発明・ざ・わーるど!ちゃいるどっ!?

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初めてこの作品をご覧になる方、はじめまして。
前作、前々作、前々々作から読んで下さっている皆さん、今回もよろしくお願いします。
雨やかんです。

皆様の応援に押されて、とうとうこの作品も4作目となりました。今回のテーマは見れば題名から分かるとおり【子供】です。
ええ、皆様も予想してくださっているとおり、今回もわれらが主人公レイ・キルトハーツは大変な問題に襲われます。4人の女の子に言い寄られ、自分の親衛隊の存在も明らかになり、相変わらず国王には継承者として誘われ、第一恋人候補の親からは笑顔で了承され、彼女達の親衛隊からの攻撃は熾烈を極め─────・・・

こうして考えてみると、彼ってよく生きてますね。
身体能力が跳ね上がっていても、筆者ならこの生活は一週間で廃人になりそうです。けれど、皆様の望みが彼の不幸なので止めません。
今回はちょっぴりギャグを多目にしてみました。(=レイの災難も3割増)

それでは、レイ・キルトハーツと彼を巡る女の子との愛と勇気(?)と友情(!?)の物語をどうぞ!

ちなみに、初めて読まれる方は出来れば完結置き場にある第一作目から読んでいただければ幸いです。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/02/01(木) 10:10:39

ちゃいるど1!

「レイさんなら、今朝早くに出て行きましたよ。」

さて、唐突だけど自己紹介でもしましょうかね。
あたしの名前はキララ。キララ・ランクフォード。母親と料理店をやっている16歳の女の子だ。自分の容姿には結構自信を持っている。親衛隊みたいなものだって出来ているぐらいだ。自慢したって良いだろう。
もちろん、自慢できるのは料理の腕も。お母さんが若い頃お父さんと始めたという料理店、ヴェロンティエは既にこの王都で最高の人気店と言ってもいいぐらいだ。

しかし、別にこの料理店はあたしが働き出す前から人気があったわけじゃない。というより、半年前までは赤字続きの開店休業状態だった。今の店の状態を知る人からすれば、何を言っているんだと思うかもしれないけど本当だから仕方ない。
そんな状況が一転したのは、お母さんが連れてきた一人の旅人。

レイ・キルトハーツ

「レイが、出て行ったって・・・ど、何処に・・・?」

隠す必要も無いから、はっきりと言わせて貰おう。
あたしはレイが好きだ。友人としてでなく、一人の男性としてレイが好きだ。
一度は離ればなれになったときもあったけど、今ではいつも一緒にいてくれる、あたしにとって何よりも大切な存在。

「ど、どうして!?なんで、なんでレイが出て行くの!?どうして、お母さんはそれを止めてくれなかったの!?」

そんなレイが、ヴェロンティエを出て行ったと聞いたあたしは、ただ取り乱すしかなかった。

「ねえ!何でレイが!レイは何処に行ったの!?お母さん!!」
「キララ・・・レイさんはこう言っていました。『最近、少し疲れてます』って。」

目の前で一児の母とは思えないほどの若さを維持しているのは、他ならぬあたしの母親。ミリア・ランクフォードだ。
お母さんにとっても、レイは大切な存在のはずだったのに・・・何で!?

「けど、けど!そんな理由でどうして!」
「限界だったのかもしれませんね・・・毎日毎日親衛隊の人に追い立てられる日々。休むことなく働き続ける日々。キララ達の想いに答えを出そうと必死に考え込む日々。普通の人なら、とっくに精神がつぶれてしまうような状況がこんなにも続いたんです。レイさんは、きっともう・・・」

そんなお母さんの言葉に、あたしは一気に力が抜けて床にへたり込んだ。だって、お母さんの言うことは・・・それは、あたしがレイの重荷になっていたということに他ならないから。
あたしって、馬鹿だ・・・最近、ようやくレイの気持ちが分かるようになってきたと浮かれていたのは、何?本当に、あたしはレイのことを理解できてたの?レイが、疲れ切っていることにも気づかなかったような、馬鹿なあたし・・・最悪だ・・・最低だ・・・

あたしは、また、レイを失って――――――


「ただいま帰りまし―――――って、ミリアさん。何ですか、この雰囲気?」
「あら、お帰りなさいレイさん。」

―――――は?

「ん?キララ、どうした?体調でも崩したのか?見たところ熱はないみたいだけど・・・って、少し泣いてないか?」

ちょっと・・・ちょっと待って。あたしの前にいるのは誰?
あたしのことを心配そうに視ている黒の瞳。それと同じ色のさらさらとした髪。視ているだけで頬が染まりそうになるほど整った顔立ち。どこかで見たことあるわよね?

「・・・ちょっと、自分の名前を言ってみなさい。」
「は?」
「いいから。」
「名前って、レイ・キルトハーツに決まってるだろ・・・」
「職業は?」
「ヴェロンティエ料理人と、臨時においてだけど王宮騎士。」
「特技は?」
「料理と医術と発明。」
「どこに住んでる?」
「ヴェロンティエ。」
「あたしが、あんたに抱いてる感情は?」
「愛。」
「・・・お母さん?これは、どういうことなのかしら・・・?」
「キララ、マジでどうしたの・・・?」

何故かひきつった笑顔を浮かべているレイを尻目に、あたしは先ほどまで深刻な表情であたしと話していた母親に視線を向けた。
なんか、もうとっても晴れやかな笑顔だった。

「あらあらあら。キララったら、レイさんが本当に出て行ったとでも思ったの?」
「そう思わせるようなこと言ったのは誰よ!」
「キララのレイさんへの信頼を試したのよ。」
「ミリアさん・・・本音は何ですか?」
「最近、まじめな雰囲気が無かったので。少しだけりりしい自分を演出してみたかったんですよ。」

この母親は・・・一度、本気でレイと2人で新しいお店を作り出すことを考えた方が良いかもしれない。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/02/01(木) 10:11:52

ちるどれん2!

こんにちは、リリア・キルヴァリーです。
えっと・・・一体、私は誰に自己紹介などしているのでしょうか・・・?
と、ともかく。年齢は現在15歳ですが、後数ヶ月もすれば16歳。つまり、レイ様と同い年ということで、その、け、結婚もできたりする年です・・・いけません。想像しただけで頬が緩んでしまいます。
私は、一応ではありますがこの国の王女を務めています。一応と言ったのは、私が未熟な故に王族の仕事をあまりしていないためです。最近は少しずつ手を付けてみるのですが・・・実は、たまに手伝ってくださるレイ様の方が上手になさるので悔しいです。国王であるお父様と、王妃であるお母様は非常に嬉しそうでしたが。何でも、これから王位を継ぐのだからこの腕前ならいつでも結婚できると仰っていました。後、私が子育てに集中できるとも・・・嬉しいやら恥ずかしいやらです・・・
そんな私は、現在身分を隠してキララさんの好意に甘えさせて貰う形でレイ様と一緒にヴェロンティエで働いています。城にいては決して知ることの無かった人々、将来は私がこの手で守っていかねばならない人々のことを知ることができ、私の毎日はとても充実しています。
それもこれも、全てレイ様のおかげなのです・・・が。

「レイ様・・・何をなさっておいでですか?」
「り、リリア!?」

あ、ちなみにリリィというのが私がヴェロンティエで働く時の仮の名前です。

「随分と綺麗な女性を右に置かれて。あら?よく見ればフィーアではありませんか。これはあれですか?よく本などに載っている浮気というものでしょうか?」
「何の本を読んだんだ!?ってか、誰に読まされ――――いや、いい。分かったから。」
「あ、あの、レイ君?わ、私まずいことしちゃったかな?」
「大丈夫だと、信じたい・・・とりあえず、情報ありがとう。後、報酬は出来るだけ穏便な方向でお願いします・・・」
「わ、私、お城に帰るね・・・それじゃ!」

さっさと逃げ帰るフィーア、本来なら私を守ってくれる騎士の一人なのですが・・・今の場合は単なる敵です!
最近になって、レイ様の周りには非常に美しい女性が増えてきています。もちろん、キララ様達はまた別ですが・・・レイ様は非常に女性を惹き付けるお方ですから仕方のないことではあるのですけど。嫉妬ぐらいなら許されますよね?

「あの、リリア?これは、別にやましいことをしてる訳じゃないぞ?ただ、最近になって裏親衛隊のやつらがようやく壊滅できたらしいからその事後報告みたいなのをしてるだけだから。」
「その割には随分と声が上ずっておいでですね・・・本当にやましいことはないのですか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・すいません。情報の代わりに、今度2人で服買いに行くことを約束させられました。」
「レイ様の嘘はわかりやすいです。」
「以前は、あんなにも騙されやすかったのになぁ・・・」
「私だって、キララ様に負けないようにレイ様を理解しようとしているのですから。とりあえず・・・レイ様、外出の用はそれだけですか?」
「ああ。元々、フィーアさんが店に来るはずだったんだけどな。話ついでに騎士団の仕事の手伝いをしてたんだ。」
「レイ様・・・ひょっとしてですが、本当はその手伝いが情報料なのではないでしょうか?」
「へ?」
「騎士団の仕事は、民間の協力に対する謝礼がちゃんと行われていますし・・・その、レイ様は一応ではありますが民間人ですので、ちゃんと報酬があると思うのですが。」
「え・・・俺、ひょっとしてフィーアさんに騙された?」
「おそらくは・・・」

がっくりと肩を落とされるレイ様を見て、思わず笑みがこぼれます。
普段はあれほど凛々しく、頼もしく、強いレイ様ですが、このような姿を見ればやはりその正体は私達と同じ一人の人間だと、そう分かるからでしょうか・・・

「さあ、レイ様。お店に戻りましょう。」
「ああ・・・はぁ、キララ達になんて言えばいいかな・・・」
「おそらく、今度はキララ様達と一緒にお買い物に行くことになるのではないでしょうか。」
「かな?ほんと、参ったね・・・」
「頑張ってください。けれど、分かってくれますよね?その行動が、レイ様のことをお慕いしているからだって。」
「そりゃ、もちろん。」

そう仰るレイ様の手を私は思わず握りしめていました。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/02/03(土) 09:40:24

ちゃいるど3!

それは、いつも通り大繁盛の売り上げを叩き出した一日を終えたヴェロンティエでのことだった。
珍しくリリアが俺たちと一緒に夕食を食べていた時のことだった。ちなみに、メニューは俺が作った皿うどん。
始まりは、唐突にミリアさんの放った一言だった。

「キララ。あなた、弟が増えたら嬉しい?」

‘ガチャン’‘ガギン’‘ベチャッ’‘カラン’‘ギィン’
い、いきなり何をおっしゃいますかこの人は・・・思わず箸を取り落としてしまった。けど、驚きなのはみんな一緒のようで。特に実の娘たるキララの驚きは持っていた皿を取り落とすぐらい。

「は、ええ?」
「あらあらあら。そんなに驚くなんて。食器が割れなくて良かったわね。」
「そんなことはどうでもいいけど、そ、その、お母さん?一体どこからそんな話が出てきたのよ?」
「まさか、ミリア様。妊娠なされたのですか?」
「リリア。それじゃあ相手がいることになるでしょ。ミリアさんの周りには男の人なんて――――」

おい・・・何故、全員そこで俺を見る?疑われてますか?疑われてるんですか、俺!?

「そんなわけ無いから・・・」
「こんなおばさんで良ければいつでもお相手しますよ?」
「ミリアさん。これ以上場の混乱を大きくする発言は、明日からのミリアさんの食事へのプウミアの量を増やします。」
「あれ、苦手なんです。」
「話を元に戻しなさい!」

キララのお怒りもごもっともで・・・しかし、本当にミリアさんは何だってあんな質問をしたんだ?

「ミリアさん。またどうして弟が増えたらなんて?」
「いえ、大したことでは無いんです。ただ、ちょっと今日町中で仲の良い姉弟を見つけたんですよ。それで、キララはどうだったのかなと思いまして。」
「ああ、そういうことだったのですね。」
「リリアは兄弟ってどう思う?」
「私の場合は立場が立場ですから。一人の方が気楽と言えましたね。もちろん、いて欲しいと思ったこともあるのですけど。」
「そう言えば、マリスさん達は兄弟姉妹っているのか?」
「私は兄がいるわよ。二つ上のね。」

そんな俺の質問に最初に答えてくれたのは、スタイル抜群の美女。名前は、マリス・インベルグ。
かってはリリアの住む城で働いていたが、今ではヴェロンティエの料理人兼給仕として働いてくれているキララの昔からの友人だ。彼女も俺に好意を寄せてくれているのは、もはや神様が俺に与えた試練か何かだと思う。俺、絶対来世では苦労しそうだ。

「あたしもいるよ。下に3人。弟、妹、妹の順番で。キララがお給料上げてくれたおかげで、3人とも健やかに育ってるよ〜。」
「それは良かったわ。」

元気ハツラツといった感じのこちらの女性は、フォルト・ラインクル。
やはり俺の事を好きでいてくれるキララの学友だ。彼女もまた、マリスと同時期に城からヴェロンティエへと移ってきた。いやあ、友情のなせる技ってすごいね。ちなみに、年齢に体型が追いついてないのが悩み。

「4人姉弟とは・・・お母さんも大変だったろうな。」
「まあね。けど、最近はあたしが働いてるから随分と家事に専念できてるみたいだよ?」
「そうね。私の家も、今では兄と私の給料で2人は暮らしてるし・・・それに、最近だけど老後の楽しみが出来たのよ。」
「へえ、どんな?」
「レイがうちに婿入りしたとき、子供を何人産ませるかを考えてるわ。後、未来の孫の名前も。」
「それ、ぜひとも次回帰宅したときに止めさせてくれ・・・」
「いいなあ、3人ともレイ君との仲が公認で。あたしのうちなんか、お父さんが随分と反対してるよ。」
「まあ、レイ様では不服だと言うのでしょうか?」
「なんて言うか、頑張って育てた娘をそう簡単に身元不明の男にやれるかー!だってさ。身元不明の人なんて今時ごろごろいるっていうのに・・・お父さんったら、妙なとこで子供っぽいんだから。」
「なあ、俺がフォルトさんをもらうことが確定済ってとこは無視か?」
「レイ。そんなの今更でしょ。」

ああ、そうだな・・・確かに、ミリアさんも、陛下と王妃様も俺と自分たちの娘が結婚するのは完全決定として話してたもんな。けど、それでも言わずにはいれないのが男ってもんなんですよキララさん。

「それで、キララは兄弟姉妹が欲しいと思ったことはある?」
「無いわね。」

即時断定とはまたキララさんらしいことで。

「あらあらあら。」
「お母さん、忘れたの?レイが来るまで開店休業状態だったのよ?そんな中にもう一人家族がいてみなさいよ。とっくの昔に破産してるわ。」
「では、今なら良いかなと思える?」
「う〜ん・・・働き手がいるのは良いかなって思うんだけど・・・やっぱり、いらないかなぁ・・・」
「そう?」
「うん。だって、レイがいるし――――――っ。」

キララ・・・今の言葉は嬉しいんだけど、もうちょっと場所を考えてから言おうな?ほらほら、周りの視線が痛いですよ!特に発言者のキララじゃなくて俺に集中してたりしてね!慣れっこだから良いけど。

「つまり、家でレイと二人っきりになりたいからそんなものはいらないということかしら?」
「ち、違うわよ!い、いや全く違うわけでもないんだけね!?」
「俺に弁解されてもな・・・リリア、どうかしたか?」
「いえ、今更ですけど。実はレイ様とよく2人きりになっているのは私だけだったのだなと思いまして。」
「リリア・・・その笑顔は余裕の顔なわけ?」
「いいえ。優越感に浸った顔です。」
「うわ、自慢した!」

ああ、もう。珍しく食事時に騒動なんか起こしちゃってまあ。ちゃんとご飯は完食してからそういったことはしましょうよ。ほら、ミリアさんの目も怒って―――――
いや、あれは怒ってない?むしろ、あの表情はまるで・・・憂鬱、か?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-mvduP] 2007/02/12(月) 10:09:46

ちゃいるど4!

「レイ、どう思う?」
「ミリアさんのことか?」
「うん。」

夕食も終わり、リリアを城まで送り届けた俺の部屋にやってきたキララが最初に尋ねたことがそれだった。

「どうって、ミリアさんが言った通りだと思うけど。」
「本当にそう思ってるわけ?」    

さすがキララさん。鋭いことで・・・いや、自分を育て続けてくれた母親のことだしな。このぐらい出来る方が当然なのかも。

「そうだな・・・最後にミリアさんが見せた、ちょっと憂鬱気味な顔は気になるけど・・・」
「あの、レイ。私の考え聞いてくれる?」
「言っておくけど、俺は本当に何もしていないからな。」
「当たり前でしょ・・・レイがそんな行動するなら、あたし達の誰かが最初に決まってるじゃないの。」
「その信頼は嬉しいね。それで、キララの考えは?」

俺の問いに、キララは少しだけ身を固くする。その状態でしばらく迷って、結局何かを思いついたらしく改めて俺の方に向き直った。

「ふ、2人でもお店頑張るわよ!」
「話が飛びすぎで訳分からん。」
「だから、その、お、お母さんが、いなくなるかもしれないし・・・」

――――――は?
このお嬢さんは、今何と言いましたか?ミリアさんがいなくなる?しかも、ヴェロンティエを放って、おまけにキララまで置いてか?

「キララ・・・お前、熱でもあるのか?」
「失礼なこと言わないでよね!」
「いや、今の場合はお前の方が十分失礼だろ。いくらキララでも、今の発言はひどいと思うぞ?」
「だって――――お、お母さんが幸せになるには、それしか・・・」
「だからキララ。お前は一体何の可能性を思いついたんだよ?」

俺が少しばかり呆れたような声を出すと、キララはとても真剣な目で俺の服を掴む。
うん。相変わらずキララの髪からは良い香りがするなぁ・・・って、そんなこと考えてる場合でもないだろ、俺。今は、普段は中々甘えてこないキララが珍しく俺を頼ってる事の方は重要で―――――



「お母さん・・・きっと、お父さん以外に好きな人が出来たのよ・・・」



―――――うん。一度キララはゆっくり休んだ方が良いかもしれない。

「さて、寝るか。」
「ちょっ!何よ、その態度!?」
「俺の方こそ、何だよその考え?と言いたいぞ・・・ミリアさんに好きな人が出来たなんて、あるわけ無いだろ。」
「どうしてそう言えるのよ!」
「そりゃ―――――」

ミリアさんは、人間じゃないから。なんて言えないよなぁ・・・
この世界以外にもある様々な世界。そこにおける魂の調節をする神様。それがミリア・ランクフォードの正体だ。
そんな彼女には元々名前が存在しなかった。それを与えた人。神として存在していたが為に、命として存在することを自分に許さなかった彼女に、ミリアという名と、存在と、命を与えた人。
それが、キララの父親だ。
自分を神と知って、それでも神でなくミリアさん自身を愛してくれたからこそ、ミリアさんもまた、彼の想いに応えて結ばれた。だからこそ―――――

「――――ミリアさんは、キララのお父さん以外の人を好きにならないよ。絶対にね。あの人を本当に理解できたのは、キララ以上にキララのお父さんだけだ。」
「む・・・そりゃあ、あたしだってその方が嬉しいけど・・・」
「キララだって想像できないだろ?ミリアさんが他の男性を好きになってる姿。」
「ってか、想像したくないわよ・・・けど、そう考えると説明できちゃうんだもの。」

そう言えば、キララはどうして弟の話からミリアさんの結婚の話に・・・?

「何が?」
「その、お母さんが好きになった人も、前の奥さんと別れてて、あたしより小さな男の子がいて、それでお母さんがその人と結婚したら弟ができるでしょ?」
「ああ、そういうことか。確かに、筋は通ってるな。」
「なら――――」
「けど、それなら最初に『お父さんが欲しい?』って聞くのが妥当じゃないか?」
「う・・・」
「それに、そんな話をあんな場所・・・少なくとも、リリア、マリス、フォルトさんがいる場所では話さないよ。」
「レイは?」
「あの人は俺とお前の結婚を本気で狙ってる人だぞ・・・」

そんな話が出れば、むしろ俺に『キララを頼みますね?』とか笑顔で言いそうな気がする。ってか、絶対に言う。言わないわけがない。

「けど、それじゃあどうやって説明するのよ?」
「それは・・・う〜ん・・・」
「ね?あたしの話の方が可能性としてはあるでしょ?」
「本っ当にすっげえ小さな可能性だけどな。例えるなら、この街のどこかにある人の汗の一滴を探し当てるぐらい。」
「やっぱり、あるんじゃないの。」

僅かな可能性を否定しないキララ・・・ポジティブ思考って言うのかな、こういうの?

「だからね。あたしお母さんに言ってみようと思うの。」
「何を?」
「その・・・あ、あたしに構わなくて良いよって。あたしの為に、お母さんってずっと我慢してたかもしれないから。あたしは、もう一人じゃないから。レイが、いてくれるから・・・だから、お母さんも本当に好きな人がいるなら、その人の所に行っても、良いって。だから――――――きゃっ。」

考えるよりも、言葉を口にするよりも早く、俺は、キララを抱きしめていた。
だって、ねえ・・・?話してる途中だっていうのにキララは涙目。肩は震えて、声なんて平静を装ってるけどかすれてる。
これを放っておくぐらいなら、俺はとっととキララの元から去った方が良いね。

「・・・不安なんだろ?」
「っ!」
「ミリアさんの幸せを願ってるってのは本心でも、離れても平気だなんて嘘なんだろ?」
「・・・うん。」
「一緒にいたんだもんな・・・お父さんが亡くなっても、ミリアさんだけは、いつでもキララの側にいてくれたから。」
「・・・うん。」
「けど・・・いや、だからこそ大丈夫だよ。ミリアさんは、絶対にキララを置いて何処かへ行ったりしない。俺と同じように――――いや、俺よりもずっと、ミリアさんはキララの側にいたいと思ってるよ。だって、それがミリアさんの幸せなんだからさ。」
「・・・うん。」

俺の腕の中でキララが微笑んだのが分かる。ゆっくりと抱きしめる力を弱くして、俺はキララの顔を正面から見つめた。

「けど、レイ・・・やっぱり、あたし言ってみるよ。お母さんの幸せだって、一つじゃないと思うから。」
「そっか。なら、俺は何も言わない。」
「もしもの時は・・・結構泣いちゃうと思うから、よろしく。」
「ミリアさんがいなくなったら、その時点で俺はキララを選択するかも。」
「それ、かなり魅力的な二択なんだけど。」
「キララを笑顔に出来るなら、それが一番だからな。まあ、リリア達には散々謝ることになると思うけど。」
「その時は、あたしも一緒に謝ったげるわよ・・・」

ようやくいつも通りの自然な笑顔を浮かべたキララを見て、俺は一層確信した。
こんな娘を、あの人が置いていくわけがないと。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2007/02/12(月) 10:54:06

ちゃいるど5!

「お母さん・・・ちょっと、話があるんだけど。」
「キララ?それにレイさんも・・・どうかしたの?」

レイとの話し合いの翌朝。あたしとレイはお店を丸一日休みにすることにした。
マリスとフォルトには、少しだけ事情を説明して外に出かけて貰っている。もちろん、2人とも快く了承してくれた。本当に、あたしは友人に恵まれていると思う。
そして、親にも。
だからこそ、お母さんの幸せをあたしが邪魔するのだけは耐えられない。

「お母さん。大切な話が、あるの・・・」
「・・・ええ。」

お母さんの顔が、少しだけ真剣になってくれた気がする。
ここで逃げちゃ駄目だから、あたしは密かに隣にいるレイの手を握る。そこから感じる暖かさを自分の心に伝えて、勇気に変える。
大丈夫・・・今のあたしには、レイがいる。

「その・・・お、お母さん!」
「はい。」
「け・・・結婚しても良いよ・・・」
「キララ・・・!!」

あたしでもほとんど見たことのない、お母さんの心からの驚きの表情。

「キララ・・・本当に、そんな・・・だって・・・」
「これは・・・あたしの本当の気持ちだから・・・あたし、お母さんが連れてきてくれたレイのおかげで幸せだから・・・だから、お母さんの幸せ、今度はあたしが、叶えたいの。」
「・・・私の幸せを、キララが・・・?」
「うん。」
「いいの・・・?だって、レイさんは・・・」

一瞬だけ、レイの手を強く握りしめる。すぐに、レイの手もあたしの手を握り返してくれた。

「レイも、構わないって言ってくれたから・・・だから、お母さん。あたし達は、大丈夫。」

お母さんの目に、少しだけ涙が浮かんだような気がした。
それを確認する前に、あたしの視界は覆い被さるように抱きしめてくれたお母さんによってふさがれる。

「キララ・・・ありがとう・・・本当に、ありがとう・・・」
「うん・・・お母さんも、今まで、ありがとうっ・・・」

ああ、駄目だ。
やっぱり涙が溢れちゃう・・・お母さんが別の人の所に行くという悲しさと、お母さんが幸せになれるという嬉しさと、もうヴェロンティエにお母さんがいなくなくなるという寂しさ。
けど、大丈夫・・・だって、あたしにはレイがいる。だから、どれだけ泣いたって、きっと笑うことが出来る。お母さんを、祝福することが出来る。

「キララ・・・キララッ・・・」
「お母さんっ・・・」



「「結婚、おめでとう。」」



―――――あれ?
今、何か不自然な言葉が二つほど重ならなかっただろうか?一つはあたしの言葉として、もう一つは・・・?

「え?」
「あら?」
「いや、まあそんなことだろうとは思ったんですけどね・・・」

今までの感動的な雰囲気は何処へやらといった口調でレイがあたしとお母さんを見てため息をつく。

「え?え?れ、レイ?どういうことか分かってるの?」
「どうもこうも無いって・・・キララ。ミリアさんは勘違いしてるぞ。」
「ええ?」
「ミリアさん。キララの言ったことがどういう意味か分かってますか?」
「あらあらあら。キララ、あなた‘レイさんと結婚する’って決めたんじゃないの?」

―――――はぁ?

「ミリアさん。キララは、ミリアさんが結婚してもいいって言ったんですよ。」
「まあ、私が?誰とですか?」
「俺が聞きたいですね。時にミリアさん。今現在、結婚を前提としてお付き合いしている男性はおられますか?」
「・・・レイさん。それは、私のあの人への想いへの挑戦ですか?」
「誤解を解くための確認作業です。ミリアさんにとって、キララの父親以上に愛する男性はいますか?」

そんなレイの問いかけに、お母さんは心外だというような表情を見せる。

「嫌ですね、レイさん。私があの人以上に愛せる存在なんて、この街どころかこの世界、いいえ、全ての世界において存在するはずがないじゃ無いですか。過去においても、今も、そしてこれから先も必ずです。」
「すごい広範囲、かつ絶対的な断定をありがとうございました。と、いうわけだキララ。」
「え、ええ!?お、お母さん、だって今!今、お母さんの幸せって言ったわよね、あたし!?」
「ええ。私の今の一番の幸せと望みは、キララとレイさんが結婚して幸せに暮らしてくれる事よ?叶えてくれるんでしょ?」
「・・・れ、レイ・・・どうなってるの?」
「そのままの意味だろ。ミリアさんの幸せを、俺とキララの結婚と置き換えて今の会話をしてみろよ。」

そんなことして、会話が成立するわけないで――――――

『け、結婚してもいいよ・・・(あたしと、レイが。)』

『お母さんの幸せ(レイとあたしとの結婚)、今度はあたしが叶えたいの(レイと結婚することにより。)』

『だって、レイさんは(リリアちゃん達と迷っているんでしょう?)』

『レイも(あたしと結婚することを)構わないって言ってくれたから』

『キララ、ありがとう(娘の晴れ姿を見せてくれて)』

『お母さんも、今までありがとう(あたしをここまで育ててくれて)』

『(あなたとレイさんの)結婚、おめでとう』

―――――って、怖いくらいに成立してるっ!?

「あらあらあら?あの、レイさん。キララと結婚してくださらないんですか?」
「その覚悟もありましたが、とりあえず現時点ではその線は消えましたね。」
「それでは、今までは一体何の話をしていたんでしょうか・・・?」
「そうですね・・・まあ、それはキララの口から語ってもらいましょうか。」

レイがにこやかに話題を振ってきたのを、あたしは呆然とした顔で受け取った。



「キララ・・・ちょっと、傷ついたわよ?」
「ご、ごめん。」

あたしの予想を話したお母さんの第一声に、あたしは思わず頭を下げた。

「私があなたのお父さん以外を好きになるだなんて・・・例え天地がひっくり返ろうと、この世界が滅びようともあり得ないわ。それに・・・」
「そ、それに・・・?」
「私が、お父さんが残してくれたこの店を出るなんてことも無いわ。まして、他の人たちとの感情にそれほどの幸せを持つことも決してないわ。」
「そう、なの・・・?」
「ええ。だってね、キララ。‘お父さんを亡くした私の幸せは、常にキララと共にあるのよ’・・・それを、忘れないで。」
「お、お母さん・・・ありがとう・・・」

全く持って、情けない・・・
ここまであたしはお母さんのことを分かっていなかったのかしらね。レイの想いを理解することなんて、今のあたしにはとうてい無理だ。だって、実の親であるお母さんの気持ちすらも理解できてなかったんだから。
けど、正直なところホッとした。お母さんは、あたしを置いていなくなったりしないんだって。

「けど、少しだけ残念ね・・・私、やはり出て行こうかしら。」
「な、何で!?」
「だって、私がいなくなったらレイさんがキララを選んでくれるって言ったんでしょう?」

瞬間的にあたしはレイを見る。レイはというと、頬を少しだけ染めながら苦笑いをしていた。

「ミリアさんは絶対にキララを置いていかないと思ってましたからね。それでもキララが置いて行かれるようなら、せめて俺が側にいてやりたいって思っただけですよ。」
「キララ。それじゃあ、私この家を出て行くわね?」
「結婚式には呼ぶから。」
「こら、待て。今までの良い流れをぶち壊すようなことは止めれ。」
「私の身一つでキララとレイさんが結ばれるのなら!」
「お母さん、ありがとう!」
「それはもういいから・・・それで、結局ミリアさんはどうして弟が欲しいかなんて話をしたんです?」

う〜ん。さすがレイ、うまく話をそらしたわね。
けど、確かに今回の発端であるその発言はとても気になる。

「本当に、昨日言ったことが全てじゃないですよね?」
「ばれてしまいましたか。」
「そりゃあ、一応お母さんの娘だもの。」
「将来の息子かもしれませんから。」
「そうですね・・・教えても、良いかもしれませんね。しばらく待っていてください。」

そう言って、お母さんはすたすたとあたし達を置いて部屋を出て行った。

「・・・何だと思う?」
「あたしに聞かれても・・・まさか、あたしも知らない隠し子がいたとかあり得ないだろうし。」
「だよな。でも、今の口調からすると、まるで今から弟を連れてくるみたいな言い方じゃなかったか?」
「そうよね・・・余計に頭が混乱しそうだわ。」
「確かに。まあ、どうせすぐに分かるって言うなら待つか。」
「そうしましょ。」



――――――そんな会話をした、数分後。

「・・・マジですか?」
「お母さん・・・嘘だと言って欲しいんだけど。」
「2人とも、ちゃんと現実を見てくださいね?」

あたしとレイの目の前にあるもの――――いや、目の前に‘いる者’は・・・

「あうぅぅ・・・あ〜、う〜・・・だぁっ・・・」

お母さんの腕に抱えられ、小さな手と腕を必死にあたし達に向かって伸ばしている一人の男の赤ん坊だった。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-VcGRk] 2007/02/13(火) 15:15:47

ちゃいるど6!

「つまり、3日ほど前に店の前に捨てられていた子供をミリアさんが拾った。」
「お店に来るお客さんには、その子の親はいないと分かった。」
「それで、仕方ないから昼はお店を俺たちに任せて親を捜して――――」
「こっそりと家でその子を育ててたけど――――」
「いい加減、隠しておくのも限界かなと思いまして。」
「最初から言ってくださいよ!」
「最初から言ってよね!」

俺とキララはほとんど悲鳴に近い形でミリアさんにつっこんだ。
ってか、それじゃあ少し前からミリアさんの姿を見かけなかったのはそれが理由か!そんな理由からこの人は朝昼夜と俺たちの前に姿を現さなかったのか!

「全く・・・それで、進展はあったの?」
「それが全くないの。だからもう少し大々的に探すにも、あなた達の協力は必要かなと思ったのよ。」
「その手の施設に預けるとかはしないんですか?」
「レイさん。子供は、小さいときは実の親の元でこそ最も成長できるんですよ。例え、その親が一度は捨てるような人だとしても、きっとそれを後悔するときが来るはずです。でしたら、せめてそれまでの間は私達が力を貸してあげてもいいと思いませんか?」

俺とキララは同時に顔を見合わせ、やはり同時にため息をつく。

「まあ、その赤ん坊と似たような境遇(居候)の俺が言っても仕方ないですしね・・・」
「お母さんの言うことも一理あるけどね。確かに、うちなら、その子の親の情報も集まりやすいだろうし。」
「では、2人とも‘レキ’のことをお願いしますね?」
「レキ?子供の名前ですか?」
「はい。レイさんとキララから一文字ずつ取りました。」
「何故に!?」
「と言うか、お願いしますってどういう意味よ!?」

キララの質問に答えることなく、ミリアさんはキララにひょいと赤ん坊、レキを譲り渡した。

「キララ。お母さんは、育児にもう疲れたわ・・・」
「今までやっておいて!?」
「ってか、あなたは女手一つでキララを育てたんでしょうが!」
「しばらく、親探しの方に集中したいの。」
「「人の話を聞いて!」」
「これからしばらくはレイさんが‘お父さん’、キララ達が‘お母さん’よ。」
「「えええええええええええええええええ!?」」
「それじゃ、私はちょっと出かけますね?レキをよろしくお願いします。」
「ちょ、ちょっと待っ――――って、もういない!?」
「逃げた!?いや、面白がってるのか!?」

俺は忘れていた。
赤ん坊の前で、そんな大声は禁物だということを。

「ふ・・・ふぅぇ・・・」
「げ。」
「え?」
「ふぅぎゃああああああああぁぁぁぁ!ぅぅぎゃああああああああ!!」
「きゃああ!?ちょ、な、泣かないでよぉ!」
「ってか、本当に俺たちが子育てするのか・・・」

赤ん坊を必死に泣きやまそうとするキララを見ながら、俺はそれだけを何とか呟くことが出来た。


「レイ、覚悟は出来たかしら?」
「レイ君。あたしにだって許せないことってあるんだよ?」
「分かったから、包丁を構えて不適に笑うのは止めて。」

戻ってきたマリスとフォルトさんが、俺とキララが必死にレキ(他に良い名前も思いつかなかったので決定)を泣きやませ、ようやく一息ついたところを目撃した瞬間の言葉がそれだったり。
ちなみに、その時の状況はレキが俺の指を握りしめて、キララに抱っこされていた。

「まさか、そこまで進んでいたとはね・・・驚きだわ。」
「まだ選択しないとか言いながら、ちゃっかりやることやっていたなんて・・・レイ君!見損なったよ!」
「だから、包丁を両手で持つな。突進すれば人を殺せる体勢も止めて・・・」
「マリス。フォルト。いい加減にしときなさいって・・・はっきり言うわよ。」

おお、キララ!さすが持つべき者は親友!さあ、あの親友達にビシリと納得のいく説明を!

「酔ってもいないレイにそんなことする度胸があるわけないでしょ。」
「・・・それもそっか。」
「そう言われてみれば、そうよね。」
「何、その納得の仕方!?」

とまあ、落ち着いた2人に事情を説明し終えたのはそれからしばらくして。

「それじゃ、とりあえずはここで育てるのね?」
「そうなったみたいだな。フォルトさん、一番下の妹さんって何歳?」
「今年で8歳。多分、もうその手の道具は無くなってるんじゃないかな・・・?」
「ミリアさんは道具を使わずに育ててたんでしょ?」
「マリス・・・ミリアさんに出来て3人に出来ないことって一つだけあるだろ。」
「え?」
「・・・授乳は、妊娠した女性しか出来ない。違うか?」
「そう言えばそうね。」
「だから、この際道具を一通りそろえる必要がある。ミリアさんはおむつから自家製みたいだが、俺にはそんなもんまで作る技術はない。」

いや、構造を完全に把握すれば作れるだろうけど。それにしても基となるものを徹底的に解剖してみないと。それに、俺の発明って主に工学系がメインだしなぁ・・・

「じゃあ、買いに行けばいいじゃない。」
「誰が?」
「そりゃあ―――――・・・どうしよう?」

俺とキララ達の中の誰かが行く・・・お店の方に祝福の眼差し。
キララ達だけで行く・・・・・・・・相手は俺だと勝手に判断される。
いっそ、俺だけで行く・・・・・・・キララ達の中の誰が相手?と聞かれる。

「どのみち俺は何らかの被害を被る訳か・・・」
「と言うか、親衛隊がどんな対応をするかしらね。」
「言うな。考えたくもない。」
「でも、行動しないと何も変わらないんだよねぇ・・・とりあえず、レイ君は荷物持ちのために固定でいい?」
「じゃあ、一緒に行くのは誰かということで・・・レイの臨時の奥さん役やりたい人。」

3つほど手が上がった。

「くじ引きで決めるわよ。」
「「異議なし。」」
「だぁ!」
「お前のせいだと分かってるか、レキ・・・?」

何が楽しいのか笑顔で上げたレキの小さな右手を、俺は苦笑いしながらそっと包んでやった。


結局、激戦の末に勝利したのはキララだった。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-tGqLi] 2007/02/14(水) 16:42:17

ちゃいるど7!

「くじ引きってあんなに白熱するものだったか?」
「今更でしょ。それよりレイ。もう少しゆっくり歩いて。」
「ああ、悪い・・・俺がだっこしようか?きついだろ。」
「良いわ。ちょっと眠っちゃってるみたいだし。」
「よく考えたら、連れてくる必要無かったような・・・」

俺はキララの腕の中で眠っているレキを見ながら、思わずそうぼやく。

「少しでも見つける可能性は上げないと。」
「ま、そりゃあそうだけどな・・・もう、周りの視線が痛いんだよ・・・」
「あたしだって痛いわよ。」

ちなみに、周りの視線とやらを会話付きで報告するとこんな感じ。

「あれ?ヴェロンティエのレイさんとキララちゃん・・・と、子供?」
「いや、あれは赤ん坊だろ・・・」
「ま、まさか!?」
「そんなはずは無い!」
「いいや、レイだって男だぞ!」
「け、けどそんな急に生まれるなんてわけが!」
「ひょっとしたら、前から密かにいたんじゃ・・・」
「私達に内緒で育てて!?」
「ひどい、レイさん!既に子持ちだったなんて!」
「あ、でも。それはそれでちょっと良いかも。」
「いや、それより名前は!?」
「結婚式はいつ!?」
「披露宴に呼んでくれるかな!?」

以上、ある程度の誇張は含んでいるかもしれんが、まあそんな感じ。

「はあ・・・何だかなぁ。」
「あんまり騒がしいとレキが起きちゃうのに・・・」
「・・・」
「何よ?」
「いや、実は意外と母親役を楽しんでやってるだろ?」
「まあ、滅多に出来ない経験だし。それに・・・将来、こうやって歩けたら良いなって思うから。」
「・・・そういうのは、もう少しいい雰囲気の時に言おうな。」

思わずどきりとしたし・・・しかも、それが結構リアルに想像出来る辺り、俺も満更じゃ無いんだろうな・・・

「見つけたぞ、レイ・キルトハあべしっ!?」
「た、隊ちょおうぶっ!」

唐突に路地から現れた親衛隊を、俺は一撃の下に黙らせる。

「黙れ。騒ぐな。大声を出した瞬間に貴様らの口をつぶす。分かったな?」
「・・・」
「良いか。レキ、あの子供の名前だけど、レキは寝ている最中だ。それを無理に起こすとどうなる?」
「な、泣いちゃう・・・?」
「そうだ。そしたら、キララが困るよな?大通りで、必死に子供をあやすキララ。周りからは冷たい視線。お前ら、キララを泣かせたいか?ならば、俺の前に出てこい。」
「「「「申し訳ありませんでした。」」」」

小声で土下座して謝る親衛隊に、俺はよしとうなずいてやる。

「後で説明してやるけど、あの子は俺の子でもキララの子でもねえ。だから、とりあえずは心配すんな。」
「あ、そうなのか?」
「分かったら今日は帰れ。後、他の親衛隊にも伝えとけ。今日、レキを泣かす行動をしやがったら店への立ち入りを一ヶ月禁止してやるから。」
「「「「絶対にしません。」」」」

来たときと同じように静かに走り去っていく親衛隊と見て、俺は満足げに振り返――――キララさん、その生暖かい視線は何ですか?

「レイのお父さんっぷりも、中々見てていいものね。」
「ぐっ・・・」
「なんだかんだ言って、レイって親ばかになるんじゃない?」
「言うな・・・それは、あまり考えたくない未来だ。」

俺の心労の種となっているミリアさんや陛下、王妃様と同じになるのか、俺・・・?


育児道具専門取り扱い店『イバブオルグ』
そこに入ったときの周囲の視線っていうか、中にいた客と店員達の思考はもう一瞬で分かった。

『ついにこの日が来た!』

そんな感じ。

「いらっしゃいませ、レイさん。キララさん。」
「わざわざ店長直々ですか・・・」
「そりゃあ、すっかり話題のお二人ですから。おめでとうございます、ですね。」
「もう否定する気力も沸きません・・・」
「かわいいお子さんですね。お父さん似かな?」
「そんなはずは無いかと。」
「お買いあげいただいた商品には名前を記入しますので、お名前を教えてください。」
「レキです。」
「ご両親から一字ずつ取られたんですね?良いお名前です。」
「よく分かってますね・・・」
「では、ごゆっくり〜。」

ハイテンションな店長さんに見送られ、俺とキララは早くも疲れた表情で店内へと歩を進める。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-XmSpM] 2007/02/15(木) 09:55:34

ちゃいるど8!
「何を買うの?」
「とりあえず必要なのは、おむつと人工乳、後はそれを飲ませる容器といくつか着替えもあった方がいいか?」
「店員さんにも聞きながら買った方が良いわよね?」
「そうだな、お互い未経験だし・・・経験のあるフォルトさんに来て貰うべきだったよな・・・」
「何で気づかなかったのかしらね・・・」

俺たちのため息に合わせるようにレキが少しだけ身をよじる。それをキララは抱え直し、起こさないようにゆっくりと動いてやる。

「・・・後、抱っことおんぶ用の道具も欲しいよな。」
「そうね。ちょっと腕が疲れたかも。」
「いっそ、乳母車でも買うか・・・」
「それはさすがにどうなのよ・・・あ、おむつの棚ってここじゃない?」
「こんなに種類があると、どれを選んでいいのやら。」
「迷うわね・・・」

元の世界じゃテレビとかで多少の情報はあるけど、こっちじゃどれが有名かとか欠片も分かんねぇ・・・どれを買えば―――――

「レイ君。その子、男の子?」
「え?ああ、あなたは・・・」
「あ、カリキさん。」

カリキさん。うちの店に毎朝ご飯を食べに来てくれるアルンさんの奥様だ。夫のアルンさんは自分の家庭内ヒエラルキーが低いと以前嘆いていた。

「こんにちは。それで、その子の性別は?」
「レキは男ですけど・・・」
「なら、あれが良いわ。男の子は結構汗をかくからね。あれが一番むれにくいのよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「良いのよ。それより、キララちゃん・・・頑張ってね。困ったことがあったら、色々と教えてあげるから。」
「あ、あははははは・・・」
「レイ君。ちゃんと、赤ちゃんの食事には気を遣わないと駄目よ?人工乳にばかり頼らないこと。後、キララちゃんの食事にはさらに注意をはらってね。」
「はあ・・・」
「母乳に勝てるものは無いんだから!出が悪いんなら、旦那さんに協力して貰いなよ?うふふふふふふ・・・」
「「っ!!」」

さ、最後に爆弾発言をして去っていった・・・あの人、親切だけどなんか駄目だ・・・

「つ、次、い、行こうか・・・」
「そ、そうね。」

ああああああ!もう、すっげえ意識して会話がぎこちなくなった!
レキは俺達の子供じゃないんです!ですから、キララの母乳なんざ無理です!ってか、そもそもミリアさんにしてもあの人神様なんだから母乳とか出んのか!?キララってどうやって育ってんだよ!
そんなどうでもいいことを考えていた直後。

「あ、レイさん!」
「ん?」
「奥さんにばかり子供を持たせたら駄目なんですよ!子供は両親の暖かさを知って、そこから愛情の第一歩を知るんですから!」
「いや、前提が間違ってる・・・」
「そうよ、レイ君。そもそも、あなた力持ちなんだから、ちゃんとキララちゃんが疲れる前に持ってあげないと!」
「出産してしばらくは、妊婦の体力は落ちるんだぞ!」
「無理な運動は体に悪いって聞いた!」
「あ、でも適度な運動は大切ってことも忘れないで。」
「妊娠後は体型が変わりやすいんだから、ちゃんと栄養管理もしっかりしないと!」
「キララさんの健康がレキ君の健康なんですよ?」
「とりあえず、人工乳は一番栄養価の高いの渡しておきますね。お値段は張りますけど、ヴェロンティエなら大丈夫だと思いますから。」
「あ、どうも・・・」
「お〜い、確か前で子供を抱えるための道具ってあったよな?」
「あ、ここにあるよ〜。男の子だし、何色がいいかな?」
「じゃ、じゃあ黄色で・・・」
「ゆりかごはいる?」
「レイさんなら作れる!それよりも、洋服!可愛いのあるよ!」
「そんなものは買うな!ヴェロンティエで古着募集の紙を貼っておけば問題ない!」
「そうそう!それよりは、別の消費の激しい道具を買いなさい!」
「店員がそれでいいのか?」
「うちの店よりヴェロンティエの安泰!」
「跡継ぎって良いよね!」
「それが本音だったんですね・・・」


以上、皆様の協力の下。一時間ほどかけて買い物をして店を出る頃には、俺の両手は大量の荷物で一杯になっていた。

「重いとまではいかないけど、持ちにくい・・・」
「あたしも少し持つわよ。これのおかげで、片手は空いてるし。」

キララがレキを下げている紐のようなだっこ用の道具をつまむが、俺はそれに首を横に振る。

「いや、ちゃんと両手で持ってやった方が良いだろ。万が一の時は危ないしな。俺の方は心配いらないよ。」
「そう・・・分かった。それじゃ、帰りましょう。」
「ああ。全く・・・今日一日で、何だか店で働くのと同等に疲れたな。」
「本当ね・・・結局、あの店での誤解は解けなかったし・・・レキは完全に眠っちゃってるし。」
「ある意味大物だよな。一度も起きないっていうのも。」
「そろそろ起きるわよ・・・おもらしされる前に帰らないと。」
「そうだな。それじゃあ、ちょっと急い―――――!?」
「どうしたの?」

突然立ち止まった俺を見て、キララは不思議そうな顔になる。
けど、そんなことは些細なことだ。今、俺が見ているもの。俺が置かれた状況。これから訪れる未来に比べれば、それは矮小なことだ。
だって、俺の目の前にいるのは―――――――・・・!!

「あ・・・あ、アイン・・・」
「え?」

俺の前にいるのは、リリア達王族を直接守護する役目を担っている騎士団の中でも、選りすぐりの4人の1人。四聖騎士‘アイン・ブルーデンス’その人だ。
もちろん、リリアと俺とのつながりのため、俺とアイン達の関係も良好だ。けど、今の状況は最悪だぞ・・・

「れ、レイ・・・そ、その子供はっ・・・」
「待て、アイン。俺の話を聞いてくれ!」
「大丈夫だ・・・お前、姫様のためを思って、今まで話さなかったんだよな?」
「そうじゃない!」
「分かってる。俺から、姫様には重要な話があると伝えておこう。改めて、今晩、お前が伝えるといい・・・俺も、誰も、邪魔はしない。」
「待つんだ、アイン!」
「レイ・・・短い間だが、楽しかったぞ!」
「何だその笑顔は!?」

爽やかな笑顔で走り去っていくアイン。
それを絶望的な顔で見送る俺。
そんな俺を可哀想な目で見るキララ。

「・・・レイ。今日、帰ってこなくても大丈夫よ。」
「不吉なことを言うな。」

神様、俺に試練のない日を一日で良いから下さい・・・
あ。神様ってミリアさんか。駄目だ。祈っても余計に虚しくなった・・・

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2007/02/16(金) 10:13:45

ちゃいるど9!
暗い夜
暗い部屋
暗い雰囲気
暗い美女の顔
こんだけ暗いものが揃っていると、何だか俺の気分まで暗くなりそうだ・・・

場所は王城4階、リリア・キルヴァリーの部屋。いつも通り、窓からの不法侵入を終えた俺は、ある意味予想通りの光景を見つけていた。

「リリア・・・大丈夫か?」
「・・・レイ様・・・こんばんは・・・お待ちして、おりました・・・」

うわぁ・・・待ってたようには全く見えない・・・アイン。お前、リリアに何て伝えたんだ?

「リリア。アインから、何を聞いた?」
「っ!」

リリアの体びくりとはねて、その顔はうつむいたまま小さく震えている。

「あ、アインは・・・き、きっと、今晩、レイ様から、た、大切な話が、あるだろう、と・・・そ、そして、覚悟して聞くようにと・・・きっと、わ、私にとって、辛い、話だからと、教えてくれました・・・」
「やっぱりか。」

半分正解。
確かに大切な話はあるんだよ。いや、間違いなく。ただ、それがリリアにとってマイナスになるわけじゃないから別に落ち込む必要は無いぞ?辛いなんてそんなことはありません。むしろ、プラスに―――――おい。俺は、今何を考えた?
プラスって何?どういうプラスですか?俺は、今一瞬とはいえ、リリアが子育てしてる姿を想像した?しかも、ドレス姿で、王城で。しかも隣には俺―――――?

うわぁ・・・キララとの新婚さん演技にどきどきしたその日にこれかよ。俺って、節操なしだったんだな・・・何だか、自分がキララやリリアと結ばれるなんて分不相応もいいとこじゃないかと思えだした。

「・・・はぁ・・・別れ話は俺からだな・・・」
「わ、別れ話・・・!?」
「へ?あ、ああ!ち、違う!そうじゃなくて―――――」
「そ、そんなっ・・・れ、レイ様、わ、私はっ・・・うっ・・・」

ぎゃーーー!泣かせた!泣かせてしまった!最悪だ!俺って最低の野郎だ!独り言にもタイミングとかがあるけど、それの中でも極めつけで駄目な発言だ!マジで俺ってリリア達から離れた方が良くないか!?

「違う!い、今のは俺がリリア達にとって釣り合ってないなってことで!」
「いいえ・・・いいえ!何も仰らないでください・・・私は、もうっ・・・それ以上・・・」
「だああああああ!もう、ごめんなさい!」

とりあえずいつも通りというか、泣いているリリアへの特効薬ということで。
俺はリリアを問答無用で抱きしめた。
お姫様はしばらく腕の中で抵抗していたが、やがて観念したのかゆっくりと俺の服の襟の部分を掴んで大人しくなった。

「レイ様・・・どうして、こんな・・・」
「うん。とりあえず、落ち着いて話を聞いて。いや、本当に頼むから。絶対に、リリアにとって嫌な話じゃないから。」
「・・・はい。」
「実はだな、現在ヴェロンティエに赤ん坊がいるんだよ。」
「っ!?ま、まさかレイ様!?」
「捨て子がな。」
「そんな―――――す、捨て子?」

奈落の底に落ちてみたらドッキリでしたという札を見つけたような顔で、リリアはきょとんとした目を俺に向けた。うん、可愛いね。

「そう。それで、色々と細かい事情があってしばらく店で預かることになったんだ。その辺りは後で話すけど、それで俺とキララでその子の世話するための道具を色々と買いに行ったわけだが・・・そこをアインに見つかった。」
「・・・えっと、ひょっとして、これはいつもの形なのですか・・・?」
「うん。単なる勘違い。」
「別に私ともう会えないなどということではなく?」
「あり得ない。」
「キララさん達の誰かを選択されたということもなく?」
「まだです。」
「私が粗相をしたなどということもなく?」
「むしろ、俺がリリアに最悪なことしてるな〜、と今気付いた。」

俺の腕の中で、しばらくぽかんと俺を見上げていたリリアは、ゆっくりと立ち上がって自分の机へと向かう。何やら紙を取り出してそこに筆を走らせ、きれいに折りたたんだ後に俺の元へと戻ってきた。

「・・・何したの?」
「アインの減給を決定しました。」
「可哀想に・・・」

あいつ、以前俺のせいで3ヶ月ぐらいの給料消えてるんだよな・・・この上、減給って。どうやって生活してるんだろ?今度、店に来た時は何かおごってあげよう。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-VcGRk] 2007/02/17(土) 09:36:35

ちゃいるど10!
投稿が滞っていて申し訳ありませんでした!
実は数日前───────

(皿洗い中・・・)

‘バキン!’
「え?・・・何で突然割れるんだろ・・・まさか、家族の誰かに不幸が────なんてな。そんなマンガみたいな話があるかっての。大体、割れたの俺の食器なんだから不幸が訪れるのは俺────ん?」

筆者の目に入ったのは親指から絶え間なくあふれ続ける血。

「うおっ!?」

その後、急いで病院に行って治療を行った結果─────

「はい。これでいいですよ。」
「ありがとうございます(美人な女医さんだ〜♪)」
「えっと、あまり動かしたら駄目だからね。」
「はい、分かりました。(まあ、パソコンぐらいなら・・・いいよな)」
「下手に動かすと────」
「?」
「結構深くまでいってますから、切断しますよ。親指。ウフフ♪」
「・・・マジっすか?」
「あら、お姉さんの言うこと疑うなんて、シ・ン・ガ・イ♪」
「先生。気に入った男の患者さんに手を出すの止めてください。」

まあ、最後のやり取りは置いておいて・・・怖くて数日右手が動かせませんでした。
ともあれ、何とか女医さんの許可も得てようやく復活です。しばらくは更新が不定期になるかと思いますが、暖かい目で見守ってやってください。

それでは、本編をどうぞ!





「こ、これがレキ君ですか・・・」
「リリアって、赤ちゃん見るの初めてなの?」
「いえ、初めてというわけでは無いのですが、やはりこのような身近には・・・」
「お姫様も大変ね。せめて、今の間はこの可愛い顔を見て安らぐといいわ。」
「そうそう。見てるだけで癒されるよ〜。」
「はい・・・あ、柔らかいです・・・」
「ぁうぅ・・・」
「っ・・・も、持ち帰っても良いでしょうか?」
「それは、どうなのよ・・・」

可愛い赤ちゃんを前に、優しそうな笑顔でその面倒を見る4人の美女。それは見ているだけで心が温かくなるような光景―――――なんだけど。

「いや、店開けるから・・・早いとこ仕事しような?」
「け、けど、レキをここに置いておくの?」
「赤ん坊の泣き声はでかいんだから。この部屋なら店に居ても十分気づくだろ。その時に誰か暇な人間が面倒見に行けばいいさ。」
「見えないとこで何かあったらどうすれば・・・?」
「かといって、厨房に連れてくるわけにも行かないだろ・・・出来うる限りの安全対策はしてあるよ。」

心配そう、かつ名残惜しそうな4人を見ながら俺はため息を一つつく。
昨日は、リリアの元から戻ってから大急ぎで赤ん坊が寝るためのベッドを作り、昼寝がしやすいようにゆりかごを組み立て、さらには夜泣きしたレキをひたすらにあやしていた。
ちなみに、これに関してはキララ達と入れ替わり作業。とても大変でした・・・母さん、今ならあなたの偉大さが分かります。

「ほらほら、動く動く。今日、店が終わったら色々と便利道具を作ってみるから。」
「うう・・・レキ、お母さんが帰ってくるまで大人しくしててねえ。」
「誰がお母さんだ。」
「レイがお父さんっていうのは絶対よね。後は、レキが一番なついたのが母親なのよ。」
「もう、好きにして・・・」

そして、俺たちはぐっすり眠っているレキを残して静かに店内へと出向いた。




「レイさん!こっちにはんばあぐ!」
「スパゲッティ!」
「レイ様。お札の数が随分と少なめです!」
「何だって!?」
「あ、あたしが取ってくるよ。」
「頼む!」
「キララ、イセピリを追加だそうよ。後、ヒアビュゲを固めで。」
「分かった!あ、マリス!そっちにチケイアがあるでしょ?それ取って!」
「すいませ〜ん!ハンバーガーお持ち帰りでっ!」
「はい、かしこまりました・・・レイ様、ハンバーガーって作られてます?」
「そこの棚の上から二段目!黄色の紙に包んであるのだ!」
「僕、お子様らんちっ!」
「私はセトークをお願いします。」
「分かりました、少々お待ちください。」
「リリィ、これ。」
「ありがとございます。フォルトさん、向こうで待たれているお客様にこちらの割引券をお願いします。」
「うん、わかった。」
「あ、フォルトさん。奥の棚にあるテコヤハを――――――」


‘ふぅぎゃあああああああああぁぁぁぁ・・・・’


何故だろう。
先ほどまで大変にぎやかで、叫ばないとキララ達とのやりとりが難しかったほどだというのに、この異常なまでに静けさは。あれか、これは皆さん期待しているのか?

‘んんびゃあああああああぁぁぁ・・・’

「って、固まってる場合でもねえ!」
「ちょっ、フォルト!いける!?」
「ええ!?あ、あたしなの!?」
「経験豊富じゃない。」
「あそこまでちっちゃいのは無理!」
「あたしだって困るわよ!」
「わ、私はなおのこと・・・」
「おい、面倒見れないのに4人ともさっきまで離れるの渋ってたのは何故だ!」
「それに注文だって途中で―――――」


「「「「そんなもん後にして、全員さっさと行ってやれっ!!!!」」」」


「「「「「はいっ!」」」」」

うわぁ・・・とうとう、お客さん達に一斉に注意された。
5人そろってドタバタと厨房から飛び出してレキのいる部屋へと走り出す。

「面倒の見方が分からないなら連れてきなさい!」
「ってか、俺たちを頼れ!」
「子育ての助言ぐらい、いつでもしてあげるから!」
「子供が変な遠慮なんかするんじゃない!」

怒られた!何故か、他人事のはずなのに5人そろって怒られた!
しかし、これ以上俺たちで何かしようとするのも無理だろうし・・・うん。お言葉に甘えて、レキのことを色々と聞いてみよう。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/02/21(水) 09:55:33

ちゃいるど11!

「それで、レイ君。誰との間の子なのかしら?」
「黙秘します。」
「レキって名前からすると、キララちゃんが怪しいわね。」
「黙秘します。」
「ねぇ、レイ兄ちゃん。お兄ちゃんってお父さんになったんだね!」
「なってない。」
「そう言えば、目元がレイ君に少し似てるわね。」
「そんなはずはない。」
「まさか、レイ君!認知しないつもりかね!?」
「ひどい!」
「最低!」
「悪魔めっ!」
「だあああああああああああ!とっとと席に戻れええええええええ!!」

色々と教わるために、泣き叫ぶレキを店に連れてきたのが間違いだったんだよな・・・なんて言っても、後の祭りで。
キララ達4人が、経験豊富な多くの母親達から熱心に子育てのアドバイスを聞いている中、俺は一端中断しているために料理が後回しになっている人達の対応に追われることになった・・・って、泣きそう。

「俺の子でも、キララの子でもないですから・・・」
「じゃあ、リリィちゃんの子!?」
「そうか、それで毎日いるわけじゃないのか。」
「違います。」
「分かった!実は、マリスさんかフォルトさんとの子で、2人は店に来る前に既に身ごもっていたんだ!」
「それも違います。」
「ならば、盲点をついて普段は店にあまりいないミリアさん!」
「それなら、色々と問題が解決するね!」
「むしろ山積みです。」
「じゃあ、一体誰の子なんだ!」

俺が知りたい。それさえ知れば全て解決するんだから・・・

「レイ!」
「何だよ?」
「昨日、レキって何回ぐらい夜泣きしたっけ?」
「単純な回数なら5回。」
「多い方だね。なら、今日の夜からは―――――」
「ほら、母親達もあんなに頑張ってることだし。」
「母親代わりだ。後、達って言うな。」
「じゃあ、個人に絞りたまえ。」
「・・・無理です。」

だって、アドバイスを聞きながらも耳がこっちに向けられたのが分かったし。あんな状況で何か言おうものなら、下手するとレキに危険が及びかねない。

「あ〜、レイさ〜ん!」
「ん?」
「はい、これ。ご近所回ってきてもう使わない洋服とかもらってきたよ〜。幼児用。」
「あ、ありがとう。」
「うん。みんな、ヴェロンティエの後継ぎのためなら!って、すごい協力してくれた。」
「後継ぎじゃないし。」
「あ。それと、こんなのももらってきたよ!」
「・・・いや、『入園案内書』とか貰っても。」
「だって、昼間はお店が忙しいんでしょ?」
「そうだそうだ。レキ君のためにも社会性は早くから育てないと!」
「そうは言うけどなぁ・・・あの、さすがに『調理学校案内』は絶対に早すぎるから。」
「え?そんなの、私もらってないよ?」
「へ?」

色々と道具を貰ってきてくれた女性の言葉に首をかしげて、とりあえずもう一度その案内書を見る。

「・・・『ベイルート調理学校‘学園祭’の案内』?」
「結構な有名学校だな。この街の料理人の半分はその調理学校出身のはずだぜ。」
「ふむ・・・あ、ひょっとして。お〜い、ヴォンド!ノーリ!ガンム!ちょっと良いか?」

あ、ちなみに今の3人はキララ、マリス、フォルトの親衛隊の隊長。普段は追う者と追われる者の関係だが、たまに一緒にメシを食いに行くこともある・・・キララ達は抜きで。

「何だ、呼んだかレイ?」
「ああ。ひょっとして、ベイルート調理学校って、キララ達が通っていた学校のことか?」
「その通りっ!」
「あの学舎で我らが女神達は出会ったのだ!」
「美女が多い中でも、さらに輝く美しさの3人はとても人気があったのだぞ!」
「おまけに成績優秀だ!」
「ふむふむ。とりあえず、後でキララ達に渡しておくか・・・」

そんなことを言いながら、俺は叫び続ける親衛隊に向かって手近にあった皿(木製)を放り投げた。
もちろん、見事に額に当たった彼らがあっさりと床に沈んだのは当然の結果だ。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/02/23(金) 10:31:12

ちゃいるど12!

「あ〜、もうそんな季節になるんだねぇ。」
「学園祭か・・・何だか、去年までは開く側だったから不思議な気分よね。」
「がくえんさいとは、どのようなものでしょうか?」
「簡単に言うと、学校にいる生徒達が主体になって開くお祭りみたいなものよ。」
「お祭り・・・それは楽しそうですね。」

頭の中で自分なりに想像してみます・・・ああ、とても楽しそうですね。
生まれてずっと学校というものに行ったことはありませんから、同い年の方々と協力して何かを成功させようとするというのは、とても楽しそうで魅力的です!
そんな考えが顔に出たのでしょうか、キララさんは笑顔で私に話しかけてくださいました。

「じゃあ、リリアも行かない?」
「え?」
「だから、学園祭よ。あたし達は行こうかなって思ってるから。リリアも一緒に行きましょうよ。」
「あ、それいいね!そんで、看板娘全員で客中の視線を独占しちゃおうよ!」
「そうね。リリア、お城での公務だって陛下達に任せて来てもいいんじゃないかしら?たまには、子供らしく大人を頼りましょうよ。」
「みなさん・・・はい!今日、戻ったらお父様達に相談してみますね。」
「よし、それじゃあこの日はヴェロンティエお休みってことで―――――レイ、どうかしたの?」

見れば、レイ様は何だか疲れたような目でこりらを見ておられます。その膝の上でレキ君がレイ様の襟をしっかりと掴みながら体を揺らしているのが危ないです・・・まあ、レイ様が支えてくれてるから大丈夫なのでしょうけど。

「その学園祭、いつだ・・・?」
「えっと、4日後かな。」
「・・・行かないという選択肢は無いか?」
「は?」
「レイ君がそんなこと言うなんて珍しいね。何かあるの?」
「いや・・・リリアが行くなら、俺も行くから・・・はぁ。」
「レイ様、まさか私が行くことで何か不都合が?」
「リリア・・・学園祭は来年にして、とりあえずその日は2人っきりでお出掛けというのはどうだろう?」
「っ!・・・う、うぅ・・・」

そ、それはっ・・・心揺さぶられる二択です!
今まで行ったことの無い所へ行くのは楽しみです。何より、折角キララさん達が誘ってくださったのですから。
けれど、最近はすっかり無くなったレイ様との二人っきりの時間!それは、ある意味では学園祭よりも貴重な時間です!

「レイ様と、二人っきり・・・け、けどっ、学園祭・・・」
「何なら、レキを連れて一緒にお城で一日過ごしてみるか。なんて言うか、未来の予行演習みたいな形で。」
「キララさん!申し訳ありませんが、用事が出来ました!」
「嬉しそうな顔で申し訳ないとか言うんじゃないっ!」
「と言うか、さっきまでの熱い友情の話は何処に!?」
「リリアも女の子よね。友情より男を取るなんて。」

何と言われようと構いません!レイ様からそのようなことを仰っていただけるなんて・・・ああ、今日はもう幸せすぎて何も考えられません!
けど、レイ様は何故そこまでして学園祭に行きたくないのでしょうか?レイ様なら、学園祭に行って、その上で私と出かけるという二つの予定を同時に満たすことも出来るはずですし。

「レイ!」
「はい・・・」
「連れて行くから・・・絶対に。」
「言うと思ったよ。分かった・・・諦めるけど・・・文句言うなよ。」
「どういう意味よ。」
「俺が、調理学校という場所でどういう存在かを考えような・・・いや、本気で。」
「は?」
「分からないなら良いよ。まあ、考えすぎってこともあるしな。」

落ちそうになったレキ君を左で支え、ひょいと机まで持ち上げられます。
仰向けに転がされたレキ君はしばらくレイ様の腕を掴んで指をなめていましたが、やがて飽きたのかそれから離れて私の方へと這って来ます。

「ぅぅう・・・だっ!」
「はい?どうかしましたか、レキ君。」
「だっ!だっ!だっ!」
「・・・リリア、レキを膝の上に置いて抱きかかえてあげて。」
「え?は、はい。」

言われた通りにすると、レキ君は何やら嬉しそうな顔で私の膝の上で両手を振り上げました・・・か、可愛いです。やはり、お城に持ち帰りたい可愛いさです・・・

「だぁ〜っ!」
「どゆこと?」
「抱っこして欲しかったんだろ。」
「けど、どうしてリリア?」
「それを俺に言われても――――って、リリア。少しレキを胸から離せ。」
「え?どうかし―――――ひゃんっ!?」

なななななな何ですかっ!?い、今、レキ君は何をしたんですか!わ、私のっ、む、胸をっ!?つつつつ掴んでっ!?

「あちゃ・・・やっぱりか。」
「え、どうかしたの?」
「記憶の欠片だな。多分、レキの本来の母親がリリアに近い体型なんだろう。それで、リリアに抱かれたのをきっかけに・・・」
「なるほど。母親にお乳をもらう記憶が蘇ったというわけね。」
「そのように冷静に分析なさらないでください!」

は、恥ずかしいです・・・わ、私が最も母親に近いと言われましても!じゃあ、相手はどなたですか!私の相手がレイ様以外には―――――

「んで、レイ君が父親と。」

――――――い、いいかもしれません。

「とりあえず、リリアがレキの一番の世話役かな?」
「本気でお城に連れて帰ってみる?」
「離そうとすると泣きそうなのですが・・・」

キララ様はしばらく私を見られて、そして次にレイ様を見られます。少々考えられた後、結局キララ様は諦めたようにうなだれました。
ど、どうなさったのでしょうか?

「レイ。」
「どうかしたのか、キララ?」
「個人的には嫌なんだけど、レキのためを思って許可するわ・・・」
「何をだよ?」

キララ様はもう一度だけため息をつかれ、不満そうな顔で私を指さされました。

「レキを連れて、しばらくお城で生活しなさい。」

――――――――えぇ?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-tGqLi] 2007/02/26(月) 10:15:07

ちゃいるど13!

キララ様が言うことはこうです。
一つに、レキ君がこうなった以上は私と常に側にいるのが妥当だろうということ。
次に、私一人では不安だから、レイ様もしばらく私と一緒にレキ君の面倒を見るためにお城に行った方が良いということ。


「それに、前から思ってはいたのよ。あたし達と一緒に暮らしてちゃ、リリアが不公平かもなぁって。」
「それはそうだよね。」
「レイはもしかしたら国王になる可能性もあるのだから。この際、しばらくお城で生活して慣れた方が良いわ。」
「もちろん、ヴェロンティエには毎日来て貰うけどね。」


というキララさん達との会話から数時間後。
レイ様は、ご自分の荷物をまとめて私の部屋の中に立っておられました。
もちろん、その腕の中にはレキ君を抱かれて。

「・・・どうして、こうなってんだろ・・・」
「本気で来られるとは思いませんでした・・・」
「俺もだ。」

私もレイ様も呆然としてしばらく見つめ合い、どちらともなくいつも座る場所に腰を下ろします。あ、ちなみにレキ君はレイ様が急いで作られた折りたたみ式の寝台でぐっすりです。

「え、えっと・・・れ、レイ様。」
「ん?」
「よろしかったのですか?あそこは・・・ヴェロンティエは、レイ様の家なのでしょう?」

何度もレイ様は言われていました。あそこが、自分が生きる場所なのだと。
これは、そんなレイ様の思いを無視する行為のように思えます。これでは―――――

「まあ、それはそうだけど・・・その、リリアが迷惑じゃなければ、しばらくここに住みたいんだけど、良いかな?」
「え?」
「俺の家はヴェロンティエ。それは、絶対なんだけど・・・けど、俺が生きる場所はこの世界であって、あそこだけじゃない。そして、その生きる場所には、当然・・・リリアと一緒に過ごすかもしれない、このお城も含むからな。」
「レイ様・・・ほ、本当に、私なんかと一つ屋根の下で大丈夫ですか?」
「いや、むしろ俺が聞きたいんだって。」
「私は、その、全く問題ありません・・・む、むしろ、嬉しいです・・・」
「あ、うん・・・それは、良かった・・・」

な、何だか気まずいです!このような雰囲気は、いつもと違ってとても緊張します!
そうです、今更ですが、今日からこの部屋でレイ様と寝起きを共にしていくのですから、粗相の無いようにしなければ!も、もしも間違いがあってはいけません――――いえ、間違いがあった方がいいのでしょうか?
駄目です!駄目ですそんなの!レイ様は、レキ君のためにここにおられるのですから!わ、私は落ち着かなければなりません!とりあえず、これからの生活は最重要かつ、慎重に行って―――――

「リリア。とりあえずなんだが・・・一つ、最重要かつ、慎重に行わなければならないことがある。」
「は、はい!?」

な、何でしょうか!?ま、まさか初夜というものですか!それこそが最大討論事項であって、これを話し合うにはそれなりの場と人数が――――な、何かはしたないこと考えてしまいました!

「リリア、ちょっと落ち着いて。」
「は、はい・・・」
「俺が言いたいのは・・・俺がしばらくここで暮らしたいと思ってることを‘どうやって陛下達に穏便に伝えるか’ってことだ。」
「・・・レイ様。」
「何?」
「・・・どう考えても、無理な気がします。」
「言うな。俺もそれに行き着いてるんだから・・・」
「絶対に、穏便には不可能かと・・・おそらく、お父様達の浮かれようは先日の比では無いでしょう・・・」
「いつ?」
「私がレイ様にお酒を飲ませた日です。」
「・・・婚約一歩手前だったもんな。」
「今回は国民に告知が出るまでいきそうな気がします・・・」

そうなるわけには行きませんから。ここは慎重に計画を立ててお父様達に誤解の無いようにこのことを報告しなければなり――――――

‘ガチャ!’

「リリア、今日はもうレイ君は来ない―――――あら、来てたのレイ君?」
「へえ?珍しいこともあるもんだな。ちょうどいい。少し俺たちの愚痴に付き合えよ。」

お父様、お母様。
ひょっとして、部屋の外で私達の様子を伺ってたりしませんか?計画を立てる時間は欠片も無いのですか・・・神様、私達に与える試練はもう少し軽めにしていただいても罰は当たらないと思うのですが。

「・・・レイ様、ここはもう・・・」
「・・・ああ。もう、どうなってもいいや・・・心構えが出来ただけ良いとしよう。」
「はい、そうですね・・・」
「何だ、何かあんのか?」
「すっげえ重要事項があります。多分、陛下達にとっても。」
「は?」
「レイ君、何があったの?私達に出来ることなら、何でも協力するわよ?」
「おう。お前にゃ何度も助けられてるからな。何でも言ってくれ。」
「ありがとうございます・・・では、お願いがあるんですが。」
「えっと、お父様、お母様。出来れば大声は出さないでくださいね・・・」

レイ様はどこか遠い目で、諦めきった表情で言葉を続けます。


「俺、今日からこの城に住めますかね?」


驚いたことに、お父様達は叫ばれませんでした。
お母様は何も言わずに私の元まで歩いてこられると、そのまま私を抱きしめられます。
お父様はレイ様の側まで近寄り、その両肩に手を置いて顔をうつむかせたままです。

「あの、お母様・・・?」
「陛下?」
「・・・リリア。一時間後に大執務室へ来なさい。」
「・・・レイ。お前もだ。準備はしておく。」
「え、いや・・・ちょっと待ってくだ―――――」

それだけを言うと、お父様達はすたすたと部屋から出て行かれました。
何故でしょう。本来なら、緊張するはずなのに、どうしようもなく疲れてしまうのは・・・ああ、この後が予想できているからですね。

「レイ様・・・誤解、解けると良いですね。」
「リリア。リュカーさんと、四聖騎士だよな?」
「大臣の方達にレイ様を紹介するのは早すぎるかと思いますので。」
「よし・・・大丈夫。まだ7人だ。」
「頑張りましょう。」

ともすれば疲れ切って動けなくなりそうな体を起こして、私はレイ様と頷き合いました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ARDcB] 2007/02/27(火) 14:34:12

ちゃいるど14!

予想はしてた。
きっと、扉の向こうでは前回のように陛下達が嬉しそうな顔で走り回っているんだろうなぁと。
けど、甘かった。
事態は俺の予想の斜め上を飛行中で、そこに俺は自分で新しいジェットエンジンを持ってきたといった感じだろうか。

「・・・れ、レイ君・・・そ、その子はっ・・・!」
「話を聞いてもらえるのか?」
「いや、何も言うことはねぇ・・・そうだ。それがどうしたってんだ!」
「聞いてくださると嬉しかったのですけど・・・」
「レイ君・・・いえ、レイ様。私はどのような形でもこれから私の全てをあなたに捧げて仕えます!ですから、その子がいることもご安心を。」
「団長!俺たちもいます!」
「そうだな、俺たちも色々と忙しくなる。」
「む・・・責任重大。」
「とりあえず、必要なのは乳母さんよねぇ?」

部屋に入り、予想の斜め上だったこと。
それは、前回は途中だったはずの書類が完全にまとめられていたこと。後は俺とリリアがサインするだけか?
そこに部屋に置いてくる訳にもいかないから、レキを抱いたリリアが俺と一緒に到着。これが、ジェットエンジン。

「レイ!その子の名前は決めたのか?」
「・・・レキです。」
「レキ・・・良い名前ね。」
「なるほど。レイ・キルトハーツとリリア・キルヴァリーの姓名から一文字ずつ取られたのですね。」
「あ、それは新しい考えだ。」
「と言うより、もはやこじつけですよね・・・」
「陛下!とりあえず、書類の追加を!」
「ふっ・・・可愛い娘と孫のためなら、徹夜の一日や二日ぐらい任せろっ!」
「私もお伴しますよ、陛下。」
「もちろん、私もね。」
「よし!とりあえずは‘レキ・キルヴァリー’の戸籍登録から――――――」

とりあえず、そろそろ止めなければ・・・このままでは、明日には俺はリリアと結婚式を挙げることになりかねん。

「実子じゃないです。」
「始め――――――・・・は?」
「と言うより、お父様。別に婚約はしていません・・・その書類は、またもやいりませんから。」
「えぇ?」
「だって、レイ君。さっきここに住むって言ったわよね?」
「言っただけです。本当にそれだけなんです。」
「・・・また、俺たちの早とちりか?」
「「はい。」」
「・・・とりあえず、状況説明をお願いできるかしら。」

そこまでいって、ようやく俺とリリアは先ほどの発言について話す機会を得ることが出来た。

―――――数分後。

「孫が出来たと思ったのに・・・」
「っていうか、妊娠期間が無いのは無視なんですか?」
「いや、愛の力でどうにかしたのかと。」
「ならないと思います・・・」
「ぁう。」
「レキ君も同意してますし。」
「あれ、いつ起きたんだ?」
「レイ様の説明途中です。やはり、明るい部屋にきたためでしょうか。」
「そうか・・・しまったな。レキの睡眠時間を削っちゃったか。」
「大丈夫かと思います。泣くことは無かったですし。」
「けど、あまり起こしておくのも―――――・・・その生暖かい視線は何ですか。」

見ると、陛下も王妃様も騎士団長、四聖騎士にいたるまで全員が俺たちの方を見ながら微妙に優しい目で見つめている。
いや、何故に?そんな目で見られてもあなた方が期待しているような展開は何もありませんよ?

「いや、これが将来の形なのかと思うと、何とも言えない気持ちになっちまってな。」
「はい?」
「レイ君がリリアの側にいて、リリアが新しい王位継承者を抱いていて、そして2人でその子供のことを心配する。これって、新婚さんみたいじゃない。」
「っ!!」
「お、お母様!?」
「なあ、フィリス。俺たちもリリアが生まれた頃が懐かしいよなぁ。」
「全くですね、あなた。」
「あの頃のお二人を見ているようで、自分も懐かしい気持ちでした。」
「俺も、いつかレイと姫様の子供を団長のような視線から見れるのか?」
「俺たちの努力次第といったところではないか?」
「忍耐。出世。」
「レイ君の子供ねぇ・・・いっそ、その子を養子にするとか。」

いや、もうほんとに勘弁してくれ・・・しかも、養子とか。それじゃあ本末転倒だ。
――――――いや、けど・・・これが俺が迎えようとしている未来の一つであるのは確かなんだよな・・・それは、覚悟しなければいけない未来だ。だったら、俺はこの降ってわいたような‘未来を体験できる時間’を無駄にしてはいけないと思う。

「なあ、レイ。一度俺のことをお義父さんって呼んでみてくれ。」
「お父様!お願いですからこれ以上―――――」
「えっと、へい―――いえ、‘義父上’。とりあえず、話があるのですが。」

瞬間的に、陛下の顔が固まった。
いや、陛下だけでなく王妃様達全員。そして、一番驚いたような顔をしていたのは他ならぬリリアだった。
いや、俺も随分と恥ずかしいけど我慢してるんですよ?

「・・・何ですか。」
「いや、本気で呼ぶとは思わなかった。」
「呼びますよ。とりあえず、城に住ませてもらえる間はこの呼び方を続けてみようかと思います。」
「れ、レイ様?それは、どうしてですか?」

不思議そうなリリアと、その気配を感じ取ったのか目をぱちくりさせているレキを見て、俺は何となく自分が穏やかな気持ちになるのが分かった。それは、決して想像するのに難しくない俺の未来の形である気がする。

「理由は簡単だよ。義父上達の言うように、これが俺の将来の一つの理想なんだ。だったら、それを事前に体験できるのは幸運なことだと思う。今までは、リリアの夫・・・つまり、次期王位継承者っていうのにあまり関心を持たなかった。けど、それはリリアと結ばれることに関心を持ってないってことになるだろ。それは嫌なんだ。だから、この幸運な時間を俺は精一杯過ごしたいと思うよ・・・その、リリアの夫として。」

一瞬でリリアの顔が朱に染まる。
口をぱくぱくさせて何かを言おうとし、結局言葉にすることが出来ないで視線をあっちへこっちへと彷徨わせているリリアを見ると、何とも言えない気持ちになる。けど、決して嫌な気持ちじゃないね。

「と、いうわけで話を元に戻したいんですけど・・・義父上、義母上。お願いですからその幸せそうな顔をひとまず止めてください。」
「いや、すまん・・・無理。」
「そうね。私もちょっと今のレイ君の言葉が嬉しくって・・・」
「なら、とりあえず俺の話を聞いてもらえますか?」
「「なんなりと。」」

いや、心構え次第でこの2人が本当に義理の両親のように思えてくるんだから不思議で仕方ないというか。人間ってやっぱり覚悟は大事だよね。

「とりあえず、俺は今日からこちらに住みたいって思うんですけど・・・どうでしょう?」
「いや、断る理由がねぇし。」
「ありがとうございます。それで、一応ではあるんですけど、ヴェロンティエに毎日働きに行くというのも構いませんか?」
「それも仕方ないわよね。あそこも‘レイ君の理想の将来’なわけだもの。」
「はい、ありがとうございます。」
「気にするなよ。それじゃあ、しばらくよろしくな、レイ。」
「こちらこそよろしくお願いします。」

俺は覚悟を決めて、できるだけリリアの隣に立つのに相応しく見えるように背筋を伸ばした。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-exfGf] 2007/02/28(水) 14:33:23

ちゃいるど15!

「それじゃあ、リリア・・・その、寝るか。」
「は、はい。」

そう言って、私とレイ様は‘同じ寝室’へと入りました。
お父様達が言うには『夫婦なんだから、部屋が違うのはおかしい』とのことでしたが・・・
べ、別にはしたないことをするわけではありませんが、とても緊張します!寝台こそ違うもののレイ様とここまで近い場所で一晩共に過ごすなんて!
あ、ちなみにレキ君は私の寝台の中で一緒に眠ることにしました。夜泣きが激しいらしいので今日は寝不足が確定しそうです。

「あ、リリア。レキが泣きやまないときは無理せずに王妃・・・じゃない、義母上のとこに行こうな。」
「はい。それでは、おやすみなさいませ、レイ様。」
「うん、おやすみ。良い夢を、リリア、レキ。」

あぅ・・・今までは決して出来なかった挨拶。それを、こんな風に交わせる日が来るなんて・・・私、今日という日を決して忘れないでしょう。
そして、朝起きればレイ様が近くにおられるということも。
誰よりも最初に、私におはようと微笑んでくれるだろうことも想像できます。

・・・し、幸せで死ねるかもしれません・・・

「ぁう・・・だぁ・・・」
「あ、すいませんレキ君。さあ、良い子ですから目を閉じてくださいね?」
「ぁぁ・・ぅ・・・ぅん・・・」
「良い子です・・・」

レキ君は私の服をしっかりと掴みながら、その小さな瞳をゆっくりと閉じました。私はそれを見届けて、数時間後のレキ君の目覚めまでの僅かな休息を満喫することに決めて、静かに目を閉じます。








「――――・・・ふぎゃぁあ・・・ふぎゃぁぁあ・・・」
「ん・・・?レキ、君・・・?」

どうやら、思ったより眠ることが出来たようです。普段、寝起きが良い方では無いのですが、私はすぐに目を開けることが出来ました。

「あ、起きたか?」
「・・・えぇ?」

何故か、私の寝台に座るようにして、レイ様がレキ君をなでておられました。
って、近い!近いですレイ様!私、今、眠ってましたよね!?何というか、無防備きわまりない姿でレイ様の前にいましたよね!?そんな、優しい笑顔で見つめられては、恥ずかしさで何も考えられなくなって――――――

「ふぎゃあああああああ・・・」
「おっとっと・・・ほれほれ。落ち着けって。な?」

えっと・・・レキ君、ありがとうございます。あなたのおかげで、我を取り戻すことが出来ました。

「レイ様、私に。」
「あ、ああ・・・ほら。」

レキ君を腕に包み、私は自分の指をそっとレキ君の口元に持って行きました。
予想通り、レキ君は涙をあっさりと止めて必死に私の指に吸い付いてきます。少しこそばゆいのですが、それすらも嬉しく感じてしまうのは、代わりとはいえ母親になっている自分の母性なのでしょう。

「・・・驚いた。」
「え?」
「昨日はキララ達と一緒になって必死にあやしたんだけど・・・リリアってすごいな。」
「ありがとうございます。けれど、私も直感なのですよ?ただ、こうすればいいかなと思ったことをしているだけなんです。」
「けど、実際にレキは泣きやんでる・・・うん。リリアはいい母親になれそうだな。」
「レイ様が父親であれば最高ですね。」
「・・・言うようになったね。」

決まりが悪そうに頭をかくレイ様に思わず笑いがこみあげます。そして、腕の中で元気に私の指をくわえているレキ君を見ていると、自然と私の口は‘それ’を紡ぎ始めていました。

――――月が 浮かび 星は瞬き 人が その目を閉じる―――

――――鳥も 獣も 皆落ちていく 深く 優しき夢へ――――

――――明日を 望む あなたの心 今日を 思う あなたの心――――

――――今は 止めよう 全ての時を 闇が 全てを覆い隠す夜――――

――――明日の 光が 届くまで――――

――――全ての 時が 始まるまで――――

――――全ての 命が 目を覚ますまで――――


歌い終わったとき、レキ君はすでに私の指を離して夢の中へと落ちていました。起こさないようにゆっくりと寝台に横たえ、私はほっと一息つきます。

「眠ってくれました。レイ様も、明日はお忙しいのですから―――――レイ様?」
「・・・すぅ・・・くぅ・・・」

あの・・・レキ君を眠らせるために歌った歌なのですが、レイ様が眠っているというのはどういうことでしょうか?しかも、私の寝台の上で。

「レイ様・・・病気になってしまいますよ。」

そんなレイ様の様子に自分の頬が柔らかくなるのを止められません。私は、2人を起こさないように一度毛布をレイ様の下から抜き取り、そして改めてかけ直します。もちろん、私もその中へと入るのは忘れません。

「親子はこのようにして寝るものだと聞きました・・・レイ様。私、いつか本当にこのような形が訪れると、信じていますから。」

決意を、すでに眠っているレイ様に囁いて、私は再びその目を閉じました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-JQsHa] 2007/03/12(月) 19:47:28

ちゃいるど16!

生きるって難しいことなんだよ・・・そう誰が言ったのか。いや、中々真実を言い当ててますよね。
そう思ったのは、朝起きてヴェロンティエへと行く支度をし、今日は公務で城に残るリリアからレキをもらおうとした時だった。

「めえっ!」
「あの、レキ君・・・レイ様が待っておられますから・・・」
「お〜い、レキ〜。わがまま言わないでくれよ〜。」
「めっ!めえええっ!めえ!」

いや、別にレキが山羊になったとかいう話は無いですよ?
ただ、俺がリリアからレキを離そうとした瞬間から、もうレキが抵抗するわするわ。どうやらレキは予想以上にリリアの腕の中がお気に入りのようで・・・これじゃ、いつまで経っても出かけられない。

「力ずくとは、いかんよなぁ・・・」
「それはさすがに・・・けれど、どうしましょうか?」
「だぁ〜・・・」

おい、レキ・・・まだ俺ですらそんなに密着したことのない部分に頬をすり寄せるのは止めろ。それは俺のだ・・・いや、冗談だけどさ。でも、微妙に赤ん坊にジェラシー。俺って心が狭いやつだったんだな。

「・・・仕方ないか・・・リリア。」
「はい。」
「レキをよろしく。」
「・・・私、一人でですか・・・」
「いや、義母上とかがいるだろ?とりあえず、家来の方々に見つからないようにこっそりと呼ぶと良い。後、出来るだけ出歩かない方がいいと思う。」
「レキ君が見つかったら、国が傾きそうな気がします。」
「冗談に聞こえないから止めて・・・それじゃ、頼むな?出来るだけすぐに帰るよ。」
「分かりました。レイ様、お気を付けて。」
「うん、それじゃ・・・‘いってきます’。」
「あ――――い、‘いってらっしゃいませ’。」

うわあああああ。恥ずかしい!恥ずかしさで死ねる!
ほとんど逃げるように城の窓から飛び出した自分の頬が真っ赤になっているのが分かる。
いや、だって『いってきます』って挨拶しただけでも恥ずかしいのに、リリアの綺麗な顔で頬を染められながら、しかも笑顔で『いってらっしゃいませ』だぞ!あれは兵器だ!男の心を打ち砕く最強の兵器だ!


なんて、アホなことを考えていたらいつの間にかヴェロンティエに到着。

「おはよ―――――って、朝から暗い雰囲気は止めろ!」

いや、びっくり。ここはヴェロンティエか?それとも黄泉の門?ってなぐらいにキララ達がどんよりしてますけど?

「え、何かあったのか?」
「・・・レイ、事件よ・・・」
「っ――――本当に何かあったのか!?」

馬鹿な!この店は神であるミリアさんの家なんだぞ!?自分の娘を守るためなら、その驚異的な力を解放するあの人が守っている家だ!そんな場所で事件が起こるなんてあり得ない!あり得るわけがない!そんなことがあるなら、それはミリアさんと同じ存在がもう一人いることになるじゃないか!けど、ミリアさんはそんなこと一言も―――――

「何があったんだ!3人とも無事なのか!?」

思わずキララに詰め寄ってその肩をがしりと掴む。
驚いたような顔に、少しばかり赤く染まったキララの表情が少し可愛いとか思ったけど、そんなことを思考回路のトップに置いておくほど俺は馬鹿じゃない。とりあえず、状況を急いで確認しないと!

「ちょ、れ、レイ!痛いってば!」
「あ、悪い・・・そ、それで何があったんだ?」
「えっと・・・こ、心して聞いてね?」
「分かったから早く!」
「えっと・・・‘料理、出来なくなっちゃたのよ’・・・」
「まさか怪我したのか!?ど、どこだ!?」
「そうじゃない!こ、こら!へへへへ変なとこ触ってんじゃないわよ!」

いや、肩に置いていた手をキララの腕に移しただけですが。

「その、レイ・・・気づかないの?」
「え?」
「えっと、この臭いに・・・」
「臭いって・・・って、なんかものすごく変な臭いしてないか!?」

すっかり動転してて気づいてなかったけど、嗅覚に神経を集中させればその臭いは嫌でも分かった。って、一体どうしたんだよ?

「まさか材料腐らせたなんてことはしないし・・・」
「・・・燃えたのよ。」
「ああ、燃え――――・・・今、なんて言った?」
「調理場、半分ぐらい燃えたのよ。」
「・・・ごめん、最初から説明してくれ。」


キララ達の話によるとこうだ。
昨晩、俺がリリアと一緒にここを出てから、キララ達は微妙に寂しい気持ちのまま掃除。
その時に食用に使う油がこぼれていたのに気づかなかった。
それで、朝になって起きてから火を使った瞬間に着火。驚くキララの目の前であっという間に火は燃え広がった。
幸いにも怪我は誰もしなかったし、調理場も修復不可能ということは無かったが、それでも今日一日は炭を落とすので使用不可能ということだ。


「って、馬鹿かそれ!」
「悪かったわね!思ったよりレイが出て行ったのが応えてたのよ!」
「え、俺のせい?」
「そうね。いつも同じ屋根の下のレイがいるって思ってたから、一晩いないだけで結構色々と細かい失敗はしてたわね、私も・・・」
「だから俺のせい?」
「レイ君がいないと駄目人間になっちゃってるしねぇ・・・いや、あたし達本気でやばいよね?」
「やっぱり俺のせいなんだ・・・はぁ、それで掃除は途中なのか?」
「いや、掃除というか修復は親衛隊の人の中にその手の仕事の人がいてね?その人の事務所が今日中に仕上げられそうだって言ってくれたの。」
「ただ、‘今日中’は仕事出来ないだろう、ということよ。」
「と言うわけでレイ・・・ごめん。」
「俺に謝られても困るんだけどな・・・それで、今日はどうするんだ?」
「あたし達は折角だからのんびりとお店を休みにして、ついでに今度の学園祭に着ていく服でも探しに行く予定よ。レイも来る?」
「ああ、そうだな・・・いや、リリアの所に戻るよ。レキが心配だし。」
「・・・父親ぶりが板に付いてきたわね。」
「その言い方は止めて。」

朝起きたとき、リリアが目の前にいたときはもうびびりました。
だって、昨晩のリリアの歌声があまりに綺麗だったし。あれは一種の芸術だと思う。

「なあ、キララ。」
「何?」
「歌って得意?」
「苦手じゃないって程度よ。」
「・・・リリアの勝ちか。」
「調理で負けないからいいのよ!」
「ちょっと、レイ。その辺り詳しく説明してもらえる?」
「あたしも歌は得意だよ〜!楽奏の試験は常に最高評価っ!」


と言うわけで、ヴェロンティエに来てから1時間で俺はお城へと逆戻りすることになった。さて・・・俺も義父上の仕事の手伝いでもすべきか?

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-yNzeD] 2007/03/14(水) 20:45:14

ちゃいるど17!

私が現在目を通しているのは、王族に対する国民達の陳情です。
道路が狭い、近所の事務所の騒音が止まらない、隣に建った共同住宅のために家が陰になってしまった等々。それらに目を通し、お父様達と話し合いながら今すぐに取りかかれそうなものから大臣の方達に許可を出して行わせる。それが今の私に出来る精一杯です。
お父様ぐらいになれば、さらに具体的な計画案、解決案まで出してしまわれるのですから頭が下がります。
もちろん、投げ出したりはしません。自分なりに思いついた意見を出して、お父様にその見定めをしてもらいます。・・・許可をもらえたことは無いのですけど。

「・・・だぁ?」
「あ、レキ君。起きましたか?」
「ぅぅ〜〜〜だっ!だぁっ!」
「はい。だっこですね?」

レイ様お手製の寝台に寝かせていたレキ君を抱え上げ、私はその背中を静かに撫でてあげます。レキ君が嬉しそうに身をよじると、仕事でたまっていたいらいらとしたものがすっと抜けていくから不思議です。

‘コンコン’

「誰だ?」
「へ――――じゃない。義父上、俺です。レイです。」
「レイ?・・・まあ、入りな。」
「レイ様?」

レキ君がいるために、今日の会議室はお父様、お母様、騎士団長のリュカー様に四聖騎士の皆様と私しかいません。ですから、レイ様がここに入ることに不都合は無いのですが・・・ヴェロンティエはどうなさったのでしょうか?

「ただいま、リリア。」
「お帰りなさいませ、レイ様。お早いお戻りですけど・・・何かお忘れ物でも?」
「いや、店の方でごたごたがあって。今日は急遽店を休みにすることになったんだ。それで、もう戻ってきたってわけだ。」
「そのごたごたというのはよろしいのですか?」
「ああ。明日にはもう解決してるからな。詳しいことは後で。レキは・・・元気そうだな。」
「先ほど起きたばかりですけどね。レイ様のお帰りに気づいたのかもしれません。」
「それはどうだろ・・・まあ、出迎えありがとな、レキ―――――って、昨日もその生暖かい目をしてましたよね?」

見れば、お父様達が私とレイ様、そして私の腕に抱かれているレキ君を見ながらとてもにこやかな表情をしておられます。
もう、何を考えているのかが予想できるのは喜ぶべきことなのでしょうか?

「あぁ・・・いいなぁと思ってよ。」
「子とその相手、そして孫・・・お義母様、私もとうとうあなたと同じ立場に立てました。」
「いや、俺達まだ結婚してませんし。」
「そもそも、レキ君は私達の子では無いですよね・・・」
「気分の問題よ。それより、レイ君。仕事、手伝ってもらえないかしら?」
「そのつもりですよ。リリア、レキの相手してあげてて。」
「はい。」

レイ様は私が座っていた椅子に座ると、私が見ていた書類を眺め始めました。

「『ナエ通り街灯の本数をもう少し増やして欲しい』ね・・・リュカーさん、ナエ通りの夜間の歩行者数ってどのぐらいか分かりますか?」
「お待ちください。アイン、3番資料室に去年の報告書が―――――」
「いえ、去年では駄目なんです。ナエ通りには3ヶ月前に夜間専門の人気酒場が出来ました。」
「そう言われてみれば、お店の方にも夕食の後にそちらに向かわれる方が大勢いましたね。」
「では、改めて調べた方がよろしいですね。」
「お願いします。調べる時間帯は平日、休日の夜間を。2、3日も調べれば十分かと思うんで。それじゃあ、この件はそれまで保留として・・・次は『医術専門学校設立の許可』・・・ヴァイツ、この提案者のフドラ博士って偉い人?」
「ああ、元々は王宮専属医師だった。もっと開かれた医療をと言ってお城を辞めて自分の病院を作られたんだが・・・どうしたのだろうな?」
「病院で雇う医者の技術の低さに嘆いたとかじゃねえのか?」
「有名どころの先生の元に来る医者が技術が低いとは考えにくい。多分、自分の病院の方が軌道に乗ったから後継者を育てようかと思ったんだろうな。」
「で、どうする?」
「イラド、確か城下町の整備の担当したことあったんだよな?」
「肯定。」
「ここ一年で使われていない土地で、あまり大通りに面してない場所を探して。広さは・・・そこは誰かにこのフドラ博士と相談させて。教える内容の具体案が出来たら、それを現王宮医師に見せて意見を求めるように注意を。」
「了解。」
「さて、次はと―――――・・・」

レイ様は私が見ている間に、どんどん書類を片づけてしまいます。しかもその全てに的確な注釈を付けて、正確な情報を基にどんどんその手を動かされます。
私は腕の中にいるレキ君を落とさないようにしながら、そんなレイ様の背中をとても広く感じていました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-KZNoN] 2007/03/16(金) 10:23:11

ちゃいるど18!

そして、数時間後には今日の分の報告書は全て片づいてしまっていました。
驚くことに、レイ様はお父様の考えた提案にまで意見を出し、自分の主張をはっきりとぶつけておられました。時にはレイ様の意見が通ることもあったのは驚きを通り越して感嘆ですね・・・

「お疲れ様でした。」

私は、事前にフィーアに持ってこさせていた道具でお父様達の分のお茶を入れます。

「おう、すまねえな。」
「ありがとう、リリア・・・うん、おいしい。」
「んっ・・・ん。それにしても、レイ君には驚きね。私達には考えつかないような切り口で解決策を導くんだから・・・天才?」
「ありがとうございます。別に深く考えてたわけでも無いんですけどね。ただ、こうしたらいいかなって思うだけで。後は、本人と政治家の話し合いでしょう。」
「けど、具体案っていうのは大事なんだよ。それがあるだけで話し合いの進め方がまるで違う。具体案が良いものであればあるほど、な。」
「何にせよ、これでレイ君はいつでもリリアと結婚できることが分かったわね。」
「早っ!」
「お母様・・・」
「ぅんっ・・・だあっ!だっ!」
「レキ?」

不意に、再度寝台に寝かせられていたレキ君が起きてレイ様に向かって必死に手を伸ばし始めました。な、何がしたいのでしょうか?
とりあえず、抱き上げてレイ様の元へと連れて行ってみましょう。

「はい、レキ君。どうかしましたか?」
「だっ!だあっ!」
「俺にだっこしてほしいのか?」
「っ、とっ!とうっ!」
「は?」
「とーっ!とーっ!」
「・・・リリア、通訳。」
「無理です・・・とー?」
「めえっ!かーっ!かー、めえっ!」
「かー?」
「とー?」

‘と’あるいは‘か’から始まる言葉でしょうか?一体レキ君は何を伝えたいのでしょう?
何やらお父様達は気づいておられるのか非常ににこやかで――――‘お父様’?
お‘と’うさま?お‘か’あさま?

「っ〜〜〜〜〜〜!?」
「リリア、何か分かったのか?」
「あ、え、あのっ!れ、レイ様がとでっ!わわわわ私がかでっ!?」
「うお!?リリアが壊れた!」
「れれれれレイ様!」
「な、何?」
「ががががが頑張りましょう!」
「だから何を?」

レキ君が言いたいのは、そういうことなのですか!?
私が‘母様’で、レイ様が‘父様’とういうこと・・・う、嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、です・・・

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-cnTiD] 2007/03/18(日) 16:04:30

ちゃいるど19!

「と、いうことがあったわけだ。」
「レイ、引っぱたいていい?」
「とーっ!」
「はいはい、元気だなお前は・・・」

リリアから聞いたところによる、とー=お父さんの解釈。俺って若干16歳で子持ちですか。正直嬉しくない・・・いや、子供は好きですけどね?
腕に抱えたレキを撫でながら、俺は軽くため息をついた。そして、俺の隣ではレキの頬を指でつんつんと触るキララがいる。

「キララ、レキが泣く前に止めような?」
「いいじゃない。本人も楽しそうだし。」
「だぁ・・・ぁぅう・・・」
「レイ様、準備が出来たので―――――何をしてるんですか、キララさん?」

今まで店の方で準備をしていたリリアさんが登場。場の空気が一瞬だけ張りつめたのは気のせいだと信じたい・・・いや、端から見れば俺とキララが赤ん坊を抱いていちゃついてるようにも見えますけどね。

「レキが構って欲しそうだったから。」
「そうですか・・・それじゃ、レキ君、こっちにいらしてください。」
「かーっ!かーっ!」
「・・・何だか悔しいんだけど。」
「キララの子供が、キララのことをかーと呼んでくれると良いな。」
「協力してくれる?」
「勘弁してください。」

キララさん、ちょっと今の発言は過激でしたよ?あまり女の子がそういうことを言っちゃいけません。どこで誰が聞き耳を立てているか分かりませんからね。

「レイさん、是非とも協力してあげてくださいね?」
「・・・もう、つっこむ気力も失せました。」

こうやって、店内なら瞬間移動が自由自在のミリアさんが必ず聞いてますから余計に。いや、マジで。

「ミリアさん。とりあえず、唐突に背後に現れるのは止めてください。」
「そんな弱い心では生きていけませんよ?」
「人間、そんなに強くなくても大丈夫です。それより、レキの両親について何か分かりましたか?」
「え?何か分かったの、お母さん?」
「ええ、一つ気になることがあったのよ。」
「気になること?」
「リリアさん、レキ君の体を拭いてあげたときにあることに気づきませんでした?」
「あること・・・ひょっとして、肩に巻いてあった赤い糸のことでしょうか?」
「ええ。実は、赤ん坊の肩に紐を巻き付ける風習を持つ都市があったんです。」

なるほど。それは有力な情報だ。だとすると、レキはその地方の出身である可能性が非常に高い。少なくとも、その地方出身の人間の子供であるのは確実だろう。ここまでくれば、意外と早く見つかるかもしれな――――――

「ベルグランドっていう、ナーエコの隣にある都市なんですけどね。」
「「「「ナーエコ!?」」」」
「いつの間にいたの!?」

気づけば、レキを抱くリリアの両隣でマリスとフォルトがレキの両頬をつついている・・・って、皆さん何やらレキのほっぺがお気に入り?レキがいい加減不機嫌さ全開ですよ?気をつけてくださいね。
それは置いておいて・・・ナーエコという名前を聞いた瞬間に4人の顔色が変わった。何だ?その地方には何かあるのか?

「キララ、一体どうしたんだよ?」
「・・・レキの両親、探すのがものすごく難しいってことだけは確かね。」
「へ?」
「レイ君。ナーエコの街は超有名な海水浴場があるんだよ・・・」
「それで?」
「つまり、ベルグランドには多くの人達が住んでるの。それがどういうことか分かるでしょ?」

マジですか・・・そりゃ、探すのも大変だね・・・

「城に戻ってから、ベルグランドの今年、去年の出産記録を見てみるか・・・」
「レキ君、1歳ぐらいだもんね。」
「それで、後は去年から生まれた子供のお宅を訪ねてみて子供がいるかどうかの確認するの?」
「ああ。問題は、その家にレキを返せるかどうか、受け取ってもらえるかどうか、だけどな。」

俺の言葉に全員が重苦しいため息をつく。
口には出さないが、俺の中では一つの予想が組み立てられている。それは‘レキは狙ってヴェロンティエの前に捨てられたのだろう’ということ。
今や、この店はラズウェール中どころか、他の街からも多くの人が食べに来る人気料理店だ。しかも、その店を切り盛りしているのはたったの5人(ミリアさんは数えない)。金銭的にはまるで問題ない。加えて、内4人は器量良し、性格良し、しかも全員タイプが別の女の子。おそらく、子供を一人育てるの環境としては十分だと思ったに違いない。
このことから、レキの親はレキの幸せのためと信じてヴェロンティエに置いていったのではないかと思う。それが正しいなどと言う気は無いが。
けれど、もしも彼らがレキが元気に育っているのを知ってしまい、あまつさえ俺とリリアを実の父母として意識し始めてると知ったら――――――

「くそっ・・・馬鹿なことしやがって・・・」
「レイ?」
「血の繋がりの強さを知らないやつが、子供の幸せを他人に任せてんじゃねえよ・・・」
「ぁうぅ・・・?」

レキが空気が変わったことを感じたのか、可愛い声を出す。俺はリリアの腕に抱かれているレキの頭をそっと撫でてやった。

「必ず、お前の両親を見つけてやるからな・・・」
「とーと?」
「レイ様・・・私も、協力致します。」
「かーか?」
「ま、このままじゃ可哀想だもんね。」
「レイがお店に戻ってこないのも困るし。」
「マリス、心配するとこそこじゃないでしょ・・・」
「んあぅ・・・?」
「あらあらあら、皆さん一致団結ですか。青春っていいで――――――」


「‘ばーば’?」


何か、空気が凍った気がした。
え?レキ、今お前何て言った?ばーば?お前ミリアさんに向かって、あろうことか‘ばーば’なんて言っちゃったの?

「えっと・・・み、ミリアさん?こ、子供の言うことですから・・・」
「ばーば!ばーば!」
「・・・レイさん。」
「はいっ!」

思わず直立不動。しかし、その間もレキの無邪気なばーば連呼は続いている。
既にキララ達は俺にレキを預けて逃走した。リリアですらも俺を見捨てることに迷いがなかった辺り、現在かなり窮地に追いやられている気がする。

「子供の不始末は、親の責任ですよね・・・?」
「いや、親じゃないんで――――」
「ですよね?」
「はい・・・」

笑ってるけど笑ってない!目が!目が笑ってないというか、何の表情も感じさせない目ですよ!?

「レイさん・・・明日までに、私のことをみーと呼ばせるようにしてください。」
「そんな無茶な!」
「出来なければ―――――」
「無視ですか!」
「そうですね・・・ナーエコには、レイさんとキララ達の5人で行ってもらいましょう。」

男1人。
恋する乙女4人。
行き先は国内有数のリゾート地。
えっと・・・精神すり減らして倒れろと?

雨やかん [yDdGd-MrhaN-xmsvC-KHbmz] 2007/03/20(火) 11:01:19

ちゃいるど20!

はぁ・・・あそこまで目が笑ってないお母さんは初めて見たわ。レイ、無事だと良いんだけど。
それにしても、レイとリリアが夫婦か・・・お似合いだと思うけど、やっぱり悔しいなぁ。
聞いた話によれば、レイは王族としての公務もすでにいくらかこなし始めているらしいし、四聖騎士の人たちとの関係も良好。つまり、将来の騎士団長とも仲良くやっていけるに違いない。
確かに、レイが国王というのは合っている気がする。
身体能力
人を惹き付ける心
膨大な知識
その全てを活かしきる思考
もはや、人の上に立つために生まれてきたんじゃないかとすら思うわ・・・
だから、あたしはついついこんなことを考えてしまう。‘もう少し普通の人間でいてくれたなら’と。そうすれば、レイはあたしだけのために側にいてくれたんじゃないかと思ってしまう・・・まあ、我が儘なんだけど。それに、そんなレイをあたしが好きになるかどうかは別だし。
けれど、やっぱり自分だけの側に居て欲しいと思うのは間違いなのかな・・・?

「・・・レイ・・・」

名前を呟くだけで、あたしの心を支配できる人の存在は、嬉しくて、苦しくて、幸せで、辛くて、もう何が何だか分からなくなってしまう。

けど、それはリリアにとっても同じ事。
きっとリリアだって、レイの存在に心を揺らされているはずだし。いや、身近にいる初めての異性という点ではあたしよりも心が暴れている可能性もある。そして、リリアにとってはレイは‘本気で愛せる人’という最初で最後の可能性なのかもしれないのだ。
それは、あたし達一般人との決定的な差だ。
もしも、あたしがレイと結ばれたとき・・・リリアはどうなるの?

「・・・孤独、よね・・・」

あたしは、たとえレイがリリアと結ばれてもマリスやフォルトがいてくれる。けれど、リリアはそうじゃない。レイがあたし達3人の誰かと結ばれれば、そこでリリアはヴェロンティエに居続ける最大の理由を失う。
リリア・キルヴァリー個人として存在できる、最大の意義を失ってしまう。それは、とても悲しいことだと思う。
リリアは、もうあたしの友達だ。マリス達と同じ親友なのだ。

そんなリリアを一人にはしたくない。

けれど、レイには自分の側にいて欲しい。

この2つの相反する想いが、両方とも満たされる日は来ない・・・嫌だなぁ・・・

「リリア。」
「はい?何ですか、キララさん?」
「・・・レイとの生活、まだ2日だけど・・・どう?」
「え――――・・・はい、とても幸せです。レイ様が私と、誰よりも一番長く側にいてくださるのは、私の人生において最大の幸福かもしれません・・・」
「・・・だよ、ね。私も、そうなのよ・・・」
「キララ様・・・?」
「レイが、私と一番長くいてくれるのは・・・きっと、最高に素晴らしいことだって分かってる。けど――――――」

リリアの瞳が、あたしの瞳をまっすぐにとらえる。
あたしの瞳が、リリアの瞳をまっすぐに映し出す。

「けど、リリア・・・あたし、リリアが悲しむのは・・・多分、最低に嫌なことなのかもしれない・・・」
「キララ様・・・」

リリアは驚いたような、それでいて辛そうな表情になる。

「・・・私も、キララさんが辛いのは、嫌です・・・見たくありません・・・キララさんと、一緒に・・・笑えればと思っています・・・」

しばらく2人で見つめ合ってから、あたし達はどちらからともなくふっと笑いあった。
けれど、あたし達の絆が強くなればなるほど―――――



―――――最高の幸せのときに感じる最低の罪悪感は、大きくなっていく。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/03/22(木) 12:21:27

ちゃいるど21!

レキを抱きながら、もたれた壁の向こうで交わされた会話に呼吸を止める。2人がいつも通りに動き出しても、俺の体は決して動いてはくれなかった。ただ、改めて自分がやっていることを自覚して、心が重くなる。

俺は誰かを選ばなければならない。
けど、もしもそれがリリアじゃなかったなら・・・?

ファントムとして城に行き続けていた時、リリアは俺がたった一晩来なかっただけで泣き崩れたことがある。

俺が一ヶ月という間リリアの前から姿を消した時、リリアはまるで人形のようだったと陛下が話してくれたことがある。

国民達からは美しく、優しく、聡明な王女として敬われているリリアだが、実際のところ彼女は誰よりも弱く、もろい精神の持ち主なのだ。にも関わらず、リリアの精神を支えているものは少ない。少なすぎる。そして、その最大の支えが俺。じゃあ、支えを失ったリリアはどうなるんだ・・・?
うわぁ・・・予想できない・・・と言うか、予想したくない。
以前、リリアは強い女の子だと言ったことがある。けれど、その強さがどこから来るのかを考えてなかった。
キララの強さの根幹は、ヴェロンティエがどんなに苦しくても諦めなかったことから分かるように、決して諦めないという『希望』から成り立っている。対してリリアの強さの根幹は、自分が全ての人を導いていかねばならないという一種の使命感に近い、王族としての『誇り』から成り立っている。
けれどそれは、自分のためのものじゃない。それじゃあ、いつかリリアは折れてしまう。

そうならないように俺はリリアに近づいて、今は俺の存在がリリアを折るかもしれない。

駄目だ・・・俺、駄目すぎる・・・答えを先延ばしにして、いつからかこんな日がずっと続けばいいとか考えていた。いや、続くんだと思っていた。
けれど、そうじゃない。
俺は、選ばなければならないんだ。
それが、残りの3人を泣かせることになろうとも。
それが、リリアを傷つける、こと・・・になって、も・・・――――?


俺は、そんな未来を望んでいるのか?


「・・・どうすりゃ良いんだよ・・・!」

分かっている。同情なんかでリリアを選択しても、決して幸せになんかなれないと。
俺は、俺が本当に好きになった人しか選択してはいけないんだと分かっている。
なのに、こんなの――――

「レイ君?」
「うおっ!」
「わわっ。何をそんなに驚いてるの?・・・レキ君、目丸くしてるよ?」
「え、あ・・・悪い・・・」
「悩み事あるみたいだね。なんなら、聞くよ?」

心配そうに俺を見るフォルトさんに、俺は無理矢理に作った笑顔を見せる。

「大丈夫、悩み事なんて無いって。」
「いや、嘘はいらないから。」

一発で見破られましたよ・・・フォルトさん、成長しましたね。

「それで、何を考えてたのかな?お姉さんに話してごらん?」
「・・・フォルトさん、俺より年下だよね?」
「気にしない気にしない。そんで、レイ君がそこまで思い詰めてるってことは・・・キララかな?それともリリア?」
「え、何故にその二択?」
「あたしとマリスは、言っちゃえば一般人だしね。レイ君が簡単に解決策を出せないほど真剣に悩む障害なんて、経営者であるキララのことか、王族であるリリアのことでしょ。」
「それ以前に、俺が女の子以外で悩むとかって思わないのか・・・」
「うん。」

即答ですか・・・俺、そんなに女難に苦しんでるように見えるのかなぁ・・・?

「いや、当たりなんだけどさぁ・・・リリアのことなんだけど。」

俺は簡潔に、リリアを選ばなかった場合におきる悲劇の可能性をフォルトさんに説明してみる。頷きながら聞いてくれるフォルトさんの顔は、いつもの陽気さを失わずに、なおかつ真剣味に満ちていた。

雨やかん [yDdGd-MrhaN-xmsvC-KHbmz] 2007/03/25(日) 12:13:11

ちゃいるど22!

「――――・・・ということで、少し悩んでる。」
「レイ君。」
「ん?」
「肉体的怪我と精神的障害のどっちがお好み?」
「何その悲惨な選択!?」
「いや、とりあえずレイ君って妙なとこで馬鹿だよねと思って。リリアの気持ちが肝心なところで分かってないんだもん。」
「・・・すいません、教えてください。」
「これはレイ君自身で分からないといけないことだと思うんだけど・・・じゃあ、軽く手助けってことで。『強さ』って、何だろうね?」
「へ?」
「あたしの強さはね、何においてもレイ君や、キララ、マリス、リリアと一緒に笑いながら生活していきたい。もっともっと、みんなとの繋がりを深めたい。もっともっと、みんなと一緒にいたいっていう、まあ言っちゃえば『友情』なのかな?」

それは、まあ予想していたことではある。
誰にでも明るく接してくれるフォルトさんは、きっと人と人との繋がり方を考えられる人だって思うから。案外、それだから俺は今フォルトさんに相談する気になったのかもしれない。

「それは―――――」
「と、同時に!」
「同時・・・?」
「あたしは、たとえレイ君がキララを抱きしめようと、リリアといちゃつこうと、マリスに誘惑されようと、それでも3人と友達でいれるよ。だって、それは3人が決してレイ君のことばかり考えすぎて、あたしを置いていったりはしないって思ってるから。信じてるから・・・あたしは、みんなに『信頼』を持ってるから。」
「信頼・・・えっと、それは分かったんだけど・・・」
「むぅ・・・レイ君、まだ分からない?」
「うぅ。」
「あのさぁ、‘強さの根幹が一つじゃないといけない’なんて、誰が決めちゃったの?」

あ―――――――!

「あたしには、リリアが不幸にならない選択肢なんて分からないよ。思いつかない。けどさ、レイ君なら出来るよね?例えどんな未来になったって、リリアを不幸にしないために、リリアに強さを与えてあげることができるよね?だって、レイ君はあたしに信頼をくれたんだから。」

思い出すのは、この店で働きだした時のフォルトさんの俺への言葉。俺を、あまり好きじゃないという軽い拒絶の言葉。
けれど、俺は自らの行動でそれを覆した。フォルトさんの想いを自分に向けさせることが出来た。それは、彼女に新しい選択肢を与えた瞬間。俺への信頼を、フォルトさんに渡した瞬間。

「レイ君。諦めるのは早すぎだよ?もっと、もっと、いっぱい考えてみなって。きっと、レイ君ならあたし達全員笑ってられるような未来を作れるんだから。」
「・・・フォルトさん。」
「ん?」
「今、俺は本気でフォルトさんを尊敬した。」
「ふっふっふ。あたしだってたまには良いとこ見せるんだよー♪」
「うん。かなり格好良かった。もう本気で心奪われたね。」
「惚れていいよ!」
「いや、さっきの話と違うから。」
「けど、レイ君の中であたしの好感度はぐぐぐっと上昇したね!レイ君の作る未来が楽しみになってきたよ〜♪」
「期待しないで待っててくれ。」

いつも通り、つられてこっちまで笑わずには居られないような笑顔で、フォルトさんは俺に向かって手をさしのべてくれる。その手を取った俺は、素直にその笑顔が可愛いと思った。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ajPkF] 2007/03/28(水) 19:40:20

ちゃいるど23!

「お互い、もはや力は残っていない。次が最後の一撃となるであろう・・・」
「いや、俺は余力たっぷりだぞ。」
「勝った方が、あの店の命運も、彼女たちの未来も全て背負うのだ。」
「お前に背負わせる気はないんだが。」
「そして敗者は魂となって、勝者を見守っていく・・・それもまた、騎士の誇りだろう。」
「死ぬのかよ!後、お前は騎士じゃない!」
「行くぞおおおおおおおっ!」
「おりゃっ。」

レイの腕から放り投げられた木製の丸い何かが、突進してきた親衛隊の人の頭に見事に命中する。もちろん、そのまま彼は地面に倒れてしまった。

「よし、行くぞ。」
「ほっとくの?」
「レイ君、ちょっとひどいんじゃないかなぁ?」
「だぁ。」
「レキも微妙に不満そうよ?」
「開始に間に合わなくなるだろ。それに、あれは放っておいても数分で復活してくるんだから大丈夫だ。」
「レイ様・・・本当に毎日このようなことを?」
「いや、今日はリリア達が側にいるから軽いもんだって。」

とすると、いつもレイがあたし達の前でやっている親衛隊との乱闘はもっと大事なのだろうか?そう言えば、あたしの親衛隊は最近頭脳作戦を用いるようになったと聞く。
最近、親衛隊の人たちの目的があたし達を慕うことからレイを倒すことに変わってきてる気がするなぁ・・・

「それでキララさん。ベイルート調理学校とはもう?」
「うん。あそこに見えてる建物がそうよ。」

そう言ってあたしが指さしたのは、一年前まで自分が通い続けた懐かしい学舎だった。
そう。今日は、ベイルート調理学校の学園祭なのだ。あたし達ヴェロンティエの仲間達はリリアが頼んでくれた車(目立たないように平民仕様)に乗ってここまで来たわけである。無論、リリアの腕の中にはかわいらしい服に包まれたレキが目をぱっちり開けている。

「とうとう来ちゃったかぁ・・・」
「だから、どうしてレイはそんなに嫌そうなのよ?」
「嫌じゃないんだけどな。ただ・・・はぁ。」

レイはため息を一つついて、諦めたように学校に向かって歩き出した。どうやら教えてくれる気は無い、と言うよりは教えるまでもないということらしい、一体何なのかしら・・・?
ともあれ、あたし達はレイの後を追うように歩き慣れた道を進み出した。


校門に入って数分で、レイが嫌がっていた理由を知った。

「是非、うちの教員にいいいいいいいい!」
「あなたの料理の調理法を一つどうか!」
「ってか、全部教えて下さい!」
「いっそ、校長でも良いですからあっ!」
「何なら臨時教員でも構わないので、お願いしますううう!」
「せめて、あの料理の作り方だけでもおおおっ!」
「だあああああ!しつこいなぁ、もう!?」

そうだった。
レイが作る料理は、あたし達ベイルート調理学校の卒業生どころか、この国の全ての料理人が知らないものばかりだ。そんなレイが、調理学校に来るというのは・・・そりゃあ、先生達にとっては千載一遇の好機よね。
何せ、王室御用達の料理すら及ばない料理を全て作ることが出来る天才料理人がここにいるんだから。

「自分で盗め!」
「盗めないから頼んでるんです!」
「頑張れ!」
「徹夜して頑張ったけど無理でした!」
「諦めろ!」
「諦めきれません!」

ちなみに、レイの作った料理の中でも簡単なものは他の店でも作り出してることは多い。ただ、それがレイの作ったものに及ぶかというと・・・言うまでもない。多分、たとえレイが調理法を教えたところで、レイ以上の味を出せる人はいないんじゃないかなと思う。
まあ、わざわざ教えてやる義理も無いんだけど・・・けど、かっての恩師がこうまで懇願しているのを無下にもできないなぁ・・・

「レイ。」
「ん?」
「・・・とりあえず、何か一つ教えてあげたら?」
「いいのか?」
「このままじゃレキが泣きやまないのよ・・・」

ため息をつくあたしの後ろでは、先生達の剣幕に驚いたレキが大泣きしてリリアに慰められている。もっとも、今回ばかりはそれも効果は薄いみたいね。

「・・・分かりました。」
「おお!!」
「ただし、条件があります。」
「え?」

そう言ってにやりと笑ったレイは、何というかレイも以前は学生だったんだろうなという感じの笑みだった。つまりは、自分も遊びたかったんだという顔。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-qJtQp] 2007/03/30(金) 11:05:46

ちゃいるど24!
雨谷 零の経歴・・・高校一年中退!
これが何を意味するかっていうと、早い話が俺は学園祭というものを経験したことがない。中学校の文化祭なんて教師の決めた筋書きにそってやっていたから、さほど面白みがあったわけではなかった。
そして、この世界に来たために俺は高校を中退し、楽しみにしていた学園祭を残念ながら逃してしまったというわけだ。
そんなわけで、今回俺がやろうとしていることは――――――



「みんなー!ヴェロンティエの料理が食べたいかー!」
「「「食べたーーーい!」」」
「作りたいかー!!」
「「「作りたーーーい!」」」
「教えて欲しいかー!」
「「「教えて欲しいいいいいいいいいいいい!!」」」

何だかラストだけ異様に熱がこもっていた気がする。多分、噂を聞きつけて他の料理店の卒業生が訪れているのだろう。明らかに、学生の声じゃなかった。

「そこで、本日の特別来客!今ではこの国一との呼び声も高いヴェロンティエの最強料理人!4人の美女の心を独り占めする憎いやつ!レイ・キルトハーツの登場だああああ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」

うん、やっぱりこういったお祭り騒ぎっていうのはいいもんだね。最初は巻き込まれるのが嫌で渋ってたけど、俺はやっぱりこういう賑やかな行事は好きなんだろう。けど、今の紹介文のラストに、何だか憎しみがこもってた気がする。この学校にも親衛隊予備軍がいるんだろうか・・・

「みなさん、こんにちは。レイ・キルトハーツです。」
「レイさんだ!」
「かっこいい!!」
「こっち向いて〜!」
「キララちゃんと遊ばせてー!」
「マリスお姉様を返してー!」
「フォルトさんを渡せこんちくしょー!」

何か関係ないヤジが飛んできたけど気にしない。ってか、本当にいたんだな、予備軍が。

「えっと、みなさん今日ここにいる理由は一つじゃないかと思います・・・どの料理が望みなんだろうな・・・」

とたんにあちこちで手が上がる。
ハンバーグにスパゲッティ、ナポリタン、クレープ、ピラフ、グラタン、うどん、餃子、等々・・・いやはや、皆さん正直者で良いですね。

「さて今、俺が手に持っているのは・・・何とヴェロンティエで人気最高級の品・・・これさえあれば、一人で店が出せるんじゃねぇ?という料理・・・‘パフェ’の作り方が詳細に書かれている紙だ。」

‘うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?’
うん、盛り上がりも最高潮のようだ。そりゃあそうだよな。何せ、パフェについている生クリームは俺以外に作れない。そのため、その美味さから売り出し一時間で完売する幻の料理になっている。それを作れるようになれば・・・というわけだ。

「それではこれを・・・ベイルート学校の生徒の50名に特別に教えてやろうじゃないかっ!!しかも、俺直々に!いくつかの種類を!加えて、応用の仕方まで!みっちりと!」

‘なにいいいいいいいいいいいいい!?’
おお・・・生徒達以外の悲鳴が聞こえる。いや、学園祭なんだから生徒以外がいい目を見てどうするんだよ。あんたらは自分のレストランでスカウトに必死になってください。

「50名に入る条件はただ一つ!俺がこれから適当に学園祭を回るから!その時に満足させてくれた生徒だ!教えて貰った内容を自分で秘匿するも良し!友人に教えて協力して新しい店を開くも良し!その作り方を携えて有名料理店に自分を売り込むも良し!」

そう。おそらく、このパフェのレシピを教えて貰った生徒は、かなり大きなアドバンテージを得ることが出来る。それほどにすごいとキララも言っていた。

「他人の邪魔はしないこと!必ず、正々堂々と望むように!俺ばっかり贔屓しても教えないからな!俺は今から30分後に動き出す!さあ、生徒諸君・・・張り切って学園祭を盛り上げろおおおっ!」
「おっしゃああああああ!やるぞ!やってやるぞおおおおおっ!」
「おい、うちのやつらに連絡!急いで俺たちに出来る最高級の料理を作れ!」
「接客が資本のあたし達なら出来る!調理法を持って、お城に就職するわよっ!」
「下級生に負けるな!俺たちは切実に就職かかってんだぞ!」
「急げ!今から30分以内だ!」
「おい、店に連絡しろ!この学校に兄弟姉妹がいるやつを捜し出せ!」
「パフェの作り方を知った生徒がいたら、最優先で交渉開始だ!いいな!?」
「もっと人連れてこい!こんな好機二度と来ないぞ!」

あっという間に、俺の前にいた人々は走り去っていく。
そして、残された俺の背後には、楽しそうに笑うキララ達がいた。

「いいの?あんな約束しちゃってさ。」
「パフェって売り上げすごいじゃない。あれを他の店が作るようになったら結構損害大きいと思うんだけど・・・」
「あ、問題ない。実はそろそろパフェに変わる新商品でアイスクリームっていうの売り出そうかと思ってるから。」
「・・・底が知れないね、レイ君。」
「しかも、アイスクリームはパフェと違った利点があるのだよ、ふっふっふ・・・」

俺が学校側に頼んだのは簡単なこと。
教えるのは構わないが、それは生徒達にも同時に教える。しかも、ゲーム仕立てで彼らの競争意識をあおり、なおかつ客もより多く呼び込める方法で。
その後、パフェのレシピは改めて学校にちゃんと教えるから、それを来年から授業に入れるのは自由だ、ということ。
まあ、ぶっちゃけると俺もお祭り騒ぎの中心になりたかったんですよ・・・だって、16歳だし。

「さてと・・・これで、俺たちはどの店でも最高のおもてなしが確定だ。」
「うわ、悪どい。」
「レイ様にしては珍しい方法ですね。」
「いや、実はもう一つ打算があるんだ。」
「え?」
「この学園祭、さっきぐるりと見回して分かったんだけど、色々な地方からお客さん来てるよな?」
「そうね。ベイルートはいろんな場所に卒業生を送り出してるから・・・」
「レキの故郷であるナーエコから来てる人もいるはずだろ?」

俺の言葉に4人ともはっとした表情になる。

「そっか、レイ君が注目されるってことは自然と一緒にいるレキ君にも注目が集まるってことなんだね。」
「その上で、ナーエコ出身者ならひょっとして――――」
「ああ。レキのことを見かけたやつがいるかもしれない。それがもう一つの狙いなんだよ。」
「レイ様、さすがです!」
「本当に、レイって底が知れないわね・・・」
「遊びたいっていうのも本音だけどな。」

にやりと笑う俺に、4人は一斉に苦笑した。そして、レキもまた無邪気な笑顔を浮かべて俺達を見つめていた。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2007/04/01(日) 10:48:45

ちゃいるど25!

人々の視線を受けながらも、レイ様は平然とその中を進んでいきます。
しかも、さり気なくではありますがレキ君を抱えている私に負担がかからないように周りの人をかき分けながら…レイ様、やはり優しいです。

「なあ、さっき見たんだけどこの学校っていくつかの学科に分かれてるんだろ?」
「うん、3つだよ。『接客科』『事務科』そして『調理科』。それぞれ3学年。まあ、入る年齢は13歳以上なら誰でもいいんだけど。」
「それでは、マリスさんとキララさんより一つ下のフォルトさんは、実はすごい方だったのですか?」
「そうでもないけどね。まあ、小さい方ではあったかな?」
「キララ達は何の科なんだ?」
「「「全部。」」」
「…は?」
「本人のやる気と努力次第では、全部の学科を取得することも可能なのよ。もちろん、大変なんだけどね。」
「まあ、重点を置いてる科は違うし、最終的にはどれか一つの科の卒業資格になるんだけど。あたしは接客科で一番成績が良かったんだよ。」
「キララとマリスは?」
「私とキララは調理科が得意だったわね。」
「と言っても、マリスの場合は接客科でも良い成績納めてたじゃない。」
「マリスさん、すごいです…」
「ふ〜ん。じゃあ、調理科の生徒が一番張り切ってるかな?」
「ああ、言い忘れてたわね。この学校の学園祭なんだけど、学科ごとに出し物してるわけじゃないのよ。」
「そうなのですか?」
「うん。3つの科の先輩後輩がお互いの選んだ相手と一緒になって自分たちのお店をやってるの。まあ、全部が食べ物売ってるわけじゃないけどね。」
「さっき調理科のオティウス先生に会ったんだけど、パフェの作り方を完全に覚えたら期末試験免除とまで言ってたよ。」
「それはいいのか…?」
「大丈夫よ。変な手心は加えない先生だから。」

苦笑するレイ様を見て、私も思わず笑ってしまいます。
ああ、こうやって親しい友達と共に並び、このような場で笑い合うというのは本当に素晴らしいことですね。嬉しさで、もう頬が緩みっぱなしです。

「それじゃ、まずはあっちに行ってみるか。」
「学園祭だから、作ってるのは軽い料理ばかりのはずだけど…レイが行くとなるとどうかしらね?」
「重たいものじゃなきゃ食べてみたいね。それで美味しかったらご招待といこう。」
「それじゃ、行きましょうか。」

そうして、私達は目の前にそびえ立つ大きな建物へと足を踏み入れました。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-ARDcB] 2007/04/03(火) 09:43:19

ちゃいるど26!
「よ〜っす。ここ、何を作ってるんだ?」
「あ、ここはテコヤ―――――って、レイさん!?」
「おい!レイさん来たぞ!後、キララ先輩達も!」
「嘘!?全員同時に!?」
「ちょっと待ってくれ!それは調理してる俺への死刑判決か!?俺の料理を5人に出せって言うのか!?」

な、何だか調理場に立っておられる男性が大慌てです。まあ、仕方のないことかもしれませんね。レイ様もキララ様達もこの国有数の一流料理人ですから。自分の料理ではと不安になっておられるのかもしれません。

「よ、ようこそいらっしゃいましたっ!」
「頑張れ、キルシェ!俺達の単位はお前の腕にかかっている!」
「嘘だろ!?」
「キルシェ君、でいいのかな?」
「は、はいっ!」
「固くならないでいいぞ。君が一番頑張ったっていう料理が、俺は食いたいだけだし。」
「…はい。」
「まあ、口に合わなかったら、級友達の単位が危うくなるわけだが。」
「うわああああああ!?」
「落ち着けキルシェ!」
「レイ、ちょっとひどくない…?」
「いや、いつもは言われっぱなしだから。こういう時に優位に立たないと。」
「親衛隊からためられた鬱憤をこんなとこで晴らさないの。キルシェ君、期待してるわよ?」
「は、はいっ!」

まあ、今のキララさんの言葉であっという間にキルシェ君が元気を取り戻されましたが…キララさん、ひょっとして新しい親衛隊を生み出されたのではないでしょうか?

「…やっぱ、帰るか。」
「何故にっ!?」
「いや、今何だか新しい敵を生み出した気がしたから。」

レイ様も感じておられたようですね…

「お願いだから食べていってくださいよー!そんで、出来れば招待を!」
「レイさん、俺達の就職かかってるんですから!」
「先輩もどうか手助けをっ!」
「キララ先輩、レイさんを引き留めてください〜〜〜〜!」
「はいはい…レイ、ちゃんと食べてあげなさいよ。」
「キララって後輩思いだったんだな。」
「そうなんです!」

席に着くと同時に、お水を持ってこられた女性がレイ様の言葉に賛同されます。な、何故か妙な圧力を感じてしまうは気のせいでしょうか・・・?

「キララ先輩はとっても後輩に優しいんですよ!勉強で分からないところとかよく教えてもらいました!」
「俺は料理が下手だったんで、助言をいくつかしてもらったり。」
「それを自慢しないとこも素敵なんです!」
「…キララ。」
「何よ?」
「ちょっと、店でのお前と後輩達とのお前が随分と違う気がするが?」
「当たり前でしょ。ヴェロンティエじゃ他人を気遣う余裕なんて無かったんだし。それに、レイの料理について言うことなんて欠片も持ってないわよ。」
「それって、レイさんを信用してるってことですよね!」
「きゃー!先輩ったら大胆〜♪」
「あのね…レイの料理を毎日毎日食べてみなさいよ。この学校での3年間が虚しくなるわよ。」

そうですね…確かに、キララさん達の料理もとても美味しいのですが、レイ様のそれは別次元とでも申しましょうか…未知ゆえの美味があって、もはや病みつきです。キララさんが自信喪失するのも無理はないかと…

「レイさん!出来ました!」
「ん?あ、ありがとう。」

先ほどから必死になって料理を作られていたキルシェさんがテコヤハを運ばれてきました。見る限りではとても美味しそうです。キララさん達も同じように感じられたのか、自然と箸を持っておのおのの口へと運ばれます。
しかし、周りの皆様の視線は他の誰でもなくレイ様に注目していました。レイ様が箸を使って、テコヤハをひょいと口に放り込まれます。

「んぐんぐんぐ…うん。」
「れ、レイさん…か、感想は?」
「…悪くは無いな。」
「やった!」
「ふむ…ちょっと厨房見せて。」
「え、は、はい?」
「レイ?何する気なの?」
「キララだって気づいてない訳じゃないだろ?」
「もちろん。」

そう言うと、キララさんも立ち上がって厨房へと足を運ばれます。マリスさん達は何か分かっておられるのでしょうか、何も言わずに残りのテコヤハをさっさと口にしておられました。私には特に問題があるようにも思えないのですが・・・修行不足ですね。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-rCmNk] 2007/04/07(土) 20:43:01

ちゃいるど26!

「あ、やっぱりね・・・キルシェ君。」
「はい?」
「このシナエ。学園祭の結構前に開けたやつだろ?」
「シナエっていうのは、空気に触れると味が落ちるの。だから調理直前に開けて、開けてからは一気に使い切るのがコツ。確か、二年の時に習ったはずよ?」
「減点1だな。」
「がんっ!」
「っていうか、何故に分かるんですか2人とも!」
「どんな舌を持ってるんですか!」
「いくら味が落ちるっていっても微妙ですよね!?」
「いや、普段キララが作ってるのより味が物足りないなって思って。」
「本当に分かってるんですか!」
「一番失敗しやすいとこなのよね。けど、一流になりたいならちゃんとしないと駄目ってこと。」
「がぁんっ!」
「キルシェ、済まない・・・俺が、気づいていれば・・・」
「ううん、買ってきたあたしが開けたのよ!だから、あたしが!」
「いや、2人は悪くないよ・・・俺が、未熟だったのさ・・・はぁ。」

な、何だか一気に調理場の雰囲気が暗くなりました!レイ様とキララさんも失敗したような顔をしておられます。ああ!何だか店全体の元気まで徐々になくなりつつあります!って、どうしてマリスさん達は平然とテコヤハを完食なさっているのですか!?

「そうね。確かにシナエのところは残念だけど・・・レイ、これなら合格点なんでしょう?」
「そうそう。レイ君だって鬼じゃないんだしね。努力は認めるもん。」
「え!?」
「合格なんですか!?」
「そもそも、減点とは言ったけど不合格とは言ってないわよね。」
「さすがマリス。分かってるな・・・あ、キルシェ君。」
「は、はい!」
「チャエヨはある?」
「え、こ、ここに・・・って、わあああああああ!?」

レイ様は何やら瓶に入った液体をどぼどぼとシナエの入っていた袋に流し込まれました。って、そう言えばそんなことを店でもしておられましたね。

「れ、れ、レイさん、何をっ!?」
「いや、シナエの味が落ちたときの回復方法を教えてあげようかと。」
「へっ?」
「あ、調理科の人は聞いた方が良いわよ。学校では教えてくれないレイ独自の高等技術だから。」

マリスさんがそう仰った途端に、周りにおられた調理科の人、そして今まで椅子に座っておられたお客様までが立ち上がって慌ただしくレイ様の元へと足を運びます。さすがレイ様ですね・・・

「こうやって、開封してから空気に触れちゃったシナエはチャエヨを混ぜると良い。詳しい説明は省くけど、こうすることでシナエの中に入った空気の成分が再度出て行ってくれるから。さらに、チャエヨの成分がシナエの中に混ざることで本来の甘みを十分に引き出すことも可能になるぞ。もっとも、長時間混ぜておいたら逆にチャエヨの辛みに甘みが吹き飛ばされるから―――――」

レイ様は近くにあった鍋を手に取り、先ほどのシナエを入れます。そこにテコヤハの材料を入れていき、数分後―――――

「はい、これで改良版テコヤハの出来上がりだ。食べてみな。」
「いただきます・・・う、うまい!」
「キルシェのよりも、はるかに甘いわよ!?」
「それでいて歯ごたえが無くなってない・・・おまけに、見た目もずっと鮮やかだ。」
「料理に大切なものは味だけど、食欲を刺激するためには見た目も重要だってことを忘れちゃ駄目だよ。以上、レイ・キルトハーツのテコヤハ講座でした。」
「「「「ありがとうございましたっ!」」」」
「ちなみにパフェの作り方には、キルシェ君と後一人をご招待。その一人はそっちで決めてくれ。」

そう言ってにこやかに笑うレイ様は、とても楽しそうで見ている私まで自然と笑みがこぼれてしまいました。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/04/11(水) 15:07:53

ちゃいるど27!
そして、時間は過ぎて…
俺の目の前には、俺が招待した50人の生徒達が目をぎらぎらさせて教壇に立つ俺を見ていた。もちろん、その手にはしっかり紙と鉛筆。一言一句どころか、一つの音も逃さないんじゃないかってぐらい静かだ。

「えっと、こんにちは。」
「「「「お願いします!!」」」」

何だか、今の日本ではあり得ないぐらい真面目な雰囲気が漂っている・・・受験直前の一流塾の教室でもここまでは無いと思う。
まあ、色々と店を回りながらやりすぎたしなぁ。ついついアドバイスしまくって、生徒どころか先生達の驚愕を誘ってたし。最後の方なんか、生徒と教師の割合が1:1だった気がする。それで、俺の実力を認めてくれたってことなのかな?

「それじゃ、早速だけどパフェの作り方講座から始めるぞ。材料は目の前に置いてあるよな?前に書いてあるのが無い人いる?」
「えっと、ムレケ、チミザ、ラカゲレナ、ケルウメ…って、ええ?」
「な、何なんだ、この材料の組み合わせ?」
「果物が多いのは分かるけど…キアトア?何に使うの?」
「駄目だ…俺達の常識が全く持って通用しない。」
「こ、これがヴェロンティエの副料理長、『味の開拓者』の力!」

何か、今ものすごいのが聞こえた。俺、いつからそんな豪勢な二つ名がついたんですか?俺はどこのヒーローですか?

「えっと、それじゃあまずはムレケをこの大きな器に入れて、次にチミザを混ぜるんだけど…あ、直接ムレケと混ぜちゃ駄目だぞ?」
「直接って…」
「うん。この赤の部分と燈の部分とで分けるんだよ。」
「分ける?!」
「どうやって!?」
「見慣れない道具があるだろ?これに入れて――――」


「レイさん、いつまで混ぜてれば良いんですか?」
「角が立つまで。それじゃあまだまだ。」
「う、腕がつる〜〜〜〜!」
「最低でもこれぐらいだな。」
「レイさん、もう出来たんですか!?」
「ってか、何ですか今の回転速度!」
「ただ混ぜるだけじゃなくてちゃんと空気も入れろよ〜。」


「そろそろ固まったかな?」
「キアトアにこんな調理法があったなんて!」
「何これ!何なんですかこれ!?」
「場合によっては入れると面白い、通称ナタデココ。」
「さり気なく新料理!?」
「これ単品だといまいちだけどな。」


「そこにさっきから溶かしてるムゼイモをかけるんだ。」
「ぎゃー!べたべたするー!」
「レイさん、速攻で固まるんですけど!?」
「それを利用するんだよ。こうやって、出来るだけ細く引っ張って糸状にしたものを素早く、こう。」
「き、きれい…!」
「料理っていうか、芸術の域に達してる気がする。」


とまあ、そんなこんなで一時間ほどして―――――

「後は、思い思いの果物次第で微妙にさっき言ったようにスカの量を変えたりするといい。甘い果物を使うなら多く、すっぱいならその逆だ。」
「もうちょっとかなぁ…」
「こ、こんなもんか?」
「はい、出来た人〜。」

50人の手がばらばらとまばらに上がる…うん、壮観だね。どうやら全員何とか完成にこぎつけたようだ。

「それじゃあ、早速試食といこうか。」
「食べて良いんですか?」
「いや、君らが食べても仕方ないから。とりあえず、教室の外に先着50名でパフェを食べさせるって張り紙出した。」
「「「「はいっ!?」」」」
「見てた限りでは全員成功してるから大丈夫だよ。保証する。それじゃ、全員外に出ようか。はい、自分が作ったパフェ持って〜。」

不安と期待が半分ずつの表情で生徒のみんなが教室を出て俺の後に続く。
そうしてたどり着いた教室には、既に指定した席に50名の人達がびっしりと座っていた。パフェが届いた瞬間、それは歓声となって俺の鼓膜を直撃する。

「それじゃ、適当に配るべし。知り合いじゃない方が率直な感想が聞けていいと思うぞ。まあ、多分言ってもらえることは一つだけど。」

俺が一時間もかけて教えたんだ。
ほどなくして、教室中にパフェを褒め称える声と、歓喜の声が上がったのは当然のこと。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/04/13(金) 14:52:12

ちゃいるど29!

目の前で歓声を上げながら空になったパフェの器を持ち上げている生徒達を見て、とりあえず俺の用事が終わったことを確信した。
まあ、残念ながらレキについての手がかりは掴めなかったけど・・・いや、今キララ達がレキを連れてうろうろしてるから案外何かしら手がかりが見つかってたりするかも。

「レイ様、お疲れ様でした。」
「ん・・・ごめんな、リリア。折角の学園祭だっていうのに。」
「いえ、レイ様のお手伝いが出来てとても楽しかったですよ?それに、レキ君もいない、本当のレイ様との2人きりと時間というのは最近少なくなっていましたから。」

そう。俺がパフェの作り方を教えている間、リリアは渋るレキをキララ達に預けて俺と一緒にいてくれたのだ。まあ、護衛である俺がこんな勝手な行動したのが駄目だったんだが。
それなのに、リリアは嫌な顔一つせずに俺と一緒にいてくれたわけで・・・俺、本当に駄目人間かもしれない・・・

「はぁ・・・よし、それじゃリリア。キララ達を探しに行こうか。」
「はい。」
「ゆっくりと探しに行こう。」
「え・・・でも、レキ君が泣いているかもしれませんし。」
「キララ達3人もいるんだし大丈夫だよ。手伝ってくれたお礼だ。一緒に2人で学園祭を回らないか?」
「あ――――はい!」

そう言ったリリアの笑顔は輝いていた・・・うん、この顔が見たかった。

「でも、何処に行きましょうか?」
「ひとしきり回ったからな・・・うん、確か昼過ぎから第一会堂で何かやってるって言ってたから、そっちに行ってみないか?」
「レイ様と一緒なら、何処へでも。」

自然と、俺はリリアの手を取ってその場から歩き出した。珍しくリリアの頬があまり朱に染まらなかったのは、きっとリリアも心から楽しんでくれているからだと思う。やっぱり、リリアの笑顔っていうのは癒されるよね。きっとマイナスイオン出まくりだ。当社比30パーセント増ぐらいで!


「れ、レイ様ぁ・・・」
「ふっふっふ・・・逃げられないぞ、リリィ?」
「嫌・・・嫌です・・・こんな、こんなっ・・・!」
「何を今更・・・リリィが望んだことじゃないか。」
「それはっ――――けれどっ・・・」
「さあ、こっちに・・・」
「ああっ!・・・お願いします・・・離してっ・・・」
「その意見は聞き入れられないな・・・さあ、入るぞ。」
「っ・・・レイ様っ・・・」


そして、俺達は学園祭名物『お化け屋敷』の中へと入っていった。


それにしても、最初はあんなに乗り気で『ここが面白そうです!』と笑顔で入り口まで走っていったのに、受付の子から説明を受けた瞬間に脱兎のごとく逃げだそうとするとは・・・本当に恐がりだな、リリアは。
そんな微妙に怯えるリリアの姿が小動物ぽくって可愛いから、ついつい意地悪したくなるとか言ったら怒られるだろうか?キララ達には怒られるな。
何はともあれ、入った俺達の前に広がったのは暗闇と不気味な音色。おお、随分と本格的じゃないか。
ちなみに、以前に調理実習中に事故で死んだ8人の生徒達の怨霊が学園祭の日にここに舞い戻ってきたという設定らしい。確かに、至る所に赤い血糊のついた包丁や変な形にへこんだ鍋などが散乱している。けれど、お皿の真ん中に赤い絵の具でクラスの料理店の宣伝をするのはどうなんだ・・・こんなの、怖がる人が――――

「れ、レイ様!あのお皿に何か血文字が書いてあります!」

―――――いましたよ。俺の隣に。

「あ、リリア。あの井戸を見てみろよ。」
「え―――――っ!?」

井戸から現れたのは顔面に真っ赤な塗料を塗りたくった男子生徒。その頭には、器用に包丁が突き刺さっている・・・ああ、紙製の包丁を頭の形に沿って切ってるのか。上手い工夫してるなぁ。

「ひいっ!レイ様!は、早く出ましょう!」
「わっ、とっ・・・リリア、落ち着こうって。」

俺を置いて‘入り口へと’走って逃げようとするリリアの手を握って止め、俺は上手くいって笑顔の男子幽霊に、親指を立てて心の中で『グッジョブ!』と呟いておく。

「ほらほら、次に行くぞ〜。」
「こんな、レイ様なんて嫌いですぅ・・・!」
「大丈夫。この程度で嫌われるような男じゃないから、俺。」
「ううっ。」

以降、なかなか面白い幽霊さん達が出てきた。
上から紐でぶらさがって落ちてきた、半身の女性(体半分を黒く塗っているためそう見えた)。
左の手首が存在せず、右手に包丁を持ちながら俺達の目の前に現れた男子(袖の中に手首から隠してた)。
両方の目に箸が突き刺さって、両腕をゾンビのように上げて歩く女子(最初の包丁男子と同じ)。

等々・・・その度にリリアが俺にすごい勢いでしがみついてくるのは、男として一度は経験してみたい体験だった。
まあ、問題を上げるとすれば段々とリリアの俺に対する密着度が高くなってるもんで・・・まあ、色々と柔らかい部分が腕とか腰とかに当たって、ちょいピンチ。これは予想外。
7つの亡霊達を全て突破する頃には、リリアはもはや俺の腕どころか体全体に抱きつきながら歩いている状況だった。いや、ものすごい動きにくい・・・

「リリア、もう少し離れて・・・」
「レイ様がいけないのです!こ、このような場所に連れてこられるからっ・・・せ、責任は取っていただかねば!」
「はいはい・・・ん?あれって――――?」
「こ、今度は何――――あ・・・光?」

見れば、向こうの方に出口と思わしき光が差し込んでいた。その時のリリアの反応といったら、四聖騎士も驚きの身のこなしで全力疾走である。けど、リリア・・・受付で言われたのを忘れているぞ。
俺達が出会ったのは7人の幽霊。
そして、このお化け屋敷には8人の幽霊がいるはずなんだ。
まあ、出口に安心したお客の目の前に唐突に現れて驚かせるっていうパターンか。きっと、出口のあの辺りから何かが飛び出して―――――

「で、出ました!レイ様、とうとう終わりました!」
「え・・・あれ?」

何事もない?俺の目の前では扉から外に出たリリアが見ているだけで嬉しくなるような笑顔で安心しきっている。てっきり、この隙を狙うもんだと思ってたんだけど・・・ひょっとして、受付の人の言い間違いだったのか?まあ、良いか。とりあえず終わったみたいだし。
俺はリリアの隣まで行き、近くにいた女子生徒に俺達が連れだったと説明する。

「はい、お二人様無事にご帰還おめでとうございます。」
「生還です・・・レイ様、私は今、命の素晴らしさを実感しています。」
「そんな大げさな・・・それじゃ、俺達はこれで。」
「はい、行きましょうレイさ―――――」
「あ、待ってください。お忘れ物ですよ。」
「「え?」」
「ほら・・・」

帰ろうとして背を向け、呼ばれて振り向いた俺達に女性が差し出したのは―――――目玉だった。

「そこに落ちてましたけど、あなたのではありませんか?」

そう言って、微笑む女性の右の瞳にはあるべき物がない。幻でも、まがい物でもなく、リアルに右の瞳が存在しなかった。つまり、この目玉の持ち主は他でもない、ついさっきまではちゃんと両目があったはずの、この女性本人で―――――!?

「うおぅ!?」
「っ〜〜〜〜〜〜〜!?」
「・・・なんちゃって。ようやく、レイさんも驚いてくれましたね?」

そう言って、その子は右目を‘元の位置に戻しながら’先ほどとなんら変わらない笑顔で俺達に向かって言葉をつむぐ。

「ぎ、義眼だったんだ・・・」
「はい。事故で無くなっちゃったんですけど・・・けど、こうやってレイさんの驚く顔が見れたから、良かったのかなって思います。」
「え、何その前向き思考。」
「私ですね『レイさんをヴェロンティエから解放し隊』の会員なんですよ。」
「・・・それで納得できた自分がすっげえ嫌だ。」
「レイさんの今の顔、私だけの物っていうのが嬉しいです!」
「あ、そう・・・」

それにしても油断してた所に不意打ちだった・・・驚いたなんてもんじゃない。一瞬、反射的に持っていた護身用の煙玉を放り投げようかと思ったぐらいだ。いや、ちゃんと気づいて良かった。そういえば親衛隊がいるのに随分とリリアが静かな気がするけど――――

「リリィ、驚いて声も出ないのか?」
「リリィさん?」
「・・・・きゅぅ・・・・」

先ほどのショックで気絶していたらしいリリアは、そのまま俺の腕の中へと倒れて込んでしまった・・・連れてきた俺が悪かったです、ごめんなさい。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/04/16(月) 12:08:55

ちゃいるど30!
ぷうと頬を膨らませて拗ねているリリアをなだめるのには30分要した。
いや、何て言うか小学生のころあっただろ?‘好きな子をいじめたくなる’心境。あれに近い。あのリリアの真剣に怯えてる表情は一見の価値ありだ。まあ、俺以外がリリアを泣かしているのを見たら容赦なく蹴り倒すが。

「さてと・・・そろそろキララ達と合流するか。」
「レイ様、話を逸らしましたね。」
「何処に行けば会えると思う?」
「レイ様・・・泣きますよ?」
「ごめんなさい、リリアさん。何でもお願い聞くのでいい加減許して下さい。」
「約束ですよ?では、行きましょうか。」
「・・・リリア、嘘泣き?」
「はい。」

お、女って怖い・・・

「俺達、あっちから来たわけだから・・・」
「逆方向に行った方がよろしいでしょうか?」
「そうだな。多分、キララ達は左回りに回ってるんだろ。」

そして一歩踏みだそう――――――


「レイ!」


――――と、したところでキララの声。

「え?」
「キララさん!?」
「その人捕まえて!」
「は?」

見ればキララの前には何やら必死の形相で走っている若い男性。20歳ぐらい?別にキララ達の持ち物を持ってるわけでもないし・・・何だって捕まえるんだ?

「おい、どうしたんだよ!」
「説明は後!早く!」
「いや、だから――――」
「レイ君!その人、キララに痴漢してたのっ!」

フォルトさんの叫んだ一言が脳裏に焼き付いた。
ちかん?
痴漢?
あの女性の天敵で、満員電車や人混みとかで不埒な行為をしてるやつか?そうなのか?つまり、この人混みでキララに変なことをしやがったのか、この野郎は?

「え、いや、ちょ、レ―――――」
「任せろ!」

脳内裁判は一瞬。
判決、たこ殴りの上に市中引き回しをしてから大広場にさらし者。つまりは、つぶす!
リリアを抱えたまま跳躍し、人混みを跳び越えてから逃げてくる男の数メートル前に降り立つ。
男は驚いたような顔をしてから方向転換しようとしたが・・・遅いわ、この変態!

「キララに手出ししてただで済むと思ってんじゃねえぞ、この野郎がっ!」
「げえっ?!」

逃げようとした男の襟首を掴み挙げ、そのまま力と怒りにまかせて思い切り校舎の壁に放り投げる。
壁に激突する前に地面に倒れこんだ男にとりあえず最初の一撃を加えるべく俺は容赦なく拳を振り上げる。百発ぐらい殴ればひとまず落ち着くだろう。キララの辛さを億倍にして返してやるぜ、この野郎!

「おらあああああああ!」
「ひえええええええええ!?」

‘ボフン・・・’

「んおっ!?」

唐突に、何かの布が俺の頭に覆い被さった。視界が奪われたので、ひとまず立ち止まり、その布をはぎ取る。

「な、何だ!?」
「は、レイ君。ごくろーさん。」
「フォルトさん?何で邪魔するんだよ。この男はとりあえず千発ほど殴り倒してから――――」
「死ぬでしょうが!」
「死すら生ぬるい!」
「落ち着いて、レイ。さっきのフォルトの言葉・・・嘘だから。」
「・・・へ?」

今、何とおっしゃいましたかマリスさん・・・?

「だから、フォルトの痴漢って言ったの、嘘なのよ。」
「・・・俺、罪のない一般人を投げ飛ばして殴ろうとした?」
「まあ、ね。」

とりあえず、未だに腰を落として怯えている男の人の所まで歩み寄る。

「・・・本当にすいませんでしたあああああああ!」

土下座。
恥も外聞もなくい土下座した。あまりの豹変っぷりに目の前の人が呆然としているが、それどころじゃない。俺は危うく犯罪者になるところだった。

「え、あ、あの・・・?」
「いや、もう本当にごめんなさい!とりあえず、何らかのお詫びをさせて下さい!いや、マジで!」
「じゃ、じゃあ、とりあえず聞いていいかな・・・?」
「何なりと!」
「レイ君がここまで頭下げてるの初めて見た。」
「あたしも・・・レイが少し小さく見えるわ。」
「まあ、レイらしいと言えばらしいわよね。」
「私は先程同じようにして謝られましらよ?」

後ろの女性陣の言葉も無視!さあ、とりあえずはこの人の言葉を聞かねば!

「その・・・どうして‘イケリル’が、ここにいるんだ・・・?」
「イケリル・・・?」
「だから、そっちの子が抱いてる‘赤ん坊’だよ。」

瞬間、俺は視線を移す。
キララが『そういうことなのよ』という目で見ていたのは、紛れもなくレキだった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/04/18(水) 17:29:50

ちゃいるど31!

「つまり、レキ―――いや、イケリルに気付いて思わずキララ達を呼び止めたら、それに気付いた親衛隊に怒鳴られて逃げ出したと・・・?」
「それで、どうもレキ君―――じゃなくて、イケリル君のこと知ってるみたいだから必死に追いかけてたの。で、ちょうどレイ君がいたからさっさと捕まえてもらおうと思って。」
「そうか、ようやく話が繋がった――――けど、ねえ?」

俺はフォルトさんの頭に拳を押し当て、日本一有名な某5歳児が母親によくやられているぐりぐり攻撃を開始する。

「それならそうと言え〜〜〜〜〜!」
「いだいいだいいだいだいいいいっ!?」
「危うく犯罪者の仲間入りだっただろうがっ!」
「だ、だってレイ君が動いてくれなかったんだもん!」
「だからって、あんな嘘をついてんじゃねええええ!」
「きゃああああ!!」
「はいはい。レイ、そこまでにしといてやんなさいよ・・・」

キララの言葉に、俺はようやくフォルトさんを解放する。

「あぅぅう・・・レイ君の、いけずぅ・・・」
「使い方が間違ってるし。」
「それで、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」

何やらリリアに正面から見つめられた男はドギマギしていた・・・やっぱり、一発ぐらい殴っても許されるだろうか。いや、駄目だろうけど・・・俺、嫉妬深い男だったんだな。
ちなみにレキ、もといイケリルはいつも通りリリアの腕の中でくつろいでいる。

「えっと、君が抱いている赤ん坊・・・イケリルなんだけど。その子、俺の実家の、近くの家にいる夫婦の子のはず・・・だけど・・・」
「ひょっとして、あなたの実家って・・・ベルグランドにある?」
「な、何でそれ―――ああ、‘ノープスの紐’を見たのか。」
「ノープスの、紐・・・?」
「うん。俺の故郷だと、生まれて2歳になるまでは紐を肩に巻き付けるんだ。それで、その紐に子どもの健康と幸運を祈る。その祈る相手が故郷で祭られているノープス神なんだよ。」

実際に、目の前にいる女の子の1人が神様の娘ですと知ったらどんな反応するんだろうと思ったが、そこは重要じゃない。
大収穫である。
これで心配することは何も無くなった。後はこの人にイケリルの実家の場所を聞いて、そこに行って突き返せば良いだけだ。念のためのつもりで連れてきていたけど、本当にラッキーである。

「えっと、色々と事情があって俺達が今この赤ん坊を預かってるんですけど・・・この子の実家の場所、教えて貰えますか?」
「え?まさか、イケリル君・・・やっぱり捨てられてたのかい?」
「ええ、そうなんで――――やっぱり?」
「やっぱりとはどういうことですか?」
「ん・・・いや、君たちがその子を育ててくれてたなら言ってもいいんだろうけど・・・どうもガルバードさんの家から最近子どもの泣き声が聞こえなくて・・・それに、大変なことになってるんだ。」

ガルバード・・・つまり、イケリル・ガルバードがレキの本名なわけか。それにしても・・・

「大変なことって、何ですか?」
「ああ。そこのご主人・・・まあ、ピリッツさんっていうんだけど。勤め先の方で何だかひどい詐欺に合ったらしくってさ・・・随分と生活苦になってるって聞いたんだ。何でも家財道具はほとんど売ってしまったらしいし、満足な食事も出来てないんだろうな。俺の親が言うには、別人のように痩せこけてるって聞いたよ。それで、てっきりイケリル君は死んだのかどこかに預けられたのかと思ってたんだけど・・・」
「実は、こんなところにいたというわけですね・・・」
「レイ、予想としては?」
「詐欺にあって生活がぎりぎりになり、栄養失調によって母乳のでなくなった母親。もちろん、人工乳なんて買う余裕もない。せめて子どもだけでもと思って、お人好しが5人もいるヴェロンティエに置いていった・・・ってところだな。」
「ま、そんなところでしょうね。」

マリスがため息をつきながら、リリアに抱かれていつの間にやら眠っているイケリルの頬をぷにぷにと触る。何やら鬱陶しそうに反応はするものの、どうやら眠気が勝っているらしく起きることはなかった。

「さて・・・レイ、どうする?」
「私はレイに従うわよ。と言っても、レイの考えなんて分かってるつもりだけど。」
「まあ、さすがにこの場合はね〜。」
「レイ様・・・行かれるのですよね?」

さすが皆さん、俺という人間を十分に理解しておられるようで。
期待に満ちた綺麗な8つの瞳が俺をとらえる中、俺は一度だけイケリルに目を移してから、この問題を解決するのに最も手っ取り早い言葉を口に出す。

「イケリルの本当の家を教えてください。」
「さすが、レイ君。そうこなくっちゃ!」
「そうと決まれば、早速準備ですね。」
「異論はないんだけど・・・外出して大丈夫なの?」
「押し通します!」
「母は強しってことね。」
「なあ、レイ君・・・1つ、聞きたいんだが。」
「何ですか?」
「・・・リリィちゃんの親衛隊ってどうやって入るのかな?」
「早い所家の場所を言わないと、蹴り飛ばしますよ?」

そう言えば、どうやって親衛隊って増えてるんだ・・・そこを潰せば増えることなくなるんじゃないだろうか。うん、今度やってみよう。
ともあれ、そろそろこのチャイルド紛争を終わらせないといけないな。
それが、新しく出来た家族との別れだとしても。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/04/20(金) 08:26:51

ちゃいるど32!
雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/04/23(月) 14:06:23


青い空
白い雲
輝く海面
さて、そんな場所に最も必要なものは何か?答えは簡単。

「水着、買いに行かないとね。」
「そうね。海水浴なんて久しぶりだもの。」
「きっと、リリアは初めてなんじゃない?」
「ええ、ナーエコには行ったことがあるのですが・・・残念ながら海は眺めるだけでした。」
「だぁ?」
「レキのは・・・どうしよっか?」
「まあ、一応レキ君の親を見つけてからじゃない?万が一のときでも、レキ君ぐらいなら裸でも大丈夫でしょ。」
「それもそうですね。」

学園祭も終わり、家に帰ってきたあたし達が最初に話し始めたのは初のナーエコに行く準備についてだった。
と言っても、あたし達のすることはレキを本当の親の元に連れ帰って渡すだけ。後はきままに遊ぶだけ。よって、ここは1つ本格的に遊ぶ計画を立ててみようかと考えたわけである。ちゃんとした休みは、あの激動とも言える祭りの時以来だし。

「水着かぁ・・・どんなの選ぼうかな〜。」
「私、水着は着たことがないのですが。」
「あら、そうなの?」
「はい。王族たるもの、あまり人前に肌を見せるものではないと・・・」
「まあ、それはそうかもね。」
「けれど、今回は王族としてでなくリリィ・ヴィクリヴィアとして行くから問題ないんでしょ?」
「そのつもりです。あ、それでしたら・・・レイ様。」
「ん?」

リリアは先程から後ろの方でレキと遊んでいるレイの方を向いた。
何だかレキを挟んだ2人の姿があまりに自然に見えて、ちょっと嫉妬したのは内緒だ。だって、悔しいから。

「どうした、リリア?」
「えっと・・・私、水着が初めてなんです。」
「ああ、聞いてたから分かるけど・・・それで?」
「レイ様、お願いがあるのですが。」
「何だよ?」
「私の水着を選ぶのを手伝って下さいませんか?」

何だか、瞬間的にレイの顔が硬直したのが分かった。

「・・・はい?」
「その、出来ればレイ様の好みの水着を着ようかと、思いまして・・・」
「・・・はい?」
「お、お母様も、殿方の望む服装で接することが大切だと仰っていましたので。」
「・・・はい?」

どうやらレイは未だに呆気にとられているようだ。うん、これはあたしにとっても好機かもしれない。

「じゃあ、あたしもレイに水着を選んでもらうとしましょうかね。」
「それ良いわね。私の分も選んでくれるんでしょ、レイ?」
「もっちろん、あたしのもだよね!」
「・・・って、ちょっと待て!4人とも何を仰ってやがっておられますか!?」
「わお。レイ君、混乱中?」
「それは良いから!何故に女性の水着を男の俺が選ぶ必要があるんだ!?」
「今、リリアが言った通りじゃない。」
「そうよね。やっぱり、女としては好きな人が似合うって言ってくれるものを着たいもの。」
「大丈夫、4人とも何を着ても似合うから!」
「その言葉は嬉しいけど、その中でも似合うのを選べって言ってるのよ。」
「あのな、男の俺が女性水着売り場に行くのを想像してみろ!恥ずかしさで死ねるぞ!」
「大丈夫よ。人間、そんな簡単に死なないから。」
「何と言われても駄目!嫌だ!断固拒否!」

むぅ・・・強情ね。こっちとしては、レイが思わず顔を真っ赤にするような水着を着てみたいと思っているのに・・・いや、恥ずかしいけど。まあ、何というか、それを超えてでもレイにあたしの中の女を意識して欲しいと思うのは、間違いじゃないわよね?

「レイ様。」
「たとえ、リリアが何と言っても駄目だぞ。」
「そうですか。」
「そうです。」
「・・・学園祭。」
「・・・」
「・・・お化け屋敷。」
「・・・」
「・・・強制連行。」
「・・・」
「・・・約束。」
「・・・リリア。」
「はい、何でしょうか?」
「強くなったな・・・俺が悲しくなるほどに。」
「恋する乙女は強いと申しますし。」

何でだろう。リリアが怖い・・・何て言うか、微妙に黒い。そしてレイもちょっと泣きそうになってる。会話の意味は分からなかったけど、きっと学園祭で何かあったんでしょうね・・・多分、甘い雰囲気とは別の何かが。

「レイ様、お答えは?」
「誠心誠意、選ばせていただきたいと思います・・・」
「まあ、ありがとうございます。レイ様ならそう仰って下さると思っていました。」
「レイ、何したの?」
「大したことじゃないよ・・・ただ、リリアを怒らせると怖いってことだ・・・」
「レイ君、最近すっかりリリアに負けてるよね・・・」

う〜ん。何だかレイとリリアの仲が親密になっているというような気がして悔しいわね。
ここは一つ気合い入れて水着を選ぼう。色仕掛けというのは趣味じゃないけど、これもレイとあたしの未来のためだ。うん、頑張ろう。

雨やかん [FIixS-StrWP-mnzER-VcGRk] 2007/04/30(月) 10:32:59

ちゃいるど33!

「それを水着とは言わない。」
「あら、そうかしら。」
「そんなのは紐だ!もうちょっと露出控え目のを着ろ!ってか着てください!」

え、今何をしているのかって?
会話から分かりますよね?はい、レイ様に水着を選んで頂くべく近くの被服屋へとやって来ています。それで、先程のはマリスさんが持ってこられた水着を見たレイ様の反応なのですが・・・レイ様の顔が真っ赤です。

「レイがそこまで真っ赤になるのは惜しいのだけど。」
「止めて!本当にお願いだから止めて!」
「あら、レイは私には似合わないと思うのかしら?」
「いや、むしろ似合いすぎっていうか、マリス以外じゃ着れないだろうけど!けど、俺の身にもなれ!」
「と、言うと?」
「・・・気になっている女の肌をたっぷりと他人に見せたいと思う男が何処にいる・・・」
「・・・それなら、いいわよ。別の持ってくるわね。」

あ!あ!何だか今、とっても良い雰囲気でした!マリスさんも嬉しそうな顔であっさりと引き下がっておられます!レイ様、そんな頬を染めて仰らないで下さい!ちょっと不安になってしまうではありませんか!

「レイ君!これなんてどうかな?」
「・・・」
「何?何?」
「・・・フォルトさん。」
「うんうん!」
「言いにくいんだが・・・」
「え、似合わない?」
「・・・その、フォルトさんの雰囲気に合う色だとは思うけど・・・その、圧倒的に多分・・・」
「もう、ずばっと言ってよ!」

あ、何だかレイ様の仰ろうとしていることが分かりました。けれど、確かに言いづらいです・・・その、私が慰められる内容でもありませんし。一番近いキララさんでも、ちょっと・・・

「あの・・・多分、その種類の水着は・・・」
「水着は?」
「・・・引っかかりが足りないかと・・・」
「へ?」
「・・・マリスとか、リリアなら似合うだろうけど。」
「あ。」

ああ!フォルトさんが固まりました!とても傷ついた表情です!レイ様も何やらきまずそうにしておられます!

「・・・その、ごめんな?」
「ううん・・・うん、恥をかく前に、教えてくれて、ありがとね・・・ははは・・・」
「怖っ!」
「はははは・・・持てる者と、持たざる者の間には一生超えられない壁があるんだっけ・・・」
「フォルトさん、落ち着いて・・・あぁ、もう!」

レイ様は何やらヤケになったご様子で、それまでは決して見ようともしなかった場所、つまりは水着が並べられている場所へすたすたと行かれました。そして、一瞬だけためらう素振りを見せられて、結局諦めて自らいくつかの水着を手に取られます。

「フォルトさん、ちょっとこっちに来て。」
「へ?」
「これじゃない・・・これじゃない・・・うん。この辺りかな?」

レイ様は2、3の水着を取られると、それをフォルトさんに押しつけるように渡されました。

「簡単だけど、俺がフォルトさんに一番合いそうなだって思った型!その、色合いとかはフォルトさんの明るさに合わせてみたし・・・その型なら、あんまり気にならないと思うから。」
「あ・・・れ、レイ君が直接選んでくれるとは、ねぇ。」
「だああああ!顔を染めるな!恥ずかしいのはこっちもなんだよ!」
「いやぁ、レイ君が手に取った水着を着ちゃうのかぁ・・・ちょっと卑猥?」
「フォルトさんの頭の中が卑猥だ!俺、もう行くから!」
「うんうん・・・その、ありがとうね。」
「・・・どういたしまして。」

け、結局フォルトさんともいい雰囲気を作られました!何て羨ましい・・レイ様に直接選んでいただけるなんて、私もそうして頂きたかったです・・・今からでも間に合うでしょうか?け、けれどこの格好は・・・

「あれ・・・キララとリリアは?」

―――っ!
って、どうして私は更衣室の中に隠れているのですか!レイ様に見てもらうために着ているというのに、これでは意味が無いです・・・け、けど、何と言いますか、予想以上に水着というものは露出が多いということで・・・出来れば、少ないものを着たかったのですが、マリスさんが勧めてくださった水着は可愛いですし、自分でもなかなか似合うかなと思っていまして────

「リリア、いるのか?」
「は、はい!」
「見つかったか?早くしてくれないと、いい加減俺も恥ずかしいっていうか・・・さっき、親衛隊に見つかったから、早く選んで欲しいなと。」
「え、えっと・・・」

こ、こうなれば!恋する乙女の強さ全開です!勇気を振り絞っていざ!です!
‘シャッ’
更衣室の扉を開け、レイ様にの前に立ちます。一瞬、レイ様が息を呑むのが分かりました。顔を真っ赤に染められ、視線をさまよわせておられます。
ああ!レイ様までそんなのでは私も恥ずかしさが増大です!

「れ、レイ様っ・・・な、何か・・・」
「へ?あ、え、えっと、いや・・・うん・・・その・・・とりあえず、似合ってるとは、思う・・・」
「そ、そうですか・・・?」
「うん。似合ってるとは思うけど・・・その、えっと・・・それを、着るのか・・・?」
「な、何か不都合でもありましたか?」
「不都合というか、男の意地というか・・・も、もう少し露出が控えめのとかで。」
「え?」
「リリアが、それを着て他の男の前に立つのは・・・嫌です、はい。」

マリスさんと同じような言葉です。
ですが、マリスさんのように言葉を濁さずにはっきりと仰って下さいました。『嫌だ』と。それだけで十分だと思ってしまえるのは、きっとレイ様への想いのためでしょう。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/05/02(水) 10:46:19

ちゃいるど34!
雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/05/07(月) 13:21:21


どうしようか・・・
依然として水着売り場にいる俺だが、状況は決してよくない。とりあえず、先ほど報告に行ってあわよくばキララ達の水着姿を覗こうかとしていた親衛隊はその場で蹴り倒したから問題ない・・・キララ達の安全のためだ。うん。別に、嫉妬とかじゃあない・・・
はい、すいません。嫉妬です。嫉妬ですともさ。マリスとリリア、スタイル抜群の2人の水着を一瞬たりともやつらに見せてたまるかという醜い感情が俺を動かしたんですよ。
だって、似合うんだよ、あの2人。ビキニタイプのが。そう、あの露出が多いっていう点では最強のタイプのが似合いすぎるんですよ。スタイル最高だしね!ええ、そりゃあ俺の理性を一発で飛ばしかねないぐらい!マリスがもしも最初に持ってきたヒモを着てたら、多分俺は逃げ出しましたよ。頭を冷やすために。

「で、それに行き着いたわけか・・・」
「そういうこと。似合うでしょ?」
「まあ、な。」

マリスが選んだのは俺が許せるギリギリの範囲で露出が抑えられたビキニ。ちなみに色は黒です。何と言うか、大人の魅力がたっぷりでけしからんですな。いや、俺が選んだんだけどさ。仕方なく。マリスにせがまれて。
はい、またもやごめんなさい。嘘です。ええ、口じゃあ他の男がどうのこうの言っておきながら、結局はマリスの水着姿にやられたんですよ。似合ってて、もう駄目とはいえなかったんですよ。下心?ええ、満載ですともさ。悪いかこんちくしょう。

「レイ君、鼻の下伸びてるよ?」
「見なかったことにしてくれ。」
「まあ、気持ちは分かるけどさ・・・同じ女として、もう泣きそうになるしね。」

かく言うフォルトさんが着ているのは・・・可愛らしいフリルがついた赤の水着。うん、健康的というか、そのすらりと伸びた足に合っているというか─────はっ!今のはさすがに変態っぽかったか!?
いや、けど似合ってますよ?本当に。上下がくっついているタイプで、露出は少なめだがそれでも隠し切れないフォルトさんの元気さと明るさを象徴するかのような感じで。俺が選んだ中から決めてくれたようで。我ながらナイスチョイス。

「ところで、リリアとキララは?」
「リリアなら、さっきその更衣室に入ってたよ。キララは何だか難しい顔してたけど・・・」
「レイ様、これでどうでしょうか?」
「・・・」
「レイ様?」
「・・・さすが、リリア・・・」
「ううっ。か、勝てる気がしないよぉ・・・姫様なんて嫌いだぁ・・・」

いやぁ・・・ごめん、もう無理かも。リリアが着ているのはマリスのようにビキニタイプで腰に長いパレオがついている。色はお姫様らしく純白で、それがリリアのもって生まれた高貴さ、上品さと相まってもう完璧。白い肌にもばっちりです。
何ていうか、リリアを海に連れて行くのは止めておいたほうがいいかもしれない。ナンパの嵐とかで済む問題じゃない。多分、青い海が赤く染まる。おもに男連中の血で。自爆するやつ、俺に殴り飛ばされるやつ、連れの女の子にひっぱたかれるやつ、などなど。

「レイ様。あの、ひょっとして何かおかしなところでも・・・?」

これをおかしいと言う男がいたら、俺は容赦なくそいつを眼科へと引きずっていく。おかしいのはそいつの目だから。間違いなく。

「いや、全然問題ない。むしろ完璧すぎて最高。」
「レイ君が珍しく褒めちぎった!」
「残念ね。水着勝負はリリアに軍配ってところかしら?」
「あ、ありがとうございます・・・あ、でも、まだキララさんが・・・?」
「あれ?」
「さっき、そこの更衣室に入っていったわよね?」
「キララー?まだ、準備できてないの?」
「う。」

何だかうめき声が聞こえたが・・・大抵、こういうときは自分に自信が無くて出て行けなくなってるんだよな、このお嬢さんは。別に今更スタイルをどうこう言うのもあれだが、キララだって人並みにはあるわけで・・・はっ!俺、今何だか妙な想像した!?
いかんな・・・水着売り場ということもあってか、どうも今日の俺の理性は随分とハードルが低い。早いところ帰っていつもの雰囲気に持っていかないと。

「お〜い、キララ〜。早く出て来いよ〜。」
「う・・・わ、笑わない?」
「笑われるような水着を着るのか、キララは。」
「そうじゃないけど・・・」
「俺は、キララの水着もちゃんと見てみたいな。」

何だか妙にキザっぽいというかヤバイ響きがあったが深い意味は無い。早いところこの天国と地獄の境界線にギリギリと潰されている理性を救出してやりたいだけだ。

「じれったいわね。着替えてるんでしょ?」
「そりゃ、着替えてるわよ・・・」
「じゃあ、開けるわ。」
「え!?ちょ、待────っ!」

マリスが勢いよく開いた更衣室の扉の向こう。そこにいたのは水着を着たキララだ。
それはいい。
それは当然のことだ。
けど・・・

「っ─────!?」
「あ、う・・・ど、どう────って、レイ!?」

キララが何か言う前に俺は全速力でその場を離れる。
リリアの護衛がどうだとか、腕にはぐっすり眠っているレキがいることとか、そういうのはすっかり頭から抜け落ちていた。
とりあえず、そのまま急いで売り場から離れてトイレに駆け込む。ちょっと衛生的に問題があるかもしれないが、手を洗うために用意されていた水の中に頭をつっこんで強制的に冷やした。

────数分後。

「ちょ、レイ!?どこ行ってたのよ!」
「ってか、何故に頭が濡れてるのかな、レイ君・・・?」

4人ともすでに水着は脱いでちゃんと元の服を着ている。手に持っているのは、おそらく自分達が選んだ水着だろう。すでに買ってしまったようである。

「・・・キララ。」
「な、何よ?」
「あの水着は止めよう。」
「・・・に、似合ってなかった?」
「いや、そういう問題じゃない・・・・俺のために止めてくれ。もう、あれ以外なら許すから。あれだけはどうかお願いします!もう、今度2人でじっくり選ぶとかでも、この際我慢するからあれは!あれだけは!」
「レイ様、何だか混乱されてますか?」
「似合ってたと思うわよ?」
「うんうん。それに、大胆さでもマリスには及ばないと思うけど?」
「さすがに、あたしはマリスと同じのは着れないわよ。」
「私とキララはリリアとマリスとは違うもんね・・・」
「それで、レイ様はどうして強くあの水着を否定なさるのですか?」
「その理由は割愛させてくれ・・・キララ。」

俺はキララの肩をがしりと掴んで、自分の必死の懇願を分かってもらうべく出来る限り真剣な眼差しをキララ向ける。

「本っ当にお願いします・・・どうか、あれ以外で。」
「う、うん・・・じゃあ、また明日にでも一緒に選んでくれる?」
「喜んで選ばせてください。」

キララが選んだ水着。
それはどこからどう見ても、俺の世界では一部のアキ○系の方達によってあがめられている小中学校では指定の女子用水着だった。

ちなみに、後日買ったのは、結局キララともめにもめた挙句、上下の分かれた競泳用水着っぽいの。キララの好みは俺の理性を危うくさせるということが分かった出来事だった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/05/14(月) 12:11:41

ちゃいるど35!

「レイ、見えてきたわよ。」
「どれどれ…お、本当だ。」

あたしが開いた窓から、レイがひょいと顔を出して外の様子を伺う。
あ、レイの顔が近い…こんなに近いのなんて久しぶりかなぁ…もう少し寄ってもいいわよね?

「ん。」
「海が見えるってことは、そろそろ────キララ?」
「…何よ。」
「あー…いや、なんでもない。」

さすがレイ。あたしの密かな願望を察してくれたみたいだ。折角の2人きりの時間なんだから。普段のあたしとは違うかも知れないけど、ちょっとぐらい甘えてみてもいいよねと思うわけで。だから、あたしはレイの肩に頭をコツンと乗せて窓から入ってくる涼しい風に髪を揺らした。

現在、あたし達はかねてから計画していた通りレキを両親の元へと送り届けるためにベルグランドへと向かっている。
ちなみに、移動手段は車。リリアが王族特権を発動して、出来るだけ一般の車に似せた王族用の座り心地最高の椅子とかがある高級車で店の前まで来たときは本当に驚いたわね…改めて、リリアって王女様なんだなぁと思った瞬間だったり。
まあ、そんな車に初めて乗ったあたしは緊張して口数が少なくなってしまった。恥ずかしいほどに庶民だわ、あたしって・・・同じく庶民のはずのマリスとフォルトは何故か普通に対応していたというのは納得いかないんだけど・・・でも、おかげで良いことがあった。
喋り疲れたのとふかふかの椅子の相乗効果で、マリス、フォルト、そして話し相手になっていたリリアもすっかり寝入ってしまったのだ。レキもリリアの腕の中で快適に眠っている。

つまり、今この車の中で起きているのはレイとあたしだけ。これを逃す手はない。
というのが状況説明といったところ。

「何だか、嘘みたいよね…」
「は?」
「ほんの半年前まで、うちは大赤字で毎日がぎりぎりの生活だったのに、今じゃこんな高級車に乗って王族と一緒によその赤ん坊の親探し。しかもお店は長期休業。とてもじゃないけど、レイが来る前までは考えられないわ。」
「そうだな。俺も、キララに会うまでは考えられないようなことばっかりだ。」
「けど────」
「嫌だなんて思わない、だろ?」
「うん。」

あたしの言いたいことを先に言われて、けれどそれが嫌じゃなくて、むしろあたしとレイの心が一つになってる気がして心地よい。
肩に乗せていた頭の角度を変えて、もっとレイとの距離を縮める。苦笑しながらも、あたしがくっつきやすいようにレイは体の向きを変えてくれるのが、とても嬉しい。
ほとんどレイに全身を預けるような体勢で、あたしはそっとレイの服のすそを掴む。

「レイ…」
「ん?」
「レキ、ちゃんと両親のとこに帰してあげようね。」
「ああ、そうだな。」
「そしたら、また一緒に暮らそうね。」
「もちろん。いい加減、陛下達を義父上と呼ぶのが普通になってきたからな。この辺りで切っておかないと。」
「じゃあ、今度はお母さんのことをお義母さんと呼んでみたら?」
「いや、何だか猛烈に嫌な予感がするから勘弁してくれ。」
「お母さん、喜ぶわよ?」
「ああ、そうだな。喜びの余り、お店にキララと俺の披露宴の広告を張り出しそうだ。」
「まさか。」

さすがにお母さんでもそこまでは────しないだろうか?
いや、何だかしそうな気がするわね…むしろ、しないほうが変かも。うん。する。きっとお母さんならする。

「…するわね。むしろ結婚式。」
「式場と日時まで決まってそうだよな。」
「式場と言えば、もしもレイがリリアと結婚したらお城で式よね。」
「まあ、そうだろうな。」
「じゃあ、あたしと結婚したら対抗してお店でしないと。」
「何に対抗してんだか…」
「目下、最大の敵であり最高の親友である王女様に対抗してるのよ。」
「マリス達なら、普通にどこかの式場かな?」
「フォルトに関しては何だかよく分からない風習があるらしいわよ?先祖代々伝わる儀式だとかいうのが。」
「…ラインクル家って、何?」
「さあ?詳しいことは聞いてないわ。フォルトも知らないみたいだし。」

それにしても、レイとの結婚か…遠いようで、実は意外と遠くない未来のことなのよね。あたしはもう16歳だから、結婚するのに法の制限はない。まして、相手がレイだというのなら、永遠の幸せを手に入れることが出来ると確信している。

レイと結婚して
そのうち本当の子供が出来て
あたしが家でお母さんと一緒に子供を世話して
レイがマリスやフォルトと頑張ってお店で動き回って
時々、ひょっこりリリアがお忍びであたしを気遣いに来てくれて

うん。とてもいい未来よね。やっぱり、子供は2人ぐらい欲しいかな…上が女の子で、下が男の子。いつか成長した娘にあたしが料理とか教えて、レイは息子の方と一緒に外で遊んだりなんかして─────やばい、頬がゆるむ。だらしない顔になる。
落ち着け、落ち着くんだあたし。ちょっと暴走しすぎた。
確かに可能性としては低くない未来だけど、さすがに早すぎるわよ。そもそも、子供が2人って…それは、少なくともレイとそういうことをしないと────って、あたし、今何を考えて!?
ひょ、ひょっとして欲求不満だったりするのか、あたし?

「うう、レイ…こんなあたしでごめん…」
「は?」
「いいの…うん、これからは自重するわ…」
「訳分からん。」
「分からないでいて。」

駄目だ、頬だけじゃなくて顔全体が熱い。
レイとの2人きりの時間が切れるのは残念だけど、ちょっとあたしも眠っちゃおう…

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/05/17(木) 16:14:08

ちゃいるど36!

「ん・・・っ・・・?」

あら・・・?何だか景色が揺れているような・・・ああ、そう言えば、私は現在レイ様達とベルグランドへと向かっていたのでしたね。どうやら、ついうとうとしてしまったようです。
レイ様は────あ。

「すぅ・・・くぅ・・・」
「はぁ・・・眠ったのか・・・ちょっと、この中で一人ってのは寂しいものがあるぞ。」

な、何があったのかは分かりませんが・・・レイ様は眠っておられるキララ様を抱きしめておられます・・・な、なんて羨ましい!

「まさか、目的地までこれで────ん?リリア?」
「っ!」
「起きたのか・・・いや、起こしちゃったのか?ごめんな。」
「い、いえ・・・そんなことは。偶然起きただけですから・・・」
「そう?なら良かった・・・レキは、まだ寝てるみたいだな。」
「あ、はい。」

私は自分の腕の中でぐっすりと眠っているレキ君を起こさないよう、そっと体を起こします。その後、静かに腰を上げて、ちょっぴり狭いですが我慢して、レイ様を挟んでキララさんと反対の位置に座ります。

「・・・そりゃあ、3人座れるんだけどさ・・・」
「狭いですか?」
「いや、二人とも細いから問題ないよ。」

今までは、向かい合う座席の一方にレイ様とキララさん、もう一方に私とマリスさん、フォルトさんが座っていたのですが・・・
はい。キララさんに対抗したくなったんです。ええ、嫉妬です。誰にも文句は言わせません。

「レイ様、一つお伺いしようと思っていたことがあるのですが。」
「ん?」
「レキ君を家に帰してしまった後は、やはりヴェロンティエに戻られるのですよね?」
「えっと・・・まあ、一応そのつもりだけど。」
「あ、お気になさらないでください。それに関しては、寂しくないわけではないですけれど、やはりあの場所こそがレイ様の今の場所だとも思いますので。それより、これからが本題なのですけど・・・」
「何か問題でもあったのか?」
「はい。お父様達についてなのですが・・・実は、最近何やらお城でよく衛兵の方々を動かしているのに気づきまして。」
「俺は気づかなかったけど・・・」

やはり、ですか・・・ということは、私の予想は当たっているのでしょうね。

「おそらくですけど、レイ様には内緒であることをしているのではないかと・・・」
「あること?」
「衛兵の方に何をしているのかを聞いても教えていただけなかったので、仕方なく自分でこっそりと調べてみたのですが・・・どうも、王族の部屋の一つを改築しているようなのです。」
「・・・聞かなかったことにしていいか?」
「問題が先送りになるだけですよ。」
「だよな・・・もう、確認作業だけど・・・俺の部屋?」
「と、言うよりは私とレイ様の部屋のようです・・・何だか随分と大きな寝台を購入した記録がありましたので。」
「リリアの部屋、どうなるんだろうな・・・?」
「現在の私の部屋なのですが、元々はお父様の部屋だったので・・・それから察するに、子供の部屋へと変わるのではと・・・気が早いですけれど。」

レイ様を見ると、苦笑しながらもどこか楽しそうな表情です。これは、大変だとは思っておられても嫌だとは感じていられない時の態度ですね。つまり、レイ様自身も私との結婚にやぶさかではないようで・・・少し安心しました。

「俺さ、お城で暮らして思うことがあるんだよ。」
「どんなことですか?」
「以前なら、自分が国王に────人の上に立つなんて無理な話だ。って思ってたけど、そうでもないかもしれないって。」
「そうですよ。レイ様なら、きっと国も民も支えていけるはずです。」
「いや、そうじゃないんだ。俺が俺だけで人の上に立つなんて無理だって思うのは変わらないよ・・・けど、俺だけじゃないから。」

レイ様は微笑みながら私の顔を見られて─────うぅ、レイ様。その顔は反則です。そのような顔をされては私は何も話せなくなってしまいます。キララさん、マリスさん、フォルトさん、申し訳ありません。この顔はちょっと誰にも見せたくありませんので、独り占めさせていただきます。


「きっと、リリアがいてくれれば俺は陛下に負けないような王になれるって・・・ね。ちょっと格好つけすぎかな。」


あう・・・もう・・・もう限界です・・・レイ様がそのような嬉しいことを仰ってくださるなんて・・・
と言うか、レイ様・・・今のは聞き方によっては結婚の告白のようにも聞こえます・・・レイ様、実は私の心臓を破裂させようとしておられませんか?私、胸が張り裂けそうなぐらいに自分の心臓が音を立てているのが分かるのですが・・・こ、これで死んだら、究極の完全犯罪のような気がします。

「というわけで、リリア・・・その時はよろしくな。」
「は、はい・・・こちらこそ・・・」

いい加減、意識を手放してもよろしいですよね・・・ちょっと、これ以上は無理です・・・すいません、レイ様・・・キララさんにすでに半身を貸しておられますが、もう半身を私に譲ってください。
薄れていく意識の中で感じたのは、レイ様の肩に私の頭がぽすんと乗ってしまった感触でした。

雨やかん [yDdGd-MrhaN-xmsvC-KHbmz] 2007/05/19(土) 12:35:36

ちゃいるど37!

「で、レイは動けなくなったと。」
「いつから起きてたんだよ。」
「リリアがレイの隣に移動した辺りからかしらね。」

上機嫌で俺の手をとり、微笑みながら並んで歩くのは他ならぬマリスだ。
先ほど、長い長い旅路の果てにようやく目的地に着いた俺達は早速近くの宿にチェックイン。女性4人の誘惑を退けて男女別にしましたよ。ええ、理性を保つ自信がありませんから。それにもう一つ理由も────
まあ、それはともかく。
その後、宿に荷物を置いた俺達はレキの両親の元には明日向かうことにして、今日はゆっくりと休むことにしたのだが…ちょっと外の空気を吸おうと思って宿の外に出たところをマリスに捕まったわけだ。
ちなみに、開口一番『リリアにあれだけ甘い言葉を言っておいて、私には何もないなんて言わないわよね?』と言われれば、もはや俺に抵抗するすべはない。
おまけにその後キララとのやり取りまである程度白状させられたわけで…マリス、絶対に料理人より警察にでもなったほうがいいよ。誘導尋問が上手すぎる…

「で、この手をつなぐ理由は?」
「あら?腕を組んだほうが良かったかしら?」
「いや、そうじゃ───って、早いな組むの!」

俺が否定するより先に、マリスは自分の右腕をするりと俺の左腕へと絡ませる。それにしても、本当にマリスってこういう何気ない仕草が大人っぽいよな…うぅ、俺の節操無しめ。ドキドキしてる場合かよ。

「組みたいなら、そう言ってくれれば良かったのに。」
「言う前にこれかよ…もう好きにしてくれ。」
「じゃあ、このまま籍を入れに行ってもいいかしら?」
「好きにしすぎだろ!どんだけ横暴なんだよ!?」
「冗談よ。そんなに怒鳴らなくてもいいじゃない。」
「はぁ。マリスといると、大抵は俺がからかわれてるよな。」
「経験が違うのよ。一応、付き合った人の数ならレイよりも多いんだから。」
「俺の前に何人?」
「…2人。」
「大して変わらないし。」
「でも、常に主導権は私が取ってたわよ。」
「そうでしょうとも。正直、その男連中がマリスとどんな付き合いしてたのか想像つくしな。」

きっと、告白したのは向こうから。別れを切り出したのはマリスから。
デートの度にマリスにからかわれ、いいように使われていたんだろうね…あ、何だかちょっとだけ親近感が沸いてきたな。是非とも一度お会いしたい。

「実は、付き合ってたの女の子なの。」
「ぶっ!?」

マジで!?それはあれか!『お姉さまって呼ばせてください!』『ふふふ、可愛い子ね。』みたいな展開ですか!?いや、そういう世界を否定したりはしないけど、こうも身近にそんな人がおられると、ちょっとびっくりですよ!ちょっとマリスとの付き合い方を考えるべきか!?

「嘘よ。」
「…弄ばれた…」
「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよね。」
「けど、一瞬想像とかしてみたが、予想以上に似合ってたな…」
「何度かその手の告白はされたわね。あれは、思い出しても面倒だったわ。」
「『お姉さまと呼ばせてください』とかだろ?ああいうのって、身近に男がいないのかな?それとも、ちゃんとした理由があるのかねぇ?」
「理由があった子もいたわ。過去に男にひどい目に遭わされて、それから信じることが出来なくなったって子。」
「へぇ、そういうのは、きついよな…」
「レイと会っていなければ、私もひょっとしたら…そう思うと、あの子の告白を一言で切り捨てた自分が嫌になるわ。『あなたに興味ないの』って。」

あ、落ち込んだ。絡めてる腕からもどんどん力が抜けていくし、さっきまでは前を向いていた視線は地面に向かって落下中。周囲から見てれば、さっきまでは普通の恋人達だっただろうに、今では別れ話を切り出してる感じかも。
う〜ん。マリスって、変なところで責任感が強いな…まあ、あの事件のときから分かってたけどね。

「俺も、よくそういったことがあったぞ。」
「レイも?」
「ああ。友達が大事にしてるオモチャを、面白さが分からなくて乱暴に扱って壊したりとか。後、女の子が思い切って髪型を変えたのに、思わず『ちょっと変』って言っちゃったりとか。」
「それは、確かにひどいわね。」
「だろ?だから、それで相手を傷つけたって分かったときは、俺は謝るよりも先にあることをしたんだよ。」
「あることって、何をしたの?」
「自分なりに、その人がその行動にかけた思いを考えた。考えて理解しようとした。それで、自分の中で答えが出たら土下座して謝る。」
「理解できたの?」
「完全に理解することなんて出来ないよ…けど、その人の言葉、態度、行動、それらからほんの一部でもその人の大切なことへの想いを感じ取った。そして、俺が理解できた想いなんて、その人の思いのほんの一部なんだって思ったら、もう謝らずにはいられなくってな。」

苦笑しながら頬をかく俺を、マリスもまたわずかに微笑みながら横から見上げてくる。

「だから、マリスがその子を傷つけたことを申し訳ないって思ってるなら、マリスもその子に対して、今度会ったときに交わす言葉を持ってるはずだ。だって、マリスはそのときよりもずっと、その子のことを知ってるんだから。後、俺はマリスがひどい奴だなんて思ってない。だって、興味ないって言った子のことをこんなに気にかけてるんだからさ。マリスは、十分優しいよ。うん。」

よし、これならどうだ!
マリスの顔色は…うん、先ほどと比べて天と地ほどの差がある。いつものマリスみたいに晴れやかになってるし、どことなく吹っ切れたような顔してる。俺のおかげでそうなったんだとしたら、こっちとしても嬉しいね。

「…はぁ、駄目だわ。」
「へ?」
「レイ…さっき、私付き合った人が2人いるって言ったでしょ?」
「言ったけど?」
「その2人のどちらも、私をここまで励ましてはくれなかったわ。私を、こんなに支えてくれる人はいなかった…こんなの、レイが初めてよ。」
「そりゃあ良かった。マリスの支えになれてる自分が誇らしいね。」
「前から思ってたけど、今日のことで改めて確信したわよ、レイ。」
「何?」
「私の心は、レイが主導権を握ってるわ。喜びも、何もかもレイが作り出してくれる。ちょっとだけ悔しいぐらいにね。」

そう言って俺に絡めた腕の力をより強くするマリスの笑顔は、とても魅力的だった。
ああ、これだよ。この笑顔だよ。普段の大人っぽさから解放されたように、唐突に見せるこの年相応の可愛い笑顔がマリスの最大の魅力なんだよ。
この笑顔の柔らかさと、先ほどから腕にあたる柔らかさ──────ん?

「って、ちょっと…当たってますが?」
「当ててるのよ。」
「離せ。離してください。」
「嫌よ。言ったでしょ?ちょっと悔しいって。せめてもの仕返しなんだから。」
「こんな仕返しの仕方は止めてくれ。」
「ふふふふ。どう?昼間のキララにもリリアにもこんなのは出来ないわよ?」

ぐ…確かにキララ、フォルトさんは問題外で、リリアに関してもわずかに届かないかも────
いや、そんなこと考えてる場合じゃなかったりしますですよ!?ああ、もう!調子を取り戻したらこれか!さっきの笑顔はもう無いし!確かに、その笑顔も魅力的ですけどね!

女の子が魅力的過ぎる試練なんて、味わうとは思わなかった!

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/05/21(月) 12:29:23

ちゃいるど38!
「それで、あたしには?」

のんびりと宿屋の自室で休んでいた俺の元に、ひょっこりやってきたフォルトさんの放った一言がそれだった。

「・・・へ?」
「キララ達に幸せ行為をしておいて、あたしには何もなしなんて言わないよね?」
「あの、それをどこから?」
「隣の部屋でお互いの自慢話に花を咲かせている3人の恋する乙女から。」

喋ってるんですか。
入る穴すら自分で彫りたくなるようなキザ台詞を喋ってるんですか、あの人達は。

「さて、寝るか。」
「わお、誘ってる?」
「違う。」
「けど、実際のところここにいさせてよぉ。隣じゃ肩身が狭くって居場所がなくってさぁ・・・あたしが出てきても気付いて貰えないし。」
「あの3人にしては薄情だな・・・可哀想に。」
「慰めてくれる?主にレイ君の腕の中で。」
「さて、寝るか。」
「わお、誘ってる?」
「違う。ってか、それは二度目だ。」
「繰り返しこそが平凡な日常の証だっていうよね。」
「そんな平凡はいらん。」
「ここで逃すと手に入らないよ?平凡はレイ君から一番遠い言葉だし。」

言い返せないのが辛かったり。
そうだね・・・俺の平凡ってどこに行ったんだろうな・・・多分、異世界に飛ばされた時に元の世界に置いて―――――いや、あの両親がいる時点で平凡ってあるのか?つまり、それが示すことは――――駄目だ、考えちゃいけない。考えたら俺の中で大切な何かが失われる気がする。

「いつか・・・やがていつかは・・・」
「レイ君?」
「あ、うん。悪い・・・ちょっと人生の意義について考えてた。」
「また難しいこと考えてるね・・・」
「いや、もう答えは見えてるのかもな・・・それで、どうする?」
「ん?」
「ここで寝るなら寝台は譲るが?」
「わお、誘ってる?」
「違う。それに3度目だぞ。」
「だって、レイ君とじゃ話す内容がこれ以外思いつかないんだもん。」

フォルトさんの中で、俺はどんな話し相手に位置しているんだろう・・・今度、じっくりことこと煮込んだシチューのように話し合うべきかもしれん。

「そういえば、あたしとレイ君が二人っきりで話すのって少ないよね。ひょっとして避けられてる?」
「そこは否定させてもらう。」

けど・・・確かにフォルトさんとは二人っきりで話すことってあまりないか?いや、あるんだけれど目立たないというか、印象に残りづらいというか・・・と言うより、他の3人が個性的過ぎたり?ひょっとして、フォルトさんって実は俺の周りでは最近めっきり少なくなった普通という存在?かなり貴重な女性ですか!?

「・・・俺、かなりフォルトさんに救われてるかも。」
「何、突然?」
「いや、フォルトさんこそが俺にとっての平凡なんじゃないかと思って。」
「と言うか、あの3人が常識から外れすぎじゃんじゃない?」
「そうかな?」
「そうだよ!1人は王女様で、1人は生まれながらの苦労人で、もう一人は人並み以上のものを持ってる!」
「最後の1人だけは異議ありです。」
「だって、あれは変!同じ人間なのにこの差は何なの!?」

そう言いつつ、自分の体のある一部分をびしりと指さすフォルトさん・・・やっぱコンプレックスなのか。

「ううっ・・・せめて人並みのが欲しかったよぉ。」
「はいはい。俺は気にしないから。」
「本当?」
「もちろん。」
「なら、いいや♪」

切り替え早っ!・・・と今さら思うはずもなく。
この気分の切り替えの素早さがどれだけ自分の魅力なのか、そのおかげで俺がどれだけ救われてるのか、きっとフォルトさんは気付いてないんだろうなぁ。
それが当然としてるような人だし。そして、その当然としてることが俺には――――

「一番、眩しいよなぁ・・・」
「へ?もう真っ暗だよ?」
「ああ、ごめん。思ってることが口から出ただけ。」
「ふ〜ん・・・そういや、レイ君って今さらだけどリリアと一緒に寝起きしてるんだよね?」
「そうだけど?」
「同じ部屋で?」
「ああ。」
「・・・なんだかんだ言って、レイ君が一番普通じゃないよね。」
「何故に?」
「いや、普通はあんな可愛い子と同室なら何か手出すでしょ。あたしでも、部屋に入れられる時はみんな下心満載だったし。」
「そんなもんか――――・・・ちょっと待て。」

何か、聞き捨てならない言葉が俺の鼓膜をポンポンと直撃しましたが?

「今、何て言った?」
「へ?普通は可愛いこと同室なら―――」
「その後。」
「あたしでも、部屋に入れられる時はみんな下心満載だったって言ったけど?」
「・・・ごめん。女の子に聞いちゃいけないかもしれないけど、質問が。」
「ん?どぞ?」
「今までに、付き合った人って何人?」
「えっと・・・6人かな。」

嘘ぉ・・・元彼の数なら俺どころかマリスよりはるかに上じゃん・・・

「でも、最後までいったのは2人かな?」
「最後って・・・そういうこと?」
「まあ、今までの会話から察せるよね?」
「・・・大人だね。」
「レイ君も同じでしょ。」

うっ・・・まあ、確かに沙羅と酔った勢いで―――!みたいなことがあったけどさ・・・

「けどさ。あたしが自分からそうしたいって思ったことはないかな。レイ君を除いて。」
「え?」
「今までのどの相手もさ、向こうが望むから良いかなって感じで・・・それはどんな行動にしても、相手を見てたの。けどね・・・今は違うよ。」
「今って・・・俺?」
「うん。今は、あたし自身の意思でレイ君と色んなことがしたいって思ってる。それが恋人がするようなことだったり、夫婦でするようなことだったり、長年連れ添ったお祖父ちゃんお婆ちゃん達がするようなことだったり・・・本当に色んなことをレイ君と一緒にしたいって思ってる。」

そう言って、フォルトさんはまさに眩しいと表現するのが一番の笑顔を俺に見せる。


「だから、その内ちゃ〜んとレイ君の方から下心満載で部屋に誘わせてみせるからね?」


それはフォルトさんなりの告白なんだろう。そして、それはあまりにも彼女らしくて―――

「ぷっ・・・くっくっく・・・あはははははははっ!」
「え、何?何で笑うの?」
「い、いや・・・あ、あんまりフォルトさんらしくって・・・・くっくっく・・・」

ああ。俺は馬鹿だ。どうしてフォルトさんが普通だと。平凡だなどど思ったりしたんだろう。
こんなにも魅力的で
こんなにも情熱的な女の子が
フォルトさん以外にどこにいるというんだ。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/05/24(木) 10:12:06

ちゃいるど39!

「ここは、人の住む家なんでしょうか・・・」
「家、間違ってるとかない?」
「一応だけど、表札には確かにガルバードって書いてあるわ。」
「でも、これって・・・ねえ?」

4人の言いたいことは分かる。
俺達の目の前にある家は一言で言うなら『ひどい』。屋根はあちこちが崩れ落ち、それなりに広い庭は荒れ放題。陶器、ごみくずが散乱し、壁も窓もあちこちひび割れている。

「もう出て行ったとか?」
「いや、見ろよ。これ。」

俺が拾い上げたのは、木製の皿の破片だった。

「これが何?」
「切り口が本来の色で綺麗だ。割れてまだ日が経ってないってことだろ?ってことは、これが割れる事態があってからそんなに日は経ってない。」
「つまり、まだ中に人がおられる可能性は高いと?」
「ああ。」

俺は壁と同じようにぼろぼろな壁の前に立つと、軽くノックする。

「すいませ〜ん。お届け物です。」
「お届け物って!」
「間違いではないかもしれませんが・・・」
「気にするな。」

そうこうしてる間に、扉の向こうからパタパタと人が歩いてくる音がする。そして扉がゆっくりとわずかに開いた。

「はい・・・どちら様で――――」
「かーか!」
「っ!?」

レキ、いやイケリルの声に反応して閉じられそうになった扉を俺は両手で押さえる。

「は、離して下さい!」
「すいませんが出来ません。」
「お願い!離して!離して!そして帰って下さい!」
「それも却下です。」
「嫌!嫌ぁっ!お願い!その子だけっ・・・その子だけでもっ!」
「はぁ・・・すいません。ちょっと力込めます。」
「え―――きゃぁっ!?」

ぐいと引っ張れば、あっさりと女性はこちら側に引っ張られて出てきた。
その顔は憔悴しきった様子で、髪の毛はぼさぼさ。おそらくもう何日もまともに手入れ出来ていないんだろう。服もよれよれで、それだけでこの人がどんな状況にあるのかが分かる。

「初めまして。レイ・キルトハーツです。」
「キララ・ランクフォードです。」
「リリィ・ヴィクリヴィアと申します。」
「自己紹介してる場合なのかしら・・・マリス・インベルグです。」
「フォルト・ラインクル!・・・って、こんな話しにきたわけじゃないよね?」
「まあな。そういうわけなので・・・少し、中に入れて貰えませんか?こんな所で話すことでもないと思いますんで。」

返事もせず、ただのろのろと立ち上がってゆっくりと家の中へと戻る女性。鍵を閉じたりしないことから、それを肯定と取って俺達はゆっくりと中に入れさせて貰った。
家の中にも、家具という家具はほとんどない。必要最低限という言葉をまさに表すかのようだ。これから家具を運び込むと言われても何の疑いも持たないだろう。
やがて、その一番奥の部屋へと俺達は招かれた。

「・・・あなた・・・」
「さっきの客は――――」
「とーと!」
「っ・・・イ、イケリル!?」
「初めまして。ヴェロンティエの料理人、レイ・キルトハーツです。」
「・・・そうか・・・そうだよな・・・いくら何でも、見ず知らずの子供を引き取るだなんて、そんな馬鹿なことするはずがないよな・・・」
「あなた!」
「いいんだ・・もう、いいんだよ・・・君たちもすまなかったね・・・」
「嫌よ!あなた、決めたじゃない!イケリルだけは・・・あの子だけはって!そうでしょう!?」
「諦めるしかないだろう・・・もう、どうしようもないじゃないか・・・」
「そんなのっ・・・そんなのってないわ!私達が何をしたっていうの!?この子が何をしたっていうのよ!?どうしてっ・・・どうしてこんな――――!」
「まあ、イケリルは何もしてませんけど・・・あなた達が何もしてないというのはどうかと。」

俺の言葉に、ヒステリック気味な母親の方が振り返る。それは、やり場のない怒りを俺にぶつけるかのような視線だった。そして、俺はそれを真っ正面から受け止める。

「あなたにっ・・・あなたなんかに何が分かるっていうの!?あなた達が何を分かっているというの!?無責任にそんなことを言うのは止めて!」
「あなた達が何したのかなんて分かりません。何が原因でこうなったのかなんて分かりません。けど、あなた達が何もしていないと、本当にそう思ってるんですか?」
「何ですって・・・!」

ああ、そうだ。何もしていないなんて言わせない。言わせてはいけない。だって、この2人は――――


「あなた達が、イケリルにしたことは?」
「「っ――――!」」


俺はリリアから受け取ったイケリルを、すいと2人に差し出した。それだけで、あれほどに錯乱していた女性はその勢いを失い、気力が枯れかけていた男性の目に一筋の光が宿る。

「あなた達はイケリルを一度捨てたんだ。そうでしょう?仕方のない事情はあったのかもしれない。そうすることがイケリルのためだと錯覚するほどまでに追いつめられたのかもしれない。けど、それが間違いだったことは・・・分かっているんでしょう?」

もしも2人がイケリルを捨てたことを良しとしているなら、俺はここにイケリルを帰すべきじゃない。それじゃあ、結局いつかは同じことを繰り返すだろうし。けど、そんなはずはない。この親子に限って、そんなはずはない。

「あなた達は、姿も見ないのに声だけでイケリルだと分かったじゃないか・・・それが、親子じゃなくて何だって言うんですか?離れようと、捨てようと、あなた達は親子なんだ。あの一瞬のやり取りが、何よりの証なんですよ。」

どれだけの愛を注がれていたのか、イケリルが知っているはずだ。
まだこんなにも幼い命が、何日もの間引き離されていた両親のことを覚えていた。代わりとなる存在を見つけたのにも関わらず『とーと』『かーか』と呼んだのだ。

「抱いてあげて下さい・・・そして言ってやって下さい。あなた達はまだ、一番言わなければならないことを言ってない。家族が戻ってきたのに、一番言うべき事を言ってないでしょう?」

俺の言葉に押されるように、イケリルはその小さな手を賢明に2人の親へと伸ばす。
そして、それに誘われるように2組の手がその手を、体を、そっと受け止める。俺が手を離しても、もうイケリルが落ちることはない。

「おかえり・・・イケリル・・・」
「おかえりなさい・・・」
「だぁ!」

それは、誰が見ても一目で分かる『家族』の姿だった。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/05/28(月) 13:27:29

ちゃいるど40!

まだ目元に残っている感動の余韻を指先でそっとぬぐい去り、私はようやく顔を上げました。レイ様は苦笑しながら私とキララ様の頭を交互にぽんぽんと叩いて下さいます。それは嬉しいのですけれど、残念ながらいつまでもこのままとはいきません。
やらなければならないことは、まだ沢山残っているのですから。

「まとめると、詐欺にあったということですか?」
「ああ。会社の同僚が―――いや、あいつのせいにも出来ないんだ。あいつも被害者なんだから。そいつを助けるために、私はある契約をした。そして、それが全ての始まりだったんだ・・・」
「具体的にはどんな契約なんです?」
「家の改装を、相場の半額で行ってくれるというものだったんだが・・・」
「相場の半額って・・・何て言うか、あまりに怪しいですね・・・」
「契約書にはちゃんと目を通されましたか?」
「もちろんだ!何度も、何度も目を通した!けど・・・けど、どうしてっ・・・!」

悔しそうな表情のガルバード様を見て、レイ様は何やら思い当たることがあるのか眉を少しだけ動かして口を開かれます。

「次に見た時、契約書の内容が違っていた。そうですね?」
「ああ・・・その通りだ。工事費として、月に40万を払うように書かれていたんだ・・・」
「40万!?」
「改装箇所は?」
「・・・工事はしていない・・・」
「完全な詐欺でしょ、それ!?」
「新しい契約書には、ちゃんとその40万を払い続けなければいけないと書かれていたんだ・・・それが払われなければ、工事は行えないと・・・」
「け、けどそれなら・・・契約破棄が出来るのではありませんか?双方ともに、未だ何らかの利害が出たわけではありませんし・・・」
「それにも、ちゃんと手を打ってあったんですよね?」

レイ様はそれすらも予想していたようで、答え合わせでもするかのようにガルバード様に先を促します。

「契約において、ある会に入ることになっている・・・ガスバーという組織なんだが、それから退会しなければ契約破棄が出来ないとも・・・くそぉっ・・・」
「私も2つの契約書を見ました・・そして、それが明らかに違った内容であることも・・・」
「退会には、それまでに払うべき月費を払わねばならないと・・・」
「月費?」
「さっき言った40万のことです・・・最初の月は金策に走り回ってどうにか乗り切ったんです・・・けど、払えなくなった途端に奴らは家中のものを担保として・・・」
「で、以降は払え払えと催促が続いてると・・・そして、レキの世話をすることが出来なくなったんですね?」
「・・・妻は、もう満足に授乳も出来ないんだ・・・ろくに、食べていないからね・・・」
「私はいいんです・・・けど、イケリルに与えるものがないなんて・・・それじゃあ、あんまりじゃないですか・・・っ!」
「このままでゃ、私達もあいつのように・・・だからそうなる前にと、イケリルを君たちの元に連れて行ったんだ・・・」
「あいつ?」
「最初に、私達にこの話を持ちかけた同僚だよ・・・もう、連絡はとれなくなって長いがね。」

連絡がとれなくなった?それは、あちらの方は逃げてしまわれたということでしょうか?では、ガルバード様達はどうしてそうされなかったのでしょう・・・?
ですから、私はその疑問をそのまま口に出すことにしました。

「ガルバード様は、お逃げになられなかったのですか?」
「リリィ。きっと、その人は逃げたわけじゃないよ。逃げたのなら、逆にそっちも逃げろぐらいの手紙とかが来そうなものだしな。」
「では、何故?」
「・・・まだ、リリィは知るべきじゃないってことから、義父上達も話されてないんだろうけど・・・これが、この国の闇の一つってことだよ。」

闇の、一つ・・・?

「レイ様?それはどういうことで――――」
「苦しさに耐えられなくて、それが生きている限り続くと考えた人間がすることは・・・‘生きることからの逃避’ってことさ。」
「生きることからの逃避・・・っ!?ま、まさか!?」
「・・・言葉には出しちゃ駄目だぞ。それは、最後の理想を砕くことだ・・・」

レイ様に言われ、出かけた言葉を飲み込みます。
しかし・・・それは、そういうことなのですか・・・?お父様達が治めているこの国で、そのようなことが起こっているというのですか!?そんな・・・そんなこと!

「リリィ、落ち着いて。」
「ですが!こんな・・・こんなことって!」
「ああ、そうだ。こんなことが許されていいはずがない。こんなことがあることが当然じゃ駄目なんだ。だから、俺達は・・・リリィ、君はここにいるんだろう?」

――――っ!
そう、です・・・私は、自ら望んだのではありませんか・・・この国の人達の暮らしを、自らの目で、手で、足で確かめようと。王族としてでなく、1人の人間として同じ目線で知らなければならないと。
ならば、私は・・・ここでくじけては駄目なのですね・・・私は、知って、そしてそれを解決するための手段を自ら導かねばならないのですから。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/06/14(木) 16:23:57

ちゃいるど41!

「レイ、様・・・」
「落ち着いたか?」
「はい・・・大丈夫です。」
「よし。とりあえず、話は一段落したみたいだし・・・」
「これからどうするか、だね。」
「フォルトは何か考えついた?」
「残念ながら、具体的な考えは何も・・・キララは?」
「一介の料理人に聞かれてもね・・・こういうのって、やっぱり法学系統でしょ?そういった点ではリリィの方が適任じゃない?」
「そうなのですが・・・」

こういった問題は、あたしよりリリアの方が適任だと思う。仮にも王女なんだし、あたしなんかよりこの問題に取り組みやすいはずだ。

「この場合、問題となるのは一つです。」
「問題って?」
「契約書です。これがある限り、相手は法的手続きを踏まえた上でこのような金銭の要求を行っていると証言できますから・・・その契約書に書かれていた署名は、本当にガルバード様が書かれた署名でしたか?」
「私は、別段変わった書き方をするわけではないが・・・けれど、あの筆跡は自分のものだと認めざるを得ないんだ・・・あんなものに署名なんてしてないのに・・・」
「署名を模写する技術を持つ方でもいたのかもしれません・・・けど、それをガルバード様が書いたものでないとハッキリ証明出来ない限り、契約書を無効にすることは・・・残念ながら。」
「だー!どうすりゃいいのよぉ!レイ君、何かいい考えないの!?」
「ちょっとフォルト。レイだって考えてる最中なんだから。」

そうよね。自分の力が役に立たないのは歯がゆいけど、レイなら?
常にあたし達とは比べるまでもない天性の閃きを持つレイなら、今すぐにとまではいかなくても何かしら時間稼ぎの方法ぐらいは見つけられるんじゃ――――・・・?

「・・・次に、そのガスバーって連中が月費を取り立てに来るのは?」
「あ――・・・2週間ぐらいじゃないかと思う・・・」
「2週間か・・・時間は問題ないか。」

――――え?レイ、今なんと言った?時間は問題ない?それは、まるで解決策でも見つけているかのような口ぶりだけど・・・ひょっとして、レイ?

「あの・・・レイ様?」
「ん?」
「まさかとは思いますが、もうすでに解決出来るなど思っておられるわけでは・・・?」
「ははははっ。それは俺を買いかぶりすぎだって。」
「で、ですよね?」
「そうだよね、さすがのレイ君もそんな簡単にねえ。」
「あたし達がまだ話の理解も出来てるかどうかも分からないのに、もう解決済みなんてあるわけないわよね?」
「そうね・・・ねえ、レイ。一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「何だ、マリス?」
「正直なところ・・・今、何を考えてるの?」
「思いついた‘結果’に辿り着くために何をすれば‘どのやり方が最も良いのか’を考えてる。」

‘結果’
‘どのやり方が最も良いのか’
――――――って、ことは・・・?

「既に解決する気十分なわけ!?」
「しかも解決策を複数持っておられますか!?」
「あたし達が必死に考えてた時間すら無駄!?」
「私、時々レイがいればこの世界の文明水準が50年ほど進むと思うのだけど。」
「100年ぐらいは進める自信あるぞ。」
「自慢した!」

駄目だ・・・レイがいればあたし達なんている意味がない・・・
昔の偉い人が、複数集まれば素晴らしい知恵が出ると言っていたけど・・・レイは1人でその上を行く。足手まといなんて思わないけど、レイと一緒に取り組むなんてことは出来そうにないなぁ・・・

「一応聞くけど・・・あたし達の協力とかいる?」

答えは分かっている。『大丈夫』だとか『俺1人で出来るよ』だとか言うのよね、どうせ。そりゃあ、あたし達が出来ることなんてレイが出来ることに比べれば些細なものだから仕方ないけど―――――

「あ〜・・・っと・・・」

――――あれ?

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/06/15(金) 10:56:44

ちゃいるど42!
「レイ?」
「いや・・・俺1人でも、大丈夫なんだけど・・・いや、でもなぁ・・・けど。やっぱ・・・嫌だしなぁ・・・」

何やら1人でぶつぶつ呟いているレイ。その顔を見た瞬間、あたし達はレイが何を考えているのか分かってしまった。
レイが‘どれだけ馬鹿なことを悩んでいるか’を分かってしまった。

「・・・すいません、ガルバードさん。」
「は、はい?」
「しばらく隣の部屋にいてもらえますか?」
「少しばかり人様に見せられないようなことをしますので。」
「は、はぁ・・・」
「んぁう?」

レイがぽかんとしているのを脇目に、ガルバードさん達が隣の部屋に消えていくのを確認してからあたし達は行動を起こす。

「リリア、マリス。両脇を押さえなさい。」
「了解。」
「失礼します!」
「へ!?いや、ちょっと待――――」
「フォルト、足の方よろしく。」
「任せてっ!」
「いや、フォルトさん!?ってか、おい!2人とも、当たってますが!?」

当然だ。あえてその2人を腕に配置したんだから。そして、残されたあたしはと言うと―――

「でりゃっ!」
「うおわぁっ!?」

フォルトを跳び越えるようにして、レイに飛びついて‘押し倒す’。さしものレイも突然ということもあって、あっさりと床にマリス達と一緒に寝ころぶことになった。

「っ〜・・な、何するんだよ!?」
「レイが馬鹿なこと考えてるからよ。」
「はぁ?」
「レイ・・・今、何かの解決策を考えた時、あたし達を巻き込まないようにしようって思ったでしょ?」
「む・・・」
「私達が協力した方がより簡単に成功すると分かっていながら、それを止めようとしましたよね?」
「う・・・」
「理由としては、私達に辛い思いをさせなくないから。ってところかしら?」
「ぐ・・・」
「だから、あたし達に手伝ってほしいと言わないほうがいいと思ったよね?」
「ぬ・・・」
「違う?」
「せ、正解・・・ってか、すごいね4人とも・・・」
「この場合はレイが馬鹿なのよ。」
「馬鹿って・・・」
「馬鹿よ。」

ええ、そうよ。そんなことを考えるなんて馬鹿以外の何ものでもないじゃない。
レイがあたし達から離れていったあの時。あたしは何も出来なかった。リリアも、マリスも、フォルトも何もレイにしてやれなかった。だから、レイは孤独な行動をして、結果としてあたし達と離ればなれになった。
あの時から、あたし達とレイとの関係が何も変わってないなんて言わせない。
今のあたし達が、今のレイに何もしてやれないなんて思っちゃいけなかった。
今のあたし達は、レイのために、何かが出来る。

「レイ・・・レイの気持ちは嬉しいわよ。けどね・・・」
「私達が、レイ様の力になれないことは・・・何よりも辛いことなのです。」

あたしは、今の自分の素直な気持ちを口にすることにした。

「あたし達はみんな、レイと一緒に歩いていこうって思ってる・・・けどね、それはレイの後ろで護られながらじゃない。レイの隣で、肩を並べて歩いていきたいの。」

レイはしばらくぽかんとしながらあたし達の話を聞いていたが、やがて静かに苦笑して上半身を起こした。必然的に、アタシはレイの腰までずりおち、リリアとマリスも一緒に起きあがることになる。

「・・・何か、以前もこんなのあったな。」
「確かキララとリリアが気絶したときだったかしらね。」
「あれは忘れさせてくれると嬉しいです・・・」
「思い出すだけで震えが来るんだから。」
「それで、レイ君。何か言うことあるんじゃない?」

フォルトの言葉にレイはほんの少しだけ笑い、やがて諦めたような―――けどどこか吹っ切れたような――――表情で一番近くにいたあたしの目を見つめてくれた。

「みんなの力を貸して欲しい。いいかな?」
「最初からそう言えばいいのよ。」
「レイ様が望むのならば、私は自らの全てを捧げましょう。」
「断る理由がないもの。」
「レイ君を助けるっていうのは、珍しいだけに嬉しいことだよね。」

あたし達の言葉に、レイはもう一度だけ笑ってくれた。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/06/18(月) 13:15:39

ちゃいるど43!

「まあ、ぶっちゃけて言えば『海の家』をやろうかと思ってるんだよ。」
「・・・ねえ、レイ。」
「何だ?」
「あたしの目の前にあるのが、それをするための小屋である気がするのは・・・目の錯覚かしら?」
「いや、正常な視覚の証拠だな。」
「いつの間にこんなもん用意してたわけ!?」

おかしい。あらゆる点でおかしい。
ガルバードさんの家を出て、レイに言われるままに付いてきてみれば砂浜にたたずむ
それなりにしっかりしてる建物。
しかも、既にレイによって借りられているらしい。
いつの間にそんなことをしたの?まるで、初めから―――それこそ、あたし達がガルバードさんの家に行く前から―――自分達が何をするかを予想していたような準備の良さ。
どうして、この‘ナーエコ’という国内有数の海水浴場に、いつの間にかうちの店の臨時支店があるのよ・・・?

「・・・レイ。あんた、預言者?」
「さすがにそれは無い。」
「じゃあ、どうして―――いや、ごめん。やっぱり良いわ・・・何だか、聞いちゃいけない気がする・・・」
「奇遇ね、キララ。私もそういう結論に到ったわ。」
「レイ様・・・段々とミリア様に似てこられましたよね。」
「そだね。あの不思議さあたりそっくり。」
「え。俺、あの人と同類・・・?」

あ、ちょっと落ち込んだ。いや、まあ確かにお母さんと同じってのはキツイかもね・・・けど否定できないわよ、レイ。今回ばかりは、さすがにおかしいから。

「まあ・・・理由は今度話すよ・・・うん。ちゃんと仕掛けはあるんだから・・・今は言えないけど。」
「そうして。それで、レイ。海の家って言ったけど・・・具体的には何をするの?」
「いつも通りだよ。料理作って、売りさばいて、金をかせぐ。」
「目標は?」
「120万ぐらい?」

120万って・・・出来るわけないでしょ・・・材料も何も無いのに、どうやったら店での4、5日分の売り上げをたたき出せるのよ。

「あ、料理の材料とかは明日には着くと思うから。」
「どれだけ手回し良いのよ・・・」
「それも、さっき言ってた仕掛けってことかしら?」
「そういうことだ。とりあえず、手伝って欲しいってのはこういうことだけど・・・どう?」
「何て言うか、まさか海まで来てお店をすることになるとはね・・・」
「海があたしを呼んでいるのにぃ〜・・・」
「だろ?だから、俺1人でも―――――」
「それは嫌!」
「・・・早い所、問題を解決してからみんなで遊びに行こうな。」
「そうね。折角レイが選んだ―――――そう言えばレイ。」
「ん?」
「脱いだ方がいいかしら。」
「は―――ぁ?」
「とりあえず脱ぐわよ?」

そう言ってマリスはぐいと来ていた上着に手を掛けてばさりと脱ぎ捨てる。もちろん、その下は水着だ。やっぱり、マリスって・・・いや、それだけが女性の価値じゃないのは分かってるけど・・・けどなぁ。

「レイ。別に顔を隠さなくてもいいわよ?水着だから。」
「へ?」
「・・・すけべ。」
「うっ・・・すいません・・・・」
「それで、レイ。本題に戻すけど、この格好で接客した方がいいわよね?」
「あ〜・・・うん・・・」

む?レイめ・・・見とれてる?マリスに見とれてるわね?むぅ・・・今からあたしも水着を着てこようかなぁ。幸いにも、水着は鞄の中だし。この建物も奥に行けば着替えるところぐらいはあるだろうし――――

「それなんだよなぁ―――リリア。今から着替えに行くのは止めような?」
「っ――。」

さり気なく鞄を持って建物の奥に入ろうとしていたリリアが固まった。どうやら読まれていたらしい・・・ってことは、あたしも読まれている可能性があるか。残念。

「いやな?キララは調理場だし、リリアも机を挟むから良いけど・・・マリスとフォルトさんはなぁ・・・」
「何か問題でもあるの?」
「レイ。はっきり言ってくれないと分からないわよ?」
「・・・海だぞ。」
「それが何?」
「ほら・・・男共がさ・・・マリス達の水着目当てに来たりとか・・・」
「集客のための水着でしょう?」
「・・・誘いに来たりとか・・・」
「へ?」
「触ろうとしたりとかしそうで・・・」
「・・・ひょっとして、レイ・・・私達が、男の人達の見せ物になるのが嫌なの?」
「・・・」

レイは何も言わないが、それは肯定なんでしょうね・・・
なるほど。道理で、レイがあれほどあたし達への協力の申し出を渋っていたわけだわ。けど、今回ばかりはそれがとっても嬉しい。やばい。多分、あたしの顔は今だらしないことになっている。

「レイ。とりあえず、ありがとう。」
「けどさ、レイ君が心配しなくっても大丈夫だよ。その手の人達なんてお店の方でも十分対処してたし。」
「いざとなれば、レイが助けてくれるでしょう?」
「当たり前だろ。」
「なら、私達は何一つとして不安に思うことはないわ。」

マリスがにっこりと笑うのを視て、レイが少しだけ頬を染めるのは―――悔しいけど、まあ良いとしよう。とりあえず、あたし達のやるべきことは決まった。

「さてと・・・それじゃ、やるわよ?ナーエコ出張ヴェロンティエ!」

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/06/25(月) 11:58:27

ちゃいるど44!

「お〜い、準備はいいか?」
「はい、こちらはいつでも構いません。」
「机と椅子も言われたとおり揃えたわ。」
「食器の方の数も十分だったよ〜。」
「食材も問題なし。レイ、いいわよ」
「よし・・・やりますかね。」

俺は、準備に丸2日かかった俺達の新しい店、ヴェロンティエ・ナーエコ支店(時期限定)から一歩外に出た。
相変わらず日差しは強く、俺の目の前では海水浴に来た人たちが日常での疲れを癒すべく思い思いのやり方でくつろいでいる。そして、その中には数日前まではなかった新しい海の家に興味を持っている人たちも何人かいるようだった。

『王都で大人気の料理店ヴェロンティエ!期間限定出張支店!』
『本店で人気の料理の他、ここでしか食べられない料理多数!』
『売り切れごめん!早い者勝ち!』

といった感じの垂れ幕をいくつか。
さて、これだけで一体どれだけの人を集めることが出来るかな?一応、秘密兵器を用意してはいるので問題ないと思うけど・・・


「おい、あの店。」
「ヴェロンティエ?どっかで聞いたことあるような気が・・・」
「あ、ほら。確か王都で一番の人気料理店じゃなかったっけ。」
「思い出した!確か、未知の美味い料理が山ほどあるっていうあの店か!」
「へえ、期間限定の支店だってよ。行ってみない?」
「おいおい、まだ昼前だぜ?それに、確かヴェロンティエって普通の飯屋だろ?こんなとこで食うようなもんが売ってあるとも──────」

そう、その声が聞きたかった!そういった反対意見を言ってくれるやつが欲しかったんだ!ナイスだねお兄さん!よし、あなたに宣伝役を決めた!

「ちょっと、聞き捨てならないな、そこの方ぁっ!」
「うおっ!?な、何だお前!」
「ヴェロンティエ所属料理人、レイ・キルトハーツとは俺のことだ!」
「・・・」

あ、何だか哀れみの視線が・・・やっぱり屋根の上から叫ぶのは馬鹿っぽかったか?ひょっとして信じてもらえてないか!?
けど、めげない!目立ったからヨシとしよう!客寄せだと思えば大丈夫!今こそ秘密兵器その1を使うときだ!

「あ、ごめん。ちょっと待っててもらえます?」
「お、おう・・・」

店の中に入って、あらかじめ作っておいた‘あるもの’を皿に入れて再び店の外に出る。律儀に待っていてくれた3人に感謝!

「さあ食え!あ、この分のお金はいらないんで。とりあえず一口。」
「・・・何だ、これ?」
「あの、どうやって食べるんですか?」
「この道具ですくって食べてくれ。名前は‘アイスクリーム’だ!」
「あいすくりいむ?」
「まあ、無料って言うなら・・・」

3人が俺に勧められるままにアイスを取り、口に運ぶ。
一瞬の緊張。そして、それを上回る驚愕がその顔から見て取れる。

「冷たっ!?」
「はあ!?この炎天下なのにどういうことだ!?」
「しかも、甘い!美味い!」
「ご感想は?」
「・・・も、文句ない・・・」
「あの、本当にただでいいんですか?」
「う〜ん、出来れば他の人にも宣伝してくれれば最高。」
「任せろ!これは本当にいける!」
「お昼も来ていいですか?」
「待ってます。」

今のやり取りだけでも、すでに結構な人が俺達に注目し始めた。
狙い通りだ。以前、ヴェロンティエに客を呼ぶために手打ちそばの実演をやったことがあったが、今回は砂浜ということで衛生上諦めた。
というわけで、今回宣伝に使ったのは客自身だ。本音を漏らしてもらったことで、とりあえず周囲の数人の視線を捕らえる。後は、俺達の腕の見せ所・・・そして何より、現在店内には─────

「レイ、お客さんが入ってきたわよ?」
「ああ。今行くよ。」
「っ!?」
「う、美しい・・・」
「すげえ好みだ・・・」
「相手してもらえるかな?」
「レイ君、早いところ注文受けてよ!」
「もう一人!?」
「しかも、これまたっ・・・」
「いや、体つきはさっきの子の方が。」
「俺はあの子のほうが良いかな・・・」
「・・・行くか。」
「・・・ああ。」
「目指せ、楽しい海!」
「俺達の女神を捕まえろ!」

このように客を引くには最高の餌とも言うべき女性が4人も揃っているわけで・・・ってか、今の女神って何だ。おい。まさか、親衛隊がここでも出来るのか。俺はこんなところまで来てもあれから逃げられないのか、ひょっとして。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/06/28(木) 12:58:25

ちゃいるど45!

「はい、焼きそば2つ!お待たせしました!」
「キララ。ユクヤリサス3つよ。」
「キキカアイスクリーム1つですね?少々お待ちくださいませ。」
「フォルト!5番机にこれ持って行って!」
「了解っ!あ、レイ君!チサ焼き2箱!」
「分かった────って、ない!?」
「申し訳ありません、レイ様!先ほどのお客様で一旦なくなってしまいました!」
「結構作ってたのにか!くっ・・・フォルトさん、少し待ってもらって!」
「3名様ですね?こちらへお通りください。レイ。」
「何だ!」
「早くも外に行列が出来ているのだけど・・・数えた方がいいかしら。」
「現実を見ると辛くなるから止めておけ!」
「それもそうね。」
「レイ君!今更だけどお昼休みとかあるのかな!?」
「あると思うか!?」
「ううっ・・・分かってたけど分かりたくなかったぁっ!」
「とりあえず、キララ達は時々交代しながら一人ずつ休んでくれ!」
「レイはどうすんのよ?」
「俺がいないと半分ぐらい出来ないだろ!」
「そりゃあそうだけど──────きゃぁっ!?」

今、何だかフォルトさんの悲鳴が聞こえた気がした。ってか、聞こえた。聞いた。聞き逃さなかった。
何だ?何があった?ってか、誰だ?誰が悲鳴を上げさせた?その命知らず、前に出てこい。

「お客さん、当店はお触り禁止です!」
「え〜、少しぐらいいいじゃん、彼女〜。」
「店、いつ終わるの?休憩の間に俺らとどっかで遊ばない?」
「あ、お友達と一緒に行こうぜ。な?」
「・・・あの、お客様。」
「ん?」
「えっとですね・・・張り紙、ご覧になりました?」
「へ?」

そう。ちゃんと入口にも店内にも張り紙してるんだぞ、俺?見てないのか?見なかったのか?それとも無視したのか、お前ら?よし、ちょっと待ってろ。このチサ焼きが終わったらすぐに向かってやるから。

「あれです。」
「『女性店員へのお誘い禁止』?何だよ、そんな硬いこと言うなよ〜。」
「そうそう。君らのほうから行きたくなったってことでいいじゃん。な?」
「すいません、お断りさせていただきます。」
「そう言わずにさ。な?」
「あの、離してください・・・でないと・・・」
「君が一緒に行くと言うまで離さない。」
「ぎゃははははは!お前、格好つけすぎ!」
「けど、最高!」
「えっと・・・でないと・・・地獄、見ますよ?」
「は?」
「へ?」

よし、チサ焼き2箱完了。

「フォルトさん。後は俺がやるから。」
「あちゃ〜・・・お客さん。」
「え、何?」
「とりあえず、どうかご無事で。」
「あ?」
「はい、そこの男連中4人。そのフォルトさんを掴んでる手を離せ。今ならまだ手加減してやる。」
「ああ、何だお前?」
「いいじゃねえかよ、一人ぐらい。」
「そうそう。4人もいるんだろ?それに働かせすぎだっての。俺達は彼女達に休息を与えてやろうかっていう優しさで言ってるんだぜ?」

とりあえず、俺はひょいと手に持っていたものを取り出す。
割と一般的な果物で、普通は包丁で切ったり道具を使ってすり潰してからいただく果物だ。食べ物なんだが・・・今回は脅しの材料だ。
‘ゴシャリ’
とりあえず、片手で握り潰してみた。

「・・・へ?」
「離さないと言うのなら、その頭から握り潰すぞ?」
「ひぃっ!?」
「な、何だてめえ!?」
「まだ離さないか、そうか・・・」

フォルトさんを掴んでいるやつとは別の男。俺はそいつの上着をがしりと掴んで椅子から強引に立たせる。と言うか、持ち上げる。

「は・・・あぁ?」
「レイ君、手加減しないと駄目だよ?」
「大丈夫。飛ばす方向にあるのは海だ。」
「へ・・・飛ばああああああああああああああ!?」
「おっらああ!!」

何か喋っていたけど、その辺りは完全無視。
気合一発。俺は力任せに、死なない程度に、けれど迷いなく、その男を店の外へと投げ飛ばした。ちなみに、投げ飛ばした方向にいた人はマリスがどけておいてくれたので感謝。あっという間に店内から消えた男を見て、仲間達は呆然としている。

「・・・離してもらえますよね?」

とどめの営業スマイル。もちろん、右手をしっかりと握り締めるのは忘れない。

「ひ、ひいいいいいいいいい!?」
「すいませんでしたああああ!」
「もうしません!ごめんなさああああああああああい!」

お〜、逃げてった、逃げてった。

「フォルトさん、大丈夫か?」
「うん。ちょっと腕を突然つかまれて驚いただけだから・・・それより、お客さん待たせてるよ?」
「おっと、そうだったな。あ、お騒がせしましたー!」

突然のアクションに食べるのも忘れて見入っていた人たちに頭を下げて、俺はすたすたと厨房に戻──────

「あれが、レイ・キルトハーツ・・・」
「女神の盾か。」
「天国の門って聞いた。」
「影の統治者じゃなかったか?」
「何にせよ、噂どおりなんだ・・・」
「ああ、自分の女に手を出すやつには容赦しないって。」
「しかも、その女は4人。」
「4股が許される男。」
「さすが、優柔不断王。」
「全世界の男を敵に回した男。」
「まさに好色男爵」

何だか好き勝手言われた!俺のたいそうな二つ名は、どうやらこんなところまで届いているようで・・・いかん、泣けてきた。
ってか、最後の誰だ。この世界にも爵位があるのか。俺は決してそんな男じゃない、と、思う・・・多分。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/07/03(火) 16:25:28

ちゃいるど46!

「レイ様、総計13万5250ゼネーです。」
「ありがとう、リリア。」
「で?このお金でどうするの、レイ君?」
「まだ使うわけじゃないんだよ。そう、まだね。」

本日一日で稼いだお金を指で叩きながら、レイは自信に満ちあふれた顔で笑う。それはとても頼りになる顔で、きっと大丈夫だと思わせる笑顔。で、あたし達は全員そんなレイの表情に思わず見とれちゃったりなんかしてるわけで・・・う〜ん。

「ねえ、レイ。」
「ん?どうかしたか?」
「明日の仕込みとかは、もう終わったわ。」
「そうだけど・・・何?」
「基本的に、後は寝るだけよ。」
「ああ、確かに。」
「けど、まだ寝るには早いと思うの。」
「キララ、何が言いた―――――」
「ちょっと、散歩しない?2人で。」

‘カチャン・・・’
レイが持っていた木皿を思わず落としたが、それを気にしているような余裕はあたしに無い。冷静なふりをして誘っているけど、実は緊張と恥ずかしさで今にも倒れるんじゃないかってぐらいだし。
けれどね・・・折角の海辺よ?しかも満点の星空よ?好きな人よ?これで何も行動しないっていうのは、無理なのよ。

「・・・返事、欲しいんだけど。」
「え、あ、いい―――――」
「「「ちょっと待って(ください)!!!」」」
「―――けど・・・まあ、予想通りか?」
「キララ、私達がいる前で誘うっていうのはどういうことかしら?」
「特に意味は無いわよ・・・ただ、ね。」
「ただ?何?何かな、キララ?」
「・・・たまには、自分から動くのもありかなって思ったのよ。」

ええ、そうですとも。いつもいつもレイの方から雰囲気を作ってもらったりしてるから、たまには自分が動かないといけないなって焦ったのよ。よく考えてみたら、あたしの方からレイを誘ったことなんて本当に少ないんだから・・・

「も、もう暗いですよ!」
「月は出てるし。」
「レイがいないとリリアの護衛だってあるのよ?」
「すぐに戻ってくるわよ。」
「あ、明日も朝早いんだよ!?」
「だから、今から行こうかなって思ったの。」
「「「けど・・・」」」
「ああ、もう!悪い!?レイと一緒に行きたかったのよ!」
「それは・・・」
「わ、悪くないですけれど・・・」
「キララ、ちょっと大胆?」
「レイ!それで返事―――――って、あれ?」
「レイ様?」
「あら、どこに行ったのかしら。」
「ここだよ、ここ。」

レイの声に反応し、あたし達は揃ってその方向を見れば・・・すでに上着を羽織って準備万端のレイが玄関の前にいた。

「どうした、行こうぜキララ。」
「あ、う、うん・・・」
「マリス、フォルトさん、リリア。留守番よろしく。」
「レイ様・・・その、お気をつけて。」
「ありがとう。適当に歩いたら戻ってくるから大丈夫だよ。」
「いってらっしゃい。」
「ああ、いってくる・・・あ、そうそう。明日は誰が行くかなんてことを相談するなよ?」

図星だったらしく、何やら話し合いをしようとしたまま固まった3人を置いて、あたし達は店の外に出た。

‘ザザン・・・ザザァン・・・’
波の音が響く砂浜を、あたしとレイは何も言わずに歩いていく。え?どうして無言かって?決まってるでしょ・・・ああは言ったものの、まさかこうもレイが簡単に同意してくれるなんて思わなかったから何を話せばいいのか分からなくなってるのよ。
そもそも、半分ぐらいは駄目もとだったのよ!絶対にマリス達も一緒に行くとか言うと思ってたんだから!ああ、もう!折角の2人きりの海だってのに、どうしてこうもあたしは――――

「キララ。」
「な、何!?」
「髪に何かついてるぞ。」
「え、ど、どこ?」
「動くなよ・・・」

レイが手を伸ばして、あたしの髪に触れる。
って、近い!よく見たら近い!隣で肩と肩の距離が指一本分あるかどうか!?ひょっとして、考え事して気付かなかったけど今までこの近さで並んでたの!?うわああああ!

「取れた――――キララ、何か緊張しすぎじゃないか・・・?」
「う・・・わ、悪かったわね・・・」
「・・・ぷっ・・・くっくっくっく・・・」
「な、何がおかしいのよ!」
「いや、さっきは自信満々で俺を誘ってくれたのに、今はこれだからな・・・キララらしいと言えばらしいよな。もうちょっと肩の力抜いてもいいと思うぞ?」
「仕方ないでしょ。こうもうまくいくとは思ってなかったんだから・・・」
「確かに、あのときの3人の顔も悔しさよりも驚愕が大きかったな。」
「それに・・・まさか、レイがこうもすぐに乗ってくれたのも、ね。」
「あ〜・・・何て言うか、単純に嬉しかったんだよ。」

嬉しかった?それは、どういうことだろう。あたしが嬉しいのは、まあ当然、だってあたしの誘いにレイがはっきりと乗ってくれたんだから、嬉しくないわけがない。けれど、レイが嬉しいっていうのは――――?

「キララから・・・いや、4人の誰からも、こうも積極的に2人になろうって誘ってもらうことは少なかったからな。まあ、別に疑ってたわけでもないけど、キララの気持ちを確認できたみたいで、嬉しかったんだよ・・・それだけ。」
「あ、う・・・」

待って。その顔は反則でしょう、レイ。
普段は、さっきみたいに自信満々の顔をして凛々しいレイが、こうも心の底から嬉しそうに笑ってるのは稀なんだけど!しかも、その笑顔が他の誰でもないあたしだけに向けられてるっていうのは、さらに稀で・・・やばい。何がやばいってあたしの理性がやばい。
この前、レイを酔わせた時も危なかったけど今回はレイが酔ってないということもあって余計にやばい。何だか、正常な判断ができないかもしれない・・・

「あの、キララ?」
「な、何っ!?」
「いや、何って・・・まあ、いいんだけど・・・」
「へ?あ?え!?」

いっそ、正常な判断ができない方が良かった。
何を考えてたの、あたし。どうしていつの間にかレイに甘えるように腕なんて組んでいるのよ。隣に並ぶなんて甘いもんじゃない。これは密着だ、密着。しかも、あたしは今上着を着ているとはいえ、その下は水着なわけで。腕なんて組んだら、それなりにはある胸が当たったりしてるわけで・・・も、もうだめ・・・何も考えられそうにない・・・

「・・・ぁう・・・レイ・・・」
「・・・な、何?」
「も、もう・・・駄目かも・・・」
「いや、俺も結構限界だけどな・・・」
「このままだと、お互いに良くない結果になりそうなんだけど・・・」
「奇遇だな・・・俺も全く同じ考えに到った・・・」

それは、ある意味ではあたしが望んでいる結果なのかもしれない。
けれど、それが正しい結果だなんて思えないから・・・あたしは名残惜しいけれどレイの腕からそっと離れ―――――
‘ギュッ’
―――――られ、ない・・・?

「れ、レイ・・・?」
「到ったけど・・・その、折角キララが誘ってくれたから・・・頑張ってみようかと。」
「っ〜〜〜〜〜!!」

さっき、限界と言ったのは訂正しよう。
今こそあたしは理性が壊れる限界に達しているに違いない。ぎりぎりで支えているのは、レイが頑張ると、つまり理性を壊さないように堪えると分かっているから。
もしも、ここであたしが理性を壊してしまえばレイも答えてくれるのかもしれないけど。
けど、その先にある未来は、きっとレイとあたしの関係を壊してしまう気がするから、ひたすらに我慢する。

ああ、もう・・・幸せすぎて苦しくなるなんて本当にあるのね・・・

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/07/05(木) 13:52:26

ちゃいるど47!
店を出して8日が過ぎた。
本日も客足は最高。初日、2日目、3日目と段々やってくるお客さんの数は増えていって、今では開始直後から行列が出来るほど。
聞いた話によると、座席の予約券はビーチの方で高値で取引されているらしい。何だか、原価の2、3倍で。いや、別に構わないんだけどさ。偽造かどうかを見分けれるよう細工とかもしてあるし。ってか、昼時の予約券が開店一時間で無くなるってのはどうなんだ。

「死ぬ・・・死んでしまう・・・」
「きょ、今日もしんどかったわね・・・」
「アイスクリームは、もう材料が完全になくなったわよ・・・明日から、もう作れないわ・・・」
「レイ君が海に飛ばした人の数も、3桁が見えてきたしね。」
「レイ様、計算が終わりました。」

接客、調理で疲れている俺達よりは比較的体力の消耗が少ないリリアが、今日の売り上げ、加えて初日からの売り上げの合計をまとめてくれた。

「本日の利益が18万3050ゼネー。これにより、8日間の合計利益総額は126万2820ゼネーとなりました。」
「ん、ありがとう。これで、ひとまず準備は整ったかな・・・」
「え?」
「ということは、レイ。ひょっとして・・・?」
「ああ、動くぞ。明日にはガルバードさん家に戻って色々と始める必要がある。」
「じゃあ、明日はお店お休みだね。」
「・・・いや、もうこのお店も終わりかなと。」
「フォルト、ここが期間限定の支店だってこと忘れてたでしょ?」
「あはははは・・・あまりにいつもと変化無かったもんね。」
「何だか勿体ない気もするわね。」
「けど、そんなこと言ってたら俺達が海で遊べなくなるぞ?」
「「それは嫌!」」

ものすごくキララおフォルトさんの息がぴったりだった。やっぱり、みんな海を目の前にして一日中働きづめっていうのは大変だったんだなぁ・・・つくづく、俺の考えに付き合ってくれたことに感謝しないと――――

「まだ、レイを誘惑してないのよ、私。」
「あたし達の水着にどれだけレイ君がどきどきするか見ないと帰れない!」
「折角海に来たのに、いつもと変化無いっていうのはね。」
「あら?キララさんは先日レイ様と2人で出かけられたではありませんか。」
「あれは別。」
「何言っているのよ。出遅れたと思ったんだから。」

――――俺が色々と付き合わされることは決定ですか?マジ?この前のキララと2人きりの海岸散歩でも結構理性がやばかったんですが。シチュエーション最高だったしね。キララもいつも以上に綺麗だったし。恐るべしは海の魔力。

「まあまあ。今は手近な問題から片づけるってことで。」
「レイ君の頭の中では、既に完結してるくせに。」
「いや、結構運の要素もあるぞ?」
「成功確率は?」
「・・・9割ぐらい。」
「残りの1割は失敗するのですか?」
「いや、相手が俺の予想を超えて格下だった場合。この作戦は使わなくても、別の方法であっさりと捕まえる確率。」
「余裕じゃん!」

だって、なぁ・・・詐欺については元の世界でしっかり勉強済みだし。この国の法律は義父上に叩き込まれてるし。対処法なんていくつでも思い浮かぶんだよ。
難しいって思ってたのはキララ達の協力で、それさえ乗り越えれば勝てる自信はあったし。

「それでは、参りましょうかレイ様。」
「・・・歩いていく気か?」
「・・・どうやって車を呼べばいいのでしょうか・・・」
「大丈夫だよ。明日の朝には用意されてるはずだから。」
「いつの間に呼んだのよ。」
「今まで、ずっと店にいたのに?」
「たった今、総額を聞いて行動すること決めたわよね?」
「そこは秘密だ。色々と裏事情があってな。」

このことは、あまり4人に言う事じゃない。少なからずマイナスになる可能性があるからな・・・特に、リリアは拗ねる気がする。

「裏事情って・・・なんか危ない橋を1人で渡ってないでしょうね?」
「れ、レイ様!?」
「もしそんなことしてたら、本気で怒るわよ?」
「大丈夫だよ。2人とも心配し――――――」
「本当に?」
「レイ様、本当に大丈夫なのですよね・・・?」
「――――はぁ、悪い。不安にさせすぎた。」

2人が真剣に俺を、不安と恐怖が入り交じった瞳で見つめているのは、きっと俺が一ヶ月間2人の前から消えてしまった事件のためだろうな。
あの時は、本当に危ない橋を渡ったもんだ。
しがみついて離れないキララの手をほどき――――
泣きじゃくって震えているリリアの涙をぬぐい――――
そして、自己完結して別れを告げたあの日のことは今も2人の心に深い傷跡を残しているらしい。時折、俺が内緒でこそこそと動いているのを見ると、2人とも必死になることからも分かる。

「改めて言う。大丈夫だよ・・・絶対に、な。」
「・・・なら、いいけどね。」
「レイ様、信じてますから。」
「今度は私とフォルトもいるんだからね。」
「逃げようったってそうはいかないよ〜、レイ君?」
「誰が逃げるもんか。」

そう答える。
そう。逃げない。絶対に逃げたりなんかしない。
こんな俺の隣がいいんだと言ってくれる女の子達を放って、逃げることなんてしたくない。
だから、そのためにも
4人が少しでも笑っていられるようにするためにも
まずは、イケリルと家族を引き離した連中を捕まえないとな。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/07/09(月) 12:21:34

ちゃいるど48!

「やあ、こんにちは。ガルバードさん。おや、お客さんですか?」

俺達がガルバード家に戻ってきた翌日に運良く、こいつらにとっては運悪く、ガスバーの連中はやって来た。

「誰だ、お前?」
「おっと、失礼しましたね。僕の名前はバルス。ガスバーという会社の社長を努めてさせて貰ってます。と言っても、まだまだ会社というにはほど遠いんですけどね。」
「ふ〜ん。レイだ。ガルバードさんの子供、イケリルをしばらく預かってた者でな。今日は、その謝礼を貰いに来てたんだよ。」
「謝礼・・・?ガルバードさん、彼に渡すような物があるということは僕達の方への払いも用意できているということですよね?」
「そ、それは――――・・・何とか、20万ぐらいは・・・」
「20万?はっはっはっはっは・・・ガルバードさん、あなたがどれだけ滞納しているか分かっていますか?2ヶ月ですよ。2ヶ月。」

そう。つまり、40×2で80万。これが現在、ガルバードさんと彼らを結びつける強固な鎖というわけだ。

「おまけに、今月の分も含めて120万。半分にもならないじゃないですか。僕らも、鬼じゃないのであなたが来月こそ、来月こそ、と言うのを黙って聞いていましたが、そろそろ限界というものがありますよ?」
「け、けれど、無いものは無いんだ!払えないんだよ!」
「では、代わりの物をいただくまでです。おい、お前達。」
「家の中に入らせて貰いますよ?」
「へっへっへ。今日はどんなのがあるかな〜?」
「待ってくれ!もう家の中には何も無い!それぐらい、先月で分かっているはずだろう!」
「あるか無いかは僕たちが決めることです。大丈夫ですよ、ちゃんと必要最低限の物は残しますから。」

ずかずかずかと家の中に入り込んでいくガスバーの連中。こうやって、家の中に入り込むように、ガルバードさんや、今まで犠牲になってきた人達の心を土足で踏み荒らしてきたんだろうが・・・お前ら、ちょっと調子に乗りすぎだ。
大方、自分達が頭良い方法を思いついた天才だとでも思ってるんだろうが・・・俺からしてみれば人の心を思いやれない時点でただの馬鹿だ。
それでも、俺が仕掛けた罠にかけるまではあえて踏み荒らされることを甘受する。だから、今は黙ってこいつらがガルバードさんの家に入るのを見送るしかない。

「ちょっと、レイ。何の騒ぎ?」
「うお!?おい、何だかえらく上玉がいるぜ?」
「本当かよ!」
「わ?わ?わ?レイ君、この人達がひょっとして・・・?」
「そうらしいな。」

うん、マリスもフォルトさんも芝居が上手だね。キララとリリアは自信が無いということなので、すみっこで黙って待機中。けど、実はガスバーを前にして不機嫌そうなキララと不安そうなリリアが並ぶと、身を寄せ合ってる親友に見えて芝居の必要が無かったり。

「こちらの魅力的な女性達は、ひょっとするとガルバードさんの親戚の人ですか?」
「そんなことは――――」
「まあ、いいでしょう。では今日の接収物はこの4名ということでよろしいですね。」
「な!?」
「ええ!?」
「あら。」
「わお?」

わあ・・・何て言うか、予想以上。しまった、キララ達は隠しておくべきだった。こんな野郎共の視線にさらしてやる必要なんて無かったじゃないか。いっそ、人身売買の方でとっつかまえるか、こいつ。ってか、容赦なく蹴り飛ばしてぇ!

「いや、ちょ―――――レイ!駄目!」
「っと・・・あ、ああ・・・悪い・・・」

やばかった・・・蹴り飛ばしたいと思うだけでなく、実際に体が動き始めていた。具体的には今にもキララに手を伸ばそうとしている野郎に向かって足を一歩踏み出したところだ。
落ち着け。落ち着くんだ、俺。ここで力に訴えてこいつらを叩きのめすのは楽なもんだし、気分爽快だろうがそれじゃあ俺達が悪者になる。とりあえず、今は押さえるんだ・・・!

「おい、バルス・・・彼女達に手を出せば、人身売買とみなすぞ・・・」
「おや?彼女達はあなたのお知り合いでしたか。」
「そうだ。彼女達は関係ないだろう・・・」
「そうですね・・・けど、僕はこう思うんですよ。」
「・・・何だ。」
「もしも、ガルバードさんやあなたが、ここで彼女達4人をしばらく僕らに預けてくれるなら、その間は僕らも彼女達の気を引くためにガルバードさんの滞納中のお金を忘れられるかもなぁって。」

この野郎!?
それは脅しだろうが!つまり、キララ達がその意思でガスバーの元に行くことにしろってのか!それなら人身売買には引っかからないから、自分達が犯罪を犯したわけじゃないとでも言う気かお前ら!
キレた。今回ばかりはマジでキレた!お前ら、絶対に破滅させてやる!

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/07/11(水) 11:02:21

ちゃいるど48!
「・・・バルス。」
「何ですか?ああ、契約書なんていりませんよ。だって、彼女たちが僕たちのところに来てくれたら良いなっていう、僕の勝手な願望ですから。」
「確か、ガルバードさんがお前達に滞納している金額は90万だったな・・・?」
「ええ。もちろんです。ああ、言っておきますけど僕達の会社から抜けるには、滞納分を全て払って貰わないといけませんから。」
「分かってるさ。契約書に、書いてあるんだろ・・・?」
「ええ、何なら見ますか?」
「いや、結構だ・・・」

よし・・・予想通り持っていたか。
だが、それで終わりじゃない。ここで契約書を俺が見せて貰うわけにはいかない。ここであいつの鞄から契約書を取り出させてはいけないんだ。きっと、この男は2重3重の罠を仕掛けているはずだからな・・・勝負を賭けるのはもうしばらく後だ・・・

「そうですか?」
「ああ・・・おい、そこの男。マリスに指一本触れてみろ。その手を腕からもぎ取ってやるぞ。」

その間も、荒く醜い息でマリスを眺めていた男を牽制するのを忘れない。触れるな。絶対に触れるんじゃねえぞ・・・触れたら、今度は自分を止める自信がない。

「おいおい、リビッグ。彼女たちが嫌がってるかもしれないだろう?そう、嫌がってるかも、ね?」

目がむかつくな、本当に・・・あれか?ここで俺やキララ達が嫌がってないよ、とか連れて行って下さいとか言うとでも?心配するな。お前らをエスコートするのは俺の自慢のパートナー達じゃない。
お前らをエスコートするのは、この俺だ。

「さて、それじゃあガルバードさん。返事を―――――」

‘ドサドサドサドサ・・・’

「――――え?」
「120万ある。持って行け・・・そして、この場でガルバードさんは退会だ。問題ないよな?」
「な・・・何だって!?」
「俺達がガルバードさんに金を貸す。それでガルバードさん達がお前達に滞納分を払う。これは、法的にも問題ないはずだ。」

俺は隠し持っていた大量の金、今日という日のために稼いだ120万をやつらの鼻先に突き付けてやった。

「お前、さっき確かに言ったよな?その月の分の月費を払わない限り退会は出来ないと。逆に言えば、払ってしまえば退会は自由ってことのはずだ。つまり、この時点でガルバードさんは退会可能。お前達からの強制力は全て無くなって、めでたく縁が切れる。どうだ?」
「・・・あなた、何者ですか?」
「レイ・キルトハーツ。料理人だよ。」
「ふっ・・・ふははははははっ!あっはっはっはっはっは!」

俺の自信満々の笑み。それを見て、バルスは大きな声で高笑いを始めた。キララも、マリスも、フォルトさんも、リリアも、それを呆然と見ている。ガルバードさん夫妻は、まだ何かあるのかという恐怖だろう。
そして俺は、あえて何の表情も見せない。

「いやいや・・・まさか、そういう手で来るとは思ってませんでしたよ。ガルバードさん。」
「何だ・・・まだ何かあるっていうんですか!もう、これで関係ないはずでしょう!」
「ええ、そうですね。確かにこの120万は頂きますよ・・・けど、どうやらガルバードさん。あなたはまたもや契約内容を忘れているようだ。」
「・・・え?」
「思い出させてあげましょう。あなたが書いた契約書を、ね。」

そして‘俺の予想通り’、バルスは持っていた鞄をごそごそとあさり、やがて一枚の書類を示した。

「ここを見て下さい。バルスさん、ああ、レイ君でしたね。君も見るといいですよ?」
「な・・・そんな!?」
「・・・ふん。」

書かれている内容、そしてバルスが指さした部分にはご丁寧にアンダーラインが引いてあった。
『何らかの理由により一月滞納される場合、利息として15万が加算される』と。

「馬鹿な!こんなこと、以前見た契約書には書いてなかった!」
「何を言ってるんですかガルバードさん。以前もそのようなことを言ってましたねぇ。けど、事実書いてあるんですよ。何より、そこにあなたの署名があるのが何よりの証拠じゃありませんか。」
「嘘だ!こんなの・・・こんなことが!」
「分かって頂けましたか、ガルバードさん、レイ君?従って、あなたが払うべき金額は今日の時点で2ヶ月分の利息30万がプラスされた150万だったんですよ。すいませんね、てっきり忘れてないだろうと思って利息の分を言い忘れてました。」
「く、う・・・畜生!畜生!」
「さてさて・・・不足分の30万ですが、どうしますか?レイ君、君はまだ40万もの大金を持っているのかな?」
「いや、残念ながら後は家に帰るだけの金額しか持ってないよ。」
「そうですか。それは残念でしたね・・・さて、30万か。どうしたらいいと思いますか?」

そう言いつつも、バルスの目はキララ達へと注がれている。その目はどこまでも勝利を確信した目だ。そんなバルスの前ではガルバードさんが絶望にうちひしがれている。
そして、バルスとその仲間達によって囲まれているキララ達はというと――――

―――――どうでも良さそうな顔をしていた。
その目からありありと伝わってくるものがある。それは迷うこと無い俺への信頼で、絶対に俺が護ることを疑ってない4色の瞳。
まったく、何をやるかなんて説明してないのに4人とも本当になぁ・・・

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/07/13(金) 08:19:56

ちゃいるど49!
「ぷっ・・・くっくっく・・・はははははははははっ・・・」
「レイ君・・・何が、おかしいんですか?」
「いや、これが笑わずにいられるかよ。何も言ってないんだぜ、俺?」
「は?」
「何も言ってないのに・・・信じてくれる人がいるんだ。」
「言いたいことが分かりませんね。」
「大したことじゃないさ、バルス・・・お前は、俺が仕掛けた罠にかかったんだよ。」
「・・・何?」
「種明かしといこうぜ、バルス。お前のその鞄の中身は・・・おそらく、今俺が持ってるような契約書が‘他にも数種類ある’はずだ。」
「っ!?」

ここで初めて、バルスの顔色が変わった。ああ、そうさ。俺が待っていたのはこの時だ。バルスが、‘新たに条件を加えてある’、いくつもある契約書のうちの一つを俺の前に示す時を、不愉快な思いに堪えながら芝居を打って堪えていた。

「契約者が退会の条件を満たすたびに、それを無効化するためのあらゆる条件を付け足した別の契約書を提示することでお前達は相手を逃がさないようにしている。それは、ガルバードさんが最初に書いた契約書と、次に見た契約書が違っていた時点で想像できていたよ。おそらく、お前達の最大の武器は、署名を写す技術。それを使って何種類もの契約書に同一人物の署名を写していったんだ。」
「ぐ・・・ぅ・・・」
「おそらく、その鞄の中を見せて貰えばそれが証明されるはずだ・・・そうだろ?」
「・・・やりますね・・・あなた・・・けど、こんなのは予想できましたか?」

バルスがひょいと鞄を放り投げ―――――
‘ボウッ!’
それは地面に落ちる瞬間に燃え上がった。

「ああ!証拠が!?」
「これで、どうです?」
「いや、別にその辺はどうでも・・・正直言うとな、この契約書が手に入った時点でそっちの鞄はどうでもいいんだよ。」
「何!?」
「勉強させてやるぜ、バルス・・・私財法第24条の6だ。」
「私財法、24条の6・・・!そう言えば!」
「さすがだな、リリア。思い出したか?」
「はい!バルスさん、あなたは法を犯しました。」

それまで静かに立っているだけだったリリアの突然の言葉、それは隠すことなど決して出来ないリリア・キルヴァリーとしての威厳に溢れていた。その言葉だけで、バルスも含めたバスガー達は全員が思わず気圧されてしまう。さすがリリアだと言うしかない。

「僕が、法を・・・は、ははは・・・な、何を馬鹿な!」    
「私財法、24条の6。『金銭による貸借に於いて、それに応じる利息は決して法により定められた基準値を超えてはならない。』一月の間に15万ということは、一週間で1割を超えています。これは明らかに違法請求となり、その時点でこの金銭のやり取りは全て無効となります。」
「なっ!?」
「と、いうわけだ。バルス。お前が利息についての契約書を出した時点でガルバードさんの滞納は帳消し。そしてこの時点でお前達との契約も無効化される。」
「あ、それが金銭のやり取りの無効ってことなわけね。」
「何て言うか、自爆したね・・・」
「ちょっと法をかじっただけの男なら、この辺りが限度ってことじゃないかしら。」
「ぐ・・ぐ・・・くっ!」

急いできびすを返して玄関へと直行しようとするバルスを、俺はひょいと足を引っかけることで倒す。思い切り顔面から地面に倒れていたが知ったことか。キララ達に手を出そうとした時点で容赦してやるつもりはない。

「お前が考えてるのはこうかな?今すぐに本社に戻って、利息についての要点を書き換えた新しい契約書を作って、このやり取りを無かったことにする。けど、それを見逃すほど俺も甘くはないぞ?」
「な、あ・・・だ、だが!それが、本物でないと言ったら―――――」
「一定額を超える金銭のやり取りにおいて、契約書の複製は禁止されています。もしも内容の違う契約書が複数見つかった場合、詳しい調査が入りますので、おそらくガスバーの方にも強制的な捜査が行われますよ?」
「多分、そこにあるいくつもの内容の違う契約書も見つかるだろうな・・・もう逃げ場はないぜ、バルス。私財法を犯した罪により、お前を罰する!」
「く・・・そ、その契約書を奪え!」

バルスの言葉に反応し、自分達の立場が危うくなったのがようやく理解できたんだろう。キララ達のそばにいた男達の数人は俺に、残りは人質のつもりなんだろうが、キララ達へと飛びかかっていった。が――――――

‘ゴガ!バキ!ドゴ!グシャ!ガガガガガガ!・・・チュドン!’

そのぐらいも予想済みだ。

「え!?」
「あら、どういうことかしら。」
「レイ君、ちょっとこれは聞いていないよ!?」
「言ってないし。出来れば知られたくなかったからな。」

俺の方に向かってきた連中は一撃ずつ顎とか腹とかにパンチを入れて地面に意識もろとも落とし、キララ達に向かっていった野郎共は‘天井から現れた人々’によって同じように黙らされた。
誰よりもその正体に驚いているのは、他ならぬリリアだろう。

「まったく、講釈が長いぜレイ。」
「全くだ。そもそも、姫様に手を出そうとした時点で捕まえればいいものを。」
「一網、打尽。」
「それじゃ、ガルバードさんの借金が残るだろ?」
「あ、その辺も考えてあるんだね。」
「な、え・・・アイン!イラド、ヴァイツ・・・それにフィーアまで!?」

リリアは呆然としているが、これは驚くことじゃない。
正体を隠しているとはいえ、王族であるリリアが俺1人の護衛だけで旅なんて出来るわけがないのだ。もちろん、リリアにはこの旅を楽しんで貰いたいという点から4人には極力俺達の前に出てこないように頼んでいたのだが。

「まあ、話は後にするとして・・・さて、バルス。この4人が誰か知ってるか?」
「そんな、何故・・・どうして、四聖騎士がここに!?」
「ここにいる女性と、ここにいる俺がそういった存在だからだよ。リリア!」
「え――――は、はい!」

俺がリリアに見せたのは、決して普段から手放すことなく持ち続けているもの。リリアを護るために、リリアの側にいるために、いつかリリアを選択することが出来るために俺が選んだもう一つの道を示すもの、誓約紋。
それを見るだけで、リリアは驚きを振り払い俺達に命じる。

「リリア・キルヴァリーの名において、特務騎士レイ・キルトハーツに命じます!私財法、ならびに国法を犯したこの者達を捕らえなさい!」
「あなたの心のままに。アイン、ヴァイツ、イラド、フィーア。その辺の連中よろしく!」
「そういやお前、俺達の上司になれたな。」
「ふん。癪だが、従ってやる。」
「任務、遂行。」
「お仕事ね。さって、大人しく捕まるか抵抗するかぐらいは選んで良いわよ?」

ようやくリリアの正体に気付いたガスバー。
それに容赦なく襲いかかる俺達。
決着はものの数分でついた。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-YaqFg] 2007/07/19(木) 13:56:08

ちゃいるど50!
レイが土下座している。
何だか最近すっかり見ることが多くなってきているような気がするわね、この光景・・・まあ、今回はレイが悪いということで止める気はないけど。

「いや、だから危ない橋を渡ってたわけじゃないだろ?」
「それでも!アイン達が来ていることぐらい仰ってくれても良かったではありませんか!」
「そうすると、姫様が王女として振る舞うかも知れないと危惧してたんですよ、レイは。」
「ですが、これはあんまりです!こんな隠し事なんて!」
「だから、本当にごめんなさいって!」

あれからイラドさんが捕まえたガスバーの人達を連れて行った。
おそらく、彼らの会社にあるいくつもの契約書とかが証拠になって、あの人達は二度と日の当たる場所で働くことはないと思う。まあ、それは別にどうだっていいことよね。そのぐらいのことはしてきたわけだし。
リリアの正体を知ったガルバードさん夫妻はひたすらに自分達の無礼を謝っていた。まあ、確かに一国の王女に子供を押しつけたっていうのは・・・うん、あたしなら土下座で謝るかもしれない。レイが今やっているように。
ようやくガルバードさん達が顔を上げてくれて・・・今度は頭を下げることになったのはレイだ。リリアが自分の知らないところでレイがアインさん達を動かしていたのに拗ねてしまったらしい。
まあ、確かにこの前の夜の散歩にしてもレイがリリアを放って離れるというのは良いのかなと思ってたんだけど、何のことはない。あの時、店の近くでは4人が密かにリリアを護衛していたわけだ。

「今度からは、ちゃんと私にも仰って下さい・・・少なくとも、私が王女として関わりのあることならば・・・ちゃんと。」
「ああ、分かってるよ。けど、リリアには楽しんで欲しかったからさ・・・」
「そうですよ。陛下も姫様が楽しめるようにと、わざわざ俺達全員を行かせたのですから。」
「帰ったらお父様のことを陛下と呼んでみましょうか・・・」
「それ、止めてあげような。」
「陛下泣きじゃくりますよ?」
「姫様、レイも姫様のことを思っての行動ですから。」
「・・・はぁ、分かりました。けど、ちゃんと埋め合わせはして頂きますからね?」
「どうか穏便にお願いします。」
「あ、あの・・・?」

苦笑するレイに話しかけてきたのは、もう全部のことから解放されたガルバードさん達と、本当の母親の腕に抱かれているイケリルだった。

「レイ君・・・本当に、ありがとう・・・君たちのおかげで・・・」
「どういたしまして、と言いたい所ですけど・・・まだ終わってませんよ?」
「え?」
「ま、まだ何かあるの?」
「ぁう?」
「ガルバードさん、仕事はすぐに見つかりそうですか?」
「それは確かに難しいが・・・けど頑張るよ。君たちが作ってくれた希望を、そんなことで絶やすつもりはないんだ。」
「あなた、私も出来る限り手伝うわ。もちろん、イケリルも。」
「だっ!」

レイが満足そうに笑うのを見て、あたしは何となく予想できたことがある。それは、きっとレイの中ではその問題すらも何らかの形で解決案が出てるんだろうなということ。

「キララ、ちょっと相談なんだけど。」
「っと・・・あたし?」
「ああ。ほら、俺達がやってた海の家。あのナーエコ支店があるだろ?」
「それが何?」
「勿体ないと思わないか?」
「・・・レイ・・・あたしが反対するとでも思ってる?」
「いや、実はあんまり思ってない。」

その信頼に体がこそばゆくなりながら、ゆるみそうになる顔を引き締めて、あたしはレイの隣に並んでガルバードさん達を見つめる。

「えっと、あたし達は元々のお店に戻るつもりなんですけど・・・ガルバードさん。」
「は、はい。」
「もし良ければ他の仕事が見つかるまでの間、ナーエコの海岸に作った支店をやってくれませんか?レイなら、あなた達でも作れる料理を教えることが出来ると思いますので。」
「え・・・」
「焼きそばって、実は家庭用でもあるからな。他にも簡単な料理をいくつか作れば、きっとしばらく生活する分には問題ない程度には稼げると思うし。」
「レイもこう言ってますし。きっと、続けるなんてことは出来ないと思うんですけど、それでも時間稼ぎなら出来ますから。」
「あ――――・・・ありがとうございますっ!」
「本当にっ・・・本当に、ありがとうっ・・・!」
「とーと?・・・かーか?」
「今度は、受け取りませんよ?」
「そうそう。子育てなんて、自分の子だけで十分ですから。」
「レイ様との子供であれば文句無しですね。」
「あら、リリアったら随分と言うじゃないの。」
「レイ君との子供かぁ・・・あたしの名前と組み合わせたら、レルトかな?それともフォイ?」
「何の話をしてるんだよ・・・」
「レイ君とあたしの子供の話。」
「いや、もう本当に勘弁して・・・」

レイが頭をかくのを見て、フォルトがにこにこと笑う。それに負けじとリリアはレイの腕を取って何やら文句を言い出した。その後ろからマリスが何やら怪しげな視線をレイに送ってるのは、きっと何かからかう内容を考えてるんだろうって思う。
そしてあたしは、リリアが掴んでいるのとは逆の腕を掴んでレイの視線を引き寄せる。

「レイ、それよりも・・・ちゃんと帰ってきてもらうわよ?」
「へ?」
「何をとぼけた顔してるのよ。あたしのお店に決まってるでしょ。」

そう言ったあたしの顔は、きっと遠足に行く前の子供のように嬉しさで溢れていたんじゃないかと思う。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/07/23(月) 12:04:05

ちゃいるど51!

全てが終わったと思っていた。

また、以前のような毎日が始まるんだと思っていた。

少しずつしか進めないかもしれないけど

大丈夫だって思っていた。

なのに―――・・・



「何でこんなことに・・・」

目の前にある現実から逃れることは出来なくて、打ち負かすことなど出来るはずもなくて、ただその現実が通り過ぎてくれることを祈りながら静かにそこにいるしかない。
こんなにも、自分が小さく見えるなんて思いもしなかった・・・
こんなにも、自分が何も出来ないなんて思いもしなかった・・・

こんなにも―――――

「きゃははははははー!れ〜い〜さ〜ま〜!」

こんなにも―――――

「ひくっ・・・だぁからぁ、こぉっち向けってぇ、言ってるでしょぉ・・・ひっく。」

こんなにも―――――

「れいぃ〜・・・気持ち悪いよぉ〜・・・」

こんなにも―――――

「酔っぱらい相手に、何も出来ないとはっ・・・!!」


始まりは、ガスバーを壊滅させた、その夜だった。
宿屋でなく、本日をもって去ることになった海の家で俺、キララ、リリア、マリス、フォルトさんに加えて、四聖騎士の4人も加えた珍しく男女比がほぼ均等な状態での打ち上げ。
だったからだろう。ちょっとだけ、油断していたんだ。
アインが持ってきていた飲み物の中に、絶対にこの美女達に飲ませてはいけないものが入っていたことに気付かない程度の油断。
けど、それで十分だった。

「見事に酔っぱらってるな、こいつら。」
「姫様まで酔われてるぞ・・・アイン、お前絶対にまた減給だな。」
「冗談だろ!?」
「否、無料奉仕。」
「ただ働きも嫌だぞ、俺!あの生活をもう一度は堪えられねえ!」
「けど、確か姫様って酔われているときの記憶は覚えておられるはずよ?」
「逃げ場が無いってのか!」
「ってか、俺をどうにかしてくれ!」

たまらず叫ぶのは、俺の両隣と背中に3人の美女がべったりと張り付いているからだ。
ちなみに左に下戸のキララ、右に笑い上戸のリリア、背中に怒り上戸のマリス。もうこの時点でいっぱいっぱいですよ?理性が壊れるとかは無いが、精神上良くないのは変わらねえ!

「いや、無理だろ。」
「なるほど。レイ、俺は今親衛隊にいる男達の気持ちが分かるぞ。」
「あら。ちなみにヴァイツは誰が好み?姫様?それともキララさん?」
「・・・」
「ふむふむ。ヴァイツはマリスさんなわけね。」
「な!?」
「ほお〜。ヴァイツがね〜。お前ってそういったのに興味がないと思ってたが、いやはや男だったんだなぁ。」
「何だと、貴様!」
「好色・・・」
「イラド!今のは聞き捨てならんぞ!」
「だったらどうするってんだ?」
「意見、拝聴。」
「・・・表に出ろ!」
「よっしゃ、久しぶりにやってやるぜ!」
「勝負。」
「いってらっしゃ〜い。」
「だから、俺を助けてからやっちゃくれませんか!?」

俺の言葉など何のその。3人の男の四聖騎士は海の家からさっさと出て行く。やがて何やら人と人とが殴りあうような音が聞こえてきたが・・・ぶっちゃけどうでもいい。
それより、現在の店内の状況が問題だっての・・・
男:女=レイ1人:美女5人。

「何の嫁探し番組だよ・・・」
「れい〜・・・死んじゃう〜・・・」
「吐くなよ!?絶対に吐くなよ!?」
「私のレイに吐いたらぁ、キララといえど許さないわよぉ・・・ひくっ。」
「何をさりげに自分のものに――――おい!背中に押しつけるな!」
「きゃははははははぁ!レイ様〜私ぃ、レイ様が大好きでぇす!」
「ああもう!翌朝目覚めた時に恥ずかしい思いするの自分なのにそういうこと言うんじゃない!」
「今ならレイ君は動けないから私って親衛隊代表してやりたい放題かしら?」
「何を怖いことおっしゃってますか!おい!その手は何だ!すでに飲んでるのか!」

ああ、もう!マジで誰かどうにかしてくれこの状況!人は言うんだろうね、ハーレムだって!
けど、これのどこが!?地獄ですよ!?手を出せば残り全員泣きますからね!出せない!動けない!逃げれない!堪えるだけ!ハーレムという言葉に夢見ていた時代が懐かしいよ、マジで!

「ってか、フォルトさんは何処だよ!」
「ん?レイ君、呼ん――――何、この状況?」
「ひょっとして、酒なんて飲んでない?」
「あ、うん。ちょっとやることあって・・・何か、すごいことになってるね。さすがレイ君?」

奥の厨房へと続く扉からひょっとして現れたフォルトさん。
分かるだろうか。この酔っぱらいの巣窟の中、ただ1人だけ現れた常識人。俺はフォルトさんがミリアさん以上に神様に見えた。心の底から、フォルトさんの存在に感謝した。

「助けてくれ!」
「それはいいけど・・・レイ君。」
「何?」
「助ける代わりに、この後ちょっと外に出ない?」
「ぅおい!?」
「嫌ならそのまま―――――」
「分かった!分かったから助けて!」

訂正。
そうだね。どっちかっていうと悪魔でした。ほら、悪魔って何かと引き替えに願いを叶えるだろ?あんな感じ。

けれど、それを言うフォルトさんの顔がいつもより若干暗く見えたのは・・・気のせいじゃ、ないんだろうなぁ。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-mwQnS] 2007/07/25(水) 09:05:44

ちゃいるど・えんど…?
「う〜ん・・・涼しいね〜。昼間はあんなに暑いのにさ。」
「そうだな。」

キララ達を引きはがしてそれぞれを寝かしつけた後、俺は決着がついて砂浜でぐったりしていたアイン達を起こしてリリアを任せ、そのまま店を後にした。
もちろん、フォルトさんと2人きりだ。

「それで?」
「うん。やっぱり、何かあるのかな?ほら、砂浜には暑さを吸い取る――――」
「そんなこと、話したい訳じゃないんだろ?」
「――――あはははは。そんなに分かりやすいかなぁ?」
「今回は、ね。」
「そっか・・・うん・・・」

いつものフォルトさんと違うのは、あの宴会騒ぎの時から分かっていた。
本当なら、ああいった場所はフォルトさんが一番楽しんでいるはずなのに、彼女は最初に少し参加しただけですぐに離れ、そのまま俺が呼ぶまで現れなかった。
最初は、間違いなく楽しんでいたはずなのに・・・何故?

「言いたくないわけでもないんだろ?俺を誘ってくれるってことはさ。」
「うん・・・うん・・・」

フォルトさんは立ち止まる。
いつの間にか、海岸から少し離れた場所に来ていた。少なくともここから店の様子は伺えない。明かりがついているのは分かっているんだけどな。

「・・・レイ君、実はさ。あたし今日で16歳になったんだよ?」
「え!?ちょ、どうしてそれを言わないんだよ!」
「いや、言う気だったんだけどね?それで、誕生日の贈りものがないレイ君に、代わりに何かしてもらっちゃおうって思ってたんだから。」
「キララ達も言わなかったし・・・全く、友達の誕生日を忘れるなんてあいつららしくないな・・・」
「友達、か・・・ねえレイ君。あたし、キララ達の友達で・・・いいのかな?」

―――――・・・は?

「フォルトさん、いきなり何を言い出すんだよ・・・」
「だって、あたしさ・・・あたし・・・あ、たしっ・・・ぅ・・・ひぐっ・・・」
「ふぉ、フォルトさん?」
「ご、めんっ・・・レイく、んっ・・・ちょ、っとっ・・・胸、貸してっ・・・!」

そう言って俺に突進するかのように抱きつくフォルトさん。その体は小さく、細く、柔らかく、今にも壊れそうな雰囲気を漂わせていた。
泣きじゃくるフォルトさんの腰に手を回し、ぽんぽんと俺よりも随分と低い頭を軽く叩きながら俺はじっと待つことにした。フォルトさんが落ち着くまで。涙が、止まるまで。


しばらくして泣きやんだフォルトさんは依然として俺から離れはしない。けれど、それは決して甘い雰囲気が漂うようなものではなくて、むしろ苦しそうな決意が満ちている抱擁だ。

「・・・レイ君・・・これから話すこと・・・レイ君なら、きっと信じて貰えると思う・・・ううん、レイ君は・・・知ってると思う・・・」
「俺が、知ってる?」
「うん。この旅に出かける時にね、お父さんがあたしに一つの手紙をくれたの・・・誕生日に開けて読むようにって。それについて、レイ君とちゃんと話し合うようにって。」
「俺と話し合え、だって?」
「最初は変だなって思って、でも結局すぐに忙しくなって気にしなかったんだけど・・・今日、読んで・・・全部納得しちゃった・・・」

フォルトさんが納得するようなことが書かれてたってことだよな・・・俺と話し合えと言われた理由を?それは、俺に関係すること?何故?会ったこともないフォルトさんの父親が俺にそんなことを――――フォルトさんが泣くほど重要なことを?

「驚かないで――――っていうのは、無理かな・・・けど、逃げないでね・・・」
「あ、うん。」
「書いてあったのは、あたしのおじいちゃんについて・・・」
「フォルトさんのおじいさん?」
「うん・・・ちょっと変わった人だったんだって・・・」
「変わった人って・・・俺の両親みたいにか?」
「ある意味じゃ、そうなのかな・・・おじいちゃんが生まれた場所、なんだけどね・・・国名‘イギリス’・・・」


―――――全てが終わったと思っていた


「正式名称、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国・・・だったっけ・・・」


―――――また以前のような毎日が始まるんだと思っていた


「サウサンプトン郊外、ストーンヘンジ近くの小さな農家。」


―――――少しずつしか進めないかもしれないけど


「この国どころか、‘この世界’のどこにもない地名だって・・・レイ君なら分かるよね・・・?」


―――――大丈夫だって思っていた。


「あたしの体の中に流れてる4分の1は・・・‘異世界’の血なんだって・・・」


―――――なのに


「そして、レイ君・・・キララと知り合って、すぐに話せたってことは、さ・・・」


―――――こんなにも


「あたし達の言葉が使われているのは‘日本’って国で。」


―――――世界は


「レイ君も・・・‘地球’って世界から来たんだよね?」



―――――俺達に‘その時’を求めていた。

雨やかん [TPfmz-vHpEj-DzFEV-flDWz] 2007/07/28(土) 12:02:54

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