“運命”を与えられた者

[戻る] [感想室] [投票]


 北欧古詩『エッダ』

 神々が世界の主導権を握っていたころを語る、最も大切な書物。


 その中には神々の中でもとりわけ知恵と魔法力に恵まれしオーディンが、世界樹ユグドラシルに吊り下がり、我と我が身を槍でつきながら会得したモノが語られている。

 24の文字。
 後にアルファベットへ用いられた、それぞれの意味・象徴を持ったモノ達。


 それこそオーディンが創りし ”ルーン” だった。

雨音 [dmSrQ-PuqhW-vyMbi-ObHmP] 2005/09/17(土) 11:36:01

顱.Εルド



  何だっけ?

  何してたんだっけ?



 呆然と見ていたのは手の平だった。
 別に手相とか、指の間とか見ていたワケでなく。気がついたら見ていて、そこで視線が固定してしまっただけ。


「あれ?」


 見ていた手に、一瞬だけ何か赤いものが重なったように見えて、思わず声を上げる。

 何故か声が出た事にさえ、違和感があった。
 肉声のはずが、マイクを通ったように響く。

 ようやく視線を回りに移すと、辺りは白い霧に包まれた森のような世界。
 真っ暗な空間に白い霧、何処からの光かは分からないが、その霧は光っているというよりも光を反射している輝きだった。


「どこだよ、ここ?」


 自問、しかし答えが分からないので自答とはいかない。

「……マジ気で何処っスか?」


 しかも敬語もどき、自分が混乱し始めていることが分かる。

 でも何故か、焦りとか不安とかはまるでなくて。
 呆然としている、が当てはまるようだ。


「あ?」

 足元が突然光り、声が漏れた。


 よく見ると、水族館の下が見える窓のような床(?)から、何かがエレベーターで上がって来る。おもっきり真下に。

 とりあえす三歩下がってしゃがみ込み、観察してみる。


「頭……、人間?」

 近づいて来るにつれ、帽子を被った人頭がハッキリ見えてきて、手・胴体・足が分かる。人型であって現代科学ではありえないワケではない、が。


 現在自分のいる所は少なくとも、記憶に残る学校の通学路ではない。

 だから相手が人間かは不明。
 というか、一般人ではない事は確定。


「というか、ワイヤーは?下から上げてんのか?」

 現実的思考で辺りを見回してみた。

 とか言ってる間に、頭が数秒前まで足があった場所から現れた。

 かなり気色悪い光景。


 真っ暗な空間に、鈍く輝く真っ白な霧。

 その中に現れたソイツは、黒いコートを着ていて、下の赤いシャツが、金具の銀を引き立てている。


「…誰?」

 全部出てきて分かったのは、結構背の高い、美形な男だってこと。
 年齢はおおよそで25・6歳あたり。


  おぉ〜っ、モデルから俳優にのし上がって果てに歌とか歌いそうな、超美形。


 関心中。


 男性はしゃがんだまま見上げるこちらに、鋭い睨みを利かせながら低くも耳に快い声を発した。


「ようこそ、聖神界へ」


 歓迎されているとは、お世辞にもいえない声音で、表情で言われた。



「?聖神界……?」



 聞き返しても答えはなく、低い声は俺の反応など、どうでもいいとばかりに続けた。


「“運命”を司りし”ウィルド”…」

雨音 [dmSrQ-PuqhW-vyMbi-ObHmP] 2005/09/17(土) 11:56:46


「”ウィルド”?」

 間の抜けた声で聞き返しても、そいつには聞こえてない。


「・・・私はアンスール。お前を臣城へ連れるように言われて来た」

 アンスールは淡々と言った。


  こいつには耳がついてねぇのか…?!


「は…?って、ちょっと、待った…。」

「何だ」

 俺はパニックになりつつある意識で、全くワケの分からない相手の自己紹介と、状況に待ったをかけた。
 ようやくこっちの声に応答した、その美形は、何故かもんのすっごく鬱陶しそうだった。


「ここ、どこ?」

 もっとも、そんなことに一々気が回ってられル程、俺に余裕はなかった。
 さっきとは打って変わって、頭の中がぐちゃぐちゃになって回っている。


「・・・ここは聖神界の入り口だ、あまり長いこといると精神崩壊を起こして死ぬ。」


 さらにさらに、相手は不動の如くあっさりと、きっぱりと答えてくれたんで、余計にワケの分からない渦は広がった。


「その聖神界って・・・?」


「この世界の事だ、他に何がある?・・・行くぞ」

 そう告げると反転して歩き出す。
 下から来たくせに歩いてくのか?という質問は思っても、口には出さないでおくとして。


「おい?ちょ・・・、待て!!」


 足が長い所為か意外に早い。
 ソレを呼び止めると、アンスールは振り返った。

 呼び止める拍子に立ち上がると、相手ががどれほど背が高いのかがより良く分かる。


「聖神界?なんだよそれ!?まるで異世界に来たみてぇじゃねぇか!!」


 アンスールの溜め息が何故か頭にきた。

「事実そのとうりだ、何処をどう見て下界に見える?」

「下界・・・?」


「・・・お前達人間が治める世界、お前はそこから神の指名を受けて此処へきた。」


「はぁ!?オレは地球って世界の日本人で、列記とした高校生だ!!神?指名?そんなのされる筋合いはねぇ!!」

 叫ぶと、空気が不自然に振動して声は響いた。


「オーディンが何故お前を指名したかなどは知らん、私は神の命令に従うまで。お前の『生前』の事など関係ない」

 
 ふと、ごっちゃになっていた思考が、停止した。
 こいつは今、何ていった?

 俺は、何て聞こえた?


「・・・生前?」


 自分の手のひらを見た。
 自然と視線は下に下りて、手の平は開かれて。

 今度はハッキリ、赤く染まり力なく倒れた手が重なった。


「自分が死んだ事すら分からないのか」


 皮肉な物言いが、衝撃となって体中を走った。

雨音 [YdvWl-ezngR-neixM-yFncJ] 2005/09/18(日) 12:34:15



「死んだ?」


 分からない、しかし自分が死んでいると聞いても違和感が無かった。

 確かに死んだ感覚がある。なのに記憶は、ホンの少しの映像がフラッシュバックしてくるだけで、何も無かった。


「死にもせずに、下界のものが聖神界に来れるものか」
「……」

 死んだら天国だの地獄なのってのは聞いた事はあったが、聖神界なんだのは聞いた事も無い。

 呆然と混乱で静止している体に、また冷たく低い声が響く。


「いい加減行くぞ、この聖神界には此処のように不安定な空間が幾つかある。場所によっては踏み入った瞬間、死ぬような所もな」

「…ん?」


  死んだのに、死ぬ?

「オレは死んでんだろ?これ以上に死ぬなんて事あんのか?」

  どう考えたっておかしいだろ?それは。

 
 尋ねた俺に、アンスールは溜め息を吐いて、少しの揺れも無く真っ直ぐに睨みを利かせてきた。


 美形なだけに、睨まれると迫力がすごい。


「その話を聞いて死ぬか、安定した所に出るまで待って聞くか。どちらでも好きにすれば良い、私はお前よりも長居できる、お前が聞いて死んだ後に此処を出る事も出来る」


「な……っ」

  ムカつくヤローだなっ!


 しかしその心中を相手にぶちまけるより先に、アンスールの背中が遠のいた。

 白い霧に、その姿が見えなくなろうとした時。少なくとも置いてきぼりは避けたいと、早足でついて行った。


 正直、ココに床やら道やらがあるようには見えない。
 泥泥とした黒い液体の波の上に、見えないガラスがあるようで、一歩一歩が危なっかしくて仕方ない。
 確かに動いている黒い部分を見ていれば、何処までも飲み込まれそうだ。


 かといって、足元を見ずに進む余裕や度胸は無かった。


 少しずつ沸いてきた気持ち悪さや、なんだろう、頭の中が解けていくような錯覚に絶えながら――…。

 霧が晴れる所まで歩くと、前方に光が見えた。

 眩しさに手で光を遮りながら、出る。


「………っ」

 真っ白、しかもものすごく巨大な橋が視界の殆どを埋めていた。
 ただでさえ真っ暗なトコから出てきて、目が痛いのに。その白さは脳髄そのものを刺激するようだった。


 この瞬間、地球ではない事が確信された。

 地球にこんなものがあるのなら、生まれてからの16年間に一回はテレビで見るだろう。そしてこんなにも美しいものを、早々忘れられるものでもない。


「すげ・・・」

 前を見ると、アンスールがいた。


  めっちゃこの場所と合ってるし。


 それは彼の容姿と橋の美しさから、皮肉など欠片も無く正直な感想だ。

 暗い中の白い霧では見えなかったが、彼の長い髪は滑らかな赤茶色で青紫の虹彩。明らかに人工的なものではなく、自然な色合いがより良く彼を引き立てていた。


 気持ち悪さも徐々に収まって、俺は無意識の内の溜め息で、灰色の息を吐き出し、今まで山登りをしたときに暗いでしか感じたことの無い、綺麗過ぎる空気を吸い込んだ。

「なぁ、此処はもう安全なんだろ?さっきの答えは?」


 言うとアンスールは立ち止まる。

「お前は落ち着きというのは無いのか、もう暫らくすれば臣城に着く」
「・・・それまで待てって?」

 すぐに歩き出した後を追い、無言の肯定が向けられた。


「アンタ、ぜってー兄弟いるだろ…」


 その時何気なく言った言葉に、思っても無い反応があった。

 睨むわけでもなくアンスールがこちらを凝視していた。
 言った本人は橋の下を見下ろして、気がついてはいないが。

「たっけー・・・、どうやって作ったんだ?」


 川のような、水路のような上にかかっている橋を進んでいくと、丁度いい高さの塀の部分があり、近づいた。

 自分の置かれている状況はどうであれ、美しいものに対する感動と好奇心は無意識に沸いてくるようだ。

 そして何の変哲も無い、あたり一面となんら代わりの無い、石板に足を乗せた。


「え?」

「!?」

 突然、下から風が吹き出した。
 激しい光が足の下から湧き上がって、あっという間に体を飲み込んでしまった。


「なんだっ!?」

 体が宙に浮いたような浮遊感。

 その次には激しく、何かに体を叩けた衝撃があった。

雨音 [dmSrQ-GfVAj-IBzyr-DOwfC] 2005/09/19(月) 11:35:44

この小説の、メール読者(無料)登録:
メールアドレス:
登録 解除

置き場の移動(執筆者専用):
PassWord: 移動先:

小説広場