愚者の狂詩曲

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 未来、凶悪化した犯罪に対抗して、警察庁は一つの手段を講じることに。
 二十世紀後半から、世間で発見された特異能力者を特殊なカリキュラムが組まれたスクールにほうり込み、特殊任務に当てる。
 人権問題とかいろいろと当時国会を騒がせたが、学費免除、そのまま地方公務員、という特典で本人らは喜んでスクールに入学した。

 この話は、そのスクール卒二年目くらいのとある事件簿で・・・・・・・





 あるのだろーか

おやま [FIixS-Doshg-jqGRs-uHlKr] Mail HomePage 2000/07/03(月) 18:13:12


   愚者の狂詩曲

 たまたまメシがなくて、コンビニへと古い自転車にのって向かう時。
 私は一通りの少ない路地裏で、それと遭遇することになる。

「ふーん。貴様、それは変身願望でか?」
 私は心底軽蔑した。きっと今の私のまなざしはシベリアの氷と同じくらいの温度なのだろう。
 私の相棒を勤めてきた男がまさかこんな趣味があるとは思ってもいなかった。
「ち、違う、霙。これは……その……」
「いや、いいわけはもはやいらぬ。とっとと去れ」
 一目さんに逃げ出す……男。名を克也という。職業は私と同じく国家公務員。
 まさか奴にこんな趣味があったとは……

 現在日本では凶悪化した犯罪に対抗するため、私や克也のように幼少の頃から特別カリキュラムを組まれたスクール卒業の連中が警察をやっている。現在日本では、このような制度が一部のお偉様によって反対されているが、私達にとってはどうでもいいことである。
 雲の上が非人道的だとか、軍隊だとか何とか何とか抗争していおうが、現状は犯罪が起こり、私達はすぐさま事件鎮圧するため現地に赴かなければならないのだ。会議室では事件が起こる可能性はそれこそイレブンナイン。

「おはようございます」
 県警の一角にある刑事課特務第一小隊。ここは隊長以外は全員私と同じスクール卒業生である。私はスクールの三回生だが、年齢は二十歳。この課では一つ年上の克也……いや、永渕巡査部長が一番年長である。
「おはよう〜」
 朝早くから週刊誌を読みふけっている中年の隊長。昔は本店……もとい、本庁ののカミソリと呼ばれた猛者らしいが、今は単なる昼行灯である。
 事件さえ起こらなければ、特一(特務第一小隊の略)は始末書書きかぼーっとするだけで一日が終わる。出動すれば家に帰る時間が確実に遅くなるので、出来れば今日も何も起きて欲しくはない。
「おはようございます」
 きりり、とした目。黒ネクタイに黒スーツ、黒いロングコートと冠婚葬祭全てに対応した装備。優男のような顔。そう、問題の永渕巡査部長である。
「おはようございます」
 業務上挨拶をする私。昨日のことで私はコイツを見る目を変えた。
「おはよう〜」
 ページがまた一つ、めくれ、また一つ、めくられる。
 私の前のデスクに座って、モバイル端末をいじくる克也。ほどなく、私の端末に一通のメールがやってくる。内容はだいたい予想がついているが。
「昨日のことは内密に。また後で話したいことがあります」
 やっぱりな。私は急いで返事を書く。
「いいわけはいらぬ。変態は変態らしくしたらどうだ?」
 ヒマつぶしに私は朝コンビニで買ったはやりのドラマ小説を読む。出動があれば、連続ドラマなんて見てられない。録画する設備は私のアパートにはないのだ。
  ちらり、と絶対零度の眼差しを前に向けてみる。
 目があえば、昔私の家で飼っていた犬のポチのような顔をした克也がいた。とりあえず笑ってみようという努力は認めてやってもいいかもしれないが、変態は変態だ。
「あ、あはははははは」
 サハラの風とともに私の耳に届く克也の声。サヘル地方は隊長のところにも広がったのだろうか。住み良い土地……もとい、喫煙スペースにタバコを持って歩いていく隊長。

 その日の午後、やっぱり事件は起こってしまった。
 港地区の倉庫に銀行強盗が人質とともに逃げ込み、閉じこもっているとのこと。
 他のメンバーはそれぞれの事件の鎮圧に出かけてしまったので、私と克也の二人に出動命令が下ってしまった。
 というわけで、早速特務の制服を来て出動である。

「あ、来たか」
「お久しぶりです、富田林警部補」
 この管轄の刑事であり、何回かの事件で顔見知りになったのだ。
「現状は?」
 克也の言葉に、警部補は顎で機動隊をしゃくった。
「なるほど」
 出来るだけ穏便……にすませようと特務の私達をよびつけたのだろう。
 この手の事件を鎮圧するために組織されたものだしな。
「では、ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう。
 永渕巡査部長は前でおとりになっていて下さい。私は後ろから侵入します」
「その前に中の様子を」
 しまった。仕事では偏見を持ってはいけない。
「えーっと。今のところ犯人が入り口のすぐ前に拳銃を構えています。
 どうやら人質は二階の木箱の中に閉じこめられているようです」
 見取り図に書き込みをして説明。スクールに集められた連中は何というか、普通の人間にはあり得ぬ能力を持っている。私の場合は透視。
「はいはい。では僕はおとりを」
 念のために防弾チョッキを着込む。
「では、万が一のことを考えて俺らは退路を防いでおく」
「お願いします」
 作戦開始。

 克也が前でちゃんとおとりをしてくれていると信じて、私は倉庫の後ろへと回り込む。
 入り口は開いてはいないが、二階の窓は開きっぱなし。透視して確認したが、犯人はちゃんと正面の入り口のまわりを神経質そうにうろうろしている。
 不用心不用心。
 制服の左に仕込まれたワイヤーロープを窓に向かって打つ。音もなく窓の中のコンクリートに接着。ちゃんと接着剤が固まったのを確認して、私はロッククライム。本当は自動巻き戻し機能もついているのだが、窓の冊子とワイヤーがこすれあって派手な音が出るのは必然である。対して、ロッククライムする分には、私の靴は昔の忍者の足袋のように足音すらまったく立てないようにできている。これぞ県予算をふんだんに使って開発された特務の装備である。
 パン、と銃声。何が起こったかは大体想像がつく。あのバカ克也が何か失敗したのだろう。が、任務の鬼。私は一人でそそくさと窓から侵入。
 楽勝楽勝。音を立てずに倉庫二階の床に着地。透視してみると、どうやら人質はここから少しいったところの木箱の物陰に蓑虫で転がされているようである。
 使命感で急いで人質を発見。私を見るなり何事かともごもご言いだす。一瞬宇宙人かと思ったが、どうやら高校生くらいの女の子らしい。最近流行だかなんだかしらないが、空色のファンデーションだかで化粧をしている。最近のセンスにはついていけない。
 右手の手袋に仕込まれた刃でロープをぷちぷちっと切って人質を解放。猿ぐつわも当然離す。
「大丈夫ですか?」
 前のほうはもはや静かであえる。克也が犯人を捕まえたのだろう。
「ええ……でも……」
 何かもごもごと口元で呟く。多分混乱しているのだろう。
 私は人質の手を握って立たせてやる。それほど縄はきつく縛られていなかったらしく、縄の後はそれほど残っていない。
「安心してください。事件は解決しました」
 人質の手を握って暗い倉庫を歩く。あとはこの子を下の富田林警部補に渡せば指令は終了である。
「でも……」
 また口ごもる人質。いいたいことはよくわかった。
 背中に押しつけられる金属片。この形は私はよく知っている。背筋が、冷たくなった。
「人質はまだいますから。さ、手を上げて」
「どういうこと?」
 ここで取り乱したら警察官失格である。私は内心舌打ちをしながら、だがいかにも奥の手をかくしてそうな態度をとり、訊ねる。
「インターネットで彼と私は知り合ったんです。顔を見たのも今日が初めて。計画は二人で実行しようと決めたわ」
 なるほど。とりあえず人質と一緒に逃走……という事件に見えるが、実は人質役も共犯者というわけか。インターネット知り合いとはいえ、よくお互いを信用するつもりになったものである。
「おい!霙!人質は!」
 バカな克也が私を探してくる。
 確かに、普段の段取りだったら私が人質を解放するのが先、それから克也が犯人逮捕。私のほうが行動が迅速だからだ。
 だがしかし。私はまだ二階から姿を現さない。それは不安になるだろう。
「声を出さないで」
 いわれなくても出すつもりは全然ない。不安定な年頃に、不安定な銃。
 この宇宙人女子高校生は知らなかっただろうが、銃は重いのだ。初めて握ったのだろう。安定がまったくない。こんな状態で引き金を引くというのはまず不可能。
 だがしかし。何か刺激があれば、とっさに引いてしまうことはある。よって、刺激を与えないほうがいいのだ。この場合。
 とまてよ……使えるかもしれない。この方法は。
「人質は一人。女刑事だけどね」
 気丈に振る舞おうとしているのだろうが、段取りと違い銃を握るのは宇宙人。人質は私。
「霙……!」
 単純に前に飛び出そうとする克也。防弾チョッキを着込んでいる彼なら、致命傷になる可能性は「低い」。が、顔とかにあたったらそれこそ致命傷。
「さぁ、道をあけて……」
 月も出ていないのに狂気。狼男ではなく狼女。ただし、初心者マーク。
 克也は動かない。私の狙い通り。
「開けなさいよね!この女がどうなってもいいの?!」
 声は声というよりか、かすれた叫び声。震えていることを隠そう見栄をはっている。神経を集中させて。それが命取り。
 キンキン声が耳を貫くのと同時に体勢を低くして、回し蹴り。無様に尻餅をつく宇宙人。悲鳴はあげたのだろうが、声にもならなかった。
「よくない……霙は……って……」
 転けたそいつの手を極めて固める。銃は手にしないように克也のほうに蹴っ飛ばす。
「変態の助けは借りぬ」
 無様に目を回している宇宙人には、突然世界がまわったように見えたに違いない。抵抗されないなら手錠をかけるのも楽である。
「でも、相棒だろーが!」
 犯人を引きずり下への螺旋階段を下る。ちょっとくらい乱暴な扱いをしても気がつかないだろう。犯人だしな。
「隊長の気まぐれで組まされただけだ」
「だったら、日常生活の問題を仕事に持ち込むんじゃない!」
 痴話喧嘩して出てくる私達に好奇の視線を注ぐ機動隊と富田林警部補。
 ああ、腹が立つ。
「ふん。夜中に女装して裏道歩いている相棒に誰が信用を寄せる?」
 世界がグリーンランドに豹変する。その中を犯人を担ぎ、ゆっくりと警部補の元へ足跡を残して進んでいく。
「16:38分。銃刀法違反、強盗現行犯で逮捕」
「ご、ごくろーさん。人質じゃなかったのか?」
「人質を装った共犯です。知り合った手段はインターネット。後はこの宇宙人から話を聞いて下さい。特務の任務はこれで終了ですね?
 では、失礼します」
 私のセリフが長いのは、私だけ時間の流れが早いわけではない。私がしゃべっている間、誰も口を開かなかったし、音をたてなかったのだ。まさに静寂の夕方。言葉そのままである。
「ちょっと待て、霙〜!」
 私は振り向かない。車に戻って、キーを入れる。
「な、なぁ。永渕。本当なのか、さっきの……は?」
「い、いや、その〜」
「機動隊ら、他言は無用だぞ!特務の日常がリークされたら警察に明日はない!」
『はい!』
 どんどん小さくなっていく雑音。エンジンの音がそれらのノイズも全てかき消す。
 いいのだ、これで。

「只今戻りました」
「おかえり〜」
 他のメンツもそれぞれの事件の報告書を書いている。
「おや、永渕は?」
 隊長はそういいながらも、目の前のサスペンス小説から目を離さない。またページが一枚。
「おいてかえってきました」
「あっそう」
 それだけで話は終わった。
「何かあったんですか、先輩?」
 後輩の佐倉巡査が声をかけてくる。私の目が冬のシベリア大地と同じ様な空気を醸し出しているからかもしれない。
「ただ現場で永渕巡査が昨日の夜中、ヒラヒラのエプロンドレスを来て歩いていたという事実を暴露だけだ」
 有田焼が倒れる小さく明るい音。広がるポップな黄緑色の洪水。
 隊長の手も一瞬止まる。
「あっそう」
 また進む。そういう人だよ、隊長って。
 誰もそれ以上のことは追求しようとはしなかった。

 その夜、私はまたコンビニに退廃的に自転車で買い物に行く。
 昨日と同じ道で。おそらくあの女装男には会うこともあるまい。
 今日は鮭弁当にしよう。道でそんなことを考えながら、自転車のペダルを踏む。
「今日もコンビニか?」
 声は私が知っている男のもの。白い不思議の国のアリスが来ているようなエプロンドレスを着込んだ女装男の永渕巡査だ。
「ああ。公園で食う。何がいい?」
「鮭弁」
 私が公園を提案した理由はただ短に、永渕巡査が泣いていることに気付いたからである。

「さぁ、たんと食え」
 コンビニの裏にある公園。私達二人以外だれもいない。
 とりあえず、外灯の下のベンチに腰を下ろす。
「オレのことをペットみたいに思ってないか?」
 情けない。今も泣いているのだろう。
「相棒だ。泣き崩れて明日使い物にならなかったら困る」
  思ったことを素直に口に出す私。
「そうか。オレは霙にとったら単なる道具なんだな。
 なんでこんなみっともない格好しているか……」
「いいたくないなら別にいわなくてもいいぞ」
 意外性のある意見であれば、塩鮭の骨が喉に刺さる可能性もある。
「いや、是非ともきいてほしい」
 私は変態の戯言に耳を貸す気はないが、仕事上の相棒の戯言にはつき合わなければならない。
「変身願望だ。まだ二十歳になったばっかりで、凶悪事件を解決する特務。もう血の臭いにも慣れたし、凶悪犯を退治するのにも慣れた。
 でも、今日みたいにオレの年下を逮捕する……なんで世の中こうなったんだ……」
 鮭が口の中に残ってないのを確認してから言葉を紡ぐ。
「世間と貴様は無関係だぞ。何を気にすることがある」
 年下を逮捕するのに気が引ける、ということは私にはない。連中が犯した罪だ、ちゃんと償ってもらわないとな。
「逃げて欲しい……なんて思う。でもそれだったら特務なんて失格だ。
 そういう自分がイヤになって……綺麗な女の手になろうと思って……」
 それは絶対間違っていると私は思う。
「あほう。私の手も空手たこだらけだぞ。それは偏見だな。
 男女雇用均等法が改正されてから何年になると思っている?」
 ここで暖かい緑茶を一口。
「三十二年」
「だろ?第一、服きたくらいでころころかわるわけでもあるまい。己の本質というものは」
 なぜ年下の私が年上の克也を慰めなければならないのか。いい迷惑である。
「趣味はどうでもいいが、任務だけはおろそかにするな。
 こんなことがマスコミにリークされてみろ。最悪スキャンダルで特務は解散だ。そうなったら我らはどこにいけばいい?各県に散らばったスクールの連中は?
 ふん。特務の未来はこれからだというのに、変なスキャンダルだけはごめんだ」
 私も努めて二年で解任したくない。
「正論しかいわないな、霙は」
 こんな変態の悩み事で褒められてもうれしくない。
「正論以外をいって何になる。現実を見つめろ」
「でも、現実だけ見てると疲れてこないか?なんかはじけたく……」
「不良少年みたいなことをいうな。じゃあな」
 食べ終わった弁当箱を燃えるゴミに捨てて、私は公園を去った。
 細く、克也の影がのびている。
 微動だにしない影を、私は踏んで去った。
 沈黙だけが、私の見送りであった。と、私は思っていた。
「へんだぞ?」
 何が。私は振り返った。
「この秘密をばらしたのも霙だし、諭したのは富田林のおっさんだ。
 第一、霙は正論しかいわないはずなのに、今日女装をとめようとはしなかったじゃないか!」
 そういえば、そういうこともあったな。
「矛盾しているか?」
「ああ、とってもしている!」
 スカート姿の克也に指さされるとは今まで思ってもいなかったな。
「深く考えるな。さらば」
「おい!」
 まだ、仕事は始まったばかりだ。これからも、克也と……

 end 

おやま [FIixS-Doshg-jqGRs-uHlKr] Mail HomePage 2000/07/03(月) 18:15:34

あとがき
実はこれは文芸部の仕事で枚数多くてのせられなかった哀れな作品です。
初めて書いたジャンルなのでドキドキです。
実は自分でも最近読んだどのマンガのどのセリフがかぶってるか自覚しております。
ネタ探しけっこう楽しいかも。

おやま

おやま [FIixS-Doshg-jqGRs-uHlKr] Mail HomePage 2000/07/03(月) 18:17:08
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