唯我独尊!

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厚かましくも、リレーではありません。
タイトル通りともかく突っ走ります!
相田らしさを大切に書こうと思いますので、良かったら付き合ってやって下さい^^


無い胸を張って、彼女は言った。
「世界はこのあたしを中心にして回っているのよ!!!」
彼女の名前はセーラ。
一国の王女でありながら、得意の魔法で吹っ飛ばせるモノは全て吹っ飛ばす。
そんな彼女が臣下のシオンをつれて巻き起こす騒動の数々。
どうぞごゆるりとご堪能下さいませっ♪

相田 泉 Mail 1999/07/03(土) 17:52:51

第一話 我が儘姫の旅立ち
穏やかな午後の陽気に包まれた、アリーテ王国・城下町コルン。
どっかぁぁぁぁぁんっ!
突如、その爆発音は響いた。
アリーテ城からである。

「何事だっ!?」
「姫だっ!」
「セーラ姫だっ!!」
その言葉に、騒ぎ合っていた兵士たちはピタッと動きを止め、顔を見合わせる。
(・・・またかよ?)
誰もの頭に、その言葉が浮かんだ。
彼女の城内での爆発は毎度のことで、三度のメシより当たり前の出来事なのである。
「・・・じゃあ、そういうことで」
お互い持ち場に戻ろうと身を翻して、ハッと動きを止めた。
「今日は特別じゃないかっ!!!」

「一体あなたは何を考えているんですかぁぁぁぁっ!?」
地面へと落下しながら、シオンは叫んだ。
さっきの魔法でセーラは自分の部屋の壁を吹っ飛ばし、50メートの高さから飛び降りたのだ。
「だって、部屋の入り口には見張りが立ってたじゃない?」
「そうじゃなくてっ、今日という日に魔法で城を吹っ飛ばすなんて何を考えてるのかって言ってるんです!」
「何も♪」
軽く言って、セーラは小さく呪文を唱えた。
不意にふわっと、彼女の体が浮く。
すかさずシオンがその体にしがみついた。
「あれほど国王様に、今日は自重していろと言われたばかりじゃないですかっ!!!」
「何と言われようとあたしは退屈が我慢出来ないのよっ!何よ、魔法だって使いまくって、盗賊だってこのあたしが捕まえてやるんだからっ!」
「・・・まぁ、セーラの我が儘は今に始まったコトじゃないですけどね」
観念したように、シオンは深くタメ息をついた。

―事の起こりは、今朝にさかのぼる。
「セーラ、明日はお前の13歳の誕生日だ」
臣下をあつめた謁見の間で、国王は晴れやかな顔でそう言った。
反対に、セーラは地獄に連行されたような最悪な気分である。
国王である父が、次に何を言いたいか、手に取るよりも早くわかっていた。
「そこでお前に・・・」
「お断りします!」
父に二の句を告げさせず、セーラはきっぱりと言った。
「いや、こんないい話は一応聞いて・・・」
「聞きません!!」
「実はな、各国からの使者から続々と縁談の・・・」
「あたしは結婚はしません!!!」
国王は、大きくタメ息をついた。

「毎日毎日、城を魔法で吹っ飛ばしおって、今のウチに結婚して身を固めたらどうだ?」
アリーテ王国では、女が13で結婚することはそう珍しいことではない。
まして王家の者ともなれば尚更である。
「そうですよ、姫様。魔法好きのオテンバなんていう噂の広まらないうちに!」
セーラの乳母であり、シオンの母でもあるビエラまでがそう言う。
誤解して貰っては困るが、セーラはそうブスではない。
パッチリとした大きな目にサクランボ色の唇、さらりと長いブロンドの髪。
どちらかと言えば、美少女の部類に入ると言っていいだろう。

「何度も言うようですけど、私は結婚はしません!それより世界を冒険してみたいですわ」
「・・・お前みたいな世間知らずが、この国を出てどうなる?」
「あら、心配はご無用ですわ父様」
自信に満ちた目で彼女は笑う。
そして、無い胸を張って彼女は叫んだ。
「だって、世界はこのあたしを中心に回ってるのよ!」

くすくす・・・
不意に、小さな笑い声が起こった。
「いや、これは失礼」
明らかにセーラをバカにした視線で、その男は言った。
歳は中年の髭を生やしたガッシリとした体格。
アリーテ王国・大臣サバト・カスールである。
前任者が急病で亡くなり大臣となった、なりたてホヤホヤの彼。
頭はキレるし、仕事も出来るがセーラはこの男が嫌いだった。

「何か?」
「いいえ、姫様。ただ、今城内で起こっている盗賊騒ぎが姫様のせいだと、忠告する者がいないため、あなたがこんなに身勝手になったのかと思いましてね」
嫌味な口調であざ笑うサバト。
実際は、穏やかな優しい口調で言っているのだが、セーラだけにはそう見えたのだ。
そして極めつけ、彼はこうまで呟いた。

『その性格では将来の縁談は期待出来ないでしょうな』

「あんの、クソ大臣〜っ!!!」
その言葉を思い出し、セーラは怒りをこめて叫んだ。
「ちょっ、ちょっとセーラ!」
不意に、下を見下ろしシオンが叫ぶ。
既に地面は近くなっていた。
「何よ?」
「人がいますっ!」
「・・・は?」
「このままでは人の真上に落下しますっ!!!」
見下ろせば、セーラたちを見上げてポカンと佇む少年が一人。
直撃すれば、人殺し。
「どいてぇぇぇぇっ!」
セーラは必死に叫び声を上げた。

相田 泉 Mail 1999/07/03(土) 23:23:37

セーラは空中で、しがみつくシオンを振り払い、一回転するとヒラリと着地した。
「・・・10.0!」
言って、決めのポーズまでしてみせる。
ズバベシャッ!!!
反対に、シオンはまともに地面に顔を叩きつけた。
ともあれ、二人とも何とか少年を直撃することは避けられたのである。

「・・・えっと・・」
突然空から降ってきたセーラたちに、少年は困惑の表情を隠せない。
少年はつややかな黒の短い髪に、おでこには赤いバンダナ。
白いTシャツにGジャンのベスト、そしてGパン。
肩から大きな剣を背負っている。
一見したところ、旅の冒険者である。
ちなみに言っておくと、セーラは緋色のワンピースに白いマント。
シオンは現代で言う、学生服の白色版と言った服装で、ハタから見れば二人とも、冒険者と見えないこともない。

「あぁ、悪いわね、驚かせて」
同い年くらいのその少年に向かって、セーラは小さく笑いかけた。
「いいえ」
つられてニッコリと笑い返す、少年。
(・・・おぉ、純情少年だわ)
心の中で、セーラは呟いた。
シオンが綺麗系の顔ならば、この少年はカッコイイ系の顔。
だが、ニッコリと優しげな表情の少年は、カワイイという言葉が一番適切に思えた。
「あなた、こんな所で何をしてたの?」
不意に思いついて、セーラは言う。
そこは、ちょうど四方に囲まれた城の城壁の外。
城の入り口のちょうど真後ろのため、人もあまり来ない場所なのだ。
「それは・・・」
「いたぞっ、姫様だっ!!!」
少年が何か言いかけた時、お揃いの青と黄色の制服で身を包んだ衛兵たちがやって来る。
「姫ぇっ!?」
少年が素っ頓狂な声を上げてセーラを見つめる。
「追われてるんです、とにかく助けて下さいっ!」
堂には入った演技で叫ぶセーラ。
後ろで頭を抱えるシオン。
「わかりましたっ、ついてきて下さいっ!」
意気込んで、少年はセーラの手を引いて走り出した。

「ええいっ、姫様を逃がすなっ!半分はここに残って、修理だっ!」
後ろで、響く衛兵隊長の声。
全速力で振り切ろうとするセーラたち。
別れ道が来るたび少年は、左に曲がって、左に曲がって、左に曲がって・・・。
(・・・うん?)
不意に、シオンの思考に嫌な予感が走る。
そして―
よく見れば、さっきと似たような風景。
見たことのある制服が並び・・・。
「しまった!一周して戻ってきちゃった!!!」
そう、セーラたちは逃げているつもりが城壁を一周してきただけなのである。
「まぬけぇぇぇぇぇっ!」
少年に向かって、力いっぱい、セーラは叫んだ。

「なっ、なんだ!?戻ってきたぞ、姫様だっ!」
驚きつつも、向かってくる衛兵。
「しょーがないっ、ここは一発・・・」
「ダメですっ!!!」
魔法を唱えようとするセーラに、思わず叱責をとばすシオン。
「これ以上、騒ぎを大きくしたら、それこそ来ている各国の使者や王家の方々に、どんな印象を与えるか考えて下さい!」
「あたしは『照明』とか『睡眠』とか、ハデじゃない呪文は嫌いなのよっ!」
(その前に、魔法を使うって思考を変えて下さいよ・・・)
心の中で小さく呆れるシオン。
「じゃあ、僕がやりますっ!」
「・・・え?」
不意にした言葉に、セーラとシオンの視線が少年に注ぐ。
少年は『照明』の呪文を唱えだしていた。
そして両手を上に掲げて、彼は叫んだ!
「『照明』っ!!!」
彼の手から発せられる、まばゆい輝き。
セーラとシオンはとっさに、手で自らの目を覆っていた。
「ぐあっっっ!」
兵士たちから発せられる、悲鳴。
これで数分は、目がくらんで動けないだろう。
「よしっ、行くわよっ!」
勢いよく叫んで、セーラは少年を振り返り―
思わず、ズッコケた。

「何であんたまで、呪文くらってるのよっ!!!」
「・・・いや、目を瞑るの忘れちゃって・・・」
「ほんっっっっと、まぬけね。あんた、名前は?」
まだ目の見えない少年の手を引いて走り出しながら、セーラが問う。
「マシェラです」
「そう、シェラねっ!?」
「え・・・、マシェラですけど?」
「ま抜けのシェラ、ぴったりじゃないっ?」
セーラの横で走りながら、小さく苦笑してみせるシオン。
「あたしはセーラ、こっちは臣下のシオンよ。よろしくね、シェラ♪」
「マシェラですって!!!」
彼の叫びは、夕暮れを迎えようとするコルンの町に、ただ吸い込まれていった。

相田 泉 Mail 1999/07/04(日) 12:31:12

「ここにもディナー三人前ねっ!?」
食堂の一番端のテーブルに落ち着いて、セーラは元気よく叫んだ。
店は活気に溢れていた。
普段なら静かなコルンの町だが、明日の姫の『誕生祭』に参加しようと、旅行者、冒険者などが続々と集まってきているのだ。
まさかそのセーラ姫がこんな所にいるとも知らずに。

「・・・それで、盗賊退治なんてタンカ切ったはいいですけど、何かアテでもあるんですか?」
マシェラに聞こえないよう、小声で囁くシオン。
あの後、何となく成り行きでマシェラも共に行動している。
セーラが姫でも、追われていても、マシェラは自分からは何も聞かなかった。
「あるワケないじゃないっ!?大体、何であたしがその盗賊騒ぎの原因なのよ?」
「火のないところに煙は立たないものですっ!」
言って、シオンはビラッとセーラの鼻に一枚の紙を突きつけた。
「・・・何、これ?」
「王室諸経費の割合ですよ」
見れば、大きく書かれた円グラフ。
その3分の2ほどが赤く塗られていた。
「・・・何で今、こんなモノ持ってるのよ?」
「あなたが爆発を起こした時に、ちょうど書いてたんですよ・・・って、そんなことはどうでもいいんですっ!それより、この赤く塗られた部分があなたの魔法の修理費なんですよっ!!!」
力いっぱい、シオンは叫ぶ。
「ほぼ6割ですよ、6割っ!あなたが魔法で壊して警備の薄くなった場所から盗賊が侵入したと考えるのが普通の人間ですっ!!!」
「あたし、王女だもん♪」
「王女だって、そう考えて下さいっ!」

「・・・こ、声、大きいよ?」
不意に、横からマシェラが口を出す。
気がつけば、言い合いをしているうちに声のトーンが上がっていたらしい。
ごほんっ。
シオンは一つ、咳払いをした。
幸い、他のテーブルの者にまでは聞こえなかったようである。
「今の話って、アリーテ城から物が盗まれてるって話だよね?」
遠慮しつつ、マシェラは切り出した。
「シェラ、知ってるの?」
「ある筋から情報を聞いて」
小さく微笑を浮かべるマシェラ。
「そういえば、まだ、シェラがあんな所にいた理由を聞いてないわ」
一瞬、彼は口を噤んだ。

「・・・実は僕、『太陽の聖書』を探してるんです」
顔をあげ、真っ直ぐな視線でマシェラは言った。
「何、それ?」
「確か、手に入れた者の望みを何でも叶える・・・という?」
「何でもっ!?」
「しかし、その存在は伝説に過ぎないと聞いてます」
シオンの言葉に、マシェラは小さく笑ってみせる。
「うん、そうかもしれない。だけど、絶対にないってワケじゃない。だから、探してるんだ」
「で、それがどうしてあの場所にいた理由と繋がるのよ?」
「ここ一ヶ月ほど前から、ブッラク・オークションの一つとして、王室関係のモノが売買されてるって噂を聞いたんだ」

その一言で、セーラとシオンはある程度を理解した。
「なるほど、『太陽の聖書』っていえば伝説のモノ=高級品、裏で売買されるとしたら、そこだと思ったワケね?」
「うん、それで城から怪しい人が出てきたらその後をつけようと思ったんだ。幸い、明日は姫の『誕生祭』で、各国から贈り物が届くハズだと思って・・・」
「それはありませんね。貢ぎ物は既に城外の宝物殿に管理されてますし、そこから物が盗まれたことはありません」
「ってことは、そのオークションの場所を知る手掛かりは無しってコト?」
「ううんっ!・・・実は、昨日のうちにめぼしい場所は見つけてあるんです」
「そっれを早くいいなさいっ!」
セーラは勢いよく立ち上がった。
「そうと決まれば、まずそこになぐり込みよっ!!!」
言って、ばさりとマントを翻し―
「あ、でも夕飯食べてからね」
つられて立ち上がった、シオンとマシェラは思わず突っ伏した。

ブラック・オークションは、とことん怪しかった。
参加者は全て、強制的に仮面とマントを着用させられるのだ。
そして、売買される品物の数々。
全てが高級品かと思いきや、なんと王室専用のナフキンやフォーク、皿などまで売買されていたのだ。
「・・・あれも、盗品になるのかしら?」
驚くほどの高値をつけるフォークや皿に、セーラはちょっぴり切なそうに言った。
だが、内心はこうである。
(あたしが壊した城の破片でも高値をつけるかしらっ!?)
「黒幕は誰でしょうね?」
極めて冷静なシオン。
進行を務める司会者が一人いるが、とても彼が黒幕とは思えなかった。
「さて、それでは今回の目玉商品ですっ!!!」
司会者の声に、観客から歓声があがる。
「もしかして・・・?」
ゴクリと喉をならすマシェラ。
そして―
「・・・・いぃぃぃぃっ!?」
現れた『目玉商品』に、セーラたちは、思わず目を見開いた。

相田 泉 Mail 1999/07/05(月) 00:48:06

「今夜の目玉商品はなんとっ、セーラ姫の生プロマイド写真ですっ!!!」
「はぅあっっ!?」
一つ呻いて、セーラはこめかみを押さえた。
突然、スクリーンにセーラの写真が映し出されたのだ。
写真は三枚。
笑っているモノ、怒っているモノ、そして得意げな顔のモノ。
観客からは嵐のような大歓声が響き渡る。
そして、次々と飛び出す高値の掛け声。

「すごぉ・・・い、セーラって人気者なんだね?」
既に金貨30枚まで値をつり上げたプロマイドセットに、素直に感心してみせるマシェラ。
「・・・嬉しくないっ!!!」
心の底から、セーラは叫んだ。
売られた写真が、誰の手に渡ってどうされるのか?
確かに考えたくないコトではあった。
「ちょっ、ちょっとセーラっ!さすがにここで騒ぎを起こすのはマズイですからねっ!まだ、盗賊の手掛かりだって・・・」
シオンの静止途中で、一層大きな歓声が上がる。
なんと、写真が金貨100枚で落とされたのだ。
「金貨100枚って、家が買える値段じゃないですかっ!?」
驚愕のシオンの叫び声。

セーラは立ち上がった。
「・・・勝手に・・・」
ゆらりと、彼女の手に魔法が生まれる。
「え、えっ、えっっ!?」
目のすわったセーラから、思わず遠ざかるマシェラ。
「みなさんっ、避難ですっ!」
危険を察して、叫ぶシオン。
そして―
「勝手に人の写真に値段をつけてるんじゃないわよーっ!!!」
セーラの魔法は、そこに存在した、その全てをことごとく吹っ飛ばしていた。

「この、バカ娘っっっっっ!!!」
既に、夜の更けたアリーテ城に、国王の声が響き渡る。
あの後―
セーラの魔法で、その場は大騒ぎとなり、駆けつけた衛兵たちによって、拘束されて結局城に
戻ってきたのだ。
ただし、マシェラはいなかった。
衛兵がやって来たとき、セーラはマシェラに何かを囁き、自らが拘束されることによって、彼を逃したのだ。

そして、再び謁見の間には、今朝と同じ面々が揃う。
「王女たるもの、町中で魔法を使うとは、何を考えておるっ!!!」
「確かに、反省はしてますわ、父様」
いけしゃーしゃーと、セーラは言ってのけた。
「では、明日の『誕生祭』、大人しく参加するか自室で謹慎するか、どちらを選ぶのだ?」
「どっちも嫌です」
「この我が儘がっ!!!」

「ともかく父様、私は一人の人間として、自らの潔白を証明ようと思いますわ」
凛とした声で、セーラは言う。
「なんだ?」
疲れ気味に問う王。
「シオンを引き連れ、我が城に侵入する不届き者を探っておりました、そして、ちゃんと見つけてきたのです」

ざわりっ。
集まった重臣、兵士などから、どよめきが起こる。
驚愕の表情のシオン。
彼の知る限り、一緒に行動してきたが、そんな手掛かりなど全くつかめてはいなかったハズなのだ。
「ともかく、申してみよ」
「はい。町で情報を集めてみるに、黒幕は城に近い者でありかつ、最近出入りしたと思われる人物・・・」
そしてセーラは胸を張り、真っ直ぐに指をさして叫んだ。
「それはあなたよっ、大臣サバト・カスールっ!!!」

一瞬、謁見の間を静寂が支配した。
視線が一斉にセーラとサバトに集まっていた。
シオンは一人、頭を抱える。
(あの姫はまた、ハッタリをぉ〜!?)
ここで、セーラの言葉が口からの出任せであれば、城内における彼女の立場はさらに悪くなる。
そうでなくても、財政難の諸悪の根源、セーラ姫なのだ。
なんとか場を取り繕うと、シオンは立ち上がり―
「・・・なぜ、わかった?」
ずざざざざざっ
シオンは、頭から倒れ込んだ。
大臣サバト・カスールが、自らの悪事を認めたのだ。

面食らったのは、国王・その他の家臣たちである。
彼らはセーラの言葉を全く信じていなかったのだ。
嵐のようなどよめき。
「あら、意外とあっさり認めるのね?」
そんな中、腕を組んだセーラは悠然とそう言い放った。
「えぇ、私の『役目』はある程度終わりましたからね」
「・・・どういうこと?」
「これから、財政難と悪評のついてまわるあなたが、この国をどう治めるかが楽しみだと思いましてね」
不敵な笑みを見せるサバト。
「とっ、ともかく逮捕だっ、逮捕っ!!!」
その時、我に返った国王の声が、謁見の間に響き渡った。

「なぜ大臣が黒幕だとわかったんですか?」
サバト逮捕のざわめきが残る謁見の間で、シオンはセーラにそう問いかけた。
「わかってなかったわよ」
「・・・は?」
あっさりと返ってきた返事に、一瞬、目を点にするシオン。
「ハッタリよ、ハッタリ!だってあたし、あいつ嫌いなんだもん♪」
「・・・・・」
口をぱくぱくさせ、言葉もないシオン。
そんなシオンに、セーラは腰に両手をあて、無い胸を張って言った。
「言ったでしょ?世界はこのあたしを中心にして回ってるってね!!!」

「・・・回りすぎです」
ようやく、そう言って深くシオンはタメ息をついた。
「まぁ、一つ確証を得たっていえば、コレなんだけどね」
いたずらっぽく笑って、セーラはシオンに一枚の写真を差し出した。
「これはっ!?」
それは、オークションに出た、怒った顔のセーラの写真だった。
「その写真だけ、真っ正面から撮られてあるじゃない?あたしが最近そんな顔で怒った人物って言ったらサ、あのクソ大臣しか思い浮かばなかったからね!!!」
言って、セーラは小さくウインク一つ。
(あの状況で、それだけ見抜いていたとは・・・)
ちょっとした脱帽も入り混じり、シオンは苦笑で髪をむしった。

「さて、そろそろ行かなきゃっ!」
窓から降り注ぐ月明かりに目を移し、セーラは元気良く言った。
「・・・行くって、どこへですかっ?」
「決まってるじゃない?冒険の旅よっ!」
「どっ、どうやってですかっ!?言っておきますけど、地上は今、かつてないほど衛兵で一杯ですからねっ!」
「・・・地上はね」
意味ありげな笑いを見せるセーラ。
不意に。
地上の兵士たちが騒ぎ出した。
「なっ、なんだあれはっ!?」

急いで、セーラとシオンは窓による。
―そこは色で溢れ返っていた。
赤・青・黄・緑・白
「・・・風船?」
呆然と、シオンが呟く。
「セーラっ、そろそろだと思って、迎えに来たよ!」
「ピッタリよ、シェラ♪」
「どっ、どういうことですかっ!?」
「シェラに頼んでおいたのよ、迎えに来てって。その代わり、『太陽の聖書』探しを協力するからってね!」
言って、セーラは風船の束を掴もうとする。
「この国はどうするんですかっ?明日の『誕生祭』はっ!?」
驚いて、シオンは叫んだ。
「めんどくさいコトはシオンに全て任せたっ!!!」
「ちょっ、僕を置いていくつもりですかっ!?」
「・・・何よ、ついてくるの?」
「行きますっ!!!」
即答して、シオンも風船の束を掴んだ。
そして、3人は空へと旅立つ。

「・・・いいんですか、国王様」
遠ざかっていく風船を見つめて、ビエラはそう問いかけた。
「仕方がないだろう、あの我が儘娘はもう言葉で言っても無駄だ!・・・それに」
王は、右手に握った紙に視線を移す。
【王室財政難回復・必殺法!】
下手な字でそう書かれ、民に王室オークションを開くべし!と一言。
「あやつもそれなりに国のことを考えているとわかったからな」
苦笑しつつ、王は小さく呟いた。
「亡くなったシーラ様に、よく似てこられましたしね」
「あれも、世界を冒険してワシと出会った。強くは言えまいて・・・」
やがて、風船は彼らの視界から消えていった。

「あ〜あ、臣下が国を捨てるなんてねー?」
気持ちのいい夜風に流されながら、セーラは言った。
「姫が国を捨てるよりはマシですっ!!!」
声を張り上げて言うシオン。
「いいの、セーラ?本当に?」
心配そうな顔で問うマシェラ。
「いいに決まってるわよ!地位も名誉も権力も、あたしには必要ないわ!」
強気な視線で、セーラは笑った。
「退屈じゃなければ、それでいいのっ!」

見下ろせば、町の灯り。
優しく照らす月明かり。
平和な「聖なる国」アリーテ王国。
「それで、どこまで行くんですか?」
シオンの問いかけに、セーラは力強く言った。
「モチロン、行けるところまでよっ!」

ふわふわと風にゆられて、風船はゆっくりと飛んでいった。
どこまでも、どこまでも・・・・。

相田 泉 Mail 1999/07/05(月) 21:14:03

第二話 無邪気な魔法使い
「あぁ〜あ、何でこうなるかな〜?」
ざわめく人混みの中、セーラはポツリと呟いた。
夕暮れ時の街中、人々がすれ違って行く。
「しょうがないよ。昨日の『誕生祭』も終わり、各国の使者たちが帰国するため、船が無いんだから」
セーラの横に並んで歩きながら、マシェラが笑顔で言う。
その横で、シオンは新聞に目を通していた。

ここは港町サントリシア。
城下町コルンから200km以上離れた、場所である。
さすがに、アリーテ王国から他の国へと旅立つための唯一の港だけあって、街には人が多い。
赤い夕日に、立ち並ぶ家々の、石灰造りの白さが妙に映えていた。
セーラたち3人はここから船に乗って、違う国へ旅立とうとしていたのだ。

そもそもアリーテ王国は、世界の一番南に浮かぶ孤島の国。
別名「聖なる国」とも呼ばれ、国王は最高の神官。
王女は巫女とされ、神への信仰の厚い国である。
その昔、まだ大陸に『神』と『悪魔』が存在した頃、神と人との間に生まれた子供が創った国とも言われ、【各地に伝説と秘宝が眠る】と今でも信じられている。
つまり、それほど人の訪れない辺境の地なのだ。
実際は世界に数少ない地下資源、魔法技術などで、地位的には低いものではないのだが―――

「これからのこの国の世界的地位が心配ですっ!!!」
読んでいた新聞の一面をセーラに突きつけて、シオンは叫んだ。
そこには【セーラ姫急病のため『誕生祭』に出席ならず!】の文字が大きく書かれていた。
「各国から使者を呼んでおいて、姫が失踪だなんて、わが国の面目はまる潰れですよっ!」
「いいのよ、病弱王女が体調崩しちゃっただけなんだから♪」
「どこが病弱ですかっ!?我が儘ならわかりますけど・・・?」
「何ですってぇ〜?」
「あ、ねぇ、ほらここ!」
不意に、セーラとシオンの間に割って入ってマシェラが叫ぶ。
「大臣サバト・カスール脱走・・・?」
マシェラに指さされた、三面の小さな記事を呟くシオン。
「へぇ」
興味なさげに肩を竦めるセーラ。
「へぇ・・・って、興味ないの、セーラ?」
「そうねぇ、もしどこかで会ったら、今度は遠慮なく魔法をぶっ放したいかもね」
小さくマシェラにウインクを返すセーラ。
(・・と、そーいえば)
ふと、セーラは足を止めた。
「どうしたんですか、セーラ?」
シオンの言葉に、セーラは満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「大魔道士アデューに会いに行くわ!」

「・・・・・・・・・はい?」
間を置いて、思わず間抜けな返答を返すマシェラ。
いくらなんでも、どうしてそう唐突にそんな言葉が出てくるのか?
「アデューって、『三賢者』のあのアデューですね?」
反対に、シオンは落ち着き払ってそう答える。
セーラの突拍子もない、思いつきにはもう慣れたものだった。

20年前、この世界のある王国が、世界征服などという目的で、世界を混沌の渦に巻き込んだ時があった。
その時に活躍したのが大魔道士アデュー、他2名。
詳しい話は今は除くとして、当時人々から『三賢者』と崇められたアデューは今ではただ伝説の人となり、その所在すら知られてはいない。

「この国にいるなんて初耳ですけど?」
持っていた新聞を折り畳みながら、シオンが聞く。
「そう?あたしは城にいるとき、耳にしたわよ。彼の弟子が最近この港町にいるってコトもね!」
「愛弟子ですか・・・」
「でっ、でもセーラ、その人に会いに行ってどうするの?」
「モチロン、魔法を教えて貰うのよ!もっともっと派手なのをね♪彼は【魔系魔法】を極めたとも言われる人だから」

この世界の魔法には主に【神系魔法】と【魔系魔法】の2種類がある。
【神系魔法】は、いわゆる補助・浄化の魔法。【魔系魔法】は破壊・消滅の魔法だ。
セーラは巫女である故、【神系魔法】は完璧にマスターしていた。
つまり、王族にしか伝わらない秘伝の魔法まで。
だが、セーラに言わせると「【神系魔法】は派手じゃないから気にくわないっ!」らしく、彼女がその系の魔法を使うことは滅多になかった。
臣下であるシオンは一応僧侶の部類に入り、彼は神系のみ完璧にマスターしていた。
つまり、攻撃はセーラが担当し、防御・補助系はシオンが担当するという役割分担になっているのだ。

「じゃあ、まずその愛弟子から探したほうが良さそうですね?」
冷静にそう答えるシオン。
どうせ、3日間は船に乗れないのだ。
ここでセーラの我が儘に付き合って時間を潰すのも悪くないと彼は考えていた。
が、ふと、折りかけた新聞の二面で視線を止め、
「セーラ、最近この町で『美女誘拐事件』が続発してるようですよ?」
「・・・何それ?」
言って、新聞を覗き込むセーラとマシェラ。
「へぇ、夕暮れ時に一人で歩く美女が次々と行方不明となっている・・・ねぇ」
「じゃあ、セーラは気を付けなくちゃ」
ニッコリ笑って言うマシェラ。
セーラは思わず顔を赤らめた。
「だめですよ、マシェラ。セーラをつけ上がらせては・・・」
「それはどういう意味かしら?シオン・セイ・トゥルー?」
「いえいえ、姫様。言葉通りでございま・・・」
突如、シオンとセーラのふざけた会話を遮って、大きな爆音が響いた。

どかぁぁぁぁぁんっ!

不意に、町中で魔法が炸裂したのだ。
セーラは思わず身を翻すと、一気に走り出す。
「ちょっ、セーラっ!?」
慌てて後を追うシオンとマシェラ。
その後ろで声が響く。
「逃げたぞー、そいつらが爆発を起こした奴らだっ!!!」

「セーラが爆発を起こしたワケじゃないのに、どうして逃げるんですかっ!?」
追ってくる町民たちを振り返りながら、シオンが叫ぶ。
走りながら、はたと、セーラは言葉に窮し
「条件反射よっ!!!」
悲しき習性をキッパリそう断言した。
「・・・ま、まぁわからなくともないですけど・・・」
そういうシオンの額に流れる、汗一筋。

どっかぁぁぁぁんっ!

再び、爆発が起こった。
今度はセーラたちの真後ろで。
追ってきていた町民たちが煙に包まれていた。
「・・・一体、何?」
セーラは思わず足を止め、
「うわぁぁぁんっ、ごめんなさいですぅ〜」
叫びながら、煙の中を突っ走ってくる一人の少女がいた。
黄色のワンピースに黒いマント。
天然パーマ長い赤毛に、魔法の帽子。
一見したところ、見習い魔法使いの女の子だった。

相田 泉 Mail 1999/07/13(火) 22:22:03

「アサナが悪いんじゃないんですぅ〜」
「ちょっと待てっ!!!」
駆け抜けようとする少女のマント掴んで、思わずセーラは叫ぶ。
「どう見ても、あんたの魔法でしょうがっ!?」
「・・・え?」
驚いて、少女は初めて気づいたように、セーラたち三人に目を移した。

「私はアサナ・イノセントっていいますぅ。一応見習い魔法使いですぅ〜」
「そんなことは見ればわかるわよっ!!!」
いきなり無邪気に笑って、自己紹介を始めるアサナに向かって、セーラが言う。
「あたしが聞きたいのは、何で町中で魔法をぶっ放したかってコトよっ!」
(おかげで、条件反射でこっちが逃げちゃったじゃない)
心の中でそう付け加えるセーラ。

「だってだって、『いかにも怪しい〜』って人に連れ去られそうになったんですよぉ〜。正当防衛は、せんせぇもいいって言ったし・・・」
語尾を濁らせ、言うアサナ。
「正当防衛・・・ねぇ」
ちらりと、セーラは視線を移した。
アサナの魔法で倒れた人々は、まだ動きそうにない。
追尾隊も来ないようだ。
「だったら、もっと加減してやりなさい」
「・・・人のコトは言えないですよ、セーラ」
と、後ろからシオン。

「えっと・・・」
困ったように、三人も交互に見るアサナに、セーラは思わず言った。
「あたしはセーラ、こっちの黒髪がマシェラ、そしてこっちの金髪はあたしの・・・」
「お姉さんですかぁ?」
「・・・はい?」
にこやかに、笑うアサナの言葉に、セーラは顔を引きつらせた。
「あんた、シオンのどこが女に見えるのよ?」
「えぇっ!?男の方なんですかっ?こんなに綺麗なのにぃ〜・・・」
まじまじとシオンを見つめるアサナ。
確かにシオンは透き通るような金髪碧眼。
その髪は長く肩ぐらいまであり、無造作にひもで一つに結ってある。
それでもって、長いまつげに、白い肌とくれば、女に見えないコトもない。

「んで、どうしてその『いかにも怪しい〜』って奴に連れ去られそうになったワケ?」
自己紹介もしたコトだし、とことん関わってやるという気で、セーラは尋ねた。
この我が儘王女、めんどうに首を突っ込むことが好きな体質なのだ。
なにしろ、退屈じゃなければそれでいいのだから。
「ん〜っと・・・・」
アサナは一瞬考えるように俯き、次の瞬間、無邪気に笑って言った。
「アサナわかんない♪」
「あ・ん・た・ねぇ〜!」
無邪気なノーテンキ魔法使いに、思わず青筋を立てるセーラ。
「ちょっ、セーラ、もしかしたらこれじゃないかな?」
不意に言って、マシェラはさっきの新聞の二面を指さした。
つまり『美女誘拐事件』の記事を。

「美女誘拐って・・・美女?」
思わず、素っ頓狂な顔でアサナを指さし言うセーラ。
ドングリ目玉の童顔、チビ。
見た目、12・13歳のアサナなのだ。
「・・・セーラ、失礼ですよ」
こめかみを押さえ、言うシオン。
「彼女だって充分カワイイじゃないですか?」

「その通り」

不意に、声は響いた。
セーラたちの真後ろで。
四人は、思わず振り返った。

そこに立っていたのは、黒装束を身に纏った者が一人。
なるほど、アサナの言っていた『いかにも怪しい〜』という人物だった。
「・・・ほぉ」
黒装束は、セーラたちを見、思わず感嘆の声を上げる。
「これはまた、粒ぞろいのパーティーだな」
「どういう意味よ?」

セーラの問いには答えず、黒装束は早々と魔法を唱え初めていた。
「シオンっ!」
「わかってます!」
一言で、セーラの言葉を理解し、『防御』の魔法を唱えるシオン。
同時に攻撃呪文を唱えるセーラ。
シオンの『防御』で相手の呪文を防いだ後、間髪を置かず、セーラの魔法で相手を叩きのめす。
・・・はずだった。
「セーラ、あれ、『睡眠』の魔法だよ」
「えぇぇぇぇ〜!?」
マシェラの突っ込みに、焦るセーラ。
攻撃呪文ではない『睡眠』には、『防御』は効かない。

「・・・ちっ!」
一つ舌打ちするが、もう遅い。
黒装束は叫んだ。
「『睡眠』っ!」
そして、四人は静かに心地よい眠りへと誘われていったのだった。

気がつくと、シオンは一人、大きな部屋のベットで寝ていた。
ふかふかの気持ちのいいベット。
王宮を出てから、久しぶりの心地よさである。
天蓋つきのダブルベットで、床に敷かれた絨毯もふわふわだった。
(どうやら、お金持ちの家のようですね)
起きあがって、シオンは冷静にそう判断した。
あの黒装束にここまで運ばれて来たのは間違いない。
だが、何故セーラたちと一緒ではないのか?

こんこんっ
シオンの思考は、一つのノックに中断される。
「・・・お目覚めかな?」
言って現れたのは、高級な背広を着た一人の中年の紳士だった。
警戒の色を隠さず、身構えるシオンに、彼は恐縮して言う。
「・・・いやぁ、手荒なマネは申し訳ない」
思わず面食らうシオン。
「私の名前はハウ・ヒューイ。この町の大富豪だ・・・」
言って、流れる沈黙。
シオンの不思議そうな真っ直ぐな視線に、ハウは明かに照れていた。
そして――

ばさぁっ!
不意に赤いバラの大きな花束を捧げて、ハウはシオンに向かって言った。
「私の花嫁になってくれ!!!」

相田 泉 Mail 1999/07/16(金) 00:48:50

くすんっ・・くすんっ・・・
小さく響く泣き声に、セーラは目を覚ました。
ひんやりとした、冷たい感覚。
見れば、前には鉄格子。
どう考えても、地下の牢屋という感じである。

「一体どぉぉぉ〜いうことよっ、これは!!!」
跳び起きて一声、セーラは叫んだ。
「・・・あぁ、起きた、セーラ?」
不意に横からかかる声。
「シェラ?」
見れば、マシェラが鉄格子越しに泣いてる女の子を慰めている所だった。
アサナはいまだに呑気に寝息を立てている。

「何でその子、泣いてるの?」
マシェラの横に並んで、セーラは尋ねる。
見れば、向かい合った牢屋にも5人ほど、セーラと同じ歳ぐらいの女の子たちがいた。
「数日前に、僕たちと同じように黒装束に連れてこられてから、ずっとここにいるんだって」
「おウチに帰りたい・・・」
言って、少女はまた涙ぐむ。
「メソメソするんじゃないわよ!・・・って、それより!」
不意に、びしっと人差し指を立てて、セーラは真っ直ぐにマシェラを見据えた。
「シェラ、あんた自分のコト『僕』って言うのやめなさいっ!!!」

「・・・はぁ?」
思わず、間抜けな返事を返すマシェラ。
「あんたカッコイイんだからさ、『俺』って言いなさいよ、自分のこと!さ、言ってみて!」
「えっ・・・、ぼ・・俺」
照れて、鼻を擦りながら言うマシェラ。
「うん、いい感じ!」
「そうかなぁ?ぼ・・・俺、かぁ・・・」
くすんっ・・くすん・・・
「って、そんなコト気にしてる場合じゃないよっ、セーラ!」
再び泣き出した少女に、言ってマシェラは立ち上がる。

「この子の話によると、『美女誘拐事件』の真相は、実はサントリシア一のお金持ち、ハウ・ヒューイと名乗る人物の花嫁探しらしいんですよっ!!!」
「・・・は、花嫁?」
顔を引きつらせて、その言葉を発するセーラ。
つい昨日、自らのその問題から逃げてきたばかりなのだ。
「で、その花嫁候補がこの中にいるの?」
気を取り直して、泣き続ける少女たちに向かって、聞くセーラ。
その中の一人が、小さく首を振った。
「気に入った子は連れていかれるみたいですけど、まだ誰もその人の好みに合う人はいないみたいなんです」
「ふ〜ん、そう・・・」
言いかけて、ふと、セーラは動きを止めた。
マシェラも同じコトを思いついたらしく、二人は顔を見合わせる。
「シオン!?」

「いや・・・、えっと、そのぉ・・」
捧げられた花束に、シオンは思わず硬直した。
いつのまにか髪を結った紐がなく、長く綺麗な彼の金髪がさらりと揺れた。
「大丈夫っ、私は歳は気にしない人間なのだ!例え私が30代で、君が10代だろうと、そんなコトはなんの問題にもならないよっ!!!」
「え・・・、いや、そうじゃなくて・・・」
「おい、ピエール、入ってこい!」
シオンに二の句を継がせず、一方的にハウは笑う。
パチンという指を鳴らす音と共に、ドアからひょろりとした長身の男が、ドレスを抱えてやってきた。
もちろん純白のウエディングドレスである。
「君のために、作らせたドレスだ!その金髪によく似合うとは思わないか?」
「えっ・・・だから・・」
「いやいや、多くは語らなくていいんだよ!感激のあまり言葉も無いことはよぉ〜っく、わかってる!式の日取りも私の方で決めるから、君はただ楽しみに待っててくれるだけでいいんだ!」
「あのぉ・・・」
とにかく一方的に喋るハウに、会話は不可能だと悟り、シオンは大きくタメ息をついた。
(それにしても、年齢は気にしないって、性別も気にしないんでしょうかね?)
そんな二人は、いつのまにかピエールが姿を消していたコトに、気づかなかった。

「何で魔法が使えないのよっ!!!」
鉄格子を掴みながら、セーラは大きく叫んだ。
「しょうがないよ、セーラ。魔法封じの呪文がかかってるんだから」
苦笑しながら、諭すマシェラ。
ちなみに、身につけていたマント、マシェラの長剣と、護身用のセーラの短剣もきれいに剥ぎ取られていた。
「何かないのっ?この鉄格子を開けるボタンとか?」
鍵穴すらない、牢屋の鉄格子に苛立ちながらセーラは言う。
例え入り口が無くとも、ここに自分たちが入れられた以上、何かあるハズなのだ。

「セーラ、これっ!?」
不意に、マシェラが叫んだ。
見れば、煉瓦で積み重ねられた壁の一部がへこんで、赤・青・白の3つのボタンが姿を現していた。
「・・・これって、よくある一個は正解で後はドッカーンってやつかしら?」
マシェラの横から覗き込んでセーラが呟く。
「問題はどれを押すかってコトだけど・・・」

「その必要はない」

二人は振り返った。
見れば、背の高いひょろりとした男が、肩で息をしながらそこに立っていた。
紛れもなく、ピエールである。
「誰、あなた?」
びしっとタキシードを着込んだその男に、一応セーラはそう尋ねた。
「名はピエール、ここの執事をしている」
「・・・黒装束の人ですね?」
マシェラの言葉に、ぴくんっとピエールの眉が上がる。
「シオンはどこっ!?」
思わず、セーラは叫んでいた。
「シオン?・・・そうか、あの娘の名前だな?」
「娘って・・・」
「シオンは男だけど?」

どぉ――――ん

一瞬、あたりが黒くどよめいた。
「はっ、ははっ、まさか男だったとはな!」
突然、気が抜けたような顔で、ピエールが笑い出す。
「ちょっ、一体何なのよ?」
「いや・・・、ともかくお前たちはここから出してやる」
言って、ピエールは懐から一つの鍵を取り出した。
「あれ?この牢屋、鍵なんてないじゃない・・・?」
「あぁ、そっちからは見えないが、ここにあるんだよ」
簡単にそう言うと、慣れた手つきで、鍵をあけて鉄格子を横へ移動させた。

「・・・じゃあ、このボタンは?」
青い顔つきで尋ねるマシェラ。
「バカな脱走者用のボタンだ。どれを押しても、3分後に地下室ごと爆発することになってる」
「でも、押さなきゃ意味ないのよね?」
「当たり前だ。さぁ、行くぞ」
「行こう、シェラっ!」
笑顔で言って、いい加減眠り続けるアサナを起こそうとするセーラに向かって、マシェラは呆然と呟いた。
「でも、ぼ・・・俺、ボタン押しちゃったんだけど・・・?」

ごぉ――――ん

一瞬、白い空気と静寂が辺りを支配し――
「間抜けぇぇぇぇ〜っ!!!」

次の瞬間。
セーラの甲高い声だけが、地下室中に響き渡った。

相田 泉 Mail 1999/07/22(木) 21:17:17

「あぁ・・・セーラちゃん、ケーキは5つでパフェは3杯ね・・・」
「いつまで寝ぼけてるのよっ、この脳天気娘っ!!!」
乱暴にアサナの頬を叩いて、セーラは叫んだ。
「シェラっ、あんたは責任持ってそっちの娘(こ)たち助けなさいっ!」
「ともかく急げっ!!!」
ピエールの後に続き、地下室の扉から出るセーラとアサナ。
少し遅れて、マシェラと少女たちも扉の外へと駆け込んだ。
刹那ー
どっかぁぁぁぁんっ!
派手な爆発音は屋敷中に轟いた。

「何事だっ!?」
不意に我に返って、ハウは叫んだ。
今になって初めて側にピエールがいないコトに気がつく。
「・・・地下か?」
その言葉に、シオンは小さく笑った。
「心配はいらない、花嫁!君の安全はこの私が保証するからなっ!!!」
ここぞとばかりに、強くシオンの手を握りしめ真剣な眼差しで言うハウ。
(心配なのは、僕の安全の方じゃなくて・・・)
心の中で、シオンはまた苦笑した。

「まぁったく、あんたの間抜けさには言葉もないわよ」
無事に地下を脱出し、一息ついてセーラは言った。
シュンとしょげかえるマシェラ。
そんな二人を交互に見つめて、アサナは一言。
「ともかく無事でよかったですねぇ♪」
「・・・あんたは呑気でいいわね・・」
セーラは心底そう呟いた。
「まぁともかく、何であんたはあたしたちをあそこから出してくれる気になったワケ?」
ふと、ピエールの動きが止まる。
そしてー

「ウチの主人を救ってくれぇぇぇぇ〜っ!」
突如、叫んでセーラにしがみついた。
「一体、何なのよっ、あんたはっ!?」
「ウチのご主人、それはそれは金持ちで性格も悪くない、顔だって人並み以上なんだ・・・」
白いハンカチで目頭を押さえながら、ピエールは続ける。
「なのに、ロクな女に出会うことが出来ず・・・よりによってロリコン少女趣味になってしまわれたのだぁ〜。その気になれば、一流の貴婦人だって嫁いでくれるというのにっ!!!」
「そう思ってるなら、あんたが黒装束まで纏って、手伝わなきゃいいでしょうがっ!?」
「主人の頼みには逆らえないのだ!」
「・・・なんか、矛盾してるわね?」
「でも、かわいそうですよねぇ?」
不意に後ろから、呑気なアサナの一言。
「おぉっ、あんたはわかってくれるのかっ!?」
「やっぱりみんな、幸せが一番ですよねぇ☆」
「・・・なんかびみょぉーに、会話ずれてない?」
「とにかく、まずはシオンを助けましょう。シオンは男だって言って」
マシェラが軌道修正し、話をまとめた。

「では、早速」
立ち上がって、セーラは印を切る。
「ちょっ、ちょっと、セーラっ!?」
「いくわよっ、『炎塊』っ!!!」
はしゃいだ顔で、セーラは叫んだ。
やっと魔法の使えない場所からおサラバ出来たのだ。
彼女の手から、炎の塊が生み出されて、勢い良く爆発した。
「んじゃ、一気に行くわよっ!」
「行くってどこへ?」
「今のでピエール気絶しちゃったみたいだし・・・、適当に破壊してシオン探すわよ♪」
「アサナも手伝いましょーかぁ?」
「ダメっ、これはあたしの役目なんだからっ!」
思いっきりの笑顔で、セーラはアサナに向かって言った。

どっかぁぁぁぁんっ!
「ぐわぁっ!?」
突然の壁の爆発に、ハウは思わず吹っ飛んだ。
もうもうと立ち上がる煙の向こうには、人影が一つ。
シオンはゆったりとベットに座ったまま、苦笑して言った。
「ダメですよ、セーラ。むやみに物を破壊しては」
「遅くなったわね、シオン!」
煙が上がって、セーラはウインク一つ、シオンに返した。

「なっ、なんだっ!?お前たちはっ?」
腰を抜かしつつ、ハウは叫ぶ。
シオンは立ち上がって、セーラの横へ立つと笑って言った。
「僕の仲間たちです」
「仲間だと・・・って、僕っ!?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔で、叫ぶハウ。
「残念ですが、男なんですよ」
ビラリと上着を脱いで、いたずらっぽく笑うシオン。

「そーいうコトよ、このロリコン少女趣味親父っ!!!」
「・・・セ、セーラ、それは言い過ぎじゃ・・」
言って、シオンは精気を失ったハウを気の毒そうに見つめ、近づいて言った。
「すみません、騙すつもりじゃなかったんです」
セーラはふと、側に置いてあった花瓶に目を移す。
「大丈夫、あなたにもきっといい人が見つかりますよ。誘拐なんてマネをしなくてもね」
「・・・そ、そうだな。今までだって、マトモに生きてきたんだ・・・」
「嘘つけっ!」

ごんっ!

突如、セーラは思いっきり、目に入った花瓶で、ハウのどたまを直撃させた。
「なっ、何をする小娘っ!?」
涙目で叫ぶハウ。
「あんたねっ、この花瓶、どうやって手に入れたワケっ!?」
その花瓶をよく見て、シオンの頭にも一つのコトがよぎった。
それは見たコトのある花瓶だったのだ。
つまりー
「あんた、ブラック・オークションに参加してるでしょ?」
「なっ、何を言うっ!?」
そういう彼の言葉には、明かに焦りが含まれていた。
「ブラック・オークションって、王室関係のモノが売買されていたアレ?」
「そ、この花瓶、どっかで見たコトがあると思ったのよねぇ」
その答えは一つ。
つまり、王宮である。
事情をよく知らないアサナは、後ろで大きく一つ、あくびをした。

「ちっ、違う!それは大臣のサバト・カスール様に譲って戴いたモノだっ!」
「やっぱり、サバトが裏にいたワケね?」
肩を竦めて言うセーラに、ハウはいきりたって叫ぶ。
「あの方を呼び捨てにするとは、小娘お前、何様だっ!?」
その言葉に、セーラは両手を腰に当てて、ふんぞり返ってキッパリ言った。
「王女様よっ!!!」

相田 泉 Mail 1999/07/31(土) 01:50:40

「ったぁく、一体何だったのよ、あの事件はっ!?」
昇る朝日にあくびをしながら、セーラは叫んだ。
どうやらハウ家で一夜を過ごしてしまったらしい。
「まぁまぁ、ブラック・オークションの裏にサバト・カスールがいたコトの裏付けが取れて良かったじゃないですか?」
「全然っ、良くないわよっ!!!なぁんで、一緒にいたのに、この美少女のあたしじゃなくて15の男のあんたが花嫁になるワケっ?」
「・・・セーラちゃん、花嫁さんになりたかったんだぁ?」
「誰もそんなコトは言ってないわよっ、アサナっ!!!」
「でもセーラ、あの人たち、あのままにしておいて良かったのカナ?」
不意に、遠慮がちにマシェラが口を挟む。
「・・・別にいいんじゃない?」
アッサリとセーラは答える。

あの後、吹っ飛ばせるだけ屋敷を吹っ飛ばして、スタコラと逃げてきたのだ。
「あいつらだって、王女のあたしにやられたなんて言えないでしょうし、向こうだって後ろ暗いトコあるんだし、いい薬になったんじゃない?」
言って、セーラはマシェラにウィンク一つ返す。

「それじゃあ、私はそろそろ失礼しますぅ」
呑気な口調で、アサナは笑って言った。
「そうね、あたしたちも行きたい所あるし・・・」
「もし暇があったら、私の所へよって下さいね。せんせぇもセーラちゃんの話聞いたら楽しがると思いますしぃ」
「あんたの言う先生って、魔法の先生?」
「えぇ、お菓子作るのもとぉっても上手なんですよ♪」
「いや、そんなコトは聞いてないんだけど・・・」
一瞬セーラは顔を引きつらせる。

「魔法の先生なら、あんたもっとしっかり教えて貰いなさいよ!あんたの使った魔法、『炎塊』しかみせて貰ってないけど、大したコトないじゃない?もっと精神力を上げなさい!」
「そぉですねぇ、わかりました、アサナっ、頑張ります!!!」
言って、アサナは駆け出し、ふと振り返って叫んだ。
「ちゃんと来て下さいよぉ〜、アデューせんせぇのショートケーキは最高なんですから♪」
「わかってる・・・」
答えて、セーラは動きを止めた。
「・・・今、あの子なんて言った?」
「確か・・・アデュー先生って・・・?」
セーラ、シオン、マシェラは思わず顔を見合わせ頷き合った。
そして、不思議そうにセーラたちを見つめて立ち止まっているアサナに向かって叫んだ。

「アサナ、これから行くわっ!!!」

相田 泉 Mail 1999/08/17(火) 00:55:50

第三話 動き出す黒い影
風が、吹き抜けていた。
妙に薄暗い。
セーラは、一人、草原で立ち尽くしていた。
いや、違う。
人を追って来たのだ。

「ごめんなさい、セーラ」
振り返って、彼女は言った。
「ごめんなさい・・・」
もう一度。
彼女は泣いてはいなかった。
だがきっと、泣きたかったのだ。

「あなたにツラい運命を残して逝かなければならないコトだけが心残りなの」
優しく、幼いセーラの髪を撫でながら、彼女は言う。
「けれど、あなたにしか出来ないコトなのよ」
彼女は、真っ直ぐに彼を見つめていた。
金髪碧眼の―

「さよなら」
ゆっくりと、彼女はセーラから手を離す。

やがて彼女は稲妻に消えた。
胸に、一冊の本を抱いて。

セーラは立ち尽くしていた。
どんなに手を伸ばしても届かない。
そして小さく呟いた。
「・・・・・」

相田 泉 Mail 1999/08/17(火) 01:14:14

「・・・ラ、・・ーラ、セーラ?」
「えっ!?」
不意に名前を呼ばれて、セーラは顔を上げた。
「珍しいですね、セーラがぼんやりするなんて」
木漏れ日差す山道を歩きながら、シオンが微笑を返す。

アサナの案内で、四人は連れだって、山を登っていた。
サントリシアの中心街から少し離れた場所に位置する小さな山。
そこに、あの『三賢者』のアデューがいるというのだ。

「アサナ、まだ着かないの?」
山の頂上にさしかかり、マシェラが遠慮がちに聞く。
「ううん、もう着くよ、ほら」
言って、アサナが指をさす。
いつのまにか頂上に霧がかかっていた。
濃い霧。
「・・・これは!?」
小さく、シオンが驚愕の声を上げる。
「何、シオン?」
「この霧、人工によるモノですよ。上級魔法に位置する空間歪曲の一種です」
「へぇ」
小さく感嘆の声をあげるステラ。
1メートル先を見通すことも出来ず、四人はとにかくくっついて歩いた。

やがて、ゆっくりと晴れた霧の向こうに山小屋らしき建物が姿を現す。
「あそこ?」
「うん」
頷くアサナに、ごくりと唾を飲み込むセーラ。
ガチャリ。
静かにアサナは扉を開き――――
「いらっしゃぁ〜い♪」
陽気な声は響いた。
ずべべっ!!!
アサナを覗く三人、仲良く突っ伏す。
そこには、苺のエプロンと三角巾をし、手にボールと泡立て器を持ち、鼻に生クリームをつけて爽やかに微笑む、青年が一人。

「せんせぇ、ただいま〜。いい匂いだねぇ」
「ええアサナ、特製のケーキですからね」
言って、アサナに二段式のケーキを披露し、
「ちょっと待ったぁぁぁぁ〜!!!」
勢いよく立ち上がったセーラが、二人の間に割って入り、アサナの胸倉を掴んで叫んだ。
「ちょっと、アサナ!!!まさかこの人がアデューだってぇのっ!?」
「そうです♪」
「あんた、あたしたちを騙そうと・・・!?」
「僕がアデューですが?」
「そうアデュー・・・って、え?」
セーラは動きを止めた。

「一応、歓迎用のケーキを準備してたんで、こんな格好でしたが、やはり失礼でしたかねぇ?」
アデューは一人、呑気に呟く。
そしてどこに持っていたのか、杖でトンッと地面を叩いた。
瞬間。
アデューの衣装が一転した。
肩ほどまであるブラウンの髪を一つに縛り、頭に黒いベレー帽。
そして魔導師らしい、黒のローブを羽織って、彼は微笑して言う。
「お初にお目にかかります、セーラ・アリーテ・プリンセス」

「何故それを・・・?」
自己紹介もしないウチからそう言われ、セーラは怪訝な表情を示す。
「それは分かりますよ、一目見ればね」
その言葉に、セーラの眉がピクリと動く。
アデューは、ただ静かに微笑み続けていた。

相田 泉 Mail 1999/08/28(土) 00:34:56

「やはり、あなたは知っているのね?」
真っ直ぐにアデューを見据えて、セーラは口を開いた。
「何の話ですか、セーラ?」
横から尋ねるシオン。
それに構わず、キッパリとセーラは言う。
「あなたはあたしの母、シーラを知っているのね?」
しばらく沈黙が流れた。
ー最もアサナは重苦しい沈黙を気にもせず、出来かけのケーキをつまんでいたりもしたがー

「・・・シーラは、共に戦った仲間でした」
沈黙を破ったのはアデューだった。
そして、彼は懐かしそうな目でセーラを見つめる。
「本当にあなたとシーラはうり二つですよ」
「あたしが聞きたいのはっ・・・!」
言いかけたセーラに、右手で制止の合図を見せるアデュー。
「あなたがここへいらした目的は、シーラのことを尋ねるためなのですか?」
「それもあるわ・・・」
「それも?」
「あ・・・」
聞き返されて、セーラは視界の端でマシェラを見つめる。
「実は『太陽の聖書』ってものを探してるのよ」

その言葉に、アデューの眉がぴくりとあがる。
「なぜ・・・それを?」
「ほらシェラ、何でって聞かれてるわよ」
言って、セーラはマシェラを振り返った。
「えっ!?あっ・・・、その」
いきなり話題をふられて戸惑うマシェラ。
その間に、シオンは小さくセーラに耳打ちした。
「ここに来た目的って、アデューに魔法を教えて貰うんじゃなかったんですか?」
「そうだけど!・・・真顔で尋ねられて、言えるわけないじゃない」
こっそり、苦笑いしながらセーラも耳打ち仕返した。

「それで、あなたはどうして『太陽の聖書』を?」
穏やかな目でマシェラを見つめながら、アデューは問う。
「会いたい人が・・・いるんです」
ほんのり顔を赤く染めながら、マシェラははにかんで答えた。

相田 泉 Mail 1999/10/21(木) 19:36:43

「会いたい人・・・というと?」
予期しなかった言葉に、アデューは一瞬、戸惑いを見せながら聞く。
セーラも驚きを隠せず、真っ直ぐにマシェラを見つめた。
「地球人(ルナ)って知ってますか?」
照れたような嬉しそうな顔で、マシェラはアデューに聞く。
「・・・・地球人(ルナ)」
小さく、セーラは呟いていた。

この世界に、4年に一度、現れる蒼い月―地球(ルナ)―
伝説ではその年の満月の日、その地球(ルナ)から女性が一人やってくることがあると言われていた。
漆黒の闇に愛でられた黒髪の少女が。
そして、その地球人(ルナ)と契った者には全てが与えられる、と。

「僕はその地球人(ルナ)に会ってみたいんです」
満面の笑顔でマシェラが言う。
彼はただ純粋にそう願っていることが、誰にも読みとれた。
自分の利益のためなどではなく・・・。
「でも、地球人(ルナ)はあくまで伝説の人物でしょう?確かに今年は蒼い月の年だけど、だからって地球人(ルナ)がやってくるかはわからないじゃない?」
思わずセーラはそう口を開いていた。
マシュラは真顔でうなずく。
「それは、よくわかってるよ。でも、だからこそ『太陽の聖書』を探して願うんだ。地球人に会いたいってね。この願いだけは、努力でどうなるものでもないから・・・」
「それに必ずしも伝説ではありませんよ、セーラ。現に今のランバート王国の王妃は伝説の地球人(ルナ)だと言われていますしね」
横から言うシオン。

その言葉に、人知れずアデューはハッとした表情を見せる。
そして小さく微笑した後、大きく頷いて言った。
「あなたたちがここへ来た理由はわかりました。しかし『太陽の聖書』とは・・・またやっかいな物をお探しになりますね」
「・・・やっかいというと?」
「探しているんですよ、あの国もね」
不意に真顔になったアデューに、一瞬、緊張した空気が流れた。
「まさか・・・ガルメラ王国?」

相田 泉 Mail 1999/11/09(火) 21:15:14

前にも少し述べたが、20年前、この世界のある王国が、世界征服などという目的で、世界を混沌の渦に巻き込んだ時があった。
そのある王国こそが、ガルメラ王国。
北の大陸に位置するその王国は、このアリーテ王国とは対照的に、神ではなく魔族の子孫によって創られた王国だと言われていた。
だが20年前までは、ちょっと薄暗いイメージを持つだけのただの王国だったのだ。
そう、時の国王が魔族の王と『契約』を交わすまでは。

他の国々と比べて、豊富な地下資源ももたぬ、雪に覆われたガルメラ王国。
萎えた大地、飢えた人々。
各国からの援助はあったものの、それが満足には行き届いてはいなかった。
そのため、国王レオディオ2世は、禁断の契約を交わしてしまったのだ。
つまり魔族をこの大地に召喚する代わりに、力を授けると。

その契約のおかげで最初は繁栄をみせたガルメラ王国だったが、次第にその本性が現れてきた。
つまり、国王が魔王に操られているという事態である。
いつのまにか魔族、魔物が世界の至る所に出現し、人々を脅かし始めた。
そして当のガルメラ王国は「世界政策」をかがげて、自らの国で動物などを改造して創った魔物を各国に送り込むようにまでなってしまったのだ。

そこで世界の冒険者たちは立ち上がった。
パーティーを組んで、レオディオ2世を倒そうとしたのである。
その時、特に活躍を見せたのが『三賢者』だった。
5年にも及ぶ死闘の後、なんとかある一つのパーティーがレオディオ2世を殺し、魔王を再び魔界へ閉じこめた。

―それが、今から15年も前のお話。

相田 泉 Mail 1999/11/30(火) 20:34:57

「確かにガルメラ王国は今でも各国で沈黙の了解、つまり臨戦態勢が残ってるトコロもあるけど、その国が今更何をしようっていうの?」
どかっと椅子に座り直して、セーラは言った。

レオディオ2世が倒された15年前、一緒に王位継承者であったその息子、ルアン1世も殺されていた。
そのため、ガルメラの血筋は絶えたと思われていたのだが、一年後、ルアン一世の子を身ごもっていた女性が子供を産んだ。
それが今のガルメラ王子、デュオン=ガルメラである。

「ねぇ、セーラ」
一瞬、沈黙をおいて、穏やかな微笑でアデューは言う。
「世界はあなたが思っているほど、楽しいものではないと思いますよ。それでもこの国を出られますか?」
その言葉に、セーラは小さく笑って、
「楽しいかそうでないか、自分で試してみなくちゃわからないでしょ?」
いたずらっぽく、でも強い眼差しで答える。
「・・・例え、それがガルメラ王国を敵に回すとしてもですか?」
「シェラはあきらめる?ガルメラが相手と聞いて?」
「ううん!」
明るく、そしてキッパリとマシェラは笑った。
それはセーラが初めてみる、マシェラの男の顔だった。
「シオンは?」
彼は小さく肩を竦めて、
「・・・付き合いますよ、腐れ縁ですからね」
「これが、結論みたい」
言って、セーラはまっすぐアデューを見つめた。

「あなた方がそこまで言うのなら、それもいいでしょう。でも、一つだけ私からもお願いがあるんですが・・・」
「何?」
「この子も連れて行ってくれませんか?」
言って、アデューはぽんっとアサナの頭を叩いた。
「ま・・・、まぁ別にいいですけど・・・」
言葉を濁して、セーラは答える。
脳天気なアサナに、少しの不安を抱える彼女の脳裏を読みとったように、アデューは爽やかな笑顔で付け加えた。
「大丈夫ですよ、魔法は私直伝ですから。私が使える魔法は、全てこの子に教えてあります」
「っっっっっえ〜!?」
思わずアサナを指さして、セーラは叫んだ。
「でっ、でもこの子、そんなに大した魔法を使ってるようには見えませんでしたけどっ!?」
「あはははは、それは多分、呪文を忘れちゃったからでしょう」
「アサナ、呪文覚えるの苦手だもん♪ねぇ〜、せんせぇ?」
「ねぇ〜?」
お呑気空気が流れる二人に、顔を引きつらせるセーラ。
そして、一人心の中で呟くシオン。
(いくらアデュー直伝の魔法でも、呪文忘れるんじゃ意味ないんじゃ・・・?)

「じゃあ、連れて行く前にスゴイ魔法を一つみせて貰いたいわね」
「えぇ〜、そうですかぁ・・・?」
その時、不意にマシェラが椅子から立ち上がった。
「どうしたの、シェラ?」
「・・・お客様がみえたみたいですね」
さっきとはガラっと変わった、落ち着いた声で答えるアデュー。
「アサナの魔法をお見せする丁度いい機会が出来たみたいですよ」
そして、セーラは感じた。
来るべき、その黒い影を。

相田 泉 Mail 1999/11/30(火) 21:20:21

「・・・あらら、これはまた面白いお客様がやってきましたね」
ドアを開けて、一言、呑気にアデューはそう呟いた。
「ちょっ、一体誰なのよっ!?」
一つ叫んで、ドアを大きく開けるセーラ。
そして―――
「なっ・!?」
彼女は言葉を失・・・
「サバト=カスールっ!!!」
失うことなく、めいいっぱいの大声でその名を叫んだ。
「おやおや、姫様、ここでもまたお会い出来るとは奇遇ですね」
皮肉を含んだその口調で、紛れもない、もとアリーテ王国大臣、現・脱出囚のサバト=カスールがそこに立っていた。

「こぉ〜んの・・・『炎塊(ブレイズ)』!!!」
「ちょっ、セーラ、ストップ・・・『魔法防壁(マジック・ウォール)』!!!」
間髪を置かず、サバトにぶっ放したセーラの魔法を、防御魔法で止めるシオン。
サバトの目の前に迫った紅の炎は、同時に現れた金色の魔法の壁によって消滅する。
「あっ!!!なぁ〜んで止めるのよ、シオンっ!?」
「落ち着いて下さいよ、全く。よく見てください、サバトの後ろの奴らを・・・」
言われてセーラは初めてサバトから視線を外す。
「えっ!?」
そして驚愕の声を発した。
彼の後ろには、数十匹のコブリンやレッサーデーモン、つまり魔族がいたのである。

「・・・どぉいうこと?」
セーラは一人呟いた。
それはサバトが魔族を率いているという事実と共に、この国に魔族がいるということへの驚きであった。
別名『聖なる王国』と呼ばれるここアリーテ王国の名の由来は、実は魔族たちが一切この国へ進入出来ないことにもあった。
つまり最高の神官と呼ばれる国王がその身をもって、自動的に人柱となり、この国に協力な結界を張っているという状態なのだ。
・・・まぁ、簡単に言えば、王が存在する限り、この国への魔族の進入は不可能なハズなのだ。

「何故、魔族が?」
「・・・不思議でしょう?攻撃するのはそれを聞いてからでもいいんじゃないですか?」
いたずらっぽく笑ってみせるシオン。
「あぁ、それは簡単なことですよ。ここがアリーテ王国とは空間の切り離された場所にあるからです」
隣でいともアッサリと答えるアデュー。
「・・・しかし、それを彼が知っているということは・・・?」
「いかにも、私はガルメラの一兵士だ」
「なっっっっっ!?」
キッパリ断言したサバトの言葉に、頭を抱えるセーラとシオン。
「・・・まぁっさか、よりによってサバトがガルメラがらみの奴だったとはね・・・」
「知らぬこととはいえ、そんな人物が我が国の大臣になっていたとは・・・」
確かによくみれば、今のサバトの格好は、どこか軍服をイメージさせた。

「それで?わざわざガルメラ王国の方がはるばるこの私のところまで何か御用ですか?」
変わらぬ穏やかな声でそう尋ねるアデュー。
「・・・『太陽の聖書』の手がかりとなる地図を、お渡し頂きたい」
「なっ!?」
今度、声を上げたのはマシェラだった。
ガルメラが『太陽の聖書』を狙っていると、今アデューに聞いたばかりだったが、現実に言われるとやはり驚きだったのだ。
「ふんっ、そんなモノがあるなんて聞いたこともないわね!」
キッパリと冷たく言い放つセーラ。
「でも、ありますよ」
「そう、そんなモノあるわけが・・・う゛ぇっ!?」
奇声をあげて、セーラは思わずアデューを振り返った。
「『太陽の聖書』の手がかり・・・というか、魔法アイテムを探す地図というモノなら、この僕が持ってます」
言って、アデューはニッコリと笑った。

「そんなモノがあるなら、早く言ってよ!!!」
「だってセーラ、聞かなかったじゃないですか?」
「で、それは渡して戴けるのかな?」
一人冷静な口調で、サバトはアデューを促した。
「そーですねぇ、でも地図は一個しかありませんし・・・あ、じゃあ戦って勝った方に渡すというのはどうでしょう?」
アッサリと言う。
「ちょっと、ちょっと!!!」
セーラは思わずアデューの襟首を掴んでいた。
「言っておくけど、アイツはガルメラ王国の手先なのよ!ガルメラに渡すことになってもいいってぇワケっ!?」
「・・・あぁ、勝つ自信がないんですか、セーラ?」
「そぉいうことじゃなくてっ!?」
「では、決まりだな」
「そうみたいですね」
セーラは一人、思わず口の端を引きつらせた。
別に彼女はサバトと戦うことが嫌なわけではない。
どっちかと言えばそれは願ったり叶ったりだった。
が、彼女にとって、自分に主導権なく話が進められたことに納得がいかなかったのだ。

「・・・まぁ、とにかく、戦えっていうなら戦いましょう」
何となく納得のいかないまま、ともかくセーラは言った。
「あ、セーラ・・・別にいいんだよ?セーラの本当の目的は『太陽の聖書』ってわけじゃないんだし・・・」
遠慮がちに口を挟むマシェラ。
「気にすることないですよ、マシェラ。セーラはただ魔法が使えればそれでいいんですから」
「あぁ〜ら、シオン。どこか皮肉を感じるんだけど?」
「あぁ、ひき肉はハンバーグにするとおいしいですよねぇ♪」
突然のアサナの脳天気な声に、セーラは思わず脱力した。
「・・・アサナ、あんたどうやったらそこまで思考が飛ぶワケ?」
「でもアサナはハンバーグよりケーキの方が好きなんですよ、セーラちゃん」
「聞いてない、聞いてない」
そのやりとりに、シオンとマシェラは思わず顔を見合わせて吹き出した。
「あの二人、結構いい組み合わせですね」
「だね」

「では、時間は無制限ですから、どちらかが負けを認めたら終わりです。僕は家で、特別ケーキの続きを作ってますから、終わったら呼んで下さいね」
相変わらず、穏やかな笑顔のポーカーフェイスで、アデューは言いたいことだけサッサと言うと、一人家に引きこもった。
残された4人と、サバト以下魔族たち。
二組のパーティーは静かに対峙した。

「こんな所でお会いするということは、やっぱり城を追い出されたのですか、姫様?」
皮肉を込めた口調で、サバトが口を開く。
こめかみに青筋をたてながら、引きつった笑いで答えるセーラ。
「あんたにはイロイロ聞きたいことがあるわね。ブラック・オークションの意図とか、何故この国へ大臣として入り込んだのか、そして一番聞きたいのは今のガルメラ王国の状態ね。そんな下級魔族引き連れて『太陽の聖書』探し?一体何を企んでいるのかしら?」
「さぁ・・・・?」
曖昧な笑いを返すサバト。
「聞きたかったら力ずくで聞けってコト?ガルメラは今も昔も世界の要注意王国、あたしも見逃すことは出来ないわね・・・それに」
不意に声を小さくして、セーラは呟く。
「さんっざん、バカにしてくれたこの落とし前、キチンとつけてやるっ!・・・『炎塊』!!!」
叫んで、彼女の手から炎が生まれた。
それは手加減なしの本気の『炎塊』。
わざとサバトをハズしたその攻撃は、後ろのコブリンやレッサーデーモンの粗方を吹っ飛ばす。
そして、その魔法が合図となって、残ったコブリンとレッサーデーモンが一丸となって突っ込んで来た。
マシェラは剣を抜き、シオンとアサナは呪文を唱える。
「ちっ、小娘が」
一人つぶやき、魔法を唱え始めるサバト。

「キーっ!!!」
間近に迫ったコブリンに、腰にさしてある短剣を抜くセーラ。
そして、彼女が一瞬、コブリンに気を取られているその瞬間、サバトは叫んだ。
「『赤竜巻(レッド・トルネード)』!!!」
彼の手から激しい勢いの風が、炎を含みながら一直線にセーラを襲う。
「なっ!?」
虚をつかれたセーラは、その攻撃をまともに食らい―――
「・・・フン、甘いわね」
が、もうもうと起こる砂埃の中、セーラは悠然とそこにいた。
「こんな魔法でこのあたしが倒せるとでも?」
『赤竜巻』がセーラを襲うその一瞬、彼女は直感的に自らで魔法防御の呪文を唱えて身を守ったのだ。
「セーラっ!」
「セーラちゃん!」
歓喜の声をあげて、セーラに駆け寄るマシェラとアサナ。
「・・・ちょっ、ちょっと何よ二人共、あたしがそう簡単にくたばるハズがないでしょうが!本気で心配してるんじゃないわよ!!!」
言って、ビシッと彼女は背筋を伸ばす。
「僕はわかってましたけどね」
肩を竦めながら、いたずらっぽく笑うシオン。
笑みを含んだ4人の眼差しが、誰とも無しに交わった。
「・・・なるほど、少しは楽しめそうだな」
いつのまにか、引き連れた魔族がすべて消滅し、ただ長い杖だけを携えて、サバトは静かにそこに立っていた。

相田 泉 Mail 1999/12/16(木) 22:17:25

「強がりもほどほどにしておくことね!あんたが連れてきた雑魚はアッサリいなくなちゃったし、後はあんただけよ?サッサと降参した方がいいんじゃない?」
皮肉と余裕を込めて、セーラは真っ直ぐにサバトを見据えた。
「・・・確かに、あなた方の強さは認めますよ。率いてきたのは雑魚中の雑魚だが、もう少し役に立つと思っていたからな」
「じゃあ、そぉいうことでぇ〜、終わりですかぁ〜?」
「笑止だな」
アサナの呑気な口調を、キッパリとはね返すサバト。
「あくまでも悪あがきしようっての!?」
「悪あがき?ふん、それも笑わせるな。たとえ数では1対4だろうと、勝負は数ではない」
「言ったわね!?んじゃあ、とことん、本気でいかせて貰うわよっ!?」
「どうぞ」
あっさりと、サバトは余裕の笑みを返した。
だからと言って自分から仕掛けるわけでもなく、彼は平然と、むしろ隙だらけのままそこに立って4人を見つめていた。

「んじゃ遠慮なく、さっきのお返し『赤竜巻』!!!」
叫んだセーラの手から、炎を含んだ激しい勢いの風が、サバトを襲った。
しかも威力は、さっきのサバトよりも強い!
この『赤竜巻』は炎系魔法の中でも2番目に強いとされる、所謂【強力魔法】である。
まともに食らえば、炎の高熱と風圧で身体を地面に叩きつけられ、ひとたまりもない。
が、サバトはそれを避けるでもなく、相変わらず悠然と立ちつくしている。
「・・・どうしようっていうの?」
思わずセーラは無防備でその成り行きを見つめ――――
ブワァッ!!!
刹那、その『赤竜巻』が舞い戻って来た!
「なっ!?」
驚愕の声を上げる4人。
「くっ・・・、『魔法防御』!!!」
すんでのところで、シオンが3人の前に立ち、魔法で『赤竜巻』を防いだ。
「・・一体、何が起こったの?」
再びもうもうとあがる砂埃の中、マシェラが問う。
信じられない自体に、しばし呆然としながら、セーラはその事実を口にした。
「魔法を・・・はね返した!?」
「そう、この杖はどんな魔法もはね返す。さて、あなたのお得意の魔法を封じられて、一体どうしますか、セーラ姫?」
右手に持った、その長い杖を、突きつけるように4人へ翳してみせるサバト。
その杖の先にある、宝石のようなオレンジ色に光る玉。
それは妖しく、美しく光って、セーラたち4人の姿を反射していた。

「ちっ、魔法をはね返すなんてシャレた物持ってるじゃない、ムカツクっ!!!」
「む、ムカツクってセーラ、具体的にどうするんですか?」
青筋を立てて、ご立腹のセーラに、苦笑しながらシオンが問う。
「簡単でしょ?要するにあの杖を壊しちゃえばいいのよ。んで、魔法をはね返すっていうなら、シェラのその剣で攻撃すればいいのよ!ってことで、任せたわよ、シェラ!!」
「えっ、えぇ〜っ!?」
不意にぽんっと、肩を叩かれ、驚愕の声を上げるマシェラ。
「・・・何でそんなに驚くのよ?」
「え、いや、だって、その僕・・・じゃなくて俺、普通の人間を斬ったことないんだ。だから、えっと、まともな攻撃なんて無理だよ」
一瞬、4人の間に白い空気が流れる。
「何よ、シェラってば、ペーペー(初心者)なわけっ!?」
「うん、と、そういうわけじゃないんだけど・・・」
答えながらも、思いっきり戸惑いの表情を見せるマシェラに、セーラはため息一つ。
「わかったわ、別にあたしもサバトを殺したいってワケじゃないんだし。じゃあ、作戦を一つ。
まず、シオンが『照明(フラッシュ)』の魔法でサバトの目を眩まして、その隙にマシェラがサバトに斬りかかる・・・別にこれはフリだけで、殺気だけ発してくれれば別に本当に斬らなくていいわ。んで、奴がそれに気をとられてる隙に、あたしとアサナであの杖を奪う!・・・これでどう?」
「うん、それなら行けるよ」
「了解ですぅ〜!」
「良い案ですね」
「よし、それじゃあっ!」
バっと、セーラは背筋を伸ばしてサバトを振り返る。
「おやおや、やっと作戦が決まったようですね?」
退屈を含んだ表情で、肩を竦めながらサバトは言った。

「・・・行くわよ」
4人だけに聞こえる小声で、セーラは言う。
3人は無言で頷き―――
「GO!!!」
その言葉にセーラとアサナが疾り、マシェラが剣を抜く。
シオンは素早く呪文を唱えて叫ぶ。
「『照明』!!!」
「ぐあぁっ!?」
3人の動きに気を取られていたサバトは、シオンの唱えていた魔法に気づかず、まともに光を浴びて目を眩ます。
「今だっ!」
殺気でマシェラの剣を避けるものの、よろけて杖を落とすサバト。
「アサナっ!!!」
「はいっ!」
ちょうど運良く足下に転がってきたその杖をアサナは掴み――
ごんっ!!!
思いっきり、鈍い音がした。
「痛ったぁいですぅ〜!」
見えない壁が、アサナを拒んだのだ。
思わぬことで動きを止めるマシェラとセーラ。
そしてその隙に、いつのまにか視界を取り戻したサバトが、再び杖を握りしめた。
「・・い、今のは?」
「そうそう、言い忘れていましたよ」
体制を立て直し、余裕の口調でサバトは言う。
「この杖は魔法だけではなく、この宝石に移る影、全てを拒絶するのです」
穏やかなその声が、セーラにはどこか、高笑いに聞こえ。
ガラにもなく、彼女はしばし、立ちつくした―――

相田 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-wBpOH] Mail 2000/02/06(日) 20:51:44

「さぁどうしますか、お姫様?とうとう降参ですか?」
皮肉と余裕を込めたサバトの口調に、セーラは苦い顔で下唇を噛む。
「・・・セーラちゃぁん?」
戸惑い顔で振り仰ぐアサナ。
一瞬の自分の困惑を打ち消すように、セーラは一つ、ふんと鼻を鳴らし、
「降参ですって?冗談でしょ!?言っておくけど世界はこのあたしを中心にして回っているんですからね!その宝石を壊せばそれで終わりよ!!!」
「それをどうやって壊すの・・・?」
遠慮がちに口を挟むマシェラ。
セーラは思わず返事に詰まった。
「魔法をはね返し、その宝石に移る影全てを拒絶する?そんな影なんて消せるものじゃないし、姿を消す魔法なんて知らないわよ・・・」
その言葉に、シオンはハッとして顔を上げた。
「どうしたの、シオン?」

「おかしいよセーラ。アサナがあの杖を掴もうとしたとき拒絶された、そう人が掴もうとすれば宝石に影が映るから。・・・じゃあ、じゃあどうして彼はあの杖を握れるんだろう?」
セーラは思わず目を見開いて、勢いよくサバトを振り返り叫んだ。
「そうよ、その杖が全ての影を拒絶するなら、あんたは握ることが出来ないハズだわ!?」
「つまりただのハッタリか、それとも・・・?」
言いかけて、シオンは言葉を失った。
サバトの後ろで釘付けになったシオンの視線を追って、セーラたち三人もそこに目をやる。
「何?別に何も・・・?」
そこでセーラもまた言葉を失った。
そして驚愕の表情と共に掠れた声で呟く。
「・・影が・・・無い?」
そうセーラにも他の三人にも、日の当たるその場所では地面にくっきりと自分たちの影が出来ていた。
だが、サバトにはそれが無い。

「そうだ私には影がない、生身の・・身体ではない。ガルメラの人体実験によって、改造させられたのだ!つまり鏡に映らぬ、影も出来ぬこの身体にな!!!」 
吐き捨てるように、恨みすらこもった声でサバトは答える。
「改造させられたって・・・!?」
「確かガルメラは前の戦いの時、動物などを改造して創った魔物を各国に送り込んでいた。それが・・・その対象が今度は人にまで及んでいるということですか?」
真っ直ぐな、ガルメラに対し嫌悪感を露わにした口調でサバトを見つめるシオン。
彼が感情を露わすことは珍しいため、セーラは驚いたようにシオンを振り返った。
その視線にこもった静かな、それでいて激しい怒りを肌で感じる。
そう、それは本当に許せる行為ではない。
人間をオモチャのように・・・。
「それなのに、そんな改造された身体になってまで、ガルメラに尽くそうというの!それとも能力(ちから)を得るために自らその身体を希望したの!?」
「能力(ちから)・・・そうだな、確かに能力が欲しかった。グラームの一介の魔法使いに過ぎなかった私は才はあった、魔法を越えるこの知力がな。だがそんなもの戦争では何の役にもたたなかった!この才や知を圧倒的に上回る武力によって、能力によって奴はガルメラは無敵に君臨しているのだからな!!!」
「・・・グラーム、ガルメラの隣国だね。確か、7年前にガルメラに占領された・・」
マシェラが小声で呟く。
「このアリーテを含めた7国全てにガルメラの手の者が向かっているはずだ。その国に恐怖を蒔くためにな・・・そう、人々の恐怖や邪気を食らい魔族の力を増し魔物をより地上へ召喚しようという悪しき計画が今も進行中というわけだ」
ぶつけどころのない、だが確かなサバトの怒りが、彼を饒舌にさせていた。
「そう、それでこのアリーテ担当があなただったってことね?」
「あぁアリーテは国王のせいで魔物は送り込めないからな、王宮内部の攪乱が目的とされたのだ。つまり次の王位継承者である、セーラ王女の名声ダウンをな」
「あらあらそれは残念ね、わざわざお手を患わせなくても魔法ぶっ放しであたしの人気はいつも最悪。それにあなたの期待通りってのが癪だけど、王宮も飛び出して来たんだし・・・」
「あなたの人気が最悪?」
さもおかしそうに、サバトは唇を吊り上げる。

その表情に、セーラはまた額に青筋を浮き上がらせた。
「ともかくっ、状況がなんであれ今はあいつを倒すのが目的!どうにかあの杖を壊す方法を考えないと!!!」
「確かに・・・ガルメラの動きは気になるところですが、それがいいでしょう」
「で、どうやるんですかぁ?」
今までの話が相当退屈だったらしく、大あくびと共に呑気な声のアサナ。
「あんったも、ちょっっとは考えなさいっ!!!」
ぐりぐりとアサナのこめかみをゲンコツで押さえながら、力一杯セーラは叫んだ。
「つまりは、影が出来ないように、あの杖の宝石を壊せばいいんだよね?」
「何かいい案でも浮かんだんですか、マシェラ?」
「二つ方法があるんじゃないかな?一つは、あの杖の許容範囲を超えること。つまり武器には限界があるから、例えばセーラとかアサナとか魔法の使い手がいるなら大きな魔法であの武器自体を壊す。そしてもう一つは・・・」
落ち着いた表情で、この土壇場にきて的確な提案を出すマシェラの姿に、セーラは思わず彼に大物さを感じた。
いやというより、人の上に立つ者としての共感だろうか?
(そういえば・・・)
こんな時に不謹慎ながら、思わずマシェラの整った顔を見つめながらセーラは思った。
(シェラについては詳しいこと全然聞いてないや)
一瞬風が吹き抜けて、セーラの長い綺麗な髪を揺らして去った。
サバトはまた円になって作戦を練り始めた4人に不意うちをかけるでもなく、遠くを見つめるような瞳で静かに佇む。
彼の周りには戦いの緊張とそしてどこか寂寥感が目に見えない薄い膜のように覆っていた。

相田 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-JOuPG] Mail 2000/03/19(日) 23:36:39

「で、もう一つは何なのよ?」 
ともかく戦いに集中しようと、セーラは余計な考えを頭の隅にのけ、真っ直ぐにマシェラを見据えた。 
「もう一つは・・・彼自身を動かすことだよ」 
「サバトを動かす?」 
オウム返しにセーラは問う。 
「うん、あの杖を構えてから、彼は一度も僕たちに攻撃をしてこない。今だって、こんなに隙があるのにただ黙ってみてるだけなんだ。つまりあの武器は、防御に徹した時のみ無敵なんじゃないかな?」 
「・・・一理ありますね」 
片手を顎にあて、その手の拗ねをもう一方の手で押さえるという、彼独特の考えるポーズをしながらシオンは呟いた。 
「でも動かすってどうやってよ?あんな口先三寸のインテリタイプは自分から動くほど活動的には見えないわよ?」 
「確かに、セーラみたいに単純で猪突猛進型ではないでしょうしね」 
穏やかにすごいことをサラリと言う。
「・・・シ・オ・ン〜!?」 
一瞬の沈黙の後、セーラは顔を赤くして叫んだ。
「・・・うわぁ今のセーラちゃんの顔、噴火寸前の火山みたい・・」 
「ぷっ」 
感動したように呟くアサナに、思わず吹き出すシオン。 
「あ・ん・た・た・ち・ねぇ〜・・・!!」 
「うわぁっ〜!?セーラ、ストップ!ストップ!!」 
「それだっ!!!」 
「へっ!?」

セーラが魔法を発動させようとした瞬間、突如マシェラが叫んだ。 
「・・・それって、シェラ、どれのことよ?」 
虚を突かれ、思わず魔法を引っ込めてセーラはマシェラを振り返る。 
「動かないのなら、動かしてやればいいんだ」 
自信すらこもった顔で、マシェラはキッパリとそう言った。
「いくらあの杖が魔法をはね返すと言っても、地下中ならば話は別かもしれない!」
「地下中・・・つまり『地噴炎(アースブレイズ)』や『地動茎(アースクェイク)』の魔法ということですね?」
『地噴炎』は火山のように、地面から炎を噴火させる【炎系魔法】。
『地動茎』は地中の茎の活動を活発にさせ、地震を起こさせる【地系魔法】である。
「そして、影が出来るなら影を出来ないようにすればいいんだ」
「影を消す?でもどうやって・・・?」
呟いて、セーラははっとした面もちで叫んだ。
「『照明(フラッシュ)』!!!」
「そうか、光で空間を満たして、全ての影を消せばいいんですねっ!?」

「・・・動かないなら動かせばいい、出来るなら出来ないようにすればいい・・・」
小さくセーラはマシェラの言葉を繰り返した。
そして、力強く、自分なりの一つの答えを見つけた。
「見えるなら、見えないようにすればいい!!!」

「じゃあ、セーラとアサナで、『地噴炎』と『地動茎』の呪文をお願いします。僕は『照明』を唱えますから、マシェラがその間に杖を壊して下さい。今度は光の中ですけど、目を眩ましたりしないで下さいよ!」
「・・・今度は大丈夫だよ」
シオンの言葉にマシェラは恥ずかしげに頬を紅くしながら、呟く。
アリーテ城での失敗を今更ながらに指摘されてしまった。
「アサナ、魔法は大丈夫ですか?」
「『地動茎』ならだいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ♪時々、地震起こして遊ぶ時に使ってるから、どんと任せてくれちゃってオッケーですよぉ!」
(・・じ、地震起こして遊ぶって?)
シオンの額にたらりと汗が流れるが、今は細かいことに突っ込んでる暇はない。
「いいですか、セーラ?」
「もちろん!」
笑顔で答える彼女には、彼らの作戦以外に、もう一つの作戦があった。

「『地動茎』っ!」
アサナは叫んで、魔法を発し、セーラは走った。
突然のセーラの行動に、サバトだけでなく、マシェラやシオンまでが呆気にとられる。
『地噴炎』の魔法を貯めたまま、セーラは明後日の方向に突っ走っていた。
(一体何をっ!?)
誰もの思考によぎる考え。
ただサバトだけは、目前に迫る『地動茎』に視線を戻す。
そして――――
「ふんっ!」
軽く鼻を鳴らし、振った杖の一振りで、その魔法をはね返してしまったのだ。
「なっ!?」
驚愕したのはマシェラ以下、三人。
まさか姿の見えない魔法まで止めてしまうなんて!?
返ってきた魔法を避けながら、シオンは思わず唱えていた『照明』の魔法を消してしまった。
三人は思わず呆然と動きをとめ、サバトはハッと、視線を泳がせる。
セーラの気配がない。
貯めていた『地噴炎』の魔法の気配すら消えていた。

朝葵 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-pGEhg] Mail 2000/07/16(日) 21:04:37

「・・・よくもさんざん、このあたしを・・」 
声はすぐ背後でした。 
突然現れた殺気を察して、サバトが振り向くより早く――― 
「バカにしてくれたわねぇ〜っ!?」 
叫ぶが早いか、セーラは後ろからの不意打ちで、思いっきりサバトを蹴飛ばしていた。 
後ろからならサバト自身が壁になり、杖にも阻まれないとよんだのだ。 
どんな強力な魔法であろうと防げると絶対の自信を持っていたサバトだったが、魔法大好き人間セーラ姫の思いもよらないこの単純な肉体攻撃には虚を突かれ、前に突っ伏しかけ、思わず持っていた杖を手放した。 
その隙を見逃さず、セーラはサバトに馬乗りになり、放り投げられた杖に向かって呪文を唱える。 
「・・・ばかめ、いくら私の手を放れても、あの杖の魔法をはね返す能力は消えん」 
セーラに下敷きにされながらも、偉そうな態度は変わらず、見下したように呟くサバト。 
そして力でセーラを背中から振り落とす。 
いくらセーラでも、女子供である彼女の力と男の大人であるサバトとの力の差は歴然である。 
小さく叫んで尻餅をつくセーラに対し、杖に駆け寄るサバト。 
マシェラやアサナがその杖に駆けつけるより、シオンが『照明』の呪文を唱え終わるより、明らかにサバトの方が早い!!! 
だが、セーラは杖に駆け寄るサバトの背中を見ながら、小さく口の端を吊り上げ、悠然と呟いた。 
「杖の能力が消えない?・・・そうこなくっちゃっ!」 
言って、大声で魔法を発した。 
「『炎塊』っ!」 

背中から追ってくる魔法を、サバトは反射的に察して、間一髪避ける。 
それがセーラの魔法と知って、嘲笑うかのように、視界の端で彼女を見た。 
(私の後ろがそんなに隙だらけと見たのか?まだまだ若いな) 
「!!!」 
だが次の瞬間、彼はセーラを甘く見ていたことを知る。 
避けたハズの魔法が眼前に迫っていたのだ。 
「っ!馬鹿なっっっ!?」 
がぅんっ!!!
セーラの『炎塊』の直撃をまともに喰らい、サバトは後方に吹っ飛ぶ。
なぜ、避けたはずの『炎塊』が戻ってきたのか?
それが自分の杖の魔法をはね返すという能力をセーラが利用したということを、吹き飛ばされる中で察し、サバトは下唇を噛む。
知力では絶対の自信を誇っていた彼が、小娘のこざかしい知力の罠にまんまと乗せられたしまった。
が、精神と肉体の両面でダメージを喰らいながらも尚、サバトは体制を立て直し、『照明』を発しようとしていたシオンよりも一足早く『照明』の呪文を発してみせる。
普通の魔法では、杖が壁になってはね返ってしまうため、目眩ましの意味で『照明』を唱えたのだ。
不意をつかれ、動きをとめるマシェラとアサナとシオン。
一人、サバトの魔法に気づいていたセーラは『照明』の呪文を逃れ、杖に向かって猛ダッシュをしていた。
その背中に向かって、今度はサバトが『炎塊』の呪文をお返しするが、セーラは振り向いて、片手で『魔法防御』を発して『炎塊』を現れた金色の壁で食い止める。
呪文の詠唱なしのその魔法に、サバトは小さく舌を鳴らす。
魔法を発するには呪文の詠唱は不可欠だが、ある程度その魔法を極めた者ならば、呪文など必要なしに発生させられる。
セーラは腐っても聖なる王国の王女で巫女なのだ。
もう一度、今度は『赤竜巻』をお見舞いしようとしたサバトは、一瞬、信じられないものを見るかのように、動きを止めた。
魔法防御の呪文を右手で発しておきながら、セーラは同時に左手でサバトに向かって『氷槍群(フリーズアロー)』の魔法を発したのだ。
それもアレンジを加え、氷の槍は二つに分かれて左右からサバトを襲う!
さっきの炎塊のダメージが残っていたサバトは、一つはかろうじて避けるが、もう一つには右肩を射抜かれる。
「ぐぅっ・・・・」
一つ呻いて、セーラを仰いだ彼は、彼女が杖に阻まれる手前まで駆けつけているのを見た。
セーラは足を止め彼を振り返り、ニッと笑うと、腰にさしてある短剣を抜く。
彼女の後ろでは、ようやく視界を取り戻したシオンが叫ぼうとしていた。
「『照明』っ!!!」
包まれた光の中で、サバトはセーラが迷いもなく短剣で杖の宝石を突き刺す影を見た気がした。

ぱりん・・・ 
拍子抜けするほど脆く、乾いた音を立てて。 
オレンジ色の宝石は砕けた。 
「やったぁ、セーラっ!」 
マシェラが思わず歓声を上げる。 
セーラも得意満面の顔でもう一度サバトを振り返り、そしてその顔が張り付いた。 
「うぐっ・・」 
苦しそうに一つ呻き、サバトは自らの胸を押さえていたのだ。 
「何!?」 
一瞬、理解に苦しむセーラ。
確かに『炎塊』と『氷槍群』の魔法をサバトは受けていた、だがその苦しみ方は身体の外部の痛みではなく、内部の痛みのようだった。
まるで、骨が溶けるような、内臓がひっくりかえるような、そんな痛みの感じ方・・・。
思わずサバトに駆け寄るセーラたちに、彼は気丈にも鋭い視線を返してみせる。
「一体、どういうこと!?」
「・・・気にすることはない」
既に肩で息をしながらサバトは言う。
「身体を改造された・・私は、杖と共にあるように改造・・されていたのだ。・・くくく、人間が武器に合わされたのだよ」
それは、つまり―――
「杖が滅びた今・・・この私も滅びるということだ」

その時、セーラたちの中で誰が言葉を発することが出来ただろう?
戦いだった。
確かに戦いである以上、命は危険にさらされている。
だが、殺すつもりはなかった、殺す気はなかった、死・・・。
いきなり降りかかってきたその問題に、誰もが言葉を閉ざした。
「気にする・・ことはない」
サバトはもう一度繰り返した。
「改造された私は、既に人間ではなく、その杖、物でしかなかった・・・この、身体」
呟いて、ふと優しい瞳でセーラを見つめた。
「・・・本当はあなたが羨ましかった。その身をもって、類い希なる能力を持ち、誰からも愛される聖なる王女・・・」 
ばさり、と何かの紙の束が、よろめいたサバトの懐から落ちる。 
「ブラック・オークションであなたの写真が高い値で売買される度に私は感じていたんですよ。嫉妬と、そして喜びをね」 
それは、セーラの写真だった。 
ブラック・オークションで目玉商品とされていた、プロマイド写真。 
「どうして・・・?」 
眼を見開き、セーラはサバトを見つめる。 
彼は笑っていた。 
「あなたが、国民に人気がないと?ブラックオークションをその目で御覧になったのなら、わかったでしょう?彼らは賢いですよ、君主が頼れる人物かどうか見抜く目に秀でている・・」
満足そうに、セーラを賞賛するかのように、彼は言葉を続ける。 
「あなたなら・・出来る、例え世界があなたを中心に回っていなかろうが、あなたには自らのその手で世界を回す能力をお持ちだ・・・」 
そして、セーラたちは見た。
彼の身体が散っていくのを。
手から、足から、まるで灰のように、風に散っていく。
「・・待ってっ・・!!!」
思わず伸ばしたセーラのその手は空を掴み、後には何もない。
残ったのは大嫌いだったサバトの穏やかな笑顔の残像。
そして、足下には写真の束。

誰も言葉はなかった、四人はただ微動だにせずに立ちつくしていた。
セーラは一人、無言で写真の束を拾うと、勢いよく上に放り投げた。 
ばっと、花びらのようにそれは舞い散り、次の瞬間、そのすべてが紅い炎に包まれた。 
『炎塊』のアレンジバージョンの魔法で、彼女が炎をつけたのだ。 
「・・・もし、ガルメラじゃなく、先にこの国に来ていたら、あんたは本当にいい大臣になってたわ・・・」 
小さく、セーラは一人呟いた。 
「そしたら、あたしもあんたのことを好きだったかもしれない・・・」 
花火のように、炎に包まれた写真たちは、空から降り注ぎ、揺れる炎は、まるでサバト=カスールを追悼するように、燃え続けていた。 
いつまでも、いつまでも・・・・。 

朝葵 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-ANJoh] Mail 2000/07/17(月) 15:25:34

エピローグ
穏やかな風が吹いていた。
四人、誰も言葉を発するものはない。

ばりっ、ばりりりりりっ!

不意に、地面が割れる音と共に、サバトの杖があった場所から黒い侵食が広がっていく。
『なっっ!?』
思わず声を上げ、その場から飛び退く四人。
「一体何っ!?」
まるで闇が空を覆うように、黒い侵食が地面を這っていく。
どんっ!!!
突如鈍く響く杖の音。
瞬間、黒い侵食は嘘のようにぱったり止まり、その姿を消していく。
「せんせぇっ!?」
振り返ったアサナが驚きと喜びの混じった声を上げる。
いつのまにいたのか、ニッコリ微笑みながらアデューがそこに立っていた。
「お疲れさまでした、セーラ」

声を掛けられ、訝しげな顔を返すセーラ。
「今のは一体・・・?」
「おそらく最初から杖自体に何か術が施してあったのでしょう。壊れた時に、その場を汚すようにとでもね。いくらここが切り離された空間とはいえ、歓迎出来るものではないので消したまでですよ」
涼しい顔で答えるアデュー。
「な・・・」
セーラの隣で、シオンは額から流れる冷や汗を隠せない。
空間侵食というタチの悪い魔法を、このアデューという魔道士は呪文も唱えず、杖の一振りで消してしまった。
それだけではなく、彼は他にも空間歪曲の一種である霧を魔法で発生させているし、この空間自体も彼の魔法によっている。
どれ一つを取ってみても、一介の魔道士にはおいそれと出来ない大魔法である。
それを彼はいともアッサリ、しかも三つ同時に行ってみせたのだ。

「せんせぇ〜、勝ったよぉ♪け〜き、ケ〜キっ!」
突然はしゃぎながら、アデューの周りを回って無邪気に言うアサナ。
「特大スペシャルが小屋の中にありますよ、どうぞ見てらっしゃい」
「やったぁ☆」
一声叫んで、アサナは小屋に向かって走る。
「マシェラ、君はアサナが食べ過ぎないよう見張りつつ、食器の用意をしてくれますか?」
「は、はいっ!」
不意に声を掛けられ、思わずそう返事をしてアサナを追いかけるマシェラ。

「さて・・・と」
気を取り直すように言って、アデューはセーラとシオンを真面目な顔で見た。
「お疲れさまでした、セーラ」
そしてもう一度そう言う。
「・・・えぇ」
今度は気のない返事を返すセーラ。
「これを、約束ですからお渡しします」
言って、アデューは懐から一枚の古ぼけた地図を取り出した。
「これが魔法アイテムを探す地図、別名“太陽の地図”とも言われています。昔・・・シーラもこの地図で『太陽の聖書』を探していました」
「えっ!?」
その言葉に、セーラは弾かれたように顔を上げた。
「あなたの母が、世界中を冒険していたのは知っているのでしょう?シーラはただ冒険していたのではなく、その地図を持って『太陽の聖書』を探していたのですよ」
「どうして?母にも何か欲しいものがあったの!?」
その問いにアデューはただ一瞬、目を伏せて、
「その答えは、あなたがその地図を持って旅すればそのうちわかりますよ。けれどその旅は決して安らかではない、今日のようなことが毎日にでも起こるでしょう。・・・それでも行かれますか?」
セーラは思わず目を大きく見開いた。
シオンは隣で心配げにセーラを見つめる。

痛かった。
戦いは終わり、セーラは勝った。
けれど、欲しかった勝ちではなかった。
人を殺した、手を血で染めた。
故意にではなかったにせよ、その十字架が、セーラの背中に今重くのし掛かっていた。
――人殺し
「・・・これで、二人目ね」
思わずセーラは呟いていた。
「セーラ」
心配げに声を掛けるシオン。
「大丈夫、あたしは大丈夫よ。確かにあたしのしたことは許されることじゃない、だけどあたしはここで止まってはいられない。例え今日や今までの罪が重くのしかかってこようとも、あたしは歩き続けるしかない」
言いながら、セーラは自分で深く強く頷く。
「例え背中の十字架が重くてもあたしはそれを荷物にはしない、それを糧にして一生背負ってでも歩いていく!!!」
そうキッパリ言い切ったセーラを、アデューはどこか眩しそうに見つめた。
そして一人呟く。
「・・・良かった、あなたはそれでいい。けれど気をつけてください、本当の危険は実はあなたのすぐ近くにある・・」
「え?」
「いいえ、何でもありませんよ」
相変わらずの穏やかな顔でアデューはニッコリと微笑んだ。

「それより小屋に入りませんか?せっかくのケーキが食べられてしまいますよ?」
「ケーキもいいけど、船とか持ってないの?実は一刻も早くこの国を出たいのに、船が出てないのよ」
その言葉にアデューは一瞬、困ったように眉をひそめ、
「そうですねぇ、私はここから出ないので必要ないですし・・・う〜ん、どこかのお金持ちの私用船というものを借りたらいかかです?」
「そんなお金持ちの知り合いなんていな・・・あっ!!!」
そこでセーラは思いついたように叫んだ。
「ハウ=ヒューイっ!!」

「・・・それでは、気をつけて下さい」
朝のこぼれるような日差しを背負って、四人は立っていた。
それぞれに清々しい表情を浮かべながら。
「せんせぇ〜、行ってきますねぇ♪」
「迷惑かけるんじゃないですよ、アサナ」
アデューのそのセリフに、思いっきり心配げな顔を浮かべるセーラ。
結局、戦いの中でアサナの実力を見せて貰った気がしない。
彼女の実力に不安と疑問を隠せないのだ。
そんなセーラの心境を察してか、アデューはこっそりと耳打ちをした。
「大丈夫ですよ、アサナのスゴさは魔法だけではありません。魔物と対峙した時にだけ発する特別な能力まであったりするんですよ」
それでもセーラは訝しげな顔で、ただ頷いただけである。

「それじゃあ・・・行こう!」
意を決したように言って、セーラはマシェラを見、アサナを見、シオンを見た。
そしてそれぞれ、セーラに向かって強く頷いて見せる。
ここから始まる、ここから動き出す。
全ての始まりがここにあった。
「行ってらっしゃい」
アデューの声を背に受けながら、セーラは白マントをバサリと翻す。
穏やかな風が吹く。
小鳥の囀りが響く。
そして――
彼らは歩き出した。
それぞれの思いを胸に抱き、ただ真っ直ぐに前を見つめながら・・・。


彼らの冒険はここから始まり。
これまでのお話はただの序章に過ぎないのだが。
この続きはまた。
機会があれば、別のお話で。

朝葵 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-zOOts] Mail 2000/08/02(水) 22:27:08

TAKE A BREAK
作者:「はぁ〜い、ここまで読んで下さった皆さん、どうもお疲れさまでしたっ!」
『炎塊(ブレイズ)っ!!!』
突然の魔法に、作者吹っ飛ぶ。
セーラ:「・・・ふ、やっぱり今日もあたしの魔法は快調ね!!」
シオン:「い、今、何か吹き飛ばしませんでしたか?」
セーラ:「気のせい、気のせい♪」
作者:「気のせいあるかぁぁぁぁ〜っ!」
頭から血を流しながらも復活する作者。
セーラ:「・・・ちっ、仕留め損ねたか」
作者:「何か言った?」
セーラ:「いいえ、こちらのお話」
いけしゃーしゃーと、にっこりスマイルをしてみせる。
作者:「あんた、せっかくあとがきにまで出演させてやってるっていうのに、いい態度ね?」
セーラ:「そうそう、やっとあとがきになって良かったわ。一話と二話はすぐ書いたくせに、三話では一年近くもかかってるじゃないの?永遠にあとがきの時間来ないかもって心配しちゃったじゃないっ!?」
作者:「・・・うっ・・」
セーラ:「しっかも、色んな説明とか出すだけ出して、ワケのわからない中途半端で終わってるんじゃない、実際?」
作者:「うぅ・・・」
シオン:「まぁまぁセーラ、一応完結したわけですし、万事良かったと・・」
マシェラ:「良くないよっ!だってこの話、本当は僕・・じゃない俺が主役のハズだったんだよねっ!?」
セーラ&シオン『えぇ〜っ!?』
作者:「ま、まぁね。本当はマシェラが主人公で、本文中にちょっと出した地球人(ルナ)とラブラブになるお話だったんだよねぇ」
セーラ:「まぁ、そんなマシェラをさしおいて主人公になったんだから、やっぱり世界はあたしを中心にして回ってるってワケね!!!」
作者:「・・・というか、マシェラの話は今回の話の四年後の話だから書こうと思えば書けるんだけど、時代的にこっちを先にしただけだけど?」
シオン:「だったらまず、今回の話・・・というか唯我独尊シリーズをちゃんと完結させて下さいよ!実はこの後、パーティには2人も追加メンバーが入るし、7つある王国全部回ったりする予定だってあるんでしたよね?」
セーラ:「何それっ!?すんごく長いじゃん?」
作者:「・・う、構想だけは広いのよ(はぁと)」
アサナ:「あのぉ、今回アサナは全然活躍してない気がするんですけどぉ?」
セーラ:「あら、アサナ、いたの?」
アサナ:「ケーキを食べてましたぁ♪」
アデュー:「皆さんも是非、特製ケーキ、食べに来て下さい!」
それだけ言って、去って行くアデュー。
作者:「何かみんな場内乱入ね・・・」
シオン:「キャラは作者の分身って言うし、みんな節操ナシなんじゃないですか?この中で、一番作者の性格に似てるのってセーラの我が儘さと、アサナのぼけっぷりですよね?」
マシェラ:「うわぁ・・・救いがないね」
作者:「あんたたちねぇ〜!?」
シオン:「なんたって、道ばたに落ちてるゴミ見て「うわぁ、ゴミが錯乱してる」って言っちゃって、側にいた友人に「錯乱しとんのはあんたの頭やっ!」って突っ込まれたらしいですからね、実際はゴミが散乱なのに」
マシェラ:「他にも「今日は土用の丑の日だなぁ」って言った友人に向かって「え?今日は日曜日だよ?」とか真顔で言ったらしいしね」
アサナ:「あはははは♪ぼけぼけ〜♪」
『赤竜巻(レッドトルネード)っ!!!』
突然の魔法に、今度はシオン以下三人が吹っ飛ぶ。
セーラ:「・・・これでいいの?」
作者:「グーだ、セーラ、良くやった!」
セーラ:「まぁともかく、呼んでくれればあたしはいつでも現れるってことよね!」
作者:「そうそう、何たって世界はあんたを中心にして回ってるんだしね」
セーラ:「そーいうこと!!!」
言って、胸を張って、満面の笑顔。
吹っ飛ばされたシオンたちがよれよれと戻ってくる。
一同:『それでは、ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました!』

朝葵 泉 [IFfsL-lIKlg-unFCb-nEwfi] Mail 2000/08/05(土) 12:58:30
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