発明・ざ・わーるど! ぺあれんつ!?

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前作、発明・ざ・わーるど!いん・ふぇすてぃう゛ぉー!から少し間が空きました。
また、目を留めていただいた方、お久しぶりです。
初めて目を留めていただいた方、初めまして、雨やかんです。

この作品は『発明・ざ・わーるど!』『発明・ざ・わーるど!いん・ふぇすてぃう゛ぉー!』の2作の続きとなっています。

まだこの2つを読まれてない方。‘完結置場’へ向かいなさい。

そして読め!

というか、読んで!

すいません、お手数ですが読んでくださいお願いします!

うぬぬぬ。まだ、足りないか?ならば!


『お願いします、ご主人様っ♪』


・・・え?キモイ?
はい、キモイですね。すいません。特にお食事中の方(いるのか?)ごめんなさい。

とりあえず、前作を読まずともお話に理解は追いつくかと思うのですけど、出来れば読んでいただいた方がより一層楽しんでいただけると思います。

それでは、主人公レイ・キルトハーツが創り出す物語をどうぞ!

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-oFpSr] 2006/11/17(金) 21:03:56

ぺあれんと1!

「ここで働かせて下さい!」

さて、断っておくが別に俺は某有名アニメ、名前を奪われた神隠しに遭う女の子がなんだかんだ言いながら状況に適応して、挙げ句には働いていた店のインチキを見破る超能力を習得してしまった映画なんて見ているわけではない。
あの映画では、最初と最後では絶対に女の子の顔が変わってるだろ!?と思わせるぐらい、最初の女の子の顔は――――・・・いや、これ以上は言うまい。とりあえず、今の俺の目の前にいる女の子は最上級の美人だ。

「・・・はい?」
「ここで働きたいんです!」

さてさて?ここまで来たら俺は『だ〜め〜だ〜!』と叫びつつ部屋中に風を起こすべきなのか?残念だが、現在の俺にはそんなことをするための装備は整っていない。そもそも俺はあそこまで顔がでかくないし。泥に埋もれても突き出るほど立派な鼻も持っていない。

「えっと・・・これ、どういう状況?」
「あたしに聞かないでよ・・・」
「まあ、何となく予想はついてるわよね?」
「けど、当たって欲しくないとも思うんだよね・・・」
「「「同感。」」」



さてさて、ここで時計の針をぐるぐる〜〜と戻してみよう。

あの事件から、というか俺がレイ・キルトハーツとして生きる決意をしてから2週間が経った日のこと。ついでだから、簡単に自己紹介をしながら進めていこうと思う。何故か自己紹介をしなければならない気持ちになったんだ。細かいツッコミは聞かない。

俺の名前は‘雨谷 零‘だ。
しかし、その名前は‘この世界’では使っていない。この世界での俺の名前は‘レイ・キルトハーツ’だ。一応、この世界とは別の世界から来た人間である。
どうしてそのような状況に陥ったかというと――――話せば長くなるので短く言えば、親父の発明品の失敗による事故だ。それによって異世界へと飛ばされた俺は、ここ‘ヴェロンティエ’というレストランで料理人として働いている。

「レイ、明日の材料で足りない物ある?」
「そうだな・・・イセピリとキュブテが少し足りないかも。」
「こっちもサモとカチュが残り少ないのよね・・・」
「そっか。それじゃ、後で買いに行かないとな。一緒に行かないか?」
「あ・・・う、うん。」
「・・・何故に食料調達だけで頬を赤らめるか・・・?」
「な!?べ、別に赤くなってなんてないわよ!」
「はいはい。一緒ってのに反応したんだろ?」
「うるさい!悪い!?」
「いや、こちらとしてはキララの可愛い顔が見れて嬉しい。」
「っ〜〜〜〜!」

俺の目の前で頬を真っ赤に染めた美女。この年頃の女の子としては平均的なスタイルと、世界中の男全てに可愛いと言わしめるだろう整った顔の彼女は‘キララ・ランクフォード’。
俺が来るまでは実の母親と2人でヴェロンティエを経営していた、凄腕の料理人。俺と同じく16歳だがしっかり者だ。
後、嬉しいことに俺はこの可愛い子に愛されている。

「それで、2人で行く気なの?」
「マリス?もう机の拭き掃除は終わったのか?」
「ええ。お陰様でね。」
「じゃなくって!キララ!抜け駆けはちょっと卑怯なんじゃない!?」
「ぬ、抜け駆けなんてっ・・・!」
「どう見たって抜け駆けよ。レイと2人きりになんて、そう簡単にはさせないわよ?」
「と言うわけで、あたし達も一緒に行くから!」
「けど、そこまで大量には買わないぞ?フォルトさん、何か買う物あるのか?」
「レイと一緒にいられることに意味があるのよ。」
「そういうことっす!」
「そうですか・・・」

大人しい静かな声で、大人の雰囲気と魅力を漂わせているこれまた美女‘マリス・インベルグ’。キララと同い年にしてはちょっと発達したないすばでぃーの持ち主は、キララの調理学校時代の友人で、このヴェロンティエの料理人+給仕である。

もう1人のにぎやか元気一杯の女の子、これまた美人だが、彼女は‘フォルト・ラインクル’。同じくキララの友人で、ヴェロンティエの給仕。体つきはあえて触れまいが、それがいいという男も――――いや、話がそれた。ってか、どうでもいい。

問題は、この2人もまた俺に友人以上の好意を向けてくれているということ。
幸福の量が定められているとしたら、俺はおそらく後数年で自分の人生の幸運を全て使い切ってしまうだろうと思えるぐらい、俺は幸せな状況にいる。
考えてみよう。誰もが焦がれる美女3人に好きだと言われて喜ばない男がいるか?いたとしたら首を洗って待っていたい。
そんな感じで、もう毎日が幸せに浸っている―――――かというと、そうでもない。その理由は後々明らかになるだろうから置いておいて。

問題は、その買い物から4人で帰ってきた時に起こった。
店の前に立っていた5人の男女に俺達の視線は釘付けになる。
フードをすっぽりと頭から被って動かない5人に、俺は自然と警戒心を強めて3人を背中に回して歩み寄る。
この世界では、ある事情により俺の身体能力は元の世界の5倍。そんちょそこらの不良どころか、正規の軍人にだって負けないぐらいの能力がある。
だからこそ、5人ぐらいならどうとでもなると思っていたのだが――――・・・

「おい。うちの店の前で何を――――」
「!レイ様っ!」
「―――して・・・は?」
「私です。レイ様、すいませんが入れて頂けないでしょうか?」
「・・・えっと、何故ここに?」
「とりあえず、お話しは中で。」

そう言う目の前の女性は、相変わらずの美しい笑顔で俺を見つめていた。
そんで、背後からの微妙に圧力のある視線も、俺を見つめていたのは当然。
甘んじてそれを受けながら、俺は彼女を店に招き入れた。

「それでレイ・・・その子は誰?」
「・・・見れば分かる。」

俺の言葉に、5人は被っていたフードをあっさりと脱ぎ捨てる。そして、そこにいたのは俺にとっての予想通りで、キララ達にとっては予想外の――――

「お忙しい所申し訳ありません。」
「―――・・・はぁ?」
「えぇ?」
「な、っ・・・?」
「こうしてあなた方とお顔を会わせるのは初めてですね。初めまして、リリア・キルヴァリーと申します。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-oFpSr] 2006/11/17(金) 21:06:22

ぺあれんつ2!

キララ達が驚きに固まっている内に、彼女の自己紹介。
リリア・キルヴァリーは、何を隠そうこの国の王女様だ。以前、とある出来事をきっかけに俺は彼女の友達になったわけだ。もっとも、つい最近まで彼女に本名を教えては居なかったが。
そんな彼女とは毎晩毎晩会っている。言っておくが、決して不健全なことはしていない。
リリアもまた、100人に聞けば100人がイエスと答えるぐらいの美人だ。スタイルも標準よりはやや良いらしい。いや、別に確認したわけではないが。もっとも外見の美しさだけでなく、その優しさ故にリリアは国民中から好かれているわけで・・・
問題はそんなリリアもまた、俺に想いを寄せる女の子の1人ということだ。
ちなみに、国王陛下と王妃様もこれに関しては了承。望めば明日にでも俺は王位継承者となる。望んでないけど。

以前、リリアとのデートの時には仮面を被っていたためにキララ達はリリアとこうして会うのは初めてだ。もっとも俺とリリアの繋がりは知っているし、リリアの俺への想いも知っている。
だから、最大の疑問は今日ここにリリアが来た理由なのだが―――――

「キララ・ランクフォードさんですね?」
「は、はいっ!」
「ああ、そんなに固まらないで下さい。」
「リリア。それはちょっと無茶な注文だと思うぞ・・・」
「やはり、そうですよね・・・」

苦笑しているリリアを見ると、出会った頃とは随分と違うなあと思う。良いことだけどね。

「それで、何かあったのか?わざわざアイン達まで連れてくるなんて・・・」
「いや、俺達はただの護衛だ。」
「気にしなくて良いわよ。」

リリアと一緒にいた四人組は四聖騎士といって、この国に置かれている騎士団の中から選ばれた4人だ。主に王族の護衛を務めているんだけど・・・俺は一度、この4人を倒している。リリアとの関係を守るために。アイン、ヴァイツ、イラド、フィーアの4人もまた、俺とリリアの関係を応援する側である。面倒なことに。

「あ、そうなのか・・・それじゃ、今日はリリアの独断?」
「いや、もちろん陛下の許可も得ている。」
「俺に用があるなら今夜も行くつもりだったのに――――」
「否。姫様はこの店に用。」
「ヴェロンティエに?」

普段、唯一の正当位王位継承者である身分から、リリアはお城から出ることはほとんどと言って良いほどない。もっとも、最近は随分とそれに関しても緩和され始めてはいるが。
そんなリリアがヴェロンティエまで自ら足を運ぶとは――――?

「あの、姫様・・・一体、今日はどのようなご用でしょうか?」

ようやくショックから立ち直ったらしいマリスが恐る恐る声をかける。
キララとフォルトさんも、どうにか話を聞ける体勢にまで持って行ったようだ。

「はい。実は今日はお願いがあって参りました。」
「お願い?」

リリアはすっと息を吸い込んで、何故か俺をちらりと見てから、一気にその用件を伝える。

「ここで働かせて下さい!」

以上、回想終了。


「えっと・・・姫様・・・その、つまりは私達の店で仕事をしたいということですか?」
「はい。」
「・・・その、まさかとも思いますけど、それしか心当たりが無いので聞かせてもらって良いですか?」
「どうぞ。お答えできることには全て答えさせて下さい。」
「働きたい理由って・・・‘レイのため’ですか?」

キララがいきなり核心をついた質問をした。いや、確かに俺も聞きたいことではあったが。
けど、いくら何でもリリアがそこまで愚かなことをするだろうか?

「もちろん、それが無いと言えば嘘になります。」

答えは、ノーだ。

「けれど、本当の理由は別のところにあります。少し長くなりますが、お話しさせて頂いてもいいでしょうか?」
「もちろんです。」
「ありがとうございます。最大の理由は、先日の事件です。私はあの時いくつかの失敗をしてしまいました。結果として、私は危うくレイ様を失ってしまうところでした。言いかえれば、キララさん達からレイ様を奪ってしまうところでした。その失敗の原因は私の無知です。」
「無知・・・何も、知らないことがですか・・・?」
「はい。私は、王女としていつかはこの国を背負うことになります。そして、背負いたいとも思っています。けれど・・・私は、その背負う国のことを余りに知らなさすぎるのです。この一ヶ月、公務を続けてきましたが私は結局は紙に書かれた文字でしかこの国を知ることが出来ませんでした。その文字や数字の裏に隠された皆様の思いを知ることは、叶いませんでした。」

確かに、リリアにとって人の思いというのは特別なもののはずだ。
今までに自分が触れる機会が無く、ようやくその素晴らしさを知ったリリアには。

「私は知りたいのです。この国の人々がどのような朝を迎えているのか。どのような昼を過ごしているのか。どのような夜を待っているのか。私自身の目と耳と体で感じたいのです。この国の人々が抱えている思いを、ほんの一部でもいいから感じ取りたいのです。」

リリアの目は真剣に、キララでなく、俺でもなく、この国を見据えていた。
それは、とても真っ直ぐで綺麗な瞳だった。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-hucBY] 2006/11/18(土) 13:10:40

ぺあれんつ3!

「そのためには、私自身が町に出なければならないのですが・・・その、多忙な騎士達を常に私の周りに護衛として置いてもおけず、かといって単独行動は危険すぎて、それにどこで、どのようなことをすれば良いのかもはっきりとは・・・」
「それで、思い当たったのがレイですね?」
「はい。私は、レイ様を他の誰よりも頼りにしています。その、友人としても男性としても、レイ様以上に信頼できる方はいません。」
「それは嬉しいことだな。」

リリアが少しだけ頬を染め
キララが少しだけ頬を膨らませた。

「それで、四聖騎士以上の実力を持つ俺と一緒の場所なら安全だと考えたわけか。それに、ヴェロンティエは人気のある料理店だ。入ってくる客層も様々だから色んな情報も手に入りやすいと言えるしな。」

事実、この世界に来たばかりの頃、俺はそうやってこの世界の情報を集めていた。

「レイ様の仰るとおりです。身勝手な願いだとは承知しています。ですが、どうかここで働かせて頂けないでしょうか?」
「だとさ。キララの判断に俺は従うだけだけど?」
「う〜ん・・・」

キララは眉をしかめて、しばらくリリアを観察していた。
まあ、確かに不安はあるだろうな。この店は人気がありすぎてリリアが倒れたりしないかとか、王族を預かることについての不安とか、店の経営状況の変化とか、色々と考えないといけないことがある。
これに関しては即答できないのも無理は――――

「はっきりさせておきたいことが、もう一つだけあります。」

――――おや?何か、もう結論が出てるっぽい?

「何でしょうか?」
「これは、姫様への質問ではありません。無礼を承知で言わせて頂きますと、これは‘リリア・キルヴァリー’さんへの質問です。」
「はい。」
「単刀直入に聞きます。」

キララは真剣な目で、一度だけ俺の方を見て微妙に頬を染めて――――はい?何故に頬を染めるか?

「・・・レイのこと、本当に本気で好きですか?」

―――――何故にそんな質問に?それに一体何の意味があるんだ・・・?
しかも、何故かマリスもフォルトさんも、それどころかリリアまでやけにその質問に理解の色を示してませんか?
後、本人がここにいるというのを分かってますかあなた達?かなり恥ずかしいですよ?

「キララさん。」
「はい。」
「私は・・・レイ様のことを他の誰よりも愛しています。その想いは、決してキララさんに負けないと思っています。」
「私も、レイのことが誰よりも好きです。それは、相手が王女様であるとしても譲れない想いです。」
「それは、分かっています。私も同じですから。」
「なら、私から言うことはありません。」

ようやくキララの顔に笑顔が戻った。リリア達の顔にも何やら納得したような笑顔が浮かんでいる。
混乱してるのは俺だけですか?話の内容について行けてないのは俺だけですか!?

「ヴェロンティエ料理長、キララ・ランクフォードとして、姫様をこちらで預からせて頂きます。と言っても、毎日ではありませんよね?」
「はい。出来れば2日に1度くらいの割合でなければ・・・公務もありますので。」
「分かりました。それじゃ、詳細についてなんですけど――――・・・」

わあ・・・決まってしまった。
呆然としてる俺の肩をアインがポンと叩く。その後ろには他の四聖騎士が微妙に哀れむような視線を俺に注いでいる。

「・・・どうして、こうなってるんだ・・・」
「考えるな。これからのお前の毎日を思うと、正直なところ俺達でさえも気が滅入ってくるぐらいだ・・・考えない方がいいぞ。」
「ううっ。」
「まあ、何だ・・・姫様のこと頼むな。」
「応援。」
「自業自得だと思って諦めろ。」
「俺が何をしたんだ・・・」
「えっと、姫様を含む4人の美女の心を奪っちゃったわね。」

4人の美女。
キララ・ランクフォード
リリア・キルヴァリー
マリス・インベルグ
フォルト・ラインクル

奪った人間
レイ・キルトハーツ

さてさて・・・俺の幸福ゲージはおそらく赤く点滅中では無かろうか?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-mvduP] 2006/11/19(日) 09:39:05

ぺあれんつ4!

光には粒子性というものが存在し、それを利用した研究は多々進められている。
俺はそれにもう一つ親説を加えてみたい。

「・・・絶対に、人間の視線にも粒子性ってあるよな・・・」

具体的に言うと、圧迫感。

「増えてる・・・」
「キララちゃん達だけじゃなくて、もう一人増えてる・・・」
「しかも可愛い。」
「いや、美しいでしょ・・・」
「加えて、3人の誰とも違う雰囲気ね。」
「清楚というか、お嬢様系か?」
「一体、どこの子?」
「と言うか、どうして?」
「決まってるだろ・・・」

そこで再び俺への視線の圧力がズズンと増してきた。

「・・・レイ君に惚れたんだ・・・」

はははははは・・・いや、もうこうなることは分かってたさ。ただでさえ、最近はキララ達が俺への好意を隠さなくなってきたってのに、そこに新たに加わった美女が俺へ仕事仲間以上の視線を送っていたら誰だってそう判断するね。
けど
けど!

「えっと・・・俺は無実だと言わせて下さい。」
「白々しい。」
「それで、どの子が本命?」
「レイさん、教えてよ〜。」
「後、注文が終わったからって共通の話題でくつろがないで・・・」
「もう、レイ君って女たらしだね。」
「男として羨ましいような、気の毒なような・・・」
「だから、その話題を止めてくれ・・・胃が痛むから。」

一夜あけて、ヴェロンティエにやってきたお客さんが見たのは、新たに増えていた新店員、かつ謎の美少女だった。
もちろん、リリアのことだが。
そんなリリアの格好は、髪型を変えて普段とは違った服装を着せることによりどうにか王女とばれないようにしている。
けど、持って生まれた上品な雰囲気とか美しい顔立ちとかは隠せないわけで。

「ぐ、うっ・・・た、隊長っ!」
「どうした、会員番号25番?」
「申し訳ありません!じっ、自分はこれ以上マリスさんを見れません!」
「そうか・・・分かった!お前はお前の道を行くが良い!」
「ありがとうございますっ!」
「ううっ・・・隊長、自分もこれ以上はキララちゃんをっ!」
「自分もですっ!」
「構うな!俺達の信念は常に1つだ!」
「ありがとうございました!」

さて。一応、この変なことを叫びだした野郎共についても解説しよう。
ヴェロンティエに努めている3人の美女にはそれぞれに‘親衛隊’なるものが存在する。規模としては、かなりでかいのが。
『キララちゃんを見守り隊』
『マリスちゃんを愛し隊』
『フォルトちゃんを抱きしめ隊』
もちろん、こいつらは暇さえあれば俺を追いかけて勝負をふっかけてくる。おかげで、仕事の休みに1人で外に出ると俺は全力疾走を余儀なくされる。
そんな今までは3すくみの状態が、リリアの登場で大きく崩れてしまうのは・・・まあ、予想していたことではある。

「おい、お前ら・・・」
「何だ、レイ・キルトハーツ!?」
「言っておくが、我らの思いは誰にも止められんぞ!」
「ああ・・・それは、今までの経験から分かりすぎるほど分かってるから・・・」

分かりたくないけど。

「とりあえず、忠告な?彼女は、まあ見ての通りお嬢様なわけだから、あんまり野郎連中への免疫が出来てない。下手なことして泣かしたら、この店への立ち入り禁止にしてやっから。」
「そうなのか。」
「分かった。まずは挨拶という軽い接触から始めよう。」
「仲良くしてくれる分には構わないけど・・・もしも、変なことしたらこの国の外まで叩き出してやるからな。」
「我々を侮るなよ、レイ!」
「我らは決して愛すべき女神には迷惑をかけない!」
「それが、親衛隊としての最低限の務めなのだ!」

まあ、決して悪い奴らではないのだ。
純粋にキララ達のことを思っていて、決して彼女たちの迷惑になるようなことはしないし、俺への攻撃も度を過ぎた物になることはない。と言っても、素手での乱闘はしょっちゅうだが、中には店の道具を格安で修理してくれたり、色んな情報を教えてくれるやつもいる。
そんなわけで、リリアがこいつらと仲良くなることには決して反対ではない。

「なら、いいけどな・・・」
「それで、レイ!早速だが教えてもらおうか!」
「あ?」
「我らが新しい女神の名前を叫ぶが良い!」

叫ぶのかよ・・・いや、問題はそこじゃなくて。
そういえばリリアの偽名を考えないといけなかったな・・・どうしよう?本名のままだと王女だとばれないとも限らないし。かと言って、全く違う名前だと今度は俺達が混乱して、うっかり本名を呼んだ時にごまかしがきかないし。とすると―――――

「り・・・」
「り?」
「リリィ・ヴィクリヴァだ。リリィと呼んであげてくれ。」
「リリィちゃん・・・」
「良い名前だ。」
「可憐だ・・・育ちのよさが現れているような名前だ・・・」

うっし!どうやら納得してくれたようで何より。後でちゃんとリリアにも偽名のことを教えておかないとな。

「よし!そうと決まれば早速新たな親衛隊を結成するぞ!」
「・・・やっぱり、作るのか?」
「当然だろう!」
「名前はどうする!?」
「よし、隊員希望の者を集めて名前と隊長を決めよう!」
「よ〜し、我らが新たな女神を尊ぶ者達は、この後集合だ!」

おお・・・何とも素晴らしい団結力だ。最近の日本の若者達に是非とも見せてやりたいね。いや、俺もその1人かもしれんが。
ともあれ、これで親衛隊は4つに増えることになって・・・・俺、不幸量もそろそろ無くなるんじゃないか?

「はぁ・・・もう、どうにでもなれって感じだな。」

この世界に来てから、俺はどうやら処世術の達人になりかけているようだ。
諦めの境地というものに達しているらしい。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/11/20(月) 11:31:53

ぺあれんつ5!
「リリィ、ですか?」
「ああ。これなら、万が一俺達の誰かが本名を呼んでも誤魔化せるからな。勝手に決めたけど・・・悪いな。」
「いえ、レイ様が下さった新しい名前ですから。とても嬉しいです。」
「それは救われるよ・・・それじゃ、リリア―――じゃなくて、リリィ、引き続きよろしく。」
「はい、頑張ります。」
「結構忙しいみたいだけど、気をつけてな?」
「任せて下さい。皆様に比べれば楽な仕事ですから。」

リリアの仕事。
それは、簡単に言えば‘お勘定’だ。公務を続けてきたリリアにとって、金額などの計算は俺達の誰よりも速い。それに記憶力も桁違いだ。昨日一晩で、店の全メニューとその料金を完璧に覚えてきたのだから頭が下がる。
そこでで、今までは仕事の合間を縫って俺達の誰かがやっていたことをリリアに頼んだわけだ。

「お〜い、ムタラーメンはまだか〜?」
「後、3分だけ待ってくれ!」
「キララ、セトークとヒレミクを2つ、加減はロイを希望よ。」
「分かった。」
「フォルトさん、これ5番の机に持って行って!」
「5番ね!分かった!後、きつねとたぬきのうどんを一個ずつ!」
「分かった――――って、麺がもう無い!?」
「嘘!?だって、昨日はちゃんと作ったよ!?」
「レイ様。そこにあった麺なら、ミリア様が3分の1ほど出前に使うと仰ってましたが?」
「そうだった!マリス!うどんの所に売り切れの札下げといて!」
「注文したお客さんはどうするの?」
「リリィ!17番の机のお客さんの料金を2割引で!」
「はい。覚えておきますね。」
「キララ!そっちの樽の水は使い終わったか!?」
「こっちは良いわ、使うのなら持って行って!」
「分かった、もらうぞ!」
「キララ、キビユクを1つ――――忙しそうね、私がやるわ。」
「お願い!」
「フォルトさん!外に並んでる人に午前中はここまでって言ってきてくれ!」
「りょ〜かいっ!」


昼休み、突入。

「つ・・・疲れました・・・」
「お疲れ様。」
「み、皆様は、いつも・・・このような、ことをっ・・・?」
「休日はもう少し多いけどな。」

この程度の量ならすっかり慣れてしまった俺達に比べ、会計という比較的楽な仕事とはいえ初体験のリリアは完全に撃沈していた。

「わ、私は、失礼ですが・・・この仕事を侮って、いましたっ・・・」
「今度からは気合い入れていけよ?」
「はい・・・」
「レイ。ちょっと―――・・・って、何を姫様と甘い雰囲気作ってるわけ?」

いきなり現れたキララは、唐突に機嫌が悪くなった。まあ当然と言えば当然なのかもしれないので俺は苦笑してからリリアの側から立ち上がる。

「慣れてない新人さんを激励してただけだって。それで、何か用だろ?」
「あ、うん。うどんが午前中で売り切れたでしょ?だから、め、め〜・・・?」
「麺類?」
「そうそう。麺類の準備量を明日から増やすべきかと思って。」
「う〜ん・・・けど、そうすると他の料理の準備とかが短くなるぞ?ほら、うどんって軽い食べ物だから昼と夕方は食う人もあまりいないだろ?」
「それもそうね・・・」
「・・・レイ様。」
「ん?」

見れば、何やら微妙な闘争心が背中で燃えていそうな、先程までの疲れを吹き飛ばしてるリリアが立っていた。

「先程、お釣り等をまとめていて思ったのですが、どうやら皆様硬貨を使うよりかは紙幣を使う割合が多いようです。」
「そうなのか?」
「はい。そこで、翌日のお釣りに回す分の売り上げの硬貨の割合をもう少し増やした方が良いかと思うのですけど。」
「そうか・・・そうすると、今日辺り両替屋にでも頼まないとな。ん、貴重な情報をありがとな。」
「いえいえ。」
「・・・本当、中々貴重な情報だったわね・・・」

‘バチン!’
・・・何か、そんな擬音が聞こえるような気がする。

「ありがとうございます、キララ様。」
「いいのよ、これであたしの店がもっと繁盛するんだから。将来的には、この店を改築したい所だし、売り上げは多い方がいいもの。」
「そうですか。それでは、私も頑張ってお役に立ちたいと思います。」
「ええ、お願いするわね?」
「任せて下さい。」

‘ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・’
怖っ!何!?どうして爽やかな表情と会話にも関わらず、冷や汗が止まらないんですか!?この2人の間に漂う空気は一体何なんですか!?
いや、予想はついてるけどさ・・・これは、ちょっといかんよな・・・?

「えっと〜・・・2人とも、そこまで。」
「あ―――」
「っ―――」
「キララ。そんな風にリリアに自分の方が俺との付き合いが長いことを無理に強調するな。そんなことしなくっても、俺にとってお前が大切な家族だってのは絶対に変わらないんだからな。」
「む・・・」
「リリアも。キララの挑発に乗っかって無理に対抗意識を燃やすな。この店で働いてるのは、俺のためじゃなくって自分のためだろ?最初の目的を忘れてたら、俺の好きなリリアじゃなくなっちゃうぞ?」
「う・・・」
「分かったら、お互いに言うことは?」

キララが申し訳なさそうな顔をする。
リリアがすまなさそうな顔をする。

「申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそ無礼なことを・・・」

うん。2人とも賢い子だからな・・・説得も簡単でいいよ。いや、本当に。

「まあ、2人の気持ちは嬉しいんだけどさ・・・この店で働いてる以上は、仲間なんだから。仲良くやろうぜ?」
「分かってるわよ・・・」
「はい。お見苦しい所をお見せしました。」

よく考えてみたら、マリスやフォルトさんと違ってリリアはキララとの間に大した繋がりを持ってる訳じゃない。それから考えると、こんな状況は当然とも言えることなのか?
何か、昨日は俺の話題で随分と息が合ってたみたいだから大丈夫だろうと思ってたけど・・・やっぱり、そう簡単にはいかないよな。ましてや、リリアは王女様だし。
お互いに遠慮があって、譲れない想いがあって。それでも一緒にいることを続けないといけなくって。このままだと、お互いに精神がすり減っていくばかりでは・・・?
2人とも、どことなく似通った部分があるから仲良くなれるとは思うんだけどな・・・

さてさて、どうにかならんもんかね?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/11/21(火) 10:38:49

ぺあれんつ6!

姫様じゃないけど、確かに見苦しい所を見せちゃったっていうのは・・・はあ、自己嫌悪。ちょっとだけ、あたしを見るレイの視線が不安そうだったのは、きっと姫様とあたしの関係を心配してるからなんでしょうけど。
正直な所、姫様と働けるのは光栄なことだとさえ思ってる。優しい方だし、初めてで大変なはずの仕事にも音を上げずに、工夫をこらしながらちゃん働いて頂いている。これは、ヴェロンティエの経営者としては喜ぶ以外のなにものでもない。

けど、キララ・ランクフォードという1人の女の子としては違う。
だって、姫様ってめちゃめちゃ綺麗じゃない!それに、そのっ・・・マリスほどじゃ無いにしても、あたしより出るとこ出てるし・・・
そんな才色兼備な方が、自分の好きな男の子と一緒に働いてて!なおかつ、あたしと同じような想いを向けていると分かってて平然としてられるわけないでしょ!
おまけに、レイの方も姫様の好意を受け止めてるみたいだし・・・多分、レイの中ではあたしより姫様の方が優先順位が高いんだろうし・・・ううっ・・・あたしって、こんな嫌な子だったかしら・・・

「はぁ・・・けどなぁ・・・」

困っていることがもう一つ。
それは、あたしは姫様をどうしてもレイを巡る競争相手だと割り切れそうにないということだ。


あたしは心の奥底で、姫様ならばレイが惹かれても当然だと考えている。


もちろん、譲ってやろうなんて気は欠片もない。けど、あたしはマリスやフォルトと同じくらい、レイが姫様を選んだとしても、笑顔で祝福してしまうという確信があった。いっそ、絶対に嫌だと考えられたらどれだけ楽だったか・・・

「・・・結局、あたしはレイが好きで・・・けど、その一方で姫様の想いも認め始めててるのよね・・・」

問題は、微妙に胸にかかっているもやもやとした霧のようなもの。
それはきっと、姫様――――いや、レイが知っているはずのリリア・キルヴァリーの姿をあたしが知らないから。
マリスやフォルトと違い、あたしはまだリリア様本人のことを何一つとして知らないから。
だったら、あたしがするべきことは何だろう?



お城の自分の部屋に戻り、ため息をつきながら初めての仕事内容を思い返します。
・・・まあ、大きな失敗はしませんでしたし、きっとお役に立てたとも確信できます。それに、お城にいては知ることの出来なかった様々な人々の国への思いを今日だけでたくさん知ることが出来ました。

そして、キララ様のレイ様への想いも。
王女である私に、しっかりとした敬意を示しながらも決して譲れない想いを持って私の前に立っておられた方。その想いは私が抱いている想いと全く変わることなく、それ故に決して並ぶことのない想い。
レイ様が私と同じくらい大切だとおっしゃった意味がよく分かります。けど、おそらくは同じくらいではなく・・・レイ様の中では、キララ様の方が・・・
私も、自意識過剰かとも思いますが、普通の方よりある程度整った顔を授かっていると思います。けれど、キララ様の顔はどこか私と違う輝きを秘めていて、それはとても私の目に眩しく映りました。
その輝きは、きっと料理店という重い責任を背負って、それでも必死に生き抜いてきたための輝き。お城で安全に囲まれて過ごしてきた私には決してない輝きなのでしょう。

「・・・だからなのでしょうね・・・」

私はレイ様のことを愛しています。それだけは自信を持って誇れることです。けれども、キララ様とレイ様の会話を見ていて去来するのは嫉妬などという醜い感情ではなく・・・


キララ様は、レイ様の隣という位置がなんと似合うのだろうという思い


だからといって、諦める気は全くありません。私自身がレイ様にふさわしい女性になれば、きっとレイ様の隣が私の位置となることだって出来るはずです。
けれども、たとえレイ様がキララ様の隣に立つことを選択しても・・・私は、おそらく心から微笑むことが出来ると思うのは決して間違いではないでしょう。

「どうして、キララ様なのでしょうかね・・・?」

もしも、他の方であったならば。マリス様やフォルト様は別ですが、もっと他の‘ただ美しいだけ’の女性であったならば、私は余裕を持ってレイ様を自分の隣へと招くことが出来たでしょう。
けど、私はキララ様が持っておられて、私が持っていないものがあることを知っています。
それを、私は知りたい・・・そうでなければ、きっと再びキララ様と遠慮し合ってしまうから。
では、私はどのようにしてキララ様を知ればいいのでしょうか・・・?

匿名希望 [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/11/22(水) 10:11:32

ぺあれんつ7!

「レイ・キルトハーツよっ!」
「聞け!」
「そして心に刻むが良い!」
「貴様の生涯の敵の名を!」
「我ら―――――」
「「「リリィちゃんを抱き上げ隊!」」」

・・・男には戦わなければならない時がある。

「よし。とりあえず、隊長は名乗り出ろ。」
「隊長は我が輩!ニース・オキューラだ!」

ニスか・・・乾ききる前に触ると異常ににベタベタするんだよな、あれ。オキューラ?・・・ああ、オクラか。あのネバネバ成分は苦手な子どもは多数だろう。よし、馬鹿なことを考えるのはここまでにして・・・

「何だ、その抱き上げたいっていうのは・・・?」
「あの上品な物腰!」
「高貴さの溢れる仕草!」
「持って生まれたとしか言えない気品!」
「そんな彼女を抱き上げてみたいと思うことは男の性だっ!」

俺は思う。時に暴力は肯定されてしかるべきだと。

「・・・話は終わったな?」
「あ、もちろん実際に願望であって仲良くもないのに手出しはしないから安心しろ。」
「分かった。」
「後、本日はまだ宣戦布告にきただけであって人数は揃っていないのだ。」
「そうか・・・それは、叩くなら今だという天の導きだな?」
「・・・」
「・・・」
「・・・で、できれば初対面だし、お手柔らかに。」
「心配するな。お前らが今までの3つの親衛隊にいたことは分かってるから。」

というわけで、天の導きにしたがって俺は容赦なくリーダーの男に拳を突き出した。


「はあ・・・3大親衛隊改め、4大親衛隊か・・・もう矢でも鉄砲でも持ってこいって感じになってきたな。」
「あら、レイ。ため息なんてついてどうしたの?」
「ん?・・・あ、マリス。」

買い出しが終わり、店へと戻る途中での親衛隊との戦闘。
それで疲れてる俺に声を掛けたのは、ある意味原因とも言えるマリスだった。

「いや、とうとう4つ目ができたから・・・親衛隊。」
「姫様の親衛隊ってこと?・・・レイも相変わらず大変よね。」
「最近はすっかり諦めの境地に入ってきたよ。」
「ふふふふ・・・頑張ってよね。私、レイ以外の人を考える予定なんて無いんだから。」
「分かってるって・・・でも、こう毎日だと本当にきつい・・・」

ぐるぐると肩を回す俺に、マリスが少しだけ心配そうな顔を見せる。
いや、確かに疲れてはいるけど、そこまで不安そうな顔をされると微妙に罪悪感が出ますよ?心配させましたか?

「あ〜・・・なんだ、きついとは言ったけど、別にこの生活が嫌とかじゃ無いからな?」
「ええ、分かってるわ。・・・そうだ、レイ。今晩、あなたの部屋に行っていいかしら?」

‘ズシャアッ・・・’
踏み出そうとした足を見事にもつれさせ、俺は顔面から地面にスライディングすることとなった。正直、ものすっげえ痛いです・・・

「・・・え、何?今、何て言った?」
「えっと、今晩レイの部屋に行っていいかしらって言ったんだけど・・・」
「あ、幻聴じゃなかったんだ・・・じゃなくって!何故に!?何のために!?」

夜ですか!夜というみんなが寝静まって、多少なら音やら声やら立てても誰も邪魔しないような時間帯に来るんですか!年頃の男女が鍵さえかければ密室の部屋に2人っきりですか!何!?何なのこの提案!?これはあれか!俗に言う誘惑とかいうやつか!そりゃあ、マリスみたいな女の子に誘惑なんてされたら、大抵の男は落ちるね。間違いない。俺だって、今かなりぐらりと来ましたしね!
いや、男の子なら当然ですよ?俺だって16歳。不健全なことに興味のあるお年頃ですから!

「何のためにかって? ふふっ。私、こう見えても上手なのよ?」

ゴクリ・・・上手って、何がですか・・・?

「料理だけじゃなくて、ちゃんと一時期は整体の勉強もやってたんだから。」
「整体かよっ!!」

思わず右手でマリスの頭にチョップ。
少し痛そうな顔をしたが、そんなもんは知りません。期待させたあなたが悪いんです。

「何をする気かと思ったぞ!俺の緊張と迷いを返せ!」
「緊張って・・・何を想像してたのよ?」
「うっ!」

自分が想像してたことを思い出し、思わず顔が真っ赤になる。
いかん!こんな顔を見られたら何を言われるか分かったもんじゃない!大丈夫。マリスはマリス。純粋に整体、つまりはストレッチで俺の体の疲れを取ろうとしてくれてるだけですよ?何というか『癒してあげる』みたいな?って、マリスに言わせたら別の意味に聞こえる気がっ!

「・・・レイ、顔が真っ赤よ?」
「ぎくり。」
「どうかした―――・・・ああ、そういうこと。」
「な、なにをなっとくしてらっしゃるんですか?ぼくはなにもへんなことはかんがえてませんよ?」

めちゃめちゃ奇妙な言葉づかいになった。

「ふ〜ん・・・期待してくれたのかしら?」
「してませんよ?ええ、まったくもってしてませんとも。」
「本当に?」
「もちろんです。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「うそです。ごめんなさい。期待というより、ものすげえ色々と想像しました。」
「正直っていうのは美徳よね。」
「すいません。」
「いいわよ。レイだもの。」

マリスはそう言って、俺の腕にそっと自分の腕を――――って、待て。待ってくれ。あなたの場合は非情にやばいです。具体的に言うのははばかられますが、漢字1文字、ひらがな2文字、アルファベットでいくと前から4番目はかたい。って感触のあれがっ!あれが腕にっ!

「え、えっと・・・は、離してくれると嬉しいかな〜と・・・」
「いいじゃない。何となくこうしたい気分になったのよ。」
「何故に!?」
「だって・・・」

マリスはいつもの大人っぽさを少しだけ潜めた顔で、年頃の女の子らしい表情で頬を染めながら俺の腕に絡めた腕の力を強くする。

「その、レイが私に女の子としての興味を向けてくれてるって、認めてくれたんだもの。嬉しいと思っちゃいけないかしら?」

ぐあああ・・・その顔は反則だろ・・・
やばい・・・普段とのギャップが激しくてめちゃめちゃ可愛い。

「ああ、もう・・・好きにしてくれ。」
「さすがレイ。優しいのね?」
「はぁ。マリスの親衛隊に会いませんように。」
「私としては見せつけたいとは思うわ。それで、レイ。どうするの?」
「ん?」
「だから、整体。したほうがいいのかしら?」

あ。そう言えばそれが本来の話題だったっけ。マリスの可愛さに見とれてすっかり失念していた・・・今さらだが、やはり俺ってものすごく幸せな人間だな。

「う〜ん・・・じゃあ、お願いしていいか?自分1人でも出来ないことはないけど、やっぱ手伝ってもらった方がやりやすいから。」
「分かったわ。それじゃ、今晩、お邪魔するわね。」
「よろしくな。」
「なんなら、その後もちゃんと面倒見てもいいわよ?」

面倒を見るって・・・何のですか?

「選択のことを無しにしても、レイなら構わないもの。」
「多分、選択せざるを得ないので勘弁して下さい。」
「それは残念。」
「本気で残念そうな顔をするな・・・俺だって年頃の男ですよ?結構たいへんなんですよ?」
「姫様も来られたものね。」
「そうそう・・・はぁ。やばい、思い出したらどっと疲れが出た。今日は本当に頼むよ。」
「露出が高い服装が好み?」
「・・・いや、普通の服で。」
「今の間は何かしら?」
「俺だって年頃の男です。」

2度目のセリフを、多分顔を微妙に赤くしながら言うとマリスは微笑していた。
自分で言っておいて何だが・・・俺、本当に今夜は大丈夫か・・・?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/11/24(金) 10:45:34

ぺあれんつ8!

「た――――うおあっ!?」
「きゃっ!」

店の裏口から入り、厨房に声をかけようとした俺に飛んできたのは大きな鉄のなべだった。
相変わらずくっついていたマリスを抱えた状態で、俺はそれを寸前の所で避ける。もちろん投げてきた人間とその理由は想像が付いているが。

「避けないでよ。」
「いや、投げるなよ。」
「これ見よがしに腕組んで帰ってきてるんじゃないわよ。だいたい、マリス・・・いつからそんなに積極的になってるわけ?」
「心配しなくても今だけよ。レイがちょっと嬉しいこと言ってくれたから、それだけ。」
「へえ・・・何を言ったの?」
「包丁をおろせ!それは洒落じゃすまされんぞ!?」

相も変わらずヤキモチを焼くのが激しいキララさん・・・光に反射してギラリと光っている刃はあなたの想いの鋭さですか?そんな鋭さは心を射止められる前に頭が真っ二つです。勘弁して下さい。

「まあ冗談はこの辺にしてと・・・レイ、ちょっと頼みがあるんだけど。」
「冗談で刃物を人に向けてたのか、お前は?」
「今晩、姫様のとこに行くんでしょ?」

いや、無視ですか?

「そのついでって言うのもなんだけど、明日の仕事が夜遅くなってもいいか聞いておいて欲しいのよ。」
「夜遅く?明日何かするのか?」
「うん。店とは直接関係ないんだけど・・・ちょっとね。あ、レイには関係ないから心配しなくてもいわよ。」
「いや、関係ないってことは無いだろ?一応、リリアの護衛も兼ねてるんだし。」
「分かってるけど、今回だけはレイは関われないって言うか、関係ありすぎて関わらないでほしいって言うか・・・」
「いや、意味分からないから。」
「ああっ、もう!女の子だけの大切な話があるのよ!黙って姫様にそう伝えてきなさい!」
「りょ、了解です・・・」

突然怒り出した・・・俺、そんなに無粋な質問をしたんだろうか?いや、いいんだけどね。確かにリリアの所には行かないといけないし、そんな頼みならいくらでも引き受けるぐらいの甲斐性はあるつもりだし。甲斐性の使い方、間違ってるか・・・?

「それだけでいいんだな?」
「ええ。お願いね。」
「レイ。それじゃあ、今日はいつ頃に帰ってくるの?」
「ん?あ、そっか・・・」

マリスの質問に、俺は整体を頼んでたことを思い出す。どうかな?リリアとの会話次第という、何とも不安定なものだけに時間が特定できない・・・

「遅くはならないと思うけど・・・」
「それじゃ、レイの部屋で待ってるわ。」
「いいのか?」
「もちろんよ。」
「じゃ、それで―――――っ?」

や、やばい・・・今さらだけど俺はかなり重要なことを思い出した。
それは、この会話をキララが聞いてるとどうなるかってことで・・・汗が止まりません。冷んやりした汗、略して冷や汗が!

「レイの、部屋・・・?」
「あ、あの、キララさん?ご、誤解をしないで下さいね・・・?」
「・・・夜に、マリスが、レイの部屋に・・・?」
「いや、それはマリスが――――」
「ほら。レイが最近は親衛隊のせいで疲れてるって言うから。私のせいでもあるし、恩返しでもしようかと思って。」

ぅおい!マリス!?
間違ってない。間違ってないけどその言い方は今のキララには間違った解釈を与えることにしかならんぞ!?分かってやってますか!?――――ああ、分かってやってるんですね。しかも冗談半分?いやいや、普段なら乗っても良いんですけど、今のキララはショックの受け方が半端じゃないみたいなんで!

「え、と、それは、な、何をっ!?」
「落ち着け、キラ――――」
「レイの疲れた体を癒やしてあげたいって思って。」
「っ〜〜〜〜!?」
「いや、だから――――」
「レイからも、お願いって言われたもの。」
「れ、レイからっ!?」

ぎゃーーーー!もう、完璧に最悪の一歩手前みたいな!?やばい!いい加減にマリスを止めないとリカバー不可能な事態に!

「ねえ、レイ。私にお願いするって言ったものね。」
「いや、言ったけどそれは――――」
「い、言ったの!?」
「だから、俺の話を――――って、えぇっ!?」

ちょ、ちょっと待って!涙目!?泣くの!?このままだと泣いちゃうの!?それはやばいぞ!ここで泣かれたら本気で良心が破壊されかねないんですけど!

「っ・・・レイの馬鹿っ!変態っ!」
「だから人の話を聞けって!」
「そんな理由だったら、マリスじゃなくてもいいでしょ!?あたしだって、レイならちゃんと――――むぐぅっ!?」
「だああああああああ!待て!それ以上の発言は後々のお前のためにも、ってか俺のためにも本気で待て!そして1分でいいから俺の話を聞け!いいな!?」

とっさにキララを捕まえて口を手で塞ぎ、いまだにからかった状態の笑顔のマリスを無視してから早口でそれを遮る。

「いいか!俺がマリスに頼んだのは整体!支障は出てないけど、やっぱり連日の疲れは出始めてるから、そうした俺のためにマリスが以前に習ってた整体の技術を披露してくれるということだ!決して変な意味じゃないし、ましてや何かする気もない!」
「・・・へ?」
「マリス・・・頼むから、もうからかうのもいい加減にしてくれ・・・」
「もう少しでキララの過激発言が聞けたわよ?」
「それを言われたら、本気で理性が飛びかねないんだよ・・・」
「キララに対して飛ぶのは困るわね。」

くすくすと笑うマリスを見て、キララは自分がからかわれていたことに気付いたようだった。俺はようやくキララを自分の腕から解放する。
今さらだが、俺ってキララを抱きしめてたんだな・・・恥ずかしいことにも随分と慣れてきてる自分が嫌だ・・・

「え、あ、え?」
「落ち着いて、頭の中を整理してから発言しろ。」
「う、うん・・・整体?マリスが、レイに?」
「そうだ。」
「恩返しって・・・」
「整体のことだ。」
「癒やしてあげるって・・・」
「俺の体の疲れをだ。」
「レイが頼んだって・・・」
「整体を頼んだ。」
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

あっという間にキララの顔が真っ赤になった。

「な、あ、ああっ!?そ、そういうことなら早く言いなさいよね!?」
「いや、言おうとしたけどな・・・」
「う、うるさい!マリスも紛らわしい言い方しないでよ!」
「整体以外で何を想像したのかしら?」
「っ!」
「キララの発言も中々だったわよ?『あたしだって、レイならちゃんと―――』その後は?」
「う、わあああああ!!」

瞬間、キララは怒濤の勢いで厨房から飛び出して階段を駆け上っていった。
2階から何やら持てる全ての力で木の板を枠状のものに打ち付けたような音。
さらに、推定40キロぐらいの重さの物体が木の台にクッションを付けたようなものに飛び込むような音。
そして立て続けに、何か人間の頭ぐらいのものを布団のような柔らかいものに連続で押しつけるような音が聞こえてきた。
後、微妙に獣のうなり声っぽい音も聞こえてくる。

「・・・予想以上だったわね。」
「いや、ある意味予想通りというべきだろ・・・と言うか、こうなると分かっててやったな?」
「私だって女の子なのよ。」
「は?」

怪訝そうな俺の顔に、マリスはさっきの可愛らしい笑顔で俺を見つめる。

「他の女の子より、差を付けてるって思われたいこともあるの。」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/11/24(金) 19:31:49

ぺあれんつ9!

夜の闇を切り裂くように飛ぶ。
そう言うと格好良いんだが、その理由が理由だけになかなかしまらない。その理由というのは、ぶっちゃけると逢い引きだ。しかもこの国の王女との。
城の壁まで辿り着くと、5倍となっている脚力を使用した垂直跳びで近くの窓枠へ、さらにそこを蹴って再びもう一階上の窓へ。これを数回繰り返して俺はすっかり登り慣れた壁を踏破し、やはりすっかり見慣れた窓に手を掛ける。
もちろん、窓は開いていた。

「リリア、いるか?」
「レイ様。お待ちしておりました。」
「いらっしゃい、レイ君。」
「よう。久しぶりだな。」
「・・・さようなら。」
「ええっ!?な、何故ですか!?」
「いや、何かもう嫌な予感がビシバシと飛んでくるから。」

具体的には、俺の目の前にいるリリア以外の2人の人物からだが。

「おい、今何か失礼なことを考えただろ?」
「いえいえ。そんな滅相もありませんよ。」
「では、どうして帰るなんて言うの?」
「折角のリリアとの静かなお茶の時間が、疲れるだけの時間になりそうだからです。」
「れ、レイ様・・・その、私もお断りはしたのですが・・・」
「ん。リリアは悪くないって分かってるから。」
「俺達が悪いような言い方をするんじゃねえよ。」
「素性の知れない男と、ほとんど強制的に大事な娘を結婚させようとしてる人にはそれで十分です。」

ここまで言えばもう分かると思うが・・・俺の目の前にいる2人の男女。
何を隠そうこの国の王とその妻である王妃様だ。
クロムウェル・キルヴァリー
フィリス・キルヴァリー
読めば分かるように、リリアの実の両親である。2人とも歴代最高とまで呼ばれるような王族らしいのだが・・・俺からして見れば結構困った人達だ。

「それで、今日は何のご用ですか国王様に王妃様?」
「つれないことを言うんじゃねえよ。」
「そうそう。お義父さん、お義母さんって呼んでって言ってるじゃないの。」
「とりあえず、今はまだそう呼ぶ予定はありません。」

そう。何が困った人達かというと、以前にも言ったと思うが、この2人は俺とリリアの関係を知っている。そしてリリアの俺への想いも知っている。それだけなら構わない。むしろ人目をはばからずにリリアと会えるようになって、歓迎すべき事ですらある。
だが、何を考えているのか――――いや、この2人が考えているのは、俺を未来の自分たちの跡継ぎにしたい、と言うよりはもはや跡継ぎ確定と考えている。
まあ、早い話が俺はこの2人と会う度にリリアとの婚約を迫られているのだ。もう、マジで勘弁して欲しい。

「リリア、こうなったら既成事実を作って――――」
「娘に何を教えてるんですか!」
「既成事実?」
「リリア、深く考えるな。と言うか忘れろ。」
「レイ。今度この国の経済学を俺様が直々に教えてやろう。」
「この前は法律を教えてもらいましたが、よく考えたら料理人が学ぶことではないでしょう!」
「いや、未来の国王だし。」
「まだ言うか!」
「未来の国王・・・レイ様が、国王・・・私が、王妃・・・」
「リリア!もしもの話を想像するな!」
「レイ君。」
「何ですか!?」
「これが婚姻届なんだけど――――」
「どうして既に本人の捺印以外の欄が全て埋まってるんですか!しかも俺の名前で!」

とまあ、こんなやり取りを毎回毎回やらないといけないので・・・すっげえ疲れる。
ああ、もう本当に今日は早く帰ってマリスのマッサージを受けてぇ。

「それで、真面目な話に戻って良いですか?」
「おう。」
「良いわよ?」
「はぁ・・・どうしてこう、毎回毎回こんな話題をしないと真剣な空気に入れないんですか・・・?」
「俺達はいつだって真剣だぞ?」
「そうそう。真剣にあなたがリリアと結ばれてくれたらなって思ってるもの。」
「そうでしたね・・・まあ、それは例の如くちゃんと考えてるので。今日は良いですね?それで、今日は本当はどのような理由でここに?」

その言葉に、ようやく今までの雰囲気が崩れる。娘とその想い人を困らせる親馬鹿から、歴代最高と言われた国王と王妃の顔へと変化していく。

「ああ。リリアがお前のところの店で働きだしたことについてだ。」
「それに関しては、もうリリアから色々と話されてるんじゃないですか?」
「もちろんよ。リリアが城下でそんな経験を積むことに関しては全くもって異論はないわ。まして、あなたの近くにいるというのならきっと良い経験にもなると思うもの。」
「だが、やはりリリアが普段よりはるかに危険な状況に置かれているという事実は変わってねえのは分かるよな?」
「それは、そうですね・・・」

確かに、一国の王女が護衛も無しに城下で働いているというのは非常に危険だ。もちろん、送り迎えに関しては四聖騎士がしてくれるのだが、それでも2日に1度というハイペースでは危険性が多いことに変わりはない。
その四聖騎士にしても、リリアが働いている間は城に戻っている。

「もちろん、俺達だって様々な対策は行っている。」
「騎士による町の巡回頻度の変化。リリアの偽物、つまり代役を立てること。情報操作によるリリィという架空の少女の存在。他にもいくつかの手は打ってあるわ。」
「それでも、危険性は決して無くならない・・・ですよね。」
「その通りだ。だが、危険性が存在するのは例え世界中の何処にいても変わりはしねえよ。俺達王族がそんな危険性から解放される時があるとすれば、それは国を失った時か死んだ時かのどちらかだ。」
「だからこそ、私達に出来るのは危険性を限りなく無に近づけることだけよ。」

・・・さすがと言うべきなのだろうが、これが本当のこの2人の顔だと改めて思いしらされる。娘のため、そして娘が背負おうとしているこの国のために様々な手段をあらゆる面から展開する手法。そこにかける思い。
間違いなく、この2人こそがこの国を治めているのだと理解できる。

「おそらく、今の状況でリリアの安全はこちらで出来うる限りで確保できていると考えてもらって構わないわ。その上で最後の一押しを頼みたいのよ。」
「最後の一押し?」
「そうだ。俺達で出来ることは今の段階ではもう無い。いや、厳密にはもう一つ残っていて、これからそれを行うんだ。」
「それが最後の一押しで、俺の協力が必要なことなんですね?」
「その通りだ。」

ふと、会話に参加していないリリアの表情が目に入った。それは、不安半分、申し訳なさ半分といった、何とも奇妙な表情。
これから俺が言われることを、リリアは知っているのか?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/11/27(月) 10:42:10

ぺあれんつ10!

「リリア。」
「は、はい・・・」
「俺に頼みたいことって何?」
「それは・・・万が一ですが、私がお父様達の力の届かない範囲、ヴェロンティエなどで王族としての権限がどうしても必要になった場合のことです・・・」
「なるほど。」
「ご存じの通り、王女である私自身に与えられている権限はほとんどありません。当然のことですが、その権限の中に町の方々に命令する権限などあるわけがありません。」
「そりゃそうだろうな。」
「けれど、もしも・・・もしも、私の身近に王族としての私の命令を聞くことの出来る存在がいれば・・・私は、自らの意思の下に様々な対応を行うことが出来ます。」
「・・・つまり、俺にそんな存在になってもらえないかってことか?」
「はい・・・」

ふむ・・・リリアの友人としての俺は、リリアの頼みなら大抵のことは助けてやりたいと思うし、それだけの力もあるつもりだ。だが、それはあくまで一般人の協力でしかない。
一般人では手出しできないような事件が起きた場合に必要なリリアの持つ王族としての力。それは友人に対しては使うことが出来ないのだ。

「無礼な頼みだとは百も承知なのよ。リリアの友人という関係を、その時だけとはいえ完全に破棄してくれと言っているようなものだから・・・」
「紋章印による制約とは、違うんですよね?」
「あれは、あくまで自由意思の下に行使されるからな。だが、今回はほとんど強制的、つまりはリリアに絶対服従ってことだ。」
「・・・悪く言ってしまえば、レイ様を私の所有物へとしてしまうのです。」
「いや、そこまで言わなくても。」
「同じことです。」

リリアは辛そうな目で俺を見つめている。
それは、自分が望んでいることとは全く別のことを俺に望まなければならないという罪悪感。そして自分のせいで俺が不快な思いをしないかという不安・・・だと思う。

「あ〜・・・リリア。今から、すっごく恥ずかしいことを言うぞ?」
「え?」
「前にも言ったと思うけど、俺とリリアの絆はそんな程度で崩れたりはしない。そして、これに付け加えるとだな・・・俺のリリアへの想いも、そんなことぐらいじゃ絶対に変わらない。俺はリリアの側にいる。だから、そんなに自分を責めるな。俺自身がリリアを守ることが出来るっていうなら、それは俺にとって嬉しいことでもあるから。」
「レイ様・・・」

うぅ・・・なんかもう、こんな恥ずかしいセリフにもすっかり慣れてきてる自分が怖い。俺はいったいこの先どうなっちゃうんでしょうか?
ともあれ、リリアの顔には先ほどまでの陰は全くない。光が差し込んでるって言うか、むしろ赤みを帯びてると言うか・・・ふっ、分かっちゃいたけどね。こんな反応するんじゃないかなと。

「レイ様・・・う、嬉しいです・・・」
「心の奥にしまい込んでくれ。もう二度と言いたくない、というか言えないから。」
「は、はい!絶対に忘れません!」
「ん。喜んでもらえて嬉しいよ。」
「俺も嬉しいぜ!」

・・・分かっちゃいたんだよ。この人達はこんな反応をするんじゃないかと。

「レイがリリアの側にいてくれるって言ったしな!」
「しつこいようですが側にいるだけです。今は結婚も婚約もしませんから。」
「・・・お前、最近すっかり先読みが出来るようになってきたな・・・」
「毎回毎回同じことしか言わないからです。」
「じゃあ、次回からは趣向を変えて――――」
「そんなことを考える暇があったら、より安全な解決策を探して下さい。」
「そりゃそうだ。」
「それで、俺は具体的にどうすれば?」
「大したことじゃないわ。ただ、これを受け取って欲しいだけ。」

そう言った王妃様が俺に差し出したのは――――

「紋章印?」
「いいえ。似ているけど、これは騎士の紋章に手を加えたものよ。」
「手を加えたんですか?」
「ええ。まだ名前もないこの紋章。これが、あなたとリリアの絆の印。これを受け取れば、あなたは先程言ったことを了承することに――――」

最後まで言わせず、俺はそれを王妃様の手から取り上げた。
盾の形をした紋章の中には、不思議な印と奇妙な文字が彫られていた。俺は、それを迷うことなく自分の胸に付ける。

「似合うか?」
「・・・ええ、とても。」

一瞬だけ戸惑って、けれどリリアはすぐに俺に微笑んだ。

「俺のさっきの言葉を示す印だから・・・『誓約紋』ってとこか?」
「誓約紋か・・・良い名前だな。」
「それについては、その内王族と騎士の人達しか知らない秘密となるわ。だから、あなたの生活が変わってしまうことはないって、それだけは保証させてもらうわ。」
「それは嬉しい限りですね。」

やれやれ。最初の内は騎士になることをあんだけ拒んでた俺が、今では何のためらいもなく、その道を選択してるとは・・・愛の力?いや、俺のリリアへの想いが愛かどうかはさておき。まあ、愛かもしれんが。

「階級ってどうなるんだ?」
「一応、騎士とはいうものの独立した存在だからな。お前がその力を行使する時は基本的に騎士団長と同等の権限が与えられると思ってくれていい。」
「それ、権力すごすぎません!?」
「王女直属っていうんだから、それぐらいは必要でしょ?」
「それぐらいって・・・使わないことを祈りますよ・・・」
「そうですね。私も、そうであったらいいと思います。」
「だよな・・・あ。」

そういえば、これを得ることによって自動的に付いてくる最大の利点があるな。

「・・・リリアとの結婚のための、相応の身分を手に入れたわけでもあるのか。」
「――――っ!?」
「ん?どうかしたか?」
「れ、れ、れ、レイ、様っ!?」

はて?この慌てようは何だろうか?すっげえ顔は真っ赤になってるし、後ろの方で陛下と王妃様も驚いたような顔をしてるし。
あれ?俺、何かしたのか?

「ん?えっと・・・俺、何か言ったか?」
「レイ君、今あなたが言ったこと分かってるの?」
「何をですか?」
「いや、お前よ、今自分で言ったんだろ・・・『リリアとの結婚のための、相応の身分を手に入れたわけでもある』って。」

ぎゃーーーーーーー!俺、声に出してた!?声に出してたんですか!マジで!?心の中のセリフじゃ無かったの!?そこの文にちゃんと「」付いてますか!?付いてますね!つまり最近中では最も恥ずかしい言葉を聞かれた!しかも保護者の前で!

「リリア!い、今のは忘れろ!あ、あくまで仮定の話っていうか、つまりは将来的に便利かなって程度であって――――」
「か、‘家庭’の話ですかっ!?わ、私は、そのっ、跡継ぎ問題のためにも子どもが1人の方がやりやすいかと――――」
「その家庭じゃないから!」
「孫の名前は私がつけていいのかしら?」
「俺に決まってんだろ。」
「そこ!その話はそこで止めろ!というか、止めて下さい!」
「れ、レイ様との子供っ・・・ふぅ〜・・・」
「うわあああ!?リリアが倒れたっ!?」
「知恵熱かしら?」
「レイ。リリアとこの国を頼むぞ。」
「そんな話をしてる場合かあああああああああ!」

何というか、俺は知らず知らずのうちに随分とリリアに惚れ込んでるようで・・・俺の将来は王か?王なのか!?もしくは、料理長――――って、何故に!?だああああ!もう、今度はキララの顔が浮かんで離れねええええ!
今更だが、俺ってかなり究極の選択を前にしてるんじゃないか・・・?しかも、二択じゃなくって四択の。

「・・・俺、選択できるのかよ・・・?」

結局、俺がリリアを介抱して、キララに言われたことを伝えたのはそれからしばらくしてだった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/11/28(火) 10:37:05

ぺあれんつ11!

「はぁ・・・疲れた・・・」
「お疲れ。」
「おかえり。」
「ただいま〜・・・って、待て。」

自分の部屋に戻って一息つこうとした俺の耳に2つの異なる綺麗なソプラノボイスが響く。おお、意外と心地良いもんだね・・・って、そうじゃなくて。

「何故に俺の部屋にいる?」
「何故って・・・整体の約束してたわよね?」
「いや、マリスはいいんだよ。けど、どうしてキララまでいるんだってことだ。」
「あたしがいちゃ、悪いっていうの?」

いや、悪くない。というか、むしろ歓迎したい所だ。なにせ、マリスと二人っきりでは正直、理性が保ちそうにないから。だが、問題は理由の方だ。

「悪くはないけど、どうして?ってことだ。」
「そんなのっ、その、ま、マリスがレイに変なことしないか見張るためよ!」
「私からなのね。」
「当たり前でしょう!」

俺からだったら良いんだろうか?・・・なんちゃって。

「まあ、確かに整体にかこつけて迫ってみようかなとは思ってたけどね。」
「だめ!絶対にだめっ!」
「はいはい。と言うことだから、レイ。悪いけど、普通の整体をさせてもらうわね?」
「普通以外だったら、俺は自分の理性が保てません。」

さてさて・・・疲れを取りに来たのに、疲れる予感がぬぐい去れないのは何故だろうね?

「それじゃ、寝台にうつぶせに寝てもらえる?」
「ん。」

俺は自分のベッドに倒れ込むように寝ころび、手足を投げ出す。
うう・・・布団の柔らかさが最高だ・・・ミリアさんが干してくれたんだろうか?俺は今ならあなたを神と認めても良いかもしれない・・・

「まずは右足を・・・んっ。痛くなったら言ってくれていいわよ?」
「お〜う。」

マリスが俺の右足を掴んでゆっくりと背中の方へと反らせていく。普通なら痛いと絶叫する所なんだろうが、痛さを感じないギリギリの場所で筋肉が伸びていて痛いどころか大変気持ちが良い。左足も同じようにしてくれて、これまた絶妙な感覚が俺の下半身を刺激する・・・あ〜・・・本気できもちいい・・・

「あ〜う〜・・・きもちい〜・・・」
「そう?なら、次は腕を借りるわね。」
「お願いします・・・」

そう言って、マリスは俺の背中に座って――――オイ?

「・・・あの?」
「だめよ、ちゃんと寝てないと。ほら、右腕をゆっくりと上げて。」
「・・・はぁ。」

マリスは俺の腕を上げて、自分の腕に挟んで――――見えないので、よく分からないがどうやら二の腕のマッサージか?うん、確かに断続的にツボを抑えているしくやっぱり非常に気持ちいい・・・けど、ちょっとやばい。
だって、俺の腰に!腰の辺りに、何というかあれが!柔らかいあれが!いつから人間の体は凶器になったんですか!?俺の理性を紙ヤスリのごとくじりじりと減らしていく凶器!おまけにマリスの微妙な動きに併せてその部分が柔らかく動いたりなんかしちゃったり!

「次は左腕よ。」
「お、おう・・・キララ、いるよな・・・?」
「何よ?」
「今、お前がいてくれて良かったと本気で思ってる。」
「・・・変態。」
「何とでも言ってくれ。」
「もうちょっと力を抜いて。じゃないと逆効果になるのよ。」
「はい・・・」
「何なら、ちょっと運動してから体力を使い果たさせても――――」
「いや、俺の特技の1つに全身をもんのすごく柔らかくさせる技があるから!問題ないよ!大丈夫!」
「・・・レイ。」
「何でしょう!?」
「どんな運動を想像したのかしら?」
「・・・変態。」

ぐはぁ。
やばい・・・やばいやばいやばい!見えないけど!見えないけど、マリスが笑顔になってるのが手に取るように分かる!そんで、キララがめっちゃ不機嫌になってるのも手に取るように分かる!

「次は腰ね・・・レイ。ちょっと上体を起こしてもらえる?」
「こ、こうか・・・?」

俺は背筋の要領で背中を反らせて、両手で支える。マリスは俺の足の部分に座り直して、俺の肩に手をかけ直した。

「この状態で肩を引っ張ると、胸の辺りがほぐされるのよ。」
「へ〜・・・」
「レイの場合、いつも走り回ってばかりだから肺を囲む筋肉が激しく動かされて疲弊してるはずよ。それで、こうやって伸ばしっぱなしにしてやると後で元に戻した時に血が流れやすくなって、回復が促進されるらしいの。」
「ああ、なるほど・・・物知りだな、マリス。」
「ありがとう。」
「どうせ、あたしは理解できなかったわよ・・・」
「別にいいだろ、理解できなくても?」
「そりゃ、そうだけど・・・」
「キララにはキララが知ってることがあって、マリスにはマリスの知ってることがある。だから、この店は上手くいってるわけだしな。」

そして、俺には俺だけが知っていることがある。それが、きっとこれからもこの店で、いやこの世界で役にたつはずだ。

「さすがレイ。良いこと言うのね。」
「まあな。」
「それじゃあ、レイ。レイしか知らないことを1つ聞いてみたいんだけど。」
「お答えしましょう。」

こんだけ気持ちいいことをしてもらったんだ。答えないのは失礼に当たるってもんでしょう!

「レイの前の恋人ってどんな人だったの?」

――――あれ?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/11/29(水) 16:57:00

ぺあれんつ12!
雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/11/30(木) 14:09:20


「・・・何故、それを・・・?」
「以前、フォルトと出かけた時に言ってたじゃない?今までにたった1人だけ付き合ったことがあるって。」
「そう言えばそうね・・・あたしも、知りたいかな・・・」
「えっと、その、あ、あまり聞いても面白くないし、ほら、好きな男が好きだった女の話なんて聞いても不快なだけ――――」
「知りたいの。レイが選んだっていう人のこと・・・」
「マリス・・・?」

いつの間にか俺の体をほぐしていた手が動きを止め、背中に添えられた状態のままだった。そして、マリスの声にはいつもとは違う真剣さと、不安があった。

「正直なところ・・・自分に自信がないの・・・私、他の女の子より、その、体つきは良いと思うけど、レイはそんなことじゃ絶対に私を選んでくれないって分かってるから・・・だから、レイが選んだ人のことが知りたいの・・・真似しようなんて思わないわ。けど、その人と重なる部分が少しでもあったらって・・・ごめんなさい、情けないこと言って。」

いや、別に情けないとは思わない。
俺だってそうだ。可愛い女の子がいて、その子が好きなタイプを言った時に自分と重なる部分が一部分でも見つかればちょっとは嬉しい。それが、真剣に好きな子ならなおのこと。
それはマリスにしても同じで・・・いつも、大人の女性の雰囲気を漂わせていようが何だろうが、マリスは俺と同じ16歳の女の子だから。好きな人に振り向いて欲しい・・・周りには魅力的なライバルが一杯いるけれど、それでも諦めたくないっていう必死さが、今のマリスの声には含まれていて――――

「あのさ、マリス・・・ちょっと言わせてもらって良いか?」
「・・・何?」
「ちょっと恥ずかしいこと言うぞ?正直、マリスの・・・その、色々なとこには、まあ、目がいって大変というか、どきどきするというか、ちょっと不健全なこととか考えることもあるけど・・・けどさ、俺はマリスの魅力がそれだけだなんて思ったことは今までに全く無いんだが?」
「え?」

マリスの良い所はたくさんある。だから、俺はマリスの気持ちを受け止めて、ちゃんと選択肢の1つに入れているのだ。そうじゃなければ、とうの昔にごめんなさいと告げている。

「たとえば、今日の今の状況。マリスは俺が疲れてるって思ったからこうやって夜遅いのに起きて、それで整体してくれてるんだろ?後、俺とマリスが仲良くなったきっかけのあの事件の時にしたってそうだ。マリスは俺に迷惑かけたくないから、最初は自分を犠牲にしようとしたよな?後、俺が帰ってきた時に泣いてもくれた。」

つまるところ・・・マリスはリリアとは違う形ではあるけれど、とても優しいのだ。そして、その優しさが俺を何よりも惹き付ける。決して派手ではない、けれど確かに力強く俺を惹き付けるマリスの魅力。それにマリスは気付いてないのか?

「俺は、その・・・マリスのこと好きだぞ?愛してるとかまでは言わないけど、少なくとも普通の友達以上に想ってる。いつか選択の時にマリスを選んだとしても、俺は決して後悔しない自信もある。それだけ、俺を惹き付ける魅力をマリスは持ってる。」

俺はうつぶせの状態で、恥ずかしい告白を続ける。俺の背中の上にいるマリスが息を呑んで俺の言葉を聞いているのを感じて、俺は一番言いたいことを告げる。

「自信が持てない、自分が信じられないって言うなら・・・マリスを見てる俺を信じろ。俺は、マリスに、とっても魅力を感じる。」
「レイ・・・」
「分かった?」
「ええ・・・ありがとう、レイ。あなたを好きになって良かったって、本当に思うわ。」

そう言って、マリスはそっと俺の背中にもたれて―――――だから、待て!

「おい・・・おいっ!?」
「レイ・・・」
「いや、そんな静かな声で呼ばれても!って言うか、キララは!?」
「レイが話し始めた辺りで部屋を出て行ったわ。気を遣ってくれたのかしらね?」

まじですか!?確かに、これは俺のマリスへの思いの告白みたいなもんだから、第三者が聞くのは失礼だと判断するキララの行動は理解できるけど!けれども!今の状況でキララがいないのはやばすぎます!

「ま、マリスっ・・・そ、その、ちょっ・・・」
「レイ・・・私は、いいの・・・ううん、レイだからこそ、私は・・・」
「待て、待ってくれ!その、ほら、こういうのは良くないよな?勢いだけっていうか、後々に禍根を残しそうなことはお互いに嫌だろ?」
「私は残らないもの。たとえレイが選んでくれなくても、レイが私のことを、そう見ててくれているなら・・・」
「マリスっ・・・」

もはやマリスと俺の距離は0!俺の背中に柔らかいマリスの胸が当たって、俺の首筋にはマリスの吐息がかかってて、2本の細い綺麗な腕は俺の首に回されていて――――
ま、まじで理性が切れる!

「レイ・・・私を、抱―――――」
「はい、そこまでっ!」

‘ゴチィィィィン・・・・’
突如として飛来した大鍋が、したたかに‘俺の’頭に激突した。

「ぐおっ!?」
「れ、レイ!?」
「まったく・・・人が気を利かせてあげれば変なことしてるし。」
「き、キララ・・・」
「マリス。あなたの気持ちは分かるけど、そんなことしたら後で苦しむのはレイよ?中途半端にマリスを利用したって悩むのは目に見えてるじゃない。」
「あ――――」
「レイに言われたことが嬉しくて、お礼をしたかったんでしょ?だったら、別にそんなことしなくてもいいのよ。レイはいつだってあたし達と過ごすだけで嬉しいんだから。」
「・・・ええ、そうだったわね。」
「そうそう。分かったら、さっさとレイから離れなさい!」
「・・・もうちょっと、このままで。」
「離れなさいってば!」
「いいじゃない。レイも満更じゃ無いみたいだし。」
「こんの・・・離れないってばっ!」

キララがずんずんとマリスに近づいてきて、俺の上で何やら激しく口論を始める。・・・キララ、気付いてくれ。
マリスが抵抗するたびに俺に触れてる部分が柔らかく形を変えてるわけで。
そんで、俺はそんな状況なもんだから動きたくても動けないわけで。
マリスにもうその気がない以上、俺は耐えるしかないわけで。

「・・・俺、精神的な疲れは減らないんだな・・・」

そう呟くしかなかった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/04(月) 10:35:48

ぺあれんつ13!

「レイ。ちょっと出かけてきて。」
「・・・は?」

いつものように店を開いて、いつものように最高の売り上げを叩き出して、いつものようにレイと会話をして、いつものように店を閉じた後。
あたしはいつもとは違って、レイにすぐに出かけるように言った。

「そうね・・・3〜4時間ぐらい、どっかに出かけてきてくれない?」
「いや、ちょっと待てよ。」
「何?」
「別に時間を潰す方法ならあるからいいけど、どうして出かけないといけないんだ?」
「昨日、ちゃんと言ったでしょうが。これから、女の子だけの話し合いをするのよ。」
「・・・本気だったんだ、あれ。」

本気かって?本気に決まってるでしょう。
姫様との溝を埋めるには、思いっきり腹を割って話し合うしかないと思う。けれど、姫様は遠慮する方だし、あたしも普通のままじゃ姫様に敬意を払って話し合うどころじゃないだろうから・・・・今日は‘秘密道具’を持ってきた。
問題は、これを使う時にレイには側にいて欲しくないってこと。
何せ、何が起こるか分かったもんじゃないのよね・・・

「だからお願い。悪いんだけど、レイには聞かれたくないこととか話すと思うから・・・」
「俺に聞かれたくないこと?」
「・・・その、レイについて、色々と話したいから・・・レイっていう点でしか、あたしと姫様の共通点って無いし・・・」
「あ、そういうこと・・・分かったよ。しばらく店を開けてれば良いんだな?」
「うん。よろしくね。」

まあ、別に嘘を言ってる訳じゃない。きっと、あたし達の話はレイについてが中心のはずだから。4人とも、レイを好きっていう想いだけは、同じくらい強い想いで、それ故に交わることのない想いだから。

「ま、これでキララとリリアが仲良くなってくれるなら嬉しいんだけどな。きっと、2人とも良い友達になれると思うよ。結構、根っこのところは似てるから。」
「・・・やっぱり、姫様のこと、よく知ってるのね・・・」
「え?何か言ったか?」
「気のせいじゃない?」

はぁ・・・これから仲良くなろうとしてる相手に嫉妬か・・・本当、あたしって嫌な子よね・・・レイが、あたしよりも姫様に惹かれてるっていう事実が、すごく辛くて、けど当然と思ってて・・・ああ、辛いなぁ・・・

「それじゃ、しばらくしたら戻ってくるから。帰ってくるまでには終わらせておいてくれよ。」
「分かってるわよ。」

レイはそう言ってさっさと裏口から外へと出かけていった。
ああいう物わかりのよさとか、さり気ない気の遣い方もあたし達が惹かれている原因なんだろうなぁとぼんやり考えてみる。口には出せないけれどね・・・恥ずかしいから。
そう言えば、レイって最近は随分と恥ずかしい言葉を口に出す機会が増えてるわね・・・まあ、格好良いし、あたし達のせいでもあるんだろうけど。何というか・・・

「あたしだけに、だったらな・・・」

思わずそう呟いてしまうのは別に不思議な事じゃないと思う。誰だって、一番好きな人には自分にだけ特別な言葉を使って欲しいと思うはずだし。まあ、あたしがいつからこんな乙女思考になっちゃったのかは知らないけど。

「あたし、すっかりレイに染められてる・・・?」
「レイがどうしたの?」
「ああ、大したことじゃないのよ。ただ、ね・・・」

後ろで作業していたマリスが、あたしの言葉に耳を止めるが誤魔化しておく。
昨晩のせいもあってか、今日のマリスはとっても上機嫌でレイと接していた。今までよりもずっとレイへの想いを正直に表してる気がする。

そう。
あたし達の誰もが自分の心の中で、もしくはレイの前だけではその思いに正直になれる。レイを誰にも譲りたくないという想いを確信できる。
けど、立場的に敬うべき存在の王女様の前では、お互いに遠慮し合ってどうも歯がゆい。

「マリス。ちゃんと店の扉、閉めてきた?」
「ええ、キララの言うとおり二重に閉めたわよ。けど、そこまでするの?」
「するわよ。だって・・・」

あたしは、秘密道具を棚から取り出してマリスに見せる。

「これ、使うもの。」
「・・・キララ、本気?」
「こうでもしないと、あたし姫様に遠慮するから。それは、きっと姫様も一緒だと思うしね。」
「そうね・・・そうかもしれないわね・・・分かったわ、付き合ってあげる。」
「フォルトと姫様は?」
「もう向こうで席に着いてるわよ。」

マリスが促した方へ、あたしは足を踏み出す。
これから自分がやることは、結構勇気がいることだけれど、絶対に必要なことだと思うから決して止めるつもりはない。そして、姫様も必ず乗ってきてくれると確信できる。
あたしは、姫様達が座っている机にどんと秘密道具を置いた。
丸い机に、あたし、姫様、マリス、フォルトが等間隔で座っている。

「あ、あの、キララ様・・・これは?」
「これ使うの!?」
「当然でしょ。こうでもしないとお互いに・・・ね。」

あたしはそれを握りしめて、真剣な目で3人を見渡す。

「始める前に言わせて貰うわ。あたしは、レイが好き。そして、姫様にもマリスにもフォルトにも、どれぐらい好きかってことを分かって欲しいって思ってる。けど、これはあたしの一方的な考え。だから、自分はいいって思うなら別に強制はしない。ただ、あたしの独白だけ聞いてくれればいい。」
「キララ様・・・私も、レイ様が好きです。キララ様に負けないくらい、レイ様が好きです・・・ですから、私も聞いて欲しいです。私の想いの強さを、全て。」
「私は最初からやる気よ?」
「う〜ん・・・ま、ここまできたらやるしかないでしょ。あたしも乗った!」

全員の同意を得て、あたしはその秘密道具に力を込めた。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/04(月) 10:36:52

ぺあれんつ14!

「・・・本当、何してるんだろうな・・・?」

俺は今、ヴェロンティエから少し離れた通りにいる。
キララに時間を潰してこいと言われたものの、結局の所やることが無いのだ。あまりに遠くに行くと万が一、何かあった場合にすぐに対処できない。
ちなみに、何かあったことに気付かないという心配だけはない。何故なら――――

「ミリアさん。俺、まだ帰らない方がいいですよね?」
「そうですね。まだまだ時間はかかりそうですよ。」

今の今まで誰もいなかったはずの俺の背後、そこにいつの間にか絶世の美女が立っていた。
彼女を前にすれば、クレオパトラも楊貴妃もマリー・アントワネットも急いで整形手術に踏み切ったに違いないと確信できるほどの美しさだ。

ミリア・ランクフォード
名前から分かるとおり、キララの実の母親であり、この世界に迷い込んだ俺をヴェロンティエに連れて行って働かせてくれた人で――――いや、この言い方は正しくない。
端的に言えば、ミリアさんの正体は『神』だ。
この世界と俺の世界、それ以外の様々な世界の生命の転生を見守る神。それか彼女の本来の姿だ。ちなみにキララはミリアさんの実の娘だが、人間と神のハーフであるためか神としての能力は持っていないらしい。

「ミリアさんが超能力を持ってるおかげで助かりますよ。本来なら、リリアがいるのに店を離れるなんて出来ませんから。」
「私がこの世界にいる限りは、リリアちゃんがうちの店で危険な目に遭うことは決してありませんよ。もっとも、店を出てしまうとこの世界の命の1つとして扱うため私は手出しできませんけどね。」
「分かってますよ。」

愛娘のためにしか力を使わない神。
見守ることしかしない神。
心を持った神。
けれど、そんな存在こそ神としてふさわしいんじゃないかと俺は思う。

「ときにレイさん。」
「何ですか?」
「今、4人ともレイさんについての本音を暴露しまくってますけど、そのうちの一部分を聞いてみますか?」
「いや、遠慮しておきます。」
「そうですか。キララがとっても赤面もののことを言ってますよ?あ、今度はマリスちゃんが対抗し始めましたね。」
「白熱してますね・・・」
「あらあらあら。キララが劣勢ですか?いけませんね、あの子はもうちょっとレイさんを誘惑する方法を知らないと。」
「何を言ってるんですか・・・」

追記。娘を愛するあまり、ミリアさんも俺とキララを結ばせようとする親ばかの1人だ。

「そうそう。レイさん、もしも元の世界に戻りたくなったら言って下さいね。」
「とりあえず、しばらくは帰るつもりはないですけど。もしも懐かしくなったら頼みます。たまに帰らないと、あの両親は飯を注文で済ませようとするんで・・・」

追記、その2。ミリアさんは異世界へと人間を飛ばすことが可能だったりする。事実、俺が一度元の世界に戻れたのはミリアさんの力のおかげだ。もっとも、1度目も、そして2度目もこの世界に来たのにはミリアさんは関係ないが。

「あらあらあら。今度はリリアちゃんが・・・レイさん。」
「何ですか?」
「リリアちゃんって、発育がキララよりも良いと思いません?」
「何の話ですか!?」
「あらあらあら。フォルトちゃんがショックを受けてますね。」
「本当に何してるんだ、四人とも・・・?」
「そろそろ佳境のようですね。レイさん、もう帰り始めた方がいいでしょう。戻る頃には終わっていると思いますよ。」
「そうですか?それなら帰りましょう。」
「はい。」

そう言って、ミリアさんは俺の腕にそっと――――って、待てぃ。

「・・・何の真似ですか?」
「たまには昔を思い出したくなりまして。」
「昔って・・・ああ、旦那さんとの?」
「以前はこうやって仲良く腕を組んで、あの人と帰ったものですよ・・・ああ、やはりレイさんはあの人と似ていますね。」
「はぁ・・・そんなこと言われたら振りほどけないじゃないですか・・・」

ミリアさんの旦那さん、つまりキララの父親は以前に病気で死んでいる。それ以来、ミリアさんとキララは2人だけでヴェロンティエを切り盛りしてきたのだ・・・俺が来るまでは、ずっと2人だけで。

「少しだけですよ?」
「あらあらあら。レイさん、あまりどきどきしてませんね?ちょっと悲しいですよ?」
「将来、義母さんと呼ぶかもしれない女性に緊張してどうするんですか・・・」
「それもそうですね。将来の義母親に手を出してはいけませんね。」
「変な受け止め方をしないでください。後、あくまで可能性です。断定されても困りますから。」

お城での心労の種が陛下と王妃様なら、ヴェロンティエでの心労の種は間違いなくミリアさんだ。
俺、絶対に近いうちにノイローゼで倒れると思う。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/05(火) 10:09:49

ぺあれんつ15!

とか何とか考えてる間に店に到着。

「・・・レイさん。」
「何ですか、改まって?」
「これからレイさんが目にするものは、おそらくレイさんの想像を遙かに超えているでしょう。ですが、決して目を背けないで下さい。あなたが目を背けて見なかったことにすれば・・・きっと4人は明日、立ち上がることすら困難なはずです。」
「ミリアさん・・・?」
「いいですね?決して目を背けないで下さい。そして、あなたがすべきことを・・・それではお休みなさい。」

そう言って、ミリアさんは先にさっさと店の中へと入ってしまった。
それにしても今の言い回しは何だったんだ?あんな表情のミリアさんの言葉はとても重く、俺の心に切り込んでくるものばかりだ。つまり、あれにもちゃんとして意味があるということだろうから・・・

「考えても仕方ないか・・・」

まずは店の中に入ることが先決だな。




入って店内を覗いた瞬間に、俺はミリアさんの言葉の意味を悟った。

「っ・・ぅ、あぁ・・・」

確かに、俺の想像を超えている・・・超えすぎている。もう、俺の手に負える事態じゃないような気すらしてくる光景だった。

「な、んで・・・こんな、ことにっ・・・?」

目を背けたかった。
何も見なかったことにして、部屋へと走り込んで全てを忘れられたらどれだけ楽だろうか。
けれど、それは選択できない・・・これを、放っておく訳にはいかない・・・
放っておけば、4人の明日は最悪なものとなるから、俺はこの光景から逃げ出すわけにはいかない。

「くそっ・・・どうして、どうしてなんだよっ・・・」

そんな呟きが、次々とわいて出てくる。
俺は一番近くにあった、全ての元凶だろうそれを睨み付けて、つかみ上げた。


「・・・どうして4人とも‘酒’なんて飲んでんだよ!?」


ぶっちゃけて言うと修羅場だった。
辺りに散らばっている酒ビンの臭いが鼻をつく。
そして、空になった酒ビンがいくつも積み上げられた机に、4人はいた。

「ぉえ・・・っぷ・・・」

完全に酔いつぶれて死にかけているキララ・・・下戸だな、ありゃ。

「きゃはははは!キララさん、弱いですよ〜!」

空になったビンを振り回しながら、高らかに笑うリリア・・・笑い上戸かよ。

「うるさいわよっ・・・ちょっと、口閉じなさいよっ・・・」

すっかり、すわってる目で王女様を睨むマリス・・・怒り上戸ってあるのか?

「う、ううっ・・あたしなんて、あたしなんてえっ・・・」

何故か酒ビン相手に涙を流し続けるフォルトさん・・・泣き上戸とは意外だ。

もう何が何だかって感じである。
女の子の秘密の話し合いっていうよりは、むしろ単なる酒乱の溜まり場。正直に言おう。俺は今、初めてこの美女達が恐ろしいと思った。

「・・・ミリアさん、これは・・・荷が重すぎです・・・」

愚痴をこぼすが、いつもならすぐに現れる人は今日に限って音も立てない。
どうやら俺1人で対応しないといけないようだ・・・って、マジで?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/06(水) 17:15:10

ぺあれんつ16!

とりあえず、もっとも騒々しいリリアから動かすことにした。
こんな状態ではお城へと連れて行くのは・・・無理だ。絶対に無理だ。戻るまでに時間がかかるし、何より酔ってるリリアを抱き上げてるとこを陛下達に見つかったら―――いかん、結婚行進曲が聞こえてきた。

「れ〜い〜さ〜ま〜・・・」
「何?」
「ふふふふふふ、愛してますっ!きゃはっ!言っちゃいましたっ!」

・・・いや、きゃはっ!って・・・性格、変わりすぎじゃねえか?

「私は〜私の想いは〜、キララさんにも、マリスさんにも、フォルトさんにも、ぜ〜ったいに負けてなんかいませんよっ!」
「分かってる、分かってるって・・・」
「本当ですか!嬉しいですっ!」

おんぶされているため、俺の背中でリリアは何やら体を揺らして喜んでいる。正直な所、いつものリリアと違いすぎて、ちょっと新鮮。けど大変。

「もう、絶対に4人に酒は飲ませるもんか・・・」
「レイ様〜?何かおっしゃいましたか〜?」
「いや、大したことじゃないって。」
「分かりました!・・・はふぅ〜・・・レイ様の背中ってあったか〜い・・・」
「それはどうも。」
「今、この背中は私だけのものですよね〜?うふふふふふふ・・・レイ様、私の一番の夢を聞いて欲しいです!」

リリアの、一番の夢・・・?はて、一体どんなんだろう?俺と結婚したいとかだろうか?それなら、まあ嬉しいことだね。

「いつかは、レイ様の心も〜、体も〜私だけのものにしたいです!」

・・・いや、普段は大人しいリリアさんの口から聞くと、とっても甘美なお言葉で。

「聞きましたよ〜、マリスさんに、迫られたのですね〜?」
「・・・聞いたのか。」
「うふふふふ。レイ様の秘密を1つ知っちゃいました。レイ様〜、ひどいですよ〜」
「ああ、ごめんな。」
「私だって〜、レイ様がお望みになるのならいつだって〜・・・きゃー!恥ずかしくって言えません!」

いや、自分で言いかけたんだろう・・・?
と言うか、リリアさん。大胆すぎです。気をつけて下さい、男はみんなオオカミです。
なおも俺の背中で高笑いするリリアを、ようやく俺は自分の部屋に連れてくることが出来た・・・いや、別に変なことをする気は欠片もないよ?

「今日はここで寝てろよ。」
「は〜い。レイ様〜明日は〜レイ様に起こしてほしいで〜す。」
「分かった分かった。」
「あはっ!それじゃ、おやすみなさ〜い・・・くぅ・・・」

いや、俺の背中で寝て貰っても困るんだけどね?


つづいて怒ってるとはいえども、酔ってる姿は色気が5割増のマリス。

「まったく・・・レイもレイよ・・・何だって、あんなに可愛い子達が周りに多いのよ?」
「いや、俺に言われても。」
「口答えする気?」

俺の肩を掴む手に力が込められる。痛くはないけど、背後からの無言の圧力が怖い。

「・・・すいません。」
「ふん・・・どうして、私1人じゃないのよ〜。それだったら、今頃はレイと2人っきりで仕事して、ご飯食べて、一緒に寝て、色んな事やってるっていうのに・・・」
「2人っきりというのを除けば、最後の以外はやってるだろ?」
「その2人っきりっていうのに意味があるのよ・・・それぐらい、分かりなさい。」
「さようですか・・・」

マリスはさらに俺に体重を掛けて、その顔が俺の頬のすぐ横へと迫ってきた。

「レイはねぇ〜・・・誰にでも優しすぎ〜・・・だから〜こんなことになってるのよ〜」
「かもな。」
「も〜少しぐらいはねえ〜、差を付けなさいよ〜・・・私達はね〜4分の1じゃないんだからね〜・・・」

・・・4分の1じゃない。なかなか俺の心に切り込んでくる言葉だな。
俺としては、4人とも魅力的な女の子で、それぞれに特別な好意を抱いているわけだけど・・・彼女たちからしてみたら、自分たちが一個人として扱われているかは分からないんだろうな・・・それは、悲しいことだ。

「うん・・・ごめん。」
「謝るな〜・・・レイなんて〜嫌い〜・・・」
「そうなの?」
「嫌い〜」
「そうなんだ。」
「嫌いだけど〜・・・その倍は愛してる〜・・・」
「結局そうなるのかよ・・・」
「愛してるからね〜・・・馬鹿〜・・・」
「もう言ってることがわけ分からん・・・」
「ん〜・・・じゃ〜、大好き〜・・・ふんっ・・・」
「・・・ありがと。」

最後は怒りながらも、随分と恥ずかしいことを言ってくれたマリスさんでした。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/12/07(木) 10:12:24

ぺあれんつ17!

ある意味で、最も意外な酔い方をしているのはフォルトさん。

「うっ・・ううっ・・・レイ君っ・・・レイく〜んっ・・・」
「はいはい。泣くなって。」
「だって、だってぇ・・・あたし、あたしなんかぁ・・・うぅっ・・」

俺の背中で泣きじゃくるフォルトさん。その涙が俺の首筋を濡らしていくのは、正直なところ、ちょっと辛い。何だか胸の辺りが苦しくなる。

「ごっ・・ごめんっ・・・ごめんねっ・・・」
「え?」
「あたしっ・・・あたしっ・・・キララほどっ、レイ君のことっ、し、知らっ、な、いのにっ・・・まっ、マリ、スみたいにっ、おっ、大人びてっ、ないしっ・・・ひっ、姫様っみ、みたいにっ、れ、レイっ君っ・・・まっ守ってっ、あげっれっないっ・・・」
「フォルトさん?」
「あ・・・あたしっ、なんか、がっ・・・レイ君っ、のっ、ことっ・・・好きでっ・・ご、ごめっ、んっ・・・ごめ、んっ・・・」

おいおいおいおい?マリスといいフォルトさんといい、一体どうして俺の周りには自分に自信のない女性がこうもおられるんですか?
これはあれか?俺に言ってくれと?俺がどうしてフォルトさんを選択肢に入れているかを言ってくれということか?オーケーオーケー。ならばお望み通り言ってあげようじゃないか!多分、明日には忘れてるだろうけど。

「フォルトさんってさ・・・いつも元気だよな。」
「ひんっ・・・ひっくっ・・・」
「だからかな?俺、いつも朝起きてから、フォルトさんに挨拶するの楽しみにしてる。」
「ぅっ・・へっ・・・?」
「フォルトさんが元気がいいと、俺も頑張らないとって思える。フォルトさんやる気をだすと、俺もすごくやる気が出る。フォルトさんが笑ってくれると、俺も自然と笑顔になる。フォルトさんがいてくれると・・・俺は、嬉しい。」
「・・・レイ、君っ・・・?」

ちょっと涙も止んだようで何よりだし、最後の詰めというか・・・俺が4択である理由をちゃんと伝えておこう。俺自身の確認のためにも。

「だから、俺はフォルトさんといたいと思う。たとえ未来がどんな方向に行ったとしても、それでも俺はフォルトさんと友達でも、恋人でも、どんな関係でも一緒に笑って居ることが出来ればいいなって思ってる。俺に一番そう思わせるのは・・・俺に、ここで生きようって気を一日の初めに起こさせてくれるのは・・・フォルト、なんだよ。」

どさくさに紛れて呼び捨てにしてみる。フォルトさんの耳には届いてるはずだけど、あまり反応はない。まあ、別に期待してたわけでも無いけど。

「・・・ぅ・・・」
「フォルト?」
「ぅ、うっ・・・れ、レイ、君っ・・あり、がっ・・・と・・あ、りがとうっ・・・」
「いや、だから泣かないでくれって。」
「だっ、てぇ・・・レイ、君がぁっ・・・やさっ、しい・・からっ・・・止まんっないんだ、もん・・・うれし・・くてっ・・・我慢、できっ・・ない・・・」
「・・・はぁ・・・分かったよ。俺の背中で好きなだけ泣いてください。」
「レイ、君っ・・・ありが、とっ・・だいっ・・好きだようっ・・・」

フォルトさんの涙は相変わらず俺の背中を流れ続けるが、何故かさっきまでの苦しさは全く感じなかった。むしろ、その涙が暖かいと感じたのは気のせいじゃないと思う。


最後に、一番静かに寝て―――いや、ぶっ倒れてるキララ嬢。

「うぅん・・・んっ・・・」

そういえば、酔ってる時のキララってかなり色っぽい声を出すんだったな・・・忘れてた。
さて、3人と同じようにおんぶ――――起きてくれそうにない。加えて、先程のフォルトさんの涙で俺の背中は濡れてる。つまりは―――――

「もう、何回目だろ・・・お姫様だっこ。」

そう呟きながら、俺はキララの膝を脇に手を入れてひょいと持ち上げる。
俺の力が5倍になっているとか、そんなのは一切関係なくキララの体はとても軽かった。
目を閉じてるキララの顔は、やっぱりいつ見ても整っていて引き寄せられる。理性が壊れるどころか、理性がキスを肯定するよう顔なので困るんだよな。

「んっ・・ん?・・・れ、いぃ・・・?」
「寝てろって。頭がぐらぐらしてるぞ?」
「ん〜・・・レイ〜・・・もうちょっと、ぎゅってしてぇ・・・」

――――あれ?

「キララ、さん?」
「ぎゅってしてよぉ・・・」
「いや、そうじゃなくて。何を仰ってらっしゃるんでおられますか?」

もう何が何だか訳が分からん言葉づかいになった!
待て!一体全体、どうしてキララは突然こんなに甘えんぼさんに―――――あれ?思い返せば、以前にキララが酔った時もキララは何か言ってたな・・・

『レイ〜・・・ずっと、一緒なんだからね・・・』

・・・まさか、キララって・・・

「下戸から派生する甘え上戸なのか・・・」
「む〜・・・レイ〜・・・」
「は、はい?」
「ぎゅ〜。」
「ぎゅ、ぎゅ〜?」
「うん。ぎゅ〜ってしてぇ・・・」

やばい・・・めちゃめちゃ可愛い。良いんじゃない?別に変なことするわけでもないしぎゅってするぐらいなら良いのか?良いのか!?どうする!どうするよ俺!?

「ん〜・・・マリスには、誘惑されたくせにぃ・・・」
「ぎくり。」
「ぎゅ〜ってぐらい、してよぉ・・・レイぃ・・・」

そう言いながら、キララは濡れた瞳で儚げに上目遣いで俺を見つめる。
ぐはぁっ!!すいませんすいません。俺はこの世界に来て初めてかもしれないことをします。けど、ちゃんと最低限、人として捨ててはいけない節度は守ります。だから!だからちょっとだけ理性を置かせてください!
静かに、けれどキララに温もりが伝わるようにしっかりと、俺はキララを抱きしめる。

「んっ・・・」
「こ、これで、いいですか・・・?」
「うん〜・・・あったか〜い。レイは〜気持ちいいよぉ〜・・・」
「・・・お前、時々分かってやってるんじゃないかって思うことあるよ。」
「ん〜?えへへへへ〜・・・レイ〜・・・」

‘ぎゅぅっ’
キララが俺の服の襟の部分を掴んで自分の顔を俺の胸に寄せてくる。その様子は、この状態が続くなら他の全部を投げ出していいかもと思わせるぐらい、無邪気だった。

「父親でも、思い出してんのか・・・?」
「何〜?」
「いや、何でもないよ。あまり動くと危ないから・・・その、つかまってろ。」
「うん・・・やったぁ・・・」

何となく穏やかな雰囲気になったので、俺はさっさとキララを部屋へと運んだ。ちょっとマナー違反だが扉を足で開けて、そっとキララの部屋に入ってベッドに乗せる。

「レイ〜・・・一緒に寝ない〜?」
「それは却下だ。布団を被ってしっかり眠りたまえ。」
「む〜・・・レイみたいに〜あったかくないぃ・・・」
「ったく・・・」

俺は自分の上着を一枚脱いでそっとキララにかぶせてやる。キララは最初、もぞもぞとそれをいじっていたが、やがて納得したのかそれを抱きしめたまま眠りに落ちていった。

「やれやれ・・・本当、俺って愛されてるね・・・」

キララにも
リリアにも
マリスにも
フォルトにも
いつか、誰を選んだとしても、きっと俺は笑っていられそうだ。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/08(金) 10:39:30

ぺあれんつ18!

‘     ゴチン    ’

「・・・ん?」

椅子から落ちた俺は半分くらい閉じかかっている目をこすりながら背伸びをする。
あれ?俺、どうして椅子なんかで―――――あ、そっか。昨日はリリアに俺のベッドを貸してたんだっけ。
その後で急いでお城に報告に行ってリリアの外泊の許可を得て、お店に戻ってきてから酒宴の後かたづけをして、どこで寝ようか考えるために椅子に座って悩んでたらグラグラってきて――――

「そのまま、寝ちゃったんだな・・・」

まあ、試験前の勉強で椅子に座ったまま寝るのは慣れているから体が痛くなるとかは無いし、それほど寒くもなかったから風邪を引いたということもないようで。ん、問題なし。

「さてと・・・ミリアさん。」
「はい、何でしょう?」

例のごとく、音も立てずに俺の背後に現れたミリアさんに俺は当然の疑問を投げかける。

「今日、お店は休みということでいいんですかね?」
「そうですね。キララですから・・・それに、他の3人の子達もどうでしょうね・・・」
「リリアは俺がお城まで送っていくんで問題ないですけどね。マリスとフォルトの方も面倒見て貰えませんか?」
「レイさん。私としては―――――」
「『弱っている女の子を優しく看病して好感度アップ!』なんてイベントを起こす気はありませんので。フラグは充分に立ってますから。」
「――――そうですか。」

あ。何かすっげえ悲しそうな顔してる。あれか?そんなに俺に先読みされたのが悲しかったのか?だったら、もう少しパターンを変えてみてください。毎回毎回あなたの言うことは変わり映えしないんですから。いや、変えられたら困るんだけどね。

「それじゃあ、4人をよろ―――――」

‘バンッ!・・・ドタドタドタドタドタ・・・・ガシャンッ!’

「・・・以前にも聞いたことのあるような音ですね。」
「キララだと思いますか?」
「いえ、音の発生源からしてフォルトさんの部屋じゃないかと。」
「正解ですよ、レイさん。」

ちょっとだけ待ってみると、やがて階段を一段飛ばしで降りてくる人影が見えた。

「れれれれれれれれレイ君っ!いるっ!?」
「おはよう。」
「おはようございます、フォルトさん。」
「っ〜〜〜〜〜!!」

俺と目を合わせたフォルトさんは、あっという間にリンゴのように――――あれ?

「えっと・・・フォルトさん?」
「なっ、なななな何かかかかななななっ!?」
「いや、落ち着けよ。意味分かんねぇから。」
「お、お、落ち着いてっ、るよっ!?」
「何処がだよ。」

何だってこの人はこんなにも顔が真っ赤に動揺しまくってらっしゃるんでしょうか?何か恥ずかしいことでもして―――――あ。

「ひょっとして・・・・‘覚えてる’のか?」
「はうっ!」
「昨日の酒宴の後、フォルトさんが俺に何を言って、俺がそれに何と答えたかをしっかりと覚えてるんだな?」
「はううっ!」
「ふむふむ。フォ・ル・ト。」

敢えて一音ずつ呼び捨てにしてみた。

「はううううっ!お願い、レイ君!昨日のあれは忘れて!あれは夢なの!そう、悪夢なのよっ!つい酔いに任せて本音が出ちゃったとかそんなんじゃなくって、レイ君の言ったことが無駄かっていうとそんなこともなかったりするけど覚えてないということにしとかないとあたしの頭がもう限界っていうかすでに――――」
「『あたしなんかが、レイ君を好きでごめん。』か・・・ちょっと驚いたな〜、フォルトさんが、そんなに殊勝なことを考えてたなんて。」
「はうっ!」
「『レイ君が優しいから〜』って言った時のフォルトさんは新鮮だったな〜。」
「はううっ!!」
「分かったよ。つまり、フォルトさんが自分に魅力が無いって思ってて、それを俺に愚痴って泣き出したから俺が慰めて、やっぱりフォルトさんが今度は嬉しさで泣いちゃったことは忘れるように努力するよ。」
「そんな気、絶対に無いいいいいい!!」
「うん。」

顔を真っ赤にしながら半泣きのフォルトさんを見て。
ああ、やっぱりフォルトさんはこうでないとな〜。と考えたのは言わないでおこう。下手すると、頭に血が上って倒れるかもしれんから。

「まあ、冗談はさておき。」
「ううっ・・・レイ君がいじめる・・・」
「昨晩は酔いつぶれた4人の面倒見てやったんだからこれぐらいの仕返しはさせろ。」
「4人・・・あ〜、やっぱりマリスとキララも倒れちゃったの?リリアは早いうちから笑い出したんだけど。」
「ああ、大変で――――」

――――おや?今、一瞬だけど何か違和感があった気が・・・?

「フォルトさん。今、何て言ったの?」
「え?だからマリス達も倒れちゃったの?って・・・」
「その後。」
「‘リリア’は早いうちから笑い出したんだけど。って言ったけど?」

違和感の正体判明。

「・・・呼び捨て?」
「え?」
「いや、今フォルトさん、リリアって呼び捨てにしたから・・・ちょっと驚いて。」
「ん?そう言えばそうだね。」
「何かあったのか?」

俺の言葉にフォルトさんはん〜と首をひねって考え込む。
しばらく悩んで――――

「よくわかんないけど・・・何か、昨日一晩話し込んでたら、ね。リリアって呼ぶ方がしっくり来てるの。それだけ。」
「ふ〜ん・・・そりゃ、良い傾向だな。」

それは、リリアが少しずつこの店に馴染んでいく証拠だと思う。キララとマリスもリリアのことを名前で呼んでくれると思うのは、決して間違ってないという考えが今の俺にはあった。

「さてと・・・それじゃ、フォルトさん。」
「何?」
「本日、キララは使い物になりません。」
「ああ、分かる分かる。」
「マリスは?」
「キララと一緒。」
「ならば、分かりますな?」
「ふむふむ。今日はあたしとレイ君の2人っきりだねっ!愛の巣を作っちゃおう!」
「お店は休みです。」
「ぶーぶー!つまんな〜い!」
「『あたしなんかが、レイ君を・・・』」
「ごめんなさい。お願いだから忘れてください。」

うむ。これはしばらく使えそうだ。マリスやリリアの記憶がはっきりしていたら2人にも試してみよう。キララは覚えてないだろうから断念。無念。

「まあ、売り上げ無しっていうのは寂しいから。ちょっと簡単なお菓子を作るから手伝ってくれ。幸いにも、フォルトさんは無事みたいだし。」
「あたしはお酒は大丈夫だもん。」
「そりゃ心強いや。」

さてさて。キララ達が起きてくるまでもう少し時間があるようだし、今の内にやれることをやり始めるとしますかね。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-oFpSr] 2006/12/09(土) 13:52:29

ぺあれんつ19!

‘ドダンッ!・・・バタン!バタバタバタバタ・・・・ガタン!’

「・・・だ〜れだ?」
「音源から察すると、マリスじゃないかと思う。」
「それでは、正解を確かめてこよ〜。」

フォルトさんに促され、俺は階段をタンタンタンと駆け上がってからマリスの部屋をノックする。

‘コンコンコン’
「お〜い。無事か〜?」
「れ、レイっ!?は、入ってこないで!お願いだから絶対に来ないで!」

うむ。正解だったようだが・・・入ってこないで?つまり、これは―――――

「俺、嫌われるようなことしたか?」
「そんなのじゃないの!け、けど――――」
「そう言えば、昨日も『レイなんて嫌い〜』って言われたなぁ・・・」
「っ!」

扉の向こうでマリスが鋭く息を呑んだのが聞こえた。やはり覚えていたか・・・

「れ、レイ・・・その、あれは・・・」
「んで、その後には『その倍は愛してる〜』だっけ?いや〜、マリスに愛してるなんて言われたの初めてだったから、すっげえ緊張したよ。」
「うっ・・・ああ、もう・・・恥ずかしいのよ・・・」
「そうか。けど、マリスに言われたあれは効いたよ。」

『私達はね〜4分の1じゃないんだから』

「・・・ごめんなさい。レイが、そんなこと考えてないって分かってるのに、あんなこと言って・・・本当にごめんなさい。」
「いや、それを一番気にしないでくれって言いたかったんだよ。少なくとも、マリスにそう思わせちゃったっていうのは事実だからな・・・差なんて、付けられないけど・・・けど、これからはマリスが4分の1じゃないって分かって貰えるようにしようって思うよ。だから、ごめん。あと、ありがとうな。」
「・・・レイ。」
「ん?」
「あの・・・昨日、私がレイに言った・・・嫌いっていうのは、全部嘘なのよ?だから、その・・・」
「大丈夫だって。マリスの心を離してないくらいの自信はあるからな。」
「・・・ありがとう、レイ。」

ようやく、マリスの声にいつもの冷静さが戻ってきたようで何より。まあ、メンタルの方はこれでいいとして、問題は――――

「マリス、頭の調子は?」
「・・・思い出したら、痛くなってきたわ・・・っ・・・」
「それじゃ、今日は店はやらないことにしたからゆっくり休んでろよ。」
「分かったわ・・・」
「後で、俺がマリス用に特製の病人食を作ってやるよ。」
「・・・楽しみに、してるわね・・・」

まあ、実際はキララにも作ってやることになるんだが・・・それでも、同じのを作ることはしないようにするつもりだ。
キララはキララ。マリスはマリスの好みってのが、今の俺には分かるからな。だったら、ちゃんと区別をするのが俺の仕事で―――――

‘バタン! ドタン!・・・ガッシャァンッ・・・’

その時、私はマリスの部屋から離れた場所からとても大きな音を聞きました。
何故か英文和訳調になってしまったが、とりあえず今回の音源ははっきりと分かる。だって、マリスの部屋の隣がキララの部屋だから。
つまり、あの音は―――――

「さて・・・覚えてるから暴れてるのか、覚えてないから暴れてるのか・・・?」
「・・・リリアでしょ・・・?」
「ああ。んじゃ、あっちの方にも行くとするか。」
「・・・後で、よろしくね・・・」

マリスもちゃんとリリアを呼び捨てにしていたことに、内心ちょっと安堵しながら俺は自分の部屋、つまりはリリアを運んだ部屋へと足を進める。

といっても、さして離れているわけでもないのですぐに到着。
礼儀正しくノックからやってみる。
‘コンコン’

「リリア、起きたよな?」
「れ、レイ様っ!?」
「入っていいか?」
「は、はい・・・」

ドアを開けて部屋へと踏み込む。
目に付いたのは、派手に倒れている俺の机と、その上に置いていた色々なものが散乱している床。
そして、毛布にくるまってベッドの上で丸くなっているリリア。

「れ、レイ様・・・お、おはようございます・・・」
「おはよう。」
「あ、あの、レイ、様っ・・・その、昨日の、ことなの、ですがっ・・・」
「『私の一番の夢を聞いて欲しいです!』」
「っ!!」

ふむ。4人中3人は正常な記憶保持者と・・・しかし、リリアの場合は一筋縄ではいきそうにない気が・・・

「リリア。ひょっとして、俺に会わせる顔がないとか思ってる?」
「・・・はい。」
「だから、そうやって丸くなってる?」
「・・・はい。」
「やっぱりな。」
「・・・私ははしたない女です・・・きっと、レイ様も私になんて幻滅してしまわれたでしょう?もう、私のことなど選ぶ価値などないなどと―――――」

ネガティブ思考に走っているリリアに近づき、毛布の上から間接的にではあるけれど、俺はその背中にポンと手を置いてやる。
腕の中で、リリアの体がびくりと震えたのが分かった。

「思ってない。」
「・・・そんなこと、あるわけがありません・・・私は、あのようなっ・・・」
「思ってないったら思ってない。」
「だって、私は・・・あれほど、馬鹿なことを・・・」
「けど、本音だろ?あれも、ある意味ではリリア・キルヴァリーなんだろ?だったら、俺はそれを受け止めたいって思うよ。あれぐらいで幻滅なんかするわけないって。似たようなことは、既にキララにもマリスにも言われてるしな。」
「・・・本当、ですか?」
「もちろん。」

もぞもぞと可愛らしく布団から顔を出したリリアは、少しだけだが目に涙を浮かべていた。きっと、不安だったんじゃないかと思う。昨晩みたいな醜態を、よりにもよって一番好きな人に見せてしまったというのだから、王族としての誇りを持っているリリアには、その事実は余計に重く感じたと思う。
だからこそ、俺はそんなリリアの重しを外してやりたいと思う。何せ、基本的に笑顔が似合う娘さんなのだから。

「頭は痛くないか?」
「少しだけ、痛いです。」
「そっか。お城には俺が送っていくよ。もちろん、誰にもばれないように工夫はするから心配するな。」
「ありがとうございます。」
「ん・・・リリア。」
「はい。」
「大好き。」
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

ガバリと布団をはねのけて起きあがったリリアは、涙なんか何処へ飛んでいったのかという表情で俺を見つめていた。もちろん、めちゃめちゃ真っ赤である。

「よし、元気が出たようで何よりだ。」
「れ、れっ、レイ、様っ!?」
「ちなみに、大好きというのは友人としてであって、残念ながら選択したという意味ではない。」
「あ―――――ひ、ひどいですっ!」

リリアは拗ねるような表情を見せるが、今の俺にはそれが照れ隠しだと分かる。

「そうそう。リリアはそうでないとな。笑顔が一番。」
「私、笑ってますか?」
「心が、ね。」

リリアは一瞬だけ驚いたように目を開けて、すぐににっこりと微笑んだ。
それは、今朝から言ってきた恥ずかしい言葉よりもずっと、俺の鼓動を高鳴らせてしまうもんだった。ラッキー♪

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-hucBY] 2006/12/10(日) 12:40:12

ぺあれんつ20!

「そして、俺はキララの部屋の前に辿り着いた。」

いや、声に出す意味は無かったんだがな。何となく状況の説明をしないといけない脅迫的観念に駆られたんだよ。

「お〜い、キララ〜。起きてるか〜?」
「痛ぃ・・・」

起きてるようだった。しかし、朝一番の挨拶がそれか・・・随分と重傷だな。まあ、あれだけ呑んでれば当然かもしれんけどさ。
キララは酔った時の記憶は失うタイプの人間だからある程度の状況だけ伝えておけばいいだろう。さすがに、自分があんだけ恥ずかしいこと頼んで、あまつさえ俺がそれに応えたなんて分かったら―――――

『あたしの誘惑に乗ってくれた・・・その、期待するわよ?』
『レイ様っ・・・わ、私は、諦めませんから!』
『そう。レイは今のところはキララが一番なのね。』
『あたし、なんか愛人みたいな立場?目指せ略奪愛だね!』

――――あれ?俺が一番大変な状況に陥ってますか?何故だ・・・

「れ、れぇいぃ〜〜・・・」
「どうした?地獄からの使者。俺の魂はくれてやれんぞ?」
「誰が地獄からの使者よっ!っ〜〜〜・・・」
「ふむ。重傷ってことな。それじゃ、後でちゃんと頭とお腹に優しい料理を作ってきてやるから、安心して寝てろ。」
「くうっ・・・ちょ、ちょっと、待って・・・」
「ん?」
「その・・・昨日、の‘あれ’・・・どうして・・・?」

―――――・・・・おや?

「おい、キララ・・・ひょっとして、覚えてるのか?昨日のこと・・・?」
「その、おぼろげなんだけど・・・あたしが、レイに抱えられててっ・・・それで、その後・・・レイ、突然・・・あたし、強く抱きしめられてっ・・痛っ〜・・・」
「・・・覚えてるのな。」

しかも肝心要の、何故?の部分が抜け落ちてますか。それでは期待するどころか、むしろ疑問にすら思いますよね。うん。

「あ〜・・・期待させて悪いけど、あれはお前が言ったから。」
「あたしが、抱きしめてって・・?」
「そうだよ。まあ・・・なんだ、それに乗っちゃったのは、俺だけどな。」
「・・・そう。」
「えっと・・・現在の気分はいかがでしょうか?」
「・・・聞きたい?」

すっげえ聞きたいですとも。
まさかとは思いますが、自分の誘惑にあっさり乗られたからって自分が大切にされてないなんて思ってませんよね?違いますよ。そんなことはありません。ただ単に寝ている時のあなたがメチャクチャ可愛かったんです。それだけです。責められるべきは俺なんですよ?

「教えてくれると色々と弁解しやすい。」
「・・・レイ・・・」
「ん。」
「レイの腕の中は、暖かかったわね。」

レイ・キルトハーツの理性に300のダメージ!分かって言ってるのか!?もう一瞬、部屋に入っちゃおうかと思いましたよ!何のために!?そりゃは、自分が間違ったことしてないって証明するためですとも!

「っ―――・・・ああ、もう。」
「ふふふっ、まあ、たまには酔ってみるのも良いわね。」
「次は世話しないからな。」
「嘘ばっかり。それじゃ、後よろしくね・・・痛たたた・・・・」

何か、今回は完全にキララにしてやられたような気がする。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/11(月) 10:44:52

ぺあれんつ21!

言っても意味がないことというのはいくらでもあるもので。
例えば、逃げる泥棒に『待て!』と叫んだりすることとか。
例えば、テスト勉強していて『時間が足りない・・・』と泣き言を言ったりとか。

例えば、誰1人として言い負かしたことのない女性に腕を引っ張られて店を連れ出された時の―――――


「あの・・・仕事があるんですが?」


―――――という疑問とか。

「すいませんが、急いで付いてきて下さい。」
「いや、付いて来てっていうか、すでに連れてかれてるっていうか・・・」
「走って下さい。」
「テレポート使いましょうよ。」
「あれは私1人の特権なんですよ、レイさん。」
「意外と不便ですね。」

さて、ここで状況をもう一度チェックしてみようか。
朝起きて、いつも通りに店の支度を始める。
キララ達に挨拶をする。
いきなり、ミリアさんが現れて俺の腕を掴む。
あっという間に店の外へと連行。

・・・うん。全く持って理解できん。

「ミリアさん。付いて行くのは良いんですけど、いい加減に目的を教えてくれませんか?こんなんじゃ気分が乗らないし、いまいち全力で走れないんですけど。」
「そうですね。とりあえず、走りながら説明させて下さい。」
「はあ、分かりました。」

そう言って、俺は今までは引っ張られるだけだった足に力を込める。地面を蹴る指先に意思を伝え、そのまま一歩で、朝、まだほとんど人がいない通りから飛び上がって立ち並ぶ店を屋根へと登る。2歩目でミリアさんが目指していた方向へと一気に跳躍する。
もちろん、ミリアさんはそんな俺にあっさりと付いてくるわけだが。

「それで、何があったんですか?」
「結果から伝えます。」

ミリアさんは真剣な表情で、ミリア・ランクフォードという存在の皮を脱ぎ捨てた、神としての表情で俺に真実を告げる。



「私の意思とは無関係に他世界から、何者かがこの世界へと来ます。」



一瞬。一瞬だけその言葉を飲み込むのにためらって、すぐに理解する。
それは本来ならあり得ない事態だ。俺という、親父の発明品を使う存在以外には決して行うことが出来ないはずの行為だ。

世界は無数に存在し、それぞれの世界が保有できる人間の生命力『レーベン』は一定である。限界を超えたレーベンを持った世界は、やがて終焉を迎える。
よって、神と呼ばれる存在が時には自らの超常的な力で人間を異世界へと運ぶ。
これがミリアさんが神である理由だ。
世界を滅ぼさないように、レーベンの調節を行い続ける神。数多の世界を救おうとしている優しい神。

だが、今回は違う。
レーベンの量とは無関係に俺がこの世界にやって来たようなことが再び起きている。

「・・・この世界のレーベンの量は?」
「おそらく、今やって来ている人達の分ぐらいならば平気でしょう。しかし、もしもこのようなことが何度も起こり続ければ・・・」
「くっ!」

あえて言われなかった、聞かなかった言葉の先は想像するのも嫌だ。
何としてでも、やって来た人間を送り返し、場合によっては異世界へと渡る道具を破壊しないと・・・この世界を消させるわけにはいかない!



「・・・何で、予想出来なかったんだろ・・・」

連れてこられたのは、俺が初めてこの世界に飛ばされた時に辿り着いた場所。
以前、ミリアさんに聞いた所によると、世界の境界が不安定になりやすい場所らしい。つまり、ミリアさんの力以外でこの世界に渡ると、確実にここに来ることになるということだ。
話がそれた。
俺が気付くべきだったのは『創世以来、何百億年もの間にわたって、神の力以外で異世界へと渡る手段は存在しなかった』ということ。

つまり、異世界へとミリアさんの力無しに渡る手段はもう一つしか無いわけで。

その手段を使用できるのは俺と、‘その開発者の家族’ぐらいってことで。

「あの、レイさん・・・?」
「ああ。いえ、いいんです・・・大丈夫です。俺が、話しますから・・・」

何やら戸惑っているミリアさんを制して、俺はこちらを笑顔で見ている‘一組の夫婦’の元へと歩いていく。

「よう、‘零’!会いたかったぞ!」
「本当に来れるのね。びっくりしちゃったわ。」

もう、そこにあるのは何の悪意もない爽やかな笑顔で・・・頭が痛ぇ・・・


「とりあえず・・・ようこそ、異世界へ。‘親父、母さん’。」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/12(火) 10:34:58

ぺあれんつ22!

「なるほどな。まとめると、ここは異世界で、そちらの女性が本来ならその世界間の移動を司る存在なわけか。」
「時間の流れは、私達の世界の4分の1で、どういうわけか私達の筋力は5倍になってしまっている、と?興味深いわね・・・」
「理解が早くて助かるよ、親父達は・・・」

事情説明から5分で、どうやら親父達はこの世界を理解してくれたようだ。まあ、非常識を打ち破りまくってる発明家が親父なわけだから、今さら異世界ぐらいじゃ驚かないだろうなとは思っていたけどね・・・

「あの、レイさん。そのお二人は、本当にレイさんのご両親なのですか・・・?」
「悔しいことに、事実です。」
「寂しいことを言うなよ、マイサン!」
「はあ・・・紹介します。こっちが、俺の父親の‘雨谷 凱’そして、母親の‘雨谷 桃’です。親父が発明家で、母さんが医者です。2人とも、この人がミリア・ランクフォード。俺がお世話になってる料理店のオーナー。」
「そうですか。いや、息子が色々とご迷惑をおかけしたようで。」
「いえ、こちらこそレイさんには助けられっぱなしで・・・」
「そんな――――レイ?」
「ああ。こっちの世界での俺の名前だよ。レイ・キルトハーツってのを使ってる。」

納得した様子の親父達に、俺はようやく本題を切り出すことにした。

「それで、これからどうするんだ?戻るって言うならミリアさんが送ってくれるけど?」
「いや、折角ここまで来たのだからな。お前がお世話になっているという人達に挨拶の一つもせんといかんだろう!そう、父親として!」
「さすが、あなた。それでこそ父親の鏡よ。」
「・・・すいません、ミリアさん。そういうことらしいです・・・」
「はい、分かりました。それでは、この世界について色々とお教えしたいと思いますので、しばらくレイさんと離れて私に付き合って頂けませんか?」
「分かりました。それでは、お願いしますね?」
「レイ。後で、お前の働いてるっていう場所に行くからな!」
「ああ、分かったよ・・・みんなにも、そう言っておく・・・」

そう。
俺を好きだと言ってくれるあの女の子達にも、このことを伝えねばなるまい・・・ああ、俺の人生にもはや平穏という言葉は存在しないのか?・・・しないんだろうなぁ。


朝、早い内からレイが出て行ったおかげであたし達は大忙しだ。
レイしか作れない料理は残念ながら本日中止、おかげであたしやマリスの作る料理の量が半端じゃなく多くて――――あああ!もう!レイったら何処に行っちゃったのよ!?と言うか、お母さんはレイを何処に連れて行ったわけ!?
まだ、あたしレイに朝の挨拶もろくにしてないのよ!?レイが厨房に居てくれないとどうも調子が狂っちゃうっていうのに!

「ああ、もう・・・レイの馬鹿っ!」
「キララ、突然何を言ってるのよ?」
「あ・・・ご、ごめん。その、レイが帰ってこないから、つい・・・」
「キララってば、すっかりレイ君中毒になっちゃったねぇ?」
「うるっさい!人のこと言えないでしょう!午前中に何回も注文間違いがあったの忘れてないわよ!」
「あはははは・・・」
「まあ、結局の所・・・私達3人――――リリアも入れると4人ともみんな、すっかりレイがいないとだめ人間ってことよ。」
「・・・改めて考えると、あたし達って情けなくない?」

苦笑しながらも否定しないマリス達に、あたしも苦笑いで返す。
ようやくお客さんも途切れたし、あとはのんびりとちらほらとやってくるお客さんをさばいて、レイがいないなら夕方前には店を閉めちゃっても――――

‘きぃぃ・・・・’
「ただいま。」

とか何とか考えてたら、その本人がようやく帰ってきたわね。

「レイ、今までどこに――――ど、どうしたの、その顔?」
「うっわ。何々?親衛隊の人達の騒動がいつもよりひどかったとか?」

確かに、レイの顔はいつもより憔悴しているような感じだった。正直な所、こんなレイの顔は見たことがない。

「いや、これからのことを考えるとな・・・ははは・・・良いんだ、俺の人生なんてこんなもんだ・・・」
「ちょっと、レイ・・・何か気持ち悪いわよ?」
「あ、うん。悪い・・・さて、3人ともいるから、ちょうど良いよな・・・」
「え?」
「何かあったの?」
「しかも、あたし達に関係あることなんだ?どんな?」

レイは微妙に諦めたような顔で、そして苦笑いを浮かべながら―――――



「今日の夕方ぐらい、俺の両親がここに来るから。」



――――すごい発言をかましてくれた。

「・・・は?」
「えっと、れ、レイの・・・何ですって?」
「レイ君。も、もう一回言ってくんない?」
「だから、俺の親父と母さんが、息子が世話になってる場所を見たいからってわざわざこの町まで来たんだよ・・・今、ミリアさんが町を案内してくれてる。夕方には戻るそうだ。」

レイの、お父さんと、お母さん

レイの、両親

レイの家族にご挨拶

「「「えええええええええええええええええっ!?」」」
「あ。リリアには今晩俺が伝えに行くから。」
「そっ、そうじゃなくって!い、いきなりぃっ!?」
「そうよ!わ、私っ何の準備もしてないのよ?」
「れ、レイ君の両親ってことは、ひょ、ひょっとしたら未来のあたしたちの義理のっ!」
「落ち着け。頼むから落ち着いてくれ。」

落ち着けるわけがないでしょうがあっ!何!?何なのその不意打ちはっ!?驚くことしか出来ないわよ!いや、実際は驚くだけじゃなくって色々と計算し始めてる自分がいるけどね!?それにしたって、いきなりすぎるわよっ!

「み、店じまい!」
「は?」
「今日はもう、お店は休み!」
「はあ?キララ、ちょっと落ち着いて――――」
「異論無いわ。」
「同じく!」
「お〜い・・・待って。一体何をする気だ?」
「準備するに決まってるでしょ!」
「あれよね。男を落とすには、その親からってこと。」
「あたしも久しぶりに料理を作っちゃうよ!」
「恨みっこなしよ?」
「当然でしょ。」
「あたしはお菓子系担当でっ!」

素早く店の看板を下ろし、あたし達は急いで厨房へと駆け込む。何やら後ろでレイが言っていたけど、今回ばかりはそんなことを気にもしてられないのよね・・・何せ、ここでレイのご両親に嫌われちゃったら元も子もないから。
ここは一つ、気合い入れてレイのご両親をもてなさせて頂こうじゃないの!

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/14(木) 09:56:03

ぺあれんつ23!

「ただいま、キララ。」
「おじゃまします。」
「零、いるの?」
「いるよ・・・思ったより、遅かったのな。」

店に入ってきた3人の大人達。1人は、当然だけどあたしのお母さん。
初めて見る2人・・・レイのご両親。
お父さんの方は、レイと同じような顔つきだけど、やっぱり年齢を重ねた威厳みたいなものが溢れてる。お母さんの方も、どこかレイと似たような雰囲気が漂っていて血の繋がりを感じさせる方だった。

「それで、零。そちらの綺麗な子達は?同僚さん?」
「あ〜・・・同僚っちゃ、同僚だな・・・」
「は、初めましてっ!あ、あたし、キララ・ランクフォードです!」
「キララの学生時代からの友人のマリス・インベルグです。レイ君には以前から助けて貰っています。」
「あたしはフォルト・ラインクルです。その、レイ君と一緒に働かせてもらってます!」
「そう、零のね・・・ああ、ここではレイだったわね。」
「え?・・・あ、ひょ、ひょっとして‘ゼロ’って?」
「まあ、今さらだけど俺の本名だな。本名『零 雨谷』だけど・・・」
「ぜ、ゼロ・ウタニ・・・?」
「そう言えば、レイ君って偽名だったんだよね・・・忘れてた。」
「本当ね。」

私もすっかり忘れてたわよ・・・
レイ・キルトハーツでない、レイ。
本当のレイ。
ゼロ・・・

「ぜ、ゼロ・・・?」
「無理するなよ。今まで通りレイ・キルトハーツでいいって。」
「で、でも――――」
「レイ・キルトハーツっていうのは、俺がここで生きることを決意した名前なんだ。だから、ここに居る俺はレイ・キルトハーツ以外の何者でも無いんだよ。」
「・・・分かった、レイ。」
「ふ〜ん・・・」

ふと、レイのご両親があたしの方をじっと見ているのに気が付いた。
ま、まさか何か至らない所でもあったの!?ひょ、ひょっとしてあたしがレイのこと呼び捨てなのが気に入らないとかっ!?

「零・・いや、レイ。聞きたいことがある。」
「何だよ?」

レイのお父さんがじっとあたしとレイを見比べて―――――


「この子が、お前をここに留める理由だな?」


瞬間的に、あたしはレイの顔に視線を移していた。

「まあ、キララだけでは無いけど。確かに一番の理由ではあるかもな。」
「ふむふむ。なるほど、な・・・」
「零も言うようになったわね。私、ちょっと寂しいわ。」
「れ、レイ・・・?」
「嘘は言ってない。そのことは、この前ちゃんと言ったはずだからな。」

あたしの頭の中によぎるのは、レイがあたしへの想いを打ち明けてくれた日のこと。

「・・・うん。」
「ちょっと、キララ・・・レイに何を言ってもらったわけ?」
「あたし聞いてないよ〜?」
「言わないわよ。あたしとレイの秘密。」
「あのなあ・・・そう誤解を招くようなことを親父達の前で言うなって・・・」

はっ!?しまった!あ、あたしの馬鹿あああああっ!!よ、よりにもよってレイのご両親の前で何て事言っちゃってるのよおっ!!だめだ!何かお二人の驚きの視線がものすごい恥ずかしいっ!ひょ、ひょっとしてはしたない娘とか思われてる!?うわああああ!最悪すぎるわよ、それ!?

「・・・キララちゃん、だったかな?」
「は、はいっ!」
「時に聞いておきたいんだが・・・息子とはどういった関係で?」
「え、ええっ?そ、その、い、一応は仕事仲間で、雇い主っていうのもあるんですけど、その、今となってはそんな立場の違いとかは無くてっ――――」
「いや、そういった社会的関係でなくて。」
「うちの息子との個人的関係を聞かせて貰えるかしら?」

レイのお母さんの優しそうな笑みは、正直な所むしろ怖かったりする。
へ、下手なことを答えたらやられるっ!?

「あ、あの、そのっ・・・」
「はい、そこまで。」
「む。零、これからが良い所なのだぞ?お前のためにも――――」
「うるさい、黙っとれ。どう見たって息子の近くにいる女の子にちょっかい出してる馬鹿親だろうが。」
「零・・・それは違うわ。純粋に聞いてみたいだけよ。」
「それがちょっかい以外の何だって言うんだよ。悪いけど、キララを困らせるような質問は却下だ。」

ううっ!レイが優しい!と言うか、最近のあたしって随分と運が良くない!?何か、もうこのまま行ける所までいけそうな気がして―――――

―――――ああ、だったらこのままじゃだめよね。
レイの背中を見るために、あたしはレイの両親と挨拶をしてるわけじゃない。あたしが2人に会っているのは・・・あたし自身を認めて貰うため。だったら、こんなことをしていて良いわけがない。

「分かったら――――」
「レイ。良いの・・・自分の口から、はっきりと言わせて。」
「キララ?いや、けど・・・」
「いいから言わせなさいって。そのためにここにいるんだから。」

あたしは、レイを押しのけるようにして改めて2人の前に立って・・・自分の想いを告白する。認めて貰うために。レイの隣に、並ぶために。

「あたしは、レイが好きです・・・今は、まだ恋人にもなれてないですけど。レイと結ばれればって・・・そう思っています。」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/15(金) 10:38:28

ぺあれんつ24!

いつものように窓の鍵を外し、外から吹き込んでくる風に髪を揺らしながら暗い空を見上げます。そこはには明るく月が輝いており、これから来られるあの方の足下を照らしてくれていました。
何度迎えても、飽きることのない私とレイ様の逢瀬・・・

「・・・なのに、どうして・・・」
「何か言ったかしら、リリア?」
「顔が暗いな。どうしたんだ?」

お二人のせいです。とは言えませんよね・・・
折角のレイ様と私の夜をどうしてお父様達は邪魔なさるのでしょうか。お二人がおられない方がレイ様との関係を深めやすいというのに・・・いえ、別にはしたないことを考えているわけではありませんけど・・・全く考えてないわけでもないのですけど・・・

「あの・・・お父様。本日はレイ様に何か重要なお話でも?」
「いや、無い。」
「では、お母様が?」
「いいえ、特にこれといって。」
「・・・では、何故ここにおられるのですか?」
「「ちょっと暇になったから。」」

神様・・・私は生まれて初めて、この2人の偉大なる両親に無礼をはたらきたいと思いました。いけないことを考える私をお許し下さい。そんな理由で私の一日で最大にして最高の楽しみを邪魔なさるわけですか・・・そうですか。

「お父様・・・明日から陛下とお呼びし続けてもよろしいですか?」
「何故っ!?」
「あなた、何かしたのかしら?」
「お母様もですよ?」
「まあ。悪い子になったものね。」

沸き上がってくるこの感情・・・これは間違いなく怒りと呼ばれるものですね。これは少々強めに言ってお二人をお部屋から追い出して―――――

「リリア。」
「え?」

ふわり、と風が流れを変えた瞬間。私の意識はお父様達から外れて声のした方に向けられます。もちろん、そこにおられたのは私が誰よりも求めて止まない方でした。

「レイ様。お待ちしておりました。」
「ああ・・・って、どうして陛下達がいるんですか。」
「「ちょっと暇になったから。」」
「そんな理由で愛娘とその想い人の逢瀬を邪魔しないでください。」
「二人っきりが良かったかしら?」
「王妃様・・・陛下と結婚する前、人目を忍んで会い続けていた時の日記をお城中にばらまかれたくなかったら、それ以上の発言は慎んでください。」
「・・・何故、あなたがそれを知っているのかしら?」

珍しく、本当に珍しいことにお母様の顔がひきつりました。

「色々とありましたね。例えば、陛下が一週間ほど出かけている間は、どういうわけか日記というよりも愛を囁く詩の形式でしたね。」
「あ、あの、レイ君。それ以上は・・・」
「題名。『私とあの方の距離と愛』でしたか。書き始めは『ああ、私のいとしき――――』」
「きゃあああああああ!!」
「リリアと一緒に読むと笑えるかもしれません。」
「レイ様。是非!」
「お願い・・・私が悪かったから・・・」

お母様が頭を下げて降参なされるのを初めて見た気がします・・・な、何としてでもその日記をいつか手に入れなければっ!

「まあ、それはさておき・・・リリア。ちょっと、今日は重要な話がある。心して聞くように。あと、場合によっては明日のお店は気合い入れて手伝ってくれ。」
「何かあるのですか?」
「あるっていうか、いるっていうか・・・はぁ・・・陛下達にも、言っておいた方がいいのかもしれませんね。」

そう仰って、レイ様は少しだけ息を整えられてから言葉を紡がれました。


「実は今日、ヴェロンティエに俺の両親が来てさ。しばらくこの町にいることになったんだ。」


レイ様の、両親?

「あの、レイ様のご両親ということは、その、レイ様のお父様とお母様ということでしょうか・・・?」
「それ以外に何というんだ。」
「つまり、わ、私は、明日、レイ様のご両親に、挨拶をしなければならない、と・・・?」
「店を休む気がないのなら。」
「え、えええええええええええええええっ!?」
「声が大きいよ・・・いや、キララ達も同じ反応だったけど。」

驚かずにはいられません!一体何がどうしてそのような事態になっているのですかっ!?私がいない今日一日の間に何があったというのですか!そんな、突然レイ様のご両親にご挨拶だなんてっ!ど、どのようなことをお話しすればっ!?

「あ、ううっ・・・ど、どうすればよろしいのでしょうか!?」
「いや、俺に言われても。」
「や、やはりちゃんとした正装で?で、ですがそれではお店に行けませんし・・・ああ、な、何か持って行くべきですよね?何であれば受け取ってくださるのでしょうか?レイ様のお父様達の好きなものって何でしょうか!?」
「落ち着け。とりあえず、落ち着いて深呼吸をしろ。」
「は、はい・・・すぅ・・はぁ・・・そ、それで私はどのようにすれば・・・?」
「元に戻ってるし・・・とりあえず、リリアの存在自体は伝えておいたよ。王族っていうことも伏せておいたから問題は無いと思う。万が一の時になっても親父と俺なら俺の方が強い自信はあるからな。リリアがやるべきことは・・・ありのままの自分を見せること、かな。」
「ありのままの私・・・はい。頑張ります!」
「いや、別にそんなに頑張らなくてもいいだろ。」
「いいえ!ここでレイ様のご両親にもしっかりと好印象を持って頂かなければ!私とレイ様の未来の為に何としてもっ!」
「・・・リリア。ちょっと恥ずかしい・・・」
「よく言ったわ、リリア。」
「それでこそ俺達の娘だ。」

振り返ってみれば、晴れやかな笑顔で私達を見つめているお父様達がおられます。

「もし信用できそうな方達なら、王族であるということも明かしてきなさい。と言うか、どうにかして私達の所へ連れてきて。」
「いや、こうなりゃむしろ俺達が行くか。」
「待てえええええっ!王族の3人が一般の料理店に集合してどうする!?」
「大丈夫だ。リュカーも連れて行く。」
「余計に大事になるわっ!」
「あのなあっ!子供を貰う相手の親と酒を酌み交わすのは男親の特権なんだぞ!それを邪魔する気か!?」
「そうそう。昔はこんな子だった、っていう会話をしながら思い出に浸る・・・お義母様達が交わされていたあの光景を私が出来る日がとうとう・・・」
「何故に俺がリリアをもらうことが確定済み!?」
「もらってくださらないのですか!?」
「そこまで落ち込むな!・・・涙目もだめ!」
「早速、明日の公務を今からやってしまわないとね。」
「よし。いつも以上に気合いを入れていくぜ!」
「普段から入れましょうよ!」

結局の所、お父様達のお話は深夜まで続くこととなりました。しかし・・・これは頑張ってレイ様のご両親と円滑な関係を築き上げなければなりません。何しろ、将来のお義父様とお義母様ですから。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/12/18(月) 09:32:03

ぺあれんつ25!

「リリィ・ヴィクリヴィアです。レイ様とは以前から親しくお付き合いをさせて頂いています。本日はレイ様のご両親であるお二方にお会いできたことをとても嬉しく思います。」
「まあ、礼儀正しい子ね。こちらこそ初めまして、私がレイの母です。」
「全くだ。わが息子ながら、どこにこんな甲斐性があったのか驚きだな。おっと、失礼。私がレイの父親です。どうも息子がお世話になっているようで。」
「いえ、レイ様には私の方が良くしていただいて・・・もう、言葉では表せないぐらいです。」
「レイが、ねえ・・・」
「レイが、か・・・」
「何だ、その目は?」

不思議そうな目で見られるご両親は、どことなく横顔がレイ様を思わせました。やはり親子であるがための相似観なのでしょうね・・・それにしても、お二人ともとても礼儀正しい振る舞いをされています。ひょっとすると、私のように少し身分の高い人間とお話しする機会を今までにいくつもお持ちになっていたのかもしれません。

「はいはい。そろそろお店開けるわよ?」
「はい、キララさん。」
「マリスとフォルトさんは?」
「もう厨房で準備してる。ほらほら、レイも行って。リリィは勘定場よろしくね。」
「はい。お任せ下さい。」
「よし、それじゃ――――そういや、親父達はどうすんだ?」
「もちろん、ここでお前の働きっぷりを見させてもらうさ。」
「皆さんの足を引っ張っちゃダメよ?」
「分かってるよ。」
「大丈夫ですよ。」
「大丈夫です。」

私とキララさんの声が見事に重なります。そしてもちろん、その後に続く言葉も同じです。

「レイはいつだって最高ですから。」
「レイ様はいつでも最高なのですから。」



「お〜い!こっちにオムレツを1つ〜!」
「俺のとこにはカレーのおかわりくれ!」
「は〜い!ちょっと待ってて下さ〜い!」
「レイ、チミザがないみたいよ?」
「確か奥の机の中にまだ随分とあっただろ。」
「見てくるわね。」
「レイ様!こちらの方々がこの紙を使えば割引なのかと申されておりますが!?」
「ああ、その通り!持ってる枚数の分だけやっといてくれ!ただし、一度に使えるの5枚までな!」
「レイ君!さっきの注文のギョーザは!?」
「そこの棚に―――って、無い!?」
「ぎくっ!」
「おい、こら!そこのリリィの親衛隊!今、明らかに変な反応したろ!」
「き、気のせいだ!」
「正直に仰ってくださると、私とっても嬉しいです。」
「すいません!おいしそうだったので、つい!」
「分かりました。しばらく、親衛隊の皆様へ笑顔は見せないように心がけますね。」
「ぐあああああ!?」
「き、貴様あああっ!」
「ちくしょう!お前のせいで!お前のせいでええええええ!!」
「ちょっと、レイ!あれ何とかしてよ!」
「だああ!お前ら外でやれっ!」
「うるせえっ!」
「お前みたいに!お前みたいにリリィちゃんの笑顔を毎日毎晩見てるやつに俺達の悲しみが分かるかあああ!」
「挙げ句に笑顔だけじゃない顔まで独占してるくせにいいいいいいい!」
「しばらく出入り禁止にするぞ、お前ら!?」
「「「ごめんなさい。」」」


とまあ、いつも通りにぎやかでありながら大変な一日でした。今さらではありますけれど、私すっかりこのようなことに慣れてしまっていますね・・・自分で素晴らしい進歩だと思います。

「はぁ・・・しんどい。」
「お疲れ様でした。」

私はキララさんからお借りした道具を使ってお茶を入れ、レイ様の前にことりと置きます。レイ様は小さく笑顔でお礼をおっしゃると、静かにそれを飲まれました。

「ふぅ、生き返る。」
「ありがとうございます。しかし、レイ様・・・一つお聞きしたいことがあるのですが。」
「ん?」
「・・・お父様達、来られていましたか?」
「・・・気付いてなかったか。」

つまり、おられたのですね・・・本当に。

「周りを見ながら親父達を探してたみたいだけどな、途中で諦めたのか公務があるのかは分からないけど帰ったみたいだ。」
「・・・レイ様、おそらくお父様達は帰られていません。」
「え?」
「このようなことへのお父様の執着心は高いですから・・・きっと、何かしらの手を講じておられるところかと思います。」
「嘘だろ・・・?」
「残念ながら・・・」

私がレイ様の疲れたような視線を受け止め、弱々しく乾いた笑いを返した瞬間でした。

「レイ、リリア・・・ちょっと、説明して欲しいことがあるんだけど。」
「キララ?どうかして――――いや、何か予想がついた。」
「普段ならレイ様と同じ思いであることに喜ぶのでしょうが・・・私も思い当たる点があります。」

私とレイ様は同時に厨房から飛び出て、もはや店じまいをして誰もいなくなったはずの店内へと駆け込みます。そして、そこで目にしたものは―――――

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/19(火) 09:51:27

ぺあれんつ26!

「つ・ま・り、本当はリリィちゃんじゃなくってリリアちゃんか〜。」
「おおよ!良い名前だろ?そう思うだろ?この名前を付けるのに3日間もかかってんだぜ!」
「分かる!俺も零の名前を考える時は妊娠が発覚した時から頭を悩ませたもんよ〜!」
「そう言えばそんなこともあったわね〜。無限の可能性を秘めてるってことで夢幻にしようかって迷ったのよね。」
「むげん?それもまた良い名前ですね。」
「本当ね。私達もリリアが男の子だったらって考えたこともあったわ。」
「そうそう!結局、最終的には男の場合はエリクスで落ち着いてたんだよな!」
「キララという名は夫が付けてくれたものです。夫は随分とすんなりと決めていたと思ったら、後日部屋に入ったら名前をたくさん書いた紙が散乱していて・・・」

階下から響き渡る声を強制的にシャットダウンしながら、俺は既に酒樽を2つほど空にしている6人の大人達への深いため息をついた。もちろん、俺の周りにはこの家に住む3人の美女達と帰るに帰れない美女1人が同じようなため息をついて座っている。
場所は、どういうわけか俺の部屋だ。入る時に4人がそわそわしていたのは、もう予想通りだったり。フォルトさん以外は入ったことあるだろうに・・・

「はぁ・・・どうして、いち料理店に王族が勢揃いしてるのよ・・・」
「本当に申し訳ございません・・・」
「何かあっても責任取れないわよ?」
「それは、その・・・お父様達は、レイ様を当てにしておられるようで。」
「・・・そう言えば、軍隊撃破してたものね。」

そりゃあ、1人で一国敵に回して勝てるような男がいれば安心して酒も飲めるだろうけどね。一応、俺だって人間なんですから用心ぐらいはしてほしいもんだ。

「にしても、レイ君ってば陛下達ともあんな友好的に・・・まあ、当然なんだろうけど、今さらながらにレイ君の格の違いを見せつけられた感じ。」
「あの2人は誰に対してもあんな風な気がするがな。」
「そうかもね・・・あたし、微妙に王族への期待と夢が砕かれた感じがするわ。」

キララ。俺も初めてのころはそうだった。だから、言わせてくれ。諦めろ。すぐに慣れる。

「まあ、大人は大人で放っておくか・・・別に何かやるわけでもないだろうし。」
「そうだね。折角みんなそろってレイ君の部屋にいるわけだしね!」

フォルトさんは忘れられていた事実を唱えた。
キララの緊張が5上がった。
リリアの恥ずかしさが8上がった。
マリスのいたずら心が4上がった。

「あ〜・・・よし、部屋に帰って。」
「ひどっ!?」
「レイ。ひょっとして緊張してるのかしら?」
「そういうことを言うな。」

よくよく考えてみればこれってすごい状況だよな。鍵こそかかっていないものの、さして広くもない一つの部屋に年頃の男が1人とそれに恋する乙女が4人。おいおい・・・一体、何のギャルゲーだ。

「1対4って・・・レイの体が保つのかしらね。」
「何の話だ、おい。」
「あら、どういう意味にとれるの?」
「・・・とりあえず、想像できるものの一つに今リリアが硬直している理由があると思う。」
「え?わ!」
「い、1、対4・・・4・・・?」
「リリアが壊れたあっ!?」
「ちょっと、落ち着いてリリア。大丈夫?」
「あ、は、はい?だい、だいじょうぶです・・・か、覚悟はありますから!」
「何の覚悟!?」
「いい加減にしなさいってば!」

‘クワァァァン・・・’
俺の机の上に置いてあった鉄板でキララが‘俺の’頭をはたいた音でようやく全員が落ち着いた様子になる。もっとも、気まずい雰囲気だけは残っているが。

「ふむ・・・たまには、何か年頃の男女らしい話でもしてみるか。」
「あ、いいねそれ!何の話?何の話?」
「そうだな・・・今の時間的には、怪談とか?」
「「絶対にダメ!!」です!!」

キララとリリアが全く同時に悲鳴を上げた。これはつまり―――――・・・

「よし、最初はマリスからいってみよう。」
「あら、私を最初にご指名とはレイも勇気があるわね?」
「真打ちは最後にくるもんだからな。俺のを聞いて涙を流すがいいさ。」
「私だって負けないよ〜!」
「だから止めてってばあっ!」
「そうです!寝れなくなったらどうしてくれるんですか!?」
「とりあえず、これは私達の通っていた調理学校にまつわるお話なんだけど――――・・・」



数分後――――・・・2名の半泣きの声が部屋中に流れていた。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2006/12/20(水) 09:28:25

ぺあれんつ27!

俺自身としてはそんなに怖い話をしたつもりは無かったと言っておこう。ここまで怖がらせるつもりも無かったと言っておこう。
けれども、残念ながら4人は見事に恐怖で顔が引きつって何も言えない状況になっている。
ってか、リリアとキララは俺の両腕にしがみついたまま気を失ってないか?

「お〜い。マリス?平気か?」
「れ、レイ・・・お願いが、あるんだけど・・・」
「何だ?」
「レイの、せ、背中に、触れてて、いいっ・・・?」
「わ、私は、前でっ・・・」
「・・・ひょっとして、恐怖でがちがち?」

2人は無言でコクコクとうなずきいて、俺の元へと這いながら近づいてきた。ちょっとだけ、その様子がテレビから出てくる井戸からはい出る女性に似てると思ったのは内緒だ。
やがて、マリスは俺の背中に自分の背中をひっつけてゆっくりと寄りかかり、フォルトさんは俺の胸に背中をひっつけてるように倒れ込んできた。
・・・何この看板娘フルアーマード。

「ちょっと暑くないか?」
「ごめん・・・そんなこと感じる余裕は無いよ・・・」
「私も無いわ・・・レイ、怖すぎたわよ・・・」
「そうか。とりあえず暑い日は言ってくれれば、快適に過ごせるように出来るから。」
「「絶対に頼まないから。」」
「そりゃ、残念・・・それにしても、キララとリリアは怖いのだめなんだな。」
「まだ意識が無いみたいだものね。」
「正直、私も危なかったよぉ・・・」

ふむふむ・・・何となくいたずら心がわいてきた。

「・・・―――っ!?フォルトさん!」
「な、何!?」
「背中が濡れてる!!」
「ええっ!?」
「これ、そんな・・・子どもの、手形っ!!」
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

‘コテン・・・’
3人目も陥落した。ちなみに、俺の背中では明らかにマリスが体を固くしたのが分かっている。

「嘘だけどね。」
「・・・レイ、今けっこうひどいと思ったわよ。」
「はっはっは。何とでも言うがいいさ。」
「何か、やられっぱなしっていうのも癪ね。」
「どうやり返すのかな?」
「そうね・・・ところで、レイ。今の自分の状況をどう思う?」
「は?」

今の状況って・・・
あぐらをかいた足の上、フォルトさんが胸にもたれかかる。
右腕、リリアが必死に抱きついている。
左腕、キララが力の限りしがみついている。
背中、マリスが背中合わせに座っている。

「あ〜・・・中々、理性に亀裂が走りそうかも。」
「そう。それで、レイ・・・この状況だけを第3者が見たらどう思うかしらね?」
「・・・あの、マリス?」
「レイの部屋って防音してるわけでもないから。変な声出したら下まで届くんじゃないかと思うんだけど。」
「へ、変な声ってどんな声でしょうか・・・?」

やばい・・・やばいやばいやばい!俺の背中に先程までの怖い話以上の恐怖により冷や汗がつたっている。

「そうね、例えば・・・きゃあっ!レイ!だめよ!そんなのだめえっ!」
「ま、マリス!?ちょ、マジで待て!!」
「あんっ!レイ!ああんっ!やあんっ!」
「うわあああ!?わ、悪かった!すいませんすいません!本当に悪かったですから!」
「反省してくれた?」
「そりゃあもう、海よりも深く。」

聞こえてないよな?万が一親父達に聞こえてこんな状況を見られたりしたら・・・うっわあ・・・どうして足下が崩れる音の代わりに結婚行進曲が聞こえてくるんだろう。

「ふふふふ。けど、レイ。これで済むと思ってる?」
「は?」
「今の状況・・・レイ、身動き取れないわよね。」
「・・・いや、力を入れれば。」
「気絶してる女の子を振りほどくなんてレイには出来ないわよ。そして、私はレイの背中を取っている・・・さて、どうしようかしら。」

背中の感触からマリスが俺の方を向いて、その胸を俺に押しつけてるのが分かる。小さく穏やかに吐かれた息が俺の首筋をかすめて、微妙にぞくりとする。

「ま、マリス〜?」
「そう言えば、キララとリリアに特別なことしたんですって?」
「だ、誰から聞いた?」
「キララから。」
「は、はい?」
「確か・・・」
「ちょ、ちょっと待―――むぐっ!?」

俺が静止しようとマリスの方に顔を向けた・・・それが悪かった。ちょど俺の目の前まで迫っていたマリスはチャンスとばかりに俺に自分の唇を押しつけてくる。
しばらくの間、お互いに動けずにいて・・・ゆっくりと、離れていった。

「変な感じね。」
「っ〜〜〜!マリス、あの、なあっ・・・そりゃ、良いけどさ・・・」
「そう?良かった・・・拒絶されたらどうしようって思ってたんだから。」

そう言って微笑んだマリスは、正直なところとても魅力的な笑顔だったりする。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2006/12/21(木) 12:28:53

ぺあれんつ28!

恥ずかしさのあまり、というか理性が崩れかけたために俺は逃げるように部屋を出てきた。ちなみに、気絶したお三方はマリスに任せておいた。そのまま、あまり気は進まないが階下へと足を運んで肝心要のダメ大人達の様子を見に行く。

「あら、レイさん。」
「レイ。彼女たちとちゃんとイチャイチャできた?」
「レイ君。リリアの感触はどうだったかしら?」
「変な発言をしないでください。後、親父と陛下、リュカーさんはどこに?」
「何だか飲み直しに行くそうよ。」

国王が夜の町の酒場に出向くのかよ・・・まあ、騎士団長と親父がいるから大丈夫だろうけどさ。

「と・こ・ろ・で!レイ〜・・・一つ聞いておきたいことがあるんだけど。」
「母さん、どれだけ飲んだんだよ・・・」
「気にしないの〜・・・それより、重大なこと聞いて良いかしら?」
「重大なこと?キララ達のことなら、言っておくけど本気だぞ?4股なんてこと、中途半端な気持ちでしてるわけじゃないし、ちゃんと選びたいって気持ちだってある。」
「それは感心。けど、私が聞きたいのはそっちじゃないのよ・・・」
「は?」

母さんはその一瞬だけ酔いを覚ました目で俺を捕らえる。その瞳は何処までも深く、真剣だった。


「‘あの子’のこと、4人に重ねすぎてない?」


――――――――『・・・ありがと・・・』――――――


――――・・・それは、俺の傷なんだけどなぁ・・・
まあ、もう過去の話ではあるし、吹っ切ってもいることだから良いんだけど。それに、母さんが心配してることも分かる。それは、キララにもリリアにもマリスにもフォルトさんにも失礼なことだから。
だから、俺は本心を口にする。

「全く重ねてないって言えば、嘘になるかな。やっぱり、4人とも根っこの部分がどことなく似てるみたいだし。自分の信念をなかなか曲げないあたりとかさ。」
「そう・・・レイ、けれど――――」
「けれど、キララも、リリアも、マリスも、フォルトさんも、みんなそれぞれの魅力がある。それぞれの魅力に惹かれる俺がいる。それは、きっと‘アイツ’とは違うってことを自分で認められてるからだと思う。だから心配いらないよ、母さん。アイツを過去だと割り切るつもりは無いけど、決して今に引きずりすぎるつもりも無いからさ。」
「・・・さすが、我が息子。」

母さんはぐしゃぐしゃと俺の頭をかき回し、さっきまでの酔っぱらいモードに突入した。

「こんなんだからモテるのよね〜。」
「レイさん。知ってましたか?実は町内に隠れてですけれどレイさんの親衛隊もあるらしいですよ?」
「はあっ!?」
「それを言うなら、レイ君。この間だけどお城でレイ君がファントムとしてお城を救ったのが原因だろうけど、何人もの侍女が夢中になってるって噂を侍女長が話してくれたわ。」
「冗談でしょう!?」
「レイ。そう言えばさっきマリスちゃんの変な声が聞こえてたけど・・・」
「聞こえてたのかよ!?」
「ご感想は?」
「やかましいっ!何もしてねえ!」
「何もしてないの!?」
「美女が4人もいるのに!?」
「受け入れ準備万端の4人を前に!?」
「どうしてそこで俺を可哀想な人を見る目で眺めてるんだ・・・」
「レイ・・・あんた、病気?」
「それとも、レイさんって実は変わった関係でないとダメなんですか?」
「ふむ。レイ君、リリアにどんな服を着せたら襲ってくれる?」
「がーーーー!もう、あんたらはそればっかかよ!?」

さっきまでの深刻な空気は何処へやら・・・
まあ、いっか・・・なあ、こっちの世界じゃお前に呼びかけることなんて無かったけど・・・俺、必死に生きてるよ・・・‘沙羅’・・・

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/22(金) 08:32:17

ぺあれんつ29!

目が覚めて最初にやろうとしたのはレイを殴ること。
まあ、残念ながら当の本人は逃げちゃってたみたいだけど。あたしはリリアとフォルトを起こして、マリスに事情説明を求める。
何だかマリスが妙ににこやかな気がするんだけど・・・いや、考えないようにしましょう。どうせ折角のレイとの2人きりの時間を有効に使ったんだろうし。

「それでレイは何処よ?」
「さっき下に行ったわよ。多分、陛下達とお話しされてるんじゃないかしら。」
「お父様達とですか・・・やはり、邪魔をすべきではありませんよね?」
「そうだよね。万が一、国家機密級の問題だったら私達の身が危険になるだろうしさ。」

いや、国家機密級の話題にレイが平然と参加してるってのはどうなのよ・・・まあ、レイの存在自体は確かに国家間級で重用視されるくらいなんだろうけどさ。1人で一国敵に回して勝てるような人間だし。

「それじゃあ、レイ君がいなくなったところで話し合いの続きと参りましょうか。」
「もう怪談話は止めてください・・・」
「しないしない。今度はね・・・リリアって、やっぱり初恋がレイ君なの?」
「は、はい。もちろん、レイ様です・・・」
「前から気になってたんだよね〜・・・レイ君とリリアってどうやって知り合ったの?」
「そう言えばそうよね。私も知りたいわ。」

レイとリリアの始まりか・・・お母さんは知ってるってレイが言ってたけど、結局は聞けずじまいになっちゃってるし。ここは一つ聞いてみるのも手よね。

「それじゃ、リリア。ちゃっちゃっと語ってもらいましょうか。」
「え、ええ〜?そ、その・・・マリスさん達ならご存じかと思いますけど、私が以前・・・と言っても5ヶ月前ですが、難病にかかったのを覚えていますか?」
「ああ、あれ?」
「うんうん。覚えてる。確か、キララにも話してたよね。」
「えっと――――・・・ああ、そう言えばレイの仮の住民票作りに行った時に聞いたわね。」

よく考えたら、あれがレイとマリス達の初の顔合わせでもあったわけよね。まさか、あの時のフォルトの妄想が半ば現実になるとまでは思いもしなかったけどさ。

「では、おそらくはその時ですね。あの病気、表向きには自然治癒ということになっていますが、実際はレイ様が治してくださったのです。」
「ええっ?」
「れ、レイ君がっ!?」
「はい。私が苦しみの中で死すら覚悟していた夜のことでした・・・閉めていたはずの窓が開かれて、その時はファントムと名乗られていたレイ様が寝ていた私へと言葉を囁いて、治療を施してくださったのです。」
「それが、初めての出会い?」
「はい。どういうわけか、恐怖を感じたのは最初の一瞬だけでした。その翌晩にもまた来られて、私と友達になろうと仰ってくださったのです。あの一言が無ければ、私はきっと・・・それ以来、毎晩毎晩私に会いに来てくださって。その度に私はレイ様に惹かれていきました・・・」
「ふ〜ん・・・ちょっと良い感じの出会い方じゃない。」
「私達なんてキララが連れてきたのに偶然会った、ってだけだもんね。」
「あたしなんて、お母さんが突然家に連れてきたのよ。雰囲気も何もあったもんじゃないって。」
「ちょっとだけ、リリアが羨ましいわね。」
「そうですか?ふふふ・・・あの出会いは、私の中でも最高の宝物ですから。」
「私にもあるわよ?レイとの思い出。私が騎士の1人に言い寄られて困ってた時なんだけど――――・・・」
「うんとね、私は仲の良かったお婆ちゃんの店がさ―――・・・」

そっか・・・当然といえば当然なんだけど、あたし達って突然にレイを好きになったわけじゃ無いのよね。色んな思い出があって、その思い出を呼び起こす度に暖かい気持ちになれる理由がレイがいたからであって。
その繰り返しが、私達4人の今の想いへの―――・・・


‘コンコンコン・・・’

思考が唐突に中断されたのは、レイの部屋の扉を誰かが叩いたせい。レイだったら、こんなことはしないだろうし・・・誰かしら?

「入っていいかしら?」
「「「「っ!?」」」」

扉の向こうから聞こえてきた声は、さっきまで話題の中心になっていたレイの、お母さんの声だった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/22(金) 18:49:07

ぺあれんつ30!

「気楽にしてくれていいのに。」
「すいません、それはちょっと無理かと・・・」

レイのお母さんをレイが使っている椅子に座らせ、あたし達4人は全員が床に座っている。もちろん、あたしも含めてみんな緊張で固まっているんだけど・・・

「あ、ちなみにレイは下で王妃様とミリアさんにからかわれてたから当分は上がってこないわよ。好都合なことにね。」
「こ、好都合なこと、ですか・・・?」
「ええ。さてさて、問題です。私はここに何をしに来たでしょうか?」

それが分かればここまで緊張はしないのだけど・・・何なのよ、この妙に心にのしかかってくる圧迫感は。

「答えはね・・・‘レイの恋人候補としてどれぐらいみんなが相応しいのか’が気になっちゃって。」
「「「「え!?」」」」
「私って、意外と過保護なのよ?大事な大事な一人息子なんだから・・・みんなには悪いけど、場合によってはレイを強制的に‘連れて帰っちゃおうかな’って考えてるから、気をつけてね?」

――――・・・連れて帰る?
誰を?なんて、そんなのはレイに決まってる。つまり、ここであたし達がこの人の目にかなわなかったら――――‘レイがあたしの前から今度こそいなくなる’――――!?
そんなのって無い!やっと、やっとレイが戻ってきてくれたのに!あの一ヶ月の間、レイが戻ってこないと思っていた一ヶ月の間にあたしはどれだけの涙を流したのか分からない。どれだけの悲しみに溺れていたのか分からない。あんな思いをするのなんてもう絶対に嫌よ!レイが、あたしの側からいなくなるなんて嫌!!

「それじゃ、いくつか質問をしたいんだけど・・・心の準備は出来たかしら?」

レイのお母さん、モモさんの視線があたし達を射通す。それは、あたし達の中にじわりとにじみ出した恐怖を増大させるには十分だった。

「第一問ね・・・まずは、マリスちゃん。」
「は、はい。」
「レイが普段から身に付けているもので、肌身離さず持っている物って何でしょう?」
「っ―――!」
「分からないみたいね・・・残念でした。それじゃあ第二問は、フォルトちゃん。」
「うっ。」
「レイが毎朝欠かさずやっていること。もちろん、仕事とか家事とかじゃない、普通の人はしないことって何だ?」
「あ、う・・・あ・・・」
「二人目〜。続いて、リリアちゃんに第三問。」
「っ!」
「やっぱりレイに関する質問ね。あの子が一番好きな料理は何でしょうか?」
「れ、レイ様の、お好きな料理・・・?」
「あらあら。これは簡単だと思ったのだけどね・・・」

――――だめだ――――
今までの質問、あたしだって何一つとして答える事なんて出来ない。レイに関する質問なのに・・・ずっと、一緒にいたレイのことなのに・・・!今さらながらに分かってしまったことがある。気付かされてしまったことがある。それは――――

「さてさて。最後の問題・・・キララちゃん。これが分からないなら・・・息子は本当に連れて帰ることになるわよ?」
「あ・・・」
「問題です。」

そう言って、モモさんは鋭い視線であたしを見つめながら、穏やかな口調でその言葉を口にした。



「今までの3つの問題で、あなた達が思い知ったことは何?」
「っ!?」

それは・・・それの答えは確かに分かる・・・けど、けどそれは―――それを答えてしまったら、あたしは、否定することになってしまう。今までの時間を。今までの想いを。
レイと一緒にいた全てを。

「キララちゃん・・・あなたは、レイと一緒にいたいの?」
「・・・はい・・・」
「なら、認めて。あの子は、自分が4人の女性に惹かれていることを認めた。自分が最低の人間の部類に入るかもしれないことを認めた。一度、家に戻ってきた時もあの子は自分はひどい人間だと認めた。だから・・・本当に、あなたが本気であの子を想っているのならば、認めてちょうだい。」
「っ―――・・・う、ううっ・・・」

悔しかった。
この人にいいように言われたことがじゃない。
‘そんなこと’にも気づけなかった自分が悔しかった。
だからあたしは、あふれる涙をこらえることもしないまま・・・答えを口にした。



「あ、あたしはっ・・・レ、レイのことをっ・・・ほ、ほとんどっ、知りませんっ・・・」
「・・・正解。」

もう限界だった。もう、それ以上は言葉に出来なかった。
それはリリアも、マリスも、フォルトも同じ。みんな何も言えない。何も考えられない。さっきまで、レイについて話してた時の暖かい感情なんて欠片も残っていない。それは、自分の自己満足でしかないと気付かされてしまったから。
天国から地獄とは、まさにこのこと―――・・・

「う、ううっ・・・」
「ひ、んっ・・・ひっく・・・」
「っ・・・うっ・・・」
「ひぐっ・・くう、ぅっ・・」

嗚咽を堪えるあたし達に、ポツリポツリとモモさんは語り出した。

「キララちゃんが一番好きな料理は、レイの作るオムライス。」
「っ・・・は、いっ・・・」
「リリアちゃんが一番大切にしているのは、レイからもらった仮面。」
「ひっ・・・ひぃんっ・・・」
「マリスちゃんの一番の癖は、考え事をする時に右手で髪を触ること。」
「ううっ・・・」
「フォルトちゃんが一番気にしてるのは、親衛隊の人とレイとの乱闘で、レイの怪我が増えてきたこと。」
「・・くっ・・う・・」

それは、きっと当たっていることだと思う。事実、あたしについては間違いなかったのだから。

「みんな、ついさっきレイが教えてくれたこと。レイが、あなた達と一緒に過ごしていて見つけた、あなた達の一番。あなた達を知りたくて、あなた達を想い続けて見つけたあの子の思いの欠片・・・本当、我が息子ながらすごいわ。」

何も答えられなかった。
そうだったんだ・・・レイは、あたし達のことをこんなにも見ていてくれたんだ。きっと、あたし達が心から知られたくないと思うことには踏み込まず、けれどもあたし達を悲しませないように、一生懸命にあたし達のことを知ろうとして・・・それなのに、それなのにあたしはっ!
あたしは、レイのことを何も知ろうとしなかった・・・ううん、違う。レイのことなら知っていると思いこんでいた。
そりゃあ、レイだってあたし達に隠したいことや隠してることがあるだろう。けど、だからといってあたしはレイのことを知らなくていいわけじゃないのにっ・・・

「恋人になるって、難しいのよね・・・」
「・・・え?」
「友達でも、同僚でも、やっぱり他人は他人で・・・けど、だからこそ昨日は知らなかった相手のことを知ることが嬉しくて・・・あなた達は、その感情を知ることを忘れてたみたいね?」
「っ・・・」
「あの子、優しいから・・・きっと、そんなことどうでもいいって笑ってくれる。けど・・・親としては、不安なのよ。あの子の相手が、あの子の事をどれほど理解してくれるのか?どれだけあの子の支えになってくれるのか?そう考えると、怖くなるわ・・・」

椅子から降りてきたモモさんは、そっと私達の前に跪いて、今まで全く見せなかった柔らかな笑顔で私達に顔を上げるように促した。

「私はいい親では無かったわ・・・だから、お願いします。あの子のことを知ってあげて下さい。あの子の全てを受け止めてあげて下さい。あの子を・・・幸せにしてやって下さい。」
「モモ、さんっ・・・」

ようやく、涙を止めることが出来た。言葉も伝えることができる。だから、あたしは――――あたし達は、一斉に頷いた。

「「「「はい。」」」」
「ふふふふっ・・・4人とも、合格です。」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2006/12/25(月) 09:07:47

ぺあれんつ31!

「ちょ、母さん!?キララ達に何したんだよ!?」
「あら。女性だけの会話を聞くなんて野暮ね。」
「ふざけんなっ!どう見たって4人とも泣いてるだろうがっ!」
「だ、大丈夫だから、レイ!」
「そうです!お、お母様はむしろ私達を諭してくださったのですから!」
「はあ?にしたって、泣かせるかよ普通・・・ああ、もうマリスなんて目が腫れすぎだろ。」
「普段、あまり泣かないからかしらね・・・」
「そういった点では私も一緒なんだけどな〜。」

店内でミリアさん達の晩酌に水で付き合わされること数十分。
ようやく下りてきてくれた俺の救いの女神達はどういうわけか泣きはらした目だった。

「ああ、もう!母さん、今度家に帰った時に母さんの宝物の韓流ビデオ全部DVDに移してやるからな!」
「ええっ!?あの使い方覚えきれないのよ!」
「知るか!キララ達泣かせた罰だ!」

近くにあったハンカチで、とりあえず一番身近にいたキララの涙の跡をぬぐってみるが、やっぱり取れてくれそうもない。

「だあ〜・・・どうする、これ?」
「大丈夫だって、レイ・・・あのさ、レイ・・・ごめん。」
「は?突然、何を謝ってるんだ?キララに何かされた覚え無いぞ?」

何かした覚えも無いし・・・いや、実はいくつかあったりしますけど。

「うん。あたし、何もしてなかったから・・・」
「へ?いや、ますますもって意味が分からないんだが。」
「気にしないでください、レイ様。私からも、謝らせてくださいね。」
「リリアも?」
「もちろん、私も。」
「右に同じくっ!」
「・・・母さん、本当に4人に何を言ったんだよ。」

変な光景に戸惑いながらも、俺はとりあえず苦笑いを4人に返すしかなかった。

「そうと決まれば・・・レイ。」
「ん?」
「飲みなさい。」

そう言って母さんは俺の目の前にドンと酒樽を置いた―――って、待て。あんた、分かってやってるよな?そうだよな?

「母さん・・・今、母さんの韓流ビデオは全て米ドラマへと移し替えることを決定した。」
「ひどいわね。ただ、久々に息子との語らいをしようとしてるだけじゃない。」
「俺に酒を飲ませる理由にはなってないだろうがっ!」

認めたくは無いが俺の酒癖はかなり悪い。キララ達なんか目じゃないくらいに悪酔いするのだ。それを知ってる母さんが勧めるということは―――・・・楽しんでるな、この人。

「絶対に飲まないからな!」
「仕方ないわね・・・じゃあ二択ね。」
「何故に!?」
「1、    ここでお酒を飲んでもっと羽目を外すか。」
「断固拒否に決まってるだろ!」
「2、今すぐ町に繰り出して、遊び回っているお父さん達を回収してくるか。」
「酔っぱらいを?」
「そうそう。どっちが良いのかしら?」
「どっちも嫌に決まって―――」
「キララちゃん、知ってた?レイの初恋の相手なんだけどね――――」
「2番を選択します!いってくる!」

俺は母さんの言葉を遮ってヴェロンティエを飛び出した。いや、このままだと恥ずかしい過去を延々と話され続けると判断したための行動ですよ?ちなみに、初恋の相手はテレビの向こうのアニメの女の子ヒーローだ。他人に知られるぐらいなら酔っぱらいの相手をする方がマシだ――――って、よく考えたらテレビなんてもんはこっちの世界に存在しないからキララ達に納得させられないような・・・あれ?はめられた・・・?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-DOAXu] 2006/12/26(火) 17:27:28

ぺあれんつ32!

「息子ながら甘いわね・・・」

そう仰って、レイ様のお母様はにこにこと笑いながら更にお酒を飲まれます。それにしても、私のお母様もですが一体何杯飲まれているのでしょうか・・・?私は数杯飲んだら、はしたない状態になるというのに。
いえ、そこは置いておくとしましょう。それよりも気になるのは――――

「あ、あの、モモ様・・・時に、先程仰られていたのは・・・?」
「ん?ああ、レイの初恋の相手のこと?」
「はい。よろしければ教えて頂けませんか?」

レイ様が子どものころとはいえ、恋をされた相手です。興味がわくと申しますか、ちょっといけないことをしてるようでどきどきすると申しますか・・・

「だ〜め。こういうのはレイの口から聞かないとね。」
「そ、そうですか・・・」
「レイ君の初恋かあ。気になるといえば気にな――――あ。」
「どうしたの、フォルト?」
「あ、うん。すっかり忘れてたんだけどさ。レイ君が一度だけ付き合ってた人がいたって言ってたじゃない?そっちの方も気になるなって思って。」
「ああ、どんな人だったか?」
「そうそう。どんなのがきっかけで出会ったのか。どんなのがきっかけで別れたのかとか気になるじゃない?」

レイ様の恋人・・・何だか黒い気持ちがフツフツと沸き上がってきましたね。嫉妬なのですけど・・・過去とはいえレイ様のことを独占した方・・・羨ましすぎると思うのは、決して間違いではないはずです。

「そうですね。レイ様の心を射止めた方・・・レイ様とどのような時を過ごされていたのでしょうかね?」
「レイに聞いても教えてくれそうにないわね。」
「でしょうね。レイってば妙な所で逃げ足が速いから・・・まあ、言いたくない理由があるのかもしれないけどさ。」
「う〜ん・・・よく考えてみたら、本人が話さないことを他人が知るってかなり難しいことなんだよね・・・知られたくないことを知られたら怒るかもしれないし。」
「逆に知っていて欲しいことを知らなければ、辛いわね。」

れ、レイ様の恋人というのは何と難しい立場なのでしょう!これではいつまでたっても進歩無しではありませんか!折角、涙を乗り越えてレイ様の隣に並ぶための一歩を踏み出そうとしたのに、それすらままならないとは・・・

「そう考えると、レイってすごいわね。」
「だよね・・・私達のこと、色々と知っててくれそうだもんね・・・」
「そもそも、レイの本名すら昨日知ったばかりなのよ?・・・一体、そのレイの元恋人さんはレイの本音とかをどうやって聞き出したのかしら?」

レイ様の本音――――本当の姿――――あ。

瞬間的に、私の頭の中に閃いたのは我ながら名案かと思いました。しかし、色々と危険を伴うものでもありますし・・・ここは一つ、私個人で試してみた方が良いかもしれません。

・・・決して、キララさん達に内緒で差を付けようとしているわけではありません。そう、これは私のキララさん達への配慮なんです・・・一体、私は誰に言い訳しているのでしょうか。


「お父様、お母様。もしも本日もまた私の部屋に来られるようなことがあれば、お父様のことは今後陛下と呼び続け、お母様に関してはレイ様の協力の下、恥ずかしい赤面ものの愛の日誌をお城中、騎士、侍女問わず配り歩きますからそのおつもりで。」
「・・・リリアの背後に鬼が見えるな。」
「何だか、娘の成長が素直に喜べないわね・・・」
「承諾していただけましたでしょうか?」
「「了解。」」

と、そのような会話をしてから数時間。私は緊張しながらもレイ様の来訪を心待ちにしていました。というのも、これから私のやることによってレイ様の本当の姿が見られるだろうと考えているからです。
そうこうしている内にいつものように開かれた窓に風が吹き込み、その風を起こしたのではないかと思わせるほどに静かに当然の如く現れたレイ様に、私はいつも通りであるだろう笑顔を向けます。

「今日は陛下達もいないみたいだな。」
「はい。少々わがままを言ってご遠慮願いましたから。」
「それは可哀想に。」
「いいんです。お父様達は最近、私の楽しみを邪魔しすぎなのですから。」
「違いない。」

そう仰って微笑まれるレイ様の顔に頬が熱くなります。こ、これは急いで作戦を実行してしまわなければ!このままでは、いつものようにレイ様の雰囲気に流されてしまいそうです!

「あ、れ、レイ様。どうぞお座り下さい。」
「ん。」

私がさり気なく示した椅子に腰を下ろされ、私は緊張で震える手でゆっくりとレイ様のための‘それ’を注ぎます。すっかりレイ様専用となった湯飲みに注がれたそれはわずかな熱とともに湯気を立てて、私の手によってレイ様の前へと差し出されました。

「どうぞ・・・冷めないうちにお飲み下さい。」
「・・・リリア、何か気分でも悪いのか?随分と体が強ばってるけど。」
「え?そ、それはきっと、本日は昨日のために溜まっていた公務を急いで仕上げたためではないかと・・・」
「そっか。大変だったもんな。」

嘘です。昨日の分の公務などは、その前日に全て終わらせてしまっています。しかし、レイ様は私の嘘に気付かれた様子もなくゆっくりと私がお茶と偽って注いだそれを口に運ばれ――――

「・・・ん?リリア、これって妙な味がするけど――――」

―――気付かれてしまいましたか!?

「新作か?」
「あ―――は、はい。侍女の方のお勧めを頂いたのです。お、お口に合いませんでしたか?」
「いや、そんなことはない。美味しいよ。」

ほっ・・・今度は嘘は言っていません。ちゃんと侍女の方と相談して、これならばと仰られたものを厳選して頂いてきたのですから。そう、‘普通に飲む分にはお茶と大差ないような’ものを。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-XmSpM] 2006/12/27(水) 14:58:58

ぺあれんつ33!

「ふぅ・・・うん。相変わらずリリアの淹れてくれたお茶はおいしいな。」
「あ、ありがとうございます・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・リリア?」
「は、はいっ!?」
「いや、さっきから何も話さないでじっと俺の顔見てるけど・・・どうかしたか?」
「い、いえっ!そんなことは!あ、お、お茶のお代わりをお入れしますね。」
「ああ、ありがとう・・・」
「そんな・・・その、れ、レイ様にしてあげられることはこれぐらいですから・・・」
「そんなことも無いけどな。」

レイ様が苦笑いを浮かべながら再びそれを口に運ばれるのを私は静かに見守っています。しかし、レイ様は平然とした様子でそれを飲み干して私に向き直りました。

「そうだな・・・珍しくリリアは話の種が切れてるみたいだし、俺の方で今日のヴェロンティエの様子でも教えておこうか。」
「あ、は、はい。」

これは・・・ひょっとして、私の作戦は失敗ですか?
以前、私とキララさん達がお互いの本音をさらけ出すために使ったもの、‘お酒’を本日はお茶と偽ってレイ様に勧めたのですが・・・うう・・・レイ様に嘘をついてまで勇気を持って遂行した作戦だったというのに、効果がないとなると少々傷ついてしまいます。

「あ、リリア。もう一杯いいか?」
「はい・・・」
「・・・何か、傷ついてない?俺って何かしたか?」
「いえ、そんなことはありません・・・」
「・・・いや、元気ないよな?」
「・・・実は少しだけ。」
「どうかしたのか?俺で良ければ相談に乗るぞ?そのためにいるんだし。」

レイ様だからこそ相談できないことなのですが・・・レイ様、やはりお優しいですね。そんなレイ様だからこそ、私は知りたいのです。あなたのことを・・・あなたが私達に知って欲しいと望んでいることを全て・・・

「いえ、これは自分で解決しなければならないことですから。」
「そう、か・・・」

そう仰ると、レイ様はすっとお立ちになられました。
ひょっとして、もうお帰りになられるのでしょうか?と言うことは、私の態度が少しだけ至らなかったということに・・・ああ!私は何という失敗を!?

「れ、レイさ――――」
「リリア。」
「―――は、はい。」
「ちょっと、そのまま座っててくれないか?」
「え?」

レイ様はそのまま私の元へと歩き寄られ、座っている私の背中へと回られて――――

‘――――サラリ――――’

「・・・え?」
「うん。思った通りだ。」
「あ、あの、レイ様・・・?」

レイ様は何を思われたのか。そのまま私の髪を自らの手でゆっくりと梳かれます。それは少しだけこそばゆくて、しかし何処か心地よい感覚でした。

「前から思ってたんだよな。」
「何を、ですか?」
「うん・・・リリアの髪って、滑らかですごく綺麗だ。」
「っ!」
「触ってみて予想通りというか、予想以上というか。初めて見た時から、すごく視線が引っ張られるんだよな。何て言うか、リリアの中で俺が一番最初に惹かれたとこ?」
「あぅ・・・」

レイ様!きゅっ、急に何を仰るのですか!いえ、嫌ではなくて、むしろ嬉しすぎて頬がゆるみっぱなしなのですが!突然そのようなことを誉められては何を考えて良いのか分からなくなってしまいます!と言うか、レイ様はどうしてこのような行動を!?ひょっとして、これがレイ様なりの酔い方なのですか!?酔っておられるのですか!?

「れ、レイ様・・・よ、酔っておられますか・・・?」
「酔う?俺が?それは、何に?」
「え、ええと・・・その――――」
「ああ・・・リリアの魅力に?それは、まあそれなりに酔ってるなぁ・・・」

確定です!レイ様、完全に酔っておられます!普段のレイ様ならばこのようなことは決して仰ってくださりませんから!仰って欲しいのですけど・・・な、何はともあれこれは最大の好機です!この間にレイ様に様々なことをお聞きしてみなければ――――

「ん?リリア〜・・・何を考えてるんだ・・・?」
「え、いえ!その、れ、レイ様にお聞きしたいことがありまして・・・」
「俺に?むぅ・・・まだ、リリアに理解されてないことがあったとは・・・ちょっぴり無念。けど、許す・・・何せ、リリアのためだから・・・」
「あ、ありがとうございます。それで、レイ様・・・その、レイ様が、以前・・・お付き合いされていた方についてなのですがっ・・・お、教えて頂けませんか・・・?」
「俺が・・・ああ・・・沙羅のことか・・・?」

・・・サラ・・・それがレイ様が一度は愛された方のお名前なのですね。

「沙羅のこと、聞きたい・・・?」
「は、はい。」
「ん〜・・・いや〜・・・悪いな〜・・・それは、ちょっと無理だな・・・」
「あ――――」

ほとんどない、レイ様の私への拒絶。それは軽いものですし、レイ様の様子からしても決して私を突き放すことではないと分かります。
しかし、レイ様の今の答えから推測できることは――――‘聞かれたくないことを聞いてしまった’ということ。

「も、申し訳ありません!」
「ん〜・・・気にするなってぇ・・・別に、聞かれたくないことでもないし・・・」
「え?」
「う〜ん・・・つまりだな〜・・・知っちゃうと、リリアが落ち込むからなぁ・・・優しいから・・・」
「私が、ですか・・・?」
「うん・・・リリアって、優しいもんなぁ・・・本当に、優しすぎだよ・・・」

その言葉の直後、レイ様は今までずっと髪に沿わせていた手を離し、その両腕を私の首にそっと回され、少しだけ力を込めて私を引き寄せられました。
って、冷静に状況を解説している場合ではありません!何なのですか、この嬉し恥ずかし心臓どきどきの状況は!レイ様の温もりをこんなに身近に感じることは最近すっかり無かったことなので余計に顔が熱くなってしまいます!

「れっ、れっ、レイっ、様っ!?」
「ここまでしても怒らないっていうのが、リリアの優しいとこだよなぁ・・・」

怒るわけがありません。むしろ、ここから先に進みたいというのが私の本音だったりもするわけで――――はっ!わっ私は何をはしたないことを!?

「うぅん・・・リリア。すごいどきどきしてるだろ・・・?」
「っ・・・は、はいっ・・・」
「そんなんで、大丈夫なのか・・・?」
「え、何を―――きゃあっ!?」

一瞬の疑問の隙をつくようにして、レイ様は私を抱え上げて寝台へと運ばれて―――って、寝台!?何がどうしてこのような状況なのですか!全くもって心の準備も出来ていないというのに、このような状況なのですか!?トスンと優しく寝台に置かれた私の上に、いつの間にかレイ様が覆い被さるように私を眺めて!こ、これは覚悟を決めないといけないのですか!?

「れ、レイ様・・・」
「リリア・・・何だか、今日の俺って変みたいだ・・・」
「は、はい。」
「体が熱くって・・・リリアと、一緒にいたい・・・」
「っ〜〜〜〜〜!!わ、私も、れ、レイ様と・・・い、一緒にいたいですっ・・・」
「そっか・・・なら、いいよな・・・?」

その言葉を最後に、レイ様は崩れ落ちるように私にのしかかってこられました。
ああっ!と、とうとうこの時がやって来たのですか!?レイ様に私の全てを捧げる日がとうとうやって来たのですね!ならば、私も覚悟は決めました!


―――――・・・・かぁ〜・・・・―――――


・・・えっと?

「れ、レイ様・・・?」
「くぅ・・・すぅ・・・」
「あの・・・ひょっとして、一緒にいたいとは・・・一緒にただ眠りたいってだけなのでしょうか・・・?」
「すぅ・・・かぁ・・・」

こ、こんなのってありですか!?こんな、折角レイ様に本音まで聞かせて頂いて、レイ様に嘘をついてまでお酒を飲んで頂いて、そして、そして―――――

――――情けない、ですね・・・私・・・

レイ様は、決してこのようなことをしてくださらないのです。少なくとも、レイ様が決断なさってくださるまでは。そもそも、レイ様のお母様がおっしゃっていたのはこういうことではありません。
レイ様のことをただ知ればいいわけではないはずです。
レイ様と一緒にいる中で、レイ様のことが理解できるような、そんな存在になって欲しいと願われていたはずです。なのに、私は―――・・・

「・・・弱いまま、ですね・・・私は。」
「すぅ・・・」
「レイ様・・・本日は、申し訳ありません・・・私は、卑怯でした・・・私は、愚かでした・・・レイ様なら、笑って許してくださるかもしれませんが・・・それでも、私の行動はとても、最低のことでした・・・」
「かぁ・・・」
「・・・レイ様、私は・・・レイ様を理解して見せます。知るのではなく、分かるようになりたいと思います・・・レイ様のことを、心から愛せるようになりたいと思います。」
「くぅ・・・」
「おやすみなさい、レイ様。」

私は最後のわがままで、眠られているレイ様の胸元に額をくっつけます。
レイ様の鼓動を聞き、それを心地よい子守歌にしながら私は静かに眠りの世界へと落ちていきました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ARDcB] 2006/12/28(木) 16:04:04

ぺあれんつ34!


朝、起きたら美女を1人抱きしめていた。

「って、何故に・・・?」

大声を出すような間抜けなことはしなかったものの、やはり大いに混乱したままの頭で俺は必死に昨晩の記憶を掘り起こす。
確か、リリアに勧められたお茶を飲んでいて、昨日のヴェロンティエについて語っていて、リリアのくれたお茶がおいしいからまた飲んで――――・・・まさか!
抱きしめていたリリアを起こさないようにそっと離れ、机の上に残されていたコップの中に入っていたお茶‘らしきもの’を口に含んでゆっくりと浸透させる。昨晩のように味わうのではなくその成分を確かめるべく舌先に意識を集中させて―――・・・

「あ、アルコール入ってるし・・・嘘だろ・・・」

愕然としながらも、とっさに自分の服を確認する。
とりあえず本能のままに行動したということは無いようで、服を一度脱いだ様子は無かった。ってか、脱いでたりとかしたら最悪だったけどな・・・
一応、リリアの方にも近づいて確認する。
脱がされた様子もない。寝顔は相変わらず美しいまま。よし、オッケー。人として最低のラインは超えてない。ギリギリだったみたいだけど。
とりあえず、最大の問題は解決。ひょっとしたら、というか確実にリリアに対して何かしら恥ずかしいというか危ない行動は取っただろうが、取り返しのつかないことはしてないみたいだ。問題は、リリアが何のために俺に酒を飲ませたのかだが・・・

「本人から聞くべきか?」

依然として可愛らしく上品な寝息を立てているお姫様を前にして、高鳴る鼓動を必死に抑えてその肩に手をかけて軽くゆする。

「リリア・・・リリア、起きてくれ・・・」
「んっ・・・んんっ・・・レイ、様・・・?」
「ああ、俺だ。昨日一体何があったのか教えて――――」
「レイ様ぁ・・・」

一つ分かったこと。リリアは寝起きがあまりよろしくない。この前は2日酔いと驚愕で目覚めが良かっただけのようだ。今回は、半分ぐらいしか覚醒してないらしく俺の腕の中に顔を埋めてきた。

「・・・意外に慣れちゃってる自分が嫌だなぁ・・・」
「うぅん・・・すぅ・・・」
「いや、だから寝ないでくれよ、リリ――――」

‘コンコンコン’
あ。ひょっとして侍女の方が起こしに来たか?緊急時以外ではリリアの許可がないと入れないらしいから、突然に踏み込んでくる心配はないのでちょっと安心。
ひとまずはベッドの下にでも隠れて―――――
‘ガチャッ・・・’
――――あれ?

「姫様。王妃様よりお話があるということで失礼ですが―――――」

扉の向こうから現れたのは、俺とリリアの関係を知っている数少ない方の1人、王国に仕える四聖騎士の紅一点、フィーアさん。
油断していた俺の視線とフィーアさんの視線は真っ向からぶつかり合った。
状況確認。
俺。リリアを起こすためにリリアの肩に手を置いている状態。
リリア。少しばかり寝ぼけて俺の胸に顔を埋めて、寝起きなもんだからわずかに、本当にわずかではあるけれど着衣に乱れがあったりする状態。
2人ともベッドの上。
まあ、あれだよね・・・他人から見ると俺とリリアが今まで同じベッドで眠ってて、先に起きた俺がリリアに服をちゃんと着せようとしてる・・・そう見えないこともないというか、リリアの想いを知っている人が見ると、それ以外に見えないかもしれないっていうか。

「・・・失礼しました。」
「・・・いえいえ。」

‘パタン・・・’
扉が閉まるのを人ごとのように見送ってから、脳が状況を把握する。けれど、体はとっさに動いてくれなかったりで。それは、もうここまでくると、生半可なことじゃ誤解を解くのは無理だよなと分かってたりするためで。もう、すっかり諦めの境地に達してるのが分かってて・・・泣いてないよ?うん。
とか考えてたら扉の向こうから更に声が聞こえてきたり。

‘どうしたの、フィーア?’
‘え、えっと、王妃様・・・こ、この状況で入られるのはいくら王妃様でも許されませんというか、ここに入るぐらいなら常識を学び直した方がいいだろうといいますか・・・’

どうやら王妃様も扉の向こうにおられるようで・・・遠くから聞こえてくる声が、結婚行進曲なのは何故だ?

‘よく分からないのだけれど、とりあえずリリアは起きてるの?’
‘い、いえ、まだ眠られているのですが、わ、私が今の眠りを妨げるのは無理で、むしろこの状況でリリア様を起こせるのはもう、彼ぐらいかと・・・’
‘フィーア、どうかしたの?とりあえず、入っていいのよね?’
‘あ、王妃様!ちょっとお待ち下さ――――’

‘ガチャリ・・・’

「リリア。どうかした――――」

再度扉が開いて今度は王妃様が扉から顔を覗かせる。
さすがに俺も先程よりは動いているが、それでもリリアを自分から離して寝かせ、布団をかけ直すまでが精一杯で俺の体は未だにベッドの上だったりする。しかも、その手はリリアにかけられた布団に添えられたまま。
王妃様から見れば、まあ多分・・・今の今までリリアと寝ていた俺が帰るために静かにリリアを起こさないように布団を出て、風邪を引かないように布団をかけ直したあたりと考えられる光景だろうな・・・
‘た〜んた〜んたた〜んた〜ん、たたたたたんたんた〜ん・・・’
あ。脳内に結婚行進曲が流れ始めた。

「えっと・・・お、お邪魔だったわね。」
「理由とかそういったのは聞かないんですか?」
「用があったのだけど、ええ・・・もうどうでも良くなったわ。」
「大したことじゃないようで安心しました。」
「ええ、心配しないで・・・そ、それじゃあ、リリアをよろしく。」

‘パタン’
扉が閉まった。

‘だから止めたのですよ〜・・・’
‘ええ。さすがに、あれは予想外だったわ・・・フィーア。リュカー団長、それに他の四聖騎士を第2会議室に集合させて。’
‘分かりました。陛下には王妃様自ら?’
‘もちろんよ。他の人達には他言無用よ。これから一週間は忙殺されることを覚えておいて。’
‘大丈夫です。姫様の笑顔が見られるのならば、私はこの身を喜んで捧げましょう。もちろん、新しく仕える主にも。’
‘それじゃあ、また後でね。’

パタパタパタと2つの足音が扉から離れていくのを呆然と聞いてみる。
さてはて・・・とりあえず、どうやって誤解を解いたらいいんだろうね。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-vQCjK] 2006/12/29(金) 13:22:19

ぺあれんつ35!

王城最上階、第2会議室。その室内に立ちこめる空気にとりあえずため息を一つついてみる。まあ、状況は全く変化しないのが分かり切っているけど。
あれから、リリアの部屋の前に衛兵さんが立ったのを知ってすぐに俺は壁を跳び登って最上階までやって来た。目的はもちろん、もつれにもつれまくっている誤解を解きほぐすため。だというのに―――――

「・・・なんでこんなに白熱してんの?」

そうつぶやくしかない。
だって、陛下はもう最上級の笑顔で用意した書類に目を通して判を押していくし。王妃様も負けないぐらいの笑顔で色々とサインしちゃってるし。騎士団長は陛下と王妃様の言葉を聞きながら近くの黒板みたいなのに色々と書き付けてるし。四聖騎士は膨大な書類の束の整頓に忙しそうだし・・・そういうのって騎士の仕事じゃなくて大臣の仕事じゃないの?おまけに、それだけのハードな仕事ぶりだというのに全員の顔に隠しようのない歓喜が溢れてて・・・俺、今からこれを壊しにいくんだなぁ・・・ちょっと罪悪感。
嘆いても仕方ないので、失礼を承知で俺はひょいと窓から部屋に侵入した。

「おはようございます、陛下。」
「ん?おお!レイじゃねえか!」
「おはようございます、リュカーさん。後、アイン達もおはよう。」
「おはようございます、王子。」
「「「「おはようございます、我らが新しき主。」」」」

・・・怖っ!主って!王子って!韻を踏んでて響きが良いとか考えてる場合でもないよ、俺!

「とりあえず、何をなさっているのかお聞きしてもいいですか?」
「なんでぇ、他人行儀だな。もう良いんだぜ、そんな風に話さなくってもよ。」
「・・・リュカーさん。本日の議題は?」
「リュカーと呼び捨てで構いませんよ、レイ様。ただ今の議題ですか?もちろん、レイ様とリリア様の婚約の準備でございます。」
「やっぱり・・・アイン、ちなみに今お前が書いてるの、何?」
「は。これは民に婚約を伝える際の情報統制の仕方です。」
「ていねいな言葉づかいをありがとう・・・王妃様、つかぬことをお聞きしますが。」
「やあねえ、レイ君ったら。もう王妃様なんて呼んじゃだめよ。ちゃんとお義母様って呼ばないと。」

笑顔だ・・・今まで見た中で最上の笑顔がここにある。

「・・・やっぱり今朝見た光景を、自分が理解した通りに陛下達に話されました?」
「もちろん。」
「とりあえず、それ完全に誤解です。」
「何を今さら。」
「すいません。本当にリリアを選択したわけじゃ無いんで・・・まだ、恋人とかになってませんから。」
「あそこまでやっておいて、信じられると思う?」
「やってませんから。」
「口では何とでも言えるのよ。」
「レイ・・・観念して、俺達の息子になっちまえ。」
「猛烈にやる気が失せました。」

ダメだ・・・もう、俺の言葉はこの場では圧倒的に無意味すぎる。いや、確かに俺の方にも昨晩の記憶は無いから強くは出られないんだけど。こうなったら、リリアを連れてきて事情を説明して貰うしかないか・・・もし、何かしてたらどうしよう?

「とりあえず、リリアを連れてきても良いですか?」
「ん?そうだな。やっぱりお前らが決めた方がいいこととかあるしな。」
「それもそうよね。衣装とか舞台とかはリリアと話し合って決めた方がいいものね。」
「・・・もう、とりあえず連れてき―――――」

‘バンッ!’
景気のいい音と同時に扉が開き、そこから飛び込んできたのは息を切らした絶世の美女。
寝起きのすぐに激しい運動お疲れ様でした、リリアさん。

「れ、レイ様はこちらにっ!?」
「おはよう、リリア。」
「あ・・・よ、良かった・・・」

そう言うと、リリアは俺の元へと駆け寄ってきて躊躇うことも恥じらうこともなく、俺へと抱きついてきた。とりあえず、受け止めてはおくが、この状況では誤解という鎖がさらにごちゃ混ぜになることに気付いて欲しい。

「良かった・・・昨日、私があのようなことをしたから・・・幻滅されてしまわれたのかと・・・」

リリア・・・それって、聞き方によっては結構危ない方向にも受け取れるよな?俺、本当に何もしてませんよね?

「あ〜・・・リリア。ちょっといいか?」
「はい。」
「本当に申し訳ないんだけど・・・俺、昨日の記憶がほとんど無いんだが。何をしたのか教えて貰える?」
「え・・・そ、それは、その・・・す、少し言いにくいのですが・・・」

・・・俺、ひょっとして人として最低のライン超えてますか?

「実は・・・」
「あ、ああ・・・」
「わ、私!レイ様にお酒を飲ませてしまったのです!」
「いや、それは知ってる。」
「それで、酔われたレイ様に色々なことを尋ねようとして・・・その、れ、レイ様の昔の恋人のことを・・・」

――――『・・・終わり・・・?』――――

「・・・俺、喋ったのか?」
「いえ・・・酔われていたのですが、お名前だけしか・・・」
「それだけ?」
「はい・・・」

とりあえず、それならセーフだな・・・リリアが後悔するような結果にはならずにすんだみたいで何より。酔ってても気遣いは出来てたようだな、俺。

「レイ様・・・本当に、申し訳ありませんでした・・・私は、とても卑劣なことをしてしまいました・・・」
「リリア。まあ、気にするなって言っても無駄だろうけど・・・その、それぐらいなら問題ないから。後、別に卑劣とかは思わないぞ?まあ、ちょっとやりすぎかな?という感はあるけどな。」
「はい。」
「以後、気をつけて下さい。それで、とりあえずリリア・・・ちょっと周りを見て。」

俺の言葉にくるりと視線を回し、最上級の笑顔が満ちあふれている部屋にようやく気付いたらしいリリアは不思議そうな表情で俺へと視線を戻した。

「あの、今さらなのですが・・・これは一体?」
「単刀直入に言うと・・・俺とリリアが一緒に寝ていたのが見つかった。現在、もの凄い勢いで俺とリリアの婚約発表への準備が進んでいるところらしい。」
「え、ええっ!?」
「それで聞くけど・・・リリア、俺って昨日はリリアに何もしてないよな?」
「も、もちろんで――――あ。」

何かを思いついたらしいリリアの顔は途端に真っ赤になってしまって・・・え、マジで?
何だか急に俺の顔から視線を背けて手をもじもじさせてりなんかしてますが、そういった態度はリリアがやると似合いすぎて怖いくらいなんですけど、今の状況だと非常にまずい予感が俺の背中に走っています。
え?ひょっとして本気で覚悟決めないとダメなんですか?キララ達に何て言えば良いんだ・・・だめだ。何を言っても笑顔で祝福される気がする。いや、別にリリアとの結婚が嫌とかじゃなくて、別に後悔はしないんだろうけど色々とまだやりたいことが残ってるというか・・・

「うわあ・・・王妃様のこと、お義母様って呼ぶの?ちょっと無理かも・・・」
「慣れれば大丈夫よ。」
「さて、レイ・・・そろそろ覚悟を決めて貰おうか?」

陛下の手がぐわしと俺の肩をお掴みになる。少しだけ首をひねってそのお顔を拝見させて頂くと、もう今まで見たことのない最上級の笑顔。一ヶ月前の事件の時もここまでは無かったと思うね。

「・・・酒に酔ってたなんてのは、最低の言い訳ですしね。」
「それを認められるっていう点で、お前は最高だぜ?」
「はぁ・・・リリア。とりあえず、今から改めて―――――」
「あ、いえ・・・違うのです。べ、別にレイ様と取り返しの付かないことをしてしまったわけではありません。」
「へ?」
「何?」
「そうなの?」
「はい。その、酔ったレイ様は少しだけ、嬉しいことをして下さったので・・・」
「俺が?」
「レイ様。私の姿の中でレイ様の目を特に引いているのは・・・私の、この長い髪ですよね?」
「え?・・・あ、ああ。そうだな・・・確かに、リリアの髪は前から綺麗だなって思ってたけど・・・」
「そのことをレイ様は昨日私に教えて下さいました・・・あ、後、少しだけ抱きしめて頂いたりも・・・」

うわあ・・・さすが酔っぱらい。そんな恥ずかしいことを言ったのか。俺はそんな恥ずかしいことをしていたのか・・・やっぱり、酒はダメだな・・・そもそも、昨日の記憶が飛ぶほどの量を飲んだのか、俺?・・・やばいかも・・・

「そういうことですから、昨日は少しだけレイ様のことを教えて頂いて嬉しかったです。」
「あ、そう?まあ、それは良かった・・・お互いに。」

背後を振り返ると、あからさまにガッカリした表情でため息をついている陛下と王妃様。苦笑いをしながら、今まで書いていた文字を消していくリュカー団長。何故か舌打ちまでしながら運んでいた書類を箱に詰め直していく四聖騎士。

「そんなに落ち込まなくても・・・」
「ようやく引退できると思ったのに。」
「陛下、俺がリリアと結婚したらすぐに王位継承をしちゃう気だった!?」
「孫の顔が見れると思ったのに。」
「私とレイ様が結ばれる時はそれが前提ですか!?」
「婚約発表の司会を務めるのは自分の予定だったのですがね。」
「いや、大臣にでもやらせようよ!」
「早とちりか。」
「ま、そんな所だろう。」
「不可能。」
「確かに、姫様には荷が重いですものねぇ・・」
「意気地無しにされていませんか、私!?」

まあ、色々と愚痴を言われたけど・・・とりあえず、一安心でいいんだよな。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2006/12/30(土) 13:12:45

ぺあれんつ36!

俺が問題点に気が付いたのは、リリアと一緒に準備を終えてヴェロンティエに向かおうとした時。

「・・・リリア。これって、ひょっとして朝帰りっていう状況なのか?」
「そうですね・・・正直な所、今日はお店を休もうかと考えてしまいました。」

そんな会話から数十分後。俺とリリアはヴェロンティエの勝手口の前でため息をついていた。もちろん、目の前にある扉から禍々しいオーラがはみ出ているのは予想通りと言うべきか・・・手をつないでただけで鍋が飛んできたから、今度は包丁でも飛ぶかも。

「リリア。とりあえず俺の後ろにいろ。」
「は、はい。お気を付けて。」

俺は扉に手を掛けて、慎重に勇気をもって全開にする。



黒く丸い物体が飛んできた。

「うおうっ!?」

‘ゴキッ・・・’
思わず右手で払うと、微妙な音がその手から聞こえた。今日は右手が使えないかも知れないことを記憶しておこう。

「痛〜〜〜〜〜・・・」
「れ、レイ様っ!?」
「お帰りなさい、レイ。」

そう言って俺の前に立ちはだかったのは、仁王立ちした母さんでした。なるほど、この世界の俺の腕にダメージを与える威力とはどんなもんだと思っていたら、俺と同じくパワーが5倍になっている母さんの攻撃でしたか。

「た、ただいまっ・・・」
「おはよう、ご、ざいます・・・」
「さて・・・レイ。私が言いたいことが分かるかしら?」
「え、っと・・・あ、朝帰りとは何事だ?」
「違います。」

そう言うと、母さんは自分の背後をビシリと指さした。その方向には――――

「レイ、大丈夫・・・?」
「あ、ああ。」
「そう・・・良かった。」

何やらとても安心した様子のキララがいたりする。
って、そりゃそうだよね。いつもなら朝一番に挨拶するはずの家族が家にいないと分かったら心配して当然なわけで。そんなことにも気付かないで俺はのんびりとリリアと一緒に帰ってきたということで・・・わあ、最低かも。

「えっと・・・キララ。し、心配かけてごめん。」
「まあ、いいわよ・・・無事に帰ってきてくれたわけだし。」
「・・・ありがとう。」
「罰として、昨日はリリアと何をしてたのかは喋って貰うからね!」
「了解だ。」

さすがキララ・・・俺がリリアと変なことをしていたわけじゃないと思ってくれたらしい。もう、どこぞの過保護な両親に爪のあかでも飲ませたい。

「キララ、お前だけだよ・・・俺を信じてくれてるのは。」
「レイがそんなに簡単に理性を捨てるようなら、あたし達4人ともとっくに取り返しの付かないことになってるわよ。」
「違いない。」
「それで、リリア。昨日一晩レイを貸し出してたんだから、当然今日は気合い入れて頑張ってくれるのよね?」
「もちろんです。今日の私は無敵ですよ。」
「・・・レイ、本当に何を言ったの?」
「リリアの何処が俺のお気に入りかとか。」

瞬間的にキララの視線がリリアに突き刺さり、それを受けたリリアがどことなく自慢気に見えたのは――――気のせいとしよう。うん。

「これは、後で本格的に色々と聞き出す必要がありそうね・・・」
「教えられないこともありますので。」
「ふぅん・・・レイ。」
「はいっ!」
「今日は死ぬ一歩手前まで働き続けて貰うわよ?」
「マジで!?」

などとキララに睨まれながらお仕事を始める。キララとマリスが相談を始め、看板に『女性限定甘味祭り!クレープ、パフェ、シャーベットの大売り出し!』と書いた紙を下げた時は、本気で命の危機を覚悟した。
いや、だってその3つは非常に女性受けが良い。それは以前の祭典時の売り上げからも重々に承知している。あの時は普段ならそれなりに空いているはずの時間帯に、店内全席に女性がひしめき合って延々とそれらを作らされ続けたのだ。さらに悪いことに作れるのは俺1人だったりして。いや、だって自家製でこういうのを作るのは色々とスキルがいるんですよ。
まあ、そんな広告を出された時のお昼過ぎ。俗に言う3時のおやつの時間帯の様子はどうなったかを一部お聞かせしようではないか。


「レイさ〜ん!こっちにウツザクレープとカロアズクレープ!」
「私、ツラサパフェ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「お客さんを待たせたらだめよ、レイ。」
「鬼か!?」
「すいませ〜ん!ビヌリ、ムテケセとモワーとセウキのシャーベット!」
「はいはいはい!」
「クエウクレープとミアザシャーベット!」
「こっちはチョルーシャーベットとピウアクレープ!」
「ムキアクレープとビッグパフェ。」
「お持ち帰りの3段シャーベットを2つ!種類はね、ウツザとツラサとヤヤ!」
「き、キララ!せめて注文を紙に書いてくれ!」
「大丈夫よ。そこに置いてあるでしょ?」
「レイく〜ん。すごいよ!」
「何が!?」
「外に並んでる人に整理券渡してたら100人突破したよ!」
「絶対に同じ人間が複数回並んでるわね。」
「そこで止めてくれ!」
「レイ様。キララさんが、材料が尽きたら休憩して良いとのことです。」
「よし、材料が尽きたら休憩――――って、さっき誰か買い出しに行ったよな!?」
「はい。後100人分はありますから。」
「ひどくない、それ!?」


はっきり言おう。俺、今なら騎士団の誘いに喜んで乗るかもしれない。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-QbFYt] 2006/12/31(日) 23:07:59

ぺあれんつ37!

自分に出来る最高速度で次々と注文された料理を作り上げていくレイに、思わず舌をまく。
実際の所、レイが諦めるようなら手伝うつもりだったのだ。細かい所は出来ないとはいえ、あたしもマリスもそれなりの実力はあるのだから出来ないわけがない。むしろ、この量をレイだけで裁ききれるはずがないと予想していた。質が落ちるか、速度が落ちるかのどちらかだと思っていたけど・・・
質は落ちないし、速度に至っては上がり続けるってのはどうなのよ。もう本当に今さらだけどレイってすごいわね・・・ひょっとしたら、レイは1人でヴェロンティエをやっていくことも可能かも。それは、好都合だと思う。だって、ねえ・・・?もしも・・・もしも!レイが、あたしと、その、けっ結婚して、あたしが、にっ妊娠したらレイ1人でお店が出来るわけだし・・・気が早いなんてことは頭の片隅に追いやる。
はぁ・・・きっと、もうレイ以外の男の人と一緒にいる姿なんて想像すらできないわね・・・

そんなことを考えていた矢先だった。

「あのっ!レイさん!」
「何だ!?あんたの注文したクレープは今――――」
「この後、暇ですか!?」
「え?」
「この後、暇ですかっ!?」

思わず、あたしだけでなくマリスもフォルトもリリアも動きを止めて突如としてそんなことを叫んだ女の子を見る。レイはというと忙しそうに動きながらも、その子を見ていた。

「まあ、仕事が終われば。」
「じゃ、じゃあ!仕事が終わったら・・・あ、あたしに少しだけ付き合ってもらえませんか!?」
「・・・この後?」
「は、はいっ!」
「結構遅くなるけど・・・」
「待ちます!」
「買い出しにも付き合って貰うことになるかも。」
「付き合います!」
「・・・んじゃあ、店が閉まるころにまた来て貰える?」
「あ――――はいっ!」

それだけを言うと、レイは再び忙しそうに調理場へと戻っていった。あたしはというと・・・硬直したまま完全に動きが止まる。
だって、今の会話は何?あたしですら数えるほどしかないレイとの2人きりのお出かけを、どうしてこんな女の子があっさりとしちゃうわけ?意味が分からないんですけど!?

「・・・ひょっとしてレイ君、怒ってる?」
「は、働かせすぎたのかしら・・・」

隣に来たマリスとフォルトも衝撃を隠しきれないように、微妙に顔が青ざめているのが分かる。と言うか、多分あたしの顔も似たような感じ。リリアに至っては完全に意識が定まっていない。

「まさか、レイ君・・・あたし達に愛想つかしちゃったなんて・・・無いよ、ねえ?」
「・・・無いわよ・・・きっと。」
「じゃ、じゃあ今のは?」
「私が聞きたいわよ・・・今の、何?」
「あたしだって知らないわよ!」

何!?何がどうしてこういうことになっちゃってるの!?リリアがレイに本音の一つを教えてもらったのが羨ましくて、八つ当たり気味にレイにきつい仕事を押しつけてたその結果がこれ!最悪通り越して最低よ!?
っていうか、ひょっとして本気でレイって怒ってるの!?今日はもうあたしの顔も見たくないぐらいに怒ってるの!?そう言えばさっきからレイはこっちを見てくれないし!うわあああ!さっきまでの幸せな想像してる余裕なんて無いわよ!れ、レイが怒るなんて!

「怒ってたらどうしよう・・・?」
「分からないわ・・・そもそも、その・・・レイが、私達に向けて怒るなんて考えたことも無かったもの。」
「いつも拗ねたり怒るのってあたし達だったもんね・・・うわあ・・・・」

考えてみれば当然なんだけど・・・レイだって人間だ。普段どれだけ仲が良かろうと、どれだけ好意を持っていようと、怒りが沸くことだってあるのが当たり前。なのに今までのレイはあたし達のわがままや八つ当たりを受け止め続けてくれてたわけで・・・それが、今日のことでとうとう怒ったの?

「と、とりあえずリリアを正気に戻そっか。」
「そうね。お客さん困ってるし・・・うん。そうしましょう。」

あたし達はそろそろと、レイの視界に入らないように、リリアの側に近づく。
厨房から聞こえてくるいつもの忙しそうな音が、どこかあたしとレイとの距離を曖昧なものにしているように感じた。


女の子の誘いから数時間。
お店も終わり、あたし達が片づけをしている中でレイはいそいそと自分の仕事を終わらせると自分の部屋へと戻ってしまった。別にレイが早いわけではなく、あたし達がいつもより遅いだけなのだけど・・・

「レイ・・・何も話してくれなかったわね。」

マリスの一言がザクリと胸に突き刺さる。
そう。あれからレイは仕事のこととかであたし達に色々と話しかけることはあっても、あの子とのことを会話に出すことは欠片もなかった。それどころか、あたし達の誰とも視線を合わせてくれなかったりする。

「やはり、怒っておられるのでしょうか?」
「多分・・・」
「一時的なものだとは思うけど・・・だからといって、謝らなくていいっていうわけでもないのよね。」
「ちょっと、調子に乗りすぎたちゃった・・・?」

そこで意見がまとまり、いざレイの元へと行こうかと誰かが言い出したわけでもなく4組の足が動こうとした瞬間。

「とっ、とっ、とおっ!?」

レイが階段を一段飛ばしで駆け下りてきた。少し体勢が崩れてたみたいだけどそれも持ち前の運動能力で難なく抑えて慌てた様子で財布やら何やらを確認する。正直に言おう。レイの顔を見た瞬間に何を言えばいいのか分からなくなった。

「よし・・・それじゃ、行ってくる。」
「え――――」
「出来るだけ早く戻ってくるから。」

それだけ告げて、レイはさっさと扉から出て行ってしまった。急いで視線をその方へと移すと、お店の前で待っていたあの子と一緒にレイは談笑しながらさっさとあたしの視界から消えていった。それは、中断させることすら出来ない現実で―――――

「・・・あ。」
「今、レイ君の顔を見た瞬間に何を言えばいいか分からなくなった人手を挙げてみよう。」

4つの手が申し訳なさそうに上がり、あたし達は浅くため息をつく。

「とりあえず・・・どうしよう?」
「私は追いかけることを希望。もちろん、これは私の勝手な考えだけど。」
「あ、もちろんあたしも一緒に行くよ!」
「そうね。こんな気持ちのままじっとしてても仕方ないしね。」
「わ、私もお供します!」
「リリアは駄目よ。」
「そうそう。レイ君がいないのに王族が街に出てたら何かあった時に大変だしね。」
「で、ですが――――――」
「姫様、お迎えに上がりまし――――な、何か?」

扉をくぐって入ってきたのは、最近はすっかり顔なじみになってしまったフィーアさん。
そして、フィーアさんの姿を捕らえた瞬間にあたし達の考えは一致していた。それはもう、レイのことであたし達が一致団結しないことなんて無いのだから。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-yNzeD] 2007/01/01(月) 11:08:15

ぺあれんつ38!

数分後。あたし達はフィーアさんを護衛として人混みの後ろからレイと女の子が仲良く歩いているのを観察していた。もちろん、フィーアさんに尾行の手ほどきを受けながら出来るだけ自然に。ばれないように。

「また笑ってるわね。」
「いい加減、腹が立ってきたんだけど・・・」
「どっちに?」
「両方。」
「キララさん。いざとなれば私がフィーアを動かします。」
「あの〜、姫様・・・私ではレイ君には手も足も出ませんけど〜?」

横から聞いていたら物騒なのかもしれないけど、あたし達にとってはとても深刻な問題だ。レイは先程から不満気な様子を見せることなど欠片もなく、あの子に笑顔を振りまいている。ってか、その笑顔はあたし達に向ける笑顔とどこか違ってるように見えるんだけど・・・何なのよ、この違和感?

「あ。手が触れた。」
「石、投げていいかな?」
「鍋にした方がいいかもね。」
「フィーア。準備は出来ましたか?」
「あのぉ・・・姫様は先程から何を焦っておられるのですか?」
「レイ様のことです。」
「いえ、ですから・・・レイ君が何をするとお考えになられているのですか?」

フィーアさんの疑問の声も、今のあたし達には届かない。レイが何をするのかどころか、何のつもりかも分からないからこうして―――――



「まさま姫様・・・レイ君があの女性に心を動かされるなどという愚かなことをお考えではありませんよね・・・?」



―――――思わず、レイを追っていた瞳も、足も、動きを止めてしまった。

「え、図星ですか・・・?」
「だって・・・ねえ?」
「レイだって男だし、ちょっとしたことで動かないとも限ら―――――」
「動くわけないと思うわよ?」
「フィーア・・・そう、あなたが考える理由は?」

フィーアさんは珍しく、というよりはあたし達の前では初めてリリアに対して明らかな落胆の表情を見せた。

「姫様・・・失礼を承知で言わせて頂ければ、どうして姫様がそのようなことをお聞きになるのかが分かりません。」
「え?」
「私ですら、レイ君が普段からどれほど姫様のことを想っておられるかを感じることが出来ますよ?なのに、姫様がそれを理解できていないというのは、あまりにもレイ君が可哀想です。」
「あ、う・・・」
「姫様にとって、レイ君はそのように軽々と他の女性に鞍替えするような方なのですか?だとしたら、私は姫様とレイ君のお付き合いに反対させて頂きますよ?」
「ですが、その・・・れ、レイ様だって気の迷いというものが・・・」
「姫様!」
「は、はいっ!?」
「今の言葉はレイ君の想いへの侮辱ですよ?」

リリアの顔に走ったのと同じだけの衝撃があたし達の頭を突き抜けた。それは、つい3日前にモモさんに言われたことと大して変わりなかったから――――・・・

「そうですね・・・証拠の一つを上げてみましょうか。」

そう言って、フィーアさんが取り出したのは何やら綺麗な文字と模様が描かれている2枚の金属製の札だった。何が書いて―――――

『レイ君をヴェロンティエから解放し隊』
『仮面の英雄を密かに胸に想い続け隊』

―――――はぁ?

「あの・・・これ、何ですか?」
「ぶっちゃけますと、レイ君の親衛隊です。」
「ええっ!?」
「れ、レイ君にも親衛隊があるの!?」
「しかも、1人で2つも?」
「ええ。正確にはヴェロンティエ料理人、レイ・キルトハーツの親衛隊と仮面の英雄、ファントムの親衛隊の2つ。」
「ファントム様として!?」

ファントム・・・確か、レイがリリアと秘密に会っていた時に使っていた名前だったと思うけど・・・けど、レイにも親衛隊があるなんて――――

「驚くことは無いと思いますよ?だって、レイ君はあの通り性格良し、器量良し、知力体力完璧な理想の男性像の1つですし。と言うか、レイ君以上の男の人を探すっていうのも難しいですよね。一方、ファントムとしてのレイ君も表向きは国を狙った悪党ということになっていますけど、レイ君とまでは分からなくとも真実に気付いている人はほとんどです。そんな仮面の謎の英雄像はとてもお城の侍女達の間に根付いてますしね。女性の騎士にも親衛隊はいましたし。」

そう言えば、そうなのよね・・・
これが普通。レイは普段からあたし達が美人だなんて嬉しいことを言ってくれるけど、実際の所レイだってその容姿は相当なものだ。正直な所、自分が可愛くないなんて思うつもりはないけれど、レイの隣にいると見劣りしないかなとは思う時は決して少なくないし。つまり、そんなレイなんだからあたし達のように親衛隊があるのは当然なわけで・・・

「まあ、そんなレイ君ですが・・・一週間前までの情報によりますと、レイ君に告白、あるいはお友達から始めて下さいと告げた女性の数は一ヶ月前から数えただけで何と15人。その相手ですが、資産家のお嬢様から大臣の令嬢、もちろん一般人で美人と称される人も多々含まれています。」
「えっと、つまりは一週間に5人は告白してる計算になるの・・・?」
「もちろん、隠されているだけで実際はもっと多いと思われますけど。そしてその全ての方々に対してレイ様の答えは常に1つです。」
「・・・1つ?」


「『誰よりも大切にしたい人達がいるんだ』だそうですよ。」


それが誰のことかなんて考えるまでもない。
あたし達だ。
あたし達がいるから、レイは決して誰の想いも受け取ろうとはしない。
嬉しいと思う。素直に、喜ぶべきことなんだと思う。
そして同時に――――――

「・・・あたし、駄目な女だなぁ・・・」

そうつぶやいてしまう程に虚しさがこみ上げてくる。
レイの想いの強さも深さも知っているつもりだったけど、結局の所あたしは何も分かっていない。レイのことを、本当に何も知らない。とてもじゃないけど、レイの隣に堂々と立っていられるような女じゃない。疑って、怪しんで、不安になって、それで全てを誰かから教えてもらってようやく問題ないと自信を持ち直す。
その原因から、目を背けたままで。
レイのことを、ちゃんと知らなければならないと思わずに。

「・・・難しいわね・・・人を好きになるって。」
「正確には、レイ様を愛することが難しいのかと思われますが・・・本当に、サラ様はどのようにしてレイ様のことを理解なさっていたのでしょうね。」
「サラって・・・ああ、レイの前の恋人さんの名前?」
「はい。」
「一度、会ってみたいもんだね・・・」
「まったくよ。」

あたし達は軽くため息をついて、お互いに苦笑し合う。その後ろではフィーアさんがにこにこと笑っていた。

「さて、それでは尾行を再開しましょうか。」
「へ?」
「ここから先は、レイ君を怪しむためでなくレイ君を護るためですよ。」
「レイ様を・・・」
「護る?」
「あたし達が?」
「はい。言ってしまいますと・・・先程から複数の人間がレイ様を中心に集合しておられます。」

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-oFpSr] 2007/01/03(水) 22:26:40

ぺあれんつ39!

「あ、あの・・・レイさん。」
「ん?」
「ご・・・ごめんなさいっ!!」
「あ〜・・・うん。気にしないで。お疲れ様。」

ちぎれそうなぐらいに思い切り頭を下げた女の子の姿は、まあ予想通り。
っていうか、段々と人気のない方向へと連れて行かれてるなとは思ってたんだけどね・・・いい加減この展開にも慣れてきてる自分がかなり嫌だなぁ、なんて思いつつ。
最初の時は、『ひょっとして告白されんのかな?』なんて考えたりもしてたんだけど、今では告白よりも‘こういった展開’の方が予想できるのは進歩なのかな・・・?

「とりあえず下がってて。」
「あ、あの。それが・・・レイさんの側で邪魔しろって言われてて・・・」
「・・・何か、難易度上げられてる?」
「すいません!け、けど、怖くてっ・・・」
「あ、大丈夫大丈夫。君のせいじゃないし。ちゃんと護ってみせるから。」


「「「「それが出来るかな?」」」」


人気のない路地裏に響いたのは4つの声。その方を見やると、最近ではすっかり見慣れた野郎達がニタニタと笑いながらこちらを向いていた。

「出たな、‘裏親衛隊’め・・・」
「今日こそ!今日こそは貴様を血祭りに上げてやるぜっ!」
「この日のために鍛えた力、存分に味わいな!」
「そう、全てはあの子達を俺らのもんにするためっ!」
「ごちゃごちゃと・・・いい加減、お前ら許される範囲を超えてるってこと分かってるか?」

裏親衛隊。
まあ、言ってしまえばヴェロンティエの4人の看板娘達の親衛隊なんだけど・・・今までの親衛隊の連中とは明らかに違っている点がある。それは‘他人の迷惑をかえりみないこと’と‘俺を本気でつぶしに来てること’。そして最も許されないのが‘キララ達を自分たちの欲望対象としてしか見てないこと’。
こういった奴らは、元々はヤンキーとかの外道が自分たちが暴れる口実のために俺を標的にしているらしい。しかも、俺を倒せば美女4人のおまけ付き。後にはおいしいごちそうが――――というわけだ。
最初に撃退した後、正規の親衛隊の連中に話を聞いたところ分かった情報がそれだ。毎回毎回、誰かを人質に取っては俺に避けられない勝負をふっかけてくるわけだが、今回はさすがに度を過ぎてないか?

「馬鹿言ってんじゃねえよ。これは正しい行為だ。」
「そーそー。女の子4人もたらし込んで、そんな奴からキララちゃん達を救ってやろうってわけ。」
「そんで、その後はご褒美なんかもらっちゃったりしてな!」
「それいいな!俺、マリスちゃん希望!」
「ひゃっはははははっ!お前、狙いが見え見えなんだよ!」

うん・・・とりあえず、今日という今日はこいつらからリーダーの情報を聞き出そう。いい加減、我慢の限界だ。マジで先日のイモルキ国王子を思い出してムカムカする。いっそ、スタンガン地獄で生死の境まで追い込んでやろうか・・・

「おい、お前ら・・・遺言は充分か?」
「けっ!強がり言ってんじゃねえよっ!」
「いくらお前でもこの数で、その女を庇いながらじゃ無理があんだろ!」
「大人しく、あの女共を俺達に渡しゃあよかったんだよ!」
「お前にゃ勿体ないぜ、あんな上玉を4つもなんてな!」
「俺達がゆーこーかつよーしてやっからよ!」

・・・有効活用・・・ほう?つまり、お前らはキララ達を物扱いしてんのか?そうなのか?

「・・・うん。仕方ないよな。」
「あぁ?」
「いや、お前らの隊長とか本部とかの場所聞こうかと思ってたんだけど・・・やっぱりやめとく。」
「諦めたか?ま、いまさらおせーけど。」
「泣いて命乞いでもしたらちょびっとだけ考えてやんぜ!」
「考えるだけだけどな!ぎゃははははははははっ!」



「お前ら・・・女のこと考えただけで震えが止まらないようにしてやるよ。」



面倒くさいので戦闘過程は省略する。
しいて言うなら、徹底的に容赦なくやったとだけ。


「さてと。とりあえず、お前らをどうするか・・・?」
「あが・・・がぁ・・・」
「げぶっ。」

積み上げた人間の山を見ながら、俺は適度に真ん中に挟まっている男を睨み付けた。

「希望はあるか?」
「け・・・けっ・・・どうせ、お前なんざ、俺達を、痛めつけるぐらいしか、出来ねえくせに、よっ・・・」
「む。」
「ひゃは、は、はっ・・・何度、だって、や、って、やんぜっ・・・あの、女共、泣かせて、お前に、見せつけて、やる、よ・・・」
「・・・お前ら、とことんムカツクな。」
「怒ったか・・・?おお、怖い怖い・・・けど、お前には、ここまでしか出来ねえ・・・」

これこそが、一番俺が困ってる理由だったりする。
どんだけこいつらが無茶苦茶をしても、証拠も何もない以上はこいつらの罪をさらけだせないのだ。そもそも俺みたいな一般人には逮捕権は無い。リリアの命令を受けなければ俺の誓約紋には何の効力も無い。かといって、リリアに話せば不安にさせるだけだしなぁ・・・
でも、これ以上町の女の子達に迷惑かけるわけにもいかんし・・・

「くそ・・・お前ら、まじで破滅させてぇ・・・」
「お前にゃ無理だ、っての・・・ざまぁ、見ろよ・・・」

畜生・・・悔しいけど、俺には確かに無理――――――



「なら、あたし達ならどうかしら?」



――――って、何故ここに?

「キララ!?マリスにフォルトさんも!」
「あ、私もいます。」
「リリアっ!いや、危ないだろ、おい!?」

近づいてくるキララ達に、俺も慌てながら歩み寄って――――

‘パァァン!’

思い切りビンタされた。

「へっ!?」
「どっちが危ないのよ!ってか、会話の内容から見ると、こういうの一度や二度じゃ無いわね!?」
「え、ま、まあ。」
「早い所相談しなさいよね!あたし達がいれば被害届とかでも出せたかもしれないでしょうが!」
「いや、それはキララ達に手を出させるってことだろ?それは許せるとかじゃなくて、やらせたくないし。」
「あたしにとっては、レイが1人で戦ってる方がよっぽどやらせたくないわよ!」
「だって、ほら・・・その、マリスやリリアに至っては、なぁ?」

そう。俺がこのことを誰にも言わなかった最大の理由はマリスとリリアのためだ。
2人は、この手のやつらに一度迫られている。自分の身が危険になるぐらいまで怯えさせられているのだ。
なのに、また同じようなことが起ころうとしてるなんて言おうものなら2人はきっと・・・

「私が怖がると思ったんでしょ、レイ?」
「・・・ああ。」
「まあ、確かに怖いわよ。けどね、レイ・・・私がもっと怖いことって分かる?」
「へ?」

マリスが辛そうな表情で俺の手を取り、弱いけれど必死な様子で握りしめる。

「・・・私は、自分の知らない所でレイが傷つくのが一番怖いわ。私だけじゃない。キララも、フォルトも、リリアだってそう。私達がレイのことを知らないから、レイが言ってくれなければ何も知らないままなの。」
「そうそう。レイ君が毎日毎日疲れた表情してるの、あたし達って見てるだけしか出来ないんだよ?そりゃあ、レイ君はそれでいいとか言ってくれるけど、あたし達だってレイ君の力になりたいよ・・・見てるだけじゃ、辛いもん。」

ドキリとした。
心配させたくないと思って隠してることが、逆に4人を心配させている・・・それは、思いもしなかった。
いつだって、4人のためだと思ってきた。4人のためにしてきたつもりだった。けれど、それは本当に4人のためになっているのか?いや、なっているわけがない。
‘教えないのは信じてないから’
そう思われても仕方ないことだ。これじゃあ、逆に4人を傷つけるだけだ・・・

「・・・ああ、そっか・・・俺、みんなに何も言ってないんだ・・・」
「何もかもを言って下さらなくてかまいません。」

リリアが俺の側へと歩み寄り、どこまでも深い優しさを宿した笑顔で俺の瞳を見つめる。

「レイ様が仰られたくないことは、私達も知りたいとは思いません。レイ様が思い出したくないことを、私達が思い出させたくもありません。けれど・・・」
「けれど?」
「けれど、私達のための行動ならば・・・少しだけ、私達にもその行動を手伝わせて下さい。レイ様の力だけで幸せにはなりたくないのです。私は・・・あなたと共に、幸せを掴んでいきたいと思っています。」

俺がキララ達を幸せにするんじゃない

俺とキララ達とで、幸せになる

それが真理なんだろう・・・あの時の‘別れ’から、俺が無意識のうちに避けていた誰かと一緒に頑張るということ。
自分が犠牲になれば、悲しむ人がいることを忘れちゃいけないんだよな・・・

「うん。分かった・・・これから、注意するよ。」
「分かればいいのよ。それよりも・・・」

キララは積み上がっている裏親衛隊の連中に痛烈な視線を向けた。

「さてと・・・あたし達、実は最初からいたのよね。」
「だ、だから何だってんだ・・・?」
「あんたらがあたし達に何か気持ち悪いことしようとしてたってこと。」
「へっ・・・だ、だからって・・・それは、証拠には、なんねえ、だ、ろ・・・?」
「そうなのよね。確かに‘ただの看板娘’じゃ衛兵さん達も動いてはくれないのよ。」
「けどまあ、今回はあなた達の相手が悪かったってことだね。」
「は?」

‘――――・・・ッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・’

何だか、とっても綺麗に整った足音が近づいてくる?人数としては、まあ10人くらいかな?しかし、足音がここまで整っているということは、よほど特殊な練習でもしてないといけないと思うんですけど・・・‘騎士’とか。

「四聖騎士フィーア。姫様の命により参上しました。」
「四聖騎士アイン。同じく参りました。」
「ご苦労様です。他の皆様も、ありがとうございます。」

リリアがそう微笑めば、アイン達の後ろにいた10人ぐらいの衛兵と騎士が敬礼の形を取る。
この時点で、すでに裏親衛隊のやつらは呆気にとられている表情だ。まあ、そりゃあそうだよな・・・だって、目の前にいるのは‘自分たちの身の破滅’だし。

「な・・・なん、で・・・四聖、騎士、がっ・・・?」
「り、リリィって・・・い、いや‘リリア’だとっ?」
「ま、まさか―――――!?」

ようやく気付いたらしく顔が青くなる馬鹿共に嘆息しながら、俺はリリアに近づいていく。

「いや〜・・・さすがにここまでやるか?」
「レイ様に危害をなす方達にかける容赦などありません。」
「というより、姫様に危害を加えるやつらにかける容赦が欠片も無いけどな。」

アインがにやりと笑いながら、俺に向かって肩をすくめる。

「そんで、レイ。そいつらの罪状は?」
「ん?ああ・・・何というか、俺への集団暴行、そこの女性への脅迫、後はキララ達への暴行未遂と―――――」

俺はリリアの隣に立って、裏親衛隊のやつらを地獄にたたき落とす言葉を言ってやる。


「第25位正当位王位継承者リリア・キルヴァリーへの暴行未遂だな。」
「なるほど、それは重罪だ。」
「王族に手を出すとは、よっぽど命がいらないらしいのね?」
「まあ、徹底的にやってくれ。隊長さんとかの場所は知ってるはずだし。」
「だな。まあ、これからの人生の半分以上は牢屋暮らしだ・・・楽しみにしとけよ、てめぇら
?」


いまや衛兵達により完全に封鎖された路地裏に、哀れなやつらの悲鳴が響き渡ったのは、それからすぐのことだった。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-DOAXu] 2007/01/04(木) 22:33:45

ぺあれんつ40!

「あ、あの・・・本当にごめんなさい・・・」
「いや。こっちこそ悪かったな、こんな危ないことに巻き込んじゃって。」
「そうそう。あなたが謝る必要なんてないんだから。」

あれから、逮捕されていった裏親衛隊とやらを見届けて私達はヴェロンティエへの帰り道を歩いています。もちろん、人質となった女性とフィーアを連れて。

「お店を出てから急にあの人達に捕まって、乱暴されたくなかったら言うことを聞けって言われて、それで・・・」
「まあ、騎士が動くんじゃあいつらも二度と大したことは出来ないだろうし。安心していいと思うよ。それでも何かあったら、また俺を巻き込めばいいさ。巻き込まれても、それを打破するぐらいの力は持ってるつもりだしな。」

レイ様はそう言って優しい笑顔でその女性を慰めます。
やはりレイ様はお優しい方ですね。見ず知らずの女性のためにもこのように戦って下さるとは・・・少々、嫉妬してしまいますが。それは仕方のないことだと割り切りましょう。

「本当にありがとうございます、レイさん・・・それじゃあ、私はここで。」
「ああ、気をつけてな。」
「いつでもヴェロンティエに来て下さいね。」
「はい!・・・あの、レイさん!」
「ん?」
「こ、今度は!脅されたからとかじゃなくて、自分の意思でレイさんを誘いますから!」
「・・・お手柔らかに。」
「み、皆さん!ま、負けませんからっ!それではっ!」

顔を真っ赤にしたまま、振り返らずに走り去っていった彼女を私達はしばらく呆然と眺めていました・・・というか、今のは何ですか?今のは宣戦布告というものですか!?

「レイ君・・・これでレイ君の親衛隊に再び貴重な隊員が加わったね。」
「フィーアさん。とりあえず、是非とも周りの空気を読んでからその発言をして欲しかったです・・・」
「これで何人目かな?レイ君、女性を集めて革命とか起こしたら成功するのでは?」
「いや、しませんから。」
「そっか。革命しなくても姫様と結婚しちゃえばいいものね。」
「それも未定ですから!」

レイ様とフィーアの会話すら聞き流したまま、私はしばらく女性が走り去っていった方向を見続けていました。
なるほど・・・レイ様はこれほどまでに女性に好かれやすいのですか・・・そうなのですか・・・へえ・・・?

「・・・レイ様。」
「ん?どうし――――ま、した、か・・・?」
「何をそんなに怯えてらっしゃるのですか?」
「えっと、り、リリアの笑顔がすっげえ怖いから・・・?」
「失礼なことをおっしゃいますね?」
「なんか、怒ってない?」
「怒ってなどいませんよ?」
「そうそう。さっきの女の子のお誘いを断らなかったこととか怒ってないしねぇ?」
「後、親衛隊の数を自分から増やすような言動をしたことなんてのも怒ってないわよ?」
「まして、親衛隊の人に告白されてるのを黙ってたこと。怒ってるなんてこれっぽっちも無いから。」

キララさん達の笑顔に、レイ様は何やらひきつった笑顔で後ずさりなされます。その隣ではフィーアがにこにこと笑いながらも、やはりひきつったような表情ですが・・・私、怒ってなどいませんよ?ええ、本当に。
ただ、胸の中がもやもやしていて、それのぶつけ場所としては何故だかレイ様が一番適任だという気がしてるだけですから。

「絶対に怒ってるだろ!?ってか、告白されたなんて、何を証拠に!?」
「そちらに証言者がいますから。」
「あ、レイ君。ごめんね?今月ですでに15人だっけ?教えちゃった。」
「フィーアさん、何故に知ってるんですか!?」
「王国の情報網を甘く見てもらっちゃ困るのよね。」
「関係ないでしょ、それ!」
「フィーアが見せてくれましたが、どうやらお城の方にもファントム様としての親衛隊があるようですね?一体、いつの間に仮面をかぶってお城の侍女達に近づいておられるのですか?」
「いや、別に近づいてないし!ってか、何故に城の方の親衛隊を知ってる!?」
「フィーアさんが二種類の隊員証を見せてくれたわ。」
「そんなのあったのか―――――――って、ちょっと待て。今、何て言った?」

あら?レイ様の顔が何やら急に落ち着きを取り戻されましたが・・・?

「ん?フィーアさんが二種類の隊員証を見せてくれたって言ったわよ?」
「隊員証って言ったよな?いや、それは良いんだけど・・・いや、よくはないけど!うん!」

思わず一歩近づいた私達に気圧されたのか、レイ様はあからさまに狼狽なさった様子で訂正をされます。

「言いたいことがあるならはっきりと言うべきよ、レイ?」
「えっと・・・何か問題がさらに巻き起こりそうなんだけどさ・・・あの、フィーアさん?」
「どきっ。」

いつの間にやら、体を小さくして逃げようとしていたフィーアをレイ様は呼び止めます。

「すっげえ気になることがあるんですが。」
「な、何のことか私には分からないな〜?」
「いや、猿芝居は止めて・・・ってか、そうなんですか?」
「うっ!」
「冗談とかじゃなくて?」
「あ、あはははは・・・お、乙女には秘密が一杯というか。」
「性格変えても逃しませんけど・・・」
「レイ。早い所、言いたいことがあるなら言いなさい?」
「あ〜・・・いや、うん・・・ちょっと予想外というか・・・え〜・・・?」
「レイ君。個人的には黙っててくれると感謝なんだけど。」
「じゃあ言います。」
「鬼ね、あなた!?」

顔を真っ赤にしたフィーアにため息をつきながら、レイ様は随分と疲れた目で――――って、どうしてフィーアの顔が真っ赤になってるんでしょうか?



「・・・‘フィーアさんが俺の親衛隊の隊員証を持ってる’ってことは、そういうことなんだろうなぁ・・・と。」



―――――あ。

「はははははは・・・ひ、姫様!申し訳ありません!で、では私は先に帰ります!」

やはり顔を真っ赤にして、振り返らずに走り去っていくフィーアを私達は呆然として見送りました。
何というか・・・本当に、レイ様の隣に立つには障害が多すぎると感じた一日でしたね。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/01/06(土) 09:43:03

ぺあれんつ41!

「レイの馬鹿・・・」

そんなつぶやきと一緒に、あたしは持っていた枕を壁に投げつける。

「・・・はぁ・・・レイまでの距離って・・・」

やっと縮めたと思っていた。
どれだけ遠くても、縮めていけばいつかは・・・と思っていた。
けど、ただ遠いだけじゃなくてこうまで障害が多いとなると・・・正直、困るというか途方にくれる。レイを想い続ける自信はあるけれど、レイに想われ続ける自信は無い。

「・・・レイ・・・あたし、いつまでレイの側にいていいの・・・?」

それは、レイに聞かないと分からないことだと思う。けど、きっとレイは笑顔で言うんだろう。いつまでもいいに決まってる、と。けど、それがレイの本心だと信じられるかどうかは別の話で・・・いや、信じたいんだけどレイの周りには魅力的な女性が多すぎて、信じ切れないというか、自分が情けないんだけど、それを直すためにも一度レイにはっきりと聞いておきたいというか・・・

「・・・使いたくなかったけど・・・やるしかないわよね。」

自分の机の上に作っておいた‘ある物’を見て、使いたくないと思いつつも作ってしまったそれを見て、自分を納得させるために1つだけうなずいてから立ち上がった。

廊下に出て、右に曲がって突き当たりの部屋。
この扉の前には何度も何度も立っているけれど、この扉の中に入ったことは数えるほどしかない。しかも自分から入るというのはない。それは、まあ・・・そういうことなわけで。意気地無しな自分に呆れながら、いつもならここで迷った挙げ句に引き返す足を地面に縫いつけて、あたしは部屋の扉を軽く叩く。

‘コンコン’

「レイ、ちょっといいかしら?」
「ん?キララか。いいよ、鍵は掛けてないから。」

不用心なことで・・・いや、掛けてなくても誰も部屋に入る勇気は持ってないんだろうけどね。変な考え持ってるとか思われたら嫌だし。
あたしは扉を開けて、すっかりレイ好みに変えられた部屋の中へと足を踏み入れる。

「どうかしたのか?」
「あ、うん・・・邪魔じゃなかった?」
「ちょうど退屈してたとこだ。まあ、やることはあったけどな・・・親父がらみで。」

そう言ってレイが見た先には何やら複雑な装置が置いてある。多分、あたしには分からない代物だろうなと思いつつも、興味は向くのだ。

「何なの、それ?」
「ああ。親父が持ってきた道具の1つでさ。もらったは良いけど、整備不良のせいかいまいち動きが鈍いんだ。現在修理中ってわけだ。」
「また護身道具か何か?」
「いや、これはカメラっていうものでな。分かりやすく言えば一瞬で風景を紙に写し取る道具ってところか。」
「また何だかとんでもないものを作ってるのね・・・」
「完成したらキララとかを撮りたくてね。」
「え・・・」
「いや、何というか・・・俺の地元だと大切な場所や人の写真、つまりカメラで撮った絵のことなんだけど、その写真を部屋に飾っておいたりするんだよ。だから、ヴェロンティエの写真とかキララ達の写真が欲しくなったんだ。」
「ふ〜ん・・・」
「おっと、話が逸れたな。それで、何かあったのか――――って、それか?」

レイはあたしが手にしている物を見つけて、ちょっと驚いたような顔になる。

「お菓子か・・・新しい商品?」
「と言うよりは、お土産用。レイが作ってたオマンジュウだっけ?あれを元にして作ってみたんだけど・・・ちょっと味見、手伝って貰えない?」
「いいよ。確かに、こういったお持ち帰りの品っていうのは気付かなかったな・・・大体、本格的な昼食とかの弁当形式だったし。」
「それはいいから。ほら、食べてみてよ。」

半分ぐらいは嘘だ。
もちろん、これをお店に出そうかと考えていたのは嘘じゃない。レイが作ってくれたお菓子を真似して作ったのも本当。ただ、これをそのままお店に出す気はない。というよりも出せない。
このお菓子の中に入っている具には‘高濃度の酒’が混ぜてあるからだ。色々と強い味を持っている具と混ぜたから、レイといえども気付かないだろうけど効果は抜群だと思う。実際、試しに自分が食べたらあたしは翌日寝込んでしまった。

「んぐんぐ・・・何か、随分と味が濃くないか?」
「そ、そうかな?それじゃ、こっちの方は?」
「あ、いくつか種類があるのか。」

レイに食べさせたかったのは1つだけ。他は普通のお菓子だ。
こうして、うまくレイがあたしの一番食べてほしいものを食べてから数分後───・・

「あ、こっちは良いな。」
「やっぱり?それじゃ、こっちの方は?」
「う〜ん・・・悪くないけど、さっきの方が良かったかな?」
「そう・・・って、レイ?」
「あ、いや・・・ん、何だか、ちょっと頭がぐらぐらしてきた・・・」
「本当?」
「・・・何故に、嬉しそう、なん、だ、よ・・・?」
「き、気のせいじゃない?それより大丈夫?」
「あ、ああ・・・問題ないよ・・・少し、横になっておけばいいと思うし・・・」

そういうとレイは、あたしがいるというのにあっさりと寝転がってしまった。

あたしの膝を枕代わりにして。

「・・・えぇ?」
「嫌なら、立てばいい・・・」
「い、嫌じゃないわよ?うん。」
「ありがと・・・優しいな、キララは・・・それに、温かい・・・」

そう言って、レイは体を動かしてあたしの顔を下から見上げるような姿勢で止まる。きっと酔ってしまったレイの、いつもと違いうっすらと熱を帯びた瞳があたしの視線と交わって、とても恥ずかしい。

「ん・・・こんな、風に膝枕してもらうのって・・・沙羅以外には無かったなぁ・・・」
「サラって・・・レイの前の恋人?」
「ああ・・・」
「どんな人、だったの・・・?」
「うーん・・・キララとも、リリアとも、マリスとも、フォルトさんとも違って・・・無口で、喋っても一言とかで、けどそれは拒絶じゃなくて、時々甘えたがりで・・・俺も、色々と教えてもらった・・・とても、強い子だったなぁ・・・」

その時のレイの顔を、あたしは忘れることは出来ないと思う。
それはとても懐かしく、嬉しい過去を思い出すことが出来て楽しそうで
けれど、何処か非常に悲しそうな顔
この場にいない、今はあたしがレイの一番近くにいるはずなのに、そのサラという人にレイが独占された気がして、思わずレイの顔に手を伸ばしていた。

「ん・・・キララ?」
「・・・あたしなんだから。」
「ん〜?」
「今、レイに膝枕してあげてるの・・・あたしなんだからね・・・サラさんじゃなくて、あたしを、見て・・・今だけは、あたしだけを見てよ・・・」
「あは・・・ごめんな・・・そんなつもりじゃ、無かったんだ・・・うん。大丈夫だよ。」
「ねぇ、レイ・・・あたし、レイと一緒にいたいよ・・・」
「ん〜・・・俺も、キララとずっと・・・一緒にいたいって思うよ・・・」
「ずっと?」
「うん・・・ずっと・・・」

レイもまた、あたしの顔に手を伸ばしてくれる。
その指が頬、顎、唇、鼻、そして瞳の上のまぶたへと移っていくのを、あたしは幸せな気持ちで感じていた。そのままレイの手に自分の手を重ねてみる。

「キララの手・・・温かい、な・・・」
「ねえ、レイ・・・あたしの中で、レイが一番気に入ってるのって・・・どこ?」
「キララの中で、か・・・?」
「あたしはね、レイの手の温かさが一番好きよ・・・いつも、包んでくれてるような温もりが、一番好き。」
「俺は、キララの・・・俺を見てくれる瞳の・・・優しさとか、ちょっと拗ねた様子とか、キララの全てを伝えてくれる、その瞳に・・・惹かれてる、かな・・・?」

見つめ合うレイの視線から、その言葉に嘘が何も無いことを教えられる。
やばい。
やばいやばいやばいやばい。
何て言うか、あたしの理性が持たないかもしれない。このまま、レイの手を離さないで今晩はずっとここにいてもいいなんて思い始めてる。いや、むしろそうしようと決断しかけてる。更に言うと、今のレイならばあたしが望めばそれに答えてくれるような気がするから、それに乗じちゃおうかという、かなり最低な考えまで頭の中に浮かんでくる。
喉はからから
頭は真っ白
心臓は大きく音を立てている。
気が付けば、あたしはレイの顔に自分の顔を近づけていた。

「レイ・・・あたし・・・今日は・・・」
「駄目だよ・・・」
「っ。」
「それは駄目だ・・・きっと、俺も、キララも、リリアも、マリスも、フォルトも、みんな・・・辛くなる・・・笑えなくなる・・・だから、駄目だ・・・俺は・・・みんなが、笑えない結果は、嫌だ・・・」
「レイ・・・」
「別れじゃなくても、笑い合えないようなことは、駄目だ・・・どんな別れでも、後で、笑えるような、ことをしていこう・・・俺は、キララと、そんな風に、ずっと一緒にいたいと思う・・・」
「・・・うん。ごめんね、レイ・・・あと、ありがとう・・・」
「キララ・・・今日は、このま、ま、で・・・俺・も・・う・・・・くぅ・・・」

目を閉じて、ようやく意識が消えていったレイの顔を見ながら、あたしは少しだけ自己嫌悪に陥る。
こんな形で聞くことじゃ無かったなと。
モモさんは、こんなことを言いたかった訳じゃないんだろうなと。
明日、目が覚めたらレイに謝ろう。騙したこととか色々。
その上で、レイに改めて聞いてみよう。

あたしは、いつまでもレイと一緒にいていいよね、と。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2007/01/07(日) 19:26:46

ぺあれんつ42!


朝、目が覚めたら美女を1人抱きしめていた。

「って、デジャビュ・・・?」

何故だ・・・何故にこんな状況に?俺は昨日何をした?ってか、ここまで似たような状況ということはあれですか?

「・・・キララめ・・・一服盛ったな・・・」

おそらく、昨晩キララに出された味の濃いお菓子に大量の酒が混ぜられていたのだろう。方法はリリアに聞いたか、オリジナルかは分からないが、量としてはかなりのものだったようだ。だって、また俺の記憶が無いしね。

改めて状況確認。
今回、俺が寝転がっているのはベッドの上ではなく床にしかれたカーペットの上。布団はかけられている。そしてその布団の中ではキララが俺の腕に抱きついたままぐっすりと眠っている。
つまり、菓子を食わされた後、酔ってしまった俺はキララに恥ずかしい事を言うなりして、それで喜んじゃったキララと一緒に眠っちゃったというところか。取り返しの付かないことをしてないのは感覚的に分かるので一安心。
多分、ミリアさんには気付かれてるだろうから慌てても仕方ないと思う。とりあえず、せめてマリスとフォルトさんに見つかってしまう前にキララを部屋に運び込んで――――

「ん・・・んっ?」
「って、起きたか?この詐欺師め。」
「んん・・・レイ?あれ、なんで・・・」
「キララが俺に酒入りの菓子を食わせて、そのまま酔いつぶれた俺と一晩一緒にいたんだろうが・・・」
「あ、そうか・・・って、完全にばれてる!?」

飛び起きたキララは驚きと申し訳なさと怯えの混ざった表情。
その顔を見てると、怒る気力が沸かないのは・・・まあ、惚れた弱みということにしておこう。厳密には惚れかけている弱みだけど。実は、リリアの時にも同じような展開だったから、もうこの辺りは予想できてたりで・・・俺って進歩の無い男だったんだな・・・

「とりあえず、キララ・・・言うことがあるよな?」
「騙して、お酒飲ませてごめんなさい。」
「よろしい。ついでに、1つ教えておこう。俺はお酒に弱いから、とてつもなく悪酔いするんだ。それは昨日のキララが見たとおり。分かったな?」
「悪酔いってことは無かったわよ?色々と、ねぇ・・・?」
「記憶に無いんだよ、俺の・・・俺がキララに何かしても覚えてないって、これほど馬鹿らしいことはないだろ。」
「あ、でも・・・ちゃんと気配りみたいなことは出来てたわよ?」
「それは何よりだよ・・・はぁ。」

ため息をついて、ちらりとキララの方を見る。少しだけ罪悪感を背負って、それを超える嬉しさと恥ずかしさに押し黙っている瞳が俺の方をじっと見ていた。

「・・・なあ、キララ。俺、そんなにキララ達に色々と伝え切れてないのか?」
「そんなことない!た、ただ・・・あたし達が、それを、受け切れてないだけ・・・だから。」
「けどそれは、俺のせいでもあるよな・・・沙羅と同じじゃ駄目ってことか。」
「―――――っ!?」
「昨日、何があったかしらないけど・・・沙羅のこと、何か聞いただろ?」
「・・・うん・・・無口で、けど甘えん坊で、強い人だって・・・そう、レイは言ってた。」
「そこまで伝えた、か・・・そうだな・・・もう、良いのかもな・・・」
「え?」
「キララ・・・俺が沙羅について話さなかった理由なんだけどさ・・・これを言うと、多分だけどキララ達が聞くんじゃなかったと思うから言わなかったんだよ。尋ねたことを後悔するんじゃないかなって思ってたから・・・けど、それじゃあ駄目だよな。」
「レイ・・・?」

教えてもいいと思う。
キララ達が俺のことを知るのに、俺に歩み寄りたいと思っているのに、俺がそれを邪魔するような壁を作ることはないだろう。俺は、キララ達のことを知りたいと思うし、キララ達に俺のことを知って欲しいと思う。
俺の大切なものも
俺の嫌いなものも

俺の‘傷’も。


「沙羅と別れた原因は・・・沙羅が二年前に死んじゃったからなんだよ。」


キララが息を呑んだのを、俺はじっと見つめていた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-KZNoN] 2007/01/08(月) 17:28:12

ぺあれんつ43!

無口な女の子だった。
時々、思い出したように俺に対してぼそりと言いたいことだけを言う女の子だった。


『零。』
『ん?なんだ、沙羅さんか・・・』
『・・・お弁当。』
『・・・はい?』
『教えて。』
『作り方をってこと?』
『・・・(コクコク)』
『いや、そう言われても・・・』
『放課後。家庭科室・・・じゃ。』
『俺の意見は無視か!』


『米を洗剤で洗うの!?』
『・・・お約束。』
『いや、そんな満足気に言われても・・・親指を立てるな!』
『中指?』
『もっと駄目だから!』

『卵焼きはもうちょっと待って―――って、塩多っ!?』
『・・・(ザバー・・・)』
『いや、砂糖を等量に入れても無駄だから・・・これ、誰が食うんだよ・・・』
『零。』
『マジでか!』

『そういえば、何で急に弁当を?しかも、俺にどうして?』
『・・・聞いた。』
『は?』
『零、    料理上手って。』
『それにしたって、沙羅さんなら他の女の子の友達に聞いても良かったんじゃ?』

・・・ポカッ。

『え、何で怒られるの?』
『・・・沙羅。』
『はい?』
『さん、いらない・・・』
『だから何故に!?』

その時から、鈍感だったんだなと思う。
普通の女の子が、ただのクラスメートが放課後に2人っきりでこんなことをするわけがないのだから。

『はい。』
『・・・は?』
『お弁当。』
『・・・ああ、自分で作ってみたから味見しろと?』
『・・・(コクコク)』
『でも、自分の弁当もあるんだけど―――って、持って行くな!』

『・・・まあ、美味しかったよ。』
『(ジッ・・・)』
『・・・お米の洗い方が足りないかも。』
『(ジッ・・・)』
『・・・ちょっとお肉が油まみれすぎ・・・』
『(ジッ・・・)』
『ああ、もう!分かった!分かりました!どのおかずも不完全だよ!微妙な味だった!』
『正直に。』
『はぁ・・・けど、美味しくなかったわけでもないぞ?』
『え?』
『何て言うか、一生懸命だなっていうのは分かったし。誰かのために必死に頑張ってるんだろうなっていうのも伝わってくるから。そういった料理って、味とか関係なくいいもんだからな。』
『・・・』

ポカッ

『だから、どうして叩かれるんだ・・・』
『・・・ありがと・・・』

そんなことから始まった、俺と沙羅との奇妙な関係。
沙羅が作ってくるお弁当を俺が食べ、俺の弁当を沙羅が食べる。
周りから見れば、いや、俺自身ですらも気付くべきだったはずの沙羅の想い。それが溢れていた時間は、そこにあった。
それがちょっとした変化を告げたのは、いつものように2人で放課後の家庭科室にいた時のこと。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/01/24(水) 11:40:24

ぺあれんつ44!

『随分と美味しくなってきたな・・・もう、誰に食べさせても大丈夫だと思うよ。』
『・・・』
『そろそろ、俺が教えることもなさそうだし。沙羅も、自分が本当に作ってあげたい人に作ってやってもいいんじゃない?』
『・・・』
『沙羅・・・?』
『・・・終わり?』
『え?」
『もう・・・この時間は、終わり・・・?』

その時、俺は頷こうとして出来なかった。
理由は簡単。俺自身が、この時間を・・・沙羅と2人だけで何かをする時間を終わりにしたくなんてなかったから。いつの間にか、沙羅が隣にいてくれるのが当然だと思っていたから。いつの間にか、沙羅がいないことを考えることが出来なくなっていたから。いつの間にか――――

――――沙羅を、好きになっていたから。

『・・・うん、終わり。』
『っ・・・』
『友達として、沙羅に料理を教えるのは・・・終わり。ここから先は、ちょっと変えてみたいなと、思ったりしてるんですが・・・』
『え。』
『あ〜・・・だから、つまり・・・だああああ!もう、何て言うか、沙羅!』
『・・・(ビクッ!)』
『い、一緒にいたいんで、俺と付き合ってくれると嬉しいです・・・』
『・・・(コクン)』

それが始まり。それが、俺の初めて出来た恋人の返事。
無表情ばっかりだった顔を、ほんの少しだけ笑わせて
無表情ばっかりだった頬に、夕焼けに負けないぐらいの朱を写して
そして俺は、それをどうしようもなく綺麗だと思った。

『・・・(ズイ)』
『沙羅・・・その箸は何?』
『・・・(ズイ)』
『いや、ここって教室だぞ?ほら、全員がこっち見てるし?』
『・・・(ウルウル)』
『くっ・・・そ、その目は卑怯だろ・・・あ、あ〜ん・・・』
『・・・(ひょい)』
『んぐんぐ・・・美味いけど、恥ずかしいんですが・・・って、沙羅・・・自分が恥ずかしいならやるなよ。』

『そういえば、沙羅ってどうして俺を好きに?』
『・・・1年前。』
『え?』
『1年前、零・・・子犬、助けた。』
『覚えてないなぁ・・・』
『当たり前みたいに、車の前に出て。当たり前みたいに、子犬を助けて。当たり前みたいに、怪我を治して。』
『いや、やりたいと思うことと、やれることが重なったら、やるのが当たり前じゃ・・・?』
『それ。』
『それって、どれ?』
『そういう、零の・・・当たり前の優しさ。それ、とても好き・・・』
『・・・沙羅。』
『クラスでも、そう。自分が出来ること、やりたいこと、やってやれること。それを、自分からやる優しさ・・・好き。』
『あ〜・・・そうかな?』
『けど、少し・・・寂しい。』
『え?』
『零の優しさ・・・ちょっとだけ、孤独。自分を、犠牲にしようとしてるみたい。』
『・・・』
『だから、私がいる・・・私も、いる。1人じゃない・・・零が犠牲になると、私が泣く。』
『っ――――』
『だから、零・・・そういう生き方、駄目。』
『・・・沙羅には、お見通しってことか・・・うん、了解だ。』
『・・・(にこっ)』
『可愛い恋人、泣かせるわけにはいかないしな。』
『・・・』

ぽかぽかぽか。

『最近、ようやくこれが沙羅の照れ隠しだって分かってきた。』
『・・・(ぷぅ)』
『はいはい。拗ねない拗ねない。』
『・・・(ぐい)』
『えっと・・・その体勢は・・・しろと?』
『・・・(ぐい)』
『下手でも、文句言うなよ・・・?』

沙羅は、超能力者じゃないかってぐらいに俺の思いをくみ取っていた。
当時、俺は親父達が発明とかに一生懸命だったから、自分の希望を隠すことに慣れていた。自分の願いを押しつぶすことに慣れていた。自分を犠牲にして、まあいいかと思っていた。

本当は、嫌だなと思っていた。

けど、沙羅がそれを見抜いてくれた。沙羅が、俺に犠牲になってほしくないと言ってくれた。だから、少しだけ変わろうと思った。自分のために生きることを始めたって良いと分かった。

『・・・沙羅。俺、昨日の記憶が無いんだけど。』
『それ、お水じゃなくて・・・お酒。』
『マジで!?俺、記憶が無くなるほど飲んだのか!』
『7杯ぐらい。』
『うっわあ・・・俺、沙羅に何もしてないよな?』
『・・・(じぃっ)』
『はい、すいません。ごめんなさい。現実逃避です。』
『・・・責任。』
『取ります!取りますから!だから、泣くなって!』

まあ、ちょっとばかり危ない橋も渡ったりしたけど、楽しい日々だった。
そして、俺と沙羅が付き合いだして1年ぐらいたった時・・・

終わりは、唐突だった。

『沙羅・・・大丈夫か?』
『・・・(フルフル)』
『だよな・・・大丈夫なら、こんなとこにいないもんな。』
『零・・・』
『ん?』
『・・・私、死にたくない・・・』
『沙羅・・・』
『けど・・・無理だって、分かってる・・・』
『・・・』
『だから、せめて・・・零、3つ、お願い・・・』
『何だ?何だって叶えてみせるぞ?』
『・・・1つは、私が死んでも・・・ちゃんと、後で、笑って・・・』
『それ、すっげえ難しいな・・・けど、うん。大丈夫だと思う。』
『2つは・・・私に、縛られないで・・・』
『ああ。それじゃ、自分を犠牲にしてるようなもんだしな。』
『それは、嫌だから・・・最後。』
『うん。』



『・・・何があっても、頑張って、必死に、生きて・・・』



それが、沙羅の最後の言葉。
次の日から、沙羅は意識を失って・・・そして3日後に、俺が握った手を握り返すことも出来ないまま―――――


―――――静かに、その命を散らした。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/01/25(木) 10:37:30

ぺあれんつ45!

「さすがに、しばらくはへこんでたんだけどな・・・けど、数ヶ月もしたら何とか立ち直れたよ。何せ、沙羅との約束は破れないわけだしな・・・」
「レイ・・・」
「レイ様・・・」
「レイ・・・」
「レイ君・・・」
「そのおかげというか、今ではちゃんとキララ達に会って、恋することもできてるわけだし。だから、別に話したくないわけじゃ無かったんだよ。ただ、この話すると場が暗くなるのが苦手でさ・・・」

それは、そうでしょうよ・・・こんな話を聞かされて平然と笑ってやれる奴がいたら、そいつは人の皮を被った悪魔か何かだわ。

最初は、興味本位で聞いてしまったレイの元恋人の話。
なるほど・・・確かに、あんな風にしつこく聞くんじゃなかったと後悔しちゃうわ・・・

「あ、あの・・・れ、レイ様!申し訳ありません!」
「あたしも、ゴメン。あんな風に聞いていいことじゃ無かったわ・・・」
「右に同じく。ごめんなさい。」
「レイ君・・・あたし、のせいだよね・・・ごめん・・・そんなこと、何度も何度も思い出させるようなこと言って・・・」
「そう言うと思ったから言い出せなかったんだよな・・・俺自身、全く気にしてないとは言わないけど、あれは過去の話だから・・・別に4人に話すことは問題ないよ。それに、沙羅のことを思い出すのは、俺にとって大切なことだしな。まあ、割と最近まで思い出すの忘れてたけど・・・どうしてだと思う?」

どうしてって・・・それは、何となく分かる。

「それはさ―――――」


「あたし達が・・・あたしと、リリアと、マリスと、フォルトがいたから・・・違う?」


レイが驚くような視線をあたしに向ける・・・って、どうしてそんな顔してるのよ。

「何よ?」
「いや・・・正解だったから、びっくりして。」
「そのぐらい分かるわよ。そのサラさんほどじゃ無いけど、あたしだってレイを見てきてるんだから。レイはこう言いたいんでしょ?『あたし達がいたから、自分はサラさんのことを忘れてた。サラさんのことを吹っ切れた。サラさんの願いを叶えることが出来た。だから、ありがとう。』って。けどね、あたし達はそれでもレイに悲しいことを思い出させちゃったっていうのが――――――って、な、何よ?」

さすがにあたしは椅子を引いて驚く。
だって、レイだけじゃなくリリアも、マリスも、フォルトも、全員があたしの方を見てびっくりしたように目を丸くしているのだから。
レイに至っては、どういうわけか軽い微笑まで浮かべている。

「な、何?何か、あたし間違ってたりした?」
「いや・・・完璧すぎて何も言えない。」
「キララ・・・レイ君の言いたいこと、分かるの?」
「当たり前で――――って、フォルト、分からなかったの?」
「うっ。」
「わ、私もそこまでは・・・」
「そっか・・・キララの方が、レイをよく見てるってことなのね・・・少し、悔しいわね。」

あたしが、レイを見てる?

「いや、さすがに俺もびっくりだな・・・俺が何か言わなくても、ちゃんとキララって俺のこと分かってくれてるんだ。」
「あ、あたしが?」
「だって、今のキララの言葉は俺の言葉そのままだし。それって、キララが俺の思いを理解してくれてるってことだろ?」

あたしが、レイを理解してる・・・って、えぇ?
つ、つまり・・・あたしはレイとの距離をちゃんと確実に縮めてるってこと?しかも、リリア達よりも一歩進んだところで?サラさんと同じような場所で?それは、あたしが――――

「つまり、キララちゃんがレイの恋人の最有力候補、と。」
「お義父さんと呼ばれるのも近いな。」
「どっから沸いて出たんだ、2人とも!?」
「失礼ね。ちゃんと部屋の外から入ってきたわよ。あ、ちなみにミリアさんもいたわよ?」
「お、お母さんもっ?」
「あらあらあら。ばれてしまいましたね。」
「いいんですよ、ミリアさん。子どもの話は親の話ですから。」
「何、その斬新な常識!?」
「レイ。」
「何!?」
「常識は人が作るものだ。」
「良い言葉なのに納得いかねえええええええええ!!」

そのまま逃げるように部屋から去るガイさんを追って、レイも慌ただしく部屋を出て行った。残されたのはあたし達4人と、お母さん。そして、モモさんの6人。

「さてと、邪魔な息子もいなくなったことだし・・・」
「わざとだったんですか?」
「女の話に男はいらないんですよ。」
「ミリア様、それはどうかと・・・」
「それよりも・・・キララちゃん、随分と早い内にレイの心を理解し始めてるみたいね。ちょっと嬉しいわ。」
「あ、ありがとうございます・・・けど、あたし、レイの傷・・・思い出させちゃって。」
「いいのよ。あの子が沙羅ちゃんのことを思い出す時は、いつだって前向きなんだから。あなた達が気にするような傷は、沙羅ちゃんとの思い出の中には無いわ。」
「・・・レイは、優しいですから・・・例え、ひどい傷でも笑っていそうです。」
「そうですね・・・あの事件のときにも感じましたが、レイ様は自分を不幸にしないと物事を解決できないと思っておられますから・・・」
「私の時も、自分だけが傷つくような状況を作ったものね。」
「優しいっていうか、自己卑下すぎない?もう少し、自分を押し出してもいいと思うんだけど・・・」
「そうなのよねえ。私達のおかげで、レイってばすっかり自分を押し殺すのに慣れちゃって。」

頬杖をついてため息をつくモモさんに、あたし達もまた同じようにため息をついた。

「まあ、その辺りはあなた達が頑張ってちょうだい。沙羅ちゃんの代役なんていらないから。沙羅ちゃん以上にレイを支えてあげられる存在になってあげてね?」
「はい。」
「お任せ下さい。」
「分かっています。」
「了解でっす!」
「さてと・・・それでは、そろそろかしらね?」
「え?」
「ミリアさん。そろそろ、私達帰ろうと思います。」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/01/26(金) 10:07:36

ぐっばい、ぺあれんつ!

ヴェロンティエの前。
俺、キララ、マリス、フォルトが並んで立っている。俺達の前にいるのは親父と母さん、そしてミリアさんの3人だ。

「全く、来る時も突然なら帰る時も突然だな・・・」
「そう言うな。父に会えなくなって寂しいのは分かるが、そこは男として涙を堪えて―――」
「いや、泣いてないから。」
「お母さんが送ってくれるの?」
「ええ。ちょっと町の外に用事があるのよ。ついでだから見送らせて頂こうかと思って。」

まあ、実際は親父達が帰るためにはミリアさんの力がいるというだけなんだけど。そこは言う必要もないだろう。キララに自分が純粋な人間じゃないと教える理由もないし。

「それじゃあ、レイ・・・最後に1つだけ確認しておくけど。」
「母さん?」
「私達と一緒に帰る気は無いわね?」

‘ギュッ・・・’
右手に何らかの感触を感じ、ちらりと見ればそこには少しだけ不安そうな眼をしてこちらを見つめるキララがいた。
おいおい・・・キララ、まさか俺が帰るとでも思ってるのか?だとしたら、少し寂しいですよ?そんな思いを込めて、俺はキララの手を軽く握り返す。

「まあ、たまに帰ってもいいけどな。悪いけど、最近じゃすっかりここが俺の家になってるし・・・こっちにも、家族がいるしな。」
「それなら良し。リリアちゃんにもヨロシク言っておいてね?」
「ああ。見送りに来れなくて残念だって言ってたしな。頼むぜ、我が息子。」
「了解。リリアからの伝言で『今度会う時は、レイ様の全てを理解してみせますから!』だそうだぞ。」
「あの子らしいわね。楽しみにしてるって伝えておいて。」
「それじゃあ、行くとすっか。」
「ではレイさん、留守をお願いしますね。」
「レイ・・・いいえ、零。たまには顔ぐらい出しなさいよ?」
「そうだぞ。お前がここでレイって名乗るのは良いけど、お前の今までに雨谷零という過去があったことは忘れるな。」
「分かってるって。親父達が付けてくれた名前だ。名前そのものも、それに託された思いも、ちゃんと心に刻んでおくさ。」

親父が突き出した拳に自分の拳を打ち合わせ、にやりと笑ってやる。親父も、俺と同じように笑ってから背を向けた。

「キララちゃん達を泣かすんじゃねえぞ〜。」
「最大限の努力はしてみせるよ。」
「昨日みたいに、自分を理解してもらうことを忘れちゃ駄目よ?」
「放っておいても理解してもらえるとは思うけどな。」

ゆっくりと歩き出す親父達が人混みの向こうに消えていったのを見送ってから、俺は店に入ろうと背を向け――――

「じゃあな、レイ・キルトハーツ。」

そんな声が聞こえた気がして、一瞬だけ振り返った。
人混みの間からちらりと一瞬だけ見えた親父達の顔は、とても満足そうなものだった。

「ありがとうな・・・親父、母さん・・・」

自分でも分かる程度に浮かぶ微笑を押さえて、俺はゆっくりと背を向ける。

「レイ。」
「ん?」
「あの・・・ありがとう。」
「・・・こちらこそ。」
「2人で良い雰囲気作ってると困るんだけど?」
「レイ君!あたし達のこと忘れてない!?」

苦笑いを浮かべながら、俺は足を動かした。



向かう先は、俺が必死に頑張って生きる場所だ。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/01/30(火) 09:14:17

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