発明・ざ・わーるど! いん・ふぇすてぃう゛ぉー!

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こんにちは。自称イケメン作家(爆)の雨やかんです!
前作『発明・ざ・ワールド!』を読まれているかたは、この文はすっ飛ばしちゃってください。つまらないんで。読まれていない方、読んだけどあんな駄作いちいち覚えてねーよ!という方。作者としては

『じゃあ、読め!読み直せ!と言うか、読んでください!お願いします!』

といった感じですが。何はともあれ簡単な人物紹介を。



レイ・キルトハーツ:作者の都合でいきなり異世界に飛ばされた16歳の男子高校生。生粋の日本人で本名は『雨谷 零』。ちょっと変わった両親の影響で16歳のわりに料理やら何やら、家事と呼ばれるもの全てに卓越した技量を見せる。3大スキルというものを所有していて、1に家事、2に医術、そして3は不明・・・一応。現在はヴェロンティエとうレストランの腕利き料理人としてその名を知られている。どんな理由か、この世界においては通常の5倍ほどの筋力が備わっているため、望む望まざるに関わらず、様々なことに首を突っ込むことになる。


キララ・ランクフォード:16歳の勝ち気な女の子で、レイが居候しているヴェロンティエの料理人。本人も料理人としてかなりの技量を持っている。運に恵まれず赤字生活を送っていたが、レイの協力によって現在は町内ナンバー1の実力を誇るレストランへと変貌。それ以来、レイへと仕事仲間以上の好意を抱くようになった。誰もが認める可愛い女性で、ちゃっかり『キララちゃんを見守り隊』という親衛隊なんぞが作られている。最近の悩みは、自分の生活がすっかりレイを中心に回ってることと、自分の都合でレイをここに留まらせていることに負い目を感じ始めたこと。


リリア・キルヴァリー:15歳の女の子。作者が偶然読んだ漫画の影響のためにレイのいる国の王女という身分の持ち主。レイとは、以前に難病にかかった時にそれを治療してもらって以来ずっと仲良くしている。その時にレイが名乗った『ファントム』とういう名を呼んでおり、敢えてレイの正体には近づかないでいるのは、知ってしまえば自分の想いに抑えが効かないということを恐れているからである。気品溢れる優しい美女で、レイに惹かれている自分を自覚している。毎晩、自分の部屋にレイが来るのをお茶の用意をして楽しみに待っている。


マリス・インベルグ:キララの調理学校のとき以来の友人。16歳で大人の魅力溢れるナイスバディーな美女。以前はお城に務めていたが、騎士の1人にストーカーのような仕打ちを受け、レイに助けられた後にヴェロンティエへと転職、キララにレイを巡るライバル宣言をした。と言っても、キララともレイとも仲良くやっていて問題は起こっていない。物静かで落ち着いているが、レイが絡むとちょっと冷静さを失うことがある。


フォルト・ラインクル:やはりキララの友人、15歳の明朗快活に手足をつけたような女の子。学生時代からキララ、マリスとともに仲良くしていたが、レイという存在によってそれが崩れたために一時は少しレイに嫉妬していた。今ではすっかりレイとも仲良くなり、4人一緒にヴェロンティエで働いている。ある意味では一番まともと呼べる存在なのだが、やはりレイへの好意はあるようだ。


ミリア・ランクフォード:その名から分かるとおりキララの母親。一児の母とは思えないほどの美しさを誇り、キララと姉妹に間違われることもあるほど。この世界に迷い込んだレイをヴェロンティエに連れてきた張本人。一応、ヴェロンティエのオーナーという形になっているが実際の経営は全てキララ達に任せきりで、彼女自身は大した仕事はしていない。突然、背後に現れて『あらあらあら』と良いながら会話に参加する。その内容は常にレイ達をからかうことばかり。 しかし時折だが鋭い視線でレイの心の迷いを振り払う助言をするという、強く優しい大人としての一面も併せ持つ。


クロムウェル・キルヴァリー、フィリス・キルヴァリー:リリアの両親で、レイの住む国の国王と王妃。かなりの親ばかのクロムウェル国王。唯一、ファントムの正体がレイであることを知っているフィリス王妃。2人ともリリアのことを愛しているが、その想い故か時々困ったことを言い出すのがリリアの疲れの種でもある。




まあ、こんなところで。
詳しいことは、やっぱり前作を読んでください!完結置き場にポツンとあるんで目を通して頂けたら幸いです!また、新小説広場でも同じのを連載しています!
それでは、雨やかんが創り出す面白いんだかつまんないんだか分からない物語を、どうぞお楽しみ下さい。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-tfVid] 2006/06/25(日) 11:04:08

ふぇすてぃう゛ぉー1!

・・・え?終わりかと思った?うん。俺もスタッフロールが流れ始める頃かなと思ったぐらいだ。けど、まだ終わりませんよ?いや、だって元の世界に帰りたくないわけじゃないし。

「でも、居心地は良すぎるんだよなぁ・・・」

仮面とマントをまとい、塀を跳び越え、段差に足をかけて一気に上に飛び上がる。4階の開かれた窓枠に手をかけて、いつものように窓の中に身を入れると―――

「お待ちしていました、ファントム様。」
「いらっしゃい、ファントム君。」
「・・・さようなら。」
「え、え?ど、どうしてですか?」
「いや、冗談だ・・・ちょっと驚いただけ。」

いや、だって本来よりも1人ほど人数が多かったら誰だってギクリとするよね!?だって、俺って一応だけど不法侵入者には違いないしさ!増えたのが俺のこと知ってる王妃様だから良かったものを、もしも騎士の方とかだったら事態は最悪の方へと向かっちゃうわけだしねっ!

「あ。そう言えば、俺って今日になって知ったんだけど、もうすぐ祭りがあるんだって?確か国王の―――」
「即位10周年記念式典ですね。」
「あの人ったらお祭りが大好きなのよ。まあ、国民の皆さんも楽しんでるからいいのだけど。」
「2人には失礼な話だが、この国ってよく機能してるよな・・・大臣の人達がすごい優秀なのか?」
「お父様はやる時はやるお方ですから。」
「娘の踊りの相手を調べたりとか?」
「・・・まあ、一応。」
「娘の夜の逢い引きの証拠を押さえに来たりとか?」
「母親はいいのよ。」

うわ、すげえ一言だ。
って、ん?そう言えばどうして今夜は王妃様がここにいるんだ?あの時以来、王妃様がリリアと一緒に俺を迎えてくれるのは一度も無かったはずだけど・・・ひょっとして、何かあったのか?

「王妃様。そういえばどうして今夜は?」
「ええ。実はね、ファントム君に頼みたいことがあるのよ。」
「・・・それは王妃として、紋章印を託した相手への命令ですか?」

だとすると俺はこの紋章印を置いて、今日は帰らせてもらうことになるんだが?だって、王妃勅命なんて国家に関わるような任務とかしたくないし。

「いいえ。これは娘と一番親しい友達への、母親としての頼みかしらね。」
「そういうことなら聞きましょう。」
「さっきファントム君が言ったお祭りのことなんだけど―――」

ああ、そう言えばその話から発展してたんだっけ。そのお祭りで何をしろと?まさかまたダンスの相手しに来てくれとかじゃないだろうな?そんなんだったら、今度こそ王様が俺を取り押さえに来るんじゃないか?出来れば王様に会わずに済むような頼みでっ!



「リリアを誘拐して欲しいのよ。」



もう、誰にも会えない頼みが来た!

「リリア、今日は短い間だったけど楽しかったよ。」
「ファントム様!ちょ、ちょっとお待ち下さいっ!」
「いや、無理。待てない。だって誘拐だぞ!しかも王女を!そんな頼みを引き受けたら俺の人生がもう真っ黒に変化するし!」
「誰も本当に誘拐してとは言いませんよ。」

・・・は?

「リリア。やはりあなたの口から直接頼みなさい。」
「え!?」
「大丈夫よ。ファントム君なら引き受けてくれるから。」
「は、はいっ・・・その、ファントム様・・・」
「えっと・・・誘拐って言葉は使わずに説明してくれ。」
「ええと、私・・・その、今までに多くの祭典をお父様がお開きになって下さっていたのですが、そのどれもが王族として高い所から眺めるだけのものだったのです。しかも城の外へ出ることはほとんど叶わず、出ることが出来たとしても式典の一環としてですので自由な行動は全くとれませんでした。」

なるほど。ようやく話が読めてきた。

「つまり、外に出て王女としてでなくリリアとして自由に行動したいんだけど、まさか騎士団の人に友達役を頼めるわけもないし、王様に言っても大事になるだけだろうから、こっそりと内密にとは行けない。」
「はい。ですから、ファントム様がよろしければ・・・その、わ、私を連れ出してほしいのです。」
「こっそりと?」
「はい。」
「それで誘拐ってことか・・・」
「そういうことなのよ。どうかしら?リリアの友人のあなたなら王女なんて肩書きを感じることはないでしょうし。まあ、護衛としてはどうなのか分からないけれど・・・」

えっと・・・あのことは王妃様だけに言っておいた方が良いかな?一応、あれを知られると俺のもう一つの顔をリリアが気付くかもしれんし。
王妃様の近くに行き、耳元で小声で話す。

「この前、追放になった騎士さん覚えてますか?」
「え?あのヴォルフ騎士だったかしら?」
「あれ、倒したの俺です。」
「・・・え?」
「いくつか小道具は使いましたけどね。」
「騎士の一人を、あなたが倒したの・・・?」
「厳密には騎士と衛兵さん達の集団ですけど。まあ素手で戦って負けることはないかと。」
「・・・護衛としても最適みたいね。いっそ、本当にお城に来ない?」
「それは辞退します。」
「残念だわ。あなたならきっと四聖騎士にもなれるかもしれないのに。」
「お母様っ!」

不思議そうな顔をしていたリリアだったが、騎士という言葉にはしっかりと反応したようだ。

「ファントム様を騎士にはさせません!」
「私としてはそれが最良の選択なのだけど、残念だわ。」
「まあまあ。それは今の仕事を辞めさせられたら考えますよ。多分、無いでしょうけど。それに俺もお城つとめは勘弁ですね。」
「じゃあ国王ってことで。」
「お母様っ!?」
「それだけは絶対に嫌ですからっ!」

この人は・・・まだそのネタを引きずってたのか?

「まあ、そういうことなら構わないけどな。ちゃんと王妃様も手伝ってくれるんでしょう?」
「もちろんですよ。」
「それじゃあ―――」
「ただし!俺の方も普段の生活があるしな。祭りは連日であるのか?」
「はい。4日間に渡って続けられることになっています。」
「で、そのうちリリアの予定が空いてるのは?」
「2日目か3日目ならば空いているのですが・・・その辺りはファントム様にお任せ致します。」
「そだな・・・とりあえず、仕事仲間にも聞いてから決めるよ。」
「そうした方が良いでしょうね。」
「後はリリアの変装道具か・・・こいつとおそろいの仮面でも作るか?」
「おそろい・・・ですか?」
「おそろいの格好っていうのは恋人達の行動の一つらしいわよ?」
「深い意味は全く無いですから。」

王妃様って、ミリアさんにどこか似ているかもしれん・・・実は姉妹だったとかそんなオチじゃないだろうな?そう言えば、王妃様自身は元々はただのお城に勤めてた侍女だったってことだし・・・まあ、ミリアさんに比べれば不思議な若さは感じないが。

「どうする?希望があるなら聞くぞ。こういったの作るのは得意なんでな。」
「それでは、出来るだけファントム様とおそろいで。」
「こんな地味なのでいいのか?」
「目立つわけにもいきませんし。それに、仲良さそうに見えるでしょうから。」

このお嬢さんは先ほどのお母様のお話を聞いてなかったのか・・・?
結局、この後しばらくにわたって王妃様から国王候補として誘われ続けたのだが・・・それは思い出したくないので忘れることにする。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-tfVid] 2006/06/25(日) 11:06:52

ふぇすてぃう゛ぉー2!

「キララ、ちょっと頼みがあるんだけど・・・いいか?」
「え?あたしに?」
「ああ、何て言うか・・・多分、すごくお前が怒り出す頼みだけど。」

あたしが怒ると分かっててそれを頼むとは、どうしてなかなか度胸が付いてきたみたいじゃないの。

「へぇ・・・それじゃ、とりあえず聞きましょうかね。」
「既に怒ってるようで・・・えっと、かなり身勝手な話なんだが・・・今度、国王さんの即位10周年記念式典が4日ほどあるだろ?」
「ええ、それがどうかしたの?」
「・・・2日目か3日目のどちらかだけ、俺を仕事から外して欲しいんだ。」
「何のためにかによるわね。」
「・・・お、女の子と遊びに・・・」
「殴られたいわけ!?」

よりにもよって何よそれは!?たとえ本当だとしても、なおのこと許せるわけ無いでしょうがっ!何が悲しくてレイが他の女の子と楽しく遊んでるのを見過ごさなきゃいけないわけ!?

「いっそ一人で遊ぶとかの方がよっぽど許しやすいわよ!」
「うん。多分、そう言うと思った。」
「だったら今すぐに断って来なさいっ!」
「いや、だから・・・その、そいつさ・・・かなりのお嬢様なんだよ。」

ちょっと待ちなさい・・・?その言い方だと何?まさか、レイったら本当に女の子と約束してるわけ?しかも、お嬢様って言ったかしら?料理店の料理人でも給仕でもなく?しかも、あたしに対して反抗してでもその子と遊びたいってこと?じゃあ何よ、レイの頭の中ではその子の方があたしよりも優先順位が高いってわけ?

「お嬢様の方が、いいわけ・・・?」
「は、はあっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!何か勘違いしてるみたいだから一気に言わせてもらうぞ!?そいつってかなり箱入り娘だから、ほとんど外に出られないんだよ!それで、ちょっとしたことから仲良くなったんだけど、友達って言えるのが俺ぐらいしかいないらしくって!それで、どうしてもそのお祭りに行きたいってことだったから家族の人が俺に頼んだわけだよ、一日だけそいつと遊んでやってくれって!それで、そいつもかなり期待してたみたいだから出来れば叶えてやりたいって思っただけだ!いや、これ本当に!嘘は全くついてないぞ!?」

嘘・・・ね。確かに目を見る限りじゃ嘘はついてないみたいだけど、それにしたってレイが女の子と遊びに行くっていうのが納得いかないんだけど?

「それでも――――」
「頼む、キララ!」
「ちょっ!?や、やめなさいってば!」

あんた、店の中でいきなり大声で頭を下げないでよね!?お客さんが居ない時だからいいようなものをさ!こんなの見つかったらまた嬉し恥ずかしい噂を立てられるわよっ!?

「あいつに見せてやりたいんだよ!この町がどれだけ良い所で、俺が見ている世界がどれだけ楽しい所なのかって!俺に出来ることなら何でもするから!だから1日だけ俺に時間をくれっ!」
「っ・・・うぅ〜・・・」

全く持って、レイは卑怯だと思う。
これでレイの目とかに少しでも下心とかそういったのがあればあたしは一言で突っぱねられるはずだというのに、レイは本当にその子のことを考えている。しかも好きとか愛してるとかそういった感情じゃなく、純粋に友達を助けたいっていう思いだけだなんて・・・そんな目を向けられたら、あたしに断れるわけがないじゃないの!ただでさえ、最近はレイ中心の生活になっちゃってるのに、そんな風に見つめられて折れないほどあたしは強い人間じゃないのよ!

「・・・3日目。」
「え?」
「3日目だけだからね!?その代わり他の日は一杯使ってやるんだからっ!」
「あ・・・っしゃああっ!助かるぜ、キララッ!」
「うわきゃぁっ!?」

ちょっ・・・嬉しいのは分かるけど手をっ!手を急に握るなああっ!?驚くでしょうがっ!いや、嬉しいし実際の所はこのままでもいいかなって思ってるけど!そんな突然にやられて平然としてられないのよあたしはっ!あんた無意識でやってるわけ!?

「そうと決まれば明日からは3日目の分まで働かないとな。」
「う、うぅっ・・・わ、わわわ分かったからっ・・・」
「ん?どうしたんだキララ?」
「は、早くっ・・・い、いや、その・・・」
「ん?」
「あらあらあらあら?」
「うおっ!?」
「うひゃあっ!?」

突然に現れたお母さんにようやくつながっていたあたしとレイの手が離れた。あ、ちょっと残念かも。って、そうじゃないわ!

「久しぶりに驚いてくれましたね2人とも。」
「今回は確かにびっくりでしたね。」
「やっぱり2人の世界に入ってたからかしら?」
「なっ!?」
「激しく否定させて下さい。いや間違ってないかもしれませんが。」
「あらあらあら。レイさん、キララと見つめ合って、なおかつ手を握りあっていた状況では誰でもそう思っちゃいますよ?」
「え・・・ああっ!?」

その驚き方・・・やっぱり無意識だったわけ!?

「まあ、ちゃんと話を最初から聞いてたから大丈夫ですけどね。」
「・・・最初から聞いてたんですか?」
「はい。」
「・・・どこで・・・いや、すいません。どうでもいいですね、そんなこと。」
「そうね・・・聞いても無駄でしょうしね。」
「失礼な言い方ですね・・・そうそう。それよりレイさん、聞きましたよ?」
「は?」
「今、キララのために自分の出来ることなら何でもするとおっしゃいましたよね?」
「・・・えっと・・・」
「お、お母さん・・・?」
「おっしゃいましたよね?」
「き、キララのためにとまでは――――」
「そういうことをおっしゃいましたよね?」
「ぐあ・・・い、言いましたっ・・・」

えっと・・・確かに、言ってたけど・・・何をしてくれるのかしら?頼んだら大抵のことはしてくれそうだもんね。たとえば・・・あたしと―――いや、やっぱ考えるのは止めとくことにしましょう。間違いなく顔が真っ赤になるだろうし。
それでお母さんは何を言おうとしてるわけ?

「では、4日目。つまりは最終日ですけど、その日は午前中で閉めちゃいますから。いいですね、レイさん?」
「いや、俺に許可を求められても・・・」
「稼ぎ時じゃないの。どうしてまた午前中だけなの?」
「どうせ午後にはお客さんはいませんよ。確か最終日の催し物が夜まで続くらしいですから、お客さんはそちらに釘付けでしょうし。」
「はあ。」
「話を元に戻しますけど。レイさん、実はキララもあまりお祭りとかに参加しないんですよ。いつもお店のことばかり考えてくれましたから。」
「それは当然でしょ?」
「けれど、あなたも女の子だってこと忘れてないかしら?」
「・・・お母さんが言いたいことが分からないんだけど――――って、レイ?」

見れば、レイの顔は微妙に引きつっている。笑顔なんだけど・・・どっちかと言うと、もう笑うしかないといった表情だ。諦めの境地に近いかもしれない。

「えっと、ミリアさん・・・言いたいことが予想できる自分がすごい嫌です。」
「まあ、それだけ賢ければ安心ですね。」

お母さんはにっこりと笑って私達の手を掴み、再び握り合わせ―――って、何をするのよ!?


「キララと一緒に、2人だけで最終日に出かけてあげて下さい。」


・・・・はい?

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-RJFcb] 2006/06/26(月) 21:31:20

ふぇすてぃう゛ぉー3!

あたしがいるのは自分の部屋だ。
何をしてるかって言うと・・・まあ、生まれて初めて好きな人と2人っきりで出かけたことのある女の子なら分かって貰えると思うんだけど、私の目の前にあるのは洋服箪笥で、床にはすでにいくつかの服が置かれていて・・・早い話が、レイとのお出かけに着ていくための服をかなり真剣に悩んでいるというわけだ。
どうせ行くなら出来るだけ可愛く見られたいし、まあその・・・うまくいけば、ねぇ?

「・・・恋人、かぁ・・・」

正直な話、さすがにそこまで進展ってのは絶対に無理だけど・・・ひょっとしたら距離が少しでも縮まってくれるかもしれないし。そのぐらいの期待はしてもいいわよね?

問題はあたしの前日にレイが誘っているという女の子なんだけど・・・

きっとレイのことだから、本当に友達のことを思ってるんだろうけど・・・けどね!多分、っていうかほぼ間違いなく相手の女の子はそんなこと思ってないわよ!レイってば今さらだけど鈍感みたいだしね・・・まあ、優しいから良いけど。
そんなレイと一緒にいる。レイの話だと初めての友達ってことらしいけど、それはつまり初めての世界に連れ出してくれた異性ってことなのよね・・・しかも、向こうから祭りに行こうって誘ってるあたり、惚れてるんでしょうね・・・きっと。そもそも、こうならなかったらあたしがレイを誘ってたかもしれないし。お母さんには後で何か贈ってあげよう。

それにしても・・・あたしの服って地味なの多かったのね。何というか、これだとレイと並んだ時に微妙な風にならないかしら?だとすると、どうしたら――――

――――コンコン

「キララ、入ってもいいかしら?」
「お母さん?」

控えめな音の後にお母さんが入って―――って、その手に持っているのは何?

「・・・何それ?」
「見て分からない?」

いや、分かるわよ?分かるけど・・・どうしてそんな大量の服を持ってくるのかっていうのが分からないんだけど?

「えっと、どうしたの?」
「キララのことだから、きっと着ていく服が地味なのしかないって悩んでる頃だからお母さんの若い時の服でもあげようかなって思ったのよ。」

毎回毎回のことだけど、この母親は読心術でも使えるんだろうか?今度教えてもらった方がいいかもしれない。

「この服がおすすめなのよ?」
「どうして?」
「お母さんがそれを着てた時に、お父さんから告白されたんだから。」

‘ガタンッ!’

いけないいけない。もう少しで派手に箪笥に顔面から突っ込む所だった・・・って、そうじゃなくって、お父さんから告白された服!?つまりそれは、いわゆる勝負服ってやつじゃないの!?そんな服を着ていけというのかこの母は!?

「あ、ちなみに結婚の告白ね?」

‘ドガッシャン・・・・’

うぅっ・・・激しく痛い・・・勢い余って顔面から突っ込むどころか、そのまま箪笥が横倒しになっちゃったわよ・・・これ、結構な重さがあったと思うんだけど?
いやいや、やっぱり問題はそこじゃなくって!そんな思い出の品を娘に着せようとするんじゃない!いや、だからそうでもなくって!

「お母さんはあたしに何をさせようとしてるのよっ!」
「あらあらあら、決まってるじゃない。ゆ・う・わ・く。」
「そんな一文字ずつ区切って言うんじゃないっ!」
「したくないの?」
「うっ・・・」
「誘惑したくないの?」
「ううっ・・・」
「レイさんを誘惑したくないの?」
「し、したくなんて―――」
「レイさんを誘惑して、二人っきりで甘い雰囲気を作ってみたくなんかしたくないの?」
「そんなこと―――」
「そう。それなら、この服はいいわね?」
「・・・あ・・・」
「どうしたの?」
「え、う・・・そ、そのっ・・・さ、参考には、しようかなって・・・」
「正直でいいわね。それじゃ、いくつかここに置いておくからゆっくり考えてご覧なさい。まあ、レイさんならどんな服を着ても誉めてくれそうだけどね。似合ってる、って。」

そうかしら?・・・・レイに似合ってるって言われたら――――

「キララ。口がだらしなく開いてるわよ?」
「えぇっ!?」
「はいはい。想像して浮かれるのもほどほどにしてね?それじゃ、お母さんは戻るわ。あ、洋服はキララにあげるわね。」
「う、浮かれてなんてないわよっ!」

ううっ・・・見られたくない姿を見られた気がする・・・
でも、レイに似合ってるって言われたら・・・いけない。何か顔がすごいだらしないことになってる気がする。このことを想像するのは止めておいた方がいいわね、きっと。

「はあっ・・・まあ、気合い入れて選ぼうかしらね。」

こうなったら、レイも真っ赤になるぐらいの服で行ってやるんだから。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-bRPon] 2006/06/27(火) 22:43:22

ふぇすてぃう゛ぉー4!

侍女の方が部屋を出て行き、しばらくしてから静かに窓を開くこと。
たったそれだけのことが、もう私にとってはどんなことにも替えがたいこととなっているのは、やはりこの想いゆえなのでしょう。
そして、この窓を開け放ったまま静かに椅子に腰掛けて目を閉じてその時に想いを馳せる時間の心地よさもまた・・・

‘カツン・・・・’

いつものように窓枠に足をかける音。その音で私は目を開いて、闇の中からするりと現れるこの方を見つけるのです。

「こんばんは、リリア。」
「お待ち致しておりました、ファントム様。」

わずかに見える口元から笑顔になっていることを知り、まとわせている雰囲気から私に会うことを楽しみにして下さっていたことを知ります。それが、何よりも嬉しい。

「早速だけどいい知らせだ。」
「何でしょうか?」
「ああ、休みを取れたよ。3日目だけだけど仕事を休んで良いってさ。だから、その日はリリアと遊びに行けることになったよ。」
「あ―――本当ですか!?」
「嘘付いても仕方ないだろ。何だ?ひょっとして、行けない方が良かったとか?」
「そ、そんなことは決してありませんっ!」
「ハハハッ・・・冗談だよ。」

からかわれたことに気付いて思わず頬が膨らむのが自分でも分かりました。けれども、それは怒っているからではなく、ただ単にそうして見せたかっただけ。
それにしても・・・本当にファントム様と2人きりで出かけられるなんて!かってこれほど嬉しいことがあったでしょうか。どれほど素晴らしい贈りものを頂いた時も、ここまで歓喜にのまれることはありませんでした。

「と、いうわけでだ。リリア、唐突なんだけど教えて欲しいことがあるんだが。」
「はい。ファントム様のご質問なら。」
「そんな大層なものじゃないけど・・・えっと、正直少しだけ恥ずかしいんだが。」
「何でしょうか?」

恥ずかしいとは・・・一体、何をお聞きになられたいのでしょうか?ちょっと私も緊張してまいりました。ファントム様がためらわれる言葉とは?

「あ〜・・・リリアの体について色々と知りたいんだけど。」
「はい、それでは――――」

『リリアの体について色々と知りたいんだけど』

・・・え?

「え、えぇぇえぇえっ!?」
「ぅおっ!?こ、声が大きいって!」

そんなことを気にしてる場合ではありません!かっ、体を知りたい!?
誰が!?ファントム様がですかっ!?
誰のっ!?わ、私のっ!?
何故っ!?それは――――そ、そういうことでしょうかっ!?

だとすればっ、ど、どうしたら!?いえ!別にファントム様とそのようなことに及ぶのが嫌だというわけではないのですが、ちょっと怖いという思いがありまして!け、けれどもファントム様がお望みになられるのならば私も勇気を振り絞って応えたいとも思いますし、やはり、そのっ、殿方と後々のご関係を築くためにも、やはり自分の大切な方と最初であればあるほど後で便利にって、それではファントム様がお城にっ!?お母様の望みも叶うということでしょうかっ!?

「・・・い・・・リア・・・!?・・・っと・・・」

だ、だとすればファントム様も私のことを想って下さっていたということでしょうかっ!?それは、と、とても嬉しいことですが、や、やはり私は王女ですからそれなりの手順を踏んで頂かないと!い、いえ!もしやそういう手順を全て踏み倒すためにこのようなことをっ!?だとすれば私の取るべき行動は――――

「リリアっ!?」
「はっ、はいっ!」
「大丈夫か?何か随分と考え込んでたし、声をかけても気付かなかったけど・・・?」
「え・・・あ、だ、大丈夫です!そ、その!か、覚悟は出来ていますっ!」
「・・・何か激しく気負ってないか?」
「そ、そのようなことは―――ほ、本当は少しだけ、ありますけど・・・け、けど、ファントム様がお望みになるのなら、その・・・い、今までのお礼も兼ねて・・・」
「・・・えっと、ごめん。ちょっと待って。俺の言い方が悪かった。」
「はい?」
「俺が言いたかったのは、リリアの変装のための洋服とか作ったり買ったりしたいから体の大きさを調べたいってことだったんだが・・・」
「・・・え?」
「その、何だ・・・別に、リリアを・・・えっと、抱くとかじゃないぞ?」
「っ――――!」

わ、私ったら何というはしたない勘違いをっ!?

「も、申し訳ありません!」
「だああっ!だから声がでかいって!」
「い、いえっ!そのっ!わ、私が変なはしたないことを考えてしまったせいでっ、ふぁ、ファントム様に不愉快な思いをさせてしまいました!ほ、本当に申し訳ありません!」
「いや、あれは俺の言い方が悪かったんだって!だからその声を抑えて――――」

‘コンコン・・・ガチャリ’

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-rVJKB] 2006/06/28(水) 20:45:54

ふぇすてぃう゛ぉー5!

「え!?」
「なっ―――くっ!」

いきなり誰かが部屋に入ってくるなんて!?いけないっ!このままではファントム様のことが見つかってしま――――

「リリア、ファントム君、いるかしら?」

‘ザシャアアアアァァァァ・・・・’

お・・・お母様でしたか・・・良かったです・・・
安堵のせいか私は腰がくずれてしまいました。もっとも、それはファントム様も同じだったようで豪快に床に倒れこんでおられます。

「あら?一体、2人ともどうしたの?」
「お、脅かさないでくださいよ・・・見つかるかと思ったじゃないですかっ・・・」
「お母様・・・声は部屋に入る前にかけて下さい・・・」
「ああ、ごめんなさいね。ただ・・・」
「ただ?」
「扉の外の会話から判断してると、まるでファントム君がリリアの処女を奪いに来たのかと思っちゃって。」

そんな前からおられたんですかっ!?

「しっかり聞かれてた!?」
「お母さんへの報告もまだなのにそういう関係になるのは感心しないわよ?」
「誰もなってませんっ!」
「あら、残念。お父様もお喜びになるのに、跡継ぎが出来たって。」
「誰がなるかっ!」
「まあ、冗談は置いておいて。」

ファントム様は何やら疲れたような顔をされていますが、正直なところ私は少しばかり残念でした。
理由は、まあ・・・ファントム様が私と、その、結ばれることを、否定なされたからなのですが。それは口には出さずに、ファントム様にも言えない秘密として心の中にしまっておきましょう。

「リリアの服のことなら心配ないわよ。」
「え?」
「私はリリアと違って生まれた時から王族ってわけじゃ無かったこと、忘れてるみたいね?」

そう言うと、お母様は持っていた箱の中身を私の寝台の上に次々と出し始めました。
出てきたものは、色とりどりの洋服でした。

「大きさは私がリリアぐらいの時と同じぐらいみたいだものね。きっと問題ないはずよ。」
「ああ、なるほど。」
「お母様の洋服なのに、私が使ってもいいんですか?」
「だって、私が持っていてももう着ることがないもの。それに、着られるような大きさではないでしょうしね。」
「良いんじゃないか?ありがたく借りとけよ。」
「は、はぁ・・・」
「リリアの服って、俺が見てるのは正装だけだからな。こういった服を着てるリリアも見てみたいし。きっと似合うと思うぞ。」
「え―――は、はいっ!」
「それじゃ、どれを着ていくかを選びたいんだけど・・・ファントム君。」
「はい。」
「リリアの着替えでも見たい?」
「勘弁して下さい。」
「よね。というわけで、洋服選びはファントム君がいない時にするとして・・・今日はあなたに忠告があるの。」

忠告・・・?ファントム様に忠告ということでしょうか?
一体、何があったのでしょう?

「以前、陛下があなたのことを探らせていたのを覚えているかしら?」
「ええ。あのリリアがめっちゃ泣いた時ですよね。」
「・・・お恥ずかしい所をお見せしてすいませんでした・・・・」
「冗談だよ。あの時は、むしろリリアを抱きしめられて、むしろ幸運だったかもな。」

そう言われてみれば・・・確かに私はあの時ファントム様の腕の中にいたのですね。
感情が高ぶっていたためあまり思い出せないのが残念です。もし機会があったならば、今度はゆっくりとファントム様の暖かさに浸りたいものです。その、それなりの状況と関係が整った時にでも・・・何か、最近ははしたないことを考える機会が多くなってしまった気がします。『恋煩い』とはまさにこのような状態なのでしょう。

「話を戻すけど、あの時に積極的にあなたを調べていた者達が今度の祭典のときに、城下町で催し物を開くことになったのよ。」
「それがどうかしたのですか?」
「リリア、この仮面に関しては舞踏会の時に既にその人達に知られてるってことだよ。つまり、俺がのこのこと歩いてたら最悪の場合そいつらに見つかって捕まるかもしれないってわけさ。」
「ええっ!?」
「まあ、その催し物が開かれてるところに寄らなきゃいい話だけどな。」
「それがそうもいかないのよ。」
「え?」
「彼らは催し物をして、その間々に周辺警護をする予定だから町中を散策することになるの。」
「・・・ちょっと待って下さい。警護って言いましたよね?しかも今までの話から察すると国王勅命を受け取れるほどの腕の立つ人間が複数ってことですか?」
「その通りよ。」

一体、誰のことを仰っているのでしょうか・・・?
―――警護―――催し物―――勅命―――複数―――彼ら――――っ!?
まさか・・・まさかあの方達ですかっ!?

「リリアは気付いたみたいね。」
「そ、そんな・・・」
「誰だよ?俺、騎士の辺りには疎いから分からないんだけど。」
「し、『四聖騎士』の方々ですかっ!?」
「そう・・・しかも全員が、ね。」
「しせーきし?すごいのか、そいつらは?」
「説明してあげるわね。お城に勤めている衛兵達。その衛兵をまとめる役目を負っているのが騎士になるというのは分かっているわね?」
「ええ、一応。」
「実は、騎士の中でさらに3つの階級があるのよ。一番下の階級が16騎士。逆に最も上が騎士団長なのだけど・・・16騎士の中から、騎士団長と陛下によって選ばれた4人。心・技・体の全てが揃った騎士だけが選ばれる騎士の中の騎士。それが四聖騎士なのよ。実質上、この国の治安を支えているのは彼らでしょうね。仕えるべき主君を守る盾となり、力なき民を守る鎧となり、愛すべき国を守る剣となる。それが四聖騎士の志。」
「・・・すごそうだってのは分かりました。」
「更に言うと、現在の四聖騎士は歴代最強とまで呼ばれているわ。ちなみに、今の騎士団長も元々は四聖騎士の一人よ。」
「将来の騎士団長養成機関も兼ねてるわけか・・・そりゃ、見つかりたくないことこの上ない人達だ。」
「ええ。彼らが巡回する場所は大通りだから気をつけてね。」
「特徴は?」
「彼らは全員、国印の描かれた銀色の外套をまとっているから、それを目印にすればいいはずよ。あれなら目立つから遠くからでも回避できるわ。」
「ふ〜ん・・・分かりました。場合によっては―――以前、頂いた物を使ってもいいですかね?」
「ファントム様。以前、頂いた物とは・・・?」
「紋章印だよ。」

ああ・・・確かにお母様の紋章印さえ使えばその場は回避できるでしょう。しかし、それが示す所は――――

「構わないけど・・・それは、私の部下になるということよ?例えそれがその時、一時のことであっても、紋章印をかざすことはあなたをリリアの友達であることをその間無くしてしまうわ。」
「構いませんよ。だって――――

――――俺とリリアの間にある物はその程度で崩れるほど弱い物じゃない。――――

―――そうだろ、リリア?」
「あ・・・はい、もちろんです!」

先ほど、一瞬だけ感じてしまった焦燥はもはやありませんでした。
そうです・・・たとえ誰がどのように言おうとも、私とファントム様の心の間に割り込むなど出来はしないのですから。
この言い方は、ちょっと恋人達のようで気持ちいいですね。

「やれやれ・・・本当に、あなたがお城にいてくれたらと思うわ。」
「繰り返しますがそれは断固として拒否します。」

お母様の言葉は、私の気持ちを知っている上での言葉だからこそ・・・ちょっと、そこまで否定されてしまうと傷つきますね。
いつか、ファントム様自身の口から『ここにいたい』と言って頂きたい物です。もちろん、ここというのは私の隣という意味で――――

「リリア、顔がだらしないことになってるわよ?」
「ぇ、えっ!?」
「何か考え事か?ちょっと笑ってたけど。」

きっと私の顔は至福の表情、けれどとても変な表情だったかもしれません。よりにもよってファントム様の前でとは・・・恥ずかしいことこの上ありません・・・
ファントム様の前でこのようなことを考えることは二度としないようにしなければいけませんね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-KysLI] 2006/06/30(金) 21:28:20

ふぇすてぃう゛ぉー6!

「レエエエエエエエエエエエエエエイ!!」
「貴様という男は!貴様はあああああああああああっ!」
「あの店のため!いいや、この町のためにやられろおおおおおおっ!」
「しつこいんだよお前らはっ!」

久方ぶりの鬼ごっこ。
ちなみに上からヴォンド、ノーリ、ガンムの3人。後、その後ろに親衛隊の面々が多数。小耳に聞いた話によるとこの親衛隊、日々隊員数が増加しているだけでなく最近は会議やら特訓やらを始めて随分と大規模な集団となっているらしい・・・もちろん、こいつらのブラックリストの一番上にはどれも俺の名前が書かれているんだろうが。迷惑なことこの上ないし。
もう一つ聞いた噂、既にこの辺りの男性の半数以上はどれかの親衛隊に属しているとかいうのは嘘だと信じたい。

「大体、俺とあの3人はそんな関係じゃないって言ってるだろうがっ!?」
「貴様がどう思っていようが今さらっ!」
「美女に囲まれているというだけで、もはや男の敵だっ!」
「そして我らが癒しである彼女たちと日々あ〜んなことやこ〜んなことをしている貴様は、もはや人類の敵だあっ!」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえええっ!」

とりあえず、走れ!走るんだ俺!店までたどり着けばこいつらも暴れないし馬鹿なことはしない!だってキララ達に迷惑がかかっちゃうしね。
ちなみに、買ってきた材料は親衛隊の1人に渡しておいたから、ちゃんと店に届いているはず。こういう無駄な所で義理堅いのは良いことなんだかどうなんだか・・・
何はともあれ、もうあと少し!ほら、前方左手に店の看板が見えた!後ろのやつらも速度を落とし始めてるし、これで何とか逃げのび――――

「よし、これで――――」

‘ギイィッ・・・・’

「ぬおぁっ!?」
「え?」

って、扉が開いて―――――マリス!?
やばい、ぶつかるっ!?

「っ、りゃあああああああっ!!」

前に加速させようとして踏み出した右足を少しばかり斜めに踏み出す。さらにそのまま左足は前ではなく横に回し蹴りのように後方に振り上げて体を強引に反時計回りに回転させて、自分の体が前のめりになった瞬間に残された右足で地面を思いっきり蹴る!

結果として俺の体は重力を離れ、そりゃあもうこの世界では脚力5倍の俺はまさにフィギュアスケート某金メダリストもびっくりの回転数を空中で叩き出しながら向かいの店の軒先に置いてあった桶と荷車と樽が重ねてあったところに突っ込んだ。

‘ドガッシャアアアアアアアアアン!’

「あ――――れ、レイッ!?」
「やった!レイのやつめ自爆したぞ!」
「馬鹿か!?そんなこと言ってる場合じゃない!今、頭から突っ込んでたぞ!?」
「良い事じゃないのか?」
「たわけめっ!あいつは我らがマリスちゃんを庇ったのだ!ならば普段が敵であろうともその行動は我らの同士っ!」
「なるほど。」
「ちょっと、あなた達どいて!レイ!レイ、大丈夫なのっ!?」

いや、衝撃の方は全く問題ないんだが、右足を少しばかり捻ったかも。正直なところ少しばかりだが痛い。
マリスが慌てて駆け寄ってくる・・・って、顔色がめっちゃ青いな、おい。いや、確かに普通なら大けがだろうから心配もするかもね。けど大丈夫!だって俺ってばこの世界ではほとんど超人だから!

「レイ!しっかり!」
「つつっ・・・お〜、痛ぇ・・・」
「レイ・・・良かった、無事なのね?」
「ああ、ちょっとだけ足首を捻った程度だけどこれなら問題ない・・・ってか、マリスこそ大丈夫か?」
「私は平気よ。あなたがぶつかってないもの。」
「そっか、なら良かっ――――っ!?」

俺の目に見えた物。
無様に倒れてる俺の前にかがみ込んでいるマリス。その頭上に浮かんでいるのは大きな石。おそらくはこの建物の一部を抑えていた物が、俺の激突により落ちてきたのだろうけど―――落ちてきた!?つまり、浮かんで居るんじゃ無くって落ちている真っ最中!?しかもマリスの頭に直撃コースかよっ!?俺ならともかくマリスの頭に当たったら―――

「マリスっ!!」
「えっ、きゃあっ!?」

マリスに飛びつき、押し倒すような形で俺の体の下に追いやる。


‘      ゴチン     ’


痛みの方はともかく、衝撃により振動の方はどうしようもないらしいね。
脳が頭の中で揺さぶられる感覚と共に、俺の意識は闇に落ちていった―――――

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-PztEz] 2006/07/02(日) 12:54:58

ふぇすてぃう゛ぉー7!

さっき店の外で派手な音とマリスの叫び声が聞こえたんだけど・・・何かあったのかしら?
まあ、大方レイと親衛隊とかいう人達の争いにマリスが巻き込まれたってことでしょうけど。いい加減、こういう事になれてきてる自分が怖いわね。

「はぁ・・・もう、店を開けるっていうのに。ねえフォルト、ちょっとレイ達の様子を見てきてくれない?」
「ん?りょ〜かいっ!」

そう言ったフォルトが厨房から出ようとした時だった。

「キララちゃんっ!フォルトちゃんっ!いるかいっ!?」
「わっ!?」
「うわおっ・・・な、何ですか?」

入ってきたのは・・・えっと、確かマリスのところの親衛隊の隊長さんだったかしら?随分と血相を変えて飛び込んで――――


「レイがやばいっ!」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。
『レイがやばい』・・・?レイが、危ないってこと・・・?って――――

「レイッ!?」
「レイ君っ!?」

持ってた道具が落ちる事なんて気にしないであたしは外に飛び出した。
そして、それを見た瞬間・・・あたしは固まってしまった。

地面にうつぶせに倒れたままのレイ

その下からはい出てきたらしく背中を汚して、しかし必死にレイを呼び続けるマリス

蒼白な顔で立ちつくしている人達

レイの隣にある、明らかに人間の頭に当たればただじゃすまないような石

最悪の想像が頭の中で組み上がった。
あたしは滑り込むようにレイの隣にひざまずく。

「レイッ!?」
「キララッ!レイがっ!レイがっ!!」
「ちょ、レイ君!?一体・・・一体何があったのよおっ!?」
「レイッ!ちょっと、目を開けなさいよっ!ねえ、レイってばぁっ!?」

揺さぶってみたものの、レイは固く目を閉じて動かない。

「ちょっと・・・ねぇっ・・・レイッ・・・起きてっ・・・起きなさいよおっ!?」
「落ち着きなさい、キララ。」

突然の背後からの声にあたしが振り返れば、そこにはいつもの笑顔を全く浮かべていない、真剣な顔のお母さんがいた。

「お母さんっ!レイがっ!レイがっ・・・」
「もう一度言うわ。落ち着きなさい、キララ、マリス、フォルト。」
「っ・・・」
「は、はいっ・・・」
「くっ、ん・・・」
「キララ、少しお母さんに場所を譲りなさい。」

いつもとは違う、静かな、それでいて抗えない声にあたし達は静かにお母さんに場所を空ける。倒れたままのレイの隣にかがみ込み、その首や手、額などに手を当てながらお母さんはしきりに何かを考え込むような素振りを見せていた。

「レイっ・・・レイっ・・・」
「ご、ごめん・・・・わ、私を、かばってっ・・・」
「マリス、大丈夫だって。誰もマリスを責めないから・・・」
「レイっ・・・」

祈るように手を組み合わせていると、お母さんがようやくレイから手を離してあたし達の方を向いた。

「お母さん!レイはっ・・・レイはっ!?」
「大丈夫よ、やっぱりレイさんは頑丈なのね。頭から少しだけ血は出てるけど、それもすぐに塞がるような傷。倒れてるのは、強い衝撃で頭が揺れて気を失っているだけよ。」
「あ・・・・」
「じゃ、じゃあ・・・」
「つまり・・・?」
「しばらく静かに寝せておけば、その内ちゃんと起きるから心配いらないわね。」

安堵のため息より先に、あたしは崩れるようにその場にへたりこんだ。

「良かった・・・良かったぁ・・・」
「本当・・・一時はどうなるかと思ったわ・・・」
「まあ、よく考えたらあのレイ君がこんな石程度でやられちゃうわけないんだよね。」

そんなこと分かってる。
いや、分かってるつもりだったけど・・・やっぱり、目の前であんな風に倒れてるともう頭の中が悪い方向にばかり突き進んでしまって、ひょっとしたらレイは―――なんて考えすら肯定されてしまって、それを否定したいっていう気持ちも必死になって・・・後はもう何が何だか訳の分からない状態になっちゃって、ただレイの名前を呼ぶしかなかったのよね。

結局の所、あたしはレイが居なくなるなんて考えられなくなってるってことなのよね・・・それが、永遠の別れとかじゃ無くて、例えばレイが――――その、いつか帰っちゃうってことにしても・・・それを考えようとしない自分がいる。そんな未来を信じたくなくて、無理矢理にレイを家族にしてしまった自分がいる。そんな醜い感情すら、笑ってありがとうと言ってくれるレイに胸を高鳴らせる自分がいる。

「はぁ・・・手遅れもいいとこだわ・・・」
「え?レイ君は大丈夫だって今―――」
「あ、レイじゃなくって・・・あたしよ。」
「へ?」
「ああ、そういうことね・・・私も分かる気がするわ。」
「すいませんが、そこの人達。ちょっとレイさんを運ぶのに手を貸して下さい。」
「あ、はいっ!」
「それと、先ほどレイさんを追いかけてた方々に一言。」
「はい・・・」
「レイさんが目を覚ましたら、ちゃんと謝る様にして下さいね。それでレイさんが許して下さるまで、うちの店に入ることは許しません。」
「分かっています・・・申し訳ありませんでした。」

思ったより殊勝な態度を見せてくれる親衛隊の人達だった。
どうやら、レイが悪い連中じゃないって言っていたのはその通りらしいわね・・・まあ、レイをこんな目に遭わせておいて平然としてたら、この場で殴り倒してやるところだったけど。こんな人達ならレイもきっと笑って許してくれると思うのは、少しずつレイのことを分かってきてる証拠なのかもね。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-gSQhe] 2006/07/05(水) 19:58:36

閑話休題 〜おれは過ぎ去った真実〜


『おい、零!これを見てくれ!』
『ん?・・・って、親父・・・それは何だ?』
『ふっふっふ・・・これこそ私が開発したお守り!どんな危機にも瞬時に対応できるハイパーテクノロジーが集結し、車に突っ込まれようが槍に降られようが隕石にぶち当たろうが恐竜に追われようが持ち主の体を守る最強の守護者!名付けて‘いーじす君マキシマム’だっ!昨晩、時空間転送装置を開発中にひらめいたアイディアから創り出した、まさに最終護身用製品だっ!』
『・・・親父、それが結びつけられているのが俺の鞄なのは気のせいか?』
『目の錯覚さっ!』
『そんなわけあるかああああああああっ!』
『ええい、騒ぐなっ!毎日毎日、労働大国とまで呼ばれたこの国に溢れる労働者の数だけ存在する車の隣をチャリンコでひた走るお前の身を案じた親心が分からんのかっ!?これさえあれば怪我の心配なんて全く必要なしなのだぞっ!?』
『この前も似たようなこと言って持たせた弁当箱が十二時と同時に爆発したのはどういうわけだっ!何のテロかと思ったぞっ!』
『あれはっ・・・そう!失敗は成功の母という言葉を知らんのかっ!』
『失敗作を息子に持たせるんじゃねえっ!』
『お前がなんと言おうと、もはや固結びの上に二重結びを5回繰り返したこのお守りは取ること叶わんわっ!』
『まじかよっ!?』
『そう!私とお前!そして母さんの絆のようにっ!』
『だあああっ!ならハサミで―――』
『甘い!この紐もまた父さんの作った特殊軟体合金だっ!ハサミはおろかノコギリでも傷一つ付かぬ!どうしても切りたければ日本刀を持ってこい!それに今のお前にそんな時間はあるまいっ!もう出ないと遅刻だぞ?』
『何だとっ!?くそっ・・・帰ったら見てろよ!?』



『ったく・・・本当に厳重に固結びしてるし・・・ん?って、何か光っ―――――』

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/07/08(土) 20:00:13

ふぇすてぃう゛ぉー8!

「うおうっ!?」

び、ビックリした・・・ってか、今さらながらに思ったんだが、ひょっとして俺がこの世界に飛ばされたのって・・・まさか、あのお守りのせいか?いや、それは無いな・・・どうしようもない親父だが、予定よりベクトルが違う方への発明は決してしたことがないわけで――――ん?そう言えば、どうして俺は寝てたんだっけか・・・?

「えっと・・・って、ん?」

よく見れば寝ていたのは俺の部屋。
そして寝ているのは俺だけじゃない。

「キララ・・・それに、マリスとフォルトさんまで?」

キララは俺のベッドに上半身を預けるようにうつぶせに、マリスとフォルトさんは俺のベッドを背もたれにして座り込んだまま静かな寝息を立てている。
あ・・・そっか、確か俺はマリスを庇って石を頭に食らって気を失ったんだ。それでわざわざ心配してくれて、3人とも俺の側にいてくれたってわけか・・・

「・・・ありがとう、な。」

キララを起こさないように静かにベッドから出て、ちらりと窓を見る。丸一日眠ってたらしく外はもう真っ暗で――――真っ暗?

夜!?マジか!?ちょっと待て!俺はそんなに長い間気を失ってたのかよ!いや、そんなことはどうでもいいが、それよりリリアに会いに行かないと!何も言ってないのに行かなかったりしたら、きっとリリアは落ち込むか泣くかのどっちかだ!というより、どっちもかも。やばい、すぐにでも出かけ――――

「ダメですよ、レイさん。」
「っ!?」
「まだ寝ていなければいけません。」
「ミリアさん・・・えっと、今日は、その・・・ありがとうございました。」
「あらあらあら。謝るかと思いましたけど、ちゃんと分かっていたようですね。」
「まあ、それも一つの方法ではあるんでしょうけど、この場合はお礼の方が良いかなって思いまして。」
「ええ、そうですね。それよりレイさん。まだ寝ていなければいけませんよ。」
「えっと・・・その、ですね・・・」
「たとえ、あなたが一人きりで寂しがって、下手すると泣いてるかもしれないリリアちゃんとの約束があってもです。」
「・・・マジっすか?」

ばれてるし!しかもかなり明確に!何故に!?俺はまだ一応、誰にも言ってないですよ!?知ってるのは王妃様ぐらいのもんだろ!?王妃様とミリアさんが同一人物とかいうならまだしも、いくら何でもそれはあり得ないし!一体どうして――――

「毎晩、ずっと会いに行っていれば気付きますよ。」
「で、でも、どうしてリリアってことまで・・・?」
「あの仮面でリリアちゃんと踊ったこと、私も知ってるからですよ。」
「だって、あなたは・・・ミリアさんは、あの時、舞踏会に・・・」
「いたんですよ。2人と同じで、客人として招かれていました。ただし、ヴェロンティエとは関係のない人間としてですけどね。」
「・・・へ?」
「これ、レイさんなら分かりますよね?」

そう言ってミリアさんが見せてくれたものは―――っ、も、紋章印!?どうしてそれを!?だって世界に5つしか無いってリリアが言ってたのに!?それをミリアさんが持っていたら数が合わなく―――いや、‘これで合う’のか?

「そうだ・・・先代女王の紋章印・・・」
「ええ。私も、昔はお城に勤めていたんですよ・・・その時に、リリアちゃんのお婆様から頂きました。」
「そ、それで舞踏会に―――け、けど、それでも俺はリリアに会わないと・・・」
「あらあらあら、勘違いしないで下さいね?別に、レイさんがリリアちゃんと会うことをダメとは言いません。」
「へ?」
「けれども、今のレイさんを自分の体調が完全じゃないのを理解していて、それでも行くというのがダメだと言っているんですよ。」
「あ・・・」
「確かに今晩レイさんが行かなかったらリリアちゃんはとても寂しいでしょう。けれど、無理をして万が一があったならば、そんなものでは済みません。もう二度と笑うことさえ出来なくなるかもしれないんです。それがお分かりですか?あなたは、そうしないために彼女の友達になって、毎晩毎晩、足を運んでいるのでしょう?ならば、例えリリアちゃんが泣くかもしれないと分かっていても、それでもレイさんは今日は安静にしなければなりません。それに―――――」

ミリアさんが促す方向を見ると、そこには未だに静かな寝息を立てて目を閉じているキララ達がいた。

「キララは、レイさんが目を覚ました時に側に誰もいないのは可哀想だと今日一日中ずっと目を覚ますのを側で待っていてくれました。マリスちゃんは、いつでもレイさんのために料理が作れるように準備してました。フォルトちゃんは、レイさんのイメージが悪くならないよう、代わりに出前とかお客さんの対応をしてくれました。」
「・・・今日、一日・・・ですか?」
「はい。・・・ねえ、レイさん。あなたはいつかはこの部屋からも、この店からも、この町からも、この国からも出て行くつもりなのでしょう。でも、勘違いしてはいませんか?『自分は元々ここの住人ではないのだから居なくなっても自分が来る前に、つまりは元に戻るだけなんだ』と。もしそう考えているというのなら、それは大きな過ちです。それは大きな罪です。それは大きな不幸です。」

静かに、しかし俺の心に切り込むように迫ってくる言葉に、俺は身動き一つ取れなくなっていた。

「もう元には戻れないんですよ。あなたが居ることを当然としている人達が、少なくともここに4人いるんです。あなたがいることを喜びとしている人達が、少なくともここに4人いるんですよ。あなたが居ることを自分の世界としている人達が、少なくともここに4人いるんですよ。あなたがいなくなれば、きっと4人は悲しみます。きっと4人は泣いてしまいます。きっと4人は苦しんでしまいます。もう、あなたがいないということは、4人の中ではあってはいけないことなんです。ですから、自分をもっと大切にして下さい。レイさんの体も、心も、命も、もはやレイさんだけの物ではありません。あなたは、みんなと一緒にいていいんです。」
「ミリアさん・・・」




「あなたは、いつか来る別れのためにここにいるんじゃ無いんです。みんなに望まれているからこそ、ここにいるんですよ。」



・・・別れのためじゃなく、望まれているから・・・?

「それを、忘れないで下さい。」
「・・・・はい。ありがとうございまいた。」
「では、ちゃんと寝て下さいね。」
「はい。残念だし、リリアには悪いけど・・・今日は大人しくします。4人のうち、誰に泣かれるのも嫌ですから。」
「ええ、それじゃおやすみなさい。」
「はい・・・って、キララ達はどうすれば?」
「・・・レイさん。」
「何ですか?」
「誰かを選んでベッドに一緒に寝ておくと、朝には楽しいことになると思います。」
「あなたは真剣な空気を少ししか続けられないんですか?」
「笑顔でいることが私の人生ですから。おやすみなさい。」
「3人とも放置!?」

結局、俺は大人しく自分のベッドで寝ることにした。
言っておくが、絶対に誰にも指一本たりともさわってはいない。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-iccFG] 2006/07/08(土) 20:01:53

ふぇすてぃう゛ぉー9!


朝になってみると、レイはあたしの前に居なかった。

「っ――――!?」

跳ね上がるように起きて、そのままレイの部屋を飛び出して1階まで駆け下りる。
そして厨房に駆け込んだ時――――

「ん?よお、キララ。おはよう。」
「・・・こんの・・・」
「ん?」
「馬鹿レイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

‘クワアァァァン!’

放り投げた鍋をレイの額に命中させ、ひとまず溜飲を収める。終わっては居ないけどねっ!

「目を覚ましたんだったら勝手にいなくなるなあっ!あたしを起こしなさいよねっ!?何処に行ったのかって一瞬ものすごく焦ったじゃないのよっ!」
「ま、待て・・・今、もろに頭にっ・・・」
「うるさいっ!丸一日寝込んで心配させたくせに!」
「あ〜・・・そう、そのことに関してだが・・・一つ質問。」
「何よっ!?」

見当違いの質問だったら、今度は鉄板をぶつけて――――



「あのさ・・・キララ、俺のこと好きか?」



―――――はい?

「は、はああっ!?」
「いや、深い意味はないから。そこまで引くな。傷つくし。」
「ふっふ、深い意味って何よっ!?だっだいっ、大体いきなり何を聞くわけっ!?」

す、好きかですって!?そんなもん好きに決まってるでしょうがっ!もう誰にも負けないくらい好きだって自信があるわよっ!そもそも、何がどうしてそんなことを聞くのよっ!?いきなり聞かれたら、もうわけが分かんないじゃない!何!?ってかレイは一体何をしたいわけ!?こ、この状況とかはあれ!?その辺の恋愛小説とかじゃ、もう最終的な状況のあれ!?つまり、これは告白5秒前ってこと!?いきなり!?いきなり告白なんてしちゃうの!?いや、返事はもちろん了承なんだけどねっ!けど、もうちょと雰囲気ってものとかさあ!!

「お〜い・・・」
「はっ!な、何よっ!」
「すまん、言い方が悪かった。俺を好きかってのは、愛してるかってことじゃなくって、俺がヴェロンティエにいることをお前が望んでるかって意味だ。」
「・・・」
「何だよその顔は。」
「・・・いや、いいけどね・・・ちょっと自分が馬鹿みたいに思っただけだから・・・」
「気にするな。俺もその手の勘違いとかはこの店に来てしょっちゅうしてる。」
「救われる一言をどうも・・・それで、レイがここに居て欲しいかどうかってこと?」
「おう。まあ、答えは出てる気もするけど・・・一応、確認で。」

その顔はどうやらあたしの言いたいことも分かってるって顔ね・・・何か言いなりになるのも腹立つけど、まあ仕方ない。そのぐらいでレイが満足してくれるなら言ってあげようじゃないの。

「そんなの当然でしょ。あんたに居て欲しいと思ってるわよ、本気で。」
「うん・・・ありがとう。昨日から―――いや、ここに来てからの面倒とかそういったの全部含めて、本当にありがとうな、キララ。」
「何を今さら・・・それより、怪我の方は大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、もう全く問題ないよ。」
「それじゃ、あたしはマリス達を起こしてくるから。」
「ああ。俺は準備をしとくよ。」

あたしはレイに背中を向けて、来た道を今度はゆっくりと戻る。後ろから響いてくる包丁の音があたしの中で規則正しくつながるのを感じて、ひとまずほっとする。
レイが起きてくれたことと、そしてもう一つ。
以前から感じていたレイへの一つの感情――――初めて来た時のように、いつかレイはあたしの前から唐突に消えて無くなるかもしれないといったそんな不安が、どうしてかは分からないけど、今のレイからは感じられなかったことへ。
それは、とても心が温かくなることだった。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ygWbU] 2006/07/09(日) 21:14:46

ふぇすてぃう゛ぉー10!

今の私の顔を見た人は口々に『どうかなされたのですか?』とお聞きになるのでしょう。いいえ、事実すでに何人もの方々が私にそうお聞きになられました。
そして私のそれへの答えは『そんなことはありませんよ。昨日は少し寝付けなくて。』といった当たり障りのないもので、誤魔化すことにしています。

「・・・リリア、どうしたの・・・?」

このお城で私のことをそのようにお呼びになるのは2人だけ・・・そう、2人だけなのですね・・・

「・・・お母様・・・」
「リリア、あなたすごい顔よ?」
「ええ・・・分かっています・・・昨日は、全く眠れませんでしたので・・・」
「どうしたの?」
「・・・あの方が、初めて・・・初めて、来られませんでした・・・」

私は自分の部屋で1人という殻の中に閉じこもるようにしていました。
たまに尋ねてくる侍女や騎士の方々への対応も、ほとんど適当にしていたように思えます。しかし、今の私にはそれに向き直ることも出来ません。
部屋に一つ置かれた小さな机、その上に置かれているのは昨晩は全く使われることの無かったお茶でした。

「あの方って・・・ファントム君、が?」
「・・・私は、何かしてしまったのでしょうね・・・」
「リリア・・・」
「お母様・・・申し訳ありませんが、少しだけ1人にして下さいませんか?・・・今は、誰とも話したくないのです・・・あの方以外は・・・いいえ、もうあの方と話すことも叶わないのかもしれませんね・・・」
「リリア、しっかりしなさい。たった一晩だけでしょう?」
「一晩だけ・・・何故、そう言い切れるのですか?」

ひょっとしたら、もう来て下さらないのかもしれないのに・・・いいえ、それだけならともかく、ひょっとしたら私のことを嫌ってしまったのかもしれないというのに・・・最悪の場合には――――


――――――私のことを、忘れてしまったのかもしれないのに―――――


「・・・怖いのです・・・あの方を、信じたいのにっ・・・振り払えないのですっ・・・あの方にとって、私の存在が消えてしまうことが・・・」
「リリア・・・」

両手で自分の体を抱きしめるように強く肩を掴みますが、それでも体の震えは止まってくれません。
いいえ、止まらないのは当然です・・・だって、本当に震えているのは体ではなく、私の心のほうなのですから・・・

「お願いします・・・今は、1人にっ・・・」
「・・・分かったわ。」

静かに部屋を出て行かれるお母様を見ることすら、今の私には出来ませんでした。

昨晩から開いたままの窓も

昨晩から置いたままの椅子も

昨晩から用意したお茶も

昨晩から動けない私の体も

全てが、もろく、儚いものに思えてしまうのは、あの方がいないから。たったそれだけだというのに、たったそれだけのことで、私の世界はひび割れ、今にも壊れそうになっていました。
ファントム様が私の心の大半を占めているのは分かっていました。分かっているつもりでした。けれど――――

――――まさか私の心の全てが、すでにファントム様に捧げられていたなんて――――

「・・・いやぁっ・・・ファン、トム様っ・・・どうしてっ・・・どうしてっ・・・?」

会いたい

会いたい!

会いたい!!

「ファントム様っ・・・1人は、嫌ですっ・・・」

そうつぶやいて、溢れてくる涙を抑え―――――

「リリアっ!!」
「――――え?」

急いで顔を上げて、窓を見ようとして・・・それは叶いませんでした。窓を見る前に、私の視界はすでに真っ暗な闇に包まれていたためです。暖かな腕に包まれていたためです。

あの方に抱きしめていただいたためです。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Iogng] 2006/07/12(水) 20:15:42

ふぇすてぃう゛ぉー11!

「ファントム、様っ・・・?」
「ごめん・・・リリア・・・本当にごめんっ・・・」
「本当にっ・・・あなたですか・・・?来て、下さったのですかっ・・・?」

暖かな腕の中から、そっと顔を上げてみます。
いつも通りの仮面と、悲しみ―――いえ、悔しさに食いしばっている唇が目に入りました。
けど、そこにいたのはあの方でした。

「あ・・・ああっ・・・ファントム様っ・・・・!」
「ごめん、リリア・・・リリアを泣かせるつもりは無かったのに・・・ああ、違う!そうじゃんなくって、結局泣かせちまってるし・・・何の前触れもなく、昨日は来てないし・・・やっぱ、連絡手段がねえと・・・とりあえず、本っ当に悪かったっ!」
「いえ、いえ、いいのです!あなたが、来てくれればそれだけでっ・・・」
「昨日、ちょっと失敗してな・・・」
「失敗?」

そう言って、ファントム様は昨日どうして来られなかったのかを話してくれたのですが――――


――――自分が恥ずかしくなりました。
私が不安に身を募らせている間、ファントム様はずっと苦しんでおられたというのに!私は自分のことしか考えられなかったなんて!

「私は・・・何て恥ずかしいことをっ・・・」
「いや、それは恥ずかしくない!むしろ俺の方がよっぽど人として恥ずかしいしな・・・約束は破ったらだめなんだよな・・・うん、改めてもう一回ごめん。」
「そんな!私こそ、ファントム様に何かあったかなんて考えもせずに・・・おまけに、ファントム様を疑ってしまって・・・もう、私はなんてことをっ!」
「だから――――・・・いや、止めよう。何か無限に続く気がしてきた。」
「けれど!」
「はい待った!俺は約束を守れなかったことをリリアに謝った。リリアは俺を疑ったことを謝った。なら・・・もう、お互いに何も言わなくていいよな。」
「・・・ファントム様・・・」

にじんでいる涙を強引にファントム様の服でぬぐいます。その服の向こうから、ファントム様の暖かな心が伝わってくる気がして・・・とても、心地よいです。

「・・・って、すまん。なんか思わず抱きしめてるし。」
「あ・・・ま、待って下さい・・・」

離れようとするファントム様の袖を引っ張り、開いた距離を再び無くして私はファントム様の胸の中に顔を隠すように寄り添います。そして、私の今の正直な思いを告げることにしました。
ちょっとだけ、わがままを言いたくなったのです。

「その・・・も、もう少しだけ、このまま抱きしめて下さいませんか・・・?」
「へ?」
「・・・ファントム様が、ここにいてくださるって分かるから。もうしばらく、ファントム様とこうしていたいんです・・・」
「・・・まあ、これでリリアが安心できるのならな。」

ほどいた腕を再び私の背中に回して下さるファントム様の顔は、とても優しいものでした。本日今までの暗く濁った心を全て流してくれるような、そんな暖かい笑顔でした。

「ありがとうございます・・・とても、落ち着きます・・・」
「そうか?それは良かったけど・・・あんまり長くこの体勢を続けると、正直なところ俺が落ち着かない。」
「そうなのですか?」
「いや、可愛い女の子を抱きしめて平然としてられるほど俺は女性経験豊富じゃなくってな・・・もうかなり必死な感じだ。」
「ふふふっ・・・すみません。けど、もう少しだけ・・・」

この状態がずっと続くなら、私は全てを投げ出してもいい。
そう思えるのは、やはり愛しい人に抱かれているからなのでしょうね・・・


‘―――――ガチャリ―――――’

「リリア、ちょっと話が―――――」



・・・お母様・・・お願いですから、私の部屋に入る時は何かしら合図を下さい・・・扉を叩くとか、色々な手段がおありになるはずですから・・・

ええ、これが現実逃避だというのは分かっています。けれどもこの状況を見られて、それを観察できるほど私は器用ではないのです。まして、取り繕うなど・・・出来るわけがありません。
ですから、私の取った行動は驚いた顔でお母様を見るというだけでした。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-Aqizw] 2006/07/15(土) 21:49:08

ふぇすてぃう゛ぉー12!

「・・・えっと、お邪魔だったかしらね。」
「あの、王妃様・・・これには理由が・・・」
「いいのよ、ファントム君。何も言わないで。分かってるから。大丈夫、ちゃんと私は分かってるから。」
「何を分かってるのか、すごく気になります。」
「大丈夫よ、ファントム君。女の子はいつか女に変わるんだから・・・そう、リリアにとっては、それが今日だっただけのこと。」

女の子が女に・・・?

「すっげえ勘違いです。」
「いいのよ隠さないで。リリア、初めてなんだから優しくしてもらいなさいね?」
「初めて・・・?」
「後、ファントム君・・・責任は取ってもらうわよ?」
「どんなですか!?」
「仮にも王女を抱くっていうんなら・・・やっぱり、次期国王?」
「抱く・・・抱くっ!?」

ま、まさか!そういうことなのですかっ!?お母様が仰っているのは、つまりは、私とファントム様がっ―――そ、そういうことをっ!?

「おおおおおお母様っ!こ、これは違うのですっ!」
「でも、2人とも抱き合って離れないし。」
「え、あ、あぁっ!?」
「ぅおっと?」

つ、つい居心地が良くって、今までずっとファントム様に抱きしめてもらっていました!弁解している最中まで!

「今さら離れても・・・ファントム君。覚悟は出来たかしら?」
「だから、これは違うんですよ、王妃様っ!」
「嫌ねえ、そんな他人行儀なこと。もう今日からはお義母様って呼んでくれていいのよ。」
「呼びません!」
「ふふふっ・・・娘を傷物にした責任は取ってもらうわ。」
「人の話を聞いて下さいっ!」


結局、ファントム様がお母様を説得するのにはかなりの時間を要しました。

「―――と、いうことですから。」
「残念だわ。ようやく陛下にあなたのこと報告できると思ったのに。」
「もう、その情景がありありと想像できるのがすげえ怖いです。」
「お、お母様・・・その、ご心配をおかけしました・・・」
「ああ、いいのよ。そんなことはね・・・」
「えっと、俺からもすいません。何か、一つ目の約束破っちゃって。」

一つ目の約束とは、何でしょうか?まあ、私に関係のあることなのでしょうが、これに関してはファントム様が自分から仰ってくれるのを待つと致しましょう。

「いいのよ、ちゃんと会いに来て――――・・・って、今さらなんだけど良かったの?」
「は?」
「だって、今は‘昼’よ?」

―――っ!?
そう言えば、どうして私はそこに気付かなかったのでしょうか!ファントム様が会いに来て下さった嬉しさですっかり失念していましたが、今は太陽がとても高い位置に昇っているではありませんか!
こんな状況では、ファントム様の黒い服は目立つだけで、ひょっとすると誰かに見られていたかもしれないというのにっ!

「ファ、ファントム様っ!?」
「あ〜・・・一応、しつこいほどに確認はしてたんですけどね。職場の方にも許可はもらって抜け出てきましたし。」
「け、けれどももしも見つかればっ!」
「危なかったかもしれんけど・・・まあ、何て言うかさ・・・」

ファントム様は、その一瞬だけですがとても優しい表情でこちらを見られました。


「・・・リリアが傷ついてるって思ったら、会いたくなったんだよ。」


・・・あまりの嬉しさに涙が出そうになりました。
いえ、実はもう溢れています。ファントム様の想い、それは私がファントム様へと向ける物とは違っています。それでも間違いなくその瞬間は、私の存在がファントム様を動かすほどの想いへとなったのだと・・・そう分かったからです。

「ファンッ、トム・・様っ・・・あ、ありがとう、ごさいますっ・・・」
「ああ、ああ〜、また泣いてるし・・・」
「私、ちょっとこの部屋を出るわね。」
「は?」
「慰めてあげて。さっきの続きでもごゆっくり。」
「・・・言葉の端に嫌な物を感じますが、とりあえずはお言葉に甘えます・・・」

お母様が部屋から出て行かれたすぐ後、私は再びファントム様に抱きしめて頂きました。
それは、間違いなく幸せな瞬間でした。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-wcSdW] 2006/07/16(日) 20:26:14

ふぇすてぃう゛ぉー13!

キララに居て欲しいと言われた瞬間は、すごい幸福だった。

リリアを抱きしめていた時間は、すごい幸福だった。

そんで、今の状況はと言うと――――・・・

正直、幸福なのか不幸なのか微妙なところだ。

「マリス!そば、2つ上がった!」
「分かったわ。後、きつねうどんとたぬきうどんを1つずつ追加だそうよ。」
「分かった!」
「ちょっと、フォルト!このピセチ早く持って行ってよ!」
「待ってて!今、注文取ってるのっ!」
「キララ。ムタスレを2つとキテナーを1つよ。」
「はあっ!?さっき作ったじゃない!」
「ええ、だから別のお客さんから。」
「一緒に言いなさいよねっ!」
「そんな無茶なこと言わないの。私も手伝うわ。」
「手伝う前に、マリス!ちょっとこっちの蒲焼き持って行ってくれ!」
「ねえ!いつの間にかミリアさんがいないんだけどっ!?」
「さっき店の前の行列を整えに行った!何か道路にはみ出しすぎて苦情が出たそうだ!」
「ちょっと!じゃあ会計は誰がしてるわけ!?」
「親衛隊の連中に頼んでる!」
「客を使ってどうすんのよっ!?」
「その客寄せしてんのが親衛隊なんだよっ!」
「どうりで異常な多さだと思ったわ・・・」
「休憩まだなの〜!?」
「後、30分だ!ミリアさんに伝えてくれ!今、並んだ人で午前は終わりだって!」
「行ってくるわ。」



以上、客が増えて売り上げが多くなって嬉しいような、いつもの倍は働いて苦しいような、そんなほとんど戦場のようになっているヴェロンティエ店内からお伝えしました。

今日から国王即位10周年記念祭典が始まった。
それに伴い、俺達ヴェロンティエも一気に客を呼び込むべくいつもより早く時間を繰り上げて開店したのだが――――

「・・・午前中だけで、普段の一日分の売り上げだったわね・・・」
「もう死ぬ〜・・・死んじゃう〜っ・・・」
「おい・・・やっぱり、午後の甘味時間は無しにしないか?・・・正直、恐ろしいことになりそうな気がしてならねえ・・・」
「だめよ・・・だって、もう宣伝しちゃってるんだから・・・」

ちなみに甘味時間は普段は店に並ばないパフェやクレープ等のデザートを女性層に売り込む予定だ。

「うう・・・誰だよ、あんな企画を持ち出したの・・・」
「ごめん。あたしっす・・・」
「でも、レイもしっかり乗ってたでしょう・・・」
「ここまでとは思わなかったからな・・・この祭り、どんだけ人が来てんだよ・・・」

『ただ今、午後の準備中』の札を掛けた扉の外。
すでに行列が出来ているという恐ろしい事実にはあえて触れず、その向こうの光景に視線を飛ばせば、もう向かいの建物が見えないぐらいの人人人・・・
普段、こんだけの人数がどこに隠れてたんだってぐらいの人である。

「・・・はぁ・・・何か、今さらながらにすごいのな、この祭り。」
「そうね。きっと他国からも来てるはずよ。ま、初日だから随分と混んでるんじゃないかしら。きっと明日になれば多少は減ってるんじゃない?」
「ええ、大体お祭りがある時はそんな感じだものね。」
「いつもと違うのは、今回のあたし達はお祭りに参加できるのが夕方からってところよね・・・ううっ、いつもなら格好いい男の人と腕でも組んで遊びに行くのにっ・・・」
「相手がいないでしょ・・・」
「・・・レイく〜ん・・・」
「あ、俺は先約が入ってるから。3日目も4日目も。」
「じゃあ今日と明日は?」
「今のところは無いが・・・まあ、正直な所3日目の下調べをしたいとこだな。」

何の下調べもなしにリリアとふらついて歩き回るのはちょっと無理がある。
何せ、ほとんど城から出たことのないお姫様だ。長時間を歩かせるのは無理だろうし、人混みに酔ってしまいかねんからな。それに、デートプランはしっかり立てないと相手に失礼だろうからな。
しかし、リリアを連れて行くとなると・・・多分、手をつないで歩かないといけないんだろうな・・・しかも、かなりの密着状態で。大丈夫か俺の理性?耐えられるか本能?何か練習でもしといた方がいいのか?

「・・・ってか、練習ってどうすんだよ・・・」
「何の練習よ?」
「女の子に喜んでもらうための――――って、何を言わせる?」
「勝手に言ったんじゃないのよ。」
「そりゃ、そうなんだけどな・・・まあ、早い話が相手の子がすごい美人だからさ?正直な所、心がすり減ること間違いないからどうにかならねえかなと思ってな。」
「へぇ・・・美人なんだ?」
「ふぅん・・・そうなの・・・」

おや?何やら空気が涼しく、しかし重くなった気がしますよ?
何故に?何故にキララ達が微妙に鋭い目になってらっしゃるんですか?あれですか?店の仕事放っておいて女の子と遊びに行くのに鼻の下伸ばしてる俺に怒ってます?そうですよね、怒ってますよね?

「えっと・・・うん、美人だな。」
「ほう・・・どれくらい美人なのか教えて?」
「キララ達3人くらいかな。」
「え?」
「は?」
「ん?」

よし!さり気なくカバーに成功いたしました!頑張ったね俺の脳!よくもあの状況で、3人を誉める言葉をひねり出しました!ほら、あっという間に3人の周りにある空気が冷えていくのが分か――――おや?むしろ熱い?ちょっとキザすぎたか?ごめんなさい、恥ずかしいですよね。いや、別に嘘じゃあないですよ?

「あの、レイ君・・・それは―――」
「さて。そろそろ午後の部を始めようか。」
「逃げた!?」
「待ちなさいよ!」
「さあ、開店開店。」
「レイ、それは格好悪いわよ?」
「知りません。」
「・・・まあ良いわ。ところでレイ、さっき練習したいって言ったわよね。」
「え?」
「良い考えがあるわよ?」

おい、マリス・・・何か目が笑ってるのが、ものすげえ怖いです。

雨やかん [agAdw-ltRwT-OqYXM-ygWbU] 2006/07/18(火) 19:08:52

ふぇすてぃう゛ぉー14!

『両手に花』という言葉を知らない人間は中々いないと思う。
だが、果たしてその『花』というものが一体、何の花かを考えたことがあるだろうか?ちなみに俺はない。ないけれど―――・・・

多分、今の俺の状況なら菊の花(葬儀用)だと思う。

右手側にキララとミリアさん。
左手側にマリスとフォルトさん。
中心に俺。

何ですかこの状況?
何なんですかこの状況っ!?

「・・・なあ。」
「何よ?」
「何でしょう?」
「何?」
「何なの?」
「・・・周囲の視線がすっげえ痛いです。」

親衛隊の視線は、単純に嫉妬だからいいさ。受けたところでさほど心にまでは届かないしね。けれど、今の俺に刺さる視線は違いますよ?具体的には
『美女を4股なんて・・・最低な男だな』
って感じの視線が!ああっ!めちゃめちゃ良心が痛むっ!違うんです、違うんですよ!これは決して人道的立場から外れたことしてるわけじゃないんです!

「大丈夫よ。これだけの人なんだから、すぐに記憶からは無くなるわ。」
「そうそう。大したことじゃないことなんて覚えておくのは無駄だもんね。」
「諦めたら?」
「あらあらあら。レイさんともあろう方が情けないことをおっしゃいますね。」
「俺はそんなに甲斐性持ちじゃないんで。」
「まあまあ。これもレイ君のためなのよ?」
「そりゃ、そうなんだけどな・・・」

まあ、そりゃあそうだろうね。
こんなことをした後なら、確かにリリアを隣に置いてデートしたところで理性が危なくなるなんてことはないだろうさ。けど、今が危なかったら意味がないってことを分かって欲しいです。
ちなみに、今危ないのは心もだけど、それ以上に体。特に親衛隊の方々が先ほど小声で何やら相談してました。嫌な予感がびんびんします。

「・・・はぁ・・・言わなきゃ良かった・・・」
「もう遅いよ。大体、レイ君!」
「ん?」
「女の子と遊んでるときに暗い顔してるのはだめなのだよっ!しかも美女に囲まれているというのなら、もっと笑顔でいるべし!」
「あのなぁ――――」
「じゃなきゃ、女の子にも失礼でしょ。」

ふと、キララを見る。何やら恥ずかしそうな顔をしていた。
ふと、マリスを見る。何やら苦笑気味な顔をしていた。
ふと、フォルトさんを見る。何やら物足りなさそうな顔をしていた。
ふと、ミリアさんを見る。何やら心配そうな顔をしていた。

「・・・なるほど、な・・・それじゃ、折角の休み時間なわけだし、楽しく行きましょうかね。」
「そうそう、その意気!」
「そういえば、フォルトさん、その髪飾りは新品?」
「お祭り用に買っちゃいました!」
「とても似合ってると思う!」
「でしょ?ありがとう!」
「よっし!手始めにあの店で何か商品を当ててやるぜっ!」
「レイ君格好いいよっ!」
「よっしゃ、任せろっ!」
「張り切りすぎないようにね。」
「ぬいぐるみを当てたらマリスにやる!」
「張り切ってちょうだい。」
「おっし!おっさん、俺が一回挑戦!」
「ほう?奪えるもんなら奪ってみやがれっ!」

ふむふむ・・・この夜店は、つまりは金魚すくいの金魚をボールにしてるわけか。そんで、紙が破れるまでに取ったボールの個数で商品を決めると・・・ふっ、勝ったなこの勝負。

「マリス。何かぬいぐるみの希望あるか?」
「え?そうね・・・あの、クルアのかしら。」
「クルア・・・あの、黄色のやつな。」
「ふっふっふ。残念だが、そいつは8個の玉を取らねえと無理だ。そう簡単には―――」

‘パシャッ・・・’

「まずは1つ。」
「へ?」

‘パシャパシャパシャ’

「さらに3つ。」
「ぬおっ!?」

‘パシャンパシャン’

「2っ、2個取りだとおっ!?」
「しかも連続・・・」
「はっはっはっは。悪いがおっさん。この手の遊びは6才で極めた。」

何せ小遣い0円の俺がおもちゃを手に入れるには、こういった祭りの出店が勝負だったからな。金魚すくいなら30匹はいける俺の腕前をなめるなよ?ちなみに、金魚は意外としぶとい生き物なので適当に飼ってても死なないのが素晴らしい。

「さあ、そのぬいぐるみを渡してもらおうか!」
「ぐ、くっ!持ってけこの野郎っ!」
「はっはっは。爪が甘いぜ、おっさん。ほい、マリス。」
「ありがとう。大切にさせてもらうわ。」
「レイ君!次はあっちの店で私にも取ってちょーだいっ!」
「任せなさい!」
「レイ。どうでもいいけど無駄遣いはしないようにね。3日目に使うお金が無くなっちゃうわよ。」
「それに関しては問題ない。ちゃんとその日の分で既に別けて用意してるからな。」
「・・・用意周到なことで。」
「キララ、あなたも欲しい時は言って良いのよ?」
「なっ!誰がっ――――」
「ん?キララにはやってやれんぞ?」
「って・・・何でよ?」
「お前の分はちゃんと4日目に準備してあるからだ。」

そうそう。
リリアの分だけじゃなくてキララの分まで準備しておくことを忘れちゃいないのだ。2日連続で美少女2人とデートするのに事前準備は欠かせないね!どちらにも楽しく過ごして欲しいもんね!

「あ・・・ちゃ、ちゃんと覚えてたのね。」
「当然だろ?約束だからな。」
「ん。なら、今日は我慢してあげるわ。」
「さすがキララ。」
「お〜い、レイ君!こっちこっち!」
「今は、とりあえず5人で楽しもうぜ?」
「そうね。今日は・・・ね。」

キララはにこりと笑って―――って、その笑顔ちょっと可愛すぎですよ!?何か、そんな顔されたら4日目をかなり意識してしまいそうなんですがっ!やばい!2日連続で美少女とデートって、想像以上に精神が大変かも・・・こんな笑顔をリリアにまでされたら、もう本気でやばいな。理性ってか、むしろ心が?

――――どっちかに惚れたらどうしよう?――――

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-qJtQp] 2006/07/19(水) 22:16:50

ふぇすてぃう゛ぉー15!
お祭り2日目。

本日もヴェロンティエは大繁盛している。具体的には、空いている席がないどころか立ち食いしているお客さんまでいるくらいに。まあ、レイの作った立ち食いそばとかは、それでも十分おいしくいただけるものなんだけどね。それでも店内に入りきれなくて、お店の外には行列が出来てるし・・・ちょっと目眩すらしてきたわね。


問題っていうのはそんな忙しい時にこそ起こるものらしい。


「机4つ空いたわよ。」
「ミリアさん、4名様入れて下さ〜い!」
「はいはい。うふふふふ、今度のお客様はちょっとすごいのよ?」

は?客がすごいって・・・何?仮装した手品師でも来たわけ?

「えっと、こっちの席に――――って、え?」
「ん?・・・・あ。」
「む。・・・お?」
「何だ?お前、知り合いかよ?」
「何言ってるの。この2人、ちょっと前までお城に勤めてた子達じゃない。」
「ふん。1人はあのヴォルフのやつが迷惑をかけた女性だ。」

あれ?マリス達のこと知ってる人達みたいだけど、一体誰が――――って、え?

白銀の外套
背中に描かれた騎士団の紋章

そんな服を着てる人達はこの国では4人しかいない。

「「「『四聖騎士っ!?』」」」
「お?やっぱ俺達も有名になったもんだな〜?」
「あのねぇ、無名だったら私泣くわよ。」
「名が売れようと売れまいと知らん。そんなものはどうでもいいことだ。」
「む、至極同意。」

何かのどかな雰囲気を醸し出してるけどそんな場合じゃない!何だって四聖騎士が揃ってうちの店に来るわけ!?いや、有名になってるから休憩時間に食いに来たってのが分からない訳じゃないけど!いきなり来られたって焦るし、それなりの準備ってもんがこっちにもあんのよ!

「あ、あの――――」
「おい、マリス!フォルトさん!立ち止まってないで料理運んでくれっ!」
「あ、ご、ごめん。」
「いいいい、いや、でもレイ君!ちょっとこっち見てよ!」
「何だよ?」

厨房からひょいと出てきたレイは四聖騎士団を見て――――

「えっと・・・そこの4人。」
「何だ?」
「うん。鎧を着たまま店内に立ってられると、マリス達がすんげえ動きにくいから、早い所座って。」

――――すごいことを言ってくれた。

「・・・一応、聞いておくけど・・・私達のこと知らない?」
「え?確か、四聖騎士とかじゃないのか?違ったか?」
「いや、正解だけどよ・・・」
「なら良いだろ。何か?まさかもうちょい広い机に通せとか言うんじゃないだろうな?」
「全面否定。」
「よし、ならそこの4つ空いてる席な。注文は後で誰かが取りに来るから。しばらく待って――――あ、巡回中で仕事がすぐにあるなら、出来る限り考慮するけど?」
「あ、ああ・・・頼む。」
「よし。それじゃいらっしゃい。注文は決まったらそこの2人に言ってくれ。」
「む・・・了解。」
「ほらほら、何を止まってるんだよ。さっさと――――」
「こらあああああああっ!」

‘クワァァァン・・・’
放り投げたお盆をレイに命中させ、頭を抑えたレイに詰め寄る。

「あんたって人は!あのねぇ、四聖騎士の人達が来てくれたんだからもうちょっと反応示しなさいよ!?ってか、命令なんてするんじゃないっ!この人達のかんに障ったら、どうしてくれるわけっ!?下手すりゃ店ごと潰されるじゃないのよっ!」
「ああ、その可能性は考えてなかったな・・・悪い、生意気言い過ぎた。」
「いえ、別に良いわよ・・・」
「だが、キララ。一つだけ言わせてくれ。」
「何よ?」
「四聖騎士だろうが王族だろうが、この店に入ったなら客だろ?だったら、俺達がやることは反応することじゃなくって、料理をすること。違うか?」

まあ・・・そりゃ、そうなんだけどね・・・一応、有名人なんだからさ、少しは戸惑うとかしなさいよね・・・・一瞬とはいえ、驚きで我を忘れた自分が馬鹿みたいじゃないのよ。

「と、いうわけで。」
「・・・そうね、お客さんがつかえてるしね・・・・」
「よっし。んじゃ、やるぞ!」

まあ、レイの言うことは正しいもんね。四聖騎士だろうが誰だろうがあたしにできるのは料理を作って美味しいって言ってもらうことだけなんだから。
あたしは厨房に戻って、ついさっきまで握っていた鍋を再びつかみ取って振り始めた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-XmSpM] 2006/07/21(金) 19:42:07

ふぇすてぃう゛ぉー16!

「・・・どうしてここにいるんだ?」
「一番の理由は興味本位かしら。」
「何かうちの店が悪いことして監視されてるみたいだから止めてくれると嬉しいんだがな?」
「ちゃんと鎧は脱いでるだろ?心配すんな、誰も分かりゃしねえよ。」
「それに仕事は?」
「後の1人が動いてる。心配いらん。」
「・・・今さらながら、この国ってよく機能してるよな・・・」

レイのつぶやきは、あえて聞かないことにした。
ちなみに、今の状況を説明すると――――店の前に四聖騎士の内、3人が並んで立っていて、午前の部を終えて外に出たレイとあたし、それにマリスとフォルトが声をかけられたというところ。
全く持って理解できないのは、絶対にあたしの頭のせいじゃないわよね。

「それで?何か用があるなら聞くけど?」
「うん。大したことじゃないのよ。えっと、あなたレイ・キルトハーツでいいのよね?まあ、偽名みたいだけどそれはどうでもいいわ。」
「どうでもいいんだ・・・」
「なあ、本当にこの人達って四聖騎士か?」
「そうよ。」
「そっか・・・よし、さっさと仕事の準備をしよう。」
「おい、待てよ、話が終わってないぜ?」
「すっげえ聞きたくねえ。」

レイの気持ちは分かる。
名前を出した以上、彼らの目的がレイであることは確かだと思う。けど、偽名であることが問題じゃないとすると・・・一体、何?レイが何かしたって言うわけ?だからレイを捕まえに―――いや、それならこんなまどろっこしいことはせずに、問答無用で捕まえてるわよね。ってことは、それとは別の用があるってことで・・・情報が少なすぎだわ。この状態じゃ何にも分からないし。

「それで、レイに何の用があるっていうんですか?」
「大したことではない。確認と、場合によっては勧誘だ。」
「は?」

確認・・・?・・・それに勧誘って、何のことよ?

「まず確認だが・・・レイ。お前は一月ほど前、当時の16騎士の1人ヴォルフと数人の衛兵達を倒したことは間違いないな?」
「ヴォルフ?」
「レイ。ほら、私がからまれてたあの騎士。」
「ああ、あの変なやつ?倒したっていうわけじゃ無いけど、まあ撃退はしたな。」

そのおかげでレイにマリスが惚れたわけで・・・その騎士、本当に余計なことしてくれたものだわ。

「そんじゃ、それを踏まえた上での勧誘ね。」
「何の?」

その女性はさり気なく、ってか腹立つことにレイの手を取って笑顔で言い切った。

「騎士にならない?」
「嫌です。」

―――――いや、いきなりの勧誘もそうなんだけど、迷い無く言い切ったレイにもびっくりだわ・・・
衛兵ではなく、騎士になる。
これはレイが考えているより、いや、あたしが考えているよりもずっと大きな力を手にすることなのよね。比喩でなく、この国をその力で支えることが出来る。そして、間違いなく、こんな料理店の料理人よりもずっと、高い地位。

「うんとね、君が倒したヴォルフの後釜が見つかってなくって。それで、事前に君の身元調査を簡単にさせてもらったんだけど、町の人とも衛兵の人達とも仲良くやってるみたいだし。すごい強いっていうのも聞いてるから、きっと君ならやっていけると考えて、団長命令で勧誘に来たわけなんだけど・・・いきなり却下されると悲しいのよ。」
「熟慮しようが何だろうが、絶対に騎士になる気はないんで。」
「レイ君。その、あたしが言うのも何だけど、もう少し考えてみたら?騎士になるって結構すごいことだと思うよ?それこそ、レイ君が時々やってる調べ物をするのにも、その肩書きってすごい役立つと思うし。」
「そうかもな。正直な話、別に騎士っていう職業に興味が無い訳じゃないぞ?むしろ、ああ良い仕事かもな、とすら思う。けれども――――」

そう言ってレイはあたしの方を、きっと不安で少しだけ崩れそうな表情になっているあたしの方を見る。

「キララ。」
「・・・何?」
「お前、この間・・・俺がここにいるのは嬉しいって言ってくれたよな?」
「・・・言ったわよ。」
「なら、それが答えだ。」

レイはあたしの側まで歩いてきて、不安と緊張で固く握りしめられた手をそっと、レイの暖かい手で包んでくれる。
その温もりに、自然と体の固さが取れていくのが分かった。

「あんた達といるよりも、俺はキララとかマリス、フォルトさん、ミリアさん、それにここに来てくれる客とか、まあ一応親衛隊の連中とかと一緒に居た方が楽しいし、嬉しい。この先どうなるかは全然分からないけど、少なくとも今の俺にこの店以上に過ごしたいと思える場所は無い。だから、悪いけど騎士にならないかっていうお誘いは完璧に却下させてもらうよ。」

心の中まで響いてくる暖かい声だった。
レイは騎士なんてものになるよりも、あたしといることを望んでくれる・・・あたし達かもしれないけど、少なくともあたしの側でいいと言ってくれる。なら、もう恐れることは全く無いわね。

「というわけらしいので、すいません。レイはあなた達に渡しません。」
「・・・やれやれ、仕方ねぇか。」
「ふん・・・ここで無理に2人を裂くというのは、無粋だろうしな。」
「恋人達の間は邪魔できないものね。」

ちょっと待って。

「えっと・・・恋人じゃ無いです。」
「じゃあ夫婦?」
「違います!」

そりゃ、そうなれたら良いなって思ってはいるけど・・・ん?どうしてあなたはあたしを手招きしてるわけ?
女性の方があたしの服のすそをつまんで、そっと耳打ちしてくれた。

「まあ、余計なお世話かもしれないけど。私から見れば、‘脈有り’だと思うよ?」
「――――っ!?」

みゃっ、脈有りっ!?それは、つまり、その―――れ、レイも、あたしをっ・・・?
真っ赤になっているだろう顔で、レイの方を振り向く。

「?どうかしたのか?」
「なっ、何でもないわよっ!そう!別に全く持って何でもないんだからねっ!?」
「お、おう・・・」

慌てた様子のレイと、慌てているあたし。
料理人と雇い主。
身元不明な男とそれに恋する女。
変な関係だから・・・本当に、脈有りだって言うんなら・・・もう、こんな関係を終わらせていいかもしれない。

4日目、レイと本当に2人っきりになれたなら・・・誰もいない場所で、もしもレイと向かい合うことが出来たなら・・・もう、この想いを告げても・・・いいかな・・・?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-HcQtU] 2006/07/22(土) 19:28:55

ふぇすてぃう゛ぉー17!


祭典3日目となる今日。
いつもよりも朝早くに目が覚めてしまい、部屋の中に備えられた鏡の前で念入りに髪型を整えます。そして、前日のさらにその前の晩から考え抜いたすえに選び抜いた服に体を通し、薄くではあるけれど化粧をして、準備を終えました。
後は、あの方が来て下さるのを待つだけなのですが――――

「・・・いくら何でも早すぎましたね・・・」

正直なところ、何かをしていないと緊張に潰されそうです。何と言っても、今日は生まれて初めて男の方、しかも愛する人と2人っきりで出かけるという状況なのですから。何か粗相があっては大変です。

「お茶でも飲んで落ち着こうかしら・・・」

私は部屋に常備させているお茶に手を伸ばし――――

‘コンコンコン’

「リリア、いいかしら?」
「お母様?はい、どうぞ。」

伸ばした手を戻し、扉の向こうから現れたお母様に挨拶の礼をします。

「おはようございます、お母様。」
「おはよう、リリア。・・・うん、よく似合っているわよ。これならファントム君もリリアに心奪われること間違いなしね。」
「そんな・・・私としては、あの方に不釣り合いではないかと不安で・・・」
「大丈夫よ。と言うか、鏡の前でそんなこと言えるなら言ってご覧なさい?少なくとも、私が見てきたあなたの中では、今日が一番楽しそうな顔をしてるわ。」
「お母様・・・はい。」
「そう、その笑顔を忘れないようにね。それで、今日はお守りを持ってきたわ。」

お守りだなんて・・・本当にお母様には心配をかけ通しですね。

「はい、これ。」
「これは・・・綺麗な首飾りですね。」
「付けていきなさい。これは先代の女王様・・・つまりはお婆様から頂いたお守りなのよ。」
「お婆様から、ですか?」

そんな大切なものを・・・本当にありがとうごさいます、お母様。

「私も、お婆様も、大切な事をやる時にはそれを首に付けて赴いたのよ。そうすると、不思議と上手くいってね・・・特に、とあることに関してはとても。」
「とあること・・・?」

お母様はにっこりと笑って、私の両肩に手を置かれます。



「実はね、私も、お婆様も、それを付けてる時に告白をされたのよ。」



・・・今、何と仰いましたか、お母様は?

「・・・はい?」
「だから、それを付けて陛下と居た時に、私は結婚の申し込みを受けたの。」
「・・・えぇ?」
「母親からの応援よ。それじゃ、頑張ってね?」

お母様が部屋から出て行ってから、私はしばらくその言葉の意味を考えます。

告白?・・・結婚?・・・首飾り?・・・頑張って・・・――――っ!?

「〜〜〜〜〜〜っ!?!?」

わっ、私に何をさせようとなさっているのですか、お母様はっ!?たっ、確かにファントム様とそのような関係になるのは望む所ですが、べっ別に何も今日じゃなくともよいではありませんか!と言うかそれを今言うのですか!?今なのですか!?そんなこと言われたら緊張が高まり過ぎてもう何も考えられなくなってしまいますっ!もしも今の状況でファントム様が来られたら―――――

「お〜は〜よっ。リリア、迎えに来たぞ。」
「っ!?」

‘ざざざざざ・・・ゴチン!’

「痛っ!?」
「・・・えと、どうしてそんなに驚くかな・・・?」
「い、いえっ!べ、別に大したことじゃ無いのですっ!ただ、ちょっと考え事を―――ファントム様・・・?」
「ん?」
「その、お姿は・・・?」

ファントム様のお姿は、いつもの仮面と外套ではありませんでした。
普段、町の方々が来ているような服に頭には黒の帽子、顔にはいつもよりも小さな仮面がちょこんと乗っていますが、口元だけでなく今まで見たことのないさらりとした黒い髪もそこから見えていました。

「ん。いや、あの仮面と外套だと目立つからな。これなら町を歩いてても大して浮かないだろうし、リリアと並んで歩いても見劣りしないからな。」
「あ、はい。とてもよくお似合いです。」
「だろ?やっぱ気合い入れてきて正解だったな。」

ファントム様は私の姿を見て、少しだけ恥ずかしそうに笑って下さいます。


「リリアがそこまで綺麗なんだ。半端な格好じゃ恥かかせるとこだったよ。」


今、ちゃんと私の耳は正常に動いていましたよね?ファントム様は私のことを綺麗と仰ってくれましたよね?
ああ!お母様、あなたが選ぶのに手伝ってくれた服は確実にファントム様に届いてくれました!帰ってきたら心ゆくまでお礼をさせて下さいっ!

「それじゃ、出かけようか。」
「は、はいっ!・・・どこからですか?」
「そんなの、窓からに決まってるだろ。」
「えっと・・・決まってると言われましても、私には難しい気が・・・」
「問題ないよ。俺が抱えて飛び降りるし。」

ついさっき、お母様に勝負とか言われた直後にこれですか・・・そんな幸せ、かつ緊張の瞬間が今すぐにですか!?

「と、言うわけで・・・はい、これ。」
「え?」

ファントム様が渡されたのは、白く、それでいて鮮やかな仮面でした。

「あ・・・本当におそろいなのですね。」
「約束だったからな。それなら、今日の服装にも合うだろ。」

そう言うとファントム様は私を軽々と抱え上げ、そのまま窓枠に足をかけます。

「怖かったら目を閉じてなよ。」
「は、はいっ・・・」
「よっし。行くぞ!」

一瞬の浮遊感の後、風が下から上へと吹き上げるように私とファントム様は落下していきます。目は――――閉じませんでした。だって、折角ファントム様のお顔が目の前にあるのですから。これを見ていれば怖くはありませんしね。もっとも・・・今の私の顔はウツザの様に真っ赤なのでしょうけど。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-mvduP] 2006/07/23(日) 16:42:44

ふぇすてぃう゛ぉー18!

最初に抱いた感想は、とにかくすごい活気に溢れているということでした。
いつものように高い場所から見下ろすのではなく、ずっと前から憧れていたにぎやかな町の中心に私は立って過ぎゆく様々な人々や催し物を眺めます。そして何より、今の私の腕はどうなっているかというと――――

「・・・なあ、リリア。」
「はい?」
「こんな人混みだから、はぐれないようにしないといけない理由は分かる。だけどさ・・・どうして‘腕に抱きつく’必要があるのかを聞いて良いか?」
「お母様が『これなら決してはぐれない』と申されましたので・・・ご迷惑ですか?」
「うっ・・・め、迷惑じゃないけどな・・・ただ、恥ずかしいだけだ。」
「それは・・・私もです。」

今日のために選んだ服を通じて、ファントム様の体温が伝わってきます。そして私の体温もファントム様に通じていることでしょう。それは心地よく、けれどとても恥ずかしいです・・・こ、このままでは祭典が終わる前に倒れてしまいそうな気がします・・・

「・・・リリア。ここは一つ妥協案を考えてみたんだが。」
「どのようなものでしょう?」
「とりあえず、腕を解いて。」
「はい。」
「それで・・・手を繋げばいいだろう。」
「・・・はい!」

先ほどよりも感じる体温は減っていまいましたが、これはこれでとても心地よいです。幼い頃から本で読んでいた、町を行く恋人達と何ら変わらない姿・・・そのお相手がファントム様であることは、この上ない喜びです。

「さて、それじゃあ早速・・・」
「早速、何でしょうか?」
「催し物に挑戦だ。リリア、祭りに来たからには何かしら景品を一つは取らなければ、その祭りに行った意味は全く無いと言っても過言じゃないんだ!」
「そ、そうなのですかっ!?」
「そうなのさ!これは戦いだ!多くの品物を奪い取ってお店の方々に涙を流させることがお祭りの真の目的!」
「えっと、お父様の即位10周年の祭典では・・・?」
「そんなものはおまけだ。」
「おまけなのですか!?」
「開いてくれたことには感謝!けど、開かれた瞬間からもはやそんな物は無用の長物!祭りに来れば敬うのは開催者ではなく出店を開き、格安で俺達に品物を渡してくれるこの町の商人の方々だっ!分かったか!?」
「わ、分かりました!」
「よし!ならば行くぞ!」
「はい!」
「お腹は大丈夫か!?」
「ちゃんと食べてきましたっ!」
「時間はっ!?」
「今日の夜まではお母様が誤魔化して下さっています!」
「軍資金はっ!?」
「大丈夫です!だって私は王女ですから!」
「よし!ならば行くぞ!俺達の戦場へっ!」
「はい!勝利は我らの下にっ!」

ファントム様に釣られて叫んでいたら、何やら楽しくなってきました。さあ、今日は思いっきりファントム様といろんな所で遊んでいきましょう!今、この時間に置いては私は王女ではなくリリアというただの女の子です。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-yNzeD] 2006/07/25(火) 19:33:15

ふぇすてぃう゛ぉー19!

水面を漂うそれが、挑発するかのように私の前を通り過ぎます。
それに挑むべく、私は手に持ったものでそれに攻撃を仕掛けます。結果は――――

‘バチャッ・・・・ボチョン・・・・’

「はい残念〜。」
「うううっ・・・こ、これで3回目ですっ・・・ファントム様っ・・・」
「・・・何て言うか、成長しようぜ・・・?」

だって無理です!このような水に触れた瞬間からふやけて破れやすくなるような紙を使ってこのような玉をすくい取るなど!一体誰がこのような遊びを思いついたのですかっ!これは客からお金をむしり取るだけの罠です!仕組まれた犯罪です!

「帰ったら、この遊びを法で禁止させて・・・」
「職権乱用するなって・・・」
「では、どうすればすくえるのですか!?せめて紙では無く板で無ければ!」
「おいおい・・・それじゃ遊びにならねえから。」
「一体、こんなものはどのような方が成功できるのでしょう・・・?」
「はっはっは!嬢ちゃん、落ち込んでる所悪いが昨日はずげえ野郎がいてな?何と一枚で8個も取ったっていう馬鹿みたいなやつが来たぜ?」
「そんな方が!・・・きっと、その方は様々な修行を収めてこられたのですね・・・」
「・・・修行ね・・・まあ、そう言えるかもな・・・」
「残念です。一回目の戦いは敗北でした・・・」
「気を落とすなって。次の店で今度こそ勝とうな。」
「はい。頑張ります。」
「お〜お〜、仲良いねえ、兄ちゃん達。もう付き合い始めてどんくらいだ?」

付き合い始めて・・・そう言えば、ファントム様とお会いしてから、実際の所3ヶ月くらいしか経っていないのですね・・・それなのに、今はもうファントム様といることが当然となってしまいました・・・改めて考えると、恋をするにはとても短い時間でしたね。最も、これが勘違いではないのは疑うべきも無いことですけど。

「そうですね・・・3ヶ月くらいでしょうか。」
「3ヶ月か。ってえことは、あれか。今日辺り兄ちゃんが言ってくれるかもな?」
「・・・おい、おっちゃん。何か勘違いしてないか・・・?」
「え?ファントム様、私に何かおっしゃりたいことでも?」
「またまた〜、嬢ちゃんだって覚悟は出来てるんだろ?」
「はい?」
「ま、頑張れよ。俺は普段はそこの店で裁縫店をやってっから。‘結婚式’には呼んでくれや。」

・・・ケッコンシキ・・・けっこんしき・・・結婚式!?
ま、まさかファントム様が私におっしゃりたいこととは、まさかっ!け、結婚の申し込みということですかっ!?そうなのですかっ!?こ、これは早くもお母様の首飾りの効果なのでしょうかっ!?い、いきなり結婚だなんて!普通はもっと恋人などの段階を踏んでから進むのでは無いのでしょうかっ!い、いいえ、ファントム様ならば嫌ではないのです!むしろ望む所というかこちらこそというかっ――――

「・・・おっちゃん。悪いけど、俺達恋人でも何でもないから・・・」
「何い?」
「さっきのはただ単に知り合ってから3ヶ月って意味だよ。」
「何でえ、そうだったのかよ。」

・・・ファントム様・・・事実とはいえ、そのようにあっさりおっしゃられると、とても悲しいです・・・

「そういうわけだから。」
「やれやれ・・・けどよ、兄ちゃん。」
「ん?」

そう言うとお店の方はにやりと笑われ、私の方を指されました。

「あながち、満更でもないんだろ?」

とっさに、本当にとっさに私はファントム様の反応を確かめるべく、隣に視線を走らせました。そして――――

「あ――――」
「っ――――」

ほんの少し、ほんの少しではあるのですけれど、頬を赤らめてこちらを見るファントム様と視線が合いました。

「はははっ、以心伝心ってやつか?」
「・・・ったく、違うってのに・・・ほら次に行くぜ。」
「は、はい・・・」
「お幸せにな〜。」

そんな男の人の声を後ろに、ファントム様は私の手を引いて歩き出されました。そんな状態で、こちらを振り返っては下さらないファントム様の背中を眺めながら、私は考えにふけります。

あの時・・・一瞬でしたが、確かにファントム様の頬は赤く染まっていました。

それは何故?

私のように赤く染まっていたのは何故?

・・・期待していいのでしょうか?

その理由が、私と同じだと。
私の考えたことと、同じ事を考えていただけるのだと。
私のことを・・・友達としてでなく、1人の女として見ていただけるのだと。
ファントム様の想いが・・・私の想いと同じであると。



私を―――――愛していただいていると―――――

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/07/26(水) 19:57:53

ふぇすてぃう゛ぉー20!

「気持ちは分かるよ・・・けれど、俺は別に今日である必要は無いと思う。」
「かもしれません・・・けれど、今ファントム様といるならば、ファントム様とやりたいことなのです。」
「・・・どうしても、か?」
「はい。」
「後悔はしないな?」
「ファントム様と一緒なら、決して。」
「分かったよ・・・それじゃあ、行こう。」

そう言って、ファントム様は私の手を掴んだまま歩を進めます。
そして次の瞬間――――

「いらっしゃ〜い!」
「何名様で―――・・・って、あれ?」
「2名。」
「いや、そうじゃなくって――――」
「2名。」
「だから――――」
「客を待たせるのは店員としてどうかと思うぞ?」
「・・・えっと〜・・・わ、分かりました。こちらへどうぞ。」

ファントム様と私がしたかったこと。
それはこのお店『ヴェロンティエ』でお料理を食べることでした。
お祭りの準備をしている最中ですが、侍女の方の読まれていた本に目を落としたときに私が見つけたのは、以前お城で食べたぱふぇという料理を作っていただいた料理店でした。今ではこの都市一番と言っても過言ではない人気のお店なのだそうです。
ファントム様に様々な所に連れて行ってもらうのですから、せめて食事をするお店ぐらいは私の手で!と考えたのですが・・・何やらファントム様は乗り気ではないようです。もしや、ファントム様は別のお店を考えていたのでしょうか?

「あの、ファントム様・・・」
「ん?」
「その、ひょっとして私は余計な我が儘を言ってしまいましたか?」
「あ〜・・・いや、そういうことじゃなくってな・・・まあ、これぐらいなら言ってもいいかもしれないけど・・・」
「どうぞおっしゃってください。」
「・・・この店、俺が毎朝毎晩必ず飯食ってるとこなんだよな・・・」


――――え?
それは、つまり・・・ここは、私の知らないファントム様の、日常の中ということですか?私が知ることを望まなかった、ファントム様の日常・・・?

「まあ、俺としては別に知られても困らないけど・・・リリアは、平気か?」
「だ、大丈夫です・・・おそらくは・・・」

何かあった時は、ここに来ればファントム様に会えるかも・・・いえ、ファントム様ではなく、本当のこの方自身に―――いいえ、これではいけません。そのようなことをしないために、私は聞かなかったのです。それをしてしまえば、ファントム様はきっと私の下から去ってしまわれます。折角、希望が見えていたというのにそれではいけません。

「大丈夫です。私は、この店にお食事をしにきたのですから。」
「なるほど、ね・・・それじゃ、注文といくか。」
「このお店限定のものでファントム様のお薦めはどれですか?」
「ん〜・・・そうだな、売り切れでないならパスタとかいいかも。」
「ではそれで。」
「んじゃ、俺はヒアビュゲでも頼むかね。お〜い、マ―――店員さ〜ん・・・」
「はい、今すぐ――――って、何なの?その格好?」
「・・・聞くな。言うな。後、俺のことは知らないやつで通してくれ。」
「知らないやつって・・・あら?」

ファントム様と話していた女性がこちらを向かれました・・・綺麗な方ですね。何と言いますか、大人の魅力溢れる女性と言うべきでしょうか?どうやらファントム様の正体にお気づきのようです。

「ああ、この人が今日のお相手なのね?」
「何も言うなって・・・注文はパスタとヒアビュゲを1個ずつ。」
「はいはい。・・・ふ〜ん・・・こういう子が好みだったの。」
「頼むからもう行ってくれ・・・本当に頼むから。」
「まあいいわ。今夜はたっぷり聞かせてもらうから。」

今夜は・・・・?まさか、ファントム様はあの方と特別なご関係なのでしょうか?見たところ、とても親しい仲のようですし・・・だとすると、私が感じていた希望はここで砕け散ってしまうのでしょうか・・・?

「リリア・・・変な誤解を招かないように言っておくが、別にマリスとは特別な関係じゃない。ただの仲の良い友人だ。」
「は、はい!?」
「それに、俺は今のところ誰とも深い仲にはなってない。」
「はいっ!?」
「よって、勘ぐらないように。」

考えを読まれていたようです・・・私の顔にでも出ているのでしょうか?

それからしばらく後、料理が運ばれてきたのですが――――何故かファントム様は仮面の上からでも分かるほど狼狽なさっておいでです。
運んできて下さったのは、やはりとても美しい女性でした。そう言えば、先ほど迎えて下さった女性も可愛い笑顔で、ファントム様に気付いていたようでした。ファントム様の周りには、常日頃からこれだけ美しい方がおられるのかと思うと・・・ちょっと嫉妬してしまいそうです。
いえ、嫉妬してしまいます。

「えっと・・・料理を、置いてくれると嬉しいかな・・・」
「へぇ〜・・・この子が前から言ってた子なんだ・・・ふ〜ん・・・」

ちょ、ちょっと女性の方の視線が怖いです。あまり見られると私が王女だと分かってしまうかもしれません。ここは静かに笑顔でやり過ごして――――

「ちょっと失礼しますね?」
「はい?」

そうおっしゃった女性は、静かに私の耳元に顔を近づけ、そっと呟かれました。

「こいつのこと、一応あたしも狙ってるから・・・勝負ってことで。」
「っ――――!?」
「負けないわよ?」

なるほど・・・そういうことですか・・・ならば、先ほどの視線も納得がいきます。けれど、ならば私は王女としてでなく1人の女として、負けるわけにはいきません!

「・・・望む所です。」
「そうこなくっちゃ。」

先ほどの視線が嘘のような笑顔で、女性は料理を置いて去っていきました。
ファントム様は何やら疲れたような様子で手元に置かれた料理を眺めておられます。

「・・・何を言われたの?」
「いえ、大したことではありませんよ。あの方とも仲がよろしいのですか?」
「ああ。単純に付き合いの深さならリリアにも負けないぐらいだな。」

ますます強敵ですね・・・これが好敵手という存在でしょうか?しかし、私のファントム様への想いは誰にも負けません!

「さて、さっさと食って遊びに行こうか。」
「はい。今度こそ景品を手に入れて見せます。」
「その意気、その意気。」

昼食後、私はファントム様と共に再び祭典を楽しみ始めました。
側を通り過ぎていく見知らぬ仮装に驚き、見たことのない手品に目を奪われ、お客様を呼ぶ露店の方達の声に耳を誘われます。
そんな、最高の時間。


それは、唐突に変化を告げることとなりました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-HcQtU] 2006/07/27(木) 19:33:44

ふぇすてぃう゛ぉー21!

“うわああああああああああああああああああああ!!”

その遠くから響く声に、私もファントム様も振り向きます。
道行く人々も何事かと振り向きだし、声がやって来た方向に視線を向けてその理由を確認しようとします。

「何があったのでしょうか・・・?」
「さあ?何かただ事じゃないような声だったけど――――」

“きゃああああああああああああああ!?”
“ひいいいいいいいいいいいいいいっ!?”
“助けてえええええええええええっ!”

「っ!?」
「今、最後の方に助けてって聞こえたよな?」
「は、はい・・・そして、声が近くなってきてませんか・・・?」
「リリア。俺の側を離れるなよ・・・何か来るぞ。」

寄り添うようにファントム様の腕をつかみ、声が段々と近づいてくる方向に全集中力を傾けます。

“逃げろおおおっ!”
“散れっ!散るんだああああっ!”
“急いで道を空けろおっ!”

“――――・・・・ドドドドドドドドド!!”

「な、何だありゃあっ!?」
「逃げろっ!走って逃げるんだっ!」
「サリスッ!サリスッ!?」
「誰か止めてくれえええっ!」

・・・・――――ドドドドドドドドドド!!

鳴り止むことのない地鳴りのような音、そして途切れることなく段々と近づいてくる悲鳴と何かが走り込んでくる音。
一瞬だけ、揺れた人影の向こうに見えた物が、ようやく私にそれを知らせてくれました。

「な、何ぃっ!?」
「ぬ・・・『ヌロー』の群っ!?」

私の目に映ったものは、土煙を上げながらこちらに突進してくる何匹ものヌローの姿でした。それらは群れをなして道行く人々の間を割りながら止まる様子を欠片も見せずに走り込んできます。その頭には鋭く尖った大きな二本の角が――――

「リリアッ!捕まって!」
「―――っ、は、はいっ!」

ファントム様にしがみついた直後、私の体を何とも言えない浮遊感が包みます。
それがファントム様が私を抱えたまま高く、軽々と近くの建物の2階部分まで飛び上がったのだと察するのにはしばしの時間が必要でした。
ともあれ、私達の方には誰も目をくれず、人々は混乱しながらも必至にヌロー達から逃げ惑っています。
地面に降り立った後、私達はその様子をしばらく呆然と眺めていました。

「・・・な、何だありゃ・・・?何で、野生動物がこんなとこで・・・?」
「いえ、野生ではないようです。」
「ん?」

見れば、ヌロー達が来た方から必死な顔で走ってくる何人かの人々がいました。その手に握られているのはヌローを打つための鞭でしょう。

「まさか・・・祭典のために連れてきた動物が暴走したってのか!?」
「・・・そのようです。」
「ちょっと待てよ・・・あいつらが向かった方には、まだまだ露店があるんだぞ・・・?」

そうです。先ほどまで私達が向かおうとしていた、楽しい出店が並ぶ道路。
そして、おそらくは子供などの弱い存在がひしめき合う場所――――起こりうる事態は残酷なまでに簡単に想像できました。
そんなことを、させるわけにはいきません!ここは、私達王族が治める都市です。そして私には王女として、ここに住む人々を守る義務が――――

――――義務、だけ・・・?
ならば、守るための・・・そのために必要な『力』は・・・?
人々を逃がし、暴走するヌローを止めるための力が、私には――――無い。

何ということ・・・私は、王女という肩書きを持っているだけの、ただの女で、義務を持っていても、この状況を指をくわえて見ているだけしか出来ない・・・それなのに、王女だというのですか・・・?

「こんなっ・・・」
「・・・リリア?」
「こんなに、弱いのに・・・王女なんて、肩書きだけで何もっ・・・」

崩れ落ちてしまう膝を止められず、私は地面に座り込みました。

「私はっ・・・・・何も出来ないなんてっ・・・!」

こんなに無力な人間が王女だなんて・・・何のために私はここにいるのですかっ!?
自分の不甲斐なさが悔しくて、涙が出そうで――――

「何も出来ないなんてことは無いさ・・・リリア。」
「・・・ファントム様・・・」
「確かにリリア1人じゃ何も出来ないかもしれないけど・・・けどリリアは、王女として多くの人間に自分の意思を伝えることができるだろ?それは、決して俺や他の人達には無い力だ。だから、リリア・・・やりたいことを言葉にしてみろよ。俺はリリアの家来でも何でもない。けど、俺はリリアの友達だから、絶対に力になってみせる。」
「ファントム様っ・・・」
「さあ、リリア・・・リリアの思いを言葉に変えてみなって。」

私は、崩れ落ちた膝に力を入れて立ち上がります。もちろん、その手はしっかりとファントム様の両手を離さずに、目はファントム様の目から逸らさずに。

「・・・ファントム様、あの動物たちを止めるのを手伝って下さい!」
「任せろ!」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-NeIdA] 2006/07/28(金) 17:20:45

ふぇすてぃう゛ぉー22!

ファントム様は私を抱えたまま、ざわめく人々を眼下におい家々の屋根をつたってヌロー達が走っていった方向へと駆け抜けます。
その腕の中から、私ははっきりと遠くに立つ土煙を捕らえていました。

「まずはヌロー達の進路を変更させなければ!」
「どっち方面なら祭典と関係ない!?ってか、人が少ないのはどこだ!?」
「今はこの町中が会場です。人がいない場所はないでしょう・・・けど、お城の方なら衛兵達しかいないはずです!」
「それじゃあ衛兵に被害が出るぞ!?」
「ですから、お城の近くまで誘導して何かしら手を打てばっ・・・!」
「なるほどな!とりあえずは――――」

風のように走ってきたファントム様は地面を強く蹴ると大通りを1つ跳び越え、あっという間にヌロー達の前に降り立ちました。
私は邪魔にならないように急いでファントム様から離れて近くの店の中に逃げ込みます。

「お前ら、方向を変えろおおおおおおおおおおおおおおっ!」

そう叫んだ後、ファントム様は腰から立て続けに何かを取り出され、それを地面に向かって思い切り投げつけます。

「全員、耳を塞げえええええっ!」

ファントム様の言葉に、とっさに周りの方々が耳を両手で押さえた瞬間――――



‘――――ゴギャウンッ!!―――――’


凄まじいまでの音と同時に立ちこめた煙が視界を塞ぎます。

「ふぁ、ファントム様っ!?」
「心配するな!」

煙の中から現れたファントム様は私を抱え、煙を裂くようにして再び民家の屋根に飛び上がります。
急いで状況を把握しようと下を見ると、ヌロー達は突如として上がった煙に驚いたのか何頭かはその場に倒れて動けなくなっており、残る10頭前後が、唯一煙で視界が塞がらなかったお城への道を、しかも上手い具合に人が通らない路地を通っていきます。

「よっし・・・これで時間が稼げるな・・・」
「あの、今のは一体・・・・?」
「ん。まあ護身用のつもりだったんだけどな・・・それよりリリア、王妃様からもらったあれ、持ってるか?」
「あれとは・・・?」
「あれだけの暴走してるのを一度に、しかも誰も傷つけずに抑えるのは俺1人じゃ無理だ・・・だから、最強の手駒を動かさせてもらおうぜ?」
「最強の手駒、ですか・・・?」
「そう。いるんだろ?今、この町中に・・・‘王国最強の騎士達’がさ?」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2006/07/29(土) 16:31:46

ふぇすてぃう゛ぉー23!

お母様から頂いた地図を確認しながら、今の時間に彼らがいる場所へと足を運びます。
そうして見えてきたのは、喧噪の中で必死に人々を避難させようとしている白銀の外套をまとった4人の騎士達。

「ファントム様・・・おそらく、今日はもうファントム様と過ごすことは出来ないでしょう・・・」
「リリア・・・?」
「だから、今の内に言わせて下さい。短い時間でしたが、今日という日は私にとって人生の中で最良の日でした。あなたと出会えたことで手に入れた掛け替えのない日々を、さらに輝かせる時間でした。本当に、ありがとうございます。」
「ああ。俺もすごい楽しかった。」
「では、ファントム様・・・参りましょう!」
「ああ!」

ファントム様は背負われていた鞄の中から、そっとある物を取りだしてかぶられました。
それは、いつも通りの――――そして、彼らも見たことがあるだろうファントム様の本来の仮面でした。



「おい!こっち向け‘四聖騎士’っ!」
「え――――あ、あなたはっ!?」

四聖騎士の中で唯一女性である‘フィーア’が驚いた目をこちらに向けます。
続いて‘アイン’‘ヴァイツ’‘イラド’がその声に反応してこちらに駆け寄ってきて、ファントム様の姿を捕らえると同時に武器を抜き放ちます。

「お前っ!こんな所で何してやがるっ!?」
「・・・もしや、これは貴様の仕業か?」
「静止・・・」
「城に忍び込み、姫様に近づいて何を企んでいたのかは知らないけれど・・・ここで捕らえ――――」



「剣を収めなさい!四聖騎士アイン!ヴァイツ!イラド!フィーア!」



私は仮面を外し、ファントム様の後ろから彼らの前に進み出ます。
その時の4人の顔は、信じられない物を見たと言ってもまだ足りないくらいに驚きの表情に溢れていました。

「りっ・・・リリア王女様っ!?」
「何故あなたがここにっ!?」
「いや、それよりどうしてこの男と――――」
「剣を収めなさいと言ったのが聞こえないのですかっ!もう一度言います、王国第25世正当位王位継承者リリア・キルヴァリーの名においての命じます!剣を収め、私の話を聞きなさいっ!」
「っ――――」
「「「はっ!失礼いたしましたっ!」」」

慌てたように4人が剣を収め、膝を曲げてその場で頭を垂れます。

「今、この場に私がいる理由は後々説明します。しかし、今はそれどころではありません。フィーア!」
「は、はいっ!」
「状況を把握できていますか?」
「はいっ!祭典の催し物のために連れてこられたヌロー総数14頭が子供のいたずらにより管理者の手から離れ暴走を開始!5頭は捕らえましたが、残りの9頭が宮殿の方へと進んでいます!」
「そう。9頭も・・・」
「思ったよりか多いな・・・リリア、この辺りに水辺は無いか?」
「お前っ!王女様に向かって無礼な口を――――」
「アイン、黙りなさいっ!この方に対しての暴言は私への暴言とみなします!」
「っ――――し、失礼しました・・・」

驚いたような顔でファントム様がこちらを見ていますが、それは気にも留めません。私にとって、ファントム様を侮辱されるのは何よりも耐え難いことですから。まあ・・・ちょっと怖かったかもしれません。ファントム様に誤解されないようにしないといけませんね。

「・・・すいません、アイン。けれど、彼は私の友人でもあるのですから、別に私とどのような言葉で話していても良いのです。」
「い、いえ・・・こちらこそ、見苦しいことを・・・」
「おいおい。そんなことはどうだっていいだろ!それよりも、早くヌローを止めないと、いくら一般人が少ない城とは言っても、衛兵達に怪我させたら意味がないぞ、リリア。」
「そうでしたね・・・イラド。」
「はっ。」
「あなたはこの周辺の地理を掴んでいましたね。このあたりに水辺はありますか?」
「浅くって構わないんだ。ただ、ヌロー達が全頭入るぐらいの水辺さえあればいい。」

イラドはしばし考えるように頭を下げ、すぐに顔を上げて指をある方向に示しました。

「城、東方向に枯れかけた泉が。」
「全頭、そこに入れれば水に濡れるか!?」
「・・・そうだ。」
「よし!リリア、そこにヌロー達を誘い出してくれ!そうすりゃ俺が全部止めることが出来る!」

暴走するヌローを9頭も止めるなど、普通の方には出来ないでしょう・・・けれど、私の前でじっと私を見つめているこの方なら、揺るぎない自信に満ちあふれているこの方ならば必ず!

「分かりました。アイン!あなたはファントム様をその水辺へ連れて行って下さい!フィーアは衛兵達と共にヌローの進路上の住民の避難を手伝って。イラドは他の騎士達と協力してヌローの進路をその水辺へと変えて下さい。ヴァイツは私を城へ!お父様達に事の次第を報告します。以上をリリア・キルヴァリーの名において命じます!」
「「「「はっ!仰せのままに!」」」」

私は一瞬だけファントム様を見ました。

「・・・それでは、失礼します。」
「ああ・」
「ファントム様・・・どうかご無事で・・・」
「心配するなとは言わないけどな。それは杞憂だって思わせてやるよ。」

そう言って、ファントム様はアインと共に走り出しました。その背中に、確かな自信が溢れていたのは決して私の気のせいではないはずです。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-qJtQp] 2006/07/30(日) 18:39:37

ふぇすてぃう゛ぉー24!

お城にいたお父様達に事態を報告すると、最初は私が城の外にいたことに驚いていたお父様もすぐに立ち上がり衛兵と騎士団長を呼ぶように命じて自分も部屋を出て行きました。
お母様は少し私の頭をなで、すぐにお父様に付いて行かれました。

「王女様、自分はイラドの方の手伝いに――――」
「待って、ヴァイツ。」

立ち去ろうとしたヴァイツを呼び止めて、私もまた部屋を出ます。

「ヴァイツ。私をファントム様の元へ連れて行きなさい。」
「そんな!危険です、外にはまだヌロー達が!それに、もしもあの男の策が失敗したら――――」
「あの方が大丈夫とおっしゃいました。ならば、決して失敗はありません。」
「・・・何故、そこまであの男を・・・?」
「決まっています。」

私はヴァイツを追い抜くように部屋を出て、城の外へと足を向けました。

「あの方はファントム様だからです。」




これ以上は危険だという位置まで、わがままを言って連れてきていただきました。
そこは枯れようとしている泉も、その泉の中心で何かの上に立ってじっとヌローを待つファントム様の姿もよく見えました。

‘ブゥオオオオオオオオオ・・・・’

そんなうなり声と共に、泉の向こうから9頭の黒い獣がファントム様を押しつぶそうとするかのように突進してきます。足下はどうやら泥が多いわけでもないらしくその勢いは衰えることもなく水しぶきを上げながら、ファントム様との距離を詰めていきます。
いつの間にか四聖騎士の人達も私の周りに集まっていました。

「あの男っ・・・一体何をやる気だ・・・?」
「あんな場所では何も出来ないんじゃねえか?」
「イラド。本当にあの人はこれで良いって言ったのよね?」
「肯定。」
「ファントム様っ・・・神よ、どうかあの方をお守り下さいっ・・・!」

ようやく、ファントム様が動きを見せました。
右手首を左手でなにやら触り、そっと水面に右手をつけ―――――

‘ボオオオオオオオオッ!?’


「え?」
「あ、あぁ?」
「は・・・はあっ?」
「終了?」

それはまさに一瞬の出来事でした。
ファントム様が右手を水面に付けたと同時に、ヌロー達は次々と倒れて動かなくなってしまったのです。
何をなさるのかも分かりませんでしたが・・・何をなさったのかも分からないなんて・・・けれど、これでヌロー達の暴走は止まりました。残るは後始末を四聖騎士に―――――

「アイン、被害報告を――――え?」

いない?ついさっきまで4人ともいたのに、いつの間にか16騎士が3人いるだけで他には誰もいないなんて・・・一体どこに行ったのでしょうか?

「ねえ、あなた。アイン達は何処に行かれたの?」
「いえ、自分たちにも分かりません。ただ、随分と深刻な様子で4人とも走って行かれました。王女様は自分たちがお送りしますのでご心配なく。」
「そう・・・」

それを聞きながらも、私は心の隅に一抹の不安を抱えずにはいられませんでした。

「一体どこに――――っ!?」

ふと、私は泉に視線を向けました。
先ほどまでおられたはずのファントム様の姿もありません。
まさか―――――――!?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-XmSpM] 2006/07/31(月) 18:56:00

ふぇすてぃう゛ぉー25!

泉から出て、近くの林に入って一息つく。
いや〜本当にうまくいって良かった・・・まさか‘これ’を使うことになるとは思わなかったけど、何とか無事に解決できたみたいだし。
後は、ちょっとだけリリアに顔を出してからさっさとヴェロンティエに戻―――――


「見つけたぞ。」
「は?」

‘チャキンッ・・・・・’

「・・・え〜っと、何だよこの状況は・・・?」
「見ての通りだ。」
「まず、お礼を言わせてもらうわ。あなたのおかげで被害は最小限と言ってもいいほど少なくて済んだ。死人も出なかったし、怪我人も軽い怪我ばかり。管理者の監督失敗はあるけれど、それも事故である以上は大した刑罰にはならないでしょう。本当に、誰もが辛い目に遭うことなく済んだわ。あなたのおかげよ、感謝してる。」
「へえ・・・そんで、そのお礼がこれかよ?」

俺は自分の周囲を取り巻く4つの武器に視線を走らせる。
剣、槍、盾、槌
どれも友好関係を示す道具には見えないね・・・残念なことに。

「だが、てめぇは俺らの知らないとこで王女様に近づき、親睦を深めてる・・・」
「深く、深く・・・」
「そこでだ・・・洗いざらい吐いてもらうぞ。」
「何をだ・・・?」

槍をもった男、確かヴァイツと呼ばれてたか?その男が俺に一歩近づきながら鋭い視線で俺に言葉を投げかける。

「貴様、何者だ?一体どんな目的で姫に近づいている?」

まあ、そうなるんだろうな・・・こいつらの方からしてみりゃ、お姫様に近づいて仲良くしてる男、しかも他の誰にも内密に、なんて何かしら狙いがあるようにしか見えないだろうし。さらに顔を隠せる仮面に真っ黒マント。もう不審者全開ってやつだね・・・これは、本格的に危険な状況かもなぁ・・・

「先ず、俺が誰かってことだけど・・・ファントムって呼んでくれればいいよ。」
「ではファントムとやら。一体、何を企んでいる!?」
「企むとか言われてもな・・・別に何も企んでねぇよ。リリアと仲良くしてるのだって、何か狙いがあるとかじゃなくて、ただ単にリリアとは友達だからだ。今日にしたって、リリアと遊びたかったから一緒にいただけだ。」
「はい、そうですか。と信じるとでも思ってるの?」

思ってませんけどね・・・けど、事実なんだからしょうがない。
何か最もらしい理由でも並べてみたい所だけど・・・もう何を言っても俺に攻撃する気がたっぷりですね・・・もう勘弁してくれよ・・・

「はあ・・・本当にそれだけだ。信じないと言われたって、俺にはもう何も言えない。そもそもお前ら・・・話し合いに来たって雰囲気じゃないぞ?頼むから武器を下ろしてくれ。正直な所、こんな武器は見てるだけで――――」
「うるせえっ!ごちゃごちゃ言わずに正直に全部言っちまえ!」
「悪いけどその手に乗るわけにはいかないのよ。私達も、四聖騎士としてこの国にいるからにはね。」
「もし言わないならば、悪いが実力行使で行かせてもらう。」
「・・・選択。」

正直に全部言ってます!
ううっ・・・こいつら、戦士としては最強かもしれんけど尋問官としてはかなり最悪だ・・・こっちの話が真実だという可能性を1%も考えてないし!ようは‘真実’を言ってほしいんじゃなくて‘自分たちの予想する虚実’を言えってか!?どんだけ身勝手なんだよ、お前らはっ!ヴォルフと大して変わらんじゃないか!
疑うならその辺の事実関係を調べ上げてから来てくれ!

「・・・ったく、もうどうしようも無いじゃねえかよ・・・」
「諦めたか?」
「だったら、ちゃんと全部言って――――」
「‘戦う’以外に。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2006/08/02(水) 22:18:50

ふぇすてぃう゛ぉー26!

四聖騎士が呆気にとられた顔をした瞬間、俺は勢いよく地面を蹴った。
さて、思い出して欲しい。俺のこの世界での身体能力は常人の5倍。その脚力を全開で前に飛んだらどうなるかは・・・言わなくても分かるだろう。

「悪いっ!」

一瞬で距離を詰めた俺はアインが持っていた槍の途中を掴み、そのまま力任せに奪い取る。
反動で少しだけアインが飛ばされるが、それほど力は込めてないから大丈夫のはず!

「なあっ!?」
「借りるぞっ!」
「くっ・・・ヴァイツッ!」
「はあっ!」

フィーアが盾の裏から鞭を取り出してそれを俺に向かって振るい、それと同時にヴァイツが槌を構えてこちらに突っ込んでくる。
槌という打撃の道具なら手で止めることも可能だろうけど、下手すりゃ俺が力が常人の何倍もあるという点からレイ・キルトハーツとばれる可能性もある。つまり力が強いことは隠してスピードで勝負!
俺は槍を回転させて鞭を絡めて、今度はフィーアへの距離を詰める。

「危険!」

横からイラドが剣を構えて突きを繰り出すが、それは俺の速度について来れずに空を切る。
盾を手で押さえ、ちょっとだけ前に押す。もちろん、相手には俺が全力でぶつかってきたぐらいの衝撃に踏ん張るわけだが、その瞬間を狙って俺は右足でフィーアの両足を素早く刈る。倒れたフィーアが持っていた盾をすかさず遠くに蹴り飛ばす。

「あっ!?」
「怪我はないな?」
「このおっ!」
「捕縛!」

背後から迫ってきた残りの2人は、バックステップで間をくぐりながら槍の両端で足を払う。つまずきそうになった所ですかさず槍を地面と平行に上げて今度はあごを打つ。

「ぐっ!?」
「ご!?」

仰向けに倒れた2人の手を槍で打って、武器をはじき飛ばしてから俺は再び跳んで4人と距離を置いて対峙した。

「あ、ああっ?」
「馬鹿な・・・」
「一網、打尽・・・?」
「こんなことって、そんな・・・」

驚愕に目を見開いてるが、俺にとってはある意味当然の結果だ。

「俺は別にあんたらと戦いに来たわけじゃないし、リリアを泣かせるつもりもない。ましてこの国をどうこうしようなんて考えた事もない。俺は一応この国で暮らしてる人間だから、どれだけここが良い場所か知ってる。どれだけ笑顔があふれてるか知ってる。俺はあんたらの敵じゃない。俺の正体は言えない。言えば、きっと俺の周りのみんなにも迷惑がかかるから・・・けれど、俺は何も企んでない。俺はただリリアと仲良く遊んで、話して、今はまだ・・・一緒にいたいだけだ。」

必死に、そして最後の説得を試みたけど――――

「くっ・・・・!」
「武器を奪った程度でっ!」
「・・・俺の話、聞いてたか・・・?」
「何度だって言うわ。そんな馬鹿な話を誰が信じるというわけ?」
「・・・詐欺師。」
「その通りだ・・・姫様を騙せても、俺達が騙せると思うな。」
「それ、かなりリリアに失礼だと思うぞ。」
「馴れ馴れしく呼ぶなあっ!」

アインが拳を振り上げて俺との距離を詰める。
ったく・・・‘あれ’を使うわけには―――――



「だめええええええええええええええっ!」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2006/08/04(金) 09:34:13

ふぇすてぃう゛ぉー27!

―――――は?
とっさに横から飛び出てきた人影に視界が隠される。その後ろ姿に、滑らかな絹のような紺色の髪に記憶が弾けて――――

「リリアッ!?」

俺の盾になろうとしてリリアを抱え、すぐに横に飛び跳ねる。もちろん、アインからは離れた位置に着地するのも忘れない。

「リリアッ!なんて無茶を――――」
「ファントム様っ!ご無事ですか!?怪我は!?体は大丈夫ですかっ!?」
「―――あ〜・・・うん。問題ない。」

肩を軽くすくめてみせると、リリアはほっとため息をついて――――見たことのない剣幕で四聖騎士にくってかかり始めた。

「アイン!ヴァイツ!イラド!フィーア!これは・・・これは一体どういうことですかっ
!?いつ!誰がこのようなことをしなさいと命じたのですっ!これがあなた達の自己判断だというのなら、ただでは済みませんよっ!?」
「姫様!何故ここに来られたのですかっ!?」
「離れて下さい!見ていなかったのですか!?その男はあれだけの数のヌローを手も触れずに一瞬で――――」
「黙りなさいっ!それが何だと言うのっ!?あなた達だって、手に武器を持たせ、状況さえ整えればたとえ一瞬でなくとも9頭のヌローを殺せるでしょう!?私を殺そうと思えば赤子の手をひねるように簡単でしょう!?なのに、あなた達が私の側にいるのは何故!?人を殺せる道具を持ちながら、お城にいることを許されているのは何故!?」

リリアの激しい言葉に、さすがの四聖騎士も言葉を失って後ずさる。そして、それを見逃すほど今のリリアは優しくも寛容でもないようだった。

「反論が出来なければ黙るだけ!?逃げずに私の質問に答えなさい四聖騎士っ!あなた達が武器を持つことを許されているのは何故!?許したのは誰!?」
「ぐ、う・・・」
「言えないならば私が言いましょう!武器を持って良いと言ったのは私達王族の者達です!私達を殺せる武器をあなた達に与えたのは私達です!それを許した理由!?そんなもの決まっています!あなた達を信じたからです!あなた達はきっと力の使い方を誤らないと信じたからです!きっと私達を守ってくれると信じたからです!私達の側で守るためだけに力を振るってくれると信じたからです!そんなことも分からないのですか!?そんなことも忘れてしまったのですか!?」

いやはや・・・リリアとの付き合いはもう短くはないけど・・・リリアの王女としての顔は初めて知ることになったね。
言い訳も出来ないほどに理路整然と追いつめていくリリアを見てると、ちょっとだけ四聖騎士が哀れになってくる。彼ら自身もリリアのためにやってと思ってやったわけだし―――

「これが私のためだと思っての行動だと言うのなら――――」

――――おや?

「あなた達は本当に愚かです・・・自分たちよりも強く、得体の知れないものに怯える子供となんら変わりません・・・子供が未知のものを恐れる理由は、それを理解できないから。それを信じようとしないから・・・今のあなた達も同じです。強大な力に不安を感じ、それを振るう人のことなど考えもせずに力しか見ていない・・・あなた達はリュカー様に、今ファントム様に向けるような思いを感じたことがありますか?リュカー様を危険だと感じたことはありますか?」

リュカー?確か騎士団長の名前だったか?まあ、きっと強いんだろうなぁ・・・

「ありませんよね?それはあなた達がリュカー様を信じているから。あの人のことを信じているから・・・・確かに、ファントム様を信じろというのは難しいでしょう。あなた方はファントム様のことを知りませんから・・・けれど、私は知っています。私がファントム様を信頼しています。この方は決して私にもこの国にも害をなさないと私が信じて、こうして一緒にいるのです。だから・・・」

リリアは俺が持っていた槍をつかみ取った。
俺がそれを渡すと、リリアは静かに俺から離れてアインに槍を返す。

「だから、あなたがファントム様を傷つけるのならば、愚かにも男に騙された王女だと私を傷つけてからにしなさい。それほど、私はファントム様を信じています。」
「リリア様っ・・・」
「何故・・・騙されているかもしれないと考えないのですかっ・・・確かに、我々はあなた達に信頼して頂いています。けれど、それにはちゃんとした実績や裏付けがあるのです・・・」
「そう・・・なのに、なぜその男を――――」

そこまで聞いて、何となく俺は自分が言いたいこと、自分が先ほどから不満に感じていたことの根本を口に出す。

「・・・知らないからじゃないか?」
「何だと?」
「だってさ、俺がリリアをこうやって連れ出すまでリリアは城下町にほとんど出たこと無かっただろ?しかも王女としてでなくリリアとしてなんて全く無かった経験のはずだ。なのに、お前達はリリアに対して騙されてるとか、危険だとか・・・一体、リリアは何と比べてそんなことを判断すればいいんだよ?知らない人間は危険が一杯。じゃあリリアが知ってる人間ってどのくらいだ?危険なものから逃げよう。じゃあリリアが危険だと断言できるものってどのくらいだ?何も知らない人間が人の上に立つなんて出来るもんか。リリアを守るのは良いことだけど、リリアが知ることを妨害するって言うんなら、それはただの邪魔者だよ。確かに俺は不審人物だけど、リリアを守ることは忘れない。リリアが実際に自分の体で感じようとすることを邪魔しない。リリアが自分で信じたことを否定しない。」

俺の側まで戻ってきたリリアがそっと腕に自分の腕を絡める。

「だからこそ、私はファントム様を信じています。私は無知です。ファントム様と出会うまで知らないことが山のようにありました。そしてファントム様はそれを教えて下さいました。ならば、私がファントム様を信頼する理由はそれで十分です。」

真剣な顔で俺の隣に立つリリアは――――何というか、今まで見てきたどの顔よりも美しく、りりしかった。それこそ、自分の心臓がこんな状況だってのに高鳴るのを自覚出来るくらいに。

「分かったならば武器を収めなさい・・・収めないのならば、まずは私を傷つけなさい・・・今のあなた達の前にある選択はそれだけです。」



結局、四聖騎士はリリアを傷つけることは無かった。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2006/08/06(日) 08:34:53

ふぇすてぃう゛ぉー28!

今にも崩れそうになる膝を奮い立たせて、私は静かに四聖騎士に歩み寄ります。
彼らの顔はどれも暗く、私と目を合わせることを可能としません。けれど、彼らにはこのままでいてもらっては困ります。

「・・・アイン、ヴァイツ、イラド、フィーア。あなた達の私を心配する思いは大変伝わりました。そして、あなた達に内密に今日出かけたこと、あなた達にファントム様とのことを伝えなかったこと、私があなた達に信じて欲しかったことを伝えきれなかったこと。その全てをここに謝罪します。」

私は服が汚れるのも構わず、そっと地面に膝をついて頭を下げました。

「姫様っ!?」
「そ、そんなことを――――」
「ふ、不要!」
「そうです!そもそも私達が早まった行動をしたためにこのようなことになったのですから!」
「早まった行動をしたのは私も同じです。私は・・・自分が守られている存在だと自覚できていませんでした。このような身勝手な行動を取るべき時期ではまだ無かったのです。結果、あなた達にも、ファントム様にも迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありません。」
「王女、様っ・・・」
「だから私はあなた達の今回の行動を罰しません。自業自得と思い、あなた達への信頼を決して欠かさないことをここに誓います。ですから4人とも・・・これからも、よろしく御願いします。」

顔を上げると、いつの間にか4人も静かに地面にひざまづいて私よりも深く頭を垂れていました。

「我ら四聖騎士――――」
「今後もう二度と――――」
「あなたの信頼を裏切らないことを――――」
「ここに誓います――――」

これで、良いのでしょうね・・・私と彼らの関係は。
そして、私とファントム様の関係は――――

「強く、なられましたね・・・リリア様。」
「――――っ!?」

とっさに背後から聞こえた声。それはとても聞き覚えのある声で、けれども今この状況では最も聞きたくない声の一つ。
何故・・・何故この方がここにおられるのですか!?

「リュ・・・リュカー様っ・・・」
「団長!?」
「やあ。どうやらリリア様に怒られたみたいだね。まあ良い経験だと思っておけばいいんじゃないかな?僕も以前は良く王妃様に怒られたものだよ。もっとも――――」

そこでリュカー様はふっと微笑み、ファントム様に視線を投げかけられました。

「僕は陛下に剣を向けたわけではないけどね・・・」
「リ、リュカー様っ・・・この方は・・・」
「ええ。聞かせて頂きましたよ。リリア様のご友人で、正体不明のファントム君でしたよね?」
「いつからいたんだか・・・見てたなら手助けしてくれたって良かっただろうに。」
「それは、どちらの手助けだい?」

リュカー様はにこやかに笑って腰に下げておられる剣に手を――――って、ええっ!?

「はあっ!」
「っうっ!?」

‘シュカンッ・・・・’
高速の一閃は私を抱えたファントム様が何とか避けましたが、それでも確実にファントム様の右腕をしっかりと狙っておられました。

「りゅ、リュカー様っ!おやめ下さい!」
「ご心配なく。別に彼の右腕を落とそうとしたわけではありませんよ。ただ・・・彼の右腕に仕込まれているのは何かと思いましてね。」
「っ!?・・・気付いてたのかよっ・・・?」
「どうやら鋼で出来た武器のようだね。それでヌロー達を全滅させたのかな?」
「へえ・・・そっから見てたわけか?」
「ああ。ちょうど‘君の後ろにいる方と一緒に’ね。」
「そういうこった。」

私も、ファントム様も、四聖騎士も、全員が狼狽した表情で振り返ります。
私は、まさかという気持ちで。
四聖騎士は、どうしてという表情で。
そしてファントム様は・・・完全にしてやられたというように口元を歪めて。

「ははははっ。舞踏会以来だな・・・ファントム。」
「ったく・・・四聖騎士を自由に動かしておいたのはこのためかよっ・・・」
「おいおい。折角会いに来たんだからもうちょっと気の利いた言葉を出そうぜ?」
「出せるわけ・・・ないでしょう・・・」

ファントム様は歪めた口元を強引につり上げて、無理に笑って見せました。

「あなたの前ではね・・・クロムウェル国王陛下・・・」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-hucBY] 2006/08/07(月) 19:18:37

ふぇすてぃう゛ぉー29!

「まあ、単刀直入に言うぞ。別に俺はお前をどうこうしようって気は一切ねえ。お前が自分の正体を秘密だって言うなら調べねえ。ここに誓おう。リリアと仲良くしたいっていうんなら認めたって良い。俺だって、確かにリリアを城ん中に閉じこめすぎたと反省してるからな。むしろお前の行動はありがてえこった。」

身構えていた私達に、お父様がとつとつと語り出した言葉はそれでした。

「けれどだ。いくら何でも内緒でってのはやりすぎだよ・・・あの事件がなけりゃ、俺は今日一日ずっとリリアが城にいないことを知らないで過ごしてた。それがどういう意味か分かるか・・・ファントム?」

真剣な、それでいて厳しい視線にさしものファントム様も思わず言葉に詰まってしまわれます。
確かに、私の行動はやはり軽率でした。もしも私の身に何かあったなら、この国はどうしようもなくなってしまうでしょう。跡継ぎの喪失、次の王位を巡る争い、他国からの侵略の可能性・・・数え上げれば際限なくある脅威の数々。
今になって、私は自分がやったことの愚かさに気付かされます。
そうです・・・私がファントム様を信頼しているならば、やはりお父様にもお話しして、その上で許可をもらうべきで―――――


「リリアが俺の側にいないって、これほど寂しいことがあるかああああああああ!?」


―――――――はい?

「・・・は?」
「てっきりリリアがお城にいてくれるって思ったから、今日の仕事も滅茶苦茶頑張ったんだぞ!?そうすりゃ、時間を作ってリリアと一緒に過ごせる時間が増えるかなって思って!そしたら部屋にいないだと!?俺の今日の頑張りは何だったんだ!畜生!俺の時間を返せえええええええええ!」
「・・・いや、さっきまでの深刻な空気はどこへ・・・?」
「十分に深刻だろうが!リリアがいないんだぞ!ぬいぐるみじゃあ限界があるんだぞ!」
「自分の娘のぬいぐるみ持ってんの!?」
「等身大の特注品だぜ!」
「そんなもん特注すんな!それじゃあ変態だろうがっ!?」
「じゃかあしい!国王特権はこんなことにこそ使うんじゃっ!」
「絶対違ええええええええええ!」

・・・えっと、呆気にとられていましたが・・・お父様・・・私もファントム様に賛成ですよ。そんな今までの雰囲気が嘘のように大泣きしてまで熱く語らないで下さい・・・前から思っていましたが、お父様はあまりに過保護です・・・

「・・・お父様・・・ひょっとして、私がファントム様と出かけたこと自体は怒っておられませんか・・・?」
「え?何だってそこを怒る必要が?」
「どうしてって・・・」
「この男、ファントムだが・・・リリアが信じた男なんだろ?だったら、何も心配いらねえさ。」

不意をつかれたように私も、ファントム様も固まってしまいました。
私が信じているから、お父様も信じて下さる・・・・ああ、これがお父様から私への信頼なのですね・・・これが、お父様が国王たる所以なのですね・・・

「・・・はは・・ははははは・・・リリア・・・確かに、お前のお父さんは国王だよ。ちょっと変わってるけど、すげえ国王だ。」
「はい。自慢の父です。」
「おお、リリア!今の言葉をもう一度言ってくれええええええええ!」
「陛下。あまり大声を出すと近所迷惑ですよ。」
「・・・何か、俺達がやってたことって馬鹿みたいだな・・・」
「言うな。」
「・・・同意。」
「気にしたらだめよ。悲しくなるから・・・」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-MjZMp] 2006/08/08(火) 21:15:21

ふぇすてぃう゛ぉー30!

ようやく、恐ろしかった雰囲気が全て打ち払われました。
そしてそれは、ファントム様がお母様だけでなく、お父様、リュカー様、四聖騎士の皆様にようやく認めて貰えたということで―――――

「よし、ファントム!」
「はい?」
「早速なんだけどな・・・」
「何でしょう?」
「お前、今日から‘王位継承者候補’な。」

―――――何だか、今日は絶句がとても多いように感じられます。
とりあえず、落ち着いて考えましょう。王位継承者。それは次の国王ということです。もっとも、正当位王位継承者はお父様の血を引いているこの私なのですけれど・・・それで、ファントム様が国王になるということは、つまり―――――

「・・・俺にどうしろと?」
「ん?何って、リリアをよろしく頼むぞってことだ。今のところは。」
「・・・えっと、それはつまりあれか?俺にリリアを――――」
「やってもいい。」
「俺に王位を――――」
「やってもいい。」
「俺にリリアと――――」
「‘結婚’してもいい。」

―――――――?

「はああああああああああああああああっ!?」
「えええええええええええええええええっ!?」
「おう?何だよ、意外に簡単にお許しが出たのが嬉しいのか?」
「そうじゃなくって!俺がいつリリアと付き合ってるなんて言った!?」
「いつって・・・恋人だろ?」
「違う!」
「違います!」
「そうなのか?けれどもファントム。お前さっき四聖騎士に対してリリアのために必死に戦ってたじゃねえか。」
「た、確かにそうだけど――――」
「何でえ面倒くせえな。はっきりさせとこうぜ、ファントム。」

そう言うと、お父様は私をファントム様から引きはがし、そのまま自分の前に立たせて。つまりはファントム様と向かい合う形にさせられました。



「お前、リリアのことをどう思ってるんだ?」
「「っ!?」」



ファントム様の気持ち・・・・?
私のことを、ファントム様がどう思って下さっているか・・・・?

私は、ファントム様のことが誰よりも大切で、愛していて、この方のためなら自分の全てを捧げても良いと思えるほどに想っていて・・・

ファントム様は、私のことを友達と言ってくれて、私のために危険を侵してでも会いに来て下さって、四聖騎士とも戦って下さって・・・

――――――――期待しても、いいのでしょうか?
――――――――私と同じ想いでいてくださると、期待してもいいのでしょうか?

「ファントム様・・・」
「お、俺は・・・その・・・きゅ、急に言われても・・・」
「言えないのか?言わないのか?」
「っ・・・い、言いたくないってことで・・・」
「却下だ。」
「鬼か!?」
「娘のためなら鬼だろうと悪魔だろうとなってやるぜ?」
「大体、さっきから思ってたけどリリアの意思は!?俺がどう言おうが、リリアの相手はリリアに決めさせるべきだろ!?」

‘私の意思・・・私の相手は、私が決める・・・’
ならば、私の意思がはっきりすれば・・・答えて下さるのでしょうか・・・?
私の言葉で伝えれば・・・?

「勝手に決められたらリリアだって――――――」
「いいえ。」
「迷惑に――――って、は?」

自然と、足がファントム様の方へと進み出ていました。

「迷惑では、ありません。」
「ちょ、あの・・・え、えぇ?リリア、いや、待てって、ちょっ・・・」
「私にとって、ファントム様に想われることは、幸せです。」
「お、おいリリア、本当に待てって、な?」
「ファントム様に想って頂けるのならば、何もいりません。」
「なあっ・・・リ、リア・・・」

更に歩を進めて、呆然と立っているだけとなったファントム様の服のすそを掴んでその胸に額を付けます。周りでお父様達が静かに下がっていくのが分かりました。やがて、視界から消えるまで待ってから、さらに言葉を重ねます。

「ファントム様となら結ばれてもかまいません・・・いいえ、ファントム様だからこそ・・・結ばれたいと思っています・・・」
「っ・・・それは、そういうこと、なのかっ・・・?」
「ファントム様・・・」

卑怯なのかもしれません。
けれどきっと、想いを伝えながら目をそらさなければ、ファントム様は受け止めて下さると分かっていました。答えて下さらないまでも、逃げることはないと分かっていました。ですから、私はファントム様が与えてくださったこの一瞬に、全ての想いを込めて、言葉を紡ぎます。


「私はファントム様のことを愛しています。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-mvduP] 2006/08/09(水) 19:14:54

ふぇすてぃう゛ぉー31!


情けないことに、俺は何も答えられなかった。

『今はまだ答えて頂かなくても構いません。けれど、いつか・・・それまでお待ちしています』

そう言って、リリアは俺から離れ四聖騎士、団長と共に帰っていった。残っていた国王からは―――――

『受け止めてくれとは言わねえ、けど逃げないでやってくれ・・・』

と、随分と重い言葉を頂くこととなった。

しかし・・・つくづく俺も間抜けかも・・・よくよく考えてみればリリアの言動の節々に思い当たることはたくさんあったし。何より、俺はリリアのたった1人の友人で、誰よりも側にいる異性ってわけで。リリアの想いが俺に向けられるのはむしろ当然のことだよな・・・

まあ、正直な所リリアのことは嫌いじゃない。いや、むしろ好きだね。それこそ、これが恋だとか言われても『ああ、そうだな。』って納得できるくらいに好きさ!‘本来なら’その場でリリアの手を取ってOKの返事を出していたんだろうさ!いや、実際は‘ある女性の存在’により考えるけど。

――――本来なら――――本当なら――――‘本当の世界なら’――――

出来るわけがない。
答えられるわけがない。
愛せるわけがない。

「・・・ったく・・・そこまで分かってて、どうして俺はっ――――」

いや、それも分かってる。
結局の所、俺はリリアとの繋がりを切りたくないんだ・・・愛せないと分かってても、友達以上になってはいけないと分かっていても・・・それでも、リリアといるのは心地よいことだから・・・
俺がヴェロンティエにいるのと同じくらい、リリアとの関係はもはや失いたくない物になっているんだよな・・・本当に、情けない・・・

「はぁ・・・マジでどうするかね・・・?」



『あなたは、いつか来る別れのためにここにいるんじゃ無いんです。みんなに望まれているからこそ、ここにいるんですよ。』


ミリアさんに言われたことを思い出したのは、偶然じゃないんだろうな。
これが、今の俺に必要とされている心構えだと思う。
リリアの思いに答えるために、この世界での俺の存在を確かにするために。

「・・・もう、誤魔化してられないな・・・‘この世界’が何なのか。」

この世界の存在理由、場所、俺がこの世界に来た理由、方法、そして戻るための方法、戻った時に再び来るための方法。
これが分かれば、リリアへの想いに何らかの答えを出すことが出来る。
帰れないと分かっても、別に気落ちはしない。もはやこの世界での生活は俺にとって大切なものだ。
帰れるというのなら、その方法を様々なことから検証してみたい。
戻ってこれるのなら、親父達と色々と相談してみたい。
最悪なのは、来た時と同じように唐突に俺が元の世界に戻って二度と戻って来れなくなること。
そんなことになった日には、俺はともかくリリアとかがただじゃすまない。

幸いなことに、手がかりは既にいくつか掴んでいる。
ただ、それが示すことは――――――いや、考えても仕方ない。これが事実である以上、俺は決断して行動しなければならない。

まあ・・・行動するのは、どうやっても明日以降になりそうだが。
その理由は・・・・今日は、祭典4日目ということだ。

そう。
俺にとってリリアと同じくらい大切な想いを向けている女性、キララ・ランクフォード嬢とお出かけの日なのだ。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-cnTiD] 2006/08/11(金) 18:55:43

ふぇすてぃう゛ぉー32!

闇が辺りを包み、祭りの余韻を残したままの熱い空気が風にのって流れてくる。
そんな中、あたしは――――いや、あたし達は人気のない景色のいい丘までやって来ていた。というか、まあこの男が連れてきてくれたわけだが。

「いやな?ここからの景色が凄い良かったから是非キララと見に来ようと思って。」
「へえ・・・確かに、ね。」
    
彼の言うとおり、そこからの景色は素晴らしかった。
祭りの後かたづけが済んでいない町はいまだあちこちにかがり火が灯っていて、それがここからみると暗い世界にずらりと並んでいてとても美しい。宝石箱をひっくり返したような状態とはきっとこんな状態を言うんでしょうね。

「ふ〜ん・・・本当に、綺麗ね。」
「だろ?探した甲斐があったってもんだ。」
「ただ、惜しむべくは・・・これがあたしのために探したわけじゃないってこと?」
「は?」

どうせこの景色にしたって、昨日のあの子と一緒に歩いてた時にでも見つけたのよね・・・もしかしたら、それよりずっと前から目を付けてた可能性もあるけど。多分、昨日もこいつはここに来てたはず―――――

「・・・えっと、キララ。」
「何よ?」
「勘違いしてるようだから言わせてもらうと、この景色はまだ俺以外の誰にも見せてないぞ?」
「・・・うそでしょ?」
「いや、ほんと。だって・・・なあ?」
「な、何よ・・・?」

そう言って、そいつはあたしに向き直って距離を一歩だけ詰める。そして、両手であたしの腰に手を――――って、はあっ!?何!?何なのこの状態!?この体勢は一体何を意味してるわけ!?いや、予想は付いてるけど!けど、本当に!?

「ちょっ、え、ええ!?」
「嫌なら、離すけど・・・?」
「っ!!・・・べ、別に、嫌じゃ、ないわよっ・・・」
「それこそ本当か?」
「う、嘘なわけないでしょ・・・」
「なら、良かった。それで続きだけど・・・まあ、ここは、その、キララと一緒に見たかった場所で・・・キララだけに見せたかったわけで・・・えっと・・・言いたいこと、分かって貰えるか?」
「・・・うん・・・」

そう言って、あたしはそっと自分の腕を相手の腰に回す。そして自分がより強く抱きしめられるのを感じてから、そっと顔を上げた。

「キララ・・・好きだ・・・」
「うん。その・・・えっと、あたしも、あんたのこと・・・好きよ・・・」
「キララ・・・」
「・・・レイ・・・」

一瞬だけ深呼吸のために目を閉じて、すぐにレイの姿を確認するために開く。


いつも通り、あたしの部屋の屋根が映った。


ちょっと待って・・・部屋の屋根?何故に?今までの甘く暖かく幸せな光景は何処よ?ってか、そもそもレイは何処に?
しかも、どうして朝日が窓から差し込んでるの?ついさっきまで、あたしが目を開ける前までは夜だったじゃない。それなのにどうして―――――いや、もう現実逃避は止めましょう。うん。つまりこれは――――

「今さら夢だったってこと!?」

冗談じゃないわよ!いくら今日はレイと出かけるからって、普通あんな夢を見る!?しかも都合良くレイが、あ、あ、あ、あたしに好意を向けてくれてる夢!?どんだけ欲求不満なのよあたしはっ!?何か!?あたしは期待してるの!?あんな展開を、あの鈍感男に期待してるの!?うああああああああ!夢でよかった!ってか、どうせ夢ならあと少しぐらい寝てなさいよあたし!って、それじゃ本当にただの変態じゃないの!こんなので今日はあたし大丈夫なの!?

「うわああああああああ!もうあたしって馬鹿じゃないのっ!?」

‘コンコン・・・’

「だ、誰っ!?」
「いや、俺だけど・・・何かすごい叫んでたけど大丈夫か・・・?」
「な、何でもないわよ!すぐに行くから、さっさと準備しといて!」
「分かった。けど、無理はすんなよ。」

嬉しいこと言ってくれるじゃないの・・・けど、そんなこと言われたら、今の今に言われたらあたしの顔が真っ赤になってすぐにはあんたに顔向けられないって分かってる?
分かってないでしょうけどね。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-MjZMp] 2006/08/13(日) 13:51:27

ふぇすてぃう゛ぉー33!

お店の後かたづけは終わった。
服も着替えた。
薄くだけど化粧もした。
なのに・・・どうしてあたしの足は動かないのかしらね・・・

「・・・だめだわ・・・ものすごい顔が真っ赤な気がする・・・」

鏡を見て変な所がないかもう一度、というよりもう5度目の確認をする。
問題はないはず、だけど・・・もしもレイにがっくりされたらどうしよう・・・いや、きっとしないと分かってはいるけどね。けれども、レイの隣に並んで見劣りするのは嫌すぎるし・・・昨日のあの子よりも、綺麗に見られたいし・・・

‘コンコン’
「お〜い、準備できたか?」
「っ!?わ、わ、い、今行くわよっ!」

レイの言葉に驚きながらも、あたしは急いで部屋を出る。
一瞬だけ、レイが息を呑むのが分かった。

「・・・ど、どう?」
「えっと・・・平凡な言葉でもいいか?」
「うん。」
「・・・すげえ似合ってる。」

心の中で、服の選択に付き合ってくれたお母さんに感謝!もう帰ってきたら心ゆくまでお礼をさせて!

「それじゃ、行くか。」
「言っておくけど、昨日の子と同じ所とかは無しよ。」
「そこまで気の利かない男じゃない。」
「ならばよし。」

こんなやり取りの後、あたしはレイと共にヴェロンティエを出た。



出て、数分で最初の課題にぶつかった。

「なあキララ。」
「な、何?」
「人、すげえ多いよな?」
「そりゃあ最終日だもの。そのくらい当然でしょ?」
「うん。というわけで・・・ほい。」

レイが差し出した右手をしばらく見る。

「何、この手は?」
「いや・・・昨日の子と同じ行動で悪いんだが・・・つながないか?はぐれないように。」
「つなぐって・・・手を?」
「それ以外に何をだよ・・・まあ、腕組むっていうのも手だけどな。」

腕を組む・・・はい、ごめんなさい。それはあたしには想像するだけでやっと。と言うか、手をつなぐってだけで既に一杯一杯よ!?何!?心臓を破壊したいわけ!?あたしの現在の鼓動がどうなってるか聞いてみる!?周りの音がほとんど入ってこないくらい緊張してるのに、手をつなげって!?
いや、繋ぎたくないわけじゃないわよ?むしろ繋ぎたいっていうか、レイさえ良ければ腕だって組んで、その、恋人みたいに見られたいってのもあるしね?けど、やっぱ緊張はどうしようもな―――――

「あ。」
「え?きゃあっ!?」

うわっぷ!?ちょ、何で急にこんな多人数が動くわけ!?ちょっ、レイと離れちゃうじゃないのよ!

「キララ!」
「れ、レイ!?」

とっさに伸ばした手を、しっかりとレイは掴んで――――結局、こうなるわけね・・・

「はあ・・・大丈夫か?」
「う、うん・・・あ、ありがと。」
「気にするなよ。それより、やっぱり手を繋いでた方がいいと思うんだけど・・・嫌じゃないか?」
「・・・別に、嫌じゃない。」
「そりゃあ、助かる。」

はあ・・・あたしってこんなに素直じゃない人間だったかしら?嫌じゃない、なんて・・・素直に嬉しいって言えれば最高だっていうのにさ。こんな調子でレイに告白するなんて、本当に出来るのかしらね・・・

「行くか。出店のたぐいは行ったからいいよな?」
「ええ。確か、夕方からは楽団とかの行進があるらしいし、それは見るんでしょ?」
「当然だろ。晩飯は後でいいとして・・・それまでは、キララのお買い物だな。」
「は?あたし、別に買いたい物なんて――――」
「欲しい物があるかもしれんだろ?俺だって、女の子を連れ出して何も渡せないほど気の利かない男じゃないってことだ。」
「・・・まあ、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。」

だからあああああああああ!何でこんなにあたしは素直じゃないのよ!?

「そうと決まれば、あっちだ。」
「何か見つけてるわけ?」
「おう。実は一昨日の内にキララに似合いそうだなっていう首飾りが置いてある店を見つけてな。」
「あたしが欲しいものじゃなかったの?」
「欲しがるさ、絶対にな。」

まあ実際の所、レイがくれる物ならば何だって嬉しいけどね。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-QbFYt] 2006/08/15(火) 18:56:17

ふぇすてぃう゛ぉー34!

「レイ・・・確かにあれは欲しいけどね・・・」

あたしの視線の先には綺麗な、それでいて派手じゃない程度に宝石が散りばめられた首飾りがある。あれを付けてみたいと思うのは女性としては当然でしょうね。
問題は、それを入手するための手段。別に馬鹿みたいな値段がついているわけではないけれど、これは――――――

『四聖騎士の1人と戦い、5分間立っていられた人に贈呈!』

なんて張り紙がでかでかと貼られている。

「・・・レイ。気持ちは嬉しいけど、あれは無理よ。いくらあんたが強いっていっても、四聖騎士と5分間戦うだなんて、無謀もいいとこだわ。」
「3分ぐらいならなぁ・・・」
「絶対に無理だから。まあ、確かに良い雰囲気のお店だし、あれ以外にもきれいなのがあるからそこから―――――」
「けどさ・・・」

レイはそう言って、あたしの顔をじっと見る。・・・ちょっと恥ずかしいんだけど?


「・・・キララに似合うと思うんだけどなぁ・・・」


ぐううう・・・・中々嬉しいことを言ってくれるじゃないの・・・でも、あたしのためにレイを危ない目に遭わせるわけにはいかない。そもそも、あたしはレイとこうやって2人でいられるだけで、もうあんな首飾りなんて目じゃないくらい嬉しいわけで。

「嬉しいけど、怪我でもしたら大変でしょ?」
「ほら、逃げるだけだし。」
「アインさんはあんたのこと知ってて騎士に勧誘しに来たんでしょうが・・・逃げるだけじゃ絶対に済まされないわよ。」
「そう言えばそうだったな。」
「分かったら、諦めてよ。レイが怪我するなんて見てられないんだから。」
「っ――――ありがとうな・・・」

ちょっと・・・その頬を微妙に染めているのはわざと?わざとやってるの、あんたは!?
そんな顔されたら余計にどきどきするでしょうが!?ただでさえ手を繋いだままだっていうのに、そんな顔したら嬉しいのよ!信じるわよ!?あんたの想いにすっごい期待するわよ!?

「べっ、別にいいのよ。・・・そんなことは。」
「そ、そうだな。それじゃあ他にどんなのがあるか見て―――――」
「あら、ひょっとしてレイ君達じゃない?」

何か、聞き覚えのある声がした。
そりゃあもう出来ればこんな所では絶対に聞きたくない声が。

「・・・空耳よね。」
「・・・そうだな。それじゃ続きを――――」
「無視するなんてひどいじゃな〜い。」

背後にいたはずの人が一瞬であたし達の前に回り込んできた。そして、あたしは自分の耳が変でなかったことを確信する。

「・・・こんにちは、フィーアさん。」
「どうも。」
「うんうん。2日ぶりかしら?この前はお世話になったわね。気持ちは変わらない?」
「いや、全く。」
「そう、それは残念。」

フィーアさんは苦笑しながらあたしとレイを交互に見て、くすりと笑った。

「それで、こんなところに来たってことは・・・恋人へ贈りもの?」
「恋人じゃないですが・・・まあ、そんなとこです。」
「そう。だったら、レイ君!」
「何ですか。」
「あの景品を狙うべきよね!」
「キララに止めてくれと言われたので却下です。」
「レイに怪我させたくないので却下です。」
「え〜・・・つまんないじゃない、それじゃ。折角レイ君の実力が見られると思ってたのに。」
「暇なんですか、あなたは・・・」
「キララさんだって見たくない?レイ君が一体どこまで強いのか!」

見たくないと言えば嘘になるけど・・・少なくともレイを危険な目に遭わせてまで見たいとは思わないわね。

「残念ながら、思いません。」
「そう。けれどね〜・・・」
「俺が見たいんだよ。」

再び背後から聞き覚えのある声。
ああ、もう!折角のレイと2人きりの時間だったのに・・・いきなり潰されるわけ!?
あたしは怒気を込めて、後ろに立っているアインさんを睨み付けた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-cnTiD] 2006/08/17(木) 18:35:11

ふぇすてぃう゛ぉー35!

正方形の即席の試合場に立っているレイは、随分と疲れた顔をしている。
一方で向かい合っているアインさんは、それはもうとっても晴れやかな顔だった。

「はあ・・・これって職権乱用じゃないですか?」
「そうね。けど、嬉しくならない?愛する人が自分のために戦ってくれてるって思うと。」
「それそうですけど―――――って、あたしとレイはそんなんじゃないですから。」
「何を今さら。」

どうして1、2度会っただけのフィーアさんにしっかりばれてるのよ・・・あたしってそんなに分かりやすい顔してる?そんなにばればれな態度でいる?じゃあ、それでも気付かないレイは何よ?
・・・鈍感以外の何者でもなかったわね・・・

「まあ、冗談は置いておいて・・・実は、この企画自体にもちょっと理由があってね。」
「え?」
「まあ、これはあまり大声で言えないんだけど・・・実は、昨日ちょっとした事件があってね。」
「あのヌローの暴走ですか?確かあなた達4人の活躍で大した怪我人はいないってことでしたし・・・別にこんな企画とは関係ないんじゃないですか?」
「ううん。その裏でちょっとしたことがあったの。まあ、単調直入に言うと・・・私達4人がまとめてかかって、たった1人に良いようにあしらわれたのよ。」
「・・・それ、嘘ですよね?」
「本当よ。だから、そういった思い上がりとかを直すために、こうやって一般の人達と自分たちの差ってのを確かめに来たの。まあ、あれはあの人が異常だったのかもしれないけど。けど、負けたのは事実だしね・・・」
「えっと・・・正直、四聖騎士が揃ってて負ける情景が想像つきません。」
「私も昨日まで、そんなの団長と陛下以外ではいないと思ってたわ。まあ、そんなわけで自分たちよりももっと強い人を探しておこうってことだったんだけど・・・」
「いなかったんですか?」
「今のところは、ね・・・けど、レイ君ならどうかしら?」

あたしは忘れかけていた存在、レイとアインさんの試合を見る。
両方とも手には柔らかい布が詰められた手袋をはめて、相手の様子を伺っているところだった。
正直な所、レイが力で負けるとは思ってない。けれど相手は四聖騎士。さすがにこれは無いでしょう・・・怪我しないうちにレイが降参してくれることを祈るしかないわね。

「行くぞ、レイ!」
「ちょい待て。万が一で聞いておくけど、もしも5分以内に‘俺があんたを倒したら’どうなるんだ?」

周りが『は?こいつ何を言ってんの?』って空気になった気がする。

「ん?そうだな〜・・・その場で騎士に昇格?」
「むしろアインと交替で四聖騎士になってもいいんじゃない?」
「そうだな。それが妥当かもしれん。」
「必勝。」

えっと・・・この2人、まあイラドさんとヴァイツさんは先ほどからあたしの後ろにいる。理由は――――まあ、レイが逃げ出さないための保険らしい。
絶対にこの祭りが終わったらこの4人訴えてやるんだから!

「それじゃ、始めるわよ?」
「へいへい。」
「おっしゃ!来やがれっ!」

‘カーーーーーーーーン!’

フィーアさんがあたしの隣で鐘を鳴らすと同時に、アインさんがレイに向かって突っ込んでいった。そのまま渾身の右拳を放つ。

「おらああっ!」
「一般人相手に手加減無しか!?」

それをかろうじてレイが避けて、そのまま少し距離を取る。
再び迫るアインさんにレイは今度は自分から右を2連続で見舞うけどそれはあっさりと避けられて、かわしたアインさんの左足がレイの側頭部に襲いかかる。それを受け止めて、レイもまた右足でアインさんを攻撃する――――・・・・
横から見ていても、はっきりと分かる激しい攻防。って、レイってこんなに強かったのね。

「うわあ・・・今さらながら、あんな人間と一緒に暮らしてる自分が怖いわ・・・」
「・・・ねえ、キララさん。」
「はい?」
「うん。実はね・・・今、アインって手加減を全くってほどしてないのよ。」
「それが何か?」
「つまりね・・・レイ君は今、四聖騎士と互角に渡り合ってるってことなんだけど。」
「ああ、そういう―――――嘘でしょ?」
「嘘ではない。むしろ、アインは今までで一番良い動きをしているぐらいだ。」
「同意。」
「つまり、あれですか?レイは実際の所、あなた達四聖騎士と同等の力を持ってるってことですか?」
「そうなるわね・・・むしろ、あたしより上かも。」

レイって・・・本当に何者よ?
よく考えてみれば、ただの一般人であるわけがないのよね。あの力、それに親衛隊の人達が集団で襲ってきてもそれを大した怪我させずに撃退できる身体能力、あたし達とはどこか一線を越えた感のある思考能力、これらが揃ってる人間が料理人って・・・おかしいにも程があるわね・・・けれど・・・

「・・・まあ、別に何者でもいいんですけどね。」
「すごい考え方ね、それ。」
「身元不明の強者だぞ。怖くはないのか?」
「いえ、別に。」
「何故?」
「何故と言われましても・・・レイは‘あたしの大切な人’ですから。」

ううっ・・・我ながら恥ずかしいことを言った気がする・・・けど―――――
言いたかった。
叫びたかった。
誇りたかった。

‘レイはあたしの側にいてくれてる’と。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2006/08/18(金) 19:49:44

ふぇすてぃう゛ぉー36!

「ふっ・・・やるじゃねえか、レイ!」
「そりゃどうも・・・それより、そろそろ5分だろ?」
「ふっふっふ・・・ここまで盛り上げといて決着をつけない気かお前は?」
「いや、俺はあの首飾りさえ取れればそれでいいし・・・」
「職権乱用という言葉の意味を教えてやろう。」
「知りたくねえ・・・ああ、もう仕方ねえな。」

そう言ったレイは拳を思いっきり振り上げて、そのまま床を殴りつける。
ただでさえ強い力なのにそんな全力で殴ったら―――――

‘ゴギン!’

やっぱりね・・・
あたしの見てる前で、レイの拳は容赦なく床をぶち抜いた。
さすがに唖然としてるアインさんを無視して、レイは今度は思いっきり足で床を踏みつける。まあ、何となくレイがやろうとしてることは予想ついたわ・・・

‘ゴギャン・・・’
「うおおおおおっ!?」

やっぱり・・・見事に正方形の試合場は崩壊してるし。これ、弁償しろとか言われないわよね?

「ぐうっ・・・れ、レイ!?」
「よし。そっちは会場範囲から出たから逃亡扱いだよな?」
「あ、ああっ!?」

確かに、レイの一撃で壊れた試合場から落ちたアインさんは見事に地面―――つまり試合場の外に落ちている。対するレイは壊れた試合場の一部に乗っかって、これまたちゃんと場内に止まってる。
うん。文句なしでレイの勝ちよね。

「はっはっは!俺の馬鹿力を甘く見たのが敗因だったな。」
「ひ、卑怯だぞ!?」
「失礼な。5分以内に決着をつけられなかったそっちが悪い!」
「ぐっ!」
「約束通り首飾りはもらうぞ。」
「・・・」
「おい・・・何だその沈黙。」
「説明しましょうか?」

フィーアさんが苦笑しながらレイとアインさんに近づいていく。もちろん、あたしもすぐ後ろをついて行く。

「実はね。この景品ってとっても高価なのよ。」
「だから?」
「万が一、私達の内誰かが負けたらその負けた人が自腹切って払うことになってるのよ。それで、その額っていうのが私達のお給料の2ヶ月分。」
「つまり、アインは向こう2ヶ月ただ働きということだ。」
「自業自得。」
「えっと・・・レイ、可哀想だから止めておけば?」
「アインさん・・・」
「レイ・・・後生だ、勘弁してくれ・・・」

もう今後一生見られないわね、四聖騎士の懇願なんて・・・
それで、それに対するレイの返答はというと――――

「まあ、あれだよね・・・騎士って、国に尽くすのが仕事だし・・・」
「おう。」
「お金なんて貰わなくても頑張れるよな。うん。」
「てめえ、鬼かあああああああああ!」

アインさんの悲痛な叫びが通り中に響き渡った。


「ほら、後ろ向いて。」
「う、うん・・・」

レイの手があたしの首筋をそっと這うのがこそばゆいし恥ずかしいけど・・・何より嬉しい。
あれから後、レイは手に入れた首飾りを自分が付けてやると言って、あたしの背中に回っている。そして、あたしの首元には綺麗で、決してごちゃごちゃしてない程度の宝石が散りばめられて十字に輝いている。

「よし、出来たと・・・うん、やっぱ似合ってるな。」
「ありがとう、レイ。」
「気にするな。お前にしてもらったことに比べればどうってことない。」
「・・・あたし、何かしたっけ?」
「この4ヶ月くらい、お世話になっただろ?」

レイが言ってるのは、自分がヴェロンティエに来てからってことなんでしょうけど・・・正直なところ、世話になってるのはあたしの方。
お店の繁盛はレイのおかげ。
マリスとフォルトとまた一緒に働けるのもレイのおかげ。
こうやって、2人だけの時間が楽しいと思わせてくれるのもレイのおかげ。
あたしに恋させてくれたのもレイ―――――

「・・・それでも、レイ・・・ありがとう。」
「っ!?・・・う・・・き、気にするなって。」
「いや、どうしてそこでどもるのよ?」
「ん・・・いや、ちょっと舌噛んだ。」
「はあ・・・所々抜けてるわね、レイったら。」
「うるさい。それより、そろそろ楽団が動き始めるんじゃないか?」
「え?あ、本当ね。それじゃ、行きましょうか。」
「ああ、遅れたらもったいないしな。」

レイが伸ばした手を自然に掴み、あたしは笑顔でその隣に並んだ。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-FYMvW] 2006/08/23(水) 15:38:37

ふぇすてぃう゛ぉー37!

華やかな音楽
きらびやかな衣装
響き合う歓声
止むことのないざわめき

「キララ!満足できてるか!?」
「当たり前でしょ!うわ、ちょっとあれ凄くない!?」
「え?おおっ!確かにあの女の人の衣装は――――」
「どこ見てんのよ!?」
「冗談だって!あれだろ?あの炎を使ってるあのおっさん!」
「その後ろの水に入ってる女性のこと!まあ、レイの言う人もすごいけどね!」
「おい!あっちの方、すげえのが来てるぞ!」
「うそ!何処何処!?」

それらに負けないように、あたしもレイも声を張り上げながら会話をする。
そのやり取りのどれもが、とても楽しいって思うのは・・・きっと、相手がレイだから。他の誰でも決して感じられない充実感が、あたしの体と心を埋め尽くしていくのがとても心地いい。繋いだままの手に力を込めて、あたしはレイの隣で思いっきり今を楽しむ。

「おい、キララ!」
「何!?」
「そろそろ晩飯の時間だけど、何か食べに行かないか!?」
「食べないでもいいんじゃない!?折角の祭典なんだし!」
「そっか?一応、行進が見える場所に予約取ってるけど――――」
「はあっ!?そ、そこまでしてるの!?」
「おう。ちなみに、最近出来た夜景が綺麗なことで有名な『ヴィギン』って店。」
「うそ!?だって、あの店ってそう簡単に予約は取れないので有名じゃない!」
「おう。だから頑張って取った。」

『ヴィギン』はヴェロンティエとは違って夜間専門の料理店だ。
レイの言ったとおり夜景が綺麗だということで、まあ、その・・・恋人達が利用するお店としては人気がある。レイがそこまで考えてるとは思わないけど、個人的にはかなり嬉しい。

「どうする?」
「行くに決まってるでしょ!」

あたしはレイの手を掴んだまま、笑顔で頷いた。



「・・・レイ、これはどうなのよ・・・?」
「いや、俺も予想外。」

あたし達が呆れ顔である理由。
それは目の前にある部屋の扉のためで、その表面にはでかでかと輝く文字が躍っている。

『今夜、100組目の恋人達へ!』

そう。あろうことか、あたしとレイは恋人と間違われて、しかも今日100組目だということもあり特別室へと通されたのだ。
今夜は神様があたしの味方に付いてるのかもしれないわね・・・

「まあ、料理はちゃんと運ばれてくるみたいだし?」
「そうね。夜景も文句なしってことだから、良いわよね。」

レイは静かに扉を開けてあたしのために道を開いてくれる。
扉の先には、確かに綺麗に整えられた部屋があった。
机、2つだけの椅子、大きな窓、その向こうに見えるのはにぎやかな町並みと広く何処までも続く暗闇の空。そしてその中に輝く星々――――あれ?この光景ってどっかで見たことあるような気が―――?


「すごい景色だろ?実は、ちょっと前にここに用があって呼ばれてさ。そんでここからの景色を見せてもらって、また来たいなと思ってたんだよ。」
「ふ〜ん・・・昨日の子とは来なかったの?」
「何故、それを今言うんだか・・・予約が1日分しか取れなかったってのもあるし、あいつとキララとだったら・・・まあ、普段の状況から考えてキララと見に来た方がいいかなと思ったんだよ。」

う〜ん・・・何か、この言い回しも聞いたことがあるような気が――――あ。
ひょっとして、この景色って夢で見たのの似てる・・・?それで、このやり取りも似たような感じのが夢でもあって、それでこの後――――――

―――――告白された?

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
「ん?キララ、どうかしたのか?」
「にゃっ、にゃんでもっ!」
「にゃんでもって―――お前、何を言ってんの?」
「な、何でも無いわよ!ただ舌噛んだだけ!」
「そうか。なら良いんだけどな。」

レイは変わらない笑顔で席に近づいて、あたしの椅子を引いてくれる。
って・・・レイってば、絶対に無意識でやってる?それともあたしの反応見て楽しんでる?そもそも、ここまで夢と似たような状況が整ったら・・・期待しちゃうじゃないの・・・

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/08/24(木) 17:37:29

ふぇすてぃう゛ぉー38!

「・・・ありがと。」
「ん。料理が来るまではもうちょいかかるかな・・・」

何気なく窓を見るレイの横顔に、あたしは思わず吸い寄せられるように見入った。
普段は恥ずかしくて決してじっと見られないレイの顔は、あたしが思っていたよりもずっとたくましく、りりしかった。それこそ、窓の外よりも、豪華な部屋よりも、あたしの心を奪っていくくらいに。

レイは・・・きっと、あたしのことを嫌ってはない。それは自信がある。
けれど、あたしに対する想いはどうなんだろう?フィーアさんは脈ありだと言ったけど、こうやって、2人きりだっていうのにいつもと変わらないレイを見てると、とても不安になる。ひょっとして、あたしの勘違いなんじゃないかって。レイがあたしへ向けてくれているのは、家族への信頼だけで――――


――――あたしを、愛してはくれてないんじゃないかって。


仮面で見えなかったけど、昨日の子はとても上品そうな雰囲気を漂わせて、あの仮面の下に隠された素顔はとても美しいだろうと想像させたし。
マリスは、あたしよりも・・・その、出るとこ出てるし、同い年とは思えないぐらい大人の魅力を振りまいている。
フォルトにしたって、あたしより性格は素直だから、きっと話しやすいという点ではレイと仲良くやっていける。

3人に自分が負けていると思ってないけど・・・絶対に勝ってるとは思えないのよね・・・
レイの周りにはこんなにも魅力的な女の子がいて、あたしはその1人でしかないという気がしてならないから・・・怖い。

けれど・・・怖いから・・・こんな怖さを捨て去りたいから・・・あたしは、聞いてみたい。あたしは、言いたい。

「レ―――――」
「なあ、キララ。」

ちょっと・・・あたしの覚悟を一瞬でかき消さないでよ・・・

「俺さ・・・ここに来れてすごい良かったと思ってる。」
「レイが連れてきてくれたんじゃないの。」
「ああ、いや・・・そうじゃなくて、この町にってこと。最初はミリアさんに強引に連れてこられたわけだけど、ヴェロンティエに来れたのは俺にとって一番幸運だったって思えるんだよ。行く当てのない俺に、仕事と宿が与えられたし、色々と調べ物があってもそれを許容してもらったりとか。それと―――――」

レイはあたしを見て、ちょっと恥ずかしそうにしながら笑う。

「キララにも、会えたわけだしな・・・」
「っ!」
「いや、もちろんキララだけじゃなくて、マリス、フォルトさん、市場の人達、衛兵のおっちゃん、それに一応親衛隊のやつらとか・・・かなり多くの人達と知り合いになれて・・・俺は、それが嬉しい。何も知らなかった俺をいつも助けてくれて、何も出来なかったはずの俺に生きる場所を与えてくれて、孤独だった俺に家族と、友人と、仲間を与えてくれた・・・それは、キララのおかげだと思うんだよ、俺は。」

あたしのおかげ・・・?
それは違う!だって、あたしがレイをここに引き留めたのはそんな善意からじゃない!
最初の内は、店を黒字にしてくれる人間としてで―――
今は、レイが好きだから何処にも行って欲しくないだけで――――
あたしが、レイが思っているよりずっと嫌な子だ。その証拠に今も、レイの言葉が嬉しくて・・・あたしがどれだけ嫌な子かって言えないでいる。本当のことを言えないで、レイの思いを利用している。
レイ・・・それが、分からないの?あたしは、レイが思っているような優しい子じゃ無いのよ?自分の願いのために、レイを無理矢理に仲間にして、家族にして、それで必死に誤魔化してるような子なのよ?

「レイ、あたしは―――――」
「待った。俺がまだ話してる途中だ。」

あたしの話を押さえて、レイは言葉を続ける。

「まあ・・・ひょっとしたら、キララの考えは違うのかもしれん。」
「っ!?」
「けれど、俺はそんなことどうでもいい。キララが俺の名前が偽名だって分かっても構わないって言ってくれたように、俺もキララが何のために俺をヴェロンティエに置いてくれてるのかなんてどうでもいい。ただ、キララが俺のことを嫌いじゃないって思ってくれてる。ここにて欲しいって思ってくれてる。それだけで、俺はとっても嬉しい。助かる。救われる・・・・うん、キララは俺を救ってくれてる。」

あたしがレイを・・・救ってる?

「だから、キララ。ちゃんと言うのが遅れてたけど・・・改めて言うよ。キララ、本当にありがとう。」
「レイ・・・」

溢れそうになる涙を抑えて、あたしはつんと横を向く。全く持って素直じゃない・・・
あたしがレイを救ってる?レイは分かってるわけ?その言葉こそ、レイの言ってくれるその言葉こそ・・・あたしを救ってくれてるって。
嫌な子だと、自分を蔑んでたあたしをたった一言で救ってくれたのは・・・レイなんだって気付いてる?
ううん・・・きっと、この男は気付いてない。だけど、それで良いと思う。だって、それでこそレイ・キルトハーツだから。
あたしが誇る大切な家族だから。
あたしが、誰よりも愛してる男の人だから。


そんなレイだからこそ、あたしは――――――

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-yNzeD] 2006/08/27(日) 21:38:37

ふぇすてぃう゛ぉー39!


綺麗な夜景を見ながらの夕食を終えて、俺はキララとヴィギンを出る。
俺の恥ずかしい告白から、キララは涙をこらえてるのかほとんど喋ってくれない・・・ちょっと寂しいですよ?ウサギだったら俺って死ぬんじゃないだろうか。ん?あれはデマだったか?
何はともあれ、俺がキララに伝えたいことは全部言い切った。この機会を逃すと、次はいつ2人きりという状況が整えられるか分かんないし。そういった点でも、今日という日は俺にとって最良に近い日だね。

「さてと・・・そろそろ祭典も終わりに近づいてるみたいだな。」
「・・・そうね。」
「あ〜・・・確か、最後は城門前広場で国王の演説があるんだったか・・・行く?」
「うん・・・それより、ちょっと静かな所に行かない?少し疲れたみたいで・・・」
「そうか?だったら――――」
「レイのお気に入りの場所ってのは無い?」
「静かに出来る場所でか?そうだな・・・」

リリアの寝室とか?いや、冗談だけどね。
静かな場所で、良い所と言われてもなあ・・・とっさには浮かばない。これじゃあ折角の締めが綺麗にまとまらない!これではダメだ!どうにかして素晴らしい場所を!頑張れ俺の灰色の脳細胞!ん?脳って灰色なのか?

「ふむ・・・キララ、ちょっと目を閉じて。」
「え?」
「いや、ちょっとお前を抱えて高い所まで飛び上がろうかと思って。」
「・・・何か、毎度毎度のことだけど・・・時々あんたがこの世界の人間かどうか疑問に思うわね。」

ギクリ。キララさん、それは正解です。

「それじゃ、何処に行ってくれるの?」
「な〜に、キララもよく知ってる場所だよ。」

そう言って、俺はキララを抱えると―――もちろん、お姫様だっこ!―――思いっきり地面を蹴って空へと飛び上がった。
目指すのは、俺にとって大切な場所。



「なるほどね・・・確かに、静かでお気に入りの場所・・・か。」
「まあ、キララとなら来ても満足できる場所だな。」
「それはどうも。」

俺達が居るのは、ヴェロンティエの屋根の上だった。
ほとんどの人達は祭り終わりを見るべく城門の方へと行って、すでにこの辺りには人影は全くと言っていいほど存在しない。
夜風が吹いて、キララの髪をさらりと流す・・・その光景は、正直な所どきりとさせられるものだった。

「・・・ねえ、レイ。」
「ん?」
「・・・ありがとう。」
「は?何だよ、突然・・・?」
「今までずっと、あたしと一緒にいてくれてってこと。ほら、レイのおかげでお店は繁盛したし、マリス達と一緒に仕事できるし、レイが来てからいろんな事が良い方向に回ってくような気がしてるから・・・そのお礼。」
「なるほどな・・・ふっふっふ、感謝したまえ。」
「うん。感謝してる。」

おや?何か、いつもの軽口が帰ってこない。
ってか、すげえ嫌な予感がしますが?具体的には・・・そう、昨日の‘あの時’に似てる感覚――――あれ?

いやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいやいや!そんなことは無いだろ!?だって俺はそこまで、その、格好良い男じゃ無いし?そんな美女2人に言い寄られるような人間では無いですよ?ねえ、キララさん?そんなの俺の勘違い、自惚れですよね?

「キララ・・・?」
「感謝って言葉だけじゃ・・・足りないかな・・・」

キララが俺の方を見て、少しだけ体を寄せて―――――って、待って!マジで待って!嘘だろ!?昨日に続いてこんなのありか!?感謝の言葉だけじゃ無いって、じゃあ何!?何をしようとしてるんですか!?
だああああ!そんなこと考えてる間にとうとう隣まで来ちゃったし!何!?何故にそんなに密着してるわけ!?普段と違って女の魅力が強すぎるんですけど!?目なんて、もう恋する乙女の瞳!?嘘だろ!?

「レイ・・・あたし―――――」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-hucBY] 2006/08/28(月) 21:53:23

ふぇすてぃう゛ぉー40!

‘きゃあああああああああああああああああああああああ!’

「「っ!?」」

唐突に上がった叫び声に、今までの雰囲気なぞ全て忘れて俺とキララは立ち上がる。
そしてその声の方向、下に見える道路のずっと向こうに・・・‘そいつら’はいた。

「・・・かがり火?」
「何あれ・・・?この通りでの祭りの出し物は終わってるはずよ?」
「しかも、何だあの数?10や20じゃない・・・」

次第に近づいてくる炎の群れに、俺は直感的にキララを背中に庇ってしまう。背中からキララが俺の服の裾を掴むけどそんなのを気にしても居られない。
ようやく、火を持った連中の姿が見えて―――――

「・・・衛兵達?」
「え?けど、服装が違うわよ?」
「だって、あんな鎧してるなら――――あ?」
「っ!?あの旗ってまさか・・・イモルキ王国の兵!」
「イモルキ王国?」
「この国のずっと南に位置してる国よ。この国とも何度か友好条約みたいなの結んでるのに・・・何でこんな所に?」
「・・・キララ、俺さ・・・かなりやばいものを感じてるんだが。」
「え?」

本来なら居るはずのない国の兵がいる。
しかも鎧と武器を完全装備して、多人数で。
もちろん、ようやく見えてきた後ろの方には明らかに偉そうな騎士みたいな連中がいる。

「まさか、この国に攻め入る気かっ・・・?」
「ええっ!?」

国民のほとんどが城の周りに集まる瞬間を狙って入ってきたのか!その方が制圧しやすいから!?さっきの叫び声は、目撃者を襲ったためか!?だとすると、ここにいるのは危なすぎる!

「キララ、こっちだ!」
「う、うん!」

キララの手を引いて死角へとなる部分にしゃがみ込む。
‘ザッザッザッザッザッザッ・・・・’
無数の足音が続く中、キララは身を震わせて俺にしがみつき、俺もキララをしっかりと抱きしめ返した。
やがて、ようやく足音が遠ざかっていくのを確認して俺は立ち上がる。兵達は迷うことなく城の方へと歩いていった。

「冗談じゃないぞ・・・」
「だ、大丈夫よ・・・だって、確かに人数は多かったけど、この国の騎士団は強いし、人数だってこっちが圧倒的に多いわけだし・・・」
「そうだな、まともに戦うならそうだろう・・・けど、今の状況じゃダメなんだよ。」
「え?」
「・・・この都市の‘ほとんどの人間’が、あそこに集中してるんだぞ?人質に取られたら、あの国王のことだ・・・下手な抵抗は出来ない。」
「あ、ああっ!お、お母さんは!?マリス!フォルト!?」
「キララ!店に入るぞ!」

キララを抱えて店の前に飛び降り、急いで扉を開ける。
誰もいない、がらんとした店内を急ぎ足で横切って、俺達は厨房に駆け込んだ。

「あら、早かったのね?」
「お母さん!」
「え?あれ〜?今日は2人とも帰ってこないかと思ったんだけどな〜?」
「レイにそんなことする勇気は無いわよ。」
「マリス、フォルトさん!良かった、無事だったんだな!?」

俺の言葉にきょとんとしてる2人を見て、俺はひとまずにため息をつく。

「ミリアさん、確か保存庫が地下にありましたよね?」
「はい。確かにありますけど・・・?」
「キララ、みんなと一緒にそこに隠れておいてくれ。」
「レイ!?何をする気!?」
「心配するな、ただ様子を見に行くだけだから。」
「だめよ!もし何かあったら――――」
「大丈夫。約束だ、必ず戻ってくる。俺がどれだけ人間離れしてるかは知ってるだろ?」
「けど!」
「情報が入らないと、何をすべきか分からない。キララ、これは必要なことなんだ。」
「・・・絶対に、確認だけよ!?」
「分かってる。ちゃんと、キララが言おうとしてたことを聞きに戻ってくるさ。」

俺は相変わらず唖然としてるマリス達を置いて、さっさと自分の部屋に戻る。
隠すようにベッドの下に置いているマントと仮面を付け、窓から勢い良く飛び出した。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2006/08/30(水) 16:42:38

ふぇすてぃう゛ぉー41!

城門前に着いた瞬間、俺は遅かったことを悟った。
多くの人間が並べられ、剣を突きつけられて身動きが取れなくなっている。人数が多すぎて逃げようにも逃げられなかったみたいだな・・・もっとも、あまりの人数の多さに兵の数が足りてないのはこっちにとっては幸運でもあるか。
下にいるやつらが町の人達に気を取られてる間に、俺はこっそりと城内に侵入していく。と言っても、上空からというこっそりどころじゃない入り方だけど。

いつもとは違い、リリアの部屋は目指さずにあえて別の部屋、リリアの部屋へと向かう途中にある物置らしき部屋の窓をたたき割って、そこから中に入り、扉の向こうに耳を立てる。

‘くっ・・・止まりなさい!’
‘へえ?ここは女も騎士をやってるのか?’
‘一体、何の真似!?イモルキ王国が何故このようなことを!?’
‘俺達は何も知らない。ただ、俺達は陛下の命に従ってるだけだ・・・すまないな。’
‘っ・・・ならば、私も四聖騎士の1人としてあなた達を陛下達のために止めてみせます!’
‘手荒なことはしたくない。こっちは4人だ、頼むから退いてくれ。’
‘出来ません!’
‘仕方ないな・・・’

おいおいおい・・・真面目に戦闘中ですかい?
これがつい昨日まで平和だった町か?これが戦争ってやつか?何の恨みもない相手に武器を向けるのが戦争か?
うっわ・・・・冗談じゃねえ・・・

‘ドバンッ!’
扉を蹴破って廊下に飛び出る。
一瞬、呆然とこっちを見たのはこの数日ですっかり見慣れたフィーアさん。は〜い、気付いてないだろうけど3日連続こんにちは。昨日のせいで傷ついたりしてませんか?
そんで、反対側にはこれまた訳の分からないと行った表情のイモルキ王国の兵隊さん達と先頭に立ってるのはちょっと豪華な鎧のお方。こいつがフィーアさんと話してた男だな。

「な、何者だ貴様っ!?」
「あなたはっ――――」
「諸事情によって助太刀させてもらうぞ。」

右手に仕込んだ即席‘スタンガン’の威力を中まで上げる。ちなみに、昨日のヌローの突進を止めた時はもちろん最強レベル。
右腕の裾から電極を出して、そのまま近くにいた衛兵の1人に押しつける。

「ぴいっ!?」

変な声を出して崩れ落ちたのを無視して、そのまま立て続けに2人目、3人目、と触れて電流で気絶させる。そして、残すは1人・・・

「貴様・・・魔術師か!?」
「そんなとこだ。悪いけど、目的を知らないって言うなら寝ててもらうぞ!」

一瞬で間合いを詰めて、鎧の隙間からあらわになっている首筋に容赦なく電極を押し当てる。

「ぐああっ!?」
「心配するな。数時間もすれば起きれるよ。」

多分、聞こえてないだろうその男に声を掛けながら、俺はスタンガンの電源を切る。
後ろでは、武器を構えたフィーアさんが相変わらず呆然としていた。

「・・・な、何をしたの?」
「気絶させた。」
「いや、だからどうやって――――いえ、そこは今はどうでもいいわね。」
「そうだ。リリアは?陛下と王妃様、それに他の四聖騎士は何処に行ったんだよ?」
「姫様と陛下、それに王妃様は団長とイラドがお守りしているわ。アインとヴァイツは別の場所で他の衛兵と騎士達の指揮を執ってる。私は部下の人と逃げ遅れた人がいないかを確認してるの。」
「どっちかっていうと、すでに城門前に逃げ遅れた人が多数だぞ。」
「分かってる。情けない話よ・・・それより、あなたはどうやってここに?門は封鎖されてるはずよ?」
「窓から入った。4階なのに?って疑問は無駄だから。それで、リリアはどこに逃げてる―――って、俺が聞いても教えられるわけねえな。とりあえず、信用してもらうのも兼ねてアイン達のとこまで送るよ。部下ってのは?」
「そろそろ戻ってくるはずよ。」

言うが早いか、廊下の向こうから3人の女性騎士が走って来て、俺に驚いていた。
フィーアさんが説明してくれたおかげで事なきを得たが、これは紋章印を持ってこなかったのは失敗かもしれん。

「それで、アイン達とは何処で会うことになってる?」
「2階の騎士団の訓練場よ。」
「連れて行け。俺としては早い所リリアの無事を確認したいんだからな。」
「・・・あなた、姫様の告白を断ったんじゃなかったの?」
「保留なだけだ!」

誰が話したんだよ・・・ってか、案外本人が言った可能性が否定できない。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/09/01(金) 16:57:21

ふぇすてぃう゛ぉー42!

アイン達と集合し、相手をしていた敵をこれまたスタンガンで一気に気絶させる。具体的には、近くの水槽を相手に投げ割って、水浸しになった相手全員に強レベルの電撃で一網打尽。やっぱり魔術師かと疑われたけど、今はどうでもいい。

「それで、リリアは?」
「大丈夫だ。先ほど、王妃様と共に秘密の避難場に隠れられた。団長もおられるし心配は無いだろう。」
「国王は?」
「陛下は・・・イモルキ国王と話をつけると仰った。イラドと共に会いに行っている。」
「おいおい・・・民が人質に取られてる状態じゃ話し合いもへったくれも無いぞ?」

それは相手の思うつぼだ。
罪のない人達の命を盾に、多分かなり無茶苦茶な要求をしてくるに決まってる。しかも拒否をしたら人質を殺していくとか言いかねん。それが戦争だっていうのは親父からも爺ちゃんからも聞いている。

「どうしてそんな無茶なことを――――」
「お前だ、ファントム。」
「―――して・・・って、は?俺が何だって?」
「陛下も団長もお前がここに来ることを予想しておられた。そして、おそらくはお前ならば・・・出来るのではないか?」
「おいおいおい・・・俺に何をしろって言うんだよ、あの2人は。」
「分かってんだろ?」

アインがにやりと笑って、俺の肩に手を置く。

「俺達と一緒に、民を救う英雄になってもらおうってこった。」



与えられた時間は3日。
3日以内に人質となっている人達を救い出す方法を考えて、なおかつ相手の軍を退かせる方法を考えてくれ、というのが国王さんから俺への依頼らしいが・・・
俺に英雄になれ?

「ったく・・・やってられんぞ・・・」

まあ、1人でぼやいても何も変わらないのは分かってる。
それに、なんだかんだ考えながらも俺の目の前には色々と道具、大半は誰もいない店から勝手に貰ってきたやつだが、それを組み合わせて作り上げたものが多数転がっている。それは、俺の3大スキル最後の一つにして最も俺が得意とする物、間違いなく親父の血を引き継いでいると確信できる技術、『発明』により生み出された品の数々だった。それらには全て様々な効果を持たせてある。この世界の住人であれば驚かせてひるませることぐらいはできるようなものが。

後は、四聖騎士と他の騎士達が混乱に乗じて人質になってるみんなを逃がして、相手国王と話を付ける。相手の数自体はそんなに多くはないし、戦争を始めるほどの装備をしてるようにも見えない。つまりは、単なる奇襲のための兵隊。アイン達にはさして被害もなく追い払うことが出来るはずだ。
こっちの準備は大体出来たことだし、今夜もう一度お城に忍び込もう。多分、リリアには会えないだろうけど・・・

「・・・無事、だよな・・・?」
「誰が?」
「っ――――!?」

うおっ!?い、いつの間に背後にいるんだ、キララ!?やばかったぞ!もう少しでリリアと俺の関わりがばれるとこだった!

「び、びっくりした・・・な、何か用か?」
「何か用か?じゃないわよ。何なの、このがらくたの山は?」
「あ〜・・・一応、この店の防衛兵器かな?」
「これが?」
「ああ。いざとなれば、相手に投げつけてやれば確実に混乱させられるから、その間に逃げることも出来るしな。」
「これがね〜・・・」

キララは怪しむような目で俺の作品を見ている。
――――そういえば、こんなことにならなかったらキララはあの時俺に何を言うつもりだったんだ・・・?
あの状況で、あのキララの態度は・・・多分、告白だと思うんだが。
でも、今もこうやって俺の部屋に普通に入ってきて普段と何も変わらない態度のキララを見てると・・・何か、俺の勘違いな気がしてならない。

「・・・何?あたしの顔に何かついてる?」
「あ、いや・・・何でもない。」
「そう・・・ねえ、レイ。」
「ん?」
「・・・いて、くれるよね?」
「は?」

キララは自分で自分を抱きしめるようにして、俺に背を向ける。
よく見ると・・・その肩は震えていた。

「今・・・この町、あたし達と、ほんの少しの人数しかいないのよ・・・」
「知ってるけど?」
「あたしは・・・怖い・・・いつ、お店の扉を壊して、あの人達が流れ込んでくるんじゃないかって・・・襲われるんじゃないかって・・・レイが、殺されちゃうんじゃないかって・・・」
「キララ・・・」
「昨日、レイが戻ってきた後に寝て・・・夢で、あたしは泣いてた・・・レイが、遠くへ歩いていって、あたしの声が聞こえないみたいに、こっちを向いてくれなくて・・・追いかけたいのに、足が全然動かない夢・・・」

ようやく、こっちを向いたキララは泣きそうな顔で俺の側まで歩いてくる。
その体が、俺の胸の中に収まるのを―――――拒絶できるわけがない・・・

「レイ・・・死なないよね・・・?何処にも、行かないよね・・・?」

――――ああ、畜生・・・今、完全に理解できた・・・キララの想いは、リリアが俺に向けてくれてる想いと全く変わらないってことが。
たとえ、その想いを言葉に出さなくても分かる。
震えて、子どものように俺にしがみついてるキララの胸から、熱い何かが俺に伝わってくるのが分かる。
そして、やっぱり今の俺にも出来ることは・・・リリアに対してしてやれることと何も変わらないってことが。

「・・・大丈夫だ・・・」
「レイぃ・・・」
「俺は死なない。何処にも行か――――ひょっとしたら、家に帰るぐらいはするかもしれんし、キララを選んでやれないかもしれないけど・・・今、キララが不安になってるなら、俺は絶対にキララの側にいてやる。」
「・・・絶対だからね?」
「おう。約束だ。」

少し涙の混じった瞳で、キララは俺を見上げる。
俺は、自分に出来る限りの笑顔でそれに答えてやった。

「・・・っ!い、今のは、その、深い意味は無いんだからね?」
「はいはい。怖いだけだろ?」
「そう、そうよ!べ、別に変な意味は無いんだから!」
「分かったから大きな声を出すな。マリス達と一緒に隠れてろよ。俺もすぐに行くから。」
「・・・分かったわよ。」

キララが部屋を出て行く。その後ろ姿に、さっきまでの怯えは欠片も無かった。
うん。キララが立ち直ってくれる程の約束ってのは偉大だね。言ってやって良かった。





―――――この時、俺は気付かなかった。
―――――こんな約束なんて、すべきじゃなかったと。
―――――だから後日



俺はその約束をしたことをどうしようもなく後悔することになる。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-exfGf] 2006/09/02(土) 17:29:37

ふぇすてぃう゛ぉー43!

ひょいと窓枠を乗り越えると、すぐ目の前にヴァイツがいた。

「よっ。」
「来たか・・・」
「当たり前だろ。早い所終わらせたいんだから。一応、準備は出来たから今日の打ち合わせ次第では明日にでも――――」
「ファントム。」
「実行――――って、何だ?」

よく見れば、何か顔色があまりよろしくない。ひょっとして、何か悪いことでもあったか?

「おい。まさかリリアに何かあったとか言うんじゃないだろうな?」
「・・・いや、姫様も、王妃様も陛下も無事だ。昨日のお前のおかげで、こちらの方に被害はほとんど出ていない。」
「じゃあ、何だってそんな暗い顔してるんだよ?」
「実は――――いや、これは全員がいる場所で話す。来い。」
「来いって・・・どこにだよ?」

ヴァイツは当然といった顔で、しかし変わらず辛そうな表情で振り向いた。

「姫様がいる場所だ。」


リリア達が隠れていたのは舞踏会があった広間の奥、その何てことのない衣装部屋にあった隠し扉の先。
王族と騎士団長、ならびに四聖騎士しか知らない秘密の部屋だった。

「ファントム様っ!」

部屋に入った直後、いきなりリリアが俺に抱きついてきた。
いや、正直な所こんな状況だっていうのに先日の告白を思い出して緊張するのは仕方ないことだと思いたいね。
そんな俺達の様子を、何処か辛そうに見ている王妃様と騎士団長。
何やら表情が俺に向けてのものでない怒りと悔しさで歪んでいる国王。
もはや、視線を落として何もする気も起きないといった表情の四聖騎士。
そして、俺にすがりつきながら、やはりすがりつくような視線のリリア。

「うっ・・・ううっ・・・ファントム、様っ・・・」
「はいはい、リリア。落ち着けって。明日には人質になってる人全員解放出来ると思うしな?そうすりゃ全部―――――」
「ファントム君。その作戦、出来なくなったのよ・・・」
「――――は?」

人質を解放できない?
ひょっとして、それが全員が沈んでる理由か?けど、何だって急にそんな話になってる?昨日と今日とじゃまだ大した変化は無いはず――――あ。

「国王陛下。確か、イモルキ国王と話をしに行ったと聞いたけど・・・一体、何を言われたんだ?それが、どうして人質解放の不可能につながる?」
「理解が良くて助かるがな・・・全く持って腹の立つ話だ。」
「教えてくれ。今、この国は・・・リリアはどんな状況に立たされてるんだよ?」
「最悪と言って良いだろう。」

リュカー団長が、静かに持っていた紙を部屋の真ん中の机上に広げる。

「当初、陛下は他の国々にも助けを求めるために我々の何人かを城から出されようとした。」
「城から出るだけなら俺が協力すれば――――」
「いや、城から出るのは難しくない。だが・・・その行動に意味がないことが分かった。」
「・・・どういうことだ?」
「知っていると思うけど、この都市には東西に2つの門がある。ここが主な人達が通って外に出る通路だ。」

知らなかったことは、別に今言う必要は無いだろう。

「けれど、そこ以外にも出ることの出来る場所はある。だからどうとでもなると思っていたんだが・・・報告では、そこには最悪の光景が広がっていたんだ。」
「焦らさないではっきり言ってくれ。一体どういった状況なんだよ?」

いまいち要領が掴めない団長の物言いは、正直な所いらいらする。
リリアが泣きっぱなしっていう状況がさらに俺の神経を逆なでするのは多分、恋にこそなっていないけど、リリアのことが大切だからだ。
騎士団長が、歯を食いしばるのが分かった。



「・・・東門に、イモルキ王国の軍が百部隊ほど待機している。」



「・・・はあ?」
「あのくそったれが言いやがるには、要求を呑めなけりゃあこの国に攻め入るつもりでいるそうだ・・・あんの、げす野郎がっ!」

国王の怒りを王妃様がなだめているけど・・・俺の頭はその中のある単語に引き寄せられた。

「ある要求?」
「そうだ。彼らがここにやって来たのは、そのためだ。」
「その要求って何だ?呑めるわけない要求だってのは状況から分かるけど、これだけ圧倒的な軍でここに攻め込んでくるってことは、相当でかい要求なんだろ?土地か?資源か?それとも、この国に何か隠された秘密でもあるってのか?」
「全て違うわ・・・」
「むしろ、ここまでする必要があるのかってぐらい・・・けど、深刻な要求だ。」
「行動、不可・・・」

俺は全員の視線が向いた先を見る。
その視線の先には―――――



―――――泣きじゃくるリリアの姿があった。

「・・・まさか、敵の要求って・・・!?」
「ファントム様っ・・・あ、あなたの、考えている通りですっ・・・」

弱々しく、けれど必死にリリアが俺のマントを握りしめて震える声で続ける。

「こんな、こんなのってっ・・・私はっ、私は人形じゃないのにっ・・・!」
「リリア!おい、しっかりしろ!おい、国王!まさかその要求を呑んだのか!?」
「呑めるわけねえだろうが!あんな野郎共のあんな要求なんぞ呑めるかっ!」
「そ、そうか・・。すいません、ちょっと・・・頭に血が上りました・・・」
「お、おう・・・こっちこそ、悪ぃ・・・」
「それで、敵の要求は具体的にはどういった物なんですか?」

もはや予想が付いているけど、それでも聞かずにはおれないことに答えてくれたのは、辛そうな顔の王妃様だった。



「・・・‘リリアをイモルキ王国王子の花嫁に迎える’そうよ・・・」

聞いた瞬間、リリアの体がびくりと震えてますます強く俺を抱きしめる。そして俺も、思わずリリアの体に手を回していた。
というか、何だその要求は!?ふざけんのも大概にしろ!平然と戦争し掛けておいて、花嫁を迎えに来ただと!?敵の大将の頭はどうなってやがる!?

「何て、無茶苦茶な要求だよ・・・」
「姫様を差し出せば、大人しく軍を引き上げて、二度とこの国に攻め入らないと言った。だが、もし拒めば・・・その瞬間に全勢力を持ってここに攻め入ると。」
「例え人質を逃がしても、その瞬間に攻め入られたらおそらくは全員殺される。更に逃げまどう人々の混乱のために俺達もうまくやつらと戦えない。結果としてろくに軍備を整えることも出来ないうちに敗北だろう。」
「敵にしてみればリリア様さえ手に入れれば良いわけです。人々を殺すのに何のためらいも無いでしょう。いえ、目撃者を消せるのならばむしろその方が都合がいいとも考えられます。」

何処まで行っても、あっちの思うつぼという訳か・・・むかつくほどに仕組まれた状況だ。

「以前、姫様を見かけた時から機会を伺って自分の物にしたいと考えていたようだ。そして、それを理由に動くなど、あの国王には反吐が出る!」
「・・・いや、多分それはついでだろうな・・・」
「何?」

むかついてる反面、どこかこの状況を冷静に分析してる自分が居ることに俺は気付いた。
『危険だと思う状況こそ、まず物事の本質を理解しろ』
親父の口癖の一つがこんなときに役に立つとは・・・正直、感謝だ。

「本当の狙いは、やっぱりこの国の崩壊だろう・・・リリアさえ奪えば、国王と王妃様が新しい子どもを産まない限り、この代でこの国が終わる。けど、2人の年齢を考えるとそれは難しい。そうなったらこの土地と資源と人々は誰の物だ?当然、リリアのものになって・・・その夫であるイモルキ国王子のものになる。結果的にイモルキ王国は、リリアもこの国も手に入れるってわけだ・・・子どもの我が儘に付き合う野郎はただの馬鹿だが、この野郎は恐ろしいほどに冷静で、救いようのない悪魔だ。」

ったく・・・本当に鬼か悪魔みたいなやつだ・・・リリアの気持ちもよく分かる。

「どうする?どうすれば・・・?」
「・・・おい、ファントム。」
「何だよ?今考え中だ。」
「俺達は、今からこの部屋を出て隣のもう一つの隠し部屋に隠れる。隠れてる時間は・・・そうだな、30分といった所だ。」
「は?」
「お前とリリアはここに残していく。そして、30分後・・・たとえどんな光景がそこにあっても、俺達の誰もお前らを責めないし、文句も言わない。」
「おい、何が言いたいんだよ?」
「ただ、お前らの好きなように行動してくれればいい。その結果がどんなんだろうが、後は全部俺達に押しつけていけ。勝手に行動しろ。誰の迷惑もかえりみるな。」
「だから、一体何を・・・?」
「じゃあ、今から30分後だ。」

それだけ言って、国王も、王妃も団長も四聖騎士ですらもこの部屋から出て行った。
残されたのは俺と、相変わらず俺の胸の中で泣きじゃくっているリリア。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-KZNoN] 2006/09/04(月) 20:36:28

ふぇすてぃう゛ぉー43!

「落ち着いたか?」
「はい・・・すいません、見苦しい所をお見せして・・・」
「いや、むしろ普通だろ・・・こんな状況に置かれたら誰だってな・・・」

あれから、ようやく泣きやんだリリアを置いてあったベッドに座らせ、俺もその隣に腰掛ける。

「・・・私は、王女です・・・」
「そうだな。」
「以前なら、きっとすぐに決断できていました・・・私が犠牲になって、この国が、人々が救えるのならば、喜んでこの身を捧げようと思ったでしょう・・・」
「そうかもな。」
「けれど・・・今は、もう思えません・・・ファントム様・・・あなたが、おられるから・・・」

そこで、リリアは俺の肩にそっと自分の頭を乗せてきた。腕を俺の腕に絡めて、離さないようにしてから・・・まだ少し涙のにじんだ目と声で訴える。

「私は、人間です・・・誰かのものになど、なりたくありません・・・」
「そりゃ、誰だってそうだろうな。」
「はい・・・けど、私は・・・ファントム様のものになら、なっても構いません・・・あなたの側にいられるならば、どんなことも些細なことでしょう。どんな感情も、状況も、ファントム様さえ居てくれれば、私は耐えていけます・・・私はファントム様のためになら・・・全てを捨てても良い・・・」

俺は抵抗しない。
加えて、今は別にどきどきもしていない。
ただ、これからリリアが言おうとしていることは分からないけど、言いたいことを言いたいように言わせてやるつもりだった。

「・・・これは、王女としての立場の外からの・・・私のお願いです・・・」
「言ってみな?」

リリアが俺の胸に倒れ込んでくるので、俺はそれを優しく受け止める。
重いものを背負っているリリアの体はとても軽かった。そのまま力を少し入れて抱き寄せてやる。
リリアは少しだけ息を吸って、やはり震える声で告げた。


「・・・私を連れて、逃げて下さいませんか・・・?」


リリアを連れて逃げる。
一昨日のようなことではなく、今度こそ本当にリリアを誘拐するということ。まあ、元の世界風に言うならば『駆け落ち』って言った方が正しいかもしれない――――いや、冷静に考えてる場合でもないって、俺・・・何というか、さすがに予想外だぞ、それは・・・

『後は全部俺達に押しつけていけ。勝手に行動しろ。誰の迷惑もかえりみるな。』

あ〜・・・あの国王さんの言葉は、これを予想してか?リリアを助けたいから、俺にそれを期待したってことか?リリアが助かるなら、たとえ国と自分を滅ぼすことになっても構わないとでも言う気か、あの人は?
そりゃあ、リリアは助けたいさ。だって大切な友達だ。これからも、たとえリリアの告白へどんな返事を返したとしても、きっと仲良くやっていけると思ってたし、自信もあった。だから、俺はこの世界に対して感じていたあやふやなことを全て明らかにしようと思ったんだからな。それが、下手すると今の俺の立場を破壊し尽くすことになるかもしれないと予想できても。
けれど―――――これはあんまりだ。
こんな極限の二択なんて、今時どんなクイズ番組でもやってないぞ?

1『ヴェロンティエでの生活とか、全てを捨ててリリアと一緒に逃げる』
2『リリアを見捨てて、今までのようにここでキララ達と笑って暮らす』

おいおい・・・そんなの、どっちも選べるわけがないだろうが!
リリアと一緒に逃げたって、俺が元の世界に帰る条件が分からないと突然リリアを1人にするだけ。
キララ達と暮らしても、リリアを見捨てた後に笑って暮らせるわけがない。

じゃあ、どうする?どうすれば良いんだ?どうすれば、全てを丸く収めることが出来る?考えろ。今ここで使わずに何のために俺の力があるんだ!全て・・・全てを保つ方法は―――

「・・・ありがとう、ございました・・・」
「え?」

――――ちょっと待て。どうしてリリアは俺から離れていく?何だ、その諦めたような表情は?何だ、その寂しそうな表情は?何だ、その何かを決意した表情は?

「り、リア・・・?」
「ファントム様・・・あなたは、即答されませんでしたよね・・・?」
「そりゃ、そうだろ?こんなこと、すぐに答えられるわけが――――」
「答えて頂きたかったです。」
「っ!?」
「私を、一番に選んで頂きたかったです・・・けど、私は・・・ファントム様の一番では無かったのですね・・・」
「おい・・・リリア?何を、言ってるんだ・・・?」

どうして・・・どうして、リリアは俺と距離を置いていくんだ?
どうして、俺はリリアを追うことが出来ないんだ?

「・・・私の想いは、ここで忘れます・・・」
「リリア・・・違う・・・今の、即答できなかったのは、違うんだ・・・」
「ファントム様も、私の想いなど忘れて下さい・・・」
「違う・・・そうじゃない・・・そうじゃないだろ!?」
「来ないで!」

っ――――!?
リリアが、俺を・・・拒絶した?

「・・・私は、イモルキ王国へと参ります・・・」
「リリアッ!?」
「たとえ、いつかこの国が消えても・・・民は、皆助かるでしょう。誰も、死なずに済みます・・・それが、最も優しい答えです。」
「そんな・・・そんなわけが――――」
「あります。民を傷つけず、守るべき物を守りきる。これは、最上の形ではないですか?」
「それじゃあリリアはどうなるんだよ!?」
「私の幸せは、この国と共にあります。私の命は、この国と共にあります。私の命は、民と共にあります。」

そんなこと・・・だって、それは・・・たった今、リリア自身が否定したことじゃないか・・・なのに、どうして俺は何も言えないんだ・・・?

「・・・ファントム様・・・どうぞ、お帰り下さい。」
「リリア・・・」
「今日この時をもって私の友人であるファントムという名を捨てて下さい。そして、本来のあるべき場所で生きて下さい。」
「リリアァッ!」

離れてしまったリリアの表情は――――もう、分からない。



「そして・・・2度と、私の前に現れないで下さい。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-QbFYt] 2006/09/06(水) 21:52:19

ふぇすてぃう゛ぉー45!

俺の前にあるのは、無骨な仮面と漆黒のマント。
リリアのためだけに作った、俺のもう一つの姿。

「・・・もう、必要ないかな・・・」

こんなにも軽かったのか、という感想を抱きながらも俺はその2つを持ってゴミ捨て場へ足を向ける。そこにあるのは、焼却炉。燃やせば煙でイモルキ軍にばれるかもしれないから、灰の奥へと入れておこう。そうすりゃ、蒸し焼きの要領で煙もほとんど立たずに炭になるはずだ。いや、仮面は骨だから砕いてその辺りに蒔いておけばいいか。

「捨ててしまうのですか?」
「・・・もう、必要ないみたいですから。」

例によっていつの間にか俺の後ろに立っていたミリアさんの言葉を聞き流しながら、俺はマントを焼却炉の中へと入れようとする。

「それで、忘れることが出来ると思ってますか?」

手が、止まった。

「リリアちゃんと会う姿を捨てれば、リリアちゃんとの思い出を、リリアちゃんの笑顔を、リリアちゃんへの想いを忘れることが出来ると思ってますか?」
「・・・忘れないと、いけませんから・・・」
「それは何故?」
「リリアの、最後のお願いなんですよ。友人である俺への、リリアの最後の頼み。自分のことを忘れてくれだそうです・・・厄介な、ことですけどね。」

そう簡単に忘れられるわけもない。
けど、それがリリアの望むことだって言うんなら・・・俺は、忘れるべきだ。それが、リリアの想いに中途半端なことしかしてやれなかった俺のケジメのようなものだと―――

「嘘ですよね?」
「――――っ!?」
「レイさん。あなたは私が思っているよりも、ずっと賢い人のはずです。まあ、一部自分に向けられる想いに対しては鈍い所もあるようですけど、基本的にあなたは他人の心からの真摯な叫びを決して聞き逃さない人のはずです。だから、リリアちゃんと友達になったのでしょう?だから、キララと一緒にいてくれるのでしょう?だから、マリスちゃんやフォルトちゃんの力になっているのでしょう?」
「・・・何が、言いたいんですかっ・・・?」

分かってる。分かってるけど・・・それを認めてしまったら―――――

「レイさん。それで良いんですか?」
「・・・」
「リリアちゃんの言うとおり、忘れてしまっていいんですか?忘れたいんですか?リリアちゃんが伝えたかったことに、気付かないふりをしていていいんですか?」
「じゃあ、どうすれば良かったんですか!?それが分かってても、俺に与えられた選択肢は変わらなくて!そのどっちも選びたくなくて!だったら、リリアの願い通りにしてやるしかないじゃないですか!‘拒絶して欲しい’と願ってるリリアの思い通りになってやるしかないじゃないですか!」

そう・・・・リリアが俺にして欲しかったことは、それだ。
国も
民も
家族も
全てを見捨てられない優しい彼女は、自分を自分たらしめる俺に嫌ってもらうことを願った。
俺との繋がりを切って元の孤独な王女に戻れば、きっと国のために生きれるから。
国のために、自分を殺せるから。

「俺には・・・何も出来ません・・・」
「レイさん。」
「何です・・・まだ、何かあるって言うんですか・・・?」
「まだ、分かっていませんよ?」

――――――え?

「まだ、レイさんはリリアちゃんの、本当の願いを分かっていません。リリアちゃん本人ですら自分に隠し通している、心からの願いを分かっていません。あなたの心に届いているはずの魂の叫びに耳を傾けて下さい。あなたは、それが出来る人のはずです。」

リリアの、心からの願い・・・?・・・俺に拒絶されることじゃなくて、リリアが自分自身に嘘をついてまで隠し通している願い・・・?・・・俺の心に届いているはずの、リリアの魂の叫び・・・?


『・・・私も、欲しいです・・・友達が。』


『良かった・・・また、会えて・・・』


『出来るだけ、ファントム様とおそろいで。仲良さそうに見えるでしょうから。』


『ファントム様が、ここに居て下さるって分かるから・・・』


『私はファントム様のことを愛しています。』


――――――ああ、そういうことか。
気付いてしまえば、なんて単純で、けど強い想い・・・

「分かったみたいですね。」
「・・・はい。」
「レイさん。私が以前に言ったこと・・・覚えてますか?」
「いつですか?」
「リリアちゃんの病気を治しに行った時です。」

『あなたがこれからやることが何であっても、それに正解も間違いも存在しません。その決断と行動を間違いにするのは、その後のあなたの行動と思いなんです。ですから、どうか自分の選択を信じてください。そうすれば、きっとあなたの未来において、これからの行動を後悔するということだけは無いはずですから。』

「―――・・・ええ、覚えてます。」
「では、レイさん。頑張って下さいね?」
「はい。毎度毎度ですけど・・・ありがとうございました。」
「いいえ、気にしないで下さい。レイさんの決断と行動、しっかり見させて頂きますね。」
「・・・はい。」

きっと、この人は全てを見通している。これから俺がやろうとしていることも。

そして、それが誰も幸せに出来ないということも、全て。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/09/08(金) 20:54:13

ふぇすてぃう゛ぉー46!

今、あたしはレイの部屋の前にいる。その理由は・・・レイに呼ばれたからに他ならない。
え〜っと・・・どうして、あたしの足は動いてくれないのかしらね。この扉の向こうにレイが待ってるから?レイが自分であたしを部屋に誘ってくれるなんて初めてだから?その後の展開を期待してるから?
うん、全部だわ・・・そして、多分だけどその全部が外れてる気がするのよね。呼んだ時のレイの顔は、明らかにそんな浮ついた話をする顔じゃ無かった。あれは――――

「何かを、決めたって顔よね・・・」

一体、レイは何を決めたのか?・・・・その答えは、この向こうにある。

「レイ、入るわよ?」
「ああ。」

扉を開けて、声の主に視線をやってから――――あたしは固まった。
そこにいたのは、全く知らない格好の――――いや、知ってる?この格好は、たしか以前にどこかで、そう、たしかあれは――――

「・・・お城で、姫様と踊ってた・・・?」
「やっぱり覚えてるもんだな。さすが、キララだよ。」
「ちょ、ちょっと待って。じゃあ何?あれは、あの時の仮面の人は――――」
「俺だよ。そして、祭典3日目に俺と一緒にいたのは、他ならぬ『リリア・キルヴァリー王女』だ。」
「っ、ええええええええええ!?」

じゃ、じゃあ何!?あたしは、あろうことか姫様にレイを巡っての宣戦布告なんて言っちゃったわけ!?そりゃあ、姫様だろうが誰だろうがレイを譲る気なんて無いけどさ!けど、いくら何でも言い方とかを考えてないといけなかったわよ!
いや、問題はそこじゃなくって!つまり、レイの友達っていうのはリリア姫だったってこと!?い、一体いつの間に仲良くなったわけ!?

「えっと、混乱してるから色々と説明したい所だけど、悪いけど時間が無いから省くぞ。詳しいことはミリアさんに聞いてくれ。一応、ミリアさんはほとんど知ってるから。」
「お母さんが!?」
「ああ。まあ、とりあえずは今まで隠してて悪かった。ごめん。」
「そ、それは良いけど・・・」

そりゃあ驚きはしたけど、だからといって別にどうこう言う気も無い。本当の問題は、レイが言ったある言葉。

「けど、時間が無いって何?」
「いや。どうも今夜中にでも、今この国を襲ってる事件を解決しないといけなくって。」
「・・・レイ・・・それ、本気で言ってる?」
「残念ながら、な。」

いやいやいや・・・冗談でしょ。
だって、相手は人じゃない。今回の相手は『国家』だ。そんなの相手にレイ1人がどれだけ頑張った所でどうにかなるわけが――――

「俺には、この事件を止める力がある。」
「え?」
「力だけじゃない。止める理由も、止めたいと思う気持ちもある。だから、絶対に止めてみせる。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!分かってるの!?今回の相手は軍人よ!?しかも1人や2人じゃない、何千って数なのよ!?」
「それでも、だ。」
「馬鹿を言わないで!大体、力があっても上手くいく保証なんて何処にもないでしょう!?失敗したらそれこそ殺されるのよ!?それとも、レイは誰も悲しませずにそれを遂行できる自信があるの!?」
「いや、全く無い。」
「だったら――――――」



「だって・・・まずはキララを悲しませることになるからな。」



「・・・え?」
「俺自身は、まあ死なないと思う。このことをやるにしても、俺自身が戦うことはほとんど無いからな。けど・・・問題はその後だ。」

レイが何を言いたいのか分からない。けど、やっぱりその目は何かを決意した目で・・・それは、多分‘あたしを悲しませることを決意した’ってこと?

「俺は、きっと世界中から追われる身になる。国家の治安を脅かす危険な存在として、イモルキ王国だけじゃなく、この国からもだ。そりゃそうだよな。だって、たった1人で一国の軍を敵に回して勝てるような存在を、放っておけるわけがない。まあ、ひょっとしたらこの国でかくまってもらえるかもしれないけど・・・それは、出来ない理由もある。」

あたしには、何となくその理由が読めていた。
そして、レイが本当に決意していることも・・・予想できてきた。

「・・・あたしの、せいね?」
「キララのせい、って言い方はおかしいけどな。間違いなく、イモルキ王国も他の国も俺を捜すのに躍起になるはずだ。そうなると、ここに居続けるのは危険だ。最悪の場合は・・・キララまで、巻き込むことになる。」
「ねえ・・・ひょっとして、レイ・・・あたしとの約束、破る気・・・?」

レイは何も言わない。けど、それが全てを肯定していた。
それはつまり――――――



「・・・この町から、ヴェロンティエから・・・あたしの隣から消える気なの!?」

冗談じゃないわよ!今、この町を襲っている事態が戦争になる一歩手前だっていうのは分かる。けど、だからってどうしてレイが出て行くの!?どうしてレイがあたしの前からいなくなるの!?そんなの、そんなの―――――

「そんなの許せるわけ無いでしょ!?ふざけるのは止めて!」
「ごめんな。」
「謝ってなんて言ってないわよ!一体、何を考えてるわけ!?どうしてレイがそうなっちゃうのよ!国を救いたいから!?みんなを守りたいから!?あんたはそんなに偉いの!?あんたはそんなことが出来るほど偉いの!?そうじゃないでしょ!?レイは1人の人間でしょ!?だったら、せいぜい周りにいる人間を救うのが精一杯じゃない!国を救って英雄みたいに颯爽と消えるなんてこと―――――」
「キララ・・・」
「間違ってる!?あたしが言ってること間違ってる!?ねえ、言ってみてよ!人ってそんなものでしょ!?大切な人とお互いに守り合うのが精一杯だから、だから必死に生きてるんじゃないの!?国のためとか、世界のためとかじゃなくって!自分のために生きるから必死なんじゃないの!?」
「・・・キララの言うことは、俺も正しいと思う。」
「だったら、どうして国のために戦おうとするの!?どうしてあたしの側から消えようとするの!?行かなくていいじゃない!戦わなくていいじゃない!ここで、ずっと暮らしてよ!あたしの側にいてよ!」

今、あたしはかなり醜い本音をさらけ出したと思う。
家族だとか、そんなきれい事じゃなくてただ単にあたしが居て欲しいからという願望だけをぶつけて―――――けど、やっぱりそれが本音。レイが居なくなるのは嫌だ。レイがあたしの手の届かないところに行くのは嫌だ。

「姫様の所になんか行かないでよ!」

他の、誰かの女の子の所に行くのも――――嫌だ。
だから、あたしは自然とレイにしがみついていた。必死にレイを止めようとして、力の限りレイを抱きしめていた。



「好きなのよ!あんたのことがっ!誰にも譲りたくない!何処にも行かせたくない!それぐらい、レイのことが好きなのよ!」

みっともないぐらい、子どもみたいな声であたしはそう告げた。

「だから、お願いっ・・・行かないでよぉ・・・」
「キララ・・・」

レイの腕が、そっとあたしを抱きしめてくれる。
けどその抱きしめる腕からは、いつもの暖かさが全くと言っていいほど伝わってこなかった。

「・・・人は、自分のために必死に生きるのが当然だって・・・俺も、そう思う・・・けど、今あの城には・・・あそこにいる、誰よりも優しい子は、そんな当然のことが出来ないんだ・・・」
「っ・・・知らないわよっ・・・そんなのっ、姫様の勝手じゃないっ・・・」
「違うよ。その子は、みんなのために自分を捨てる決意をしたんだ・・・誰かを想うっていう、人として当然の感情すら捨てて・・・」
「でも、だからってどうして・・・どうしてレイが・・・」
「国のためでも、みんなのためでも、ましてその子のためでもない・・・俺は、ただひたすらに自分がやりたいと感じたことをするだけ。」
「・・・あたしと、一緒にいたくないの・・・?」
「いや、実はものすごく一緒にいたい。もう、何なら一生この店で働き続けてもいいぐらい。」
「じゃあ、どうして・・・?」
「同じくらい、リリアとも一緒にいたいから。」

ああ―――――結局、レイはこうなんだ。
優柔不断というか何というか・・・レイは、どちらかを選ぶということが出来ない。だって、その先にあるのは選ばれなかった方の不幸だと思ってるから。
どちらかを悲しませるぐらいなら、レイは‘選ばない’を選ぶんだ。
馬鹿だ。
大馬鹿だ。
特大馬鹿だ。
選ばないなんて、それはあたしとの今までを否定する行為だ。姫様との今までを否定する行為だ。‘会わなければ良かった’と言わせるぐらい、最低の行為だ。

けれど――――――だから、あたしはレイを好きになったのかもしれない。
誰よりも優しいから。
誰よりも暖かいから。
誰よりも側にいて欲しいと願うから。

「・・・レイの、馬鹿ぁ・・・」
「俺もそう思う。」
「あんたなんて、優しくて、優しくて、優しくて、優しくて、優しくて・・・大好きなんだから・・・」
「ありがとう。」
「大好きだから・・・行かせたくないのよ・・・」
「ごめん。」
「行かせないから・・・」
「ごめん。」
「行かせないから・・・行きたいなら、あたしを突き放して行ってよ・・・」
「・・・ごめん。」

レイは、一瞬だけあたしを強く抱きしめる。そこには、いつも通りのレイの暖かさがあった。
ふと、レイは右手であたしの視界を奪う。

「レ―――――ん・・・」

暖かく、柔らかい何かが、あたしの口を塞いだ。
その感覚に酔って、一瞬だけ全てを投げ出してしまった瞬間――――――


「さよなら、キララ。」

‘バチン’

あたしの意識は、そこで消えた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-qJtQp] 2006/09/10(日) 19:31:56

ふぇすてぃう゛ぉー47!

豪華な服の袖へ腕を通し、胸元をさっさと合わせます。
静かな部屋の中、もう使うことのない机と椅子で最後のお茶を頂きました。

―――――味はありません。

‘コンコン・・・’

扉を叩く音と同時に、お母様が部屋に入ってこられます。その顔は、とても暗く沈んでいました。

「リリア・・・」
「おはようございます、お母様。」
「・・・本当にいいの?」
「何のことでしょう?」
「あなたには未来があるのよ?この城を抜け、あの人の元へと行く未来が。」
「そのような方、私にはおられません。」
    
――――そのような人は、知りません。

「リリアッ・・・」
「お母様、今日という日までありがとうございました。遠く離れた異国の地から、私はいつもお母様のことを思っております。」
「っ・・・ごめんね・・・ごめんなさいっ・・・リリアッ・・・」
「泣かないで下さい、謝らないで下さい、お母様。私は、辛くも悲しくもありませんから。」

――――そのような感情は、いりません。

「これで誰もが救えるのならば、私は喜んであの国へと参りましょう。そうすることが、この国の王女としての義務ですから。」

――――王女として以外の私など、いりません。

「さあ、参りましょう。お父様達が待っておいでです。」

私は笑顔で――――きっと、そんな顔で――――お母様の手を引いて部屋から出ました。

皆様が待っている部屋へと向かう途中、廊下で様々な人達とすれ違いました。どの方も、私をまともには見て下さりませんでした。
国のために自らの身を差し出す王女を黙ってみていることしか出来ない自分に、歯がみなさっているご様子でした・・・皆様にそのような感情を抱いて頂いてもらえるとは、私はとても幸せだったのでしょう。この国を、誇りに思います。だからこそ、この国を、この人達の命を奪わせるわけにはいきません。

「皆様、ありがとうございました。」

すれ違う人々にそう告げながら私は一歩一歩、足を進めていきます。
そして、私のこれからを決める部屋へとたどり着きました。

「リリア・キルヴァリーです。」
「どうぞ、リリア王女様。」

お父様とは違う、男の方の声。その声ですらも私を躊躇わせることはありませんでした。
扉を開け、軽く一礼をします。

「お待たせして申し訳ありませんでした。」
「いえいえ。未来の后を待つのは当然のことですよ、ねえ父上?」
「全くだとも。おお、噂に違わずお美しい。」
「お褒めにあずかり至極光栄でございます、シュラーケ王子様、フェリト国王様。」

私の前で満面の笑みをたたえておられるのは、イモルキ国王フェリト・アブファル様と、その息子であり私の夫となるシュラーケ様でした。先ほど、部屋から聞こえてきた声はどうやらフェリト様のもののようですね。

「いやいや。物腰も丁寧で、気品に溢れている。素晴らしい娘さんをお持ちですなあ、クロムウェル殿?」
「っ・・・そちらこそっ・・・」
「お待たせ致しました、お父様。さあ、始めましょう。」
「リリア・・・分かった。」

私、お母様、お父様が席に座り、その対面にシュラーケ様達がお座りになられます。
その手元にあるのは、一枚の書類。
『婚姻の儀宣誓の書』と書かれた紙を、先ずはシュラーケ様が手に取られました。

「この紙に私の名と貴女の名を書き互いの血判を押せば、私達は晴れて夫婦となる。異存はありませんな?」
「ぐ――――」
「ありませんわ。」

何かを話そうとなさったお父様を遮って、私は笑顔―――きっと、そのような顔で―――で頷きました。

「ふふふふふふ・・・実に素直なお方だ。全く持って我が后に迎えて良かった。」

笑顔のまま綺麗な字で署名をなされた後、自らの指を短剣に押し当てて血で濡らしたまま、その紙に押しつけます。

「さあ、次は貴女の番ですよ・・・愛しい我が妻。」

私の元へと回されてきた紙に目を通し、私は筆を持って名を―――――――

‘――――――ドバンッ!!’

急に開け放たれた扉に、驚いて視線を向けます。
そして、そこにおられたのは―――――



「ふ〜・・・ったく、こんな奥でこそこそとやるなよ・・・たどり着くのにえらく手間取ったじゃねえか。」

――――ああ。やはり無理です。知らないなどと言えません。この方の姿を見てしまった瞬間、私は王女でなくなってしまうぐらいなのですから。

「さてと・・・ここから先は俺が仕切らせてもらうぞ。」

どうして、来てしまったのですか―――――ファントム様。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-DOAXu] 2006/09/11(月) 20:26:04

ふぇすてぃう゛ぉー48!

「貴様、一体何者――――」
「黙ってろ、馬鹿王子。」
「なあっ!?」

何か言いかけた馬鹿をあっさりと黙らせ、俺はすたすたと悲劇の王女様の側まで歩いていく。その顔は、今にも泣きそうだった。

「ん。まだ、結婚してないよな?」
「どうして・・・」
「え?」
「どうして来られたのですかっ・・・?二度と、私の前に現れないで下さいと言ったではありませんか!来ないでと言ったではありませんか!なのにどうして!?」
「どうしてって・・・別に了承はしてねえし。」

そう。俺は確かに何も言わずに帰ったが、別にその懇願を肯定はしてない。

「では、今さら何をしに来られたのですか!?私は、もうこの方の妻になると決めたのです!それが誰にとっても優しい選択だと私は―――――」

叫ぶその泣き顔との間を一瞬で詰めて、俺はその細い体をそっと抱きしめる。

「もう良いんだよ。」
「っ――――!」
「気付いてやれなかった俺が悪かったんだよな・・・君はずっと、いつも叫んでたのに、俺は気付いてやれなかったんだよな・・・ごめん。」

そう。初めて会った時から、彼女はずっと、たった1つのことを叫んでた。



「・・・お前は、リリア・キルヴァリーとして生きたかったんだよな?」

いつだって彼女は言っていた。
俺だって彼女にそう言った。
その言葉の、切実さを本当に理解することなく。

「俺に拒絶して欲しかったなんて、嘘だろ?」
「っ!?」
「王女としてだけ生きるなんて、嫌なんだろ?」
「う・・・」
「自分が犠牲になればいいなんて、考えたくないんだろ?」
「ぅうっ・・・」
「だから、改めて聞くぞ?‘リリア’・・・‘お前は、どうしたい?’」
「・・・ファントム様っ・・・」

仮面が、剥がれる。
王女としての仮面が。
素顔が見える。
リリアとしての素顔が。

「私はっ・・・私はっ!リリアとして生きたいっ!国のためでなく!民のためでなく!私はっ、私自身のために生きたいっ!」
「だったら、俺が助けてやる、守ってやる。だから、もう二度と王女としての仮面を被るな。仮面なんか被ってるのは俺だけで充分だ。」
「う・・・うわあああああああああああああああああああっ!!」

大声で、俺の胸元で涙を流すリリアを、俺はもう少しだけ力を入れて抱いてやった。

「初めまして、リリア・キルヴァリー。」


‘パン、パン、パン、パン・・・’

拍手なんだか分からないような乾いた音。俺はその音源を睨み付ける。
そこには、リリアを泣かす原因になったくそったれが薄気味悪い笑顔でのんびりと座っていやがった。

「いやいや。中々いい見せ物だったよ・・・で?そこの仮面の君は何だい?クロムウェル国王、これはちょっと約束が違うんじゃないかい?」
「そ、そうだ!な、何を言ってるんだお前は!?か、彼女は僕のものだぞ!?おい!国王!こんなことして、人質になってる民がどうなっても良いんだな!?」
「っ!?」
「やれやれ、とんだ茶番だよ・・・仮面君。君がやったことはあまりに愚かだ。君は個人的な感情でこの国に住む何万という人間を滅ぼして――――」
「俺がやったことが愚かなら、お前らがやったことはくずだ。」

ああ、そうだ。
こいつらがしたことは、人間として絶対にやってはいけないことだ。こんな奴らを許して置いてやる気は、今の俺には欠片もない。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2006/09/12(火) 19:29:14

ふぇすてぃう゛ぉー49!

「ふん。君がどれほどいきがろうと、もはやこの国の未来は――――」
「ちっとはその口閉じてろ、外道が。息子以上に無能が知れるぞ。」
「っ――――き、君は今の状況が――――」
「黙ってろって言っただろうが。無能を通り越してもはや同情すら出来ない間抜けか?」
「ま―――」
「喋るな。息をするな。と言うか、自分がくずだという自覚があるなら今すぐにその息を止めて消え失せろ。そしたら、お前はこの国の英雄として扱うようにリリアに頼んでおいてやる。」
「な、あああっ!?」
「貴様っ!ち、父上になんてことを!?」
「悪いが馬鹿息子、お前とは話す価値もない。改めて言う、黙れ。」

いや〜・・・ここまで人を蔑むのは初めてか?まあ、挑発っていうのはある程度過激な方が後々のダメージは大きいしな。そもそも、こいつらに気遣いなんかしてやる意味もないし。
それより、いい加減時間も大分稼げたはずだし・・・そろそろかな?

「も、もう我慢成らんぞっ!」
「あ、それは同感。俺もお前と同じ空気を吸ってるってだけで、かなり限界。けど、それでも話しておかないといけないことがあるから来てやってるんだろうが。どれだけ無能か知らんが、それぐらい理解しろ。」

人間の限界を超えて真っ赤になった顔で、イモルキ国王は立ち上がる。

「後悔させてやるぞ!今すぐに人質を――――」
「いないぞ?」
「―――殺して・・・何だと?」
「いや、だから人質なんぞとうの昔にいないって。多分、そろそろ来るんじゃないか?」

‘バァンッ!’
扉が、俺が空けた時以上に荒々しく開いた。その向こうに立っているのは、息を切らしてぼろぼろの状態のイモルキ国衛兵。

「た、大変です陛下っ!」
「何があった!」
「ひ、人質達がっ・・・‘全員、逃げました’っ・・・」
「な、何だとっ!?」

この報告に、さらに顔が真っ赤になる。おお、この人の血管はきっと常人の数倍は太いに違いない。

「馬鹿を言うな!一体、貴様らは何をしていた!?」
「で、ですが!突然煙が上がったかと思うと、全ての衛兵達が何かに吹き飛ばされ、いきなり燃えだして、もはや城内にいた我が軍は壊滅状態です!」
「ひゃ、百人はいたんだぞ!?」
「うん。予想以上に呆気なくって俺も驚いたよ。」

全員の、イモルキ国王だけでなく王子や、リリア、国王、王妃様、四聖騎士、団長の視線が俺に集中した。
そのどれもが驚愕に目を見開かれているのは、まあ当然だと思いたい。

「き・・・貴様がっ・・・?」
「この程度で驚いてもらったら困るが、とりあえず俺からの要求の話に移らせてもらうぞ。ちなみに、断ったら――――」

俺は手近にあった花瓶から花を抜き取り、それを持って右手のスタンガンの電極の間に通す。当然の如く、花は一瞬で燃えて灰と化した。

「――――人間って焼いたら食えるらしいけど・・・お前らなら精々家畜の餌か?」
「っ!?」
「んじゃ、聞いてくれるよな?」

イモルキ国王も、王子も何も言わないので了承(まあしないわけにはいかんだろうけど)してくれたと見て、俺はさっさと用意していた紙を取り出して、そこにあった文を読む。

「要求は3つ。1つ、明日までにこの国から出て行くこと。1つ、今後一切この国に関わらないこと。1つ、自分たちがやった悪行を全て他の国に公表すること。以上を急いでやってくれ。そうしたら、命までは取らないから。」
「ふ、ふざけるな!そんな要求がのめるわけなかろう!」

‘ドゴン!’
俺は容赦なく、近くの壁に全力でパンチをかます。壁に大きなヒビがはいったけど気にしない。

「ひっ!?」
「そんな要求?これでも最大限譲歩してやってんだ。リリアを泣かせやがったくせに俺と交渉が出来るとでも思ってんのか?本当なら今すぐにお前の眼球えぐって、爪を剥いで、両手両足の関節倍に増やして、のどをつぶしてやってもいいんだよ。けど、あえて平和的に解決してやろうとしてんだ。感謝こそされ、お前ごときに文句言われる筋合いは無い!」
「ぐ・・・だ、だが、忘れたわけではあるまいな!?この都市の外には、我が軍が多数!こんな都市など軽く1つ落とせるだけの―――――」

全く持ってやれやれだ。脅しとはいえ、いや、脅しの範囲だというのに実際にここまでやった俺にまだ太刀打ちできると思っている。
今までの話から、俺がそのことに何の対策を打ててないとでも思っているのだろうか。

「な、泣き面を見るのは貴様の方だ!」
「どうかな?いい加減、俺が本当に待ってる知らせが来る頃だけど・・・まあ、それまではもう少しだけ話をしようじゃないか。」
「うるさいうるさいうるさい!クロムウェル!こ、この男はお前の配下だな!?こ、これは我が国に対する宣戦布告とみなすぞ!?」
「おい、冗談じゃねえ!先に戦争を仕掛けてきたのはお前らだろうが!?」
「黙れ黙れ黙れ!こ、このようなことっ、あってはならんのだ!わ、私達が平和的に解決しようとすればっ!我らが軍を甘く見てもらっては困るぞ!」
「へ〜・・・それで、その軍って具体的にはどのくらいだ?」
「ふ、ふん!聞いて驚け!父上率いるこの軍は何と総勢3千を超すんだ!市民を守りながらでは到底防ぎきれる人数ではないぞ!?」

そうか、3千か・・・予想よりは多かったな、‘好都合なことに’。

「はいはい。すごいね〜、頑張ったね〜、頭なでてやろうか?」
「きょ、虚勢を張っていられるのも今の内だ!すぐにその仮面を剥がして、命乞いをさせてやるからな!?」
「虚勢を張るのが悪いのか?」
「何っ!?」
「ちょっと計画が崩れたぐらいで怒って、わめいて、暴れて。みっともないとは思わないか?リリアは自分の人生を崩されそうになっても、お前らに立ち向かったんだ。不安も悲しみも全て押しやってな、虚勢を張って顔を上げたんだ。虚勢すら張れないお前らは、哀れで、愚かで、どうしようもないくずだ。」
「き、貴様あっ!!」
「父上っ!もう我慢成りません!急いで我が軍に―――――」

‘ドバアアアアンッ!’
今日、一番のいい音と共に部屋の扉が3度目の動きを見せた。もちろん、表れたのはぼろぼろの姿のイモルキ国兵士だ。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ajPkF] 2006/09/13(水) 20:54:54

ふぇすてぃう゛ぉー50!

「何だ!今度は人質だったやつらが暴れたとでも言う気か!?」
「おいおい。自分の兵隊が何処の所属かも分からないのか?俺の見たところ、そいつは‘城門の外の軍’だと思うが?」

一瞬、だが今度こそ完全にイモルキ国王の顔から血の気が失せた。

「な、あっ?な、何だ、そ、その姿はっ・・・?な、ぜ、お前が、そんな姿をっ?」
「も、申し、上げますっ・・・!」

兵は息も絶え絶えに、その顔は蒼白で今にも倒れそうな顔で声を出した。

「我が、軍のっ・・・兵糧と、武器がっ・・・‘燃やされました’っ!」
「何だとおおおおおっ!?」
「馬鹿なっ!?何故だ!?何故そのようなことが!?」
「俺にだって、分かりません!しかしっ!きゅ、急に空から星が落ちてきたかと思うと、それが地面に着地すると同時に破裂してっ!火がっ!あっという間に燃え広がって!兵糧も、武器もっ、全てがあっという間に炎の中です!」
「星が、落ちた・・・?」
「はいっ!しかも、あんなにたくさんっ・・・も、もう嫌です!国王!この国はおかしいですよ!星が落とす人間がいて、そんなことが―――――ああああああああああっ!?」

ようやく、俺に気付いた衛兵が恐怖に顔を染めて指を突きつける。
人を指で指してはいけないと教わらなかったのか?まあ、その割に人差し指などというのがあるのは常々疑問ではあるが。

「お、お前っ!お前何でっ!?」
「うるさい男だな。」
「何だ!?この男が何を――――まさか・・・?」
「この男です!この男が何かをする毎にっ!星が空から落ちてっ!」
「っ―――――!?」

さてさて、種明かしなどしておくと別に俺は本当に星を落とすなんてことはしていない。まあ、出来もしないけど。ただ、流れ星のような燃えさかる物体を落とすことは可能だったというわけだ。
具体的には‘花火’である。事前に作っておいた大小様々ないくつもの花火をイモルキ王国の軍隊が陣を張っていた場所に火を付けて投げやったのだ。あるものは空中で爆発し、あるものは地面に着弾して破裂して様々のものに飛び火した。もちろん、一番狙っていたのは食料や武器が保管されていそうな箇所だ。それさえ奪えば後々やりやすいとの判断だったが予想通り。炎の固まりとはいっても、すぐに体中に燃え広がるようなもんでもないだろうから大丈夫だろう。炎が顔面に当たった不幸な人については知ったことか。

「報告お疲れ様だな。さて、話を続けようか?」
「ひっ・・・く、来るな!来るな化け物めっ!」
「俺が化け物ならお前らは何だ?人の命を盾に、リリアの命を弄ぼうとした貴様らは何だ?言ってみろよ?」
「やめっ、く、来るなっ!・・・た、助けてくれっ!」
「心配するな。別にお前をどうこうしようっては思ってない。まあ、本心では死なせてくれと懇願するくらいまでいたぶってやりたいけど・・・俺は優しいんだ。分かるな?」
「ひっ、ひいいっ・・・」

一歩、また一歩と近づくたびに情けない声を出しながら後ずさる男2人に、俺は先ほど自分が見せた書類を突きつける。

「俺は優しいから、お前達に選択肢を与えてやろう・・・『1、俺の出した条件を全て呑んで無傷でこの城から帰る』。きっと、帰り道の兵糧も優しいクロムウェル陛下が出してくれるだろうよ。『2、決死の覚悟で兵達に突撃命令を出してみる』。‘3千という大人数に与える兵糧はない’し武器も燃えたらしいけどな。まあ、俺が兵隊なら謀反を考える。『3、今この場でリリアを含む王族の方々を狙う』。まあ、これはお勧めしない。なぜなら――――」

俺は空いている片方の手で拳を作って、先ほど俺が破壊した壁を見やる。
俺の後ろで、以前見たままの笑顔を取り戻している騎士団長が剣に手を掛けている。
陛下、王妃様、リリアの周りで四聖騎士がそれぞれの武器を容赦なくきらめかせている。

「――――分かるな?ついでに言っておくが、今この城にはお前達の部下はいないに等しいぞ。何せ、ここに来る途中、目に付いたやつを片っ端から殴り倒しておいたからな。しばらくは目も覚めない。その上で聞こう。」

自分に出来る最大限の鋭い目と笑顔で、俺は2人に問う。

「1から3、どれを選ぶ?」

2人の答えは、言うまでもない。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-HcQtU] 2006/09/14(木) 22:30:02

ふぇすてぃう゛ぉー51!

書類に名前と血判を押されたフェリト様達に、ファントム様は笑顔でその首に手を当てました。

「「ぴぐっ!?」」

変な声と共に2人は机に倒れられ、ファントム様はその2人を先ほど部屋に駆け込んできた衛兵の方に投げるように押しつけます。

「いいな?今、お前が見たことを軍の総責任者に伝えろ。決して変な行動は起こすな?次はお前の頭に星が落ちることになるぞ。」
「ひいいいいいいいっ!」
「行け。」

そうして、イモルキ王国の人間が誰1人としていなくった部屋で・・・ようやく、ファントム様は気を抜かれたのか近くにあった壁に寄りかかりました。

「ふぅ・・・緊張した・・・平和って素晴らしいね。」

そうやっていつも通りの、何ら変わらない口調のファントム様に――――

‘ボフン・・・’

「おう?」

私は、恥じらいも何もかも忘れて勢いよく抱きつきました。

「ファントム様っ・・・ファントム様っ!ファントム様ぁっ!」
「ああ・・・遅くなったな、悪かった。」
「いえ!いいえっ!あなたは、あなたはまたっ!また私を助けて下さいました!」
「全く持ってその通りだ。」

お父様はファントム様の前に来られると、腰を折って頭を深々と下げられました。
そして、それに続くようにお母様、リュカー様、四聖騎士の方々も同じようにファントム様に頭を下げます。

「ファントム・・・お前は、今日俺の娘と、民と、国。全てを救ってくれた。もはやどれだけ感謝しても足りなねえくらいだ。」
「本当に、ありがとう・・・あなたが、リリアの友達で本当に良かったわ・・・」
「よして下さいよ。俺は、ただ単に友達を助けたかっただけですって・・・別に、国だとか、そんな大げさな物を守る気なんて無かったですしね。」
「それでも、結果的に君はこの国を救ってくれたんだ。本来なら騎士団長たる私の役目だというのにね。」
「改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう・・・」

ファントム様は頭をかかれて、小声で「どういたしまして」と呟かれました。

「さあ!これからが忙しいぞ!あのくそったれ共の悪行を全部他の国にばらしてやらねえとな!」
「お〜・・・頑張って下さい。」
「任せとけって!今日のことでよく分かったことがある!」

お父様は私からファントム様を奪うように――――今まで抱いて頂いてもらっていたので、ちょっと残念ですが――――ご自分の前へ立たせました。

「ファントム!俺の跡を継いでくれるのはお前しかいねえ!」
「だから勝手に決めないで・・・」
「何を言ってるんだ!もう誤魔化しは効かねえぞ?お前がここまでしてくれたのは・・・お前が言ったとおり‘リリアのため’なんだろ?」
「それはそうですけどね・・・別に『リリアを愛してる。』なんて言ってませんよ?」
「少しもか?」
「そりゃあ、まあ別に恋愛感情が無いわけでもないですけどね・・・」

今、ファントム様は何と仰いましたか?
『恋愛感情が無いわけでもない』
それはつまり・・・私のことを、ほんの少しでも愛して頂いていると――――!

「ファ、ファントム様っ・・・嬉しいですっ・・・」
「リリア。良かったわね?」
「はい!」
「おめでとうございます、姫様。」
「ふ〜む・・・じゃあ、俺達って将来的にファントムに仕えるのか?」
「そうなるだろうな。」
「至極当然。」
「初めて会った時はこんなことになるとは思ってもなかったけどねえ〜。」
「・・・おい。何故、全員揃って俺が王になること前提で話を進めている?」
「だって、姫様を愛してるって言いましたし。」
「言ってねえ。」
「一生大切にするって言っただろ。」
「なおのこと言ってねえ。」
「リリアは俺の物だと宣言しただろう。」
「全身全霊賭けて言ってねえ。」
「でも、私の側には居て下さいますよね?」

私は、それこそ皆様の冗談よりも聞きたかったことを尋ねます。まあ、正直な所答えはほとんど分かり切って―――――



「えっと――――・・・ごめん。それも無理。」

――――いた、はず、なのに・・・?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/09/18(月) 19:55:55

ふぇすてぃう゛ぉー52!

「――――・・・え?」
「あの、ファントム君・・・どういうこと?」
「すいません、王妃様。あなたとの約束を・・・これ以上、守れません。」

お母様との約束?
いえ、そのようなことはどうでもいいことです。そのようなことは、ファントム様の先程の言葉の前では本当に些細なことです。と言うよりは、今のファントム様の言葉以上に重要なことがあるでしょうか?
私には―――――ありません。

「どう、いうこと・・・ですか?」
「言ったとおりだよ、リリア・・・俺は、これ以上君の側にいられない。」
「っ――――!?」
「ちょ、ちょっとファントム君?その、余りにも冗談が過ぎるんじゃない?」
「冗談でこんなこと言いませんよ。俺は、今日をもってこの町から出て行きます。」
「そんな・・・?」
「・・・何故、ですか・・・?」

私は震える足でファントム様に近づき、やはり震える手でファントム様の両肩を掴みます。

「何故、そのようなことをっ・・・!?」
「リリア。俺がやったことを分かっているか?」
「分かっています!あなたは、私を救って下さいました!この国を!民を!誰もかもを救って下さいました!そうでしょう!?」
「いや、違う。俺がやったのは‘イモルキ王国の軍をたった1人で撃退した’ってことだ。」
「それが、一体何だというんですか!?そんなことが、どうしてファントム様が私から離れてしまうことに繋がるのですかっ!?分かりません!分かりたくもありません!嫌です!そんなのは嫌です!お願いです、何処にも行かないで下さい!私とっ!私と一緒にいて下さいっ!」
「たとえリリアがそう思っても、他のみんなはどう思う?」
「え―――?」
「おい、ファントム。そりゃあ俺達のことを言ってるのか?だとしたら心外だぜ?」

少々苛立ったような声で、お父様がファントム様を睨みます。

「前にも言っただろうが?俺はお前がどれだけの力を持っていようと、リリアが信じてるならお前を信じるってな。だから、お前を怖いなんざこれっぽっちも思わねえし、お前の危険性を他の国に漏らしたりもしねえよ。」
「そうよ。あなたが不安だと言うのならここで匿っても良い。全く別の名前と身分を与えればどうとでもなるのよ?」
「私も陛下達と同意見ですよ。もちろん、四聖騎士のみんなもね。」
「う〜ん・・・予想通りの発言をしてくれるとは。やっぱり優しいよ、陛下達は・・・けど、それが‘手遅れ’ってこと分かってるか?」
「手遅れ、だと・・・?」
「俺はさっき、部屋を出て行ったイモルキ王国の衛兵にこう言った。‘お前が見たことの全てを伝えろ’って。」
「あ―――――!」
「あの兵はきっと見たことを言うだろうな。この国には星を降らせる恐ろしい魔法使いがいる、みたいなことを。それに、俺は3つの要求の中にあの国がやったことを他の国全てに伝えろとも言ったし。そうなると、他の国に‘どうして退却することになったのか’も話さないといけない。そうなれば、俺のことを話さないわけにもいかないよな?さて、それを聞いた時の他の国々の反応は?」

それは・・・・想像に難しくありません。
きっと、ファントム様を世界的な脅威とみなしてその身柄の引き渡しをこの国に迫ってくるでしょう。そして、もしも匿えば―――――

「匿ってもらうわけにもいかないよな。下手したら、今度はイモルキ王国なんかよりずっと大量の連合軍みたいのが攻めてこないとも限らない。」
「くそっ!」
「待てよアイン!何をしに行く気だ?」
「決まってるだろ!急いで、さっきの衛兵の口封じをしに行くんだよ!そうすりゃ、お前のことは―――――」
「星を落とした時に、ほとんどの兵に俺の姿は見られてるって・・・手遅れだって言っただろ?」
「う・・・」
「では、どうすればいいと言うんだ!?それでは状況は何一つ変わっていないのと同じじゃないか!君がこの国を助けてくれた以上、どうやっても――――」
「助けてないとしたら?」

今度こそ、本当に私はファントム様がやろうとなさっていることを理解しました。
けど、それは・・・どこまでも残酷で、辛くて、誰も幸せに出来ない行為――――そんなことをファントム様はやろうとなさっているのですか!?

「俺がこの国の‘敵’になればいい。理由は・・・そうだな、あの王子と似たような感じで、リリアを付け狙ってたってことにして。イモルキ王国を追い払ったのはそのためってことにすればいいかな?んで、味方だと思って油断してた王族の人を傷つけようとして、騎士の反撃に遭って逃亡ってことにすれば――――」
「そんなの嫌ですっ!」
「・・・けど、そうしないといけない。そうだろ?今の状況は。」
「何がっ、何が『今の状況は。』ですかっ!ファントム様っ!最初からこの状況を作ろうと動かれたのでしょう!?最初からこの国から!私の側から離れていくおつもりだったのでしょう!?」
「・・・まあな。」
「そんなの!そんなの勝手です!何のために私を助けて下さったのですか!?何のためにあの方々を追い払って下さったのですか!?この国から出て行くため!私の側から離れるため!そんな理由だったのなら―――――」

そんな理由で、私を助けて下さったというのなら――――――

「『助けて欲しくなんて無かった』・・・か?」
「ええ、そうです!何のために私は救いを求めたのかお分かりにならないのですか!?私は、私があの方を拒絶したかった理由は‘ファントム様と一緒にいたい’からです!たとえ恋人になれなくても!それでもファントム様と友人としてでも一緒にいたかったからです!なのにっ!なのにどうしてっ!?」

気が付けば、私はファントム様の胸の中に顔を埋めて泣き叫んでいました。
もはや決して変えられない現実を必死に食い止めたくて、けどやはり変えることなどできないと、心の何処かで気付いていて、それでも諦めたくなくて・・・
もう、泣くしかありませんでした。

「どうしてっ・・・どうしてこうなるんですかっ!?」
「・・・俺が最も望んだことって、何だと思う?」
「知りません!分かりません!分かるわけがありません!」

ファントム様の腕が、私を優しく、暖かく包み込みます。

「リリアと・・・もう一人、同じくらい大切な女の子に笑って生きてもらうこと。たとえ、そこに俺がいなくっても。」
「そんなの・・・そんなの勝手ですっ・・・私は、あなたがいないと、笑えませんっ・・・」
「そんなことない。だって、リリアはこの国のために、一度は俺との繋がりを切ることを選べたんだ。それだけの強い意志があるなら・・・きっと、それはリリアが一人で立ち直ることも出来ることの証明だと思う。」
「嘘です・・・私は、そんなに強い人間じゃありません・・・」
「リリア。これは、俺がこの世界で感じたことだけど・・・人は、自分が思ってるよりずっと大きな強さを持ってる。」
「ファントム様ぁ・・・」
「大丈夫・・・きっと、リリアは笑えるようになるさ。」

そう言って、ファントム様はそっとご自分の仮面を外されました。
初めて見るファントム様の素顔は、私が想像していたものよりもずっと凛々しく、しかしとても悲しそうな顔でした。

「最後に・・・俺の本当の名前はな、レイだ。レイ・キルトハーツ。」
「ファ・・・レイ、様っ・・・」
「ずっと、そう呼んで欲しかった。これからも、呼び続けて欲しかった。」
「レイ様っ・・・レイ様ぁっ・・・!」
「けど・・・さよならだ、リリア。」

ファントム様はそっと私の顔にご自分の顔を近づけて―――――

「え――――ん・・・」

私は、自分の唇とファントム様の唇が触れあったのを確かに感じ―――――

‘バチンッ・・・・’

―――――そしてそれを最後に、私の意識は深い闇に捕らわれました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-tGqLi] 2006/09/19(火) 22:03:41

ふぇすてぃう゛ぉー53!


町から出て、たどり着いたのは俺がこの世界に来た時に倒れていた場所。
ここに来た理由は、まあ何となくだ。

あれから、スタンガンで気絶させたリリアを王妃様に任せ、引き留めようとしていた国王をどうにかなだめて、今までの礼をしてから城から抜け出た。
眼下に見える町はすっかり輝きを取り戻し、はるか向こうには少ない明かりでじっとしているイモルキ王国の軍も見えた。
そして、俺が居なくなってなお、輝きを保っているヴェロンティエも。
俺が居なくなってなお、そびえ立っているお城も。

「・・・2人とも、きっといつか笑ってくれます・・・俺じゃない、他の誰かとでも。」

2人とも強い女の子だ。
弱い面を持っている、強い女の子だ。
だからこそ、笑って欲しい。俺じゃなくっても、他の誰かと一緒に笑って欲しい。そして、2人ならきっとそれが出来るはずだ。

「俺は、そう信じてる・・・だから、この行動を取りました。」

町から視線を背け、俺は自分の背後を見る。

「これが、俺の決断です。」
「はい。しっかりと見させて頂きました。」


初めて会った時と、何ら変わらない笑顔でミリア・ランクフォードがそこにいた。

「レイさん。あなたなら、この国に留まるための考えだってあったでしょう?どうしてそれを使わなかったんですか?そもそも、あなたが2人に言ったことは矛盾がありすぎでしたよ?」
「そうですね。例えば、ファントムは国外に逃げたって噂を流してもらって何食わぬ顔して過ごせば、きっと簡単だったでしょうね。それなら、キララもリリアも悲しまなかったかも知れない。けど・・・それは、問題が先送りになっただけだと思いますから。そうなったら、俺との繋がりが時間と共に濃くなっていく分だけ、逆に別れた時の悲しみも増えてしまいますから。」
「つまり、レイさんはここを去る気だったんですか?私は以前も言いましたよ?」
「『いつか去るためにいるんじゃない。望まれているからここにいる』でしたよね。俺も、それはとても嬉しい言葉でした。けれど、望まれていても、俺が望まないなら話は別でしょう?」
「この町にいたくないんですか?」
「いたいですよ・・・けど、それが出来ない理由は分かってるんですよね?もうお互いに嘘と誤魔化しはなしにして全てを明らかにしましょうよ、ミリアさん。」

俺は笑顔で、しかしあくまで真剣にミリア・ランクフォードという存在に話しかける。


「あなたは、俺が異世界から来た人間だと知っていたはずですよね。」


そう言われても、その存在は全く笑顔を崩さなかった。

「それだけじゃない。おそらく、あなた自身もこの世界の人間では無いはずです。俺の世界の存在なのか、それとも別世界の存在なのか・・・それとも、それら全てを超越した高みにいる存在なのか。あなた、一体何者なんですか?」
「・・・そう考える根拠は?」
「最大の理由は・・・‘カナ言葉’です。この世界に来てからしばらくして気付いたんですけど、この世界の人達ってカナ言葉、と言うよりは外来語って言った方がいいのかもしれませんね。それを全く使わないんですよ。マントのことは外套って言うし、ベッドを寝台、デートを逢い引き、ダンスパーティーは舞踏会ってな具合に。けど、ミリアさん・・・あなただけは違ったんですよね。キララとパーティーに行くときだって、あなたは『エスコート』してくれと言った。俺が初めてキララの部屋に入った時も『シチュエーション』という言葉を使った。他にも何度か、あなただけが外来語を使用できていた。何度か俺もあなたに対して外来語を使ってみたんですけど、やはりそれに対しても理解が出来ていたみたいですしね。」
「素晴らしい観察力ですね。さすがレイさん。」
「まあ・・・あなたが変だと気付いたのは割と最初の方だったんですけどね。」
「え?」
「この世界に初めて来た時、あなたは抵抗していた俺をヴェロンティエまで‘引っ張っていった’んですよ。この世界では超人的な力を持つ俺をね。この世界なら俺が少しでも足を踏ん張れば誰も俺を引っ張っていくことなんて出来ないはずです。にもかかわらず、あなたは俺の力を上回る力を出した。これはもう変でしょう?あり得なさすぎる。後、補足条件としては、あなたのその異常な若さもですかね。いくら何でも非常識ですよ、その顔とスタイルは。」
「あらあらあら・・・完璧ですね。」

そう言うと、ミリアさんはようやく組んでいた腕を解いて、俺へと一歩踏み出した。

「あなたの想像するとおり、私は人間ではありません。言うならば、神様といった所ですね。」
「神様、ですか・・・」
「はい。と言っても、大したことは出来ない神様なんですけどね。」
「そのようですね。」
「ひどい言い方ですね・・・私がやれることは、2つ。1つは‘魂の監視’です。」
「監視?ってことは、見ているだけ?」
「はい、その通りです。レイさん、実は世界というのは多数あるものなんです。」
「ここや、俺が元いた世界の他にもってことですか?」
「ええ。色んな世界があります。魔法と伝説上の生き物が存在する世界。文明が異常に発達している世界、逆に未だ太古の動物が存在する世界・・・そして、それらは全て繋がって居るんです。」

・・・いきなり世界の真理に迫ってるか、俺?
悟りでも開いてみようかな・・・

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-qJtQp] 2006/09/21(木) 20:16:41

ふぇすてぃう゛ぉー54!
「繋がってる?」
「はい。人間が死ぬと、その体重が生前よりもほんのわずかに軽くなると聞いたことがありますか?」
「確か、その軽くなった分が魂と呼ばれるものの重量じゃないか、って話ですよね。つまり、それは本当のことだと・・・?」
「その通りです。抜け出た魂は生前の強い願いに基づいて別の世界に移ります。英雄になりたいと思った人は、おとぎ話のような世界へ。素敵な人との出会いを求めた人は、男女比が極端に偏った世界へ。平和を望んだ人は、争いのない世界へ。今までの人生に満足していた人は、今までと大して変わらない世界へ。たまに、同じ世界へ転生する人もいますが、そのような方はさほど多くありません。」

ふむふむ。意外な真実が明らかに――――いや、問題はそこじゃない。今までの話をまとめて、なおかつ俺が置かれている状況を考えると・・・

「えっと・・・つまり、俺って元の世界―――いや、前世で死んだってことですか?けど、何かの手違いで記憶どころ肉体までこの世界に来た?」
「そのことを話す前に、私が出来ることのもう1つをお話ししましょう。それは‘魂の絶対量の安定’です。」
「・・・すいません、分かりやすくお願いします。」
「魂には1つ1つに固有のエネルギー量があるんですが・・・実は、1つの世界が受け入れられる魂の総エネルギー量は決まっているんですよ。それを過ぎると、世界が崩壊することになるんです。」
「世界が崩壊とは・・・多分言葉通りの意味ですか?」
「はい。そこで魂のエネルギー、私はレーベンと呼んでいますが、レーベンが過剰になってしまいそうな世界を見つけると、私はその世界から強制的に魂を他の世界に移しているんです。」

えっと・・・さり気なく怖いことをおっしゃいませんでしたか?
強制的に魂を移すってのは、今までの話から察するにその人の命をそこで終わらせるということだろうから、つまりミリアさんは世界が壊れる前に命を奪う・・・?

「それって、死神では・・・?」
「ああ。勘違いなさらないで下さいね。正確には異世界にその人を魂だけでなく体と記憶もセットで飛ばすんです。もちろん、異世界に行っても自分を保てる強い人を。」
「そのせいで家族と引き離される方はたまったもんじゃないでしょうに・・・」
「今までに家族がおられた方を飛ばしたことはありませんね。逆境の中、孤独という最悪に耐えた方のレーベンは桁違いに大きいのです。そして、そのような方は異世界で必ずと言って良いほど幸せに暮らしていますよ。まあ、その人の人生を変えたことは恨まれても仕方ないことですけどね。」
「俺としては、やっぱり今までいた世界から外されるっていうのは結構ひどいことだと思いますが・・・まあ、世界と引き替えで誰かが選ばれないといけないっていうなら、あなたの行動を否定は出来ませんね。それを否定する権利も考えも俺には無いですし。」
「優しいですね。」
「面倒なだけですよ。それで―――――」

俺は自分の魂、肉体、記憶の全てを持ってこの世界にやって来ている以上は俺の魂のエネルギー、レーベンだったか?それはきっと大きいということか。つまり、俺はもう元の世界に戻れないってことだよな。俺のレーベンが元の世界に戻れば、その瞬間に世界が崩壊してしまうってことだから。

「俺を連れてきたのはミリアさんなんですよね?」
「違います。」
「じゃあ、俺が元の世界に戻――――今、何て言いましたか?」
「レイさんに関しては、私の知らない別の力でここに運ばれてきているんですよ。確かに、レイさんのレーベンは大きいですけどね。それでもレイさんの元いた世界はまだまだレーベンに余裕がありましたから、別にレイさんをここに連れてくる必要は無かったんです。」

違う?
ちょっと待て。俺は死んでないっていうのは、ミリアさんの言葉から分かっている。じゃあ俺はどうして世界を渡ったんだ?具体的にはどうやって?何故?
俺に、あの時何があって?やっぱり親父の作ったお守りか?いや、でも親父は予定とは違うベクトルへの発明はしない――――予定?
そういえば親父がおのお守りを作ったとき、何か言ってた気が――――


『――――昨晩、時空間転送装置を開発中にひらめいたアイディアから創り出した、まさに最終護身用製品だっ!―――――』

『――――昨晩、時空間転送装置を開発中に――――』

『――――時空間転送装置――――』

時空間転送装置?それはつまり、元々はそっちのベクトルで開発してた副産物が、あのお守り?
護身が本来の目的でないとしたら――――

「・・・あの、親父っ・・・本気で異世界に飛べる道具を作ったのか!?」
「心当たりがあるようですね。とりあえず、レイさんがここに来たのは私にとっては予想外でした。私が何もしていないのに、肉体を持った魂が異世界に渡るなど今までに無かったからです。」
「それで、ミリアさんは俺をヴェロンティエに連れて行ったんですね。俺という異常な存在の監視のために。」
「はい。それも、1つの理由です。」

1つの?それは、他にもあるということだよな・・・?

「レイさん。今までの話を聞いて、もう1つの異常な存在に気が付きませんか?」
「もう1つの、異常な存在?」
「はい。」

1つの異常な存在は俺だ。神の力無しに生死を超越して異世界へと飛べる人間。
まあ、強いて言うならミリアさんも異常かも――――あれ?
ミリアさんが異常。それは分かる。だって、人間でない神という存在ならばそれは普通でないということだから。


じゃあ、その‘神の娘と呼ばれる存在’は――――


「キララ、ランクフォード・・・?」
「はい。その通りです。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!キララは、あなたの娘じゃないってことですか!?それとも、キララ自身も神だと――――」
「いいえ。キララは私の娘です。神である私が、自らのお腹を痛めて産み落とした大切な娘があの子です。けれど・・・あの子は神ではありません。」

神の娘、神の血を引く娘であるキララが神でない理由は――――

「・・・キララの、父親?」
「やはりあなたは素晴らしいですね。」

ミリアさんはにこやかに、しかし何処か寂しげに笑うと俺に背を向けて虚空に語り出した。
それは、失われた過去を懐かしむような声。

「30年ほど前、この世界を保つのに必要なレーベンが欠乏した時がありました。そこで私は、レーベンの量が多すぎた世界から1人の男性を呼び寄せたんです。その人の名前は‘クリューガー・ランクフォード’。私はクリューガーに全てを話しました。今までは、異世界へと飛ばした人は放っておいたのですが、それはほんの気まぐれで―――いえ、そうではないのかもしれません。その時から、私はクリューガーに惹かれていたのでしょう。だから、クリューガーと話したかったのです。幸いにも、彼はあっさりと全てを受け入れてくれました。そして・・・・彼は、あろうことか私に‘名’を与えてくれました。」

きっと、それまでは他者となるべき存在がいなかった彼女が――――その瞬間まで、名前を持つ理由を持たなかった神が――――たった1人の人間との出会いで、変わってしまったんだろう。
世界を見るだけの存在から
世界を作り上げていく存在へと

「当時、他のどの世界もレーベンの危機には瀕していませんでしたから、私はそう理由を付けて彼の側にいました。そして彼は私をミリアと呼び、私も彼の名を呼びました。たったそれだけ・・・たったそれだけのことで、私は彼を愛するようになりました。そんな日が続いて――――初めての想いに何も出来ず、人間と神という違いに何も出来ない――――そんな日が続いていたら・・・その時がやって来たんです・・・」
「・・・クリューガーさんも、ミリアさんに恋したんですね?」
「はい。私を包んだのは、感じたことのない歓喜と、それを超えるような後悔でした。神と人間が結ばれるなど出来ない・・・私は彼にそう告げました。けれど・・・あの人は、私を抱きしめて叫んでくれたんです。


――――僕は神を愛したんじゃない!僕はミリア、君を愛しているんだ!――――


―――って。それを聞いた瞬間、私はもうあの人に抗えませんでした。あの人の全てを受け入れることに決めました。あの人と一緒に居る間だけは、私は神ではなくミリアでした。そして――――キララが生まれたんです。」
「クリューガーさんは、どうして亡くなられたんですか?」
「あの人が亡くなった理由は単なる事故でした。私は、あの人の魂をどうするか悩み、苦しみ・・・結局、他の世界へと旅立たせました。だって、愛する人とはいつか別れる物です。私の力で、あの人の魂を縛ることは出来ませんから。」
「・・・すいません、無礼な質問でしたね。」
「いえ、構いませんよ。あの人の話をするのは、私の特権で誇りなのですから。それから、私はキララと一緒にこの世界でゆっくりと過ごしていました。もちろん、レーベンの管理も忘れないように。そして・・・あなたが来たんです。この世界で唯一、キララと同じように異端な存在であるレイさんが。」

その言葉で、ミリアさんが俺をヴェロンティエに連れてきた本当の理由が分かった。
‘娘のため’だ。

「俺に、キララの支えになって欲しかったんですね?」
「はい。まさか、あの子があなたに恋するとまでは思いませんでしたけど。でも・・・私は、あなたにキララと一緒になって欲しかったです。あの子は、無意識のうちに男の人を避けています。それは、自分の中に流れる異質な存在の血のせい。きっと、この世界の男性へ好意が働きにくいのでしょう。そう気付いたのは、あの子がレイさんを好きになった後でしたけどね。」
「何だか、キララの想いが運命づけられてるみたな言い方ですね・・・」
「ああ、そういうわけではありません。きっと、血など関係なくてもキララはレイさんを愛したでしょう。レイさんは・・・あの人にどことなく似ていますから。」
「・・・けれど、俺はもうキララの側にはいられませんよ。」

そう。この場合はそれが最大の問題だ。この世界について、ようやく全てを把握することが出来た。これなら、俺がキララやリリアと一緒に居続けたとしても大した問題にはならない。だって、ようは異世界に行くためにはミリアさんの力か親父の発明品が必要だ。そして、ミリアさんは俺にここに居て欲しいと望んでいて、親父の発明品はもう無い。
だけど――――

「俺は、既に選択しないを選択してしまいました。そんな俺が・・・キララや、リリアの側に戻れると思いますか?」
「思いますよ・・・けど、この場合はあなたの考えなのでしょうね、レイさん。」

俺がここから去ることを決めた最大の理由は・・・俺の弱さからだ。
今まですらも、俺は何度も何度も2人を泣かせてしまったのだ。これからも、俺は2人を悲しませ続ける。そんなことを考えて、いや、きっとそうなると確信できる自分がいる。じゃあ、俺がここにいるのは何故だ?2人が望むから?違う・・・俺が離れたくないだけだ。居心地が良すぎるこの世界から離れたくないだけだ。
そんな理由で、2人の側にはいていいわけがない。
そんな理由で、2人を悲しませない答えが出せるわけがない。
離れたくないという思いよりも、悲しませたくないという思いが俺を支配した瞬間、俺はこのことを決意していた。

「・・・俺には、2人に会わせる顔がありません。」
「こうなると分かっていたら、もっと早く真実を伝えたんですけどね・・・あなたが、帰ってしまうかもしれないという考えが、私にそれをさせてくれませんでした。」
「お互い、やっぱり完璧とはいきませんね。」
「そうですね。」

顔を見合わせて、苦笑いを浮かべる俺とミリアさん。
やがて、ミリアさんは諦めたように手を翳した。

「レイさん。これから、あなたを元の世界に帰します。」
「・・・はい。」
「もう会うこともないでしょう・・・レイさん、あなたの魂の輝きを私は忘れません。」
「俺も忘れませんよ。この世界の全てを――――・・・」

目を閉じた瞬間、俺は自分の意識が光に溶けていくのを感じた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-HcQtU] 2006/09/23(土) 19:55:35

ふぇすてぃう゛ぉー54!

目を開けた俺の前には、俺の部屋――――本来の俺の部屋の屋根があった。

「っ・・・ん〜・・・」

伸びをしてからベッドから起きあがり、箪笥から着替えを引っ張り出す。そのまま流れるような手つきで服を着て、階段を下りていく。

「おはよう、親父。母さん。」
「零!聞いてくれ、実は昨晩のことなんだが――――」
「聞いてよ零。昨日の夜の患者さんったらひどいのよ!」
「頼むから朝飯を作らせてくれ・・・」

未だに怪しげな機械を携えて俺に迫り来る父親。
白衣の天使という言葉をぶち壊すような発言をする母親。
・・・俺、この世界に戻ってきて良かったのか?

元の世界に戻ってきてから一週間が経った。
まず予想通りだったことは親父達の第一声。

『何だ?思ったより早く帰ってきたな。』
『やっぱり世間の荒波は厳しかったのね。』
『というか、もうちょい根性出せよ。最近は中学生の家出だってお前より長いぞ。』
『とりあえず、お帰り。』

神様・・・いや、ミリアさんか?俺はこの両親を殴っても良いですか?
と考えたのもつかの間。今度は予想外の驚くべき発言が耳に入った。

『まあ、一ヶ月の間に何か色々とあったみてえだな。今日はゆっくり休め。』
『話したいことがあったら話してくれて構わないわよ。話さなくてもいいけどね。』

一ヶ月。
どうやら時間の流れの違いからか、向こうでの四ヶ月はこっちの一ヶ月のようで俺は面食らった物だった。
まあ、それにもすぐに慣れた。

「それで、親父。今日は何を作ってるんだよ?」
「む?これはな、物を圧縮して入れることが出来る箱だ。最大、50キロまで物を詰められるように出来ている。」
「・・・どこの未来ロボットのポケットだ、それは・・・」
「もちろん、半円型だ。」
「箱なのに!?」
「まあ、さすがあなた。尊敬しちゃうわ。」
「尊敬すんの!?」
「50キロなんて、女性の体重より重い物まで運べるのね。」
「しかも尊敬するとこ間違ってるし!」

う〜ん・・・相変わらずの両親だ。
こんな親父が、世界では名の知れた天才的発明家で・・・
こんな母さんが、日本では神の手とまで言われる天才医者で・・・
この世界は間違ってるなと思うのは、決して冗談じゃない。

「はあ・・・俺、どうして戻ってきたんだろ・・・」
「何だ?また、家出の考えか?」
「今度出て行く時は、ちゃんと書き置きぐらい残していってね。」
「行かないよ・・・行けないしな。」

俺は焼き上がった鮭を皿にのせて、親父達に配る。
本来なら―――いや、あの世界では―――キララと一緒にやっていた行動。
お茶を入れて、母さん達の目の前に置く。
本来なら―――いや、あの世界では―――リリアがしてくれた行動。

この世界に戻ってきてもなお、俺の心を掴んで話さない2人。
2人への想いは、日を重ねるごとに消えるどころか強くなっていった。


部屋に戻り、何となくベッドに寝ころんでから天井を見上げる。

「・・・元気、してるかな・・・」

心配する権利など無いというのに、毎日毎日、俺はそう呟かずにはいられなかった。

キララはヴェロンティエで相変わらず忙しいんだろうか?
リリアはお城でまた笑えるようになったんだろうか?
マリスは変な男達に付きまとわれて苦しんでないだろうか?
フォルトさんは折角丸くなりかけた4人の関係が崩れたことに怒ってるだろうか?
陛下はリリアのために何をしてるんだろうか?
王妃様はリリアとのお茶会を依然として続けているんだろうか?
四聖騎士は今日も町の警備のために歩き回っているんだろうか?

考えれば考えるほど、俺は自己嫌悪に陥る。
俺が自ら手放した物だろう?どうしてそこまで不安になるんだ?偽善は止めてしまえ。結局の所、俺はあの居心地が良い場所が好きなんだ。
強い体を持っていて。
俺を好きな可愛い女の子がいて。
気の合う友達がいて。
そんな夢みたいな世界の甘さに引きずられているだけなんだ。
俺にあそこに戻る資格なんてない。

「・・・キララ達を悲しませるだけじゃないか・・・」

そう呟いて、寝返りを打った瞬間。



‘―――――バオン!’

爆発が起こった。

「・・・親父・・・一体、何をしたんだ?」

普通なら驚くことだが、こんなことは俺の家では日常茶飯事だ。今さら驚くことなど何もない。以前など、目の前でフライパンが完膚無きまでに燃え上がったことがある。
俺はため息を1つついて、階段をすたすたと下りていった。もちろん、手には掃除機が握られている。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-KZNoN] 2006/09/24(日) 17:56:49

ふぇすてぃう゛ぉー55!

「・・・何だ、これ?」
「おお、零か!ちょうど良い所に来たな!これを見てくれ!」

黒煙の向こうから現れた親父は、どういうわけか無傷で炭1つ付いていなかった。

「ついに完成したぞ!これを作るのに、何と2週間もかかってしまった。」
「それはいいから・・・どいてくれ、とりあえず掃除機を掛けるから。」
「そんなものは後でいい!零、準備をしてくるんだ。」
「・・・はぁ?」
「はぁ?じゃないだろう!‘旅立ち’の準備だ。今朝、お前に見せた収納箱がそこに6つ置いてある。それに自分が必要だと思うものを入れて来い。母さんが今、お前のためにいくつかの薬とかを用意してくれてるから、その辺は心配するな。」
「ちょっと待てって・・・俺に何をさせる気だ!?」
    
もう何が何だかさっぱりだ。
親父は俺ににやりと笑いかけ、部屋のど真ん中に置かれている機械を指さした。

「あれは‘時空間転送装置’だ。ようやく最後の調整が終わったんだよ。」

――――時空間転送装置?
それは、俺があの世界に行った手段だってこと・・・つまり、これを使えばキララや、リリアに会え――――っ!?

「ちょっと待て!俺にこれを使わせる気か!?」
「おう。当たり前だろ?」
「何が当たり前だっ!そもそも、俺はこんなもんを必要としてねえ!息子を実験台に使う気か!?」
「心配すんな。これは既に自分で実験成功済みだ。使用者が望んだ場所へと一瞬で連れて行ってくれるという優れものだ!ちなみに、父さんは母さんとの思い出の場所に行ったぞ!」
「そんなの知るかっ!俺に何処に行けって言うんだよ!?」
「‘お前が行きたい場所’だ。」
「っ――――!」

一瞬、俺は言葉に詰まってしまった。
その隙をついて、親父がたたみかけるように言葉を続ける。

「お前な・・・帰ってきてからおかしいんだよ。ず〜っと何か考え込んでるし、時々妙に遠い場所を見つめてるし、料理の味は落ちてるし、掃除の仕方は雑になってるし。」
「いや、最後の2つは何だ・・・?」
「お前、何処に行ってたのか知らんけど・・・何か、大切なもんを置き忘れてきてんじゃねえか?だとしたら、お前はこの家に帰ってくるのは早すぎるんだよ。これを使って、さっさとそこに行ってこい。そんで、取り戻すまで帰ってくるな。」
「っ――――勝手なこと言うなっ!」
「勝手?息子がぐちぐち悩んでる時に親が手助けする。これのどこが勝手なんだ?」
「全部だろ!」
「やれやれ。お前、何か知らないけど随分と頭が固くなって戻ってきたなぁ・・・」
「親父は何も知らないから、そんなこと言えるんだよ!けどな!俺はあそこに戻るわけにはいかねえんだ!」
「なんでだよ?お前が戻りたいって思ってるのは明らかだぞ?」

この親父にまでばれるほど、俺はあそこに戻りたがってるっていうのか!?
冗談じゃない!それじゃあ、俺はキララとリリアを悲しませたいって思ってるのと同じじゃねえかよ!

「それでも、俺は戻っちゃいけねえんだよ!あそこに居続けたら、俺はっ・・・!とにかく、だめなもんはダメ!あそこに帰るってのは却下だ!」
「お前のその意気地無しの考えこそ却下だ。」
「何だと!?」
「お前、今自分で言ったじゃねえかよ。あそこに‘帰る’って。」
「っ――――!」
「お前の家は確かにここだ。けどな・・・お前が生きる場所は何処だ?雨谷 零が生きたいという場所は何処だ?それはここじゃねえんだろ?」

俺が、生きたい場所・・・けど、あそこにいたら・・・俺はっ・・・

「あそこじゃ、俺は・・・あいつらを、悲しませるんだよっ・・・それしか、出来ないんだよ・・・それなのに、帰れるわけないだろ・・・」
「か〜〜〜〜〜〜〜〜〜!お前ってやつは、それでも俺様の息子か!?な〜にが『それしか出来ないんだ・・・』だ!俺様はなあ!自分の息子にそんなことしか出来ないようなチンケな才能を持たせてやった覚えはねえっ!お前の名前‘零’っていうのは、何もない状況から色んな事を創り出すために与えてやった名前だ!零なんだぞ!?その先に何を創ることだって出来るんだよ!それを制限してんのはお前だ!望めば、お前は何だって手に入れられるんだ!だったら、もう少し強欲になれ!悲しませる!?だったら、その倍は笑わせてやれ!」
「出来るかよ!俺があいつらの側にいたのは、居心地がいいってだけだったんだぞ!?あいつらの想いに答えるのを無視して、俺の欲だけであそこにいようとしてたんだぞ!?そんなやつが、居ていいわけねえだろ!?」

そうだ・・・俺は、あいつらの気持ちより、自分が離れたくないって気持ちだけであそこに居続けて――――

「じゃあ、どうしてお前はここにいるんだ!」
「・・・は?」
「居心地がいいって自分のことだけ考えてたやつが、どうしてこんな親の元に戻ってきたんだ!?」

どうしてって、それは――――・・・それは・・・?

「‘そいつらのため’じゃねえのかよ!?」
「あ――――」
「自分のことだけ考えてる?ふざけんな!俺はお前をそんな男に育てた覚えはねえ!そいつらのことを想ったからこそ、お前は自分でそこから離れたんだろうが!勘違いして自分を蔑むんじゃねえ。自分を誇れ、自分を信じろ。そうすりゃ、笑顔だろうが幸福だろうが、お前に創造できないものなんてない!」

――――俺は、リリアのことを想ってる?

もちろんだ。

――――俺は、キララのことを想ってる?

当たり前だ。

――――俺は、マリスやフォルトさん、ミリアさんのことを想ってる?

当然だ。

――――俺は、みんなのことを想ってる?



‘何を今さら?’

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2006/09/25(月) 21:52:18

ふぇすてぃう゛ぉー56!

「・・・親父・・・答えが出るって、信じ続けたら・・・答えって出せるかな?」
「馬鹿言ってんじゃねえ。自分を信じるヤツこそ、答えを出していいんだよ。」

自分を信じる――――
俺は信じるべきだったのか?‘答えを出せる自分’を。‘みんなを笑わせてやる自分’を。
俺は―――――

「親父!」
「何だ?」
「準備しといてくれ!すぐに俺の方でも用意終わらせるから!」
「そうこなくっちゃな。」
「後、次に帰ってくるのはいつになるか分からないから、学校に退学届を出しといてくれ!」
「もう出してある。」
「早っ!?けど、ナイスだ!」

俺は親父の発明品を束ねて、さっさと自分の部屋に戻る。
前回とは違って、今回は自分から行くのだからしっかりと準備も出来る。薬関係は母さんがしてくれるようだから、俺は親父譲りの工学系統のものを片っ端から親父の作った箱に詰め込んだ。
それらは全て、キララ達に笑ってもらうため。

「零、    入るわよ?」
「母さん?」

部屋のドアを開けて顔を出した母さんは、俺の方にひょいと鞄を投げ渡した。

「傷薬から手術道具まで入れておいたから。後、母さんが作った新薬もいくつか説明書付きで。」
「微妙に危ないもんも入ってるけど助かった!」
「それと、その鞄なんだけど。」
「これ?」
「お父さんが、零が無事に帰ってきたからプレゼントだって。」
「・・・親父が?」
「一応、それなりに心配はしてたのよ。これでも親なんだからね。だから、今回はちゃんと挨拶ぐらいやっていきなさい。」
「母さん・・・ありがとう。」
「ほらほら、出かける時の挨拶はそうじゃないでしょ?」
「はは・・・行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃい。」

俺は母さんの横を通り抜け、そのまますぐに親父の研究室に駆け込む。
親父が用意していた変な機械の中に飛び込んで、振り返ると――――親父と母さんが晴れ晴れとした笑顔で立っていた。

「今度帰ってくる時は、もうちょっとましな顔で戻ってこい。」
「分かってるって。」
「お世話になってる皆さんによろしくね。」
「分かった。」
「零・・・行ってこい。」
「行ってきますっ!」

瞬間、俺の体を光が包んで一気に溶かしていった。



‘――――・・・ドスンッ!’

「ぐえっ!」

勢いよく地面に投げ出されて、俺は痛む腰をさすりながらゆっくりと起きあがる。
目の前にあったのは、最後にこの世界で見た景色だった。もちろん、昼と夜の違いこそあるけれど、俺が元の世界に送り返された場所。

そして、送り返した本人――――

「・・・レイ、さん?」
「どうも・・・戻って来ちゃいました・・・」
「また、レーベンが急に変化したので、まさかとは思ったのですけど・・・」

ミリアさんは呆然とした顔で俺を見つめていた。

「えっと、色々と向こうで親父達に説教をかまされまして・・・後、俺がやりたいこととか全部ひっくるめて、片づけにきました。」
「・・・いい顔に、なりましたね。」
「そうかもしれませんね。」

立ち上がって土を払い、荷物を担ぎ直す。

「ミリアさん。キララとリリア、それにマリス達はどうしてます?」
「皆さん無事ですよ。元気とは、いえませんけどね・・・」
「ですよね・・・よし。」

俺はすたすたと町の方向へと足を運び出した。

「ミリアさん。俺は今から勝負しに行きます。」
「勝負、ですか?」
「はい。キララと、リリアと勝負です。」
「その内容は?」

ミリアさんは何もかも分かっている笑顔で、俺に質問を投げかける。だから俺も笑顔で言い切った。

「二股かけさせてもらおうかと思いましてね。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-HcQtU] 2006/09/26(火) 20:47:43

ふぇすてぃう゛ぉー57!

仕事の片づけと明日の準備が終わった後、あたしは自分の部屋に帰る。と言っても、厳密にはあたしの部屋ではない。今はもう主が居なくなった部屋を、あたしが使っているというだけだ。
前の持ち主の残していった空気を、少しでも味わっていたいから・・・あたしは、そう考えて以来ずっとこの部屋で寝起きをしている。

「はぁ・・・疲れた・・・」

そう呟いて、寝台に倒れ込みながらあたしは今日の仕事を振り返る。
お客さんは相変わらず多くて忙しいし、マリスもフォルトも手伝ってくれる。ちゃんと、笑って仕事が出来ているとも思う。けど――――・・・

そこにレイはいない。

分かってはいても、あれからもう一ヶ月経っているのだとしても、あたしの心でレイが占めていた部分は余りに大きすぎた。あたしだけじゃない。きっとマリスもフォルトも同じだろうと思う・・・おそらくは、姫様も。
表面上で笑うことは出来るようになった。
けれど、あたし達にレイが残した傷はあまりに強すぎて――――

いつだったか、マリスはレイのくれたぬいぐるみを手にとってこっそりと泣いていた。
その前は、フォルトがレイに誉められた髪飾りを持ったまま静かに泣いていた。
そしてあたしは、レイがくれた首飾りを見つめて――――

「っ・・・レイ・・・レイッ・・・いや・・・いやだよっ・・・」

一週間に一度だけ、泣くことを自分に許している。
それは、レイが望んでいたこととは違うから・・・してはいけないと分かっていても、やはり止められない。

「レイ・・・帰って、来てよ・・・レイ・・・」

溢れてくる涙も、想いも、止めることなんて出来なかった。

「・・・レイの、馬鹿っ・・・」



「いきなり、馬鹿呼ばわりか。」



「馬鹿よ・・・馬――――え?」
「まあ、確かに馬鹿なことしたかな〜とは思うけどさ・・・そこまで繰り返す?」

心臓が止まるかと思った。
寝台から起きあがって、いつの間にか開いて、そして閉じようとしている扉の方を見る。
けど、見えなかった。

扉の前にレイ・キルトハーツがいた。

「あ〜・・・よく考えたら、これって不法侵入か?俺ってここを出て行った身だし。」
「・・・レ、イ・・・?」
「だとすると、まずは客として出直した方がいいのか?うん、そうしようか。それじゃ、また明日の開店の時にでも出直すよ。」
「レイ・キルトハーツ・・・?」
「何か混乱してるみたいだし、まあ明日の落ち着いた時にでも―――――」

明日――――?明日まで待てってこと?
折角、レイがここにいるのに明日まで待てだなんて・・・!

「レイ!?」
「ぅおっ?何だよ、大声出して・・・」
「な、な、な、なんで、どうしてっ!?あんた、出て行ったんじゃ無かったの!?」
「その方が良かったか?だったら、大人しく――――」
「そんなわけないでしょうがあっ!」

あたしは思い切り、全力でレイに飛びついた。
‘ボフン・・・’
通り抜けることなく、レイの体がアタシを抱き止めてくれる。

「レイ!レイ!レイ!夢じゃない!?本物よね!?本当にレイよね!?」
「えっと・・・キララが一ヶ月ほど前に告白して、その2日後に出て行ったレイ・キルトハーツは俺だ。」
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!レイッ!」

言いたいことは山のようにあった。
馬鹿とか、何処にも行かないでとか、どうして戻ってきてくれたのとか、色々あったけど、あたしは何よりも言いたいことを言うことにした。

「レイ・・・‘お帰り’・・・」
「ん。‘ただいま’・・・キララ。」

レイがそっとあたしを抱きしめる。
あたしも、もっと力を込めて抱き返す。
そこで、ようやくレイが戻ってきてくれたことを確信できた。

「レイ・・・あたし、頑張って笑ったよ・・・」
「うん。」
「頑張って、頑張って・・・けど、けどっ・・・レイがっ、レイがいなくてっ・・・」
「うん。」
「お、お願いっ・・・もう、もうっ・・・いなく、ならないでっ・・・あたしの、笑顔、レイに、見て欲しいからっ・・・」
「うん。俺も、キララの笑顔がずっと見たかった。」
「レイ・・・レイッ・・・ごめん・・・今だけ、思いっきり、泣いていい・・・?」
「ああ。後でキララが笑ってくれるなら。」

その言葉を最後に、あたしは泣いた。けど、それは悲しみの涙じゃない。この1ヶ月流し続けてきた涙なんかじゃない。



レイが側にいてくれるのなら、どれだけ泣いても後で笑えないわけがないんだから。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-VcGRk] 2006/09/27(水) 20:02:25

ふぇすてぃう゛ぉー58!
「馬鹿じゃないの!?」
「馬鹿ね。」
「馬鹿ものめっ!」
「すいません。」

今、レイはあたし達の前に座っていた。もちろん土下座。
レイが帰ってきたという知らせは、すぐにマリスとフォルトにも知らせた。もちろん、2人もすぐにレイに飛びついて泣いていたけどそれは気にならなかった。
けど、レイがここを出て行った本当の理由を話してくれた瞬間、あたし達は自分の思った言葉を思い切りレイにぶつけてやったわけだ。

というか、何なのその理由!
あたし達を悲しませるしか出来ない!?
自分はここが居心地がいいから居たいだけ!?
そんな馬鹿みたいな理由でレイはここを出て行ったっていうの!?

「あのねえっ!レイが居心地が良いって言うんなら、それはあたしにとっても幸せなことなのよ!どうして、それを分かってくれなかったの!?」
「いや、その・・・」
「それに私達を悲しませることしか出来ないなんて・・・レイ、あなたが私をあの騎士から助けてくれたんじゃない。あれは、私にとってどれだけ嬉しかったか分からないの?」
「う・・・け、けど・・・」
「そ!も!そ!も!キララと姫様にだけであたしとマリスには一言も無いなんてあんまりでしょう!?あたし達だってレイ君のこと大好きなんだからね!」
「はい。ついさっき気付きました・・・でも――――」
「「「でも、何!?」」」
「ごめんなさい。」

はぁ・・・レイはどうしてあたし達に相談してくれなかったんだろう・・・そしたら、きっとこんなことにはならなかったはずなのに。
この一ヶ月、悲しみに沈む必要なんて無かったのに。

「えっと、お怒りのところ申し訳ないんですけど・・・」
「まだ何かあるわけ?」
「・・・その、キララ・・・俺、また・・・ここに置いてもらっていいか?」

その馬鹿げた質問に、あたしは行動で返してやる。
迷うことなく、座っているレイを再度抱きしめた。

「さっき言ったでしょ・・・お帰りって。」
「・・・だったな。ありがとう。」
「と言うか、キララ・・・久しぶりにレイに会って嬉しいのは分かるけど、ちょっと引っ付きすぎじゃない?」
「そうね。レイ君も逃げないし・・・こうなりゃこうだ!」

あたしの背後からフォルトがレイに抱きついた。

「うおっ!?」
「それなら私も。」
「きゃあっ!?」

さらに、マリスまであたしの隣からレイをぎゅっと抱きしめる。

「いや、待て!ちょっと待て!さすがにやばい!何がって、理性が!」
「罰として耐えなさいよ!」
「そうそう。美女3人に抱かれてるんだからもうちょっと幸せな顔して。」
「何なら、その理性捨ててもいいのよ?」
「そういうことを言うなあああ!」
「あらあらあら、みなさん仲良しさんですね。」
「「「「いつからそこに!?」」」」

見れば、固まりになっているあたし達の背後にお母さんがいつも通りの笑顔で立っていた。

「レイさん、許可は貰えたみたいですね。」
「お、お陰様で。」
「けどレイさん・・・さすがに3股は感心しませんよ?」
「いえ、具体的にはこれから4股しに行く予定です・・・」
「は?」
「え?」
「4?」

ちょっと待ちなさい・・・4って何?4人目って誰!?あたし達以外に誰がレイのことをこれだけ想って――――あ。

「・・・姫様?」
「ああ・・・そのことで、3人に頼みがある。」
「何よ?」
「えっとだな・・・まあ、マリス達は予想外だったけど・・・俺は、正直な所自分の想いにまだまだ答えが出せない。キララも、リリアも、マリスもフォルトさんもみんな・・・その、好きだから・・・だから、今の俺には、答えは出せない。」
「だから、4股ってこと?」
「それってかなり最低の発言だって、レイ君分かってる?」

確かに、好きだと言ってくれる女の子に対して、他にも同じくらい好きな子がいて、君も好きだと言うのは・・・普通は許されない発言だ。
浮気を肯定してくれと言ってるのと同じようなものだし。けど―――――

「分かってる。けど、俺は選べない。選ばないじゃなくて選べない。だから、俺に選ぶ時間をくれ。みんなと一緒にいさせてくれ。俺に・・・答えを出させてくれ。」

けど、レイは決してそんな浮ついた気持ちでこんなことは言わない。
どこまでも真面目に、自分がどれだけ大変な道を選んでいるかも分かってこのことを言っているから・・・あたし達は、苦笑してしまった。

「ま・・・これがレイ君ってことだよね。」
「そうね。だから、私はレイが好きなんだから・・・」
「癪ではあるけど・・・良いわよ。負ける気なんて無いんだから。」
「ありがと。」
「それじゃ、行くんでしょ?」

レイは笑って、上からどいたあたし達に微笑んでから再び店を出て行った。
もっとも、今度はちゃんと帰ってくるのが分かり切っているけど。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ARDcB] 2006/09/28(木) 20:00:53

ふぇすてぃう゛ぉー59!

公務を終えてから、寝台に横になって目を閉じます。
以前のようにお茶の準備をすることを止めて、もう一ヶ月も過ぎたのでさすがに慣れてしまいましたね・・・慣れないと、思っていたのに。
私の生活からファントム様――――いえ、レイ様が消えてからもう一ヶ月。私はあの事件の対応に追われて必死に働いていました。今まではそれほど目を向けなかった公務も、お父様達に教えてもらいながら何とかこなせるようになりました。もしも、一ヶ月前に私がこれだけのことを出来ていたなら、レイ様は去っていかなかったかもしれない。そう考えるだけで、私は耐え難い後悔に襲われてしまいます。

‘カチャッ・・・’

窓が開く音――――・・・いえ、分かっています。これは時折私が見てしまう夢。レイ様が居なくなることなく、私の前に戻ってきて下さるという夢。
夢の中で、レイ様は私に触れることも声を掛けることもして下さいません。ただ、あの日の姿、最後に私が見た姿で立っているだけの夢。私はその姿に声をかけるだけ―――
それはとても甘く、残酷な夢・・・
私はいつものように寝台から起きあがり、レイ様と向かい合うように立ってまっすぐにその幻を見つめます。

「・・・レイ様・・・今日も様々なことがありました・・・私は、あなたがいなくなってから、笑えるようになりました・・・けど、やはり心までは笑えません。」

レイ様は悲しそうな顔で、私の側まで歩み寄ってきて下さいます。これは、いつもとは違う夢ですね・・・現実に近づくほど残酷さまで増していくというのに・・・

「・・・会いたいです・・・このような幻ではなく、本当のあなたは、今どこにおられるのですか・・・?・・・私は、あなたでなければ・・・心から笑えません・・・」

つっ・・・と、涙が私の頬をつたって流れ落ちます。それをぬぐうこともせず、私はただひたすらに目の前のレイ様の幻を眺めていました。
レイ様の幻が、そっと私に右手を差し出して涙に触れて―――――

―――――触れて?

「・・・っ?」
「言っておくけど、夢でも幻でもないぞ?」
「え?」

それは・・・その声は――――レイ様の声?

「何と言うか・・・俺ってつくづく女泣かせだな。特にリリアなんて何回目だろ?」
「レ・・イ、様っ・・・?」
「忘れられてなかったみたいで何よりだ。」
「あ・・・あ、レイ、様・・・っ?」
「現実と夢の区別が付かない?・・・なら、これなら?」

二本の腕がそっと私の背中に回され、私は為す術もなくレイ様の胸の中に収まりました。
久しぶりのレイ様の腕の中は、柔らかくて、何よりも暖かくて――――・・・

「ちゃんと体もあるだろ?」
「あ・・・ああっ・・・ああっ!!」

ようやく、理解できました。
目の前におられるのは、他の誰でもないレイ様だということを。

「レ、レイ様っ!レイ様ぁっ!」
「ん。悪いな・・・泣かせちゃって。」
「ま、また会えるなんてっ!また戻って来て頂けるなんてっ!ゆ、夢ではありませんよね!?今度こそ!今度こそ本当に私の前におられるのはレイ様なのですよね!?」
「祭典3日目にリリアに告白されて、その3日後にリリアにさよならを言ったくせにおめおめと戻ってきたのは、俺だな。」
「っ〜〜〜〜!! あ、会いたかった!本当に!本当に会いたかったです!この一ヶ月、あなたを思い出さない日はありませんでした!あなたのことを思って泣かない日はありませんでした!あなたをっ・・・あなたを、想わない日などっ・・・!」
「俺も、ずっとリリアのこと考えてた。ずっと、笑ってるかなって心配してた。」
「笑えません!あなたがいなければ笑えません!お願いです!もう、もう――――」
「大丈夫。」

レイ様は私を抱く腕の力を抜いて、私の目を正面から見つめられました。

「もう、リリアに答えを出さないで逃げたりなんかしない。消えたりなんかしない。そして、この先何があってもリリアの側に居続けるよ。」
「っ・・うっ・・・うわあああああああああああああああああああんっ!!」
「だから・・・ただいま、リリア。」

私は、一ヶ月ぶりにリリアになりました。一ヶ月ぶりに心からの叫びを出しました。
私が泣きやむのをじっと待って下さったファントム様に、『おかえりなさい』と告げたのはそれからしばらくしてです。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/09/29(金) 22:02:00

ふぇすてぃう゛ぉー60!

「レイ様ぁ・・・」
「お〜い・・・頼むから、もう少し離れて〜・・・」
「嫌です。一ヶ月分の責任は取って頂かないと。」
「ってか、この状態で行くのか・・・」

私とレイ様は現在お城の通路を2人きりで歩いています。もちろん、腕はしっかり組ませて頂いています。衛兵の方達には悪いですけど、人払いをしてもらったのでお父様達の部屋までは誰もいません。正確にはお父様の部屋にはおそらくリュカー様がおられるはずですが、リュカー様はレイ様のことをご存じなので気にも留めません。
そう。これからレイ様の帰還をお父様達に報告しに行く所なのです。

「はぁ・・・扉を開けてからの陛下達の反応が手に取るように分かるのがすっげえ怖い。」
「私は全く構いません。」
「・・・これから、4股の報告に行くのに?」
「全く構いません。だって、逃げないと約束して下さいましたから。」
「・・・ありがとうな・・・けど、やっぱり少しは離れて。」
「泣きますよ?」
「う・・・」
「レイ様が私から離れた瞬間にまた泣いちゃいますよ?」
「ぐ・・・リリア、何か性格変わった?」
「公務を頑張った影響で、交渉事は一通り覚えました。」
「すごいね・・・けど、活用する場所間違ってるって。」

そんな話をしている内に、お父様の部屋の前にたどり着きました。
私は、一息ついてから扉を叩きます。

「お父様、お母様。夜分遅く申し訳ありませんがよろしいでしょうか?」
「リリアか?」
「入って良いわよ。」
「失礼致します。さあ、レイ様。」
「本気で腕は組んだままなんだ・・・いいけどね。」

‘ガチャリ・・・’

「どうしたの、こんな遅く―――――え?」
「何か公務で分からねえことでも――――あ?」
「姫様、どうなされ――――ん?」
「・・・どうも。お久しぶりです・・・」

一瞬、お父様もお母様もリュカー様も硬直しました。
私の笑顔を見て
レイ様の少し困っている顔を見て
私達がしっかり組んでいる腕を見て
ようやく動いたのはお父様でした。

「・・・ファントム・・・いや、レイか・・・?」
「はい。」
「レイ君なの?」
「はい。」
「四聖騎士を倒し、姫様の愛を受け、一ヶ月前に私達を助けて姿を消したレイ君か?」
「すっげえ具体的ですが、はい。」
「「「ええええええええええええええええええええ!?」」」

人払いをしていなければ間違いなく衛兵の方達が飛び込んできたような悲鳴を上げ、お父様達は呆然とレイ様を見つめます。

「い、一体いつ!?」
「ちょうど今日この国に戻ってきました。」
「いや、そうじゃなくって・・・ああ、そんなこたあどうでもいい!」

ずんずんとレイ様の元へと歩いてきたお父様は、有無を言わさずに私ごとレイ様に抱きつきました。

「よく!よく戻ってきてくれた!」
「お、お父様っ・・・苦しいですっ・・・」
「いや、本当に死にますから!」
「おお!悪い悪い!けど、もう逃がさねえぞ、レイ!帰ってきたってことは、ここにいるってことだな!?違うとは言わせねえぞ!?」
「はあ、まあ皆さんが来るなと言わなければ・・・そのつもりで。」
「言うわけ無いでしょう。あなたが帰ってくることは、私達の望みでもあったのだから。」
「全くです。レイ君、良く帰ってきてくれました。」
「ただいま・・・何か、違う気がしますけど。」
「いや、何も違うことなんてねえ!」

お父様がレイ様の肩をばんばんと叩いて、満面の笑顔で言葉を続けます。

「何せ!今日からここがお前の家なんだからな!」
「言うと思った!」
「お前は今日からレイ・キルヴァリーだ!決定!」
「やっぱり!?」
「早速、明日にでも町中に知らせを出すぞ!」
「予想は付くけど、どんな?」
「もちろん、リリアの婚約に決まってるじゃねえか!」
「誰がするかあああああああああああっ!!」

結局、お父様の暴走が収まったのはそれから数十分ほど経ってからでした。

「と、いうわけで。俺はこれから4股をかけながら答えを探します。」
「中々、人として凄い発言をしてくれるじゃない。」
「リリアはそれでいのか?」
「私はレイ様がここに居て下さるのならば。もちろん、私を選んでもらうつもりですけれど。」
「なら、俺達から言うことはねえな。けど、やっぱりお城で暮らすのはだめか?」
「それは、残念ながら。リリアが待っててくれたみたいに、ヴェロンティエにも待っててくれる人がいるんです。」
「そうか。君らしいな。」

苦笑しながら、それでも迷いのない澄んだ瞳のレイ様の横顔は、私の胸を高鳴らせるのには十分でした。だから私は再びレイ様に自分の体を寄せます。

「ん?」
「レイ様・・・愛しています。」
「ありがとう。」

そう仰って下さるレイ様の顔は、やはりとても美しいものでした。
横でお父様達が笑っておられましたが、私の心はレイ様が捕らえていました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-jygzW] 2006/09/30(土) 20:26:35

ふぇすてぃう゛ぉー はっぴーえんど?

「よくぞ戻ってきたな!レイ・キルトハーツ!!」
「そしてさらばだ!」
「今日こそ我らが女神を貴様の魔の手から救わせてもらうぞ!」

例の如く親衛隊の連中が俺の行く手を阻むが・・・残念ながらそんなもので今日の俺を止めることなど出来はしない。

「そうだな・・・この機会にはっきりと言わせてもらおう。」
「何?」
「悪いがキララも、マリスも、フォルトさんも、当分の間はお前らに渡す気はない。」
「なっ・・・きっ、貴様あああああああ!」
「3股か!?3股なのかっ!?」
「許せん!貴様のその頭を容赦なくたたき割ってくれるわああっ!」
「やれるもんならな。」

迫り来る親衛隊に向かって、俺は容赦なく足を突き出した。

「それで、親衛隊に宣言してきたわけ?」
「ん。3人とも俺のもんだと言ってきた。」
「普通なら怒るとこだけど・・・」
「レイ君のものならむしろ歓迎?」
「どうもどうも。」

店の準備をしながら、俺はすっかり慣れている調理場を整理する。
ここから始まって、そして未だに続いていく俺の生き方。
それは俺が選んだ道で、決して後悔しないように必死に生き抜いていくことを決意した道。

「さてと・・・始めるとするか。」
「了解!」
「看板上げてくるわね。」
「お願いね。」
「・・・なあ、キララ。」
「ん〜?」
「俺、キララのこと大好きだから。」

‘ドンガラガッシャアアアアン!’
わお・・・予想以上のリアクション。

「んなっ、んなあっ!?何っ、何を急にぃっ!?」
「今の、俺の精一杯の答えってだけだ。」
「・・・あ、そういうこと。」

再び調理器具に手を伸ばす俺の背後から、今度はキララの声が響く。

「あたしは、レイのことを誰よりも愛してる。」
「ありがとう。」

さて、これから何があるか分からないけど―――――
とりあえず、必死に頑張って生きてみよう。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-QbFYt] 2006/10/01(日) 13:14:57

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