取りに来て貰えないかと思ってな。」
「それは良い考えだけど、城の人達の労力が増えるだけよ?」
「ん。配達に関してはラルフのおっちゃんがやってくれるそうだ。」
「だとすると、あたしが出向いて打ち合わせ・・・ああ、そのための午前中休み?」
「そうそう。」
「あたしは構わないけど、一応お母さんの許可も―――」
「構いませんよ?」
「・・・だそうだ。」
「なら、決定ね。」
「あらあらあら、2人とも反応に乏しいわね。」

いい加減に慣れたわよ・・・全く、本当にこれでも一児の母なのかしら?町中を歩いてても、たまに姉妹に見られるのだからたまらないわね。

「あ、ミリアさん。昨日仕入れた材料なんですけど―――」
「レイさん。私のことはお義母さんと呼んでくださいと言ったでしょう?」

な・・・まだ諦めてなかったの、この母は!?

「まだ続けるんですか、それ・・・」
「一度、息子が欲しかったんです。」
「再婚してください。」
「もうこの年ですから。」
「「その顔で言うの!?」」

全く、相変わらずだわ・・・この母から自分が生まれたなんて、未だに疑問に思ってしまうわね。
それにしても、どうしてこいつと結婚させようとするのよ・・・まあ、別にレイが嫌いなわけじゃないけどね。いや、むしろ・・・
って、あたし今何を考えた!?だめだわ!いつの間にかお母さんに洗脳されかけてる!?大体、あたしまだ16才なのよ!?結婚なんて今まで考えたこともないっていうのに!それに結婚以前にちゃんとしたお付き合いってものが―――
だから、そうじゃない!

「ああ、もう!レイ!さっさと行くわよ!」
「え、何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってない!レイの馬鹿っ!」
「いや、それは怒ってるだろ!?」

う〜・・・まともに顔も見れないなんて!これじゃあまるで恋する乙女じゃない!あたしがそんな可愛い人間なわけないってのに!
第一、昨日あたしはこいつに‘家族’と言ったんだから!それが全て!はい、終わり!



「お〜い、おっさん!」
「ん?おう、レイか。それで、どうだ?」
「詳しいことはキララと話して決めてくれよ。」
「えっと、あなたがラルフさん?早速だけど、話に入って良いかしら?」
「おう。必要な量と用意して欲しい時間とかは言われたとおりに事前に調べといたぜ。」

ふむ・・・中々詳しく書かれてる。って、‘言われたとおり’って言った?誰に言われて―――いや、考えるまでもないわね。そもそも、レイが連れてきたんだから。
さてと・・・合計総数60個か・・・これくらいなら朝の時間で用意できそうだわ。それに、時間帯的にも店を開けて客が一度途絶える時間帯になってるし。温かい料理が届けられそうね。

「えっと、運ぶために使うのは?」
「ああ。城のやつに掛け合って荷押し車をきれいにしてもらった。」
「それなら問題ないわね。後は・・・って、レイ?」
「ん?」
「何を見てるわけ?」
「いや、あそこ。」
「え?・・・・あ、姫様じゃない!」
「元気になったみたいだな。」

あたしが見上げた先には、いつも通りの笑顔でこっちに手を振る姫様がいた。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-tfVid] 2006/04/09(日) 11:03:44

発明なんばー28!
「姫様、元気になったみたいで良かったわ。」
「そうだな。」
「けど、結局何の病気だったのかしら?」
「さあ?けど、治ったんだからいいじゃねえか。」
「それもそう―――って、あれは?」

城からの戻る途中、あたしの目の前には見知った姿が2つ。
後ろ姿だけど、学校時代からの友人なのだ。見間違うわけがない。ただ、問題は―――

「あれ、マリスさん達じゃないか?」
「みたいね。」
「絡まれてないか?」
「みたいね。」
「さて、ここで問題です。」
「何?」
「今、あなたの友人が柄の悪い男2人に絡まれています。ここであなたが取るべき行動は次の内どれでしょう。1、お店の遅刻覚悟で助けに入る。2、お店を優先させて見捨てる。3、2人を掴んで急いで逃げる。けど、多分捕まる。」
「それじゃあ4。」
「つまり?」
「あの男共を速攻でぶっ飛ばして、急いで店まで帰る。」
「なるほど良い考えだ。けど、誰がぶっ飛ばすんだ?」
「店先にある果物を片手で握りつぶせるような男がいれば良いのにね。」
「・・・いや、言うと思ったけどな。」

だったら、変な問題を出す前に行ってくれたっていいじゃない。少なくとも、レイがいればあの程度の連中に悩む必要はないんだから、こういう時にはとても心強い。
いや、ちゃんと他の部分でも頼りにはしてるんだけどね?

「それじゃ、行きますかね。」
「分かってるとは思うけど、速攻で終わらせてよ。」
「へいへい・・・」

レイが歩き出すのを見て、あたしもさっさと後に続く。
遠巻きに見ていた人達もレイとあたしの存在に気付いたようだ。ってか、遠巻きに見てるだけなら助けてあげなさいよね!全く情けない!

「いや、だから〜・・って、キララ!?」
「ん?あら、本当。」
「あぁ?何だお前ら?」
「えっと、単刀直入に言うぞ?その子達俺の知り合いなんだ。悪いけど止めてくれないかな?」
「と言うか、さっさと消えて。」
「な、何だとおま―――」
「はい。交渉決裂な?」
「え?」

ドゴッ・・・・

相変わらずすごい馬鹿力ね・・・人一人をあんだけ殴り飛ばすなんて。本当にこいつはこの世界の人間なわけ?
もう一人は既に戦意喪失か・・・そりゃあ、こんな人間と戦うくらいなら土下座した方がましと思うでしょうね。

「というわけで、さっさと相方連れて帰ってくれ。今すぐに。」
「し、失礼しました〜〜〜!」

わ〜、逃げてった逃げてった。うん。予想より速く終わったわね。これなら歩いても開店までは間に合いそうだわ。

「大丈夫だった?」
「いや〜、助かったわよキララ。あいつ達しつこいったらなくってね〜。」
「全くね。しつこい男は嫌われるって知らないのかしら?」
「知ってる程、学のある男には見えなかったけどな。」
「それは言えるわね。久しぶりね、レイ君・・・だっけ?」
「ん、正解。君たちは・・・まるとさんとふぉりすさん、あれ、何か違うか?」
「ああ、惜しい!けど違う!私はフォルトよ!フォルト・ラインクル!」
「改めて自己紹介ね。私はマリス。マリス・インベルグ。」
「えっと、俺は・・・まあ、覚えてるみたいだけどレイ。レイ・キルトハーツだ。」
「ってか、レイ君すごくない!?何!?今の拳は一体何だったの!?」
「確かに、人間の力じゃ無いわね。」
「そこはあたしも疑問だけど・・・それよりレイ、早く行かないと店に遅れるわ。」
「ああ、そうだった。」
「あ、ちょうど良かった。あたし達も今からヴェロンティエに行こうと思ってたのよ!」
「そうだったの?」
「ええ。姫様が元気になられたから休みが貰えたのよ。」
「やっぱり元気になられたのね。」
「本当よ〜。歩きながら話さない?」

それもそうだ。どうせなら移動しながら話した方が効率もいい。それに姫様が元気になる過程にも興味はあるし。
そうと決まればさっさと行かなきゃ。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-RJFcb] 2006/04/09(日) 11:16:22

発明なんばー29!

「それで、誰が姫様を治してくれたの?」
「うん。それについては驚くことにさぁ。2日前の朝なんだけど、侍女の一人が姫様の部屋に入ったら、何と既に自分で起きあがってたらしいのよ!」
「前日までは確かに寝たきり、自身の力では声すら満足に出せなかったらしいのにね。けど、実際に一晩で姫様は起きあがり、おはようと挨拶まで出来るようになったわけ。」

へえ・・・そんな奇跡みたいなことが実際にあるなんて、世の中捨てたもんじゃないわね。

「それで、今朝になったらもう完全回復。立ち上がって着替えも出来るようになったのよ。」
「王様なんて涙流して喜んでたしね。」
「まあ、気持ちは分かるわね。」
「そっか、元気になったか。とりあえず、安心していいみたいだな。」
「そうね。これで安心して―――って、あんたが不安になる理由はどこにあんのよ?」
「え?いや、やっぱこの国に住んでる以上は平和が一番だなと思ってな。」
「ああ、そういうことね。」
「そう言えば、レイ君はどうしてヴェロンティエで働いてるの?」
「え?」
「だって、あなたが来た頃は、ヴェロンティエって無名に等しかったはずよね。なのに、どうして?」

お母さんが道に迷ってたコイツをいきなり連れてきて、そのまま居着いた・・・何か、今になって考えてみるとすごい成り行きね・・・まあ、レイの料理のおかげで店は以前みたいに活気を取り戻したし、あたしの家での仕事も減って楽になってるし。文句は無いんだから良いけど。
いや、むしろ文句どころか感謝しなきゃいけないくらいよね・・・

「ああ、それは―――」
「やぁねえ、マリス。そんなの決まってるじゃない。」
「へ?」
「何でフォルトが断言してるのよ。」
「レイ君がヴェロンティエにいる理由・・・それはひとえに‘愛’のためよっ!」
「はあっ!?」
「何ですって!?」

ちょっと待ちなさい!今、この友人は何と言った!?愛!?誰が!誰に!?

「職を無くし、途方に暮れてたレイ君。そこに現れたキララはコップ1杯の水を差し出して言うの!『うちに来ませんか?食事くらいなら出しますよ?』と!その優しさに惹かれたレイ君はその手を取ってお礼を叫ぶ。『このお礼は俺が稼ぎます!』そうしてレイ君の活躍によって客を手に入れたヴェロンティエ。しかし、レイ君はもう自分の役目は終わったと去ろうとする!その後ろ姿に切なくなり、駆け寄って背後から抱きしめるキララ!『お願い!あなたの力を私の店に貸して!』そんなキララの手に自分の手を添えてレイ君は言うのよ!『ダメだ。ここにいては君に迷惑をかけてしまう。』と!そんなレイ君にキララは涙を流しながら『いいえ。あなたがいない方が私には耐えられないわ!』と思いの丈を打ち明けて―――」
「ちょっと!フォルト、あなた何を!?」
「レイ君は止めなくていいの?」
「いや、いっそここまで来ると、どこまで続くのかな〜と思って。」
「無限に続くわよ?この子、この手の話大好きだから。」
「それは困るな・・・」

後ろで何かレイとマリスが和んでるけど気にしてる場合じゃない!
愛って、あたしとレイの愛!?そんなもんがどこから出てくるのよ!いや、別にレイが嫌いってわけじゃ―――いや、そうじゃなくて!そもそもレイをうちに連れてきたのはあたしじゃなくてお母さんよ!?確かにおかげで客は来たし、力も貸して貰ってるけど、そんな3流の恋愛小説みたいな甘いお話は一度たりとも無かったわよ!べ、別に期待もしてないけどね!大体、前提条件がおかしい!

「あたしは!レイのことを!そんな風には!見てないっ!」
「まあまあ、落ち着けキララ。これはこれで面白いから。」
「面白くないわよっ!」
「後、そんな断言されると男として傷つくから。」
「な―――」

い、いきなり何を言うのよコイツは!?

「し、知らないわよっ!そんなことっ!」
「そうそう。どんな子にでも女の子に恋愛感情無いって言われると男は傷つくのよね。」
「どうしてマリスさんには分かってるのか聞いていいか?」
「色々と経験してるから。」
「大人の発言をありがとう。」
「そこっ!いい加減にこの場を収めるのを手伝いなさいっ!」
「この場って・・・もう店の前だが?」
「え?」

見上げた先には、確かに見慣れたうちの看板。
どうやらフォルトの妄想に付き合ってる間にここまで来てたらしいわね・・・と言うか、そんなことにも気付かないほどあたしも夢中になってたの?うっわ・・・顔から火が出そうだわ。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/04/12(水) 20:58:45

発明なんばー30!

「あらあらあら、お帰りなさい。思ったより早かったわね?」
「ただいま帰りました。」
「ただいま。後、客を2人連れてきたわよ。」
「そんな紹介はないんじゃない?」
「あら、フォルト。やっと戻ってきたの?」
「あらあらあら。フォルトちゃんにマリスちゃん。2人ともきれいになったわね。」
「ありがとうございます。ミリアさんは・・・お変わりなく。」
「相変わらずの謎の若さですね・・・」
「あらあらあら、誉めても何も出ませんよ?」

ふっ・・・マリス達もやっぱり半分くらいあきれ顔よね。いや、確かにこの母親の姿はあたしが生まれてから全く変化無いしね。

「それで、2人は今日はどうして?」
「ええ、噂を聞いて是非―――」
「まあ、お手伝いをしたいって言ってくれるの?」
「え?」
「あの、ミリアさん?」
「あらあらあら、本当にいいの?悪いわねぇ、ちょっと待っててね。確か女性用の制服はキララの予備がいくつかあったはずだから。」
「あ、あの私達は―――」
「止めなさい、フォルト。こうなったら何を言っても無駄よ。」
「う〜ん・・・何か、俺がここに連れてこられた時と同じような感覚が・・・」

そう言えばレイが来た理由はお母さんの思いこみと言うか、身勝手さが原因だったわね。
その思いこみに、今また私の友人2人が飲み込まれていく・・・いや、フォルト。そんな目をされても、あの状態のお母さんは私にも止められないわよ?知ってるわよね?

「大丈夫、ちゃんとお礼はするわよ。」
「うぅ・・・休みだったのに・・・」
「ミリアさんがいることを忘れてたわね・・・不覚だわ。」
「とりあえず料理人2人、給仕2人、お勘定1人だな。」
「あたしが給仕をしなくていいなら、少しは回転が早くなるわね。」
「まあ、お城よりかは楽よね・・・」
「そうね。あっちじゃ休む暇もないから。」

ちょっと待ちなさい、2人とも。あたしの店をなめてるの?休む暇がない?冗談じゃないわよ。
あたしが声を出すのと、レイがつぶやくのは同時だった。

「「立ち止まる暇もないわよ。(ぞ。)」」




「お〜い!こっちにすぱげってぃ、だっけ?まだか〜?」
「あたし達の方にははんばーぐが来てないわよ〜!」
「僕もはんば〜ぐっ!」
「はいはい、ただ今〜!」
「すいません、お水はどこですか?」
「はい、あちらの樽からご自分でお願いします。」
「レイ君!らあめんとはんばあぐが二つ追加だって!」
「マジっすか!?」
「キララ、ユクモスとテコヤハは?」
「えっと、ユクモスはちょっと待って!テコヤハはそこの棚っ!」
「お〜い、嬢ちゃん。キロウはまだか?」
「さっき届けませんでした!?」
「あ、悪い。おまけかと思って俺が間違って食った。」
「作り直しなわけ!?」
「レイ君。ハンバーガーを持ち帰りたいって人が3人。」
「俺の後ろにある包みを3つ!」
「2つしか無いわ。」
「じゃあ売り切れ!謝っといてくれ!お代は1個分でいいから!」
「キララ〜!もうだめ〜!」
「頑張りなさいよ!」
「あらあらあら。みなさん大忙しですね?」
「「「「だから椅子に座って休まないでくださいっ!!」」」」



・・・予想外だったわ・・・
まさか、渡すまでの時間の短縮のおかげで逆に客足が増えるなんて・・・集客率が、今までの倍にまでなったわよ?
だめだわ・・・もう動けない・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/04/13(木) 21:04:31

発明なんばー31!

「うぅ・・・キララ、あたしは今、あなたとの友情を切るべきか、真剣に悩んでる・・・」
「フォルトに一票だわ・・・お城の方が、まし・・・」
「これを毎日続けるあたしの身にもなってよ・・・」
「あらあらあら。そうやってだれてると、可愛い顔が台無しですよ?」
「ミリアさん・・・死にそうです〜・・・」
「休みだったのに、まるで祭典みたいだわ・・・」
「その辺は、ほんとごめん・・・」
「ところで、レイさんは?」

レイ?そう言えばいない・・・さっきは厨房にいたけど・・・何やってたのかしら?
とか考えてたら現れたわね。何か両手に持ってるけど・・・

「お疲れ様。あと、フォルトさんとマリスさんはありがとう。これは俺個人からの、まあお礼ってことで。店にも出てない特別料理だ。」

へぇ・・・何かしら、これ?

「ちょっと苦労したけど、作れるもんだな。パフェっていうんだ。今の状況なら間違いなく美味く食えるだろ。」
「きれいな色・・・いただきます。」
「私も、お言葉に甘えて。」
「・・・私の分は?」
「ああ、今から運んでくる。ミリアさんもいかがです?」
「ええ。お願いします。」

ほどなくして運ばれてきたぱふぇとやらは、確かにきれいだった。
さじで一口すくい、口に運ぶ。

「!甘い・・・それに、冷たくておいしい・・・」
「この白いの何かしら・・・柔らかくて、舌の上でさっと溶ける・・・」
「う〜!こ、これ美味しいよ〜っ!」
「あらあらあら。手が止まりませんね。」
「ま、本来は間食に食べるもんだから腹はふくれないけど。疲れてる時には甘い物が一番って言うしな。気に入ってくれた?」
「いや、最高よ!これなら毎日でも食べれそ〜!」
「確かに、今日の苦労が報われるような美味しさね。」
「今、これを店に出したらという恐ろしい考えを浮かべたんだけど?」
「おそらく、昼食後のわずかに客足が衰える時間すら無くなるぞ。」
「女性なら誰でも飛びつく甘さですね。」

あたし達はあっという間に目の前のパフェを食べ尽くした。
いや、まさか料理人たるあたしの腕を止めさせることなく食べさせるとは・・・本当にレイの腕は底が知れないわね。
どうやらマリス達も満足したみたいだし、これならいつかまた手伝ってくれそうだわ。

「レイ君・・・聞いていいかしら?」
「ん?作り方は秘密な。」
「そうじゃなくて・・・お城で料理を作ってみない?」

・・・ちょっと待ちなさい、この友人は何と言った?

「あのねぇ、よりにもよってあたしの前でうちの料理人を勧誘するなっ!」
「いや、そういう意味じゃないわよ。ただ、このパフェを姫様にも食べさせてあげたいと思ったの。それだけよ。」
「あ〜・・姫様、甘い物好きだもんね。」
「今まで病気だったから、好きな物も食べれなかったし。あたし達からの快気祝いということで作って欲しいの。」

なるほど。そういうことなら話は分かる。
けど、今の言い方でそういう風に取れってのは無理でしょう!?一瞬、本気で慌てたわよ!
・・・って、何を慌てたのよ、アタシは?レイがいなくなること?ここから?例えいなくなっても、別にもう充分なほどに客は定着してるのに?じゃあ、どうして慌てたの?いなくなるから・・・ここから?ヴェロンティエから?・・・あたしの側から―――っ!
やばい!本気でやばい!本格的にお母さんとかの思考があたしを乗っ取り始めてる!
これじゃあ、これじゃあまるであたしが―――

「――ララ、キララって!」
「えっ!?って、わあっ!?」

び、びっくりした・・・何でいきなり目の前にレイがいるわけ!?

「な、何よ!?」
「何よって・・・話、聞いてなかったの?」
「だから、レイ君にお城で作ってもらうためには、上司っていうかキララの許可が必要でしょ?」
「俺は別に構わないけど、キララはどう思う?」
「あ、ああ・・・ごめん。あたしも、構わないわよ。ただし、あたしも一緒に行くけどね。」
「別にレイ君を取ったりしないわよ?」
「誰がレイをマリスに取られるのが嫌ですって!?」

別に、別にあたしはレイが好きってわけじゃない!ただ、貴重な戦力がいなくなるのは痛いってだけで・・・あれ?何故にそんな驚いた顔で見てるの?

「いや、私はただ、レイ君をお城で働かせるわけじゃないって言いたかったんだけど・・・」
「え?」
「キララったら〜、何を想像しちゃったのかしら〜?」
「ふむ・・・ミリアさん。どうして満面の笑顔なんですか・・・」
「そうですね。ようやくキララが自分の気持ちを――――」
「あんた達はっ・・・いい加減にしろおおおおおおおおおお!!」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Dnfup] 2006/04/14(金) 21:02:39

発明なんばー32!



「それじゃ、あたしは2人を送っていくから。」
「ん、気をつけろよ。」
「それじゃ、レイ君。また明日。」
「迎えに来るから、お店を開けてちゃだめよ。」
「それはミリアさんに言ってくれ。」
「大丈夫ですよ。また来てくださいね。」
「「客としてなら。」」

苦笑する2人を連れて、あたしはさっさとお城の方に歩き出す。
全く・・・未だに顔が赤いような気がするわ・・・

「ところで、キララ。」
「何よ。」
「キララ、自分が学校で男の人に結構好かれてたの知ってる?」
「そりゃあ、何回か告白もされたから気付くわよ。」
「それじゃ、その全部の男に対してあまり感情を表に出さなかったことは自覚してる?」
「・・・そうだったかしら?」
「そうね。断る時も、丁寧に、けどあっさりと断ってたわね。」
「どうしてその時の様子をマリスが知ってるのかは聞かないでおいてあげるわ。」
「ありがと。それで、話を元に戻すけど・・・正直、私達もキララはきっと男に対してはそれが素なんだろうなって、思ってたわ。」
「けどさ、レイ君と居る時のキララって最初に会った時から思ってたけどすごい楽しそうだよ?」
「え・・・?」
「キララ。正直な話、キララは認めたくなさそうだけど―――」

ちょっと、ちょっと待って!それ以上は言わないで!
いつものからかい口調でもないのに、そんな真剣な目で言われたら・・・もう、もうごまかしが―――ん?何を、何をごまかしてるの・・・?いや、分かってるけど、分かってるんだけど!それを口に出したら、本当にやばいんだってば!



「キララ、本気でレイ君に惚れてるんじゃない?」
「っ―――――!」



・・・そんなこと・・・そんなこと・・・

そんなこと・・・‘分かってる’わよ・・・

たった、本当にたった数週間の間にあいつの存在がすごいあたしの中で大きくなってくのが分かってた。

最初は、手伝ってくれて嬉しくて・・・

一緒に暮らし始めてからは、厨房であたしを待っててくれるのが嬉しくて・・・

お母さんがいなくても、声を出せば返してくれる存在が嬉しくて・・・

あたしを、頑張って支えようとしてくれてるのが嬉しくて・・・

家族、って言った時のあの笑顔が嬉しくて・・・

今はもう・・・

レイが、あたしの側にいてくれるのが何よりも嬉しくて・・・

これが、人を好きになる―――お母さんに向ける好きとは違う、恋っていうものだって分かってる。
けど認めてしまえば、レイと今まで通りに接することが出来ないから、もっと側にいたいと願ってしまうから、隣にいることを強制してしまいそうだから・・・

レイに逃げられてしまいそうだから。

「・・・今はまだ、言う気はないけどね。」
「そっか・・・ま、そこはキララの自由だしね。」
「そうね。別に敵が多いわけでもないし。応援はするわよ。」
「はぁ〜・・・まさか、このあたしが恋する乙女になろうとは・・・」
「いいじゃないの。私は安心したわよ、キララが女の子っぽくなってくれて。」
「あ、同感!」
「あたしを何だと思ってたわけ・・・だって、普通2、3週間で恋に落ちるとかあり得ると思う?認めたくも無くなるわよ・・・」
「まあ、これからは自分に正直になればいいじゃない!」
「そうそう。男なんて弱みを見せつつ部屋に連れ込めば一発よ。」
「マリス。それを実行したかどうかは絶対に聞かないわよ・・・」

やれやれだわ・・・折角の今までの苦労が全部水の泡よ。
店に帰ったら、きっとレイはいつも通りの顔でおかえりと言うんだろう。問題はそれにあたしが何処まで平然としてられるかだわ。今までみたいにもう自分から逃げることも出来はしない。
今日この日、悔しいことだが・・・・


どうやらあたしはレイを本気で好きになったみたいだから。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ygWbU] 2006/04/16(日) 13:11:51

発明なんばー33!


寝台からゆっくりと起きあがり、私は窓に視線を移した。
まだ、あの方は来ておられませんね・・・こんなにも、人を待つのが苦しいとは思いませんでした。
今日一日、ようやく部屋の外に出て周りの人々にお礼を言うことが出来ました。
誰もが自分のことのように喜んでくれて、それはとても私にとってもうれしいこと・・・なのに、その一方で今までに感じたことのないものが心を動かすのは何故?
気付いたから?
やはり、自分は王女なのだと。
それ故に自分の笑顔が、彼らに向ける笑顔がとても大切な物であると。
そしてそれは、どうしても自分のためでないということに。

「・・・確かに、気付いてしまうと重いものですね・・・」

いつかは気付くべきだったこと。
いいえ、もう気付いていなければならなかったことなのかもしれませんね・・・そして、それを気付かせてくれた人は・・・

「ん?何だ、起きてたのか?」
「ええ。お待ちしていました。」
「そっか、少し遅れたな。」
「そうですね。ちょっと不安になりました。」

苦笑いをして近づいてくるこの人。
本当の名前も、顔すらも知らないというのに、どうしてこんなにも安心感があるのか。
それはきっと、この方が私の友人だからでしょうね。

「体調は、もう問題無さそうだな。」
「ええ。ファントム様のおかげです。」
「気にすんな、俺は友達を助けただけだ。」
「分かっています。私も友人としてお礼を言いたかっただけですから。」
「なるほどな。さて、そんじゃ友人としてリリアの今日の話でも聞こうかな。」
「はい。たくさんお話ししたいことがあります。」
「へえ、どんな?」
「はい、今日はもう自分で立ち上がることが出来たので着替えていたのですが・・・」
「ふんふん。」
「部屋の扉が開いて侍女が入ってきた時、とても嬉しそうな顔をしていました。」
「ふむ。眼福だったわけだな。」
「がんぷく・・・?えっと、その言葉の意味は分かりませんが、その後ようやく久しぶりにお父様とお母様に会うことが出来ました。そうしたら、お父様がとても大粒の涙を流して私を抱きしめてくださったのです。お母様も瞳を潤ませて私達を眺めておられました。お父様は奇跡だと叫んで神に祈りを捧げられたのですが・・・」
「実際は、娘の部屋に夜中に無断侵入した男が治した、なんて知ったら発狂しそうだな。」
「発狂まではないでしょうが、きっとファントム様に剣を振りかざして迫るでしょうね。」
「・・・え、本気で?」
「以前、私が祭典に居た時に変な男の方に嫌がらせを受けたのですが・・・その、お父様が大暴れして・・・」
「その男は?」
「えっと、殺されはしなかったのですが、次に会った時は小声で『ひげが、ひげが』と呟いておられました。」
「怖いな、おい!?本当にあんたの父親は何をしたんだ!?」

それは私も分かりませんが・・・ただ、あの人の目はどうも私を見ては居なかったですね。むしろ何もない虚空を見ながら笑っていましたし・・・きっと、お父様が素晴らしいことをなさったのでしょう。あの笑顔はこの世のものから解放された笑顔でしたから。

「捕まった後は、私も知りませんが、途中までは剣を右手に大きな槌を左手にあの方に迫っていましたから。」
「俺の時はきっと両手にバズーカだろうな・・・」
「ばずうか?」
「ああ、こっちの話だ。それにしても、よくそんな人が国王やってるな・・・」
「普段は聡明で優しいですから。それに、父は剣の腕はこの国一番とまで言われています。かっての戦でも、父は自ら前線に出て剣をかざして指揮をとりました。加えて、母もいてくれますし。」
「お母さんはどんな人なんだ?」
「そうですね・・・普段は優しい方ですが、時折は父を子どものように怒っているときもあります。剣の腕では並ぶ者のほとんどいない程の父も、母にだけは決して勝てないんですよ。」
「何処の世界でも、男は女に弱いんだな・・・」
「どこのせかいでも、ですか・・・?」
「っ・・・、ああ、まあな。ほら、俺って結構いろんな場所を見てるから。」
「ああ、そう言うことですね。」

少し驚きました。
ファントム様はこの国の方ではないのでしょうね。きっと自由に色々な場所で色々な生活を送られてきたのでしょう。少しだけ羨ましい気もします。

「それで、ご両親との感動の挨拶が済んだ後は?」
「ええ。お父様が快気祝いの祝宴を開こうと大騒ぎになりまして。家臣の皆様もこぞって賛成なされたので、明日はお城で城内の者だけでささやかながら。」
「へぇ〜・・・城内の者だけでってのは、きっとあんたが病気なのを国民に知らせないため、か・・・けど、いい考えだな。」
「はい。やはり、誰かに祝ってもらえることは嬉しいです。」
「・・・なあ、その祝宴って、こんな仮面を付けて入っても大丈夫だと思うか?」
「え?・・・っ、ま、まさかファントム様!お忍びで来られるおつもりですか!?」
「しーっ!しーっ!」
「あ・・・す、すいません。けどいけません、そんなこと。入り口は厳重な警備がしかれるでしょうし、周りにも腕利きの衛兵の方が配備されるでしょう。もし見つかれば・・・きっとファントム様は捕らえられ、最悪の場合はこの国から追放されてしまいます。」
「そりゃ残念だ。是非、リリアの手を取って踊ってみたかったんだがな。」
「私自身が招待すれば良いのですが・・・」
「それはこの夜の会話と引き替え、ってことになるな。」
「それは嫌です!」
「だよな。折角、友達になったのにそれじゃあんまりだしな。」
「はい。ですから、すいませんが・・・」
「気にするなって。けど、もしもだけど俺が正規の手続きで入れたとしたらさ、仮面をつけて祝宴に参加するのは?」
「それは、仮面くらいならば何も不審ということはないでしょうが・・・」

私を祝おうとしてくれる人々の中には、様々な仮装をしてくださる人々も大勢居ます。ですから仮面と背布くらいでは別に違和感はありません。
最も、ファントム様のように全身が黒という方は珍しいかもしれませんが。

「ま、明日のことは大人しく諦めるかな。」
「でも、ちゃんと夜には来てくださいね?明日はお茶を入れてお待ちしていますわ。」
「お、いいね〜。女の子の入れるお茶っていうのは、それだけで飲む価値が何倍にもなるからな。リリアみたいに美人ならなおさら。」
「まあ、お上手ですね。」

けど、他の誰に言われるよりも嬉しいと感じるのは、決して気のせいではないのでしょうね。私の初めての友達である、ファントム様だからこそ・・・きっと、素直にその言葉が心に響いてくれるのでしょう。

「うん・・・それにしても、いい傾向だな。」
「え?」
「ほら、今晩だけで結構な回数リリアが大きく口を開けて笑ったし、ちょっと怒ったし、少し驚いたし。こういう顔が見たかったんだよな。」
「そう、ですね・・・ファントム様との会話は、とても・・・心から楽しくて、充実していると感じます。先ほどのように大声を出したのもいつ以来でしょうか・・・」
「まあ、あんまり大声を出されると俺が捕まるが。」
「はい、その辺りは自重します。」
「頼むぜ?」

この後、ファントム様はすぐに帰られました。
もう少しお話したかったのですが・・・残念です。けど、明日になればお会いできますし、侍女に頼んで良い香りのするお茶をもらいましょう。そう言えば、あの仮面は邪魔になってしまわないかしら?
ああ、明日のことを考えるのがこんなにも楽しいなんて。
すぐには眠れそうにありませんね・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-bRPon] 2006/04/20(木) 20:05:50

発明なんばー34!


「お〜い、キララ。準備は出来たか?」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何処の世界でも女の準備には時間がかかるな・・・」
「女の子は誰でも常に殿方によく見られたいものですよ。」
「うわあ、ミリアさんいつのまに〜。」
「あらあらあら、それは?」
「いえ、驚いて欲しそうだったので。」
「20点でしょうかね。」
「21点満点ですか。」
「いいえ、百点満点ですよ。」

う〜む・・・やはり笑いの道は厳しいもんだ。クラスの連中はもう少し笑ってくれたんだが。

「でも、良いんですか?今日はお店休みにして。」
「私一人じゃどうしようもありませんから。それに、上手くいけばお城の方もヴェロンティエに来てもらえますしね。そもそも今日の不足は昨日で帳消しですよ。」
「昨日の売り上げは凄かったですしね・・・」

ただ、ちょっとした疑問がある。
昨日の売り上げを聞いてもキララは眉一つ動かさずに何かを考え込んでいた。というか、何回か睨まれたし!
俺、昨日何かしましたか!?何か俺の処遇を考えなきゃいけないことでもありました!?

「考え過ぎですよ。」
「・・・いや、読心術でも使えるんですか?」
「嫌ですね、レイさんったら。」

敢えてその後は聞かない。
『嫌ですね』の後が『そんなわけないじゃないですか』なら良いが、『当然ですよ』などと言われたら・・・ってか、言いそうな気がする。この人なら。

「それで、今日はパフェを作りに行くということですが・・・材料はどうしたんですか?」
「ええ、お城には有る程度の材料が揃っているそうなので、あとは俺の方でも少しだけ持って行きますし。」
「準備は万全ですね。」
「ええ、後はキララを待つだけなんですが・・・ドレスを着ていくわけでもないのに。」
「あらあらあら、そんなことを言ってはいけません。キララに嫌われますよ?」
「まだ引っ張ってたんですね、その設定。」
「ごめん、待たせた!?」

お、ようやく下りてき―――――

はっ!いかん、少しだけだが意識が飛んだ!
落ち着け、俺!確かにこまでオシャレしてるのは初めてだが、あれはキララだ!いつも一緒に働いてるキララだ!よし、心で大きく深呼吸。す〜は〜す〜は〜よし、オッケイ!

「気にするな、待ったのはたかだか15分ほどだ。」
「・・・嫌みな言い方ね。悪かったわよ。」
「あらあらあら。キララ、似合ってるわよ。」
「ありがとう、お母さん。」

だああああああ!俺ったら、女の子を誉めてもやれない情けないやつだったか!?
だって、下手に視線を合わせたらマジで顔がリンゴのように!そうなったらちょっと変なヤツになってしまう!

「言葉には出さないけど、レイさんも似合ってるそうよ。」
「・・・またですか。」
「あ、あんたに誉められても微妙だけどね。」

はい、いつものキララさんですね。ありがとう。かむばっく俺の理性。
よくよく考えたら、オシャレしようが何しようがキララはキララだしな。ちょうどリリアのお姫様って肩書きに近い。
そう考えれば落ち着けそうだ。

「けどキララ。そんな格好で町中歩いたら汚れないか?」

言っておくが、別にキララは舞踏会用のドレスを着てるわけではない。
ただ、いつもは着れない純白のスカートとか袖に可愛く小さめのフリルが付けられてたりとか、薄くではあるが逆にそれがいい化粧とか。
正直、町中を歩くには場違いな気がする。
いや、似合ってるけどね!

「あれ、言ってなかった?お城から車が来るわよ?」
「・・・聞いてないぞ。」
「あらあらあら。レイさんは今日は特別な料理人ですから、車で行くのは当然でしょう。」

ってか、車!?何!?まさかリムジン!?
あの縦に長く、ドアは多く、無駄な機能が満載されている車でも来るのか!?



当然の如く、馬車が来た(引いているのは馬じゃないけど)。

「・・・いや、予想はしてたけどね。」
「ほら、さっさと乗るわよ。」
「はいはい。」

軽々と引かれている部屋の部分に乗って、いざ出発―――って、何でキララさん乗ってないの?しかも、その目は何?

「・・・あんた、常識も無いわけ?」
「へ?」
「レイさん。こういう時、男性は女性を先に入れるのをお手伝いしてから自分が後から乗るのですよ。」
「・・・悪い、経験無かった。」
「いや、こっちも予想はしてたんだけどね。」
「それじゃ、ほら。」
「・・・何?」

いや、わざわざ下りてから手を差しだした俺にその言葉はないでしょう?
え!?ひょっとして間違ってるとか!?

「いや、手伝いって言うからお前の手を取るもんだと・・・」
「―――っ!わ、分かってるじゃ、ない・・・」

そう言うと、キララは俺の手に自分の手を重ねてスムーズに車に入っていった。
もちろん、俺もその後に続いたが。
良かった、方法は間違ってなかった。

「それじゃ、行ってきます。」
「ああ、レイさん。ちょっと良いですか?」
「は?」

笑顔で近づいてきたミリアさんが俺に小声でささやく。

「お料理が終わった後、ちゃんとキララをエスコートしてあげてくださいね?」
「わ、分かりました。」
「帰りは遅くなってもかまいませんよ。」
「全力で早く帰ってきます。」

そんな会話をしながら、俺達を乗せた馬車は出発した。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-bRPon] 2006/04/23(日) 19:41:38

発明なんばー35!
雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-rVJKB] 2006/04/26(水) 20:02:31

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-rVJKB] 2006/04/26(水) 20:03:40




さて、俺はいまお城の厨房に来てるわけだが―――

「あの、何か俺はしてしまったりなんかしてるんでしょうか?」
「いや、別に。」
「ほら、さっさとお前の料理を作ってみてくれよ。」

えっと、どうして俺はこうも皆様から注目を浴びてるのかな?
厨房に入ってきて自己紹介を終えたまでは問題なかったけど、他の方々(キララとかフォルトさん達とか)がいなくなると、途端に俺に視線が集中。や、やられる!?

「あの・・・そんなに、見られるとやりにくいかなって・・・」
「人目を気にして料理が作れないなんてことを言うのか?」
「それじゃあダメだ。ここに呼ばれたからにはそのぐらいの覚悟がねぇと。」
「程度ってもんがあるでしょう!?」

何故に全員が全員俺の後を刷り込みの終わった子ガモのように付いてくるんだ!?
しかも、先頭は明らかに偉そうな顔したおじさんだしね!メチャクチャ怖いわっ!頼むから俺を一人にしてくれっ!

「ちょ、ちょっと便所に行ってきますっ!」
「あ、逃げたぞ!」
「ちっ・・・仕方ない。ひとまず自分たちの料理をすっか・・・」

一体、俺が何をしたって言うんだ!?
まるで親の仇のように狙って、大体、あの人達は城の料理人だろう!俺みたいな町のいち料理人にどうして興味津々なんだよ!?
・・・おや、待てよ?いち料理人?俺が?

‘未知の料理を作るこの俺が?’

ぐわあ・・・理由が一発で分かった。
そうだよな、そうだよな。よく考えてみたら当然だよな。お城にハンバーガーなんてもの届けて、おまけにちまたで大人気、下手すりゃ自分たち以上の腕かもしれん男が折角目の前で料理を作るってのに、それを見逃さない手は無いよな。
あわよくば、店のレシピをいくつか盗み見しようって魂胆か・・・

「ったく・・・そういう魂胆だと分かると、何が何でも見せたくなくなるな。」
「何をよ?」
「店の―――って、キララ?」
「あんた、厨房にいたのに何でここにいるのよ?」
「ん、ちょっと色々あってな。それより、お前は今まで何処に行ってたんだ?」
「あたしはマリス達と一緒に会場の準備よ。」
「・・・折角きれいな服着てるのにか?」
「別に汚れ仕事してるわけじゃないわ。ってか、ようやく言ってくれたわね。」
「ん?」
「きれい、って。」
「あ―――まあ、な。」

うぅ・・・思わず本音が。ちょっと恥ずかしい。

「それより、キララ、今さらなんだが俺達って料理を作ったら即時退散ってことは無いよな?お前がそんな服着てる以上は。」
「当たり前でしょ。ちゃんと舞踏会にも出るわよ。」
「あ、やっぱ踊るんだ。」
「あんたは踊れるわけ?」
「俺のとこので良ければな。」
「良いわけ無いでしょ・・・仕方ないわね、教えてあげるわよ。」
「そりゃ助かる。他の美人な女性を誘うのに踊れないってのは最悪だからな。」

‘ゴツッ!’
・・・涙が出るほど痛いです。

「冗談なのに・・・」
「教えないわよ!?」
「けど、姫様とか誘ってみたいし。」
「あのね・・・王族の人達は自分で相手を選ぶのよ。あんたが行っても目を留めて貰える理由が無いでしょうが。」
「ふむ・・・そりゃ、残念だ。」
「分かったら、自分のお仕事に戻りなさいよね。」
「いや、教えてくれよ。踊り。」
「・・・マリスでも誘いたいわけ?」
「ああ、そういう手もあったな。けど、一番の理由は礼儀としてだな。多分、俺の料理を聞き出そうとする人がいそうだし。中には女性を使ってくるやつとかも、な。」
「無視すればいいでしょうが。」
「女性の相手を断るのは失礼だろ。ひょっとしたら、誰かと踊りたいだけかもしれんし。」
「・・・ったく・・・後で教えてあげるわよ。」
「そうか、ありがとうな。」

なんだかんだ言っても、やっぱりキララは優しいんだよな。
渋々ながらオーケーしてくれるわけだし。最も俺が踊りたい相手は最初から‘2人だけ’だが・・・やっぱ踊りは事前に確認しとかないとね。こっちの世界の社交ダンスなら有る程度はいけるんだが・・・何か、この世界に来てから向こうの世界で活用しない技術をフル活用してる気がするな・・・
とりあえず、これで踊りの方は問題ないな・・・さしあたっての問題は、さっきの厨房でどうやってパフェを作り上げるか、だが・・・
ちょっとくらい反則をしても罰は当たるまい。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-WKGVS] 2006/04/29(土) 14:07:46

発明なんばー36!


「お〜い。出来た料理って何処に運べば良いんだ?」
「ああ?それなら向こう―――って、何ぃ!?」
「何か?」
「い、いつの間に作ったんだ、お前はっ!?」
「ついさっき。」
「馬鹿な!厨房のお前に当てられた場所には見張りを立ててたはずだぞ!?」

そんなことまでしてたのかよ・・・いや、良いけどね?どうせ無駄な努力に終わるわけだし。というか終わったわけだし。
ちなみに、俺がやった反則技とは単純に‘厨房の外で作る’っていうもの。
まあ、材料さえあれば後は組み合わせるだけのパフェだからこそ出来る荒技だな。生クリームを立ったままかき混ぜるのは骨が折れたが。

「とりあえず、注文通り40個。確かに作り上げたぞ。」
「く・・・た、頼む!その作り方を教えてくれ!」
「やだ。」
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」

後ろで上げられてる奇声は放っておくとして。
さて、いい加減キララにダンスを教わりに行くとしますかね・・・あいつがまだ元気でいてくれたらの話だが。




「それで?」
「次にあんたの右足をこうして・・・」
「ひょっとして、次はこうか?」
「そうそう。これで最初の位置に戻ったでしょ?」
「ああ。なるほどな。」

いや、何だろうね・・・よくもまあ、俺の理性が平然としてられるもんだ。やっぱりこの前のキララの家族宣言はでかいね。ありがとう、キララ!
ともあれ、俺は今キララにダンスを教わってるわけだが・・・思ったより、俺の世界の社交ダンスと近い所がいくつかある。おかげで意外とスムーズに理解と学習が出来るってのは嬉しいことだね。後、同じ動きの組み合わせが多いというのも一つの楽な要因だな。
それに、キララの教え方も上手い。俺の世界ならダンスのインストラクターになれそうな気がする。いや、実際にダンスのインストラクターなんて人がどんな教え方をしてるかは正直知らないけどね。ってか、インストラクターって言うのか?

「とまあ、後は大体同じことのくり返しよ。」
「ふんふん。なるほどな、分かった。」
「覚えが早いわね・・・あんた、やっぱり天才?」
「さあ?そんなもんは他人が決めることだからな、俺にはどうでもいい。」

後は忘れないようにしないとな。
これで本番でパニック起こして忘れたら、折角リリアを誘えても何の意味も―――

そういや、どうやってリリアに俺がファントムだと知らせりゃいいんだ?

一応、仮面もマントも持ってきてはいるが、さすがに祝いの席でこの真っ黒なマントを羽織るわけにもいかんし。かといって、この服じゃキララにばれるし・・・

「う〜ん・・・ペンキでもあればな・・・」
「何?・・・何って言ったの?」
「いや、ちょっと染めたいもんがあってな。」
「それならマリス達に聞けばいいじゃない。お城に務めてるんだから、塗料の場所くらい知ってるでしょう。」
「おお、その手があったか。」

そうと決まれば・・・・って、何処にいるんだろ?

「マリスさんとフォルトさんって、料理人だっけか?」
「一応ね。けど、まだお城の料理を任せられる程じゃないらしいから・・・多分、今なら塵捨てにでも行ってるんじゃない?」
「分かった。それじゃ、また後でな!」
「慌てて、折角教えたの忘れないようにね。」
「努力する!」

確か塵捨て場は調理場から行けたよな。

そうそう、この扉をくぐってあっちに曲がって、右左とさらに曲がって―――

このドアの先だ!

「お〜い、マリスさ〜―――」
「俺は本気なんだ!」
「だから私は・・・って、レイ君?」
「あ〜・・・ん?」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-UGCXU] 2006/04/30(日) 20:41:32

発明なんばー37!

えっと・・・状況説明。
マリスさんに詰め寄る男。
ちょっと迷惑そうな顔でその男に対しているマリスさん。
2人の間は微妙に遠く。
2人の空気は微妙に重く。
そこに脳天気な俺が乱入。
以上、現在の状況を簡潔に説明してみました。よく頑張ったね、俺の脳。
―――はい、分かってます。俗に言う『修羅場』という状況に遭遇してるんですね、俺。

「え〜・・こほん。お邪魔しました。」
「ちょ、ちょっと待ってよレイく・・・ううん、待って、レイ。」

嫌です。待ちたくありません。何か私の脳がカンカンと警鐘を鳴らしっぱなしです。
だって、今マリスさんが明らかにわざと俺の名前を呼び捨てにしました。その時点で俺を巻き込もうという魂胆とかその他諸々が見え見えです。
俺はそんな修羅場に巻き込まれていけるほど人生経験は豊富じゃなかとです!

「レイ?・・・呼び捨てだと・・・?お前、マリスとどういう関係だ!?」

おいおいおい・・・あんた聞いてなかったのか!?明らかにマリスさんは俺のことを最初は君付けで呼んでたろ!?気付け!そして俺を巻き込むな!

「レイは、私の恋人よ。」
「何だとっ!?」
「そうよ。悪いけど、もう私は彼に身も心も捧げたの。だから、諦めてもらえないかしら。」
「身、身も、心もだとっ・・・・!?」

おい・・・驚きたいのは俺の方だ。
時折、俺の方を見るマリスさんの目が随分と申し訳なさそうだから、きっと悪気はないんだろうけど・・・けど、こういう巻き込み方はどうよ?
ってか、身も心も捧げられた覚えはありません。
いや、ある意味では身は捧げてもらったか?・・・バイトとして。

「く・・・お、お前!レイとか言ったな!?」
「きっと気のせいじゃないか?」
「いいや、覚えたぞ!お前の存在を仲間達に知らせてやる〜〜〜〜〜〜!」

ちょおおおおおおおおおっと待て!仲間!?今、仲間って言ったか!?
仲間って、まさかマリスさんに惚れてる男達ってこと!?つまりはファンクラブか!?
確かにマリスさんはキララとかリリアとは違う、まあつまりは同年代にしては大人の魅力の溢れる美人さんだけどね!?スタイルも良いし!
けど、だからってファンクラブまで作るか!?お前、もう立派な大人だろ!?

「マリス!俺は君を諦めないからな!こいつより俺の方が良いって証明してやるっ!」
「無理よ。彼にはどんな男も勝てないもの。」
「おい、こら・・・」
「ちくしょおおおおおおおお!」

ああ、誤解を解く間もなく走り去っていく!待って!待ってくれ!俺は本当にマリスさんとは何でもないんだって!
伸ばした手は去りゆく彼の背に届くことなく、叫んだ言葉は走り行く彼の耳に達せず、俺には彼を見送ることしかできなかった・・・って、詩人になってる場合じゃない!

「マ〜リ〜ス〜さ〜ん〜?」
「ありがと。あいつ達しつこくて困ってたのよ。」
「おかげで今度は俺がしつこく狙われるだろうが・・・」
「大丈夫よ。レイ君、強いから。」
「何?意外とあの方は武闘派?」
「ええ。正確には私の親衛隊とかいうのの中に武闘派がいるらしいわ。」
「・・・本当にあるのか、そんなの。」
「参ったわよ・・・お城に来て数日で出来て、3日に1度はああやって誰かが迫ってくるんだもの。」

すごいな、それは・・・マリスさん、そんなにもてるんですか・・・
いや、それよりも問題は3日に1度は誰かを派遣できるほどの数を俺は敵に回したというこの事実?しかもその根本は虚実。
うっわ、やってられねぇ・・・

「誰かが俺の所に来たら、本当のことを言うぞ?」
「ええ、構わないわ。私としては恋人の役してくれた方が楽なんだけど、そこまでしたらキララが怒りそうだしね。」
「だろうな。あたしの友人に手を出すな、って殴られそうな気がする。」
「・・・そうね、きっとそう言うわね。ところで、あたしを探してたみたいだけど何か用でもあったの?」
「おっと、忘れるとこだった。なあ、ちょっと染めたい布があるんだけど染料って何処かに置いてないか?」
「染料ならこの壁づたいにあっちに行って、3番目の倉庫の中よ。」
「そうか、ありがとう。」
「気をつけて。中に、たまにだけど恋人達が入ってるから。」
「・・・そんな危険情報をどうして知ってる?」
「誤解しないで。単に見つけちゃったことがあるってだけよ。」
「あ、そう・・・とりあえず、いないことを祈っとくよ。」

簡単にお礼を言って、言われたとおりに歩いていくと・・・あったあった。
軽くノック。よし、誰もいないな?鍵もかかってない。不用心だけど今は感謝。
さてと、とりあえず何色に染めるかねぇ・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/05/12(金) 22:07:23

発明なんばー38!

「まあ、おいしい・・・」
「おお、こいつは今までに食べたことのない味だ。」
「ええ、全くですね。」

運ばれてきた料理の中、どうやら城の料理人ではない者が作ってくれたこのぱふぇというものはとても美味しいものですね。誰かは知りませんが、後でお礼を言いたいものです。
それにしても、本当に多くの人達が集まっていますね・・・私のために、本当に嬉しいことです。ただ唯一、残念なのは―――いえ、今はこれを言う時ではありませんね。このことは夜にでもご本人とお話しするとしましょう。今はこの私のための祝宴を楽しませて頂かなくては。

「リリア。そろそろお前も踊りに行っちゃどうだ?」
「そうそう。気に入った方を見つけたら、すぐに教えてね?」
「お母様・・・私にはまだ、そのような方はおりませんわ。」
「ま、そりゃあそうだろうけどよ。俺としちゃあ娘の踊りの相手ってのは興味があることこの上ねえからな。」
「あなた、せめてこのような祝宴の場くらいはその話し方を謹んでくださいな。」
「ん、悪い悪い。つい癖でな・・・だが、リリア。お前、いつも踊りの相手は大抵適当に自分を誘ってくれた誰かの中から選んでるだろ?しかも、周りのことも考えて、年取った大臣の一人とか、そういったのばかり。」
「そうそう。たまには自分の思う相手を選びなさいね?」

そう言って、お父様達は他の大臣と方とお話しに行かれました。
私だって踊りのお相手を適当に選んでいるわけではありませんが・・・しかし、確かに『この方と踊りたい』と願ったことはありませんね。
どの方も、私と踊ることを誇りに思ってくださる素晴らしい方ばかりなのですが。

いいえ、このような場で愚痴を考えるなどとは私らしくもありませんね。そのようなことを考えるのは、あの方と会う時だけで充分ですし。
それでは、早速踊りのお相手となってくださる方を探しに行きましょう。

「ご機嫌いかがですかな、姫様?」
「ええ、ありがとう。皆様のおかげで何とか今、こうして無事にいられます。」
「もったいないお言葉です。」
「それで姫。今宵のお相手は決まりましたか?」
「お決まりでないなら、この私に務めさせてもらえませんかな?」
「この爺でも構いませぬぞ?ふぉっふぉっふぉっ・・・」
「まあ、お元気なことで何よりです。」
「いえいえ、姫様。この私とでは?」
「おいおい。あまり詰め寄ると姫様がお困りだぞ?」
「おっと、そうだな。失礼致しました。」
「いえ、お気になさらずに。あなたのお誘いはいつも情熱的ですからね。」
「ははは・・・覚えていただいて光栄です。」

いつもこのように誘っていただいているのに、何度も無視してしまうのは気の毒かもしれない・・・今日はこの方にお願いして―――え?

「どうなされました、姫様?」
「あ・・・い、いえ・・・すいません。少しそこを空けていただけますか?」
「え、ええ。どうぞ。」

開けられた場所の先、つい一瞬だけだというのに私の目に飛び込んできた人。
それだけで私を支配してしまう程の人。
いつもとは色の違う仮面にやはり色の違う外套を羽織っていて、それでも間違えようの無い人。

申し訳ありません、先ほどの方。
今夜のお相手は最初から一人しかいなかったようです。

「・・・よろしければ、私と踊っていただけませんか?」
「ええ。あなたの誘いなら喜んで。」

わずかに仮面の下から見えている口元から、笑顔になっていると分かります。
本当に来てくださったのですね・・・ファントム様。



揺るやかな音楽に合わせて、私は足を動かします。
それに答えてくれるかのように、ファントム様も私と動いてくれます。

「一体、どのようにしてここに?」
「ん。奇跡という魔法を使ってみた。」
「まあ。お上手ですこと・・・踊りもとても。」
「付け焼き刃ってやつさ。つい数時間前までは全く知らなかったからな。リリアが相手じゃなきゃ失敗してるよ。」

私の腰に回された手は優しく、それでいてしっかりと私を離しません。
足の運び方も、もつれることなく絶妙な感覚で私の足下に運ばれてきます。
これで本当に付け焼き刃だというのならファントム様は天才ですね・・・いえ、私の病気を治してくださった時点で、やはり天才なのでしょう。

「いつもと色が違いますね。」
「ああ。祝宴用に急いで塗り変えた。リリアの服に色が付かないか心配だったが、どうやら乾いたようで何よりだ。」
「ふふふ・・・私のためにありがとうございます。」
「いやいや、友達の祝宴だ。参加するために極力気合いを入れるのは当然のことだろ。」
「それでも、です。」
「そっか?・・・・それにしても、リリア。」

何でしょう。少しだけファントム様の顔が困惑なされています。わずかに見える口元だけでなく、全身から分かるようになったとは、これも友情のなせる技というものですね。
いえいえ。問題はそこではなく、どうしてファントム様は?まさか、私に何か至らない所でもあったのでしょうか?

「あ、いや、別にリリアがどうってことじゃなくって・・・周りの視線がすっごく痛い。」

ああ、そういうことでしたか。少し安心しました。
周りの方々の視線は仕方のないことです。何せ、私は今日まで同じ年頃の方と踊ったことは全くありませんでしたから。きっと皆様、今頃心の内でファントム様の正体を考えておられることでしょう。
それに、今回は、その・・・嬉しさの余り、私から積極的に声をかけるという、これもやはり初めてのことでしたから。

「大丈夫です。私と踊っている間は、決して誰も邪魔はいたしませんわ。」
「それはつまり、終わった瞬間に俺は追われるってことか?」
「・・・それは、そうかもしれませんね。」
「気合いで逃げるしかないな・・・頑張れ、俺。」
「応援致しますわ。私もきっと質問攻めにあうでしょうけど、頑張って隠し通してみせますから。」
「お互いに大変だな。・・・後さ、さっきから君の後ろでじっと俺を見ているあの厳つい方はひょっとして・・・?」
「え?」

まあ、気付きませんでした。ファントム様を確認しようと一生懸命な姿は、紛れもなく―――

「お父様ったら。やはりファントム様のことが気になるのですね。」
「うわあ・・・国王に狙われてるのか、俺?」
「ちなみに、一緒に踊っているのは母です。」
「うん。予想はついてた・・・けど、ちょっと怖い。お父さんの方。」
「そうですね・・・何やら、ちょっと敵対するような目を向けておられますが・・・何故でしょうか?」
「いや・・・それも予想はつくけど・・・ってか、予想がつく分だけ逆に怖い。」

ファントム様、ひょっとしたらお父様と面識がおありに・・・?何か、お父様に嫌われるようなことでもなさったのでしょうか?
けど、例えお父様にだって今のこの一時も、ファントム様との関係も邪魔はさせません。

「さて・・・そろそろ音楽が終わるし、俺は行くよ。」
「え・・・そう、ですか・・・」
「今日は夜も来れないかもしれないな・・・実は、この後、もう一人相手する人がいてね。」
「っ・・・・」

え・・・今の、わずかな痛みは何でしょう?
もう一人?それは、つまりファントム様はその人とのために、私には今夜は会うことが出来ないということでしょうか?
それはつまり・・・私より、その方が―――

「リリアとの踊りを優先させたからな。その埋め合わせをしないといけないんだよ・・・ちょっと放っておいたからな。」
「・・え?・・・私との、踊りを・・・?」

それは、つまり・・・その方よりも、私を優先してくださったということでしょうか?
それならば・・・・何故だか分かりませんが、随分と楽になった気がします。

「分かりました、今夜は我慢いたします。」
「ああ。それじゃ、また明日の暗く静かな夜に。」

音楽が終わると同時、ファントム様は私に一礼をして走るようにその場を後になされました。大量の人達を後ろに連れて。
最も、それを最後まで見送ることなく私の方も多くの方に囲まれてしまったのですが。
けれど、私の手にはまだしっかりとファントム様の手の温もりが残っていました。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/05/12(金) 22:08:34

発明なんばー39!

「わ、悪いキララ!待たせた!」
「本当に遅かったわね・・・一体、何してたわけ?」

うぅ・・・まさか、ついさっきまでリリアと踊ってたなんて言えない。
いや、言っても信じてもらえない気がする。

「いやな、ついつい姫様と謎の仮面男との踊りに目がいって。」
「ああ。あれね・・・確かに上手だったわね、2人とも。」

そりゃあ、お前の教え方が上手かったからな。

「それにしても、あの仮面の男何者かしら。」
「どうした?お前には関係ないだろう?」
「そりゃあそうだけどね。さっきフォルトから聞いたんだけど、姫様が積極的に誰かを誘うなんて今までに無かったらしいのよ。決定権が姫様にあるとは言っても、いつも適当に取り巻きの人から、しかも割と年上の人に相手を頼まれるらしいの。」
「へえ〜、なるほどね。」

それでか・・・それであの視線の痛さか!
つまり、父親としてはそういった理由から娘に近寄る男が心配だったと!
それで俺は全力疾走しながら逃げまくる必要があったと!
うぅ・・・指名手配犯になった気がする。

「ま、それを言っても仕方ないだろ。俺としては姫様がパフェをおいしそうに食べてくれた時点でもうどうでもいい。」
「そうね。とてもいい笑顔だったわ。それで、レイ。」
「ん?」
「誰か、お好みの女の子からは誘ってもらえたわけ?」
「ああ、1人だけな。踊ってる間は姫様にばっかり視線を送ってたが。」
「呆れた・・・失礼なことしてるわね・・・」
「いやいや。当然のことをしたまでだ。」

嘘はついてないぞ?ちゃんとリリアに誘ってもらって、リリアと正面で話してたわけだし。

「まあ、姫様に目がいく気持ちは分かるけどね。」
「だよなあ・・・と、いうわけで。ここは姫様に負けないくらいの女性と踊り直してみようと思ったわけだ。」
「・・・あんた、殴っていい?」
「どうぞ?お前を誘いに来た男を殴れるほど礼儀知らずなら。」
「ああ、そう・・・・って、今、何ですって?」

そうそう。リリアに言った相手をしたいもう一人。
どっちと先に踊るか迷ったんだが・・・リリアはいつ部屋に戻るか分からなかったからな。でも、これで断られたら俺って馬鹿みたい。

「だから・・・キララさん、俺と踊ってくれませんか?」
「な、あ、あ・・・あたし、と?」
「お前以外にこの場にキララと名の付く人はおらんだろ。」
「い、いや、だってあんた、姫様に負けないくらいの女性って・・・」
「お前、鏡の前で自分の顔をよく見てから、脳内の姫様と比べてみろ。」

改めて言うが、キララはかなりの美人なのだ。多分、美しさでいったらリリアと並ぶくらいには。
本人に自覚はないみたいだが、おかげで助かる。
他の男に誘われなかったのが不思議だね。

「それで、返事は?」
「え?返事・・・あ、そ、その・・ちゃ、ちゃんと出来るんでしょうね?」
「お前に教わったんだぜ?」
「なら・・・踊ってあげる。感謝しなさいよ?」
「ああ。そうさせてもらうよ。」

う〜む・・・ここまでキザな台詞を言えるようになるとは・・・俺って馬鹿?
まあ、キララを家族、そして仲間として見ている以上はどんだけ近づいても平気な気がするな。

俺がキララに手を伸ばすと、キララも静かにその手を俺に渡してくれた。
そのまま引き寄せて、広いホールへと足を進める。
微妙に頬の赤いキララを見てると、俺も少しだけ照れくさくなったが・・・まあ、これくらいは良いだろう。

「それでは、お相手を務めさせていただきます。」
「ん・・・よろしくお願いします。」

腰に手を回し、ゆっくりとキララに教わったステップを踏み出す。
今夜の祝宴の最後としては、非常に上出来だと思う。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/05/13(土) 20:29:35

発明なんばー40!

「それじゃ、失礼します。」
「お世話になりました。」
「ちくしょう!二度と来るな!けど、お前が料理を作る所は見せろ!」
「じゃあお店に来い。」
「絶対に行ってやるからな!」
「お待ちしています。」

長かった夜も終わり、俺達は城を出た。
帰りも車ではあったのだが・・・残念ながら行きのように家の前まで、とまではいかなかった。
とりあえず、もう少し歩けば店だし。今日はさっさと帰ってしまおう。

「楽しかったな。」
「そうね・・・ねえ、レイ。」
「ん?」
「・・・ごめん、やっぱりいいわ。」

何だそりゃ?気になるところで切ってさ・・・まさか、俺が仮面の男だってばれたわけじゃないよな?

「ふぅ・・・ちょっと、そこの店に寄っていかない?」
「え?もう少しで店だぞ?」
「あの店限定の飲み物がいいのよ。最近はお金に余裕が出来たから、久しぶりに飲みたくなったの。」
「ああ、そういうことか。いいぜ。」

キララのお勧めというなら、きっと美味しいに違いない。



その考えは、店を出る頃には完全に消えて無くなっていたが。



「くっ・・・まさか、アルコールだったとは・・・」
「すぅ・・・ふぅ・・・」

確かに美味いだろうね!色々あって騒いで、疲れた後なら特に!
けど、俺はまだ未成年なんだよ!飲めるか、あんなもん!この世界では法に触れなくても、俺の肝臓に触れまくりです!
そんでもってキララは酔いつぶれてるし!
お前は飲み慣れてたんじゃ無いのかあああああああ!?

「おい、キララ。ちゃんと歩けって・・・」
「ん〜・・・」

ふっ・・・分かってるさ、もうキララを連れて帰る手段は一つしかないってことは!
けど、これで帰ったらまたミリアさんに何言われるか!
うぅ・・・折角、家族って割り切ってるのに、また生き地獄・・・しかも酔ってるせいか色気が上がってるし・・・頑張れ、俺の理性。

「おいしょっ・・・」
「ん・・・ん〜・・・あったか〜い・・・」

はぁ・・・お姫様だっこには劣るが、おんぶってのもやっぱり理性が音を立ててきしむなぁ・・・背中とかが特に。いや、詳しくは言いませんけどね!

「んん・・・気持ちい、い・・」
「はいはい。分かったから、少しは俺の苦労を察してくれ・・・」
「ふぅ・・すぅ・・・レイ・・・」
「ん?今度は何だよ?」
「レイ・・・家族、だから、ね・・・一緒なんだからね・・・」
「・・・はいはい。ありがとうな・・・」
「一、    緒だから、ね・・・‘ずっと、一緒’なんだ、か、ら・・・」

思わず足が止まってしまった。

「・・・ずっと、一緒か・・・ごめんな、キララ・・・」
「んっ・・・レ、イ・・・」
「きっと・・・それだけは、出来ないんだよ・・・」

どうして忘れてしまっていたんだ、俺は?
どれほどこの世界が楽しくても
どれほどこの世界が心地よくても
どれほどこの世界が素晴らしいと感じても

俺は、いつかここを去る人間なのだと・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-tfVid] 2006/05/14(日) 11:53:16

発明なんばー41!

「ん〜・・・痛っ?」

朝、起きた瞬間に襲ってきたのは軽い頭痛だった。
くそっ・・やっぱり、慣れないアルコールなんて飲むもんじゃねえな。二日酔いってほどひどくはないけど、軽く頭がくらくらする。
ったく・・・今日は店を開けるってのに・・・水でも飲みに行くか。

で、階段を下りていくと・・・

「あらあらあら、レイさん。おはようございます。」
「おはようございます。」
「少しばかり顔色が良くないですね。寝不足ですか?」
「いえ、昨日の夜にキララと飲んできたやつで酔ったみたいで・・・」
「まあ。あの子ったら、普段はそんなの絶対に飲まないのに・・・どうしたのかしら?」
「・・・普段、飲まないんですか?」
「ええ。キララはそういったのに強いわけではありませんから。」
「見た限りではグラス2杯は飲んでましたが・・・?」
「そうですか・・・ひょっとしたら、今日もお店を開けられないかもしれませんね。」
「え?」

いや、二日続けて開けないってのはさすがに大変では?折角、定着したお客さんが少しでも離れたらやっぱりマズイし。

「けど―――」

‘バンッ!・・・ドタドタドタドタッ・・・・・バタン!’

「・・・何の音でしょう?」
「おそらく、キララが起きて、レイさんとお店に入って飲み始めた時からの記憶がないことに驚いて、慌てて起きあがろうとした瞬間にひどい頭痛のために転んでしまい、そのまましばらく転がって、最終的に壁にでも当たって止まったんでしょう。」
「・・・透視能力でもあるんですか?」
「いえ。あの子の行動は意外と分かりやすいですよ?」
「はあ・・・つまり、キララは今日は二日酔いってことですね?」
「おそらく、まともに料理は作れませんね。」
「そうですか・・・それじゃ、俺が何か新しいもん考えますよ。店先で簡単に作って売れるようなやつ。」
「ああ、それは良い考えですね。」
「れ、れ〜いいいいぃぃ・・・」

うわ・・・何かゾンビみたいな声だな。
ようやく下りてきたのは良いけど、頭を抑えて体調不良を全開で押し出してるのが分かる。

「き、昨日は、あたし、何したのよ〜・・・」
「ん?全く覚えてないのか?」
「うぅ・・・店に入って、2杯目に手を伸ばしたくらいまで・・・」
「・・・大変でしたよね、ミリアさん。」
「そうですね。」
「俺がお前をおぶってここまで帰ってきたんだよ。」
「もちろん、部屋までレイさんに運んでもらいました。」
「そしたら離してくれなくってな。」
「レイさんに襲いかかってましたものね。」
「俺、押し倒されたし。」
「お、押し倒すっ!?痛っ〜・・・」
「あれはやばかった。」
「後一歩で昇天するところでしたものね。」
「しょ、昇天っ!?痛っ〜・・・」

さて、もう遊ぶのはこれぐらいで良いだろう。

「ちなみに、具体的に言うとわざわざお前を抱えて部屋に入った瞬間、入るな馬鹿!と言い出して俺を寝台に突き飛ばして、その上から馬乗りになって近くにあった置物で俺の頭を殴ろうとした。あれが当たってたら間違いなく、俺は空の彼方で鐘を鳴らしていたことだろう。」
「紛らわしい言い方してんじゃないわよっ!って、痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「まあ、キララが今の説明からどんな想像したのかは置いておくとして。」
「それでは、キララは私が面倒を見ますね。」
「お願いします。」
「え、ちょ、店は・・・」
「それじゃ無理だろ?俺に任せて休んどけよ。ちゃんと有る程度は稼いでやるから。」

そう言うと、俺はさっさと厨房に入っていった。
後ろの方でキララのうなり声が聞こえていたが・・・まあ、それは気にしない。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-dVTml] 2006/05/15(月) 21:34:45

発明なんばー42!

「おい。今日もヴェロンティエは開いてないのか?」
「ん〜。お店としては、な。まあ簡単な間食を作らせてもらうから、今日はそれで我慢してくれ。」
「何だよ〜、楽しみにしてたのに。」
「まあまあ。明日はちゃんと開けるように努力するからさ。大体、お客さん達が食い過ぎなんだよ。だから、キララがぶっ倒れたんだから。」
「何だ、そういうことか。」
「なら仕方ないな・・・」

ごめんなさい。軽く嘘をつきました。
けど、さすがキララ効果。微妙に不満そうだったお客さんの空気が明らかにガラリと変わった。
キララ。君の二日酔いは役にたってるよ。

「それで、今日は何を作るんだ?」
「ん。クレープって言うんだ。まあ、腹は膨れないから、ちょっと汗を流した時にでも寄ってくれ。」
「おう。分かったぜ、レイ。」

すっかり顔なじみになってるおっちゃん達を仕事に送り出し、俺は準備を始める。
生地を薄く伸ばしながら焼き、更にその一方でクリームを急いで泡立てる。
さらに、先日仕入れたばかりでパフェにも使った果物を切り、一口で食べやすいように整える。
後はそれを生地で巻いていけば・・・・

「ん?お〜い、そこの方〜。」
「え、あたし?」
「あ!ヴェロンティエのレイさん!」
「新商品なんだけど、一口食ってみない?」
「え〜、いいんですか?」
「おう。とりあえずは先着2名様無料ってことで。」
「やった!いただきま〜す!」
「はむっ・・・んむんむんむ・・・おいしい〜!」

よっし!やはりクレープは若い女性受けが良さそうだ。
何処の世界でも年層ごとの味の好き嫌いは変わらないんだろうなぁ。

「レイさん、レイさん!これって何て言うんですか?」
「ん。クレープだよ。とりあえず、今日だけの限定生産品になるだろうから、友達にも宣伝頼むよ。次からは1個80ゼネーで。」
「は〜い!」
「これなら何個でも食べれるよ〜!」
「食い過ぎると太るぞ〜。」
「うそっ!?」
「その辺を考えて買ってくれ。」
「う〜・・・も、もう1個だけっ!」
「わ、私ももう1個だけなら!」

ふふふ・・・こうやって、1ヶ月後には体重計の上でショックを受ける女性が増えていくんだよな・・・恐るべしはクレープ。
とりあえず、この2人がおいしそうに食べるから徐々に様子を伺う人達も出てきてるし、今までに店には無かった種類だからな。これなら、今日の稼ぎも何とか良い方向に持って行けそうだ。




「はい、ウツザクレープ2つな。」
「ありがとうございます。」
「お次は?」
「えっと、モワークレープ1つと、カロアズクレープ1つで。」
「はいはい。200ゼネーな。」

いや〜、それにしても女性の多いこと多いこと・・・男性の皆様が買いに来れそうにない空気になってしまった。
お手軽に、しかもおいしく頂けるということで評判を呼んだみたいだけど・・・ふっ、さすがに疲れてきたぜ。朝からもう何個くらい作ったかな・・100は無い、と、思いたい。

「繁盛してるのね。」
「おかげで―――って、マリスさん?キララなら中で寝てるぞ。」
「別にキララに会いに来た訳じゃないのよ。とりあえず、ルアザクレープ1つお願い。」
「あ、ああ。」
「後、ちょっと話があるんだけどいいかしら?」
「えっと・・・はい!今並んでるそこの人で午前の部は終了だ!」
「え〜〜〜〜!?」
「あたし、まだ3個しか食べてないよ!」
「それ以上食べると、今晩の体重計に乗れなくなるぞ!」
「う゛っ!」
「悪いわね、繁盛してたのに。」
「いや。どうせ一度材料を買い足しに行こうと思ってたしな。ちょうど良かったよ。ほら、ルアザクレープ。そこで食べながら待っててくれ。」
「ありがとう。」

さてさてさて・・・マリスさん1人で来るとは、一体何事だろうね・・・多分、昨日の一件が絡んでるんだろうけど・・・うう、想像したくない。俺の未来にものすごい暗雲が立ちこめてる気がする。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-rVJKB] 2006/05/16(火) 21:05:36

発明なんばー43!

まあ、そんなこんなで10分後。

「それで、話って何だ?」
「ええ、単刀直入に言うわ。今日、もうしばらくしたら昨日の親衛隊の連中がここにやって来るらしいの。」
「・・・何だと?」
「昨日の嘘が思ったより大々的になってて・・・あなたを大勢で叩きつぶしに行くって。」
「数は?」
「・・・20人くらいかしら。」
「ったく、マジかよ・・・」
「・・・本当にごめんなさい。」

はあああぁ・・・いや、マリスさんが悪くないってのは、正直分かってるけどね。
っていうか、自分たちのものにならないからって、相手の大切な人(勘違いだけど)をボコボコにする?最低の連中が集まってないか、それ?

「お城の衛兵の人も数人入ってるらしいし、内1人は、その・・・騎士の人がいるらしいの。その人が中心みたい。」
「騎士?それって凄いのか?」
「ええ。騎士って言うのは衛兵100人の中から選ばれた選りすぐりの1人だから・・・」
「なるほど。一般人とのケンカぐらいじゃ負けはしない、か・・・」
「・・・本当にごめんなさい。だから、これから私と一緒にお城に行って、親衛隊の人達の前で昨日のことが嘘だと話して欲しいの。私の口からより、あなたの口から言ってもらった方が信じてもらえるから。」
「そういうこと、か・・・」

確かに昨日の嘘が真実だったとしても、俺が彼女とは関わりを持たないと宣言すれば相手の方も俺に無駄に危害は加えようとはしないだろうな・・・
それが1番簡単で安全な解決策。

なんだろうけど!

「それで、マリスさんは昨日までの状況に逆戻りってわけか?」
「別に大したことじゃないわ。」
「そりゃあ、どうかな?」
「え?」
「今回みたいに不満を暴力って形にしちまう連中だ。いつまでも告白を断ってれば、きっとその内・・・いや、下手したら今日、その場でマリスさんに襲いかかる可能性だってあるんだぞ。」
「・・・仕方ない、わ・・・あなたに迷惑かけた罰が、当たったのよ・・・」
「嘘だよな?」
「っ!?」
「マリスさんは何も悪くない。悪いのはあっちだろ。だったら、戦うべきだと俺は思うね。」
「相手は騎士に衛兵よ。私1人じゃ勝てるわけ―――」
「別にマリスさんが戦わなくていいだろ。」
「え?」
「ちょうど、マリスさんには頼れる恋人がいるわけだしな?」



所変わって、お城裏の林の中。

さてさて。改めて見ると結構な人数だね。やっぱ1学級分ってのは結構なもんだ。それに、明らかに凶器となりうるもので武装してる方々が数名。そして、その先頭に居る人に至っては・・・剣。元の世界で平然と日常生活を送ってる分には絶対にお目にかかれない代物だね。記念に写真でも撮っておいたほうがいいのかもしれん。
まあ、とりあえず帯剣してこっちに視線を向けてる偉そうなやつが騎士ってことなんだろうが・・・こりゃ、きっと抜かれるんだろうな。

「おい、何だお前は?」
「別に大した者じゃない。恋人の危険を察知して、その原因たる人間達、ならびに中心人物とその問題を話し合いで解決しにきた料理人だよ。」
「ヴォルフさん!こいつですよ。こいつが我らがマリスさんの!」
「ほう?この男が私の選んだ彼女を奪った男か。」

ヴォルフ、ね・・・格好良い名前じゃないの。容姿も悪くないし、身分は百人から選ばれた騎士って考えれば、十分そうだな。
    
「さてと、君は話し合いに来たと言ったね?」
「ああ。あまり争いは好きじゃないんだ。」
「そうだな。何事も平和的に解決できればそれが一番だ。」
「お、気が合うね。それじゃ早速だけど俺からの要求は一つ。」
「言いたまえ。」
「この親衛隊っての解散して、彼女にこれ以上迷惑かけないでくれ。別にマリスがあんた達の誰かと付き合うってなら、俺は止めはしないし、祝福の拍手だって送ってもい。なんなら結婚式の仲人だって務めよう。けど、マリスは今、俺のことを好きだと言ってる。そして、俺もマリスが好きだ。だから、あんた達には悪いが黙って引いてくれ。」
「それは却下だな。」

まあ、これは予想通りの答えだ。

「分かっていないようだな、君は。彼女は私に選ばれたのだよ。この騎士である私、ヴォルフ・ガイザックに。ならば、彼女は他の全てを投げ打ってでも私に愛を誓うべきだとは思わないか?いや、思わないわけがない!」

さてさて・・・やばいな。こいつ、かなりの馬鹿だ。

「いや、全く思えない。」
「何と!君は哀れだな・・・彼女もどうして気付かないのか・・・この私の愛を受けることがどれほどの名誉か分かっているだろうに。」
「えっと・・・ちなみに彼女の気持ちは?」
「随分と馬鹿なことを言う。私に愛されるというのだよ?彼女の気持ちが何だというのだね。私を愛する資格があるのだから、そんなものは捨てて当然だろう。」

いやぁ・・・さすがに予想外の発言。というか予想外の馬鹿。
これはいつぞやの野郎以上にたちが悪いな・・・世界が自分を中心に回っているというよりかは、むしろ・・・

「話が変わるけど、お前ってさ・・・自分が世界の法だとか思ってる?」
「おお。ようやく君もそこを理解できたようだね。」

理解できるか、そんなもん。
オッケー、オッケー、つまりはこういうことだ。話し合いの余地は一切ナシ。結局のところは当初の予定通りこの騎士さんと戦うしかないということだ。

「さて、それじゃあ君がしなければいけないことは一つだ。今すぐに彼女と恋人関係を破棄して、彼女を私の所に連れてきてくれ。そうして彼女が私に永遠の愛を誓うのに協力してくれたまえ。なんなら、ここにいる彼らのように時々は彼女を臨時の恋人として貸してやってもいいんだよ?」

おお。最後の疑問まで一発で解決した。
どうして、他の連中がこんな野郎と一緒になってまでマリスさんを狙うのかと思ってたら・・・なるほど。自分の彼女としてでなく、こいつに捧げる生け贄として彼女を求めたわけか。そんで、自分たちは時々でいいからそのおこぼれに預かろうと・・・

「・・・残念だな。」
「何がだね?」
「いや・・・つまり、平和的に話し合いでは解決できそうに無いってこと。」
「・・・ほぉ?つまり、君は私に逆らうということか?」
「いやいや。逆らうとかそれ以前の問題だ。」

おっと。衛兵さん達も武器を手に持って構えてるよ?ヴォルフにしても剣の柄に手をかけていつでも抜剣準備良し、ってか・・・
けどな・・・そんなもんがどうでも良いほど、俺は苛立ってんだよ。
俺にとって‘3大スキル最後のスキル’を使う相手は・・・正直、多くない。
その境目は2つ。
『俺がどうしても許せないヤツのため』か『俺がどうしても護りたい人のため』かだ。
そんで、その前者の場合には―――

「見せてやるよ・・・俺が創り出す絶望ってのをな!」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-mUIRK] 2006/05/19(金) 21:15:04

発明なんばー44!

‘ドゴンッ!!’

あまりの音に何人かが倒れた。
沸き上がった土煙の中から立ち上がろうとはしない。まあ立ち上がった所で、もう戦えるとは思えない。
何せ今、自分たちの目の前で起こったことが全くもって理解できないだろうから。

「・・・・え?」
「は?」
「な、な・・・何だあああああああ!?」

‘ドゴンドゴンドゴン!!!’

更に立て続けに3発の爆発音。
と言っても、実際は音と軽い衝撃だけだから誰も傷つきはしない。まあ、慌てて逃げまどってこけたり踏まれたりするヤツに関しては知ったことか。

「な、何だ!?何が起こってるんだ?!」
「お〜お〜、世界の法を語ってたわりには随分と慌ててるな?」
「き、君か!?や、止めるんだ!一体何をしているんだ!?」
「そんなもん俺が知るかよ。奇跡でも起こってるんじゃないか?」
「な、何を―――」

‘ドゴゴゴン!’

「ひ、ひいいいいいいい!?」
「やれやれ・・・こう土煙が広がってると何も見えないな・・・風でも吹いて欲しいもんだね。」

‘ヒュオオオオオオオオ・・・・’

「え、え・・・?」
「ちょうど運良く風が吹いたな。どうだ、視界が広がって嬉しいだろ?」
「う、うああああ!?」

もう、立っているのは俺だけだ。
騎士はちゃんと気を失ってはいないし、立ち上がりかけてもいるが、その顔に先ほどまでの余裕は欠片もない。
そして、他の取り巻きの連中はというと・・・誰もいない。
思ったよりショックは少なかったみたいだな。誰か1人くらいは気絶でもしてると思ったんだが・・・全員、逃げた後か。

「ば、馬鹿な・・・」
「さてと。お前1人になった所で、早速だが勝負といこうか。」
「ひっ・・・」
「お前の失敗は3つ。1つは俺に喧嘩を売ったこと。1つは自分の思い通りにならないからと破壊という手段を用いたこと。最後に・・・マリスさんを1人の女性として扱おうとしなかったこと。」
「あ、あ、あああああ・・・」
「以上の失敗が、お前の今後の人生においての成功の母となることを祈る。」

立ち上げりかけていたヴォルフを片手で持ち上げる。引力万歳!
そして、俺は思いきり右手を固めてそれを振りかざす。

「それでは、考察終了だ。」

全力のパンチ。
この世界ではヘビー級の世界チャンプにも負けない力の俺の拳が、見事にヴォルフの腹に突き刺さった。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-NvpGB] 2006/05/20(土) 20:19:02

発明なんばー45!

「ただいま〜。」

ヴェロンティエへと帰ってきた俺を待っていたのは、いつもの凛とした顔を少しばかり曇らせたマリスさんだった。

「レイ君・・・どう、だった?」
「ああ、当分はマリスさんに手は出そうとしないだろうな。」
「か、勝ったの・・・?相手は、騎士、でしょ?」
「後、衛兵やらが結構な数いたけど・・・まあ、全員は倒してないな。逃げられたから。」
「・・・すごい、のね・・・」

まあ、実際はかなり姑息な手を使ったわけだが・・・夢はきれいなままが一番だね。

「まあ、仕上げはまだ残ってるけど、もうマリスさんが疲れることは無いだろ。」
「・・・本当に?」
「なんなら、今日はキララに頼んでここに泊めてもらえないかな。確実に明日になれば全てに片が付くから。」
「・・・本当に、終わるの?」
「終わる。」

マリスさんがお城で働いていて、あの野郎が騎士である。
この関係を壊さない限りはマリスさんの悩みは無くならないんだろうけど・・・残念ながら俺には‘最終手段’が残っている。その一手を打ってしまえば、もうあの野郎がマリスさんに何かすることはできないはずだ。

「俺を信じろって。俺が無理なら、俺を選んだキララを信じろ。」
「・・・ふふ・・・ふふふふ・・・」

え?何?俺、何かおかしいこと言った!?

「うん。ありがとう・・・あなたを信じるわ、レイ君。」
「レイで良いぞ?何か、レイ君って呼ばれるとむずがゆいんだよな・・・」
「あなたが私をマリスって呼んでくれたら、そう呼ばせてもらうわ。」
「マリスマリスマリスマリスマリス・・・」
「ぷっ・・・何それ?・・ふふふっ・・・」

お?俺が今までに見てきたマリスさんの顔の中で一番良い笑顔だね!

「さてと。お礼代わりと言っちゃなんだが、クレープ売るの手伝ってくれないか、マリス?」
「ええ、もちろん構わないわよ、レイ。」

う〜ん・・・やっぱ、美人に呼び捨てにされると、思ったより恥ずかしい。


付け加えると、今日の午後の売り上げは午前の倍近く売れた。看板娘の存在って大きいんだね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-NvpGB] 2006/05/20(土) 20:20:26

ちょこっと休題
〜とある騎士の話〜



くそっ!何故だ!?何故、私の思い通りにならない!?
私は騎士なのだぞ!?百人の衛兵の中から選ばれた男なのだ!なのにどうして!?どうして彼女が手に入らない!?どうしてあの男に邪魔される!?
くそっ!邪魔だ!あの男の存在が邪魔すぎるのだ!消さなければ!あのような男に負けてしまったとい事実は消してしまわなければならない!

「・・・そうだ。あの男はヴェロンティエの料理人と言ったな・・・」

そうだ・・・ならば、適当に理由を付けてあの男を店もろとも潰してやろう!
そうすれば彼女も私がどれほど素晴らしい存在か分かるはずだ!
理由・・・そうだ、あの男は騎士である私を殴り、他の衛兵達に危害を加えたという立派な罪があるではないか!それまでの経緯は・・・そうだな、私が衛兵を連れて視察に行った時に襲われたということにすればいい。
よし、完璧だ!これであの男に絶望を味あわせてやれるぞ!

「ははははは・・・絶望を見るのは貴様の方だ!はははははは・・・」

‘コンコン・・・’

「む、誰だ?」
「騎士、ヴォルフ・ガイザック。私だ、開けたまえ。」
「き、騎士団長どのっ!?」

一体、何があったのだ?団長が自ら私を訪ねるなど・・・いや、ちょうどいい。この際、団長にこのことを伝えよう。そして騎士団複数であの男を捕らえてやる。

「はい。今開けます。」

‘ガチャッ・・・’

「団長。ちょうど良かった、私もお話ししたいことが―――」

‘ドガッ、ドタドタドタドタ・・・バンッ!’

「ぐあっ!?」

な、何だ!?何故、私が地面に横たわっている!?どうして他の騎士達が私を取り押さえているというのだ!?

「い、一体、何をなされるのですか団長!?」
「黙りなさいっ!君に団長と呼ばれるなど我慢なりません!」
「ひっ・・・」
「16騎士ヴォルフ・ガイザック!許可無く騎士の剣を持ち出して、他の衛兵と徒党を組み、1人の女性を襲おうとしたばかりか、それを庇った一般人1人に勝負を仕掛けたな!?」
「な―――!?」

馬鹿な!?何故、何故そのことを知られている!?他のやつらにも固く口止めをしたし、自分も捕まると知ってわざわざ言うようなヤツはいないはずだ!なのに何故!?

「そ、それは何かの間違いです!」
「嘘をつくな!我々は複数の証言を踏まえ、さらには王国第24世国王クロムウェル様が息女、第25世正当位王位継承者リリア姫の証言と命令により貴様を捕らえに参ったのだから!」
「り、リリア姫ですとっ!?」

それこそ馬鹿な!何故、王女が俺の行動など知っている!?そんなはずが無い!そんなはずが―――

「今、この場を持って君から騎士の資格を剥奪する!この男を牢に放り込んでおきなさい!」
「「はっ!」」
「ま、待ってくれ!そんな、そんなことは―――」
「往生際が悪いヤツだな。」
「全くだ。騎士の恥さらしめ・・・」
「心配するな。殺されはしないさ・・・最も、リリア姫の直命だからな。軽い罪で終わりはしないだろうが。」
「ま、国外追放だろう。」

そんな・・・私が、追放・・・?そ、そんな馬鹿な・・・

『見せてやるよ・・・俺が創り出す絶望ってのをな・・・』

・・・これが・・・あの男が作り出した・・真の・・・絶望・・・


翌日。この国の人口が1人減ることとなる。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-dVTml] 2006/05/21(日) 16:00:50

発明なんばー46!


「さて・・・レイ、どういうことか説明してくれないかしら?」
「えっと、それに関してはむしろ俺が説明を求めたいところだ。」
「へえ?つまり、あんたは何も知らないと言い張るわけね?」
「いや、だって本当に知らないし・・・」

そもそも、俺の脳でさえ今の状況を理解するのにはもう数分かかりそうだ。
だって、あり得ないよな?どうして、朝一番に起きてきた俺の目の前・・・店内がこんなに綺麗に掃除されてるんだ?いや、それは問題じゃない。それに関しては俺もキララも既に答えが出ている。
だって、目の前でほうきを持った人間が掃除は終わったと言う顔で片づけを始めてるから。

「あら、おはよう。遅かったわね、キララ、レイ。」
「えっと・・・色々と聞きたいことはあるんだけどね・・・」
「俺も色々と突っ込みたいことがあるんだが・・・」

多分、今の俺達の頭の中は完全に一致している。
俺とキララの間に言葉はいらなかった。そんなものが無くても通じ合っていた。
・・・いや、こんな通じ方はかなり嫌だが・・・

「「どうしてマリスがここにいる!?」」

ちなみに、今は俺が騎士の野郎を殴り倒した2日後。
リリアに頼んだためにヴォルフが国外追放になった翌日。
そう言えば、昨日はマリスが俺のとこに結果報告と改めてのお礼に来たよな。キララはちょっと怒った顔をしてたが、まあ勝手に騎士に喧嘩を売ったんだから仕方ない。マリスも随分と驚いた顔で、どうやってヴォルフに騎士を止めさせたのかを聞いていたけど・・・まあ、それは内緒だ。
それで、その後はちゃんとマリスをお城に送り届けて今日の準備をして寝たはず―――

なのに何故?

「あら、ミリアさんから聞いてないの?」
「何をよ?」

何故でしょう。もんのすごく嫌な予感がします。

「私、ここで働かせてもらおうと思って。」

ああ、なるほど。だから、以前着ていたこの店のエプロンを付けて掃除をしてるんだな。オッケーオッケー。疑問氷解。めでたしめでたし・・・じゃない!

「何ですって!?」
「聞いてないぞ!?」
「あらあらあら。私としたことが、言い忘れていましたね。」
「いつの間にいたのか知らないけど、説明してよお母さん!」
「ええ。簡単に言いますとお城での面倒は全て片づいたそうなんですが、やはり迷惑をかけたのは自分のせいなのでお城の仕事は辞めたそうです。」
「それで、これからどうしようかなと思ってたらミリアさんに会って、ここで働かないか?って聞かれたのよ。」
「以前、手伝っていただいたときからマリスさんの腕前は分かってますし、お給料も出せるくらいには余裕がでてるでしょう?」
「それに・・・レイに迷惑かけたから、そのお詫びもしたいしね。」
「と、いうわけで後はあなた達の答えなんですが?」

いや・・・さすがにこれでダメと言えるほど俺もキララも厳しくはないけど・・・
確かにマリスさんがいてくれればキララの負担も減るし、美人のウェイトレスまで増えて客足も増えそうだ。多分、よく働いてくれるだろうしね。

「そりゃあ、俺自体が居候ですから俺の意思では何とも―――」
「あたしは構わないけど・・・マリスは、本当にいいわけ?お城で務めるの辞めちゃって、普通のお店に来て。」
「ええ。このお店は普通以上に人気も実力もあるでしょ?それに正直、お城にいたらまた何か面倒なことに巻き込まれそうだし。ここなら、いざとなれば頼れる恋人さんがいるものね。」
「・・・それは、何かあったら俺を使うと?」
「当てにしてるわよ?」
「あんた・・・マリスに何をしたわけ?」
「あらあらあら、これが三角関係ですね。」
「「絶対に違うっ!」」

今日の収入。
40万ゼネー。
並びに、ヴェロンティエ所属、料理人兼給仕:マリス・インベルグ。
以上。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-NvpGB] 2006/05/26(金) 22:02:13

発明なんばー47!

さて、いつものように軽く所々にある段差を利用し、ジャンプを繰り返しながら4階までたどり着く。
もはや、この時間帯には当然の如く開けられている窓に手を掛け、静かに室内に入ると・・・いつも通りの笑顔で俺を待っている人がいた。
今日は机の上にティーセットが乗っている。そういえば、昨日、一昨日と飲む暇が無かったんだよな・・・

「今晩は、リリア。」
「よく来てくださいました、ファントム様。」
「昨日は悪かったな。リリアのこと友達とか言って、その身分を利用するようなことしちゃってさ・・・」
「いいえ。昨日は嬉しかったですよ?友人であるファントム様のお役に立つことが出来ると思って。お困りになられているのなら、力になりたいと思うのが本当の友達、そうではありませんか?」
「違いないな・・・そうだな、謝るよりも先に言うべきだった。ありがとう。」
「どういたしまして。それで、今日はゆっくり出来ますか?」
「ああ。ようやくリリアのお茶が飲めるよ。」

俺は用意されていた机の前に行き、そのまま椅子にゆっくりと座る。
リリアは丁寧にポットを回し、俺の方にあるコップと自分の方にあるコップに交互に注いでいった。
香ばしい空気が鼻をつく。うん、いいお茶だ。

「本当ならロヤーを入れるのですが、残念ながらそこまでは用意してもらえませんでした。」
「と言うか、2人分用意する時点で不審に思われなかったか?」
「ええ、少しだけ。けれども何とか言いくるめておきましたので、大丈夫です。」

う〜む、少しだけリリアが悪い子になってる。ごめんなさい王様、私はあなたの大切な娘を微妙にですが普通の女の子にしています。
あ、王様と言えば・・・

「そうだ。一昨日のことで、王様に何か言われた?」
「ええ。大変しつこく。」

だろうなぁ・・・自分の娘が見も知らぬ男と楽しそうに仲良く踊ってたら、そりゃあ気分が悪くなるよな。

「ファントム様は誰かと一生懸命に尋ねられました。もちろん、私は知らないと言っていましたが。嘘はついていませんし、ね。私は実際にファントム様がどこのどなたかは存じていないわけですから。」
「確かにな・・・それで、他には何か言ってた?」
「はい。大変めでたいことだと。」
「やっぱり―――って、めでたい?」
「はい。お父様は、私が異性に興味を持ったことが大変嬉しく、また興味を持たせたファントム様のことが大変お気に入りなさったようです。」
「それにしては、かなり睨まれてた気がするけどな。」
「私もそう思ったのですが、どうやら嬉しさで泣きそうになるのを堪えていただけだったようです。」
「・・・そこまで嬉しかったんだ?」
「そのようですね。そして、その・・・」

ん?どうしてそこで言葉に詰まるんですか?
ちょっと、こっちを見てください。いや、そんなうっすらと頬を赤らめて上目遣いに見ないで!何故かって?俺の理性が大ピンチ!・・・って、あれ?このパターンは以前やった気がする。いやいや、問題はそこではなく。

「何か言われたのか?」
「えっと・・・その、ファントム様を見つけ次第、何と言いますか・・・つまり、是非、会って話をしたいとおっしゃって・・・」
「そりゃあ光栄なことで。ってか、別に言いにくいことでもないだろ?」
「あの、続きがあるのですが・・・その・・・もし、お父様がご自身で納得なさった場合には・・・」
「場合には?」
「・・・‘お付き合いを認める’と・・・」

えっと・・・オツキアイ?
槍でぐさぐさ?それは突き合い。
恋人達の夏? それは熱き愛。
男は拳で語れ?それはどつき合い。
はい、ごめんなさい。無理がありました。大丈夫です、ちゃんと脳内漢字変換はしっかり出来ていますよ?

「・・・えっと、それは、そういうこと?」
「その・・・『お前も将来は王妃になるのだから、ちゃんと国王となる人間を選べ』と言われまして・・・」
「リリアが王妃で、俺が国王・・・ってことは?」
「その・・・私と、‘婚約’しろと、いうことです・・・」

婚約、ね・・・俺はまだ16才ですよ?日本では男性の結婚は親の許可あっても不可能なお年頃。むしろ身勝手に生きることが出来る青春真っ盛り!っていう年ですよ?
なのに婚約!?結婚!?しかも国王!?おいおいおい!確かにリリアは美人だね、それは認めよう。優しいから性格も良いしね、それも認めよう。恋人に欲しいかって聞かれたら10人が10人欲しいって言うね、それも認めよう。
けど!けど、いくらなんでも色々と話が飛びすぎだろっ!

「・・・聞かなかったことにしていいか?」
「すいません、こんなお父様で・・・」
「何というか・・・親ばかという存在を初めて知った気がする。」
「お父様は私のことになると周りが見えなくなってしまって・・・」
「きっと、『リリアさんを俺にください』とか言ったら酒を持ってくるな・・・」
「はい。よく騎士団長殿と杯を交わしています。」
「娘の成長が嬉しく、娘の選んだことは全肯定ってことか・・・やばい。いっそ睨まれてた方が楽だったかもしれん・・・」
「すいません・・・それに、私はまだ15才ですのに・・・」
「15?へえ、リリアって俺より年下だったんだな。」
「え?あの・・・つまり、ファントム様は・・・16より上、と、いうことですか?」

えっと・・・どうしてそんなに顔を真っ赤にしてるんですか?

「・・・あの、参考までに聞きたいけど、この国って結婚いくつから?」
「その・・・16から、です・・・男女とも。」

いかん、本気でやばい状況になってきたかもしれん。
ロード トゥ キング!みたいな状況が俺の前に!この道を行けば、どうなるものか?迷わず行けよ!行けば分かる・・・って、分かりたくない!

「うぅ・・・俺は普通に恋愛して結婚がしたい・・・」
「そうですね・・・私も、そうできたらと思います。」
「え?」
「私達王族は、ほとんど外の方達と関わりを持てません。そのため、結婚は常に見合いの形で行われます。お父様は偶然にもお婆様、つまりはお父様の母方ですが、その侍女であったお母様と恋をすることができました。しかし私には・・・」
「なるほどな・・・ちなみに、国王さんに仕えてる騎士の人とかは?」
「残念ながら、私と対等に接してくださったのはファントム様が初めてです。」
「ふ〜ん・・・ま、恋愛なんて始まるのは一瞬だしな。案外、近いうちに騎士の誰かとでも始まるかもしれないぜ?」
「・・・ええ。それなら、良いのですが。」
「応援はさせて頂こう。さすがに、俺は王には興味がないからな。」
「はい・・・きっと、ファントム様ならそうおっしゃると思っていました。」
「そりゃ嬉しいね。俺もリリアの考えてることが分かるように努力するか。」
「ふふふっ・・・頑張ってくださいね。」
「ああ。それじゃ、また明日の静かな暗い寂しい夜に。」
「はい。お気を付けて・・・」

いつものように窓からひょいと飛び降り、すぐ下の段差に飛び乗る。それを繰り返しながら下まで降りて、警備の人間がいないのを見計らって俺は一気に塀を跳び越えた。
空中に浮いた瞬間、チラッと後ろを見てみる。
うん。さすがにリリアは窓を閉めたようだ。それじゃおやすみ、良い夢を。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-NvpGB] 2006/05/26(金) 22:03:11

発明なんばー48!

「キララ。ちょっと言っておきたいことがあるの。」
「ん、何?」
「この前のことなんだけど・・・私が言ったこと覚えてる?」
「そんなんじゃ分からないわよ。具体的にいつ?」
「私がフォルトとお店に来た時よ。その帰りに言ったこと。」
「っ―――!」

覚えてるかですって?ええ、良く覚えてるわよ。っていうか、忘れるわけがないじゃないの!だって、あの時以来・・・もう、レイへの気持ちが完全に自覚できたんだから。

「あの時、私が言ったことなんだけど・・・訂正があるのよ。」
「え?」
「訂正箇所は2つ。1つ目は『敵が多いことは無い』っていうのと、2つ目は『応援させてもらう』ってところ。」

さてさて・・・マリスが言いたいことがいまいち分からないんだけど・・・?
あたしは、まあ自慢することじゃないけど、頭は良い方だ。調理免許の取得時には受験者の中でも上位に食い込んで合格したし、学科では校内で負けたこともあまり無かった。
けど、今回の問題は難問ね・・・

「・・・ごめん、よく分からないわ。」
「単刀直入に言うわね。私もレイの恋人に立候補させてもらうってことよ。」

あ、なるほどね。そういうこと・・・って、ちょっと待ちなさい。今、この友人は何と言ったか?立候補?何に?レイの恋人候補?えっと、つまりそれは・・・

「・・・マリス・・・レイに惚れたわけ?」
「ええ。ごめんね、こういう形になっちゃって。」
「いや・・・それは、いいんだけど・・・マリスがレイを好きになっても、まあちょっとは嫌だけど、別にマリスを嫌いににはならないし・・・けど、ひょっとしてお城を辞めてまでうちに来た本当の理由はそれ?」
「半分くらいはね。一応、昨日に言ったことも本当ではあるのよ?」
「呆れた・・・恋のために今までの仕事を辞めるなんて。」

あたしにはレイと離れないためにとはいえ、さすがにこの店を離れるなんてこと―――

―――ああ、やっぱマリスのこと言えないわね。すこしだけ考えちゃうなんて。
全く・・・こんな想いをする羽目になるとは、本当に今のあたしはあたしなのかしらね・・・

「はぁ・・・そのうちあいつ、町中の女の子に追い回されるんじゃないでしょうね?」
「可能性はあるわよ?自慢じゃないけど、あたしもキララも結構、可愛い部類に入るわけだし。その2人を惚れさせたんだから。」
「・・・お互い、難儀な相手に惚れたわね。」
「全くね。」

まったく・・・これじゃあ、この前の舞踏会であいつは本当に姫様まで狙ってたんじゃないでしょうね?さすがに姫様には負けるわよ?
でも、この前は言ってくれたんだっけ・・・姫様に負けてないって。
うぅ・・・このくらいで嬉しくなるなんて、あたしかなり重傷?もう手遅れかも・・・

「・・・ところで、レイは?」
「あいつなら今は買い出しに行ってもらってるわ。昨日、売り切れで仕入れられなかったのがあったらしくて―――」
「ただいま〜。」
「ほら、帰ってき―――」
「やっほ〜。」

・・・さて・・・あの男、どうしてやろうかしら。
噂をしてた直後に女の子を店に連れて来るとは良い度胸してるじゃないの!何よ、今の軽いやっほ〜ってのは!?あんたはそんな雰囲気の女が好みだってわけ!?だったらそう言えば、あたしだって少しは―――じゃない!
やばい!深刻な状況に陥ってる、あたし!?なるほど、恋煩いってのはこういう状況なわけね・・・って、落ち着いて考えてる場合じゃないんだってば!

「買い出し途中に女の子連れてくるとは・・・どういうつもりかしらね・・・?」
「キララ、落ち着いて。良く見てみなさいよ。」
「・・・は?」
「いたあああああああ!マリス、発見〜〜〜!」
「そこで会ってな。マリスを探してたから連れてきた。」
「そう言えば、まだ言ってなかったわね。」

どこかで聞いた声だと思ったら・・・あんただったの、フォルト。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-NvpGB] 2006/05/28(日) 10:52:04

発明なんばー49!

突然だが一句。
美女を見て 心が曇る 悲しくも 俺の未来に 光は見えず

簡単に説明すると、普通なら美女を前にすれば心が躍るよな?けど、今の俺はきっとこれから何か新しい問題が起こるんじゃないかとハラハラしてるってわけさ。そんで、間違いなくその問題に俺は巻き込まれるんだろうなあ、という悲しさを詠んでみました。

「どうして、マリスもお城を辞めちゃうのよお!?」
「別にキララはお城に務めてたわけじゃないんだけどね。」
「問題をすり替えるなっ!何故!?原因は何!?はっ!まさか―――」

えっと・・・そこで俺を見られても困りますよ?正直な話、確かに俺が原因な気はするけどね。だからといって、俺がここに来いといった訳じゃありませんし、お城を辞めたのはマリスの意思ですから。

「レイ君!君ね!?君がキララだけじゃ物足りず、マリスまで手込めにしちゃったのね!?」
「えっと・・・違うと言っておく。」
「いいえ!きっとそうよ!お城の生活に疲れてたマリス!そこに颯爽と現れたレイ君は手を差し伸べてこう言うの!『俺が君を癒してみせる。』って!そしてその優しさに心を打たれたマリスはその手を握り返して『あなたに私の体だけじゃなく、心まで癒せるの?』と弱みを見せちゃう!すると『君の全てを俺に預けてくれればね。』ってレイ君がマリスを抱き寄せて耳元でささやく。それを影で見ていたキララが『これからは親友だけど敵同士ね。』って健闘を誓って、そしてその公平な戦いの場として選ばれたのがこのお店!こうしてキララとマリスのレイ君を巡る静かな、でも逃れられない戦いが始まったのね!そうでしょう!?」

激しく違います。しかし、この一瞬でここまで話を拡大できるフォルトさんって・・・ひょっとして天才なんじゃないか?
ほら、何かもうキララとマリスが完全に固まっちゃってるし。あれだね、心なしか頬が染まって見えるのは怒りのせいですか?きっと、フォルトさんに対する怒りだね。間違っても、俺に恋したなんて馬鹿なことを言われたことへの怒りってことはないですよね?いや、出来ればない方向で。そうだとすると、余りに寂しいんで。

「・・・フォルト。ちょっとこっちに来なさい。」
「へ?」
「そうね、これはたっぷりと説明の必要がありそうだわ。」
「うぎゃっ!?ちょ、ちょっと2人とも!腕掴む力が強いよ!?痛いって!ぼ、暴力反対だよ!?」
「レイ。お店はしばらく1人でやっといて。」
「・・・出来るだけ早く戻ってこいよ〜・・・」
「いやあ〜!レイく〜ん!た〜す〜け〜て〜!」
「フォルトさん。」
「助けてくれるの?」
「・・・無事を祈る。」
「いやあああああああああ!」

こうして、3人は店の裏口から出て行った。
頑張れ、フォルトさん。君の運命は決して楽なものじゃないけど、乗り越えれば明日という未来につながるはずさ。
まあ、明日という日を無事に迎えられればの話だけど。



「おい、レイの兄さん。キララちゃんはどうしたんだい?」
「まさか喧嘩でもしたんじゃないだろうな?」
「はっはっはっは!やはりお前如きにキララちゃんを満足させることなどできなかったのだ!」
「ちょっとレイ君。喧嘩したなら早い所謝っちゃいなさいよ?」
「そうそう。こういう時は男が折れるべきよ。」

えっとですね・・・注文を終えて暇な時間帯に話しかけるの止めてください。手元が狂います。

「というか、喧嘩の原因は何だ?」
「ほら、やっぱり料理の方向性の違いとか。」
「いえいえ。きっとレイ君が他の子にちょっかい出したのよ。」
「ああ、そう言えば昨日は誰か別の子と話してたわね。」
「レイのお兄ちゃん、二股はダメだってお母さんが言ってたよ?」
「それでキララちゃんが今日はいないのね。」
「ああ。レイの顔も見たくないってことか・・・」

えっと・・・俺が悪者ってことは確定してるんですね・・・

「あのですね・・・別にキララと喧嘩してるわけでも何でもないですから!」
「じゃあどうしてキララちゃんがいないんだっ!」
「そうだぞ!俺達は毎朝ここでキララちゃんの笑顔を見るのを楽しみにしてるのに!」
「お店は開いているのにキララちゃんがいないなんて・・・納得がいくかあああ!」
「俺達の女神の笑顔を返せえええええええええ!」
「やかましいっ!料理の順番後に回すぞ!?」
「あ、それは嫌だ。」
「だったら黙って座ってろ!後、机に脚を乗せるな!そこは昨日キララが綺麗に掃除した場所だぞ!?」
「何いいいいい!?」
「お、俺は何ということをおおおおおおおおお!?」
「貴様ああっ!親衛隊として恥を知らんかっ!」
「すいません、隊長っ!」
「待てえええええええ!親衛隊って言ったか!?今、お前らそう言ったか!?ってか、隊長って冗談だろ!?」
「いかにも!」

そう言うと、先ほどから店の中央の一番大きな机を陣取っていた男共は変なポーズを決めて叫びだしだ。

「いかにも!」
「我らっ!」
「ヴェロンティエ応援団!」
「その名を―――」
「『キララちゃんを見守り隊』っ!」
「そして、俺が隊長のヴォンド・ネリケッシーだ!」

ぼんど・・・?・・・ねりけし・・・?・・・何か、すごいしつこそうな名前だな、おい!?粘着質なのか!?剥がそうと思ってもしつこくついて回るのか!?

「ヴォンと呼んでくれたまえ!」
「誰が呼ぶかっ!ってか、キララのためを思うなら少しは手伝えっ!」
「・・・そうだな。運ぶくらいはやってやろう。キララちゃんのために!」
「「「「「「キララちゃんのためにっ!」」」」」」

いかん・・・何か、目眩がしてきた。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/05/28(日) 19:35:02

発明なんばー50!
雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/06/04(日) 11:00:16


「お疲れ様。」
「うむ。キララちゃんの笑顔が見れないのは残念だったが、まあ普段キララちゃんが使う道具を堪能できただけで良しとしよう。」
「変態みたいだぞ、お前・・・」
「失礼な。好きな人の物を使えて嬉しいと感じることの何が悪い。」
「・・・何か、妙に説得力のある言葉だな・・・」

いや、間違ってるのは分かってるんだが・・・この男の自信満々の笑顔を見ていると、何やらそれが正しいような気がしてくる。
いかんな・・・ちょっと毒されてるか、俺?

「それでは、レイよ。またキララちゃんのために出来ることがあったら呼んでくれ。」
「多分、無いと思うが・・・」
「それではさらばだっ!」
「二度と来ないでくれ。」

はあ・・・ようやく一段落ついたな・・・お客さんもひとまずは収まったし。
問題は、もう2時間は経ったってのに戻ってこない3人娘だな。まさか、俺に隠れて遊びになんて行ってないだろうな?だとしたら、ちょっと寂しいですよ?

「ふう・・・ところで、ミリアさん。」
「はい、何でしょう?」
「お店にも出ないでいつの間にかそこにいたことはどうでもいいんで、とりあえず3人の様子を見てきてくれませんか?女の子の話し合いに男が入るのも何ですから。」
「あらあらあら。そういった気遣いは女の子印象プラスですよ?」
「激しくどうでもいいです。」
「それでは、キララ達を―――」

‘バンッ!’

「お母さん!」
「ミリアさん。」
「ミリアさんっ!」

おお、ビックリした。そんな息せき切って入ってくるなよ・・・しかもいきなり叫ぶ?お客さんが一応まだおられますよ、キララさん。あなたらしくもない。

「はい、どうしたんですか?」
「ミリアさんっ!キララとレイ君という腕利き料理人!マリスという美人給仕兼料理人!加えて、私という凡才ですがそれなりに可愛い給仕を雇ってみませんか!?」
「分かりました。」
「早っ!?」

ってか、何故にっ!?一体、どういう話し合いをすればそんな結論に達するんですか!?しかも、明らかに後ろの2人もそれで納得しようとしてるし!おいおい、待て!待ってくれ!一体、俺の知らない所で何があったんだ!?

「フォルトちゃん、お城を辞める理由は?」
「仲良し三人娘で一緒にいたいと思ったからですっ!」
「まあ、羨ましいですね?」
「それで良いんですかっ!?」
「うっさい!レイは黙って見てなさい!」
「キララ、一体どんな話をしてたんだよ?」
「聞いたらだめよ、レイ。そこは女の子の秘密なの。」

うぅ・・・不覚にもマリスという美女に、秘密とか言われてちょっとドキッとした俺って・・・いや、これは健全な男子として当然!・・・のこと、のはず・・・

「それじゃ、お城での退職届を出したらいらっしゃい。必要な書類はこっちで用意しておくから。ちゃんとお城でお世話になった人達にお礼は言ってくるようにね?」
「はいっ!よろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそ。」

はい、決定ですね。もう俺が何を叫ぼうが誰にも届きはしませんね。キララ、俺は家族じゃなかったのか?だったら、もう少しだけで良いから俺の意見も取り入れて!何故かって?だって寂しいんだもん。いや、男がだもんってキモイか?キモイよな・・・はあ、こんなんだからモテないんだよな、俺。そういえば、元の世界でも女の子は俺とは微妙に距離を置いてたっけ・・・やはり、あれか?持ってる雰囲気がちょっと近寄りがたいってことですかね?まあ、こればっかりはあの両親を恨むしかないな・・・

そういや、この世界に来てからもう結構な日が経ってるけど親父達はどうしてるかな?まあ、心配はしてないだろう・・・俺が山で迷子になって、ようやく再会できたと思ったら『何だ、今日はてっきり1人で山ごもりするかと思ってたぞ?』と、笑顔で荷物の片づけをしていた2人だ。きっと、俺がいなくなっても『そろそろあいつも世の中を知りたい年頃なんだろう』とか言ってるに違いない。まあ、心配かけてないというのが分かってる点ではラッキーな話だ。

「・・・元気してっかなぁ?」
「え?」
「レイ?」

っと・・・いかん、つい声に出してしまったか?

「何?あんた誰を心配してるわけ?」
「あぁ、親だよ。あの2人、俺に家事任せっぱなしだったから大丈夫かなって。」
「え・・・」
「そう言えば、レイさんのご両親には何も連絡していませんね。なんでしたら、教えて頂ければこちらからお手紙など出させて頂きますが?」
「ありがとうございます。けど、いいんですよ。正直な話、ここからじゃ絶対に連絡がとれない場所ですし。」
「ちょっと・・・レイ、あんた勘当されてきたんじゃ無かったわけ?」
「え?」
「だって、ここに来た日にそう言ってたわよね?」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/06/04(日) 11:02:16

発明なんばー51!

やばい!しくじった!?言われてみれば確かにそう言ってた記憶がある・・・あの時は、この場を切り抜けることしか考えてなかったから適当に言ったが、それがこんな所で裏目に出るとはっ!

「そ、それは・・・」
「やっぱり嘘付いてたのね?」
「・・・すまん。あの時は、こんなに長くここに世話になると思ってなくて・・・事実とかに色々脚色しておけば、後腐れもないだろうって思ってたんだ。」
「ってことは、最初の予想通り、あんたの本名もレイじゃないわね?」
「ああ、違う。」

う〜む・・・これは、本格的に嫌な空気かもしれん。一応、これって詐欺罪だよな?キララなんて俺のために仮の身分証まで造ってくれたわけだし。場合によっちゃ、今日から野宿かも?いや、下手すると牢屋行き?さすがに牢屋は嫌だな〜、冷えそうだしな〜。けど、騙してたのは事実だし・・・うぅ、逃げ場がない。

「はぁ・・・どうしてくれようかしらね・・・」
「・・・えっと、牢屋だけは勘弁してほしいかも。」
「冗談でしょ。」

ぐわ!?容赦無しですかっ!?牢屋行きを冗談と言い切るってことは、俺どうなっちゃうの!?ひょっとして秘密裏に暗殺!?完全犯罪の臭いがぷんぷんと!いかん、急いでダイイングメッセージを考えねば!ちょうどここはダイニング!って、シャレかよ!しかも寒い!1人ノリツッコミはなおのこと寒い!

「・・・出来るだけ苦しまない方法でお願いします。」
「いや、何を言ってるのよ、あんた?」
「へ?だって、俺、嘘ついてるし、住民票まで作ってもらってるし―――」
「改めて言うけどね。あんたが例え嘘ついてようが、騙してようが、あたしの店を助けてくれたのは事実でしょ?だったら、少なくともこの町で、この店で、あたしと働いてる以上、あんたはレイ・キルトハーツなのよ。別にあんたの素性をどうこうしようって気はないわ。そもそも、嘘の名前で住民票を取ってる人なんてここにはたくさんいる。その人達が別に悪いことしない限りは、自警団だって何も言わないわよ。」
「・・・とすると、俺は出て行ったりは?」
「はあ!?」
「何?レイったら出て行こうかと思ってたの?」
「こんな美女4人と働けるお店を?」
「あらあらあら、それは困りますね。」

おや?何か、話の流れが俺の予想と大分ずれてる気が?えっと、これはひょっとして?

「レイッ!」
「は、はいっ!?」
「この前のじゃ足りなかったみたいだから、もう一回だけ言ってあげる!あんたは私の仕事の同僚で!友達で!仲間で!家族なの!だから、もう二度とここを出て行くなんて言うんじゃないわよっ!?」
「わ、分かりましたっ!」

いやはや・・・・全く持って、キララは凄いと思う。ここまで俺の心に響く言葉を投げかけてくるとは何事ですか?多分、同じ台詞をミリアさんに言われてもここまではショックを受けないと思うんだよな・・・いかん、ちょっと嬉しすぎて泣きそう。
うわ、格好悪っ―――って、何だ?

どうして、‘キララが泣いてる’?

「キ、ララ・・・?」
「何よ・・・あんたが、変なこと言うから・・・あたしまで変に、なっちゃったじゃない・・・出て行くなんて・・・ふざけないでよね・・・馬鹿ぁ・・・」
「はいはい。キララ、落ち着きなさい。」
「そうそう。大丈夫だって、レイ君も出て行きたいなんて思っちゃいないんだからさ?」

えっと・・・友人の前だってのにキララは泣いていると・・・恥ずかしいよね?絶対に恥ずかしいはずだよね?さあ、それでは俺はどうするべき?
そんなこと決まってる!

「キララ・・・ありがとう。俺さ・・・この店がすごい好きなんだよ。まだほんの数週間だけど、ここって笑顔が溢れてる場所で、俺の料理を美味いって言ってくれてる人達がいて、マリスやフォルトさんに出会うきっかけをくれた場所で、ミリアさんに生きる場所を教えてもらった場所で、それに何より―――」

うぅ・・・人前だし、めっちゃ恥ずかしい!けど頑張れ、俺の羞恥心!

「何より、キララと一緒にいれる場所だから・・・」
「え?」
「だから・・・その、偽名だし、事情も話せないけど・・・もう少しだけ、この店に・・・いや、キララと一緒にいてもいいか?」
「っ―――!?」

よっし!言い切った!偉いね、俺!頑張ったね俺の羞恥心!もう休んでいいよ、お疲れ様!

「レ、イ・・・絶対、それを考え続けられる?」
「約束する。」
「・・・なら、許してあげる。」

ふぅ・・・ようやく涙が止まったようで。いや、正直なところマジで焦ったね。本当、これがもうお客さんとかが居る時だったら目も当てられないことになってたかも!だって親衛隊という存在が明らかになったことだしいや、良かった良か―――?
――――あれ?何か、キララの顔、余りに赤くないか?
いや、確かにお互いに恥ずかしいことは言ったけど、けど俺はキララの倍は恥ずかしいこと言ったから別にキララが―――――ん?

俺、何て言った?

『キララと一緒にいれる場所だから』
『キララと一緒にいてもいいか?』

えっと・・・説明しますと、俺自身はあれだよね?家族であるキララの側にいたいって意味だったわけで他意は全く無いんだけど・・・他人から聞いたら?
あんさ〜:愛のこくは〜く。
はい、大正解。

「って、ちょおおおおっと待ったあああ!」
「きゃっ!?な、何よっ!?」
「い、言っておくけど、俺は別に変な意味で言った訳じゃないぞ!?お前が家族だってことだから、ほら、あれだ!家族は一緒にいるもんだってことだからな!?そういうことだからな!?」
「わ、分かってるわよ、そのくらい!べ、べべべ別にあんたからけ、けっ結婚申し込まれたなんて思ってないわよ!?」
「け、結婚っ!?たっ、確かに俺はもう結婚できる年だけど―――って、そうじゃねえ!そんな勘違いだったのか!?」
「してないって言ってるでしょっ!そりゃあ、一応はあたしは16才だけどさっ!」
「ちなみに私も16だから、レイと結婚できるわよ。」
「誰がするかっ!」
「レイ君。私は15だから、1年待ってね?」
「何の話だっ!」
「あらあらあら、皆さん。」
「何ですかっ!?」
「何よっ!?」
「何です?」
「何でしょう?」

おや?何やらこの会話はちょっぴりデジャビュを感じますよ?
そうそう。確か初めてキララに家族って言ってもらうキッカケのあの時で―――ああ、つまりはそのパターンですね。あの時と同じだから、俺が振り返ってみればきっとそこにはあの時の光景が。振り返りたくないことこの上ない・・・



「午後のお客さんの前で痴話げんかは見苦しいですよ?」



はい、振り返れば予想通り。
そりゃあ、あんだけ大声出してたんだからみなさんの注目は集めまくりですね。確か最初から人がいたわけじゃないから、おそらく聞かれたのは俺の告白モドキあたりかな。
うん、勘違いどころか修羅場に違いないね。はい、万事解決。めでたしめでたし。

「そっか・・・レイ君はキララちゃんが・・・」
「そんで、キララちゃんも受けたと取っていいのかね?」
「良いんじゃないか?頷いてたし、顔は真っ赤だし。」
「けど、後の2人は?」
「新入りさんね。」
「レイ君。この国は一夫多妻は認めてないんだよ?」
「つまり、あれね。この2人が現在のところ婚約までしたレイ君達の間にどこまで入っていけるかが勝負の分かれ目ってことだわ。」
「面白そうだな、この店。」
「毎日ずっと通う必要があるわね。」

おうまいがー。何か状況が果てしなく変な方向に。しかもお客さん達は納得して、もはや平然と席に着き始めてるし!

「・・・始めるか。」
「そうね・・・誤解は料理しながら解くとしましょう。」
「同感だわ。」
「いつの間にか私までレイ君恋人候補になってる?」
「はいはい。それじゃ、ヴェロンティエを始めましょうかね。」

どうやら今日は料理の腕だけじゃなくて誤解を解く口も多用せねばならんようだ。
けれど、キララの言葉が聞けた代償としては安いもんだと思うね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/06/04(日) 11:04:20

発明なんばー52!

『俺は普通に恋愛して結婚がしたい』
『案外、近いうちに騎士の誰かとでも始まるかもしれないぜ?』
『応援させてもらうよ。』

昨日のファントム様の言葉が心から離れないのは何故でしょう。
それは当然のことで、私にとっても予想できていたことだというのに・・・どうしてこんなにも苦しくなるのでしょうか・・・病気ではなく、けれども同じくらい辛い思いになっていまいます。

「姫様、どうかなされましたか?」
「え・・・?」
「何やら考え込んでおられたようですが・・・何かお悩み事でも?」

いけません。ついつい侍女の方にまで心配をかけてしまいましたね。これでは王女失格です。

「いえ、今日は良い天気ねと思って・・・きっと、こんな日は町は活気に溢れているのでしょうね。」
「ええ、きっと。最近の話ですが、どうやらとても変わった料理を作る店があるということで評判のようですよ?」
「まあ、変わった料理?」
「ええ。確か、この前の祝宴の時に姫様はお食べになりましたわ。あのぱふぇとかいう食べ物を作っている店です。」

ああ。あの料理を・・・きっと他の料理も素晴らしいものが並んでいるのでしょうね。是非とも行ってみたいのですが、それは諦めるしかありません。このことも愚痴としてファントム様にでも聞いて頂くとしましょう。どんなお顔をされるかしら?食いしん坊だと思われたら・・・やっぱり、止めた方がいいかもしれませんね・・・

「姫様?」
「え・・・っと、ごめんなさい。また気を抜いてしまいましたね。」
「いえ。最近の姫様はとても自然に笑われるようになりましたから。私達としても嬉しいことでございます。」
「自然に・・・そう、そうかもしれませんね。」
「これは噂なのですし、私のような者がこのようなことを言うのも失礼なことですが、舞踏会で姫様とお踊りになったあの仮面の方と姫様が実はこっそり何処かでお会いしているという話も出ております。最近の姫様が以前よりさらに美しくお変わりになられたのはあの方のおかげではないかと。」

少しだけ焦りました。だってファントム様とこっそり会っているのは事実ですし、美しくかどうかは分かりませんが、間違いなく私が変わっているのはファントム様のおかげですから。けれど、今は誰にも言えない秘密です。

「失礼ながら、姫様はどうしてあの方をお誘いになられたのですか?」
「え?」
「実は・・・あの方については、騎士の方達でもなく、他の王族の方でもなく、ましてお城の者でもない方だということまで調べられております。」
「何ですって?一体、誰がそのようなことを?」
「クロムウェル陛下です。」
「お父様が!?」

あ・・・思わず大声を出してしまいました。
けれど、そんなことはどうでも良いことです。こればっかりはお父様に直接言わせて頂かねばなりません。もしもファントム様が見つかって、お父様に捕らえられたなら、そしてあの夜のお話しが出来なくなってしまったら―――考えただけでも恐ろしいことです。そんなことはたとえお父様でもお母様でも許すわけにはいきません!

「今、お父様はどこに!?」
「え・・・そ、その、おそらく今の時間は会議室で、何かのお話を―――姫様っ!?」

侍女の言葉を聞き終える前に、私の足は動き出していました。しかも、今まででは考えられないことですがお城の廊下を走って。これもファントム様の影響でしょうね。だからこそ、ファントム様のとの間を邪魔するなんて誰であってもさせません。


‘ズバンッ!’

扉を開くだけにちょっと大きな音を立てすぎたかもしれませんが、皆様の注目を集めるには十分だったようです。一番奥ではお父様とお母様が驚きの目でこちらを見ています。

「お父様!一体、どういうことですか!?」
「リ、リリア・・・?」

こんなに驚いたお父様達の顔を見るのは初めてですが、今はそんなことに構っている時ではありません。何としてでもファントム様について探られるのだけは止めさせなければなりませんから。

「リリア。何があったの?」
「お母様はいいんです。それより、お父様!」
「お、おう!?」
「私がお話しした、あの方の素性を調べさせているというのは本当ですか!?」
「な、何でそのことを!?」

つまり事実なのですね?これでお父様を許すわけにはいかなくなりました。

「それではお母様はご存じでしたか?」
「いいえ・・・というか、リリア?ちょっと落ち着いて―――」
「これが落ち着いていられますか!?」

ああ、今さらながらに分かりました。これが頭に血が上るということですね。私は今、自分の大切な人を侮辱されたような気がして、怒っているのですね。

「あの方は私の友人です!今まで出会った誰よりも大切で、私が最も心を許せる方なんです!その方の素性を調べるなんて、お父様!一体何を考えておられるのですか!?ただちに止めさせてください!あの方のことは私が一番分かっているなどとは言いませんが、それでも友人を疑われて平然としてられるほど私は愚かではありません!あの方は疑われることなど何一つしていませんし、私に危害を加えようとも決して致しません!どうしてそれが分からないのですか!?その程度のことも分からない方が私の父親だというのですか!?その程度の方がこの国の王だというのですか!?」

ここまで叫び、怒り、相手を睨んだのは初めてです。
けれど、それでも私の内心はまだ収まっていません。急いで止めさせなければ、こうしている間にもファントム様の元にお父様の兵が近づいていないとも限りませんから。

「答えてください!第24世王位クロムウェル陛下!」
「ぬおおおっ!?」
「やれやれ・・・あなた。早いところ謝ってしまった方は身のためですよ。そうして、あなたがやってる余計なお節介をさっさと止めることですね。」
「い、いや、でもよ・・・折角のリリアの気に入った相手だろ?その、連れてきて、お城にでも務めさせりゃ喜ぶかなって―――」
「それが余計なお世話だと言うんです!今すぐに止めさせてください!」
「お、おう!す、すまねえっ!この通りだっ!」
「・・・罰としてこれから1週間はお父様と、必要じゃない限りは口をききませんから。」
「な、何いいいいいいいっ!?そ、それだけはああっ!」
「知りません!」

ふう・・・ようやく少しだけ落ち着けました。お母様が苦笑半分、驚き半分といった顔で私の方を見ていますがそれは気にしません。これでファントム様と私の夜の逢瀬を阻むものは無くなったと思うのですが・・・問題は、このことを聞いていたここにいる方々ですね。やはり釘はさしておくべきでしょう。

「それから、分かっているとは思いますが!他の方達の誰も、私以外の誰も!あの方を不用意に探り、調べ、捕らえようなどとは思わないことです。もしそのようなことが発覚した場合、私の全権限を持ってその方にしかるべき処置を加えます。良いですね?」
「「はっ!仰せのままに!」」

これで完璧ですね。こっそりと調べる方はいるかもしれませんが、それはそれで逆に怪しく見えますし、大がかりに出来ない以上はさほど心配もいらないでしょう。何より、相手はあのファントム様ですから、そう簡単には捕まらないと思いますし・・・根拠は無いのですが。

「それでは私は失礼します。邪魔をいたして、すみませんでした。どうぞお話をお続け下さい。もっとも、これがあの方のお話で無い場合ですが。」

気分も随分と軽くなったことですし、今日の分のお茶でも貰いに行きましょう。今日はどのようなお茶を入れて差し上げたらいいでしょうか?ムレケを入れてみるのも良いかもしれませんね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/06/04(日) 11:05:55

発明なんばー53!

「リリア、あなた恋をしているの?」

それは、突然の言葉でした。
夜、部屋に戻りしばらくの間ファントム様に話すことを整理していると、お母様が私の部屋に入ってこられたのです。その時は珍しいことだとも思っていたのですが、まさか開口一番そのようなことを言われるとは思ってもいませんでした。

「お、お母様、何を―――?」
「あなた、最近とても綺麗に笑うようになったわ。それも国民や家来の人達に向ける笑顔じゃなくって、1人で何かを考えてる時にふっと見せる笑顔が。」
「そ、そんなことは―――」
「まさかと思っていたのだけど、この間の舞踏会で踊っていた相手の方。陛下ほどでは無いけれど、私も気にしていたのよ。もちろん、探そうなどとはしていないわ。でも、もう一度会いたいとは思っていた。極めつけに、今日のあなたの行動。あなたが陛下に対してあそこまで怒るのなんて、赤ん坊の時ですら無かった事よ?」

あぁ・・・やはり、お母様は強いです。お父様の様に力押しではなく、理路整然と私の逃げ場を封じていきます。しかし、ここで負けてしまってはいけません。今の私には何としてでも守らなければならないことがあるのですから。

「私には分かりません。あの時に初めてお会いしてお話しをしただけですから。それに、恋なんて私にはまだ経験のないものですし。」
「まあ、随分と口が上手になったのね?反抗期かしら・・・ちょっと娘の成長に感動だわ。」
「何のことか分かりませんが・・・そもそも何を根拠にそのようなことを―――」
「この部屋。」
「・・・この部屋が何か?」
「どうしてお茶が2人分あるのかしら?」
「・・・以前、侍女の方と頂いたままですから。」
「残念ね。侍女の子には『お母様と飲む』と言っていたみたいだけど?」
「あ―――それは・・・」
「ちょっと詰めが甘かったわね?」

・・・ひょっとして・・・全て分かっておられるのですか、お母様?

「そう言えば、あなたがよく笑うようになったのは舞踏会より前・・・そう、あなたが病気から快復した後からね・・・」

こ、これはいけません・・・このままでは、ファントム様ともう会えなくなってしまいます・・・そうなったら、私はどうすれば?また1人に戻ってしまうのですか?そんな・・・そんなことはいやです!あの方と会えないなんて―――


――――――イヤ―――――


―――え? な、何でしょう・・・体が、しびれて・・・震えている・・・?何故?・・・声も、出なくなって―――イヤダ―――あ、頭が―――ファントムサマトアエナイナンテ―――それに―――ソンナノ―――胸が―――アノヒトトハナセナイナンテ―――苦しいっ―――マタヒトリナンテ―――1人?―――サビシイ―――怖い―――カナシイ―――会いたい―――アエナイ?―――嫌です―――アエナイ―――いや―――アエナイ!―――やめてっ!―――アエナイ!!―――

「・・・っく・・・うっ・・・」
「つまりは―――り、リリア?」
「い・・・嫌っ、ですっ・・・そ、そんなっのっ・・・お・・・お願い、しますっ・・・私からっ・・・私から、彼をっ・・・あの人を、うばっ・・奪わないでっ、下さいっ・・・私の・・・私のっ、大切な人、なんですっ・・・初めてっ、リリア、って・・・友達ってっ・・・大切、なんですっ・・・あの人がっ、いないとっ嫌なん、ですっ・・・」

もう溢れてくる涙も、想いも、止まりませんでした。

リリアという名前に、今までにない喜びを与えてくれました。

誰かと屈託無く笑顔で話すという楽しさを与えてくれました。

自然に感情を出すという、人としての生き方を与えてくれました。

けれど、私があの方に渡せるものは無いから・・・

せめてこの想いだけでも、届けたいから・・・



「・・・愛してっ、いるんですっ・・・あの人が、世界でっ・・・一番っ、私にとってっ・・・愛したいっ、人なんですっ・・・」



結局のところ、お母様のおっしゃる通りなのです。
たった数回の逢瀬で、あの方は私の全てになっていました。
未知であった想いが怖くて、けれどそれは甘く、心地よくて・・・あの方と一緒にいつまでもいたいと願う自分が居て、それはファントム様の自由を奪うと分かっていたから、その想いに気付きたくなくて・・・
なのに、こんな別れ方は・・・まだ、どれほど私が救われたのか伝えていないのに、こんな風にあの人と別れてしまうなんて・・・
いいえ、別れるだけなら耐えられます。けれど、それ以上に・・・ファントム様の自由を奪うのだけは、もう身が引き裂かれるように辛いから―――

「だからっ・・・お母様っ、お願いしますっ・・・奪わないでっ・・・い、いいえっ・・奪っても、いいからっ・・・会えなくって、良いからっ・・大丈夫、ですからっ、私は、耐えれますからっ・・・だからっ、あの人はっ・・・あの人だけはっ、自由に・・・あの人にはっ、何もしないでっ・・・」
「リリア・・・」

気が付けば、私はお母様の腕にすがりつくようにして請うていました。もう、口から漏れているのは嗚咽と、あの方の無事を願う言葉だけで・・・

「お願いっ、しますっ・・・お願いっ・・・ひっ・・・」
「・・・ふぅ・・・ごめんね、リリア。そんなつもりじゃ無かったのよ。」

お母様の言葉に、ようやく顔を上げることが出来ました。おそらく、今の私の顔はひどいことになっているでしょう。けれど、そんなことはどうでもいいのです。ファントム様を守れるならば・・・

「あのね、私は別にあなたが彼と何をしようと、何も言いはしないわ。まあ、こんな夜遅くに窓から入るっていうのは感心しないけれど・・・けれど、別に彼を捕まえるとか、あなたと引き離そうなんては絶対に考えていないの。ただ、お礼を言いたかったのよ。」
「お、礼・・・です、か?」
「病気が治ったのは彼のおかげなんでしょう?そのお礼。そして、あなたにここまで感情を表せるようにしてくれたお礼。あなたの大切な人になってくれたお礼。そんなお礼を言いたかったのよ。あなたが望むのなら彼との邪魔をする気はないし、初めての友達というのなら祝福だってしてあげる。だから、もう泣かないで、ね?」
「ふっ・・・ひぃん・・・」
「はいはい。お母さんが悪かったわ、問いつめるようなことして・・・大丈夫よ、内緒にしておいてあげるから。直接、彼と会いたかったけれど・・・もうしばらくは止めておくわね。彼がここから離れたら、もうあなたは立ち直れそうにないから。」
「お、母様っ・・・あ、ありがとうっ、ございます・・・」
「うん、ちょっと横になってなさい。今日は誰もこの部屋に入らないようにしてあげるから。彼が来るのをゆっくりと待つといいわ。その代わり、何かあったらちゃんと言うのよ?私も、それにやり方はちょっと間違ってたかもしれないけど陛下もあなたのことが心配なのだからね。」
「は、はい・・・」

寝台に横になり、お母様の笑顔を見ていると自然とまぶたが重くなってきました。
きっとお母様は約束を守ってくれるでしょう。これでファントム様と、まだ会い続けることができます。本当に良かった・・・本当に・・・

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Frjsn] 2006/06/07(水) 19:56:08

発明なんばー54!

「さてと・・・いい加減、出てきなさったら?」

ギクリ。マジですか?

「質問ですが・・・いつから分かってました?」
「そうね・・・私がこの子に謝り始めたときかしら。」
「・・・完璧です。」

窓枠にかけている手に力を込めて、懸垂の要領ではい上がる。先ほど、一瞬だけ見えた部屋の中は随分と空気が和らいでるように感じた。

「先ほども言ったけれど、窓から入るというのは感心しないわね?」
「まさか正面から入るわけにもいきませんよ。しかも、理由がリリ―――姫様に会いに来た、なんてね。」
「ふふふ・・・名前で良いわよ。この子がそう呼ばれることは、本当に少ないから。」
「それはどうも・・・それで、俺をどうするつもりで?」

正直な話、状況はかなりヤバイかもしれん。
自分の娘をなだめるためだけに、さっきみたいなことを言ったとも限らないし。逃げるのは簡単だけど、そうなると本格的にリリアに会うのが難しくなる。あそこまで泣かれて、見つかったから残念サヨナラと言えるほど、俺は非情にはなりきれないし。
友達の泣く顔なんて、見たくないものベスト5に入るからな。

「捕まえる、と言ったら?」
「全力で逃げます。場合によってはリリアをさらって。」
「くすっ・・・それは困るわね。」
「いや、さすがに冗談ですけど。けれど、リリアと会うなってのはお断りですから。」
「ええ、分かってるわ・・・私からお願いが3つあるのよ。」

俺はランプの魔神か?けれど、今はとりあえずこの人の目を見ながら、その願いとやらの真偽を全力で確かめるべきだ。本当にこの人が娘の思いを受け入れてくれるかどうかってのを。

「まず1つ目なのだけど・・・これからもリリアと会い続けてください。」
「・・・は?」
「次に2つ目は、いつかリリアにあなたの本当の姿を教えてあげてください。」
「・・・は??」
「最期に3つ目・・・リリアを、お願いします。」
「はあ!?」

何が驚くかって、この人の目はどれも本気で言ってるってこと。
しかも3つ目は何!?最近、同じような台詞をやはり某母親から聞いた気がするのは何故でしょうかっ!?それはどういう意味!?

「えっと・・・1つ目と2つ目は良いんですが・・・3つ目の意味が分かりません。ってか、分かりたくないです。」
「リリアにここまで良い影響を与えてくれたあなたですもの。」
「はあ・・・」
「王としての資質は備えていそうですからね。」
「聞かなかったことにします。そういうことなら3つ目だけは却下です。」
「では、私達以上に大切な友人として、リリアをお願いします。というのならば?」

それなら問題ない。というか、任せて欲しいところだ。

「謹んで、あなたの願いをお受け致します。王妃様。」
「お願いしますよ。ああ、あなたのお名前を聞いてなかったわね?」
「えっと・・・リリアにはファントムって呼んでもらってるんですけど・・・とりあえず本名を教えておきますよ。」
「あら、いいの?」
「信じてますよ、王妃様。俺の名前はレイです。レイ・キルトハーツ。」
「まあ、あなたが・・・そうだったのね。」
「あれ?俺のこと知ってたんですか?」
「この前のパフェがおいしかったからかしらね。」
「なるほど。」

やれやれ。まさかこの世界で俺の隠された2つの顔を初めて知るのが王妃だとは思わなかったな。けれど、信じるに値する人ではあるみたいだし・・・問題は無いよな。

「それではレイ君。これをお持ち下さい。」

そう言うと、王妃様は自分の懐から何かを取り出した・・・って、鳥を描いたバッジ?これをどうしろって言うんだろ?

「これは?」
「その『紋章印』は王族の勅命を受けた証です。万が一、あなたが誰かに見つかるようなことがあれば、それをお使いなさい。そうすれば、誰もあなたのことを怪しみませんから。本当は、リリアから渡してもらうつもりだったのですけどね。」
「なるほど・・・俺が悪用するかもしれませんよ?」
「あなたが私を信じて名を教えてくれたお返しです。あなたとリリアの間に友情を示す秘密の名があるのなら、私はその紋章印をもってあなたへの信頼を示しましょう。」

うわっ・・・母親ってのは、本当に強いね。ここまで言われて裏切ったら、それはもう人じゃねえ。この印章が有る限り、俺はリリアの側で支えてやる義務ができたわけだ。

「意外と重いもんを渡してくれますね。」
「あなたなら潰されないと信じていますよ・・・さて、リリアが起きる前に私は行くとしましょう。このことは、あなたから伝えておいてください。」
「了解しました。」
「娘の寝顔でも眺めていてくださいね。」
「そんなこと言われると理性が揺らぐので止めてください。」
「そんな結果を出すのは感心しませんよ?」
「じゃあ、言わないでくださいって。」
「口づけまでなら許可します。」
「しません。」
「では、またいつかリリアが許してくれた時にでも。」

言いたいことだけ言って出て行った・・・どうしてこの世界の母親は強い反面、いたずら心がたっぷりなんですか!?そんなに娘を嫁に出したいか!?異世界からの人間に!?お願いですからもう少し警戒を!

「んっ・・・ファントム、様・・・」

とか考えてたらリリアの寝言が直撃!俺の理性に400のダメージ!しかも俺の名前!?クリティカルにも程があるよ!?起きてるのか!?本当は起きてるんじゃないですか、あなた!?

―――よし、寝てるね。ほら、ちゃんと目は閉じてるし、俺が顔を近づけても反応は一切ナシで―――いかん、本格的に理性がやばいかもしれん。

「・・・リリア、起きて。」
「うっ・・・あ・・・え?」
「あ〜あ〜・・・すごい顔。これは随分と泣かされたみたいだな。」
「え、え!?ふぁ、ファントム様っ!?」
「おっす。」
「ほ、本当に・・・ファントム様ですか?」
「夢だと思うなら頬でも引っ張るか?手伝うぞ。」
「あ・・・」

‘ボフッ・・・・’

ギャーーーー!起きあがったリリアさんの腕が俺の背中に!顔が俺の胸の中に!早い話が俺にリリアが抱きついて!?ちょ、ちょっと待って!何故に!?何故にこんな行動ですか!?お願い、理由の説明を!じゃなきゃ理性が大ピンチ!

「よ、良かったっ・・・また、また、会えて・・・」

あ、そういうこと。つまり、王妃様にばれてたらもう会えないかと心配してたってわけね?そういうことなら問題なし!理性はきしむが耐えることは可能だね。ついでだから調子に乗って俺も抱きかえしてあげよう。
だって、また少し泣いてるしね。これぐらいならやってあげても大丈夫だろ。
というわけで、俺はリリアの背中にゆっくりと手を回してやる。

「あ・・・」
「心配するなって。どんなことがあっても、リリアの前から黙って消えたりはしないから。友達なんだからな。」
「ファン、トム・・・様っ・・・はいっ・・・」
「それに、心配はいらんぞ?」
「・・・え?」
「実は、王妃様に会った。」

いや〜、その直後の反応は本当にすごかったね。
顔が青ざめるわ、急いで俺を逃がそうとするわ、王妃様のとこに直訴に行こうとするわで。大騒ぎのあまり、衛兵が一度入ってきそうになった。いや、止めてもらったけどね。
説明してからようやく落ち着いてくれたけど、紋章印まで見せてようやく納得してくれた。

「そうだったのですか・・・良かった。」
「ってなわけで、王妃様には後で改めてお礼を言っておいてくれ。何かすごいものまでもらったし。」
「ええ・・・私も持ってはいるのですが、それだと私限定の部下という形になってしまいますから。」
「これを持ってると、お城に務めることにならんかな?」
「いいえ。その証を授かったということは、王族から深い信頼を寄せられているということですので・・・別にそれを持つ方が何処で何をしようとも、全くの問題はありません。」
「・・・信頼されたもんだね、本当に。」
「大切にしてください。それは・・・世界では5つしか存在しないものですから。」
「へ?」
「私のもの、お母様のもの、お父様のもの、そしてお爺様とお婆様のものです。そして、ファントム様はお母様のものをお持ちになっていますよね?お爺様のものは、現在の騎士団長であるリュカー様がお持ちになっておられます。そしてお婆様のものは、お婆様が最も信頼なされた侍女長のかたに渡されたということです。その方はもうお城を辞められましたが、紋章印は授けられたままということです。」
「作り直したりはしないのか?」
「はい。これは1度渡された時点でその王族の者の手に戻ることはありません。もしあるとすれば、渡した者と渡された者が強く望んだ場合でしょう。」
「ふむ・・・なるほどね・・・俺はこれを返品したいところだな。」
「けど、それがあれば、もしもファントム様が誰かに見つかっても言い訳が出来ます。まして、お母様の紋章印ですから。」
「へえ、そんなもんなのか・・・ん?王妃様のってことは、ひょっとしてリリアのとは形が違うのか?」
「はい。紋章印には全てに鳥が描かれているのですが、その鳥の種類は持たされた王族の印象によって変わると言われます。お母様のものには愛の象徴と言われる‘ヒナ’と呼ばれる鳥が描かれています。」

ヒナなのに成鳥とはこれいかに?いや、だじゃれになったが、確かに美しい鳥が描かれている。

「へえ・・・それじゃあ、リリアのやつにも?」
「はい。私のものには‘ケジュケ’という鳥が。優しさを象徴する鳥なのだそうです。お父様は‘カカオス’と呼ばれる勇気を示す鳥が描かれています。リュカー様のものには・・・正確にはお爺様のものですが、これには‘テビモ’が。これは英断を象徴するのだそうです。残念ながら私はお婆様のものは見たことありませんが、今までの歴代の王族の紋章印は全て原画がしっかり管理されているので調べれば分かるでしょう。」
「優しさか・・・確かにリリアにはお似合いだな。」
「そ、そんなことは・・・」
「だって、俺のこと心配してくれたんだろ?まだ、顔に涙の後が残ってる。」

そう言うと、リリアは顔を真っ赤にして両手で押さえてしまう。
うん、可愛いく貴重な仕草をありがとう!他の女の子がやったらぶりっ娘みたいだけど、リリアなら自然に見えて許せるから不思議だね!

「とりあえず、これで王妃様公認にはなったわけだし・・・そのうち、3人でお茶でも飲むか?」
「いいかもしれませんね。お母様は料理も出来るのですよ?」
「そりゃいいな。お茶菓子があればもう完璧だね。」
「ああ、そうですね。気が付きませんでした。」
「ふっふっふ、そんなことでは真夜中お茶会昇級試験には受からないぞ?」
「まあ、そんなものが?それでは頑張らないといけませんね!」
「信じるの!?」

そんな冗談を繰り返しながら、リリアの笑顔を眺めることにする。その日は、涙の跡が消えてリリアが自然に笑えるようになるまで話を続けた。
けれど、リリアさん。
俺が言った冗談の半分を真に受けるのはどうかと思うよ?

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Iogng] 2006/06/09(金) 21:13:24

発明なんばー55!


キララに泣かれて

リリアに泣かれて

おいおい。俺ってこんなキャラだったか?女の子とのお付き合いはいつだって真面目に誠実にがモットーの俺はどこいった?この世界に来てから俺には女難の相が出てること間違いなし!そういやマリスの件も女難っていうんだろうな・・・ならば俺はしばらく女性に近づかない方がいいのか?

やっぱ、無理だよね。美女3人と一つ屋根の下。近づくなってのが無理。そして―――

「問題を回避するってのも無理だよな・・・」
「「「言いたいことはそれだけか?」」」

状況説明。
目の前。黄色の腕章を付けている野郎共が数名。
右手側。薄紫の腕章を付けている野郎共が数名。
左手側。漆黒の腕章を着けている野郎共が数名。
背中側。壁。

まあ、すごい。周りが見えないどころか明日が見えない。

「さて、レイ・キルトハーツ・・・俺達に捕まってる理由は予想が付いているな?」
「予想が付かない方がいっそ幸せかもしれん。」
「分かっているならいい。貴様の罪は3つだ!」

その罪ってのも予想が付くのがさらに悲しいところだ。

「1つ!我らがキララちゃんに手をだしたこと!」
「1つ!我らがマリスちゃんに手を出したこと!」
「1つ!我らがフォルトちゃんに手を出したこと!」
「「「よって、貴様の罪を俺達が裁く!!!」」」

・・・泣いていいですか?無駄を承知だから言わないが!言わないけどさ!何も出してねえええっ!そもそも黄色のやつらはいい、確か『キララちゃんを見守り隊』とかいうヤツ達だ。けど、残りの二つは何?
俺は、それぞれの先頭に立つ隊長格を指さしてみる。

「時に、お前とお前の名前は?」
「俺の名前は『マリスちゃんを愛し隊』隊長、ノーリ・テイプスだ!」
「私の名前は『フォルトちゃんを抱きしめ隊』隊長、ガンム・ナットゥ!」

・・・うん。沸き上がるこの感情は、間違いない。殺意だ。
のり?テープ?ガム?納豆?どんだけ粘っこそうな名前してんだよお前らはっ!?そんな名前のやつしか隊長になれないのか!?しかも親衛隊が3つに増えたし!だってマリスもフォルトも店に顔を出したのは昨日で2度目なんだぞ!?いくら何でも早すぎるわっ!

「3大美少女を独占しおって!」
「してねえ。」
「どうせ俺達のいないところであ〜んなことや、こ〜んなことをやってるくせに!」
「どんなことだ。」
「レイ・キルトハーツ許すまじ!」
「知るか、そんなもん。」
「ここで貴様に引導を渡してくれるわあああああっ!」
「勝手なこと言ってんじゃねええええええええっ!」




数分後。人の山の上に俺は立っていた。

「く、くそっ・・・この人数では、足りないのかっ・・・」
「もっと、隊員を増やさねばっ・・・」
「増やすな。お前達のせいで買い出しにきたのに荷物がメチャクチャに―――」
「ふっ・・・あ、甘いな・・・荷物は、あそこに、丁寧にっ・・・」
「はあ?」

なるほど。確かに一部分だけ荒らされていない綺麗な場所があり、そこに買いに来た材料が埃一つ付かない状態で置いてある。

「た、たとえっ・・・貴様はどうなろうともっ・・・」
「わっ・・・我らが、女神達に迷惑は、かけんっ・・・」
「こ、これが、我らの、信念だっ・・・ガフッ・・・」

あ、落ちた。

ふむ・・・腹立つし、邪魔くさいし、俺には良い迷惑だが―――この前のヴォルフ達とは違って、どうやら真剣にキララ達のことを考えてるヤツ達なわけか。
うぅ・・・憎むに憎めない・・・

「ったく・・・俺、これからずっとこいつ達に追い回されんのか?」

どうやら、美少女3人と一つ屋根の下というのは思った以上に大変なことのようだ。




「「「親衛隊ぃ?」」」
「あらあらあら。」

ちょっと帰ってくるのが遅れた理由を説明した直後の美少女3人+美女1人の反応。

「ああ・・・確か『キララちゃんを見守り隊』『マリスちゃんを愛し隊』『フォルトちゃんを抱きしめ隊』だったか・・・お前ら、俺に恨みでもあんのか?」
「あたし達に言わないでよ。」
「はぁ・・・お城を辞めた直後にこれなのね。」
「私も2人と同列になれるとはね〜、ちょっと嬉しいかも。」
「けど、抱きしめ隊だぞ?」
「・・・うぅ、それは嫌っす・・・」
「それにしても、そんなもんに絡まれて良く平気だったわね。あんたも、荷物も。」
「ああ。意外と正々堂々とした連中だった。」
「そうなの?」
「俺にはともかく。少なくともキララ達に迷惑をかけることは無いはずだ。だから―――」

俺はわずかに顔をいつもよりこわばらせていたマリスに目をやる。

「ま、前回みたいなことにはならんだろうから、心配するな。もしなったとしても俺がいるから。」
「あ―――ええ、ありがとう。頼りにしてるわよ、恋人さん。」
「お礼も良いが、その呼び方が敵を増やすことに気付いてくれると、なお嬉しいね。」

俺の背後からの視線の圧力が30パーセント増加した気がする。ってか、ちょっと待って。さっき全員倒したんじゃなかったか!?ひょっとして、実はまだ結構な人数いたりするのかよっ!?

「それじゃ、今日も張り切ってやりますかね。」
「レイは親衛隊に気をつけてね。」
「大丈夫だろ、店の中で暴れたらお前らに迷惑かかるって分かってるみたいだし。」
「いい人達ではあるのね。」
「親衛隊をやってる人達がいい人ってのはどうなんだろ?」
「フォルトさんの意見に一票だ。」
「それでは始めましょうね、みなさん。」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-rVJKB] 2006/06/11(日) 12:59:12

発明なんばー56!

「キララお姉ちゃんは、レイ兄ちゃんと結婚するの?」

待って・・・待って、君。君の言葉がとっても純粋な気持ちから出てるってのはよく分かるし、悪意が無いのは百も承知よ。
けど・・・けれども!これだけは言わせて。

「あのね・・・次にその言葉を言ったら、ハンバーグを一回り小さくしてあげるわ。」
「うっわ、子供に何て事を言ってんだよ、お前。」
「こういうのは子供の頃から教育しないとダメなのよ!」

相変わらず忙しい店内で、あたしが偶然に側を通った机の家族。そこにいた小さな女の子が放った一言があたしの足を止めてしまった。

「だって、お母さんとお父さんと同じだよ?一緒の家に住んで、一緒のご飯食べて、一緒にお仕事してるもの。」
「それは仕方ないの。」
「どうして?」
「どうしてって・・・その、うん、あ、あたし達は家族だからよ!」

そうそう。以前からレイにだってそう言ってたわけだし。何も慌てずにこう言えば良かったのよ。

「分かった?」
「ふ〜ん・・・じゃあ、もうレイ兄ちゃんとは結婚してるんだね!」

―――なるほど、そう言う取り方もあるわけね・・・ああっ!ちょっと周りの視線がすっごく恥ずかしいじゃないのっ!そもそも、あたしにどうしろって言うわけ!?こんなこと初めて聞かれたから今すぐに答えろなんて無理よ!?

「えっと、そうじゃなくって―――」
「お〜い、嬢ちゃん。」
「れ、レイ?」
「うんとだな。嬢ちゃんのお父さんとお母さんは、元々は他人だったよな?」
「うん。」
「それが、お互いにとっても大切になったから家族になったんだよ。」
「うん!」
「けど、俺とキララは最初から家族なんだ。他人じゃなかったからな。だから、俺とキララは嬢ちゃんの言うような関係じゃ無いんだよ。分かったか?」
「う〜ん・・・よく分からないかも・・・」
「そりゃ、腹が減ってるからだ。というわけで、この特製大盛りお子様定食を食べてみな。」

ちょっと、いつの間にそんな新料理作ってたわけ・・・?いや、助かったから良いんだけどね。話をうまいこと逸らして、豪華料理を並べて頭から消しちゃうと・・・レイって、やっぱ頭の作りが普通と違うわね・・・

「あ、あの、お代は・・・・?」
「ああ、元々のハンバーグの料金の半分で頂きます。一応、新料理なんで。」
「うおっ!?これ、小さいけれどハンバーグにスパゲッティ、チャーハンまで!?それに何か見たこと無いやつまで入ってるぞ!?」
「その黄色いのはプリンって言うんだ。一番最後に食べるといいぞ。」
「は〜い!」

いくら話を逸らすためって言っても豪華すぎない・・・?これで半額じゃあ赤字になっちゃうわよ・・・

「おい、レイ!その料理こっちにもくれっ!」
「お子様定食だって!大人が頼むなっ!」
「何いいいいいいい!?」
「ぼ、僕3才でちゅ!」
「気色悪いわっ!」

なるほどね。子供用にしておけば一緒に来る大人が頼む料理で赤字分が消されるってわけか・・・良い考えだわ。

「それじゃあ僕もっ!」
「あたしも〜!」
「すいません、この子にも。」
「・・・予想外の多さで、少し泣きそうだ・・・マリス、手伝ってくれ。」
「分かったわ。フォルト、ちょっと給仕は1人でお願いね。」
「えええっ!?そ、そんなのって有りっ!?」
「お〜い、こっちにニマルチア一つ。」
「は、は〜いっ!」
「おい、キララ!暢気に立ってる暇はないぞ!」
「分かってるわよ!」

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/06/14(水) 22:09:01

発明なんばー57!

「あら?レイは・・・?」
「あら、本当。ねえフォルト、レイが何処に行ったのか知らないかしら?」

ようやく今日も一日頑張って仕事を終えたってのに、どうしてレイがいないわけ?あたしの仕事終わりはレイへの挨拶で終わり―――って、我ながら最近、本っ当にレイ中心の思考になっちゃってるわね・・・あたし、もう手遅れかも。

「えっと―――秘密ってことで。」
「知ってるのね?」
「うんとね、知ってるんだけど教えられないっていうか、すぐに分かるから見ててっていうか―――」
「まどろっこしいわね?さっさと言ってよ。」
「フォルトさん、準備出来た?」
「あ。ちょっと待ってて!」

何よ、早々と自分の部屋に戻ってたわけ?けど、今の準備って何の事よ?もう今日の分は終わってるんだから、今さら準備することなんてないわよね・・・何か新しい料理でも作ってくれるのかしら?

「ちょっと、レイ。フォルトと何をしようとしてるの?」
「ん?ああ、フォルトさんが珍しい野菜が置いてある穴場の店があるって言うからさ、教えてもらおうかと思って。」
「あ、そういう―――って、待ちなさい。」
「ん?」
「えっと、今の話を聞く限りだとレイとフォルトの2人だけで行くってこと?」
「ああ、遅くならないように帰ってくるよ。」

問題はそこじゃないってことに気付きなさいよ!いや、気付いたら逆に恥ずかしすぎて嫌だけどさっ!2人?2人だけ?2人だけって言ったわね!?冗談じゃないわよ!どうしてあんたがフォルトと一緒に仲良く買い物に行くのを黙って見てなきゃいけないわけ!?

「フォルトさんから言うって言ってたけど・・・何も聞かされてなかったのか?」
「ええ、ええ、何も聞いてないわよ?聞いてませんとも!」
「確信犯ってことね・・・いい度胸してるじゃないの。」
「マリス、怖いって。それはともかく、ちょっと出るから。」
「待ちなさい!そういうことならあたしも一緒に―――」
「はい、お待たせ!ごめんねレイ君、待ったよね?そんじゃ行こうかっ!2人ともお店はよろしくっ!いってきまっす!」
「え、いや、待ってくれって!あ、それじゃ行ってくる!」

逃げた!?しかも2人同時に全力疾走!?レイったらフォルトみたいなのが好みなわけ!?だから一緒に行くとかそんな理由なの!?

「・・・上等じゃないの。」
「ええ、これはフォルトからの宣戦布告と取って良いわね・・・手加減はしてやらないんだから。」
「マリス。この後、何か用事はあるかしら?」
「いいえ。」
「それじゃあ、あの2人追いかけるわよ。」
「当然ね。」

別にフォルトを嫌いになったりとかはしないけどね・・・けど、好きな人が他の女の子と一緒にお買い物してるのを黙って見送れるほどあたしは良い子じゃないのよ!



「それで、どうしてあんな風に出てきたんだ?キララ達にも黙ってたのは、忘れてたわけじゃあないんだろ?」
「あのままだと絶対に付いてきそうだったから!」
「だめなのか?」
「レイ君・・・君は女の子と2人っきりでお買い物っていう状況を楽しみたいとは思わないわけ?」
「個人的には両手に花を希望。現状としてはその組んだ腕を解いてくれると、親衛隊からの視線の圧力が減って嬉しいね。」
「ならばこれなら?」

そう言って、フォルトさんは俺の腕を力強く―――って、誘ってるんですかあなたは?具体的に言うのははばかられますが、漢字一文字、平仮名二文字の部位。おそらくは標準よりも小さめとはいえ、それでも感じる程度の大きさのアレが俺の腕に当たってるんですよ?

「どう?どう?」
「・・・えっと、回答なしで。」
「ちぇっ、つまんな〜い・・・」

ほっ・・・ようやく腕から離れてくれたよ。とりあえず、背後からの親衛隊からの圧力も微妙であるけど柔らかくなったようで、命の危険も一旦回避のようで。

「そんで、お勧めのお店っていうのは?」
「ちょいと裏道を通るけど、大丈夫だよね?」
「からまれることを考えているなら大丈夫だと思うぞ。一応、素手でなら負けることは無いと思うし、いざとなったらフォルトさんを抱えて逃げるぐらいは出来るし。」
「そんじゃ、こっちだよ。」

俺はフォルトさんの後を追って裏路地に入っていった。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-MCwJG] 2006/06/16(金) 21:44:03

発明なんばー58!
最初の門を右、次を左、さらに次も左、以降、右右左右、坂をちょっと降りて左右。これを繰り返すこと数分。


「はい、到着。」
「確かに普通にやってる分には絶対に見つからない場所だな。」
「うん。いつも決まった時にしか開いてないんだけど、売られてるやつの味は保証できるわよ。」
「へえ・・・すいませーん!」
「おばあちゃーん!いないの〜!?」
「は〜いはいはい。」

おお。日本ならいかにも駄菓子屋にでもいそうなお婆ちゃんがっ!何かとっても暖かみのある声でちょっと懐かしいかも・・・うぅ、俺っていつになったら帰れるんだ?

「おんやまあ、今日はフォルトちゃん1人じゃないんだねぇ?」
「うん。最近、一緒の職場で働くことになった人よ。名前はね、レイ。レイ・キルトハーツっていうの。」
「初めまして。」
「はいはいはい・・・好きなの見てってくださいよ。こんなお婆のやってる店だけど、味の方はちゃ〜んと保証できるもんになってっからねぇ。」
「ありがとうございます・・・そんじゃ、ばあちゃん。このイカノグ、ちょっとかじっていいかな?」
「ちゃ〜んと、代金は払っとくれよぉ?」
「もちろん。」

そう言って、俺は手に持ったイカノグを一口かじる。
・・・・うん。こりゃあ、かなり良質だ。キララが言うにはこの野菜はかなり扱いが難しくって、これが美味い店は間違いなく素晴らしい店だということだ。

「ばあちゃん、これ美味いよ!」
「そりゃあ良かった。レイ君みたいに美味しそうに食べて貰えると自分で頑張って育ててる甲斐があったってもんだねぇ。」
「え?ばあちゃん、ここの野菜とか全部自分で作ってるの?」
「もちろんだよ。その方が少ないかもしれないけど、おいしいからねぇ。」
「ふ〜ん・・・ばあちゃん、この野菜ってお店には注文できんのかな?」
「それはどうだろうねぇ。何にしたってこんなお婆じゃ店まで運べないし、大量にも作れないしねぇ。」
「量の方はこっちで調整できるんだが・・・そっか、ばあちゃんに運んでもらうわけにはいかないもんな。」
「そうなのよね。この店がもちっと大通りに出てればこっちで取りに来れるんだけど。」

なるほど。確か運送屋みたいなのもいたから、その点では全く持って心配する必要がないわけだ。つまりは場所か・・・まあ、ばあちゃんの家を引っ越させるってのは無茶苦茶だから仕方ないか・・・

「昔はここも、もうちょっと大きな通りにつながってたんだけどねぇ。」
「え?そうなのか?」
「ほれ、隣に見える大きな建物があるでしょう?それがどんどん土地を買い取っていってねぇ、あれよあれよと離れた場所に追いやられたってわけさぁ。」
「へぇ〜。こんな良い野菜作ってるのに、無茶なことするな。」
「これが時代ってことさね。レイ君、お店で注文ってのは無理だから、君個人で買えるだけ買っていくといいよぉ。ちっこいけど、台車も貸したげるしねぇ。」
「ありがとう、ばあちゃん。そんじゃとりあえず―――」



お店を出てから、その帰り道。
背負った大量の野菜も今の俺には大して苦にならないし、道だって狭いけど通れないほどじゃない。そんな理由でスムーズに歩を進めていた俺だったんだが―――

「ねえ、レイ君。」
「ん?」
「聞いて欲しいことがあるんだけど。」
「と、言いますと?」

美少女が言葉を切って考える様子っていうのも中々絵になるものがあるけど、あまり焦らされてもなぁ・・・

「うんとね。実は私さ、あんまりレイ君のこと好きじゃないんだよね。」

―――いきなりの拒絶宣言?
俺、何かしましたか?一応、フォルトさんの迷惑になるようなことは何もしていないつもりなんですが!っていうか、あなたと関わりがあるようなことで何かしたとは俺には到底ですが思えないっ!

「えっと・・・とりあえず何故に?」
「いや、別にレイ君が悪い訳じゃないってのは分かってるんだけどね?ほら、私とマリス、それにキララって調理学校の時から仲が良かったわけじゃない。けどさ、君は突然だけどあっさりと私達の中に入って、あっさりとマリスとキララの心を掴んだでしょ?正直な話さ、ちょっと嫉妬してるんだ。」

あ、そういうことね・・・そりゃあ、確かに怒るかもしれんな。怒らないまでも不機嫌にはなって当たり前というか、不愉快というか。
重心、中心、その他諸々がどの角度に置いても全く変化しない、完全なる安定した物体とも呼ばれる球体にさらに改良を加えようとして何かを付け足せば、それはもはや重心、中心、その他諸々が全て崩れてしまい、不完全どころか不安定な物体へと変化する。
3人で球体であったはずの場所に、俺という何かが付け足された。これは確かにフォルトさんにとってはイレギュラーでしかないはずだ。それでも2人が、キララとマリスが俺を平然と受け入れてしまっているという事実に必死に対応しようとして、そのためにヴェロンティエまでやって来たんだろう。不安定で不完全となった関係を、元に戻そうとして。

「う〜ん・・・難しい問題だな、それ。」
「そうそう。正直な話ね、好きじゃないって言ってはみたけどレイ君のことを嫌いには、どうしてもなれそうにないんだよねぇ。さっきのお婆ちゃんと話してる顔とか内容とか聞いててもレイ君がいい人だってのよく分かるし、キララとマリスの2人が―――まあ、仲良くしてるってのも納得がいくことではあるんだよね。」
「10段階評価でいくと3くらい?」
「う〜ん、4ぐらいでいいかな?」
「まあ、普通よりかはちょっと嫌ってぐらいか・・・好きじゃないって言われた割には好かれてると考えてもいいよな?」
「けど、やっぱり普通よりかは嫌なんだよねぇ・・・さて、ここで提案です!」
「どうぞ。」
「これから共同でお店をやるについて、このままお互いに距離を置いていてはいけないと私は思うのですよっ!よって、レイ君!」
「はい、何でしょう?」
「これから出来るだけ早い内に、レイ君の素晴らしい所を私に見せて、私を君に惚れさせて下さいっ!それなら一発解決だよねっ!?」
「ごめん、無理。」
「早っ!?」

いや、惚れさせてとか言われてもねぇ・・・

「俺、今までに恋人がいたことって1回しかないし。」
「ええっ!?」
「告白されたことなんて全くないし。」
「うそっ!?」
「むしろ(某理由によってだろうが)敬遠されてた感すらあるぞ。」
「はいいいっ!?何故にっ!?一体、君は故郷で何をしてたわけっ!?」
「いや、特に何も。まあ、仕方ないんじゃないか?お世辞にも俺の顔は、まあ格好良いとは言えないみたいだしな。あまり大声で言いたい話じゃないけど同い年の女の子と目線を併せると逸らされることってしばしばだし。不細工とまでは思わないけど・・・ひょっとすると、別のとこに問題があんのかもな。」

まあ、前から考えてたことではあるんだよな・・・いや、別に女の子囲んでハーレムってのは無いけど、俺だって男ですからね!女の子と健全なこととか微妙に不健全なこととかしてみたいのさっ!

「その辺りは俺もよく―――」
「・・・えっと、激しく勘違いしてない?」
「何が?」
「・・・うん。一応、君と君の周りの女の子のために誤解を解いてあげようとも思うんだけど、面白いからもう少しこのままでいてもらうね。とりあえず、そこに関しては問題なし!だって、あたし誰かを好きになるのに顔とか2の次3の次だからっ!」
「人は誰でもそう言うとは思うけどね。」
「それはいいの!それに君がもてないって、そんなことはないでしょ?」
「何を根拠にそれを?」
「だって2人ほどいるでしょ?」
「・・・いたかな?」
「ほら――――」
「「こらあああああああああああああああああああ!!」」

・・・えっと、さすがに驚いた。ってか、いつからそこにいたんでしょうかあなた達は?

「フォルトッ!あなた何を言うつもりだったわけ!?」
「場合によってはただじゃ置かないわよ?」
「き、キララッ!?それにマリスまでっ!?」
「ひょっとして、2人とも店から追ってきてたのか?」
「レイは黙ってて!」
「フォルト。あなたとはもう一度ゆっくり話し合う必要がありそうね・・・」
「ちょ、ふ、2人とも目が怖いよっ!?」
「俺、帰っていいか?」
「ええっ!?ちょ、レイ君、逃げる気っ!?」
「いやほら、友達同士に第3者が入り込むって無粋だろうし。」
「今それを言っちゃうの!?」
「大丈夫。フォルトさんに惚れてもらえるような男になれるよう努力はするから。」
「なあっ!?」
「へぇ・・・」
「それも今言うの!?」
「それじゃお先に。」
「やっぱりレイ君なんて嫌いいいいいいいいいいいい!!」

う〜ん、それは困ることだよね。恋仲なんてのはどうでもいいけど、やっぱり一緒に働く仲間なんだから。
ここは一つ、フォルトさんの役に立てるように努力でもしてみるかね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-MCwJG] 2006/06/16(金) 21:45:06

発明なんばー59!

「・・・レイ、あんたは何をしたわけ?」
「どうして俺にふるんだよ?」
「どうしてって言われても、ねぇ・・・昨日の今日でしょう?」
「本当、驚きだよな。」
「・・・信じらんない・・・」
「目の前にあるものを見てもまだ、か?」
「「「見てるからこそよ」」」

さてさて、俺達ヴェロンティエの4人が何を見ているかというと・・・何のことはない。ただ単に、つい最近までは元気に開いてた店が今日の朝に何やらお城の衛兵さん達がどやどやと入っていったかと思うと、その日の夕方には店が閉められたってだけの話だ。

「強制捜査の理由は何だったのかしら?」
「確か、無理な土地の買収における詐欺とか、それに応じない人への暴力での嫌がらせとか色々じゃなかったか?」
「・・・どうして、そんなのをあんたが知ってるわけ?」
「そこにいた衛兵さんに聞いた。ほら、俺ってハンバーガーのおかげで城ではちょっとした有名人だし。顔見知りになった人とかもいるしな。世間話のついでに教えてもらったのだ。」
「のだ。って・・・そう言う問題じゃ無いでしょうがっ!」
「そうね。確かにこの店の評判は良くなかったけど、こんな偶然はそうそう無いわよ?」
「一体、君は何をしたのおっ!?」

婆ちゃんの敷地を奪っていったという店に、何か交渉材料でもないかな〜と思って潜入。

見つけたのは大量の不正の証拠。

リリアに会うついでにお城の衛兵の前に証拠の束をポイ捨て。

強制捜査、ならびに強制閉鎖

う〜ん・・・ここは、一つ本当のことを言ってみるのはどうだろう。

「この店に忍び込んで不正の証拠を見つけたから、それを王女と夜の逢い引きをする前に衛兵の人の前に置いてきた。」
「もうちょっとましな冗談を言いなさいっ!」

・・・だよね。

「まあ、俺が何かしようがしまいがどうでもいいだろ。これで、時間はかかるかもしれないけど婆ちゃんの店もまた大通りに近くなって、野菜の仕入れも出来るし。」
「そりゃ、そうだけど―――」
「それに、婆ちゃんも寂しくなくなるだろ。」
「え?」
「あんな狭い道の先にあってもほんと一部の人しか知らないだろうし、客だけじゃなくて誰かに声をかけてもらうのも少ないだろ?そんなの、あまりに寂しすぎるし・・・やっぱ、関わった人間としちゃ、心配だしな。」
「えっと・・・ひょっとしてレイ君、そこまで考えて?」

言うとぼろが出そうだから、聞こえなかったことにしよう。

「さてと。そんじゃま、さっさと買い出しを終えて店に戻るとしますかね。」
「こらっ!?まだ話は終わってないわよ!?」
「いや、だから話したろ?」
「信じられるか、あんなのっ!」
「案外、本当かもよ?王女様と逢い引きっていうのはともかく・・・」
「実際、俺は何もしてないで良いだ――――って、フォルトさん?」

おや?どうして立ち止まって俺を観察してらっしゃるんですか?
えっと・・・あ、ひょっとして俺への評価の見直し中?出来れば5くらいまで上がってくれること希望!間違っても下がってはいな!・・・はず、だよ、ね?

「フォルトさん!10段階評価だといくつぐらい?」
「う〜ん・・・予想を更に上回る結果を出したことよりも、まさか私のためだけじゃなくって、おばあちゃんの私生活のためにまで頑張ってくれるっていう優しさは何て言うか、もう脱帽しちゃったね。」
「惜しむべき所は?」
「私への行動が一切無かった所とか?協力させて欲しかった!」
「それらを踏まえて評価は?」
「うん。7、5ってところかな。」
「っしゃぁっ!」

どうやらどうにか、俺はフォルトさんともうまくやって行けそうである。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-UGCXU] 2006/06/17(土) 20:47:15

発明なんばーふぁいなる!

「祭り?」
「何でぇ、知らなかったのかよ?」

いつものようにヴェロンティエを切り盛りしながら、ふと外に目をやったときに気付いたのは随分と飾り付けられた大通りだった。どの店先にも様々な装飾が施されていつもより数段階ほど鮮やかな姿をさらしている。もちろん、それはこの店も例外ではないようでキララ達が何やら店先で物置から引っ張り出してきたらしい何かを看板に取り付けたりしているようだった。そんな光景の理由を客の1人に聞いた答えが、上の会話である。

「クロムウェル国王様即位10周年ってことでな。ほれ、前日におふれが出てただろ?」
「そうだったか?ほれ、ナポリタン。」
「おう。」

へぇ、祭りか・・・こっちは総理が10年どころか3年続いくことすら珍しいってのにね。人望がある国王だことで。いや、王政だとそうならざるをえないのか?よく考えてみたらイギリスなんてあの女王がもう何年いるんだか・・・それにしても10年ってことは、リリアが5才の時か?とすると、リリアってひょっとして爺さんの顔なんて覚えてないんじゃないかなあ。

「レ〜イ!ちょっとこれ貼るの手伝って〜!」
「脚立でも使えよー!こっちは今、忙しいんだって!」
「それでも届かないから言ってるんでしょうが!?」
「全く・・・」
「相変わらずお熱いねぇ?」
「やかましい。注文、後回しにするぞ?」
「げ!」
「けど、結局レイ君って誰が本命なのかしら?」
「いませんから!」
「おばさんが相談に乗ってあげるわよ?」
「しませんから!」
「あらあらあら。私でも構いませんよ?」

・・・久しぶりに登場した気がするのは気のせいか?

「ミリアさん・・・どうして仕事中なのに私服なんですか?」
「うふふふふ。実はですね、マリスちゃんとフォルトちゃんが来てから、お勘定しかすること無くなっちゃって。それなら、お客さんの最期の印象も良くなるように私服の方がいいでしょう?私なりに頭を使ったのよ?」
「なるほど。」
「お婆ちゃんの知恵袋ってやつですね。」
「あなた孫はいないでしょうがっ!」
「レイさんとキララの子供には、私のことミーちゃんと呼ばせましょう。」
「勝手に俺の子供の生き方を決めないで下さい!後、どうして俺とキララが結婚することになってるんですか!?」
「は、はああっ!?ちょ、ちょっとレイ!あんた今、いっ、いきなり何を言ってんの!?」
「だああっ!違う!今のはミリアさんが―――っていない!?」

なるほど、突然現れるんだから突然消えることも可能なわけか・・・って、感心してる場合じゃねえし。

「キララちゃんと結婚だとおっ!?」
「子供は2人と言ったな!?」
「名前は何だ!?2人から一字ずつ取ってレキとかライとかかっ!?」
「この野郎!店を出たら覚えとけよ!」
「勝手にねつ造してんじゃねえっ!」
「こ、子供ぉっ!?」
「あら、レイ。欲求不満なら相手してあげるわよ?」
「そんな爆弾発言をかますなっ!俺の寿命と店外での自由が減っていくから!」
「ま、マリスちゃんまでっ!?」
「許すまじ・・・」
「おい、隊長に報告しろ。今日で決着を付けるぞ。」
「レイ君。」
「何だっ!?」
「ここまで板挟みになったら、もうあたしの所に来るしかないよねっ!」
「誰が行くかっ!」
「フォルトちゃんもってことか・・・」
「確か、今日のレイの予定は3時間後にチェオキギュに買い出しだったな。そこの途中で仕留めるぞ。」
「物騒な相談をしてんじゃねえっ!後、俺の予定をどっから知りやがった!?」


まあ、こんな平穏――――ではないかもしれないが、とりあえずは楽しくいつも通りの日々を送っている。俺が、異世界から来てるってことを忘れそうになるぐらいに楽しくて、幸せな日々を。このまま、この世界で暮らすのも悪くないんじゃないかって思うくらい、楽しくて幸せな日々を。
大切な、もう一つの家族と一緒に過ごす日々を。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-jXLWR] 2006/06/18(日) 20:03:39

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